01010101010 111111000000100000 00011110000111100011…… ワタシ、ココ、ドコ? ――疑問、承認、サーチ開始、情報、収集、サーチ終了、パターンF……認証完了……ターミナル、ゼロの世界、プラス、マイナス、階層、ノ、ハザマ、基点…… チャイ=ブレ、樹海、ナラゴニア、情報、ターミナル、情報、存在、収集、悪いこと、多い……悪い? なにが? 善悪? 疑問…… ワタシ、ワタシはだれ? 「……ワタシ、ワタシは誰?」 それは不思議そうに声を漏らした。男とも女ともつかない無性の声には、無垢な子どもぽさがあった。 が、その見た目は声に宿る幼さとは程遠い――透明なゼリーのような物体が、古びた土色のマントのなかでにょるっと不気味に動いた。 ワタシは不思議そうに何度も身体をうねらせ、声を発する。 「ワタシ、ワタシは誰? 名前、名前、ナマエ、なまえ? ……名前ってなに? ……ワタシはなんで音で情報発信してるんだろう」 疑問。不明。疑問。疑問、疑問…… ワタシは不思議そうにまた声を発する。情報伝達、対コミュニケーション手段において発音はとても有能なことを思い出す。 声、発する、思考、伝達、……誰に? ワタシはまたしても困惑した。そもそも困惑すると言うこと自体がワタシに存在するのかも不明。 それの――ゼリーの肉体はぷるぷると震え、何度も泡立ち、波紋を生み出して疑問と困惑を全身をフルに使用して表現し、無意識にも他者に伝達しようと試みる。 ワタシ、名前、ナイ? 思い出せない。思い出せない、ではない、ない、ワタシはワタシ。名前はない。 そこでワタシは理解した。 そう、ワタシはワタシ。 ワタシは情報を集める。命題。 ワタシはそれを伝える。任務。 ワタシは情報を蓄積する。作業。 けれどここで再び疑問にぶつかる。ワタシはどうしてここにいるのかという単純明快な疑問。けれどワタシはそれに答えられない。けれどワタシは気にしない。ワタシはワタシ。単純明快な解答。 ワタシは情報を集める。存在意義。集めた情報を体内のデータフォルダに蓄積していく。まるで小さな塵のようにそれは集まってワタシを満たす。しかし、そのフォルダに穴があった。いいや、もとからワタシはどこかが可笑しかったのかもしれない。そんなことをワタシが知るはずもない、予想不能……ワタシは情報を収集していく。けれどいつか、いつからか、ワタシはワタシの知らないバグを抱えていた。 忘却。 データ体であるワタシにはありえない。不可能。理解不能。――しかし、ワタシの肉体はどんどん塵に埋もれ、沈んでいった。どんな大きな袋であっても無限ではない。ついに耐え切れずに小さな穴が開く。さらさらとそこから古いデータは落ちていく。それはワタシのなかに残っていた唯一の自我意識による防衛本能だったのかもしれないが、それをワタシは確認しようがない。理解できない。認知できない。 そうしてワタシは無自覚のまま故郷を忘却した。自分がここにいる理由、自分のこと……どんどん、どんどん、どんどん、どんどん……情報を集めることを止めば忘却もまた止まるだろうが、どれだけ穴から塵が落ちていこうともワタシは止まらない。ワタシの使命、情報、収集……知ること、知ることはいいこと、知らないことは多く悪いこと……知らなくてはいけない。どんどん、どんどん、どんどん、どんどん……塵は落ちていく。小さな穴は重みに耐えきれずさらに裂かれて大きくなっていく。ワタシは 永遠などありはしない。 無限などありはしない。 情報以外、は 穴、崩壊、加速、加速、加速―― ここまでのことをワタシは再認識する。ワタシがいたのはナラゴニア。そこでの情報を集めた。知りたい。どこかと比較して。どこと? 不明。しかし、情報。ワタシはそこからいくつか知った。なにを? 不明。 不明、不明、不明、不明、不明…… そこでワタシは再び疑問を声に出す。 「0世界から熱が消えた……?」 疑問 疑問、疑問、疑問、疑問、疑問――解決方法、不明 「光が消えるコトはあるのかな? もしかしてワタシが悪いかもしれないね」 不明 不明、不明、不明、不明、不明――崩壊、故障、予想不可能 壊れていく。こくこくと。穴は広がり、落ちていく。 たとえば坂の上を転がりだした石は止められないように。 ワタシはなぜ声を出している? 記録方法はどうなっていた? わからない。熱が感知出来ない。寒さ、苦しさ等も認識できない。 ワタシは何も感じない。もともと感じなかった。 ワタシの光は失われた。もともと見えなかった? いいや、先ほどまで確かに視界は存在していた。 なにもかも真っ黒になってワタシはようやく理解する。 ワタシは壊れているの、だと。 ワタシは暗闇のなかで身を動かす。感覚は失われているが移動手段が認識出来るのはささやかながらも幸運といえた。 ここにくるまえ。砕ける世界、追いかけてくる、何か。ワタシは何かを持っていた。 ――×××! 離しなさい! 離さないとこのままここでおしっこするわ!! それでもいいの!」 ワタシ、エミリエのその情報はもっていないよ ――うそ! うそ!! ギャー変態! 変態! 変態! 爆音、崩壊、暗転 そして多くの情報がワタシを満たしていった。ワタシはそれを理解しなくちゃいけない。記録しなくちゃいけない。 そして ワタシはこうなった。 辛うじて残っていた回帰本能によってたどり着いた古びたチェンバーに辿りつくと、なかへとはいろうとうねった。はたからみれば透明なミミズが身体を震わせて努力の結果、ようやくなかにはいることに成功する。 そこは無機質な鉄製の床だけのチェンバーだった。 そこに何体ものゼリーが存在した。 それは同じそれに触れる。 情報、収集、理解、理解、理解…… 「ココは知らないけど、ワタシの肉体、ワタシの情報があるから、ワタシのチェンバーだよね?」 ワタシはそう呟いて肉体にしがみつく。透明なゼリー同士が溶け合う。それでようやくワタシはいくつかのことを認識する。 ターミナル ナラゴニア ワタシ、情報 食らった肉体にもワタシの持っていたデータはあまりにも大きすぎてパンクして一瞬で制御不能に陥る。 激しい不協和音、ワタシ、ワタシ、ワタシ、ワタシ――繰り返す自問 そうしてワタシは肉体を持ったささやかな猶予に室内を見回して、それを見つけ出した。 黒い円盤 ワタシはそれに触れる。 ――実は名前だけはわかっているんですよ。『世界の構築式』。 ――いつかあなたが、世界の構造に辿りついたなら 声。 優しげな、笑み、言葉。 ワタシは本能的にそれをなかに取り込んだ。 その瞬間、今まで不安定であったワタシという主観は本来の『ワタシ』の主観と接続した。 えものいわれぬ解放、徐々に広がる主観の支配、今まで曖昧であった部分がはっきりとクリアーとなる。 ワタシは――! 皮肉な幸運。 ワタシ――ターミナルに覚醒した際にいろんなところを彷徨って、渡された『世界の構築式』。それはヘータのなかの主観を取り込み、記憶していた。 完璧であったころのワタシの主観――ヘータの主観という情報。 一度崩壊することによって、ようやく己の主観を自覚する。 それが集めに集めた情報と重なり合い、ヘータの主観を自覚させた。 1 0 1111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111 「……まさかターミナルでもらったプレゼントの中に本物のワタシが入ってるとは、ね」 ワタシは呟く。 声で発音、記録開始。 ワタシはワタシ。 主観、己。魂。 ワタシはワタシを作り上げ、複製物のワタシはワタシと競い合った。いくつものワタシの複製物は出来上がったときは不安定、だから情報がいる。より多くの情報を手に入れたものこそワタシはワタシになれる。 安定したワタシは理解する。 ワタシはすぐさまにそのまわりにあるワタシのバックアップを回収にかかる。ここにあるのはワタシの大切な情報。 知ることは大切。 知らないのは多く悪い。 ひとつ、ふたつ、みっつ…… それを何も知らずに見た者は悪夢だと表現するような光景。 ゼリー状の物体が絡み合い、結びあい、食らってそれがどんどん形となっていく。 そうした過程を経てワタシはバックアップたちの情報をすべて完璧に吸収してワタシを再構築していく。 最後の一体すら飲みこんだのにワタシは己のなかの完璧な情報の構築に満足する。 生き物でいえば満腹。げっぷするんだっけ? ワタシにはそういう機能はないな。ワタシはもっとそういう情報を手に入れないとな。 知ることは多く良いこと。 知らないのは多く悪いこと。 知らなくちゃ。 教えなくちゃ。 ワタシの肉体を古びたマントが包み込む。 ワタシは再構築した際に作り上げたいくつかのものを周りに生み出す。いっぱいのワタシのデータを取り込んで余裕はまだまだある。 古いタイプのデータ構築ではまた穴が開いてしまう。そんなことにならないためにもバックアップ、データ操作、構築…… 五感――双方向通信部位 情報――情報保管部位 ワタシ――統括思考部位 「ウン、これでいい、かな? 足りないものはまた増やしていけばいいかな? ヘータが半身を取り戻したわけだから……エータとでも名乗ろうかな」 ワタシはマントをつけて呟いた。 知るためにも名前はいる。 それはとってもいいこと。 00011110000111100011…… 111111000000100000 01010101010 コード認証、記録開始、記録登録名―― ワタシ ワタシの名前、エータ 世界を記録する者
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