オープニング

 ――0世界・樹海。

「ここは、どこなのかしら……?」
 ふと、流鏑馬 明日はつぶやいた。彼女は仲間達と共に樹海を探索していた途中なのであるが、ひょんな事からはぐれてしまった……らしい。
(みんな無事かしら?)
 そう思いながらノートを使おうとした時、明日の耳が足音を捉えた。仲間か、はたまた敵か。身構えつつ様子を伺っていると、白衣を纏い、肩から黒いカバンを下げた男が向かってくるのが見えた。一瞬、仲間の一人であるコンダクター、坂上 健かと思ったが、それにしては老けている気がした。彼女が様子を伺っていると……男が明日に向かって走ってくるではないか!
「なっ?!」
「スノーウィー!! 君も覚醒したのかい?! 会いたかったぞ我が妻よっ!!」
「誰よ、それっ!!」
 いきなり抱きつこうとする男へ咄嗟に蹴りをかまし、距離をとって身構える。と、男はなんか我に返ったようで懐から眼鏡を出してかけた。
「……済まない、取り乱してしまったようだ。私は元旅団員のフロストという者で、娘と仲間で樹海を探索していたのだが、どうやらはぐれてしまってね」
 そう、何事もなかったかのように挨拶をするフロストに、明日は少し頭痛を覚えるのであった。

 その頃、坂上 健本人はというと、何故か長身の男に追いかけられていた。
「どわっ?! 何なんだよ一体!! 皆とは逸れるわ、一番世界の常識が通じないわ、へんな奴はいるわで!!」
「待っておくんなはれ~! わいや、スケアクロウや~!!」
 ドスドスと鈍い足音が迫ってくる。一見、健康的な美丈夫に見えるものの、よくみると体はツギハギだらけで、こめかみにはボルトのような物がはまっている。どうやらフランケンシュタイン、のようである。
 仲間とはぐれた健は、元々サバイバル知識に長けていた。その知識を活かして方角を探ろうとしたのだが、目安になるものは無かった。第一に出来たばかりの樹海に切り株などなく、0世界故に空はいつも青い。途方に暮れていたその時、謎のフランケンシュタインと遭遇し、現在に至るのである。
「あんさんも旅団員でっしゃろ? 何でそんなに逃げるや~~!?」
「だああ! 違うぅうう!!!」
 健の叫びは届くかはさて置き、フランケンシュタインの美丈夫は必死に追いかけるのであった。

 一方、コンスタンツァ・キルシェ……通称・スタンは愛用のチェーンソーを片手に溜息をついていた。いつの間にか自分ひとりになっている上、チェーンソーの切れ味が試せそうな物が木以外に無いからである。
「んー……ちょっと退屈してきたっすねぇ」
 そんなことをつぶやいていると、急に人の気配がした。何者か、と振り返った時、真後ろに黒髪をツインテールにした少女がいた。
「退屈なら、相手してあげましょうか?」
 もし、スタンが過去の資料を読んでいたり、トレインウォーで見かけていたならば、彼女が旅団員の暗殺者、ルゥナであると気づいたかもしれない。彼女は楽しそうに微笑んでスタンから一歩下がった。
「貴方、迷子になったんですか? 実は私もなんです。仲間5人で樹海の調査にきたのですが、バラバラになってしまって」
「それは奇遇っすね! けど、そんなに気軽に話して大丈夫っすか?」
 スタンの言葉に、彼女はルゥナだ、と名乗った上でくすり、と笑う。
「旅団が敗北した以上、情報を隠す必要性はありません。別に、その、話す相手が欲しかったとか、そんなんじゃありませんから」
 そんな彼女の目が少し涙目になっていたっぽい気がしたスタンなのであった。

「……うーん、見えないナー」
 そんな事を言っているのは黄色い鱗が特徴的な竜人、ワイテ・マーセイレである。彼は仲間とはぐれてから大樹の下でタロットカードを使い、占いをしていた。
 ハンカチの上に置かれたカードは運命の輪(正位置)である。全く見えないな、ともう一度呟くと……視線を感じた。仲間だろうか、と思い辺りを見渡すワイテ。しかし、そこに見知った姿は無かった。彼が見つけたのは、一羽の大きな鳥。彼の記憶が正しければ、青みがかった灰色の羽毛と大きな嘴から、ハシビロコウのような気がした。
(動かない鳥、として一番世界で有名な鳥だったかな?)
 そんな事を思っていると、その鳥がじーっ、とワイテを見つめている。思わず目が合い、どうしようかと考えていると……鳥の方から声をかけてきた、というより、脳裏に声が飛んできた。
「君は、旅団員かね? それとも世界図書館かね?」
 その微妙に紳士的な声色に、とりあえず図書館側のツーリストである、と答えておこう、と思うワイテであった。

 そして、もう一人のコンダクター、音成 梓もまた、迷っていた。片手に持っていた方位磁石は何故か正常に動かない。その上、先程から彼の後を付いてくる小さな女の子の存在も、微妙に気になる。
「お兄ちゃん、フラウも一緒に行くですぅ」
「……えっとぉ……」
 恐らく旅団員と思わしき、5歳ぐらいの女の子、フラウに服を捕まれ、梓はどうしようか考えていた。黒いデフォタン・レガートは梓の肩の上で「どうするの?」とでも問うように見つめている。
「パパたちったらフラウを置いて行っちゃったんですぅ! だからお兄ちゃんについていけばきっと会えるですぅ」
 一体その根拠はどこから来るんだろう、と思いながらあたりを見渡す。何かがおかしい、と思いつつ
「あれ? おっかしーなー、俺、同じトコばかり回ってる?」
 と、もう一度周りを見直し……盛大にため息をつく。そして、フラウという少女もまたまねっこするのであった。

 そんなこんなで明日達5人はバラバラになり、其々微妙な旅団員達と遭遇していた。呉越同舟(?)とも言えるそんな状況で、明日達は無事に合流できるのだろうか?


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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
流鏑馬 明日(cepb3731)
坂上 健(czzp3547)
コンスタンツァ・キルシェ(cpcv7759)
ワイテ・マーセイレ(cyfu8798)
音成 梓(camd1904)

品目企画シナリオ 管理番号2258
クリエイター菊華 伴(wymv2309)
クリエイターコメント菊華です。
この度はリクエストありがとうございます。
前もって言っておきますが、合流と探索、これで一本のシナリオになります。がんばって合流してください。

あ、旅団員とは戦ってもいいですけど、ガチバトルにはならないような奴らばかり(一名除く)な上、その例外因子も色々あって全力を出せません。

旅団員紹介
フロスト:医者(ド近眼)。フラウの父。
スケアクロウ:フランケンシュタイン。美丈夫。
ルゥナ:影に溶け込める暗殺者。現在スランプ気味?
ハシさん:ハシビロコウ(紳士)。
フラウ:幼女。フロストの娘。

ルゥナに関しては『【侵略の植樹】赤土に笑う影』を参考に。

注意
今回はドタバタです。シリアス度0で考えています。皆さん、好き勝手に旅団員と交流するなりいじるなりなんなりしてください。

そんなこんなでプレイング期間は10日間です。思うがままに遭難やら戦闘やら交流? やらとお楽しみください。

それでは、皆様の遭難っぷり等を楽しみにしております。

参加者
コンスタンツァ・キルシェ(cpcv7759)ツーリスト 女 13歳 ギャング専門掃除屋
音成 梓(camd1904)コンダクター 男 24歳 歌うウェイター
ワイテ・マーセイレ(cyfu8798)ツーリスト 男 28歳 竜人の占い師
坂上 健(czzp3547)コンダクター 男 18歳 覚醒時:武器ヲタク高校生、現在:警察官
流鏑馬 明日(cepb3731)ツーリスト 女 26歳 刑事

ノベル

序:気づいた時は既に遅い

 樹海を探索していた図書館のロストナンバー達は、何故か離れ離れになってしまった。そして、それぞれ同じように仲間とはぐれてしまった世界樹旅団側のロストナンバー達と遭遇していた。

 果たして、彼らは無事に合流できるのだろうか?
 それとも……?

 樹海の中、コンスタンツェ・キルシェは眼前の少女を見、小さく溜息を付いた。どちらも迷子だ。ここで喧嘩をしてもしょうがない、と気持ちを切り替える。ここは協力し合って出口を見つけたほうが、互いにいいのではないか、と。彼女は肩の力を抜くと、にっこり笑った。ここは一時休戦だ。
「あたしはコンスタンツェ・キルシェって言う、図書館所属ツーリストっす。スタンでいいっすよ」
「私は、旅団員のルゥナです。現在は樹海調査隊の護衛について……いましたけど、迷子になりました」
 ルゥナと名乗った少女は何処かひどく落ち込んだ様子で頭を下げた。護衛として同行したのにも関わらず仲間とはぐれた事が恥ずかしいらしい。
僅かな間、会話が無かったものの、スタンが明るく接したのが功を奏したのだろう。同じ年頃というのも相まって、ルゥナは少しずつ口を開くようになった。
「あら、貴方もしかして、暗殺関係の仕事でもしていたの?」
「そうっすよ。ギャング専門の掃除屋をやっていたっす。故郷では雌蟷螂のキルシェといえば、裏社会で有名な一家だったっす」
 誇らしげに語るスタンはちらり、とスカートをめくり左内腿に刻まれた雌蟷螂のタトゥーを見せる。それにどこか羨ましそうな目で、ルゥナが口を開く。
「なんだか、いいですね。私も暗殺者ですけど、その……」
 僅かに口篭る彼女の様子から、どう言い表したらいいのか解らない、という雰囲気が伝わる。スタンは小さく微笑むとゆっくりでいいから、と肩を叩いた。

 音成 梓はその頃、傍らの少女、フラウと共に花咲く大樹の根元にいた。相棒である黒いデフォタン・レガートはフラウに気に入られたようで、先程からずっとぬいぐるみのようにだっこされている。まずは落ち着こうと深呼吸をした梓は、今やるべき事を冷静に判断する。
(今仲間はどこにいて、自分はどこにいるか把握する事。あと、フランちゃんをお父さんの所まで連れて行く事かな)
 一先ず自分たちの居場所を仲間にノートを使って連絡できないか、と辺りを見渡すのだが特徴になるような物が真後ろにある、薄桃色の花を咲かせた大木だけのような気がした。
「目印になるかなぁ」
 同行した仲間の中には飛べる者もいるので、多分目印になる筈。しかし、他の仲間はそうもいかない。他に目印になる物は無いか探す梓だったが、傍らのフラウがちょこん、と傍に座り込んだ。
「お兄ちゃん、フラウ、疲れましたぁ」
「そうだな。もう少しここで休もっか」
 お腹がすいたのだろう、フラウはどことなく元気がないように思えた。梓はこれではいけない、と思いカバンの中を必死に探ってみる。と、彼お手製のクッキーが出て来た。
「まずは、これでも食べようぜ。口に合うか解らないけど」
 フラウはクッキーを受け取り、お礼を言うと、もそもそと食べ始める。と、少女の顔は少しずつ柔らかい物になっていく。その様子を見つつ梓は鞄からノートを取り出した。
(一息ついたら、フラウちゃんにお父さんの名前と似顔絵を書いてもらって……)
 自分たちの居場所の目印になるような物が、後ろの木でいいのか迷いつつも梓は色々と考えるのであった。

 戦闘を不得意とする竜人の青年、ワイテ・マーセイレとしては、戦闘となった場合隙を見て逃げたい、と考えていた。緊張が走る中、彼は考察を巡らしながら相手を観察する。
(そうなったら、ギアのカードを投げて、カードの壁を展開して、その間に逃げるのが理想だネ。でも……)
 しかし、幸い話しかけてきた相手からはそのような気配を感じる事はなかった。まず自己紹介かナ、と彼は落ち着いて頭を下げる。
「や、どーモ。ワイテ・マーセイレと言う者でス。言い方からして、旅団の方だよネ?」
 その問いかけに、ハシビロコウはゆっくり、ゆっくり姿を現す。彼は一度瞬きをすると、言葉がワイテの脳裏に飛び込んできた。
「その通りだ。仲間と探索に来たのだが、迷子になってしまった。恥ずかしい話だが」
「奇遇だネ、あっしもなんだよネ。えっと、ポニーテールの女性と……」
 と、ワイテが仲間たちの特徴を話すも、ハシビロコウは首をゆっくり、横に振った。
「残念ながら、見ていない。君は、こういった者達を見ていないかい? 黒髪をツインテールにした女の子と……」
 と、ハシビロコウが挙げた人物像を聞いたところでワイテは見ていないのでわからない、としか答えられず、両者は少し考える。
「しかし、こうなったからには、協力し合いたい。私は皆から『ハシさん』と呼ばれているので、そう呼んでくれたまえ」
「あっしはワイテ・マーセイレだヨ。よろしク」
 こんな風に1羽と1人は情報を交換し、話し合う。ワイテは、ハシさんが冷静な相手でよかった、と内心でほっ、としつつ、これからどうしようか、と考えた。
 実を言うと、ワイテもハシさんも空を飛ぶことができる。その気になれば、自分たちだけは本拠地へ戻る事が可能だった。しかし、仲間が迷っている中それは出来る筈もなく、とりあえずは互いに合流を目指そう、という事で落ち着いた。
(ノートで連絡してみるかナ?)
 ワイテは懐からノートを取り出すと、仲間あてに連絡をとってみる事にした。

 ドスドスと地面を揺らす足音に、冷たい汗が吹き出る。命の危機とかそんな物を感じながら、ただ只管に坂上 健は樹海の中をつっぱしっていた。元々直ぐにへばる様な柔ではない。が、自分を追って来ている『スケアクロウ』と名乗る男から逃げなければならない、という危機感が冷静さを失わせていた。
「案山子なんて仇名の知り合い居ねぇっての! おまえなんか本当に知らん!!」
 健が叫ぶものの、スケアクロウは追いかけてくる。どうやら、相手もそれなりに必死なようだった。
「つーか、漢に追い掛け回されるなんざ俺の趣味じゃねぇんだよぉ!! これが年上の女性ならなぁ」
 叫びの半分が涙声になっていると、後ろの方から声がする。スケアクロウが何かに気づいたのか、と思いきや……?
「それはわいもでっせ! 好きで男を追いかけてるんとちゃいますわぁ!!」
「だったらやめてくれよ!」
「仲間でっしゃろ? 殺生なぁ!」
 健の叫びに覆いかぶさるスケアクロウの叫び。両者とも水でもかぶって冷静になった方がいいのかもしれない。スケアクロウも仲間と離れた為、合流したい一心だったのだ。
「だから、俺は図書館側の人間なんだよ!!」
 健は叫びながら木々をかき分けて突っ走る。傍らではオウルタンのポッポが必死になって羽ばたき、ついてきている。こうしている間にまた仲間と距離が空いているかもしれない、という事に両者気づかないまま、決死(?)の追いかけっこは続く。こんな状況だった為、彼が梓とワイテが送ったメールに気づく筈も無かった。

 妙にドスドスと言う足音が遠くで聞こえるような気がしつつ、流鏑馬 明日はノートを開いた。彼女は旅団員の医者、フロストと共に行動を共にしているのである。
「とりあえず仲間のうち2人から仲間が来たみたいね。……この何処かで花を咲かせた木とか、見なかったかしら?」
「2本ばかりみたけど、どれも低木だったかな」
 そんな事を言いつつとりあえず自分の無事をメールで知らせる明日。彼女は樹海で遭難している、とは思っておらず、ただ仲間とはぐれただけ、だと考えていた。一方のフロストも同じようだった。
「そうそう、私が見た木はちょうどこんな感じだったよ」
 と、フロストは語るがまた眼鏡がずれて明日の頭らへんに手を寄せている。そこから、明日は「自分と同じぐらいの大きさの木だったのね」と感じ取る。
「兎も角、冷静に行動しましょう。フロストさんも娘さん達と離れて心配だと思いますけど、ここで慌てたら遭難してしまいます」
 いや、既に遭難しているから! と突っ込む人間もおらず、唯一居る相手もまた、
「そうだね。刑事だという君と行動していたら、早く仲間と会えそうな気がするよ」
 と言っていたりする。
「まず、どっちの方角か解かればいいのよね」
 と、明日はあたりを見渡し、方角がわかるような物などを探す。
(そう、太陽が動く方角さえ解かれば)
 心の中でそう思いつつ、天を見……、気づく。
「しまった! ここは昼夜が無いんだった!」
 頭を抱える明日の横で、同じように思い出すフロスト。二人は恐る恐る顔を見合わせると、
「「遭難、している?」」

破:それぞれの邂逅
 スタンと話す事で、ルゥナは大分落ち着きを取り戻してきたようだった。彼女はスタンに誘われるがまま、旅団での事や出身世界について簡単に話していた。
ルゥナの居た世界は、ひと握りの権力者達の為に他の人々が生きる世界だった。作物も、衣服も、料理も、何もかもが権力者達の物。一般人は、権力者達が作るコミュニティの配給で生きていた。
 また、ルゥナのような異能力者達は物心つく前から施設に送られ、工作員や暗殺者としての訓練を受けていた、という。その実績を活かして、彼女は出身世界からずっと一緒だった仲間と旅団でも工作員をしていたそうだ。しかし……。
「トレインウォー以降、スランプに陥ったみたいなの」
「どういう事っすか?」
 スタンの問いかけに、ルゥナは少しため息をつき両手を見る。僅かに震えるその手は、しびれているようにも見えた。
「戦おうとすると、手が震えるの。獲物もまともに握れなくて……」
 世界図書館に抵抗しようにも、戦えない。仲間を殺した人に会ったら何をするかわからない。ルゥナは複雑な心境をポツリ、ポツリと語っていた。それを聞きながらスタンは真面目に考える。覚醒して間もない彼女としては歳の近いルゥナと話せて嬉しかった。その一方で考えてしまう事がある。スタンは普通の女の子らしい生活に憧れている。が、ルゥナの生活から、そのような隙が無いように思われた。
 小さく溜息をつくと、スタンは落ち込むルゥナの顔を覗き込み、小さく微笑んだ。
「そんな時は、仕事から離れてみたらいいんすよ!」
「えっ?」
 その一言に、ルゥナの目が丸くなる。彼女からすれば、考えもしなかった事らしい。きょとん、とする彼女にスタンは言葉を続ける。
「ポジティブに考えれば、自分の好きな事や楽しい事を探す良い機会を貰えたって事っす。
疲れたら一息入れるのも大事っす」
と、スタンは笑う。その言葉にルゥナも僅かに微笑んだ。それにほっ、としているとスタンはノートに幾つかの連絡が来ている事に気づいた。

「お父さんの顔、こんな感じなのですぅ」
 フラウに似顔絵を書いてもらい、梓は早速少女の名前などをメールで知らせる。と、彼女の父親は明日と合流している事が解った。また、返事があったメンバーも旅団側の探索者と一緒に居る事も。
(けれど、明日さんとフロストさんの居場所が解らないじゃん。おまけにどうやって合流するかだよ)
 梓は、戦闘向きではない。フラウも一応吹雪が使えるらしいが、あまり期待しないほうがいいだろう。
(とりあえず、ワームが居たらフラウちゃんを抱えて全力逃走しかない)
 傍らでクッキーを食べているフラウを見、拳を握り締める。傍らではレガートが2人を励ますように踊っていた。そんな様子に微笑みつつ、梓は先程から目印になるような物を探しているのだが、一向に見つからない。
(何か大きな物が……そうだっ!)
 不意に、彼の脳裏に閃くものがあった。と天を仰いだのがよかったのだろう、彼は咄嗟に狼煙を上げることを思いついたのだ。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「焚き火を炊いて煙を出せば……狼煙って言うんだけど、目印になると思って」
 早速薪になるような物を集めて、燃えやすいように組んでみる。面白そう、と思ったフラウもレガートと一緒に小枝等を集めてみるものの、はた、と動きを止める梓。
「火種が無い」
 肝心な事を思いだし、再び鞄を探る梓。その姿を見、フラウが小さく溜息を付いた。
「お兄ちゃん、パパ見たいにドジっ子さんですぅ」
 その一言がぐっさり刺さり、梓はその場に項垂れた。体制を文字で表すなら『orz』といった具合だ。けれども、すぐに立ち直る。
「気が滅入っちゃダメだね。そうだ、一緒に歌を歌おう!」
「! フラウ、お歌好きですぅ!」
 歌に自信のある梓の提案に、フラウも乗る。二人は童謡を歌いながら自分たちを勇気づけるのであった。

「よかった。フラウは心優しい青年が保護していたようだね」
「連絡がついたのは明日君と梓君、スタン君だネー。健君は1人で彷徨ってるのかナ?」
 ノートを見つつ、ハシさんが安堵の息を漏らす。ノートの持ち主であるワイテは唯一連絡がない健が心配になり、無意識にタロットに手を伸ばしていた。
「ところでハシさん。信号弾とか持ってル? もしくは特徴的な声とか出せるかナ?」
 変な音がした方に来て、とか出来ればいいんだけド、と呟きながら傍らのハシさんに問いかける。彼は暫く考えていたものの、首をゆっくり横に振った。
「生憎、どっちも持っていない。視力は他の仲間より良いが。あとはビームぐらいか」
 ハシさんのふとした言葉に首をかしげるワイテ。カートをめくる手を止めてどんなものか、と彼に聞いてみる。と、ハシさんは見ていてくれたまえ、と集中する。暫くしていきなり天に向かって首をあげ、大きく嘴を開いた。そこから出たのは、金色の光の柱だった。
「それ! 結構目立つヨ! 目印に出来るんじゃなイ?」
「但し、次の発射までに30分かかるんだが」
 それは流石に難があるな、と考えるワイテ。1人と1羽は顔を見合わせ、溜息をつく。
「まぁ、他の仲間なら大きな音を出せたりするかもしれないネ。ノートで連絡してみるヨ」
「それなら私はターミナルとナラゴニアの位置を空から確認しておこう。念の為にワームに対しても警戒しておく」
 ワイテがノートに書き込む傍ら、ハシさんが大きな翼を広げて空へと飛び上がる。彼がバサリ、と音を立てて舞い上がると深い、深い樹海の向こうにターミナルとナラゴニアが見えた。今の所、当たりにワームがいる形跡は無く、この場は安全だろう、とハシさんは判断する。
 一方、メールで連絡していたワイテはスタンからの応答に1つ頷いた。
「ハシさん、仲間の1人が狼煙を上げてくれるそうだヨ。暫く待ってみようヨ」
「それは僥倖だね。君の仲間に感謝しなくては」
 1人と1羽はどこかほっとした様子で、とりあえず狼煙が上がるまで下手に動かないようにしよう、と考えた。

「も、もう走れねぇ」
 健がぐったりと大樹にもたれ掛かっていると、すぐに気配が迫ってきていた。それでも逃げようと木を乗り越えて身を隠そうとするが、大きな腕がにゅっ、と現れて首根っこを掴まれてしまった。
「は、離せって!!」
 相棒を心配したポッポもまたツンツンと腕を啄いて抵抗する。しかし、フランケンシュタインはびくともしない。
「待たんからや、兄さん。同じ旅団員やったら助け合って欲しいわぁ」
「違う! お、俺は坂上 健と、いう、世界図書館所属の……」
 そこまで言うと、彼は「えっ?!」という風に目を丸くした。健の方も相手が見れば見るほど(傷だらけではあるが)かなり整った顔立ちをしていることに気がつく。
(これで年上のお姉さまならなぁ)
 なんて考えつつも、相手はそっと健を太い木の枝に座らせると申し訳なさそうに頭を下げた。
「わいはスケアクロウ。旅団員の一員や。仲間と一緒に探索してたんやけど……」
 その話を聞いているうちに、健も普段の冷静さを取り戻しつつあった。彼は不安そうなポッポの頭を撫でつつ、スケアクロウと名乗った男と情報を交換することにした(そして、この時やっと自分のノートに仲間からの連絡が来ている事に気付く)。
 スケアクロウたち旅団員は既に難民パスを所持している、と聞き、健は少し安堵する。旅団員の中には自棄になって難民パスの受取を拒否する者も少なからずいる、と聞いていたからだ。
「わいの仲間は白衣のおっさんとそのちんまい娘さん、でかい鳥にツインテールのお嬢ちゃんや。記憶違いやなければ、そのお嬢ちゃんはまだ難民パスを持っていなかった気がするで」
「えっ?」
 その言葉に、健は内心で拙いな、と呟く。難民パスがなければ、アガスティアの葉を失った旅団員たちは消失の危機に晒される。場合によっては合流の後説得がいるかもな、などと考えていると、スケアクロウが顔を覗き込んでいた。
「へっ? 俺は男に興味はないぞ!!」
「違いますがな。えらい疲れてますなぁ、坂上はん」
 スケアクロウはそういうと、ひょい、と健を抱え上げ、自分の肩に乗せてしまった。あっという間の出来事にポカン、とする健だったが、急に我に返る。
「ちょ?! 歩けるから下ろせって!!」
「樹海は広うて大変でっしゃろ? わいが運びますわ」
「大丈夫だから!!」
 そう叫ぶ健だが、スケアクロウは聞く耳を持たない様子で笑いながら樹海を歩く。傍から見れば男性同士がいちゃついているようにも見えるかもしれない、と思うと健は降りたくてしょうがなかった。

 そんな健の声が聞こえた気がしたのか、明日が振り返る。しかし、その姿は木々に覆い尽くされて、見えない。フロストは不思議に思ったのか、首をかしげる。
「どうしました?」
「仲間の声が聞こえたような気がしたのだけれども」
 明日は首をかしげつつ、紙に数を書いては小石で押さえていた。こうしておけば辿ってもらえるのではないか、と考えたのである。彼女はフロストと共に他愛もない世間話をしながら作業をしていた。
「しかし、君は冷静だな。実に頼もしい」
 そういう所が妻にとても似ている、と言いながらフロストが小石を拾ってくる。明日はちらり、とあたりを警戒しつつ小さく笑った。
「これでも、元の世界では刑事でしたから」
 その刑事の勘に従って進んでいるのだが……突っ込んでおこう。他の仲間たちは徐々に近づきつつある(皆気づいていない)のに、彼女たちだけ離れて行っていることを!
 まぁ、そんな事に気付く筈もなく、明日はフロストから小石を受け取ると番号を書き込んだメモを地面に置く。
「成程、益々頼もしい! 君のお父さんかお母さんも、そうだったのかい?」
「父が……そうでした」
 フロストの問いに、明日は少し言葉を詰まらせそうになった。彼女は赤ちゃんだった頃に両親と死に別れているのだ。僅かな間で何か察したのか、フロストは申し訳なさそうな顔をした。
「気にしないでください。さ、行きましょう」
 フロストは娘と離れてしまっている。恐らく、心配で仕方がないだろう。だからこそ、明日はより努めて明るく振舞っていた。左足が少し傷んでいたが、刑事としての心が彼女をしゃんと立たせていた。しかし、フロストは足を止める。
「少し休もう。貴方の左足の手当もしておきたい」
 その言葉に、明日は医者の目は誤魔化せないのだな、とわずかに苦笑した。

急:狼煙に集まれ!
 明日とフロストが上を見ていたならば、立ち上る煙に気づいたかもしれない。しかし、治療に専念する医者と、薬の冷たさに目をギュッ、と閉ざした刑事は、それを見ていなかった。

 スタンが愛らしいマスコットなどが付いたチェーンソーで邪魔な草や木をなぎ払い、その間ルゥナが警戒をする。するすると大木に登ったルゥナは遠くにワームを見つけたものの、今2人がいる場所へは来ないと判断した。
「ちょっと休むっすかね。この辺りなら狼煙も上手く出来そうっす」
「確かに有効でしょう。スタンさんが切ってくれた木々を使えば、直ぐに用意できます」
 スタンが額の汗を拭い、ルゥナがすぐに焚き火の準備を進める。暫くすると、パチパチと軽い音を立てて焚き火が燃え上がった。
それを見て、スタンは何か思いついた。金色のツインテールを揺らし、ぽん、と手を打つと鞄からマシュマロを取り出す。そして、細めな小枝に指すと焚き火で炙り始めると、ルゥナが不思議そうな目でそれを見ていた。スタンは気づくと、程よく蕩けたマシュマロを取り出す。
「マシュマロっすよ。こうやって炙って食べると美味しいっす」
「ましゅまろ?」
 その反応からして、マシュマロを知らなかったようだ。スタンは熱いから気をつけるように、と注意してルゥナに渡す。彼女は興味深そうに蕩けたマシュマロを見、恐る恐る口にする。途端に広がる、バニラの風味にルゥナは目を丸くした。
「まだあるっすよ。少しでも甘い物を食べておくと、疲れも取れるっす」
 手際よくマシュマロを声出に刺し、炙っていくスタン。彼女は歳の近いルゥナを見ているうちに、なんだか妹みたいに思えてきて放って置けなくなっていた。

「おっ、煙が近づいてきましたわ!」
「おーろーせーよーっ!!」
 スケアクロウが笑うその肩の上で、健が足をバタバタさせる。彼は先程からずっとこの調子でフランケンシュタインに担がれていた。スケアクロウはワームがいてもお構いなしにすっとばし、おかげでお尻が悲鳴を上げていた。
「マジで止まれ! も、もう尻が」
 健が必死に状況を説明すると、スケアクロウが足を止める。漸くわかってくれたのか、彼はゆっくりと健を下ろし、木の枝に座らせてくれた。ほっとした所で、次に襲いかかってきたのは強烈な喉の渇きだ。先程から叫びっぱなしだったので、喉がヒリヒリする。
「の、喉が……」
「それやったら、これを飲むとええで」
 スケアクロウはカバンから水筒を取り出すと、健に手渡す。が、それは彼にはとても重かった。思わず木から落ちそうになり、スケアクロウは蓋に水を注いで手渡し直した。健は礼を述べて水を何杯もおかわりした。
 漸く一息ついた所で、彼はノートをもう一度見、連絡を入れる。その一方、樹海を見渡した限り感じた事を問う。
「そう言えば、水場がないな。なぁ、案山子。お前は、水場をこの樹海で見たか?」
「いいや。皆と手分けしてその調査をしていたら迷子になってしもうて……」
 その話を聞き、健は「拙いな」と小さく呟いた。彼は『人間は水2日飲まないだけで動けなくなる可能性が高い』事を知っていたのだ。
「まぁ、わいも早く仲間と合流したいわ。その水筒は壊れない限り真水を出す事の出来る便利なモンやから」
 「そうだな」と健は相槌を打ちながら、栄養補助食品ブロックを取り出す。それを一つスケアクロウに渡すと、嬉しそうに食べてくれた。
「おおきに、坂上はん。よっしゃ、これで元気百倍や!」
「えっ?」
 健が怪訝そうな顔になる。というのも、スケアクロウは再び健を肩に乗せたからだ。自分で歩ける、と主張する彼だが、スケアクロウは笑顔で
「今度はもう少しゆっくり行きますさかい、あんさんは周りの警戒をお願いします」
 何を言っても無駄だ、と思った健は半ば自棄になって叫んだ。
「ポッポ、『ミネルヴァの目』だ!」

「はぁっ、はぁっ……」
 一方、梓はワームから逃げ切ったばかりだった。彼はフラウとレガートを抱きかかえると木の根などに躓かないよう気をつけつつ、全力疾走した。そのおかげか、ワームに気づかれる前にかなり遠くへと逃げ切ることに成功した。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
 不安げに覗き込むフラウとレガートに、梓は小さく微笑んでみせる。
(そうだ。ここで俺が頑張らないと!)
 気合を入れ直していると、ガサガサ、と草木が揺れる音。ワームかもしれない、と警戒していたのだが、どうやら違ったようだ。というのも、見覚えのある竜人の青年が現れたからだ。彼が伴っているのは1羽のハシビロコウ。それを見て、フラウが目を輝かせる。
「わぁ、ハシさん! そっちのドラゴンさんと一緒だったですぅ!」
「その子がフラウちゃん、だネ? よかった、梓君達も無事デ」
 ワイテがほっとした様子で歩み寄る。傍らのハシさんはフラウと再会できて嬉しいのか、梓に挨拶をするとフラウに頭を撫でてもらっていた。
「私達は、ルゥナ君とスタン君が上げた狼煙を目印に、そこへ向かっていたのだよ。いや、その途中で会えるとは僥倖だな」
 ハシさんが、フラウに頭を撫でてもらいながら言い、梓もまた安堵の息を付く。
「うん、健君も無事みたいだネ。どうやら、あっし達は皆、旅団員の探索チームと遭遇していたみたいだネ」
 ワイテが木々の間から見える煙を確認しながら言い、そう言えば、とフラウが相槌を打つ。そんな偶然を面白く思いつつ、梓はカバンの中を見る。どうやらクッキーに余裕があるようで、スタン達とも合流したら皆で分け合えるかな、と考えていた。
「メールを見る限り、皆無事みたいじゃん。あとは、2人の上げた狼煙を目印に集合って感じかな?」
「上手く集まればいいんだけどネー」
 梓の言葉に、ワイテが苦笑する。彼は何気なく仲間たちの運勢をタロットで占っていたのだが……明日の結果だけが、塔の正位置だったのだ。
「これって、色んな意味で拙くありません?」
「多分ネ」
 二人は顔を見合わせ、嫌な予感を覚えていた。元々塔は正位置でも逆位置でも良くない結果である。それが出るという事は、彼女だけ大変な目にあっている、というのだろうか? 奇妙な沈黙が3人と1羽を包み込む。
「とりあえず、狼煙の上がっている方へ向かおう。そちらには連絡手段がある。フロスト君と一緒のはずの明日君だったかな? 彼女も無事な筈だ」
 ハシさんに励まされ、ワイテと梓は小さく頷く。彼らは一路狼煙の上がる方向へ進む事にし、ワームを警戒しつつも早速動き始めた。

 そして、その明日とフロストは……。
「しまった! 眠ってしまったわ!!」
 うっかりウトウトしてしまった明日は、がばっ、と身を起こす。傍らではフロストが結界を張っていてくれたらしく、にっこり笑って手を振っている。
「ハシさんがくれたアイテムは便利だね。おかげで、ゆっくり休める」
 彼は持っていたチョコレートをパキッ、と割ると大きい方を明日に渡した。そして残ったチョコレートを食べながら、穏やかな声で話し始めた。
「小さかった頃に両親を流行病で失ってから、医者をしている伯父の元で修行してきたんだ。同じ病が流行した時は、伯父と二人で必死になって沈静化を図ったものだよ」
 その道程は戦争や大水害などで平坦ではなかったが、それでも彼は伯父の亡き後、妻と子と一緒に小さな村の人々を病や怪我から助けてきたという。そして、大雪の日に雪崩に巻き込まれ、覚醒したそうだ。
「妻は、雪を操る巫女だったから、雪が止むように御篭り行をしていてね。それが終る頃に雪崩て……。本当に君は、芯の強い妻にそっくりだよ」
 そう言いながら彼は、明日……ではなく、木に引っ掛けていた白衣に話しかけていた。そこから、明日は「ああ、奥さんは肌の白い方なんだなぁ」と思うのだった。因みに、眼鏡を外した事を忘れているフロストは、空に上がっている煙に気付いていなかった。
 それはそうとして、褒められている事には違いなく、明日は少し照れていた。それと同時に、フロストとフラウがいつかスノーウィという女性に再会できたら、と思うのだった。
「そういえば、私達のチームにいる女の子が、狼煙を上げてくれるって言っていたわ。それを目印にすればいいと思うけれど」
「その煙が見つからないとなると、困ったものだな」
 明日とフロストは顔を見合わせて溜息を付くのであった。

 そんな状態である2人を覗き、残りのメンバーはスタンとルゥナが上げた狼煙を目印に近づいていく。
 ポッポの力のおかげで金髪と黒髪のツインテールっ娘コンビを見つけた健とスケアクロウが一番乗りだった。
「おっ! とても楽しそうっすね!」
「どこがだよ、スタン!」
 スケアクロウの肩から降りる健にニヤニヤと笑いかけるスタン。傍らにいたスケアクロウは例の水筒を取り出し、2人の少女に水を勧めた。
「喉、乾いてまへんか? 水が無いというのは大変でっしゃろ?」
「そうそう、少ないけど、これもあるぞ」
 健が取り出した栄養補助食品ブロックを見、ルゥナが礼を述べて口にする。続いてスタンも口にしたが、傍らのルゥナはいつも食べている、と言った様子で不思議な感じがした。
「そう言えば、他のメンバーとは会ったっすか?」
「いや、わいらは誰とも会わなかったで」
 スタンの問いにスケアクロウが首を捻って答えていると、人の気配を感じた。直様ルゥナと健が立ち上がるも、現れた影に表情を緩ませる。というのも……、ウェイター姿の青年に、小さな少女、ローブを纏った竜人の青年に、1羽のハシビロコウという組み合わせだったからだ。
「よかった、無事だったんだネ!」
「あとは、明日さんとフロストさんだけ、かな?」
 ワイテとハシさんの言葉に、皆が頷く。梓がクッキーを取り出し、皆で少しずつ食べつつ情報を交換しているうちに、話は明日とフロストの行方となった。
「そう言えば、だれか2人を見た?」
 梓が問いかけるも、誰も見ていない。空に飛び上がって現在地を調べたワイテの話によると、ここはナラゴニアにほど近いという事が解ったものの、明日とフロストの2人に繋がるような物はなかった。
「そういえば、ここに来る途中、番号を書いた紙を見つけたですぅ」
 ぽつり、とフラウが呟く。その言葉に、全員が彼女の方を向いた。
「そ、それどこでみたの?」
「えっとね、あっちなの」
 ルゥナの問いかけに、フラウは指差す。すると、確かに番号を書いた紙がひらひらと小枝に引っかかっていた。それを見、図書館側メンバーが閃く。

 ……もしかして、明日が?

「とりあえず、今は休もう」
 フロストがそう言ったのは、明日の足の具合からだった。歩き続けていたらまた悪化するかもしれない。それを危惧していたからだ。
「でも、早くしないと……」
 責任感からか、明日が心配そうにあたりを見渡す。スタン達が上げたという煙を探しているのだった。
「近くに水辺がないのが厳しいな。今、とりあえず水筒はあるが、残りが少ない」
 フロストが水筒を揺らすと、残りが半分以下になっているのが解った。2人で少しずつ分けあって飲んでいたのだが、足りなくなってきたようだ。
「本当に、水源がない場所ね。……もう少し装備を整えてくるべきだったかしら。ううん、今は反省している場合じゃないわね。早く皆と合流しないと」
「だが、君の足も心配だ。あと少し休んでから、行動を再開しよう」
 真剣に考え、立ち上がろうとする明日を手で止め、フロストは提案する。それに明日が頷こうとしたその時、幾つもの足音が聞こえてきた。
「明日君はこの辺りかナ?」
「パパ、どこにいるの~?」
 ワイテとフラウの声が聞こえ、二人は頷き合う。漸く合流できそうだ。フロストは明日の手を取り、肩を貸して立ち上がらせる。そして、2人とも声のする方へと歩き出したのだった。

 漸く全員そろった明日達とフロスト達。しかし、問題はその場所だった。
「どうやら、ナラゴニアの近くみたいだね。私達はどうにか帰れそうだが、君たちはどうするかね?」
「今度こそ離れ離れにならず行動して、どうにかターミナルに戻るよ」
 ハシさんの問いに、梓は苦笑しながら答える。其々再開を願っているその傍ら、健はルゥナと話していた。
「そういやぁ、案山子から聞いたけど難民パス、持っていないんだって?」
「ええ。でも、貰いに行こうと思っています」
 ルゥナは穏やか頷くとスタンを見る。そばかすが愛らしい少女が笑えば、ルゥナもまた笑みを強くした。

 一行はフロスト達に招待され、ナラゴニアで少し休んでからターミナルに戻る事になった。その頃には明日の足も調子を取り戻し、全員体力を回復させていた。一行はナラゴニアの人々に礼を述べると改めてターミナルへ向けて出立する。
「それじゃあ、帰りましょう。今度こそ、はぐれないようにね!」
 明日の言葉に、全員が苦笑しながら頷くのだった。

(終)

クリエイターコメント菊華です。
リプレイをお待たせしてしまい、ごめんなさい。漸くお届けできます!

因みに。
今回登場した旅団員は全員ノリ(ルゥナ除く)でできました。そしてアミダくじで組み合わせが決まりまして、あのOPです。

 みなさんのプレイングも面白く、その結果こうなりました。ありがとうございます。ルゥナに関してはまた何か後日出せたらと思います。

 皆様には其々各旅団員から友情の品が送られましたので何かありましたらご利用ください。
明日さん:メディカルキット
健さん:無限水筒(小)
スタンさん:黒いジャケット(防弾)
ワイテさん:透明テント(結界つき)
梓さん:水晶のアミュレット

それでは、リクエストありがとうございます。また縁がありましたらよろしくお願いします。
公開日時2012-11-29(木) 22:00

 

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