――光があれば影ができる。 ――輝かしい晴れ舞台の裏には地味な日々の練習が隠れている。 ――陰と陽の街と書いてインヤンガイと呼ばれる世界も光と影が存在し、華やいだ街並みの裏で は奴隷商人などが取引を行っていた。 ~依頼と曲解~ 「で、導きの書って奴で予知したところによるとこの街に俺らと同じロストメンバーとかいうのがいるわけだ」 「ロストナンバーですよ。白」 「ちょっとしたことじゃんかー細かいとハゲるぞ、黒」 柊 白と柊 黒の双子は初めての任務としてこの街に来ている。 180cmの長身は片親がドイツ人譲りで、名前が体を表すように白はアルビノだった。 「そうですか、では今日の夕飯は楽しみにしていたくださいね。腕を振るいますから」 「俺が悪かった。だから、それだけはやめてくれ。帰ったら給料でるしさー外食しようぜ、外食」 不機嫌さがにじみ出るようなむすっとした顔の黒に白は両手を合わせて謝った。 黒の料理の下手さはある意味で錬金術とも言えるレベルなので、避けたいのである。 彼も本当に怒っている訳ではなく、普段から無愛想なだけで黒なりのジョークなのだ。 そんなインヤンガイの似合った二人が珍しい人を見かけなかったかと賑わう通りで聞き込んでいると柔和な顔の中年男が話かけてくる。 「もしもし、人をお探しですかな?」 「ええ、ちょっと変わった人なのですけど」 「私は人材派遣みたいなことをやっていましてな。もしかしたら探し人の手がかりがあるかもしれませんのでうちにお越しになりませんか?」 鋭い目つきの黒に見下ろされる状態であっても男は笑顔を崩すことなく話を進めてきた。 「それじゃあお言葉に甘えさせて貰いますね。いやー、渡りに船ってこのことですよね」 突如、好青年のような爽やかな笑みと丁寧な口調に変わった白が男の話にのっかり、彼の家に向かうことを決める。 その姿に黒は影でため息をつくのだった。 日は高くお昼ご飯に丁度いい時間である。 *** 人材派遣をしている男が用意してくれた肉まんとお茶を味わいながら事情を二人は説明した。 「そうですか、翼の生えた幼い女の子……」 「ご存知ありませんかね? 」 黄(ウォン)という名の男は二人が探しているという人物像を口にすると渋い顔になる。 飲みかけのお茶を流し込んで一息つくとウォンは話だした。 「知っていますよ。ただ、私の下にはいないんですよ。懐いてくれたいい子だったのですが、街の豪商である李(リー)に大金を渡されて無理やり買われてしまったんです。きっと、酷い目にあわされているのでしょう」 ウォンは話しながら出てきた涙をハンカチで拭いだす。 「そこまでわかっているのなら、警察なりにでも対象してもらえばいいのではないのでしょうか?」 「リーは金にものを言わせて警察を牛耳り、邪魔者を裏から手を回して消してしまうほど恐ろしい男なのです」 黒のツッコミにウォンは涙をぼろぼろとこぼしし懇願するように話し続けた。 「わかりました。では、その子は私達が連れ帰ってきますよ」 「本当ですか! ありがとうございます! ありがとうございます!」 白が笑顔を浮かべ、自らの胸をトンと叩く。 二人はウォンからリーの屋敷への地図を貰うとその場を離れるのだった。 ~疑惑と誤解~ 日が傾きだしたころ、地図を眺めて歩く二人は郊外にでていた。 「本当は信じてないでしょう?」 「ああいう、優しそうな奴に限って外見詐欺なんだよ」 「人のこと言えないだろ」 普段使っている敬語ではないツッコミが黒から白に飛んだ。 「え、俺は見た目も中身も爽やかな好青年ですけど?」 ツッコミをいたがらない白に黒はどうしたものかとため息を漏らす。 白が爽やかかどうかは置いて置いても先ほどのウォンという男が怪しいというのは黒も同じだった。 話の流れが出来過ぎているのである。 「真相はわかりませんが、確認するにこしたことはないでしょう」 肩に乗っているセクタンの蒼炎を撫でていた黒が塀の前で立ち止まった。 「そうなんだけどねぇ、よっと」 3mはあるだろう塀を軽々と白が飛び越え、黒もあとに続く。 飛び越える際に白の頭に乗っているセクタンのグリは落ちないようにしがみついていた。 背の低い草の生えた庭に静かに降り立った二人は屋敷の中へとはいる。 見張りはいないのが気にはなるものの好都合とも言えた。 薄暗い屋敷は人気がなく、住人がいるとは思えないほど静かである。 「お化け屋敷とかこんな感じだよね」 「静かにしなさい。気配がしないからと油断しては失敗しますよ」 静寂に耐えきれなかった白が口を開けば黒が容赦のないツッコミをいれた。 そのとき、ギィッとドアが軋みながら開く音が聞こえ、大きな体の男が姿をみせる。 白と黒も背は高い方だが、出てきた男は2mを越え、がっしりした体格に髭面をしていた。 ギロリという擬音がでてきそうな目つきであたりを見回すが、白と黒はさっと廊下の曲がり角に隠れていたため見つからない。 「あれはクロだよね」 「悪人にしか見えませんね」 ゆっくりと歩いてきているのか歩幅の広い靴音が二人に近づいてきた。 「なら、やりますか」 「ですね」 二人は頷きあい、声でタイミングを合わせて飛び出す。 「な、なんだお前たちは!」 「正義の味方ってやつさ」 大柄の男に襲いかかるとあっという間に大男を抑えることに二人は成功した。 だが、そのとき忍び寄ってきた影に黒が後頭部を叩かれる。 「え、君は‥‥」 「おじさんをいじめるなー! 悪い奴ーっ!」 驚く白が見たものは、白い羽をはためかせている幼女が棒を持った姿だった。 「え、これはどゆこと?」 ~真相と和解~ 「この人たちはおじさんを虐める悪い人! 今度は私がおじさんを守るんだからー!」 天使の幼女は大きな瞳で二人を精一杯睨みつけ、がむしゃらに棒を振り回す。 「やめなさい、エクリシア。私は大丈夫だから」 幼女に話しかけるリーの声色は顔に似合わずとても優しかった。 「不意打ちにやられてしまいました……この様子は聞いていた話とは違いますね」 後頭部をさすりながら黒が立ち上がった。 「大丈夫だからだよ、お兄さん『は』悪い人じゃないからね?」 何故か一部を強調しながら白がエクリシアに近づくが彼女は棒をぎゅっと握りしめて警戒を解かない。 「この子は奴隷商人の元で酷い扱いを受けていたんだ。優しい顔で近づいても懐かないよ」 リーが立ち上がり幼女の頭を撫でて気を落ち着かせた。 「奴隷商人? この子を預かっていたのは人材派遣……そういういことでしたか」 黒はリーの話を聞き、目を光らせる。 奴隷商売もいうなれば人材を売る仕事なので派遣業務といえなくはない。 不信がられないように理由をつけてこちらを安心させるウォンの手口だと気づいたのだ。 「やっぱりねー。あいつも怪しいと思ってたんだよね」 黒が話すと白も納得する。 「こっちの勘違いで抑え付けてしまってすみませんでした」 「事情は誰も彼もが持っているものだ。この子とて他の世界から急に現れたとしか思えない姿をしているからな」 謝る黒に対してリーは強面のまま静かに頷いた。 勘違いされることに慣れているのか白や黒を責めるようなことはせず不安がるエクリシアを宥め続けている。 「私やこの子もそちらがウォンの手下と勘違いしてしまったこともある。申し訳ないない」 「ごめんなさい」 こう謝られては白も黒も顔を見合わせて苦笑するしかなかった。 「じゃあ、これでお互い様ってことにして……ことの元凶であるウォンをとっちめに参りますか」 「せめてもの償いとしていきましょう」 白は両手をポンと叩いて話を締めると、黒を連れて屋敷をあとにする。 夜はふけている物のまだ時間はあるのだから……。 ~天罰と正解~ 「こんな夜中に訪れてくださってありがとうございます。あの子は取り戻せたのでしょうか?」 笑顔を顔に貼り付け、揉み手をするウォンが真夜中に来た白と黒を応接間で出迎えた。 人の良さそうな顔をしているが、今ではそこがさらに怪しく感じる。 「んー、そのことなんだけどさー。おじさん俺達に隠し事してない?」 白がウォンに負けないくらいの笑顔で話をきりだし一歩近づいた。 「隠し事など滅相もない。私はただの……」 「奴隷商人ですよね? 人材派遣とは上手く言ったものです」 一歩下がったウォンの後ろには黒が立ってる。 肩に乗った蒼炎がチロチロと口から火を吹いてウォンを怯ませた。 「くっ、そこまでばれちゃあ仕方ない。あんな珍しいのはそれだけで高値がつく。さらに調教すればもっと出すってお得意様がいるからお前らを使ったのにアテが外れたぜ」 笑顔を消したウォンは負け惜しみとも見えるセリフを口に出すと壁に向かって走りこみ回転させて逃げ出す。 「隠し扉!」 すぐさま壁にぶつかるもののロックされたのか回転は起きなかった。 『お前たち、その兄さん達を可愛がってやりなっ!』 二人の耳にウォンの声が聞こえたかと思えば、曲刀を持った男達が今度は二人を取り囲んでくる。 「この流れってもう負けフラグだよね」 「まったくですね……目にもの見せてあげましょう」 白と黒は互いに背中を合わせてアイコンタクトをとった。 刹那、二人が動く。 男達に向かって白が踏み込み、トラベルギアをつけた拳で男の鳩尾を突いた。 洗練された動きに余裕を見せていた男達の表情が変わる。 「対峙してすぐに相手の実力をはかれないようでは三流ですよ」 怯む男達へ黒のトラベルギアの矢が突き刺さり倒していった。 「急所ははずしていますから、安心ですよ」 「気絶くらいで許してやるけど、やる気があるなら倍返しするよ?」 回し蹴りで男を蹴り飛ばした白も笑顔を崩さずにいう。 長身の二人を前に男達は早くも心を挫かれていた。 *** 一方、そのころ。 ウォンは裏口に回り屋敷を後に逃げようとしていた。 車に乗り込み、エンジンをかけようとした時、後ろから声が聞こえてくる。 「ウォンさーん。どこにお出かけ?」 「あの程度の手勢で私達を止めることはできませんよ」 振り向かなくても誰かがわかるだけに振り向きたくない気持ちでいっぱいだった。 二人の足音がゆっくりと近づいてくる。 「もう、あの二人に近づかないと約束してくれないとずっと追いかけちゃうぞ」 語尾にハートマークでもつくくらい優しい白の声色がウォンを震え上がらせた。 車にしまっていた拳銃に手を伸ばそうとしたらクロスボウの矢がささる。 「誓ってくれますか? 証文もつけてね」 「い、嫌だ! あんないいのはそうそうみつから……ぐあっ!?」 ウォンが言葉を言い終わる前に白の拳がウォンの顔に叩きつけられていた。 「聞こえなかったなぁ、もう一回いってくれる?」 「だから、嫌と……ひげぇっ!?」 さらに強い拳がウォンの顔にぶつかり鼻と歯が折れる。 「ちょっと耳が遠くなっちゃってるなぁ。ねぇ、二人に手をださないよね? ちゃんと証明書つきでさ」 ガクガクと首を縦に振り、ウォンはおとなしくなった。 こうして、一晩のうちにインヤンガイの奴隷商会が潰れたが理由は誰も知らずウォンも話そうとしない。 ただ、その日から資産家のリーに可愛らしい養女ができ仕事を手伝うようになったことで街の人々の噂となり仕事がはかどったという……。
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