ヴォロスのどこかにある、賑やかな街。そこには、不思議な特性があった。竜刻の力により、『からくり』や『おもちゃ』が皆勝手に動き出すのだ。 ぬいぐるみは愛らしく踊り、ビックリ箱は人が近づくと勝手に開く。暗くなると勝手に明かりが灯るランプや入れておくだけで何でも冷やす樽など、竜刻の力を使って色んな『からくり』や『おもちゃ』が沢山作られ、毎日がお祭騒ぎ。 それ故に人々はこの町をこう呼んだ。 ――玩具箱の街デイドリム、と。 ――0世界・司書室 ロストナンバー達が集まった頃。一見エルフのような世界司書、グラウゼ・シオンが両手に幾つかの資料を抱えて姿を現した。「よぅ。皆揃っているようだな。今回は、ヴォロスにあるとある街を調査して来て欲しいんだ」 今回向かうのは、砂地と草原の狭間にあるオアシスの街、デイドリム。ここの地下には大きな竜刻が眠っており、その影響で『おもちゃ』や『からくり』が動き出すという。 その影響か、竜刻使いも多くおり、色々な研究をしているそうだ。「とにかく、いろんなおもちゃが人々を楽しませるし、竜刻使いたちが研究をしている街でもある。 皆も楽しめるんじゃないかな?」 グラウゼはそこまで言うと『導きの書』を捲る。「あと、この街で一番有名なのはカルートゥスという小柄な老人だな」 彼は10年前まである国の宰相であったが、引退後はこの街で実験を繰り返しているという。「その実験は、ちょっとした物から若干危険な物まで様々。時々失敗して爆発とかするけど、大抵は無傷だそうな」 まぁ、小規模な爆発なら日常茶飯事な為、騒ぎにはならないそうだ。なぜなら、いつもどこかで小規模な爆発が起こっているのだから。「もしかしたら、誰かが困っているかもしれない。そんな時は、手伝ってくれると喜ぶんじゃないかな?」 グラウゼはそういうと人数分のチケットと弁当を手渡し、ニッコリ笑った。 ――ヴォロス・デイドリム。 貴方がたが現地に向かうと、司書の話どおり、小さな爆発が起こった。けれども人々は驚く様子もなく「ああ、また失敗したな」という具合だった。 足元ではぬいぐるみや人形たちが貴方がたを歓迎してくれている。近くを見れば、オルゴールが歓迎の歌を披露してくれた。 お祭のような賑やかさを見せるデイドリムに見とれていると、1人の大柄な青年が駆けてくる。「すいません、旅の方。この辺りで小柄な老人をみませんでしたか?」 青年は、困ったような顔で言葉を続ける。「実は、私の師匠なのですが……急に居なくなってしまいまして」 貴方がたは、顔を見合わせた。 彼の話を聞いているうちに、その相手というのがカルートゥスなのではないか……と思えてくるのであった。「散策のついでに、見かけたら研究所まで戻るように伝えていただけると助かります」 青年はそう言い、会釈して去っていった。 後に残されたのは、貴方がただけである。この老人を探すか否かはさておき……早速見て回る事にした。
起:相談しましょうそうしましょう ロストナンバー達がデイドリムへと足を踏み入れると、早速ぬいぐるみ達がくるくると踊って歓迎した。どうやら、旅人などを歓迎するのは彼らの役目らしい。 よく見ると近くに箱があり、そこから楽しげな音楽が流れている。オルゴールの音色に合わせて楽しげに踊るぬいぐるみ達はなかなか愛らしい。 そんな空気の中、大柄な青年から「自分の師匠を探すのを手伝って欲しい」と頼まれるのであった。彼はその師匠がどんな姿か、を簡単に説明する。 (……しかし、急ではない?) 話を聞きながらウルフカットの青年、ルカ・ジェズアルドは1人考える。「できれば探して欲しい」といわれたものの、その「できれば」が「できない」性分である彼はふむり、と黙り込んでしまう。 「そうだねぇ、街を見ながら探してみよっか?」 「うん、賛成♪」 白い竜のような少年、カルム・ライズンが呼びかける。それに沖常 花も笑顔で頷き、「市場とか情報が集まりそうじゃない?」と乗り気だ。 「なんか、話を聞いていると司書さんが言っていたカルートゥスって人っぽくありませんか?」 そう言ったのは蜻蛉のような羽根を震わせた七夏。彼女の横で、眠たそうな顔の青年、メルヒオールが思い出したように目を開く。 「だったら、何らかの爆発がある先にいるんじゃ……?」 そんな事を考えつつ、彼はマイペースに辺りを散策しようと考える。探し物は苦手だからか、はたまた面倒だからはさておき、一行は青年に対し出来る限り協力する、と言った。 青年が研究所のあるドームがある場所を教え、その場を去ろうとした時。 「あの、ちょっと待ってくださぁいっ!」 唯一のコンダクター、ポニーテイルの乙女、川原 撫子が青年を呼び止める。彼が振り返ると、撫子は瞳をキラキラさせて青年を見つめた。傍らではロボットフォームセクタンの壱号がちかちか光っている。 「もしかしてその方、カルートゥス様だったりしますぅ? でしたらぁ、帰ってこいじゃなくてぇ、一緒に見学させていただいてもいいですかぁ?」 だってカルートゥス様にお会いしたかったんですぅ☆ とノリノリの撫子。その様子に青年は目を丸くした。 「あの人の弟子は、体力がないと勤まらないって噂はご存知ですか? 師匠は考え事をすると止まらなくて、彼方此方歩き回ってしまうんです。だから弟子が探す事が多くて……」 しかし、撫子の姿から本気だと感じた青年は「貴女のような方ならきっと師匠も喜ぶでしょう」と笑顔で言った。 (やっぱり司書が言っていた人だったか) ルカは周りを見、状況を整理する。ここから竜刻が暴走云々などに至るならば危険だな、と考えてはいたがその危険性はどうやらないらしい。とりあえず、この場はカルートゥスを積極的に探そうとする面々に任せようと思いつつ、連絡が取り合えるかを確認しておきたかった。 「こんな時は……『ちんげんさい』?」 「それをいうならぁ、『ほうれんそう』ですぅ☆」 「ああ、『報告・連絡・相談』だね?」 ぽつり、と呟くルカに撫子が突っ込み、花がぽん、と手を打つ。その辺りはノートを使えばいいんじゃないか、とメルヒオールが返せば、カルムと七夏もその方が簡単だ、と頷いた。 青年と別れる前、カルートゥスのラボの場所をもう1度聞いておいた。噴水公園に程近く、今いる場所からでも少しだけ頭が見えていた。 白い卵のようなドームで、町の人々は『タマゴ』と呼んでいるという。 「道に迷っても、『博士のタマゴ』と言えば直ぐに案内してもらえるかと思いますよ」 青年はそう言って一礼し、立ち去る。 「ネーミングがそのままだけど、わかりやすいね」 カルムがドームを見ながらぽつり。他のメンバーも同じような事を思いつつも、分れて行動する事に異論は無いようだ。 近くに街の地図があったので、見てみると、そこにもカルートゥスのラボは記されている。どうやら、街ではかなり有名らしい。また、中央にある噴水公園から放射線状に幾つもの通りが出来ていた。 それを見つつ、それぞれ何処から行こうかと考える。 「ま、何かあったらノートで連絡、だな」 「そんなところだろ?」 ルカが全員に確認を撮り、メルヒオールが早速ラボ通りの方へと足を運ぶ。その後ろをカルムが弾むように追いかけ、ルカもまた同じ方向へと歩いていった。 「んー、じゃあ僕はこっちに行ってみようっと♪」 花はラボ通りとは反対の市場へと向かっていく。市場を見ればその土地柄を知ることが出来る事をよく知っている彼女は、特に興味を持ったようだ。 男性陣と花が動いている間に、撫子もまたからくりなどを観察する。機械が好きな彼女としては、カルートゥスやここいらのからくり等に興味津々である。しかし、周りのおもちゃやからくりを見る限り壱番世界などの機械とは程遠く、本当に初期的な、簡単な仕組みの物が殆どだった。 (少し物足りないかもしれませぇん。でも、こういうのから発展していったんですよねぇ?) それでも、面白いな、と思う撫子だった。 一方、七夏は羽根のある虫たちにカルートゥス探しを手伝ってもらえないか、と協力を仰いでいた。 (……? 少し、分りやすくなったかしら?) 虫たちとのやり取りの中で、力が強まっているような感じを覚えつつ穏やかに、丁寧にカルートゥスの特徴を教えていく。 人間の部位が分らない虫たちの為に、その場所を手で触ってみせた。 「白い服を着ていて、尖った耳をしているの。そして、よく焼けた肌と灰色の髪の毛をしたおじいさんよ。見た事無い?」 そう問いかければ、虫たちの多くが知っていた。が、今日はまだ見かけていないらしい。彼女は見かけたら自分に知らせて欲しい、と彼らに頼み込んだ。 「見つけてくれた子には、出来る限りの事でお礼をするわ。好きな物を教えてね」 そういいつつも、七夏自身もまた歩き始めた。ふらふらといろんなところを見て回りそうになるのを必死に堪えながら……。 賑やかなデイドリムの街は、本当に平和だった。魔術の心得を持つメルヒオールは、この街全体がなんらかの『力』で満たされ、くすぐられているような感覚を味わう。 撫子は壱号の力が使えるか、と近くにあった壱号に似たおもちゃで試してみた。が、ロボタンの能力【ユーザーサポート】は全く使えず、少し残念に思えた。 6人のロストナンバーたちがそれぞれデイドリムの中へと散らばっていく。その知らない所で、1人の老人が白衣をなびかせながらとことこ歩いていく。 真剣に色々考えているのか、しきりに首を捻ってはノートらしきものになにやら書いている。そんな様子に、町の人々は「ああ、今日も元気だなぁ」と温かい目で見守っていた。 「時間が少し足りんかもしらんのう。でも、そこはどうにかすればいいんじゃ。……やはり、手伝ってくれる人がいるといいんじゃが、こればかりはのぅ……」 そんな事をふと呟き、再び考察の海へと沈んでいく。その間にも止まる事なく歩き続けるのであった。 承:賑わう街を歩いてみれば デイドリムはどこもかしこも賑やかで、静寂とはかけ離れた場所だった。行く先々でおもちゃ達が楽しげに動き、旅人たちの目を楽しませる。木で出来ているだろう積み木はひとりでに動いて家やピラミッドなどを作っていく。飲食店を除けば、小さな人形が水を運び、客をもてなしたり、会計を手伝ったりしている。 (実用的な物もあるんだな) 娯楽的なものに竜刻の力を使うのはある意味「贅沢」かもしれない、と思いつつ、メルヒオールが顔を上げる。と、ガラクタの寄せ集めで作った看板が見えた。 「ラボ通りのようだな」 「さっそく行ってみようよ!」 ルカが読み上げ、カルムがわくわくした様子で路地を見ている。メルヒオールは「そうだな」と相槌を打ち、2人と共にラボ通りへと踏み出した。 3人が狭い通りを歩いていくと、物珍しげに住人たちが顔を出す。メルヒオールの風貌から仲間だと思ったのだろう、「ラボ探しなら不動産屋を通した方がいいよ」と教えてくれる人もいた。 (この辺りにいたりしないだろうか?) ルカが辺りを見渡した限り、カルートゥスらしき人影はないようだ。彼が内心で溜め息を付いている横ではカルムがからくりに見とれていた。 「わぁっ! これ、かわいいなぁ!」 少年が夢中になってみていたのは、蝶の模型を模した玩具だった。ひらひらと舞うそれは、カルムの鼻先に止まり、くしゃみを誘発させる。 それをみて思わず笑いそうになったメルヒオールだったが、今度は彼の髪に蝶が止まり、それにはカルムが笑いかける。ルカも目を丸くし、それにメルヒオールは苦笑した。 ラボ通りでの聞き込みは、あまり良い結果を得られなかった。今日はまだ、ここには来ていないらしく、竜刻使いたちは皆首を振っていた。 「まぁ、カルートゥス様の事だし。この街から出ては居ないだろう」 それが、共通して言う事。無駄足だったか、と溜め息を付くルカをカルムが「大丈夫だよ」と励ます。 それほど積極的ではないメルヒオールは、とくに気にする様子もなく竜刻使いたちに話を聞いていた。魔法の研究をしている彼としては、竜刻の研究が気になるようだ。 「ふと、思ったんだけど……1度作られた玩具やからくりは、誰にでも扱えるのか?」 「大体は、そうだよ。でも、時々作り主にしか操作できないのもあるみたい」 メルヒオールの問いに、応えたのは、彼に似た風貌の女性だった。彼女は3人に席を勧め、お茶を振舞ってくれた。 「ぼくもおもちゃを作ったりするのが好きなんだ! だから、興味があるの。おねえさんはどんなおもちゃを作るの?」 カルムが目をキラキラさせて工房をみる。はしゃぎ過ぎないようにメルヒオールとルカで窘め、その様子に女性は思わずくすくす笑う。 「私は、主に人々を楽しませる玩具を考え、研究して作っているんだ。さっきの蝶も私の作品なんだよ」 そう言って手を伸ばせば、先ほどの蝶が彼女の手に止まる。それを見つめつつ、再びメルヒオールが問いかける。 「この辺りでは愛らしいものを良く見かけるが、危険な道具などはないのか?」 「そういうのは、力が働かないみたい。基準は解らないけれど……」 この街の竜刻が齎す力については謎が多く、研究中なのだ、と女性は語る。その後もカルムとメルヒオールの問いに女性が色々答え、いつのまにか周りには色んな竜刻使いたちが集まっていた。 (?! 一体何処から来たんだ) 1人お茶を飲んでいたルカは思わず振り返り、目を見開く。どうやら此処の住人たちは、こういった客人を好むようだった。 そんなルカだが、彼は2人が質問をしている間にもノートをチェックする。他の仲間からの報告はまだなく、少しだけじれったそうに首を傾げる。 (一体、どこに……) そんな仕草を見、女性はルカに声を掛ける。 「そちらの方は、何か気になる事などありませんか?」 そう問われ、少し(内心しどろもどろになりつつ)考え込むルカ。ややあって漸く答えられたのは、「……別に」というぶっきらぼうな呟き。 (な、何か返そうよ~!!) そんな様子の彼に冷やりとするカルム達であったが、女性は気にした様子もなく、ただ「シャイな方なのかしら」と苦笑するだけであった。 花が市場へと着いた時、目の前には色とりどりのカーペットや愛らしいラクダのような生き物がいた。そうかと思えば逞しそうな馬やひとりでに鳴り響く笛やハープ、綺麗な布や食器も並んでいる。 市場の人に話を聞けば、このあたりは砂漠の民と草原の民がそれぞれの作り物を売りにやってくるという。その他にもちょっと遠い場所からでも竜刻やら、実験に必要なものなどを売りに来る者もいるという。 「規模は小さいけど、そのわりには豊富だし……、食べ物も豊富だし、みんな『平和』って顔してる」 元々忍である花は、ちょっと見ただけで近隣の状況も把握しつつ楽しげに散策を始めた。店の人と会話しつつそれとなくカルートゥスについても聞いてみる。と、今日はまだ市場へ来ていない、という事が解った。 「あのじぃさん、考え事に夢中になると街中を歩き回るんだよなぁ。ま、宰相時代からの癖らしいし、我に帰れば気さくで気前のいいじぃさんだよ」 香ばしい匂いを放つ肉の串焼きを打っていた男性が、無精ひげを撫でながら笑う。他の人々もカルートゥスに対してはとてもいい印象を持っていた。 (へぇ、面白そうなおじいさんだねぇ) 花もまた、話を聞くうちにだんだんとカルートゥスに興味を持ち始めた。 また、市場では撫子が街の人にカルートゥスについて話を聞いたり、からくりやおもちゃと遊んだりしていた。 「大発明家でいらっしゃるんでしょぉ☆ 弟子入りしたいくらいファンですぅ☆」 「宰相時代から色々発明していて、お陰でその国はかなり豊かになったそうよ。お嬢さんのような若い人が弟子入りを望むのも無理は無いわよねぇ」 自動で動く機織り機の調子を見つつ、背の高い女性がうんうんと頷く。おしゃべり好きな彼女は「これがカルートゥス様の発明だよ」と色々な農機具などを見せる。撫子には壱番世界で嘗て使われていたような物が、より使いやすくなっている印象を受けた。 それでも、なんでも発明する彼に対し素直に興味を持つ撫子は目をキラキラさせたまま質問へとシフトした。 「実はぁ、カルートゥス様の素敵な発明を見せて頂こうと思いましてぇ、探しているんですけどぉ……」 その言葉で、女性は少し苦笑する。なんでも、カルートゥスが自分のラボから姿を消すのは日常茶飯なのだそうな。 「多分、このあたりをうろちょろしているとおもうわ。あの方の悪い癖なのよ」 その言葉に、すこししょんぼりしてしまう撫子であったが、壱号が頭のネジをきこきこ言わせながらぽん、と肩を叩いて慰めるのであった。 こちらは虫たちから情報を集めつつ『タマゴ』へとやって来た七夏。彼女は髪と触覚を揺らし、ドアを叩いた。 「こんにちは、どなたかいらっしゃいませんか?」 「ああ、先ほどはどうも! 師匠ならまだ戻っていませんけれど……」 弟子である青年が苦笑しながら彼女を出迎える。そして、「散らかっていますけど……」と、中へ案内してくれた。 白いドーム内は現在製作中の大きなからくりがあるため、入室を止められてしまった。が、普段使用しているラボには木の香りが漂い、面白そうな玩具が転がっている。木で作られたラクダの玩具は遊んでほしいのか、七夏に甘えてきた。 「まぁ、ガラクタしかありませんけど、ゆっくりしていってください」 青年がそういい、お茶とお菓子を持ってきてくれた。甘いハチミツの香りがするパンケーキと、仄かに花の香りがするお茶で、1口食べるとなんだか寛げるような気分になった。 (もしかしたら戻っているかも、と思ったんだけど……) それを残念に思いつつお茶を飲んでいると、ちらり、とドームの中が見えた。僅かに開いたドアから見えたのは……一見、船のような物。 (あら、あれは一体何なのかしら?) 近くにはってある地図を観る限り、船が使えそうな湖や川、海はないように思える。しかし、そこにあるのは、どう見ても船のような物であった。 「あら?」 そして、その更に奥。……研究所の奥になにやら扉が見えたのだった。 竜刻使いたちの実験風景を見つつ、あれこれ質問しているメルヒオールは、傍らでカルムが背伸びしているのを見た。 「どうした?」 「あれ……カルートゥスさんじゃない?」 「!」 玩具を観察していたルカが飛び出し、人込みを掻き分けて走っていく。しかし、白衣の小柄な老人は直ぐに行方をくらましてしまった。 「市場の方かな? ぼく、そっちの方にも行ってみるよ!」 カルムは竜刻使いに礼を述べると、カルートゥスが消えた方へと走っていく。ルカとメルヒオールは僅かに考える。 「俺は噴水公園の方に行ってみようと思う。お前はどうする?」 「カルムと同じ、市場を当たろう」 2人は頷き合うと、それぞれ目的の場所へと向かう事にした。 転:遭遇、カルートゥス! 市場。賑やかな空気の中、カルムはカルートゥスを見失っていた。 「おっかしいなぁ。こっちの方に行ったってみたんだけどなぁ」 「どうしたの?」 そこに花が現れる。カルムは翼をぱたぱたさせつつも花に事情を話した。彼女は茶色い瞳を閉ざし、少し考えてからややあって口を開く。 「なら、注意してみてみようかな。あんたもあっちの方とかみてほしい」 「うんっ!」 花はそう言って噴水公園側へと歩いていく。カルムはあたりを見渡し、カルートゥスらしき姿が無いか探してみる事にした。 その途中、幾つかの皿が目に入る。色とりどりのガラスを使った装飾は、白い皿に映え、とても綺麗だった。 「ぼっちゃん、お土産に1ついかがです?」 見とれているうちに、黒い鱗のトカゲっぽい男性が話しかけてきた。カルムは少し考えてから、他にも見せてほしい、と頼む事にした。その後はいろんな皿を見比べ、結局最初に見た白い皿を買うことにした。 買い物が済んだ後、人に聞いたりしてみたカルムであったが、手掛かりは途絶えてしまった。小さく溜め息をつきつつも、少年は噴水公園の方へといってみる事にした。 花はというと、カルムが言っていた影を見た気がし、そっちの方向へ行ってみる。思い切って声をかけようとしたものの、振り返ったその人はカルートゥスとは違い、青い目をした老人であった。 「すみません、カルートゥスさんを見かけませんでしたか?」 「ん? アイツを今日は見かけてねぇなぁ」 首を傾げながら老人は答える。礼を述べて探しなおすも、その姿は見えない。市場を眺めるのは楽しいものの、こうも見つからないと少しやきもきする。 (……それにしても、どこにいるんだろ?) 花はパーカーの紐をいじりながら小さく溜め息を付いた。 ルカが市場に来た頃には、カルムは噴水公園に行っていた。白い竜少年の姿が無い事に、「ああ、別の場所で探しているんだな」となんとなく思う。時間も昼頃になり、そろそろ噴水公園で食事にしようか、という話を耳にする辺り、案外そこに行っているかもしれない、と推理する。 ふと、ルカの視線の先に高さ15センチほどの、正方形の箱があった。よく見ていると、びっくり箱のようで近くを通った人を驚かしていた。が、彼は近づいて無造作に蓋を押えてみる。すると……。 ――かかかかかかかかかかかっ! くぐもった木の音が、そこらへんに散らばる。その様子に子供たちが笑い、持ち主だろう男が苦笑してルカの肩を叩いた。 「あんた、見た目によらず案外御茶目だな!」 そういわれ、困惑するルカ。彼が手を放すと漸く箱が開き、木の人形が飛び出す。どこか安堵したような顔に見えたのは気のせいだろうか? (しかし……みつからんな) 何度目か解らない溜め息を付いていると、目の前を撫子が通っていく。彼女もまたカルートゥスを探しているのだろう。その姿を何気なく追ったその先に、灰色の髪がちらり、と見えた。 (もしや、あの人が……?) 「いたぁああああっ!」 市場に移動して長いこと歩き回っていた撫子は、確かに灰色の髪と白衣を目撃した。彼こそが博士に違いない、と拳を握った彼女はすぐさま走っていく。ルカも追いかけているとは露知らず、彼女はぽん、と老人の肩を叩いた。 「おや? 儂に何のようかのう?」 「あのっ、カルートゥス様ですよね? そうですよねぇ?」 撫子が瞳をキラキラさせて問いかける。と、老人は目を何度もこすって撫子を見た。 「お前さん、どちら様かいのぉ? 最近物覚えが悪くてちーっとわからんのじゃ」 そういわれ、撫子は自分が旅人である事、仲間とともにこの街へ来た事。そして弟子がカルートゥスを探している事を簡単に説明した。 「お弟子さんはぁ、早く帰ってきて欲しいみたいですぅ☆」 「やっと、追いついた……」 漸くルカが追いつき、深い溜め息を付く。撫子ははしゃいでいるようでカルートゥスの手を握り、喜んでいるようだ。博士もまんざらではないようで楽しそうに跳ねている。 「あの弟子のことじゃ。いなくなっただけで慌てよってに。もう少し1人で研究させておいた方がいいんじゃ。そんな事よりそこの若いのと撫子ちゃん。噴水公園に行かんかね? そこで飯を食うと美味いんじゃよー」 カルートゥスは楽しげに2人へいうと、それぞれの手を引っ張って噴水公園へと連れて行ってしまった。 「あや、見つかったみたいだね」 花は老人に引っ張られるルカと撫子を見つけ、ノートにぱぱっ、と報告を記載する。そして、彼女自身もまたその後を追うのであった。 噴水公園。カルムが辺りを見渡すと、昼時なのか、多くの人が椅子や木陰で食事を取っていた。噴水の近くには屋台も幾つかあり、メルヒオールもまた司書から貰った弁当をひろげていた。 「みつかったらしいな」 メルヒオールが花からの連絡を見、カルムに頷く。 「無事に見つかったからよかったけど、なんかこっちに来るみたい」 カルムが言っている傍から、賑やかな老人の声。顔を上げれば撫子とルカの手を握った1人の老人が楽しそうに喋っている。 「この噴水も、竜刻の力であがっておるのじゃ! 地下には白い大きな石があっての。それが竜刻なんじゃよ。今も研究中でのぉ、儂の息子が中心となって……」 撫子は楽しげに聞いているものの、ルカはどうしようか悩んでいるのがよく解った。 「何故、急にラボを……」 「考え事をしていたら、外に出ておったんじゃよ。いつもの悪い癖じゃ」 ルカがどうにかして問えば、博士はきょとん、とした顔でそう答える。 「初めてお会いしましたけどぉ、らしい気がしますぅ☆」 撫子の呟きに、ルカはおもわずがっくりとうな垂れてしまった。 その様子に笑いを堪えつつ 「大丈夫そうだな」 「そうだねぇ」 と、メルヒオールとカルムが顔を見合わせて安堵の息を吐いていると、撫子がぶんぶんと手を振って2人を呼ぶ。メルヒオールは「厄介な事にならなきゃいいが……」と苦々しい表情を浮かべるが、カルムは楽しげに目を輝かせる。 (研究所とか、行ってみたいなぁ。やっぱり研究の成果とか見たいもんっ!) 少年が研究所に行ってみたい、と願えば、カルートゥスは笑顔で「是非遊びに来てほしい」と言ってくれた。それに撫子も感激したようだった。しかし……。 「今はご飯じゃ。腹が減ってしもうてのぉ」 カルートゥスはそういい、メルヒオールの傍に腰掛けた。 七夏はその頃、虫たちの連絡とノートの連絡を見て研究員に話していた。 「どうやら、見つかったみたいですが……」 「噴水公園だったらしばらく帰ってきそうもないですね」 弟子は苦笑いをし、七夏も同じように肩を竦めた。話によると、カルートゥスは噴水公園で寛ぐのが日課なのだそうな。 「今日は朝からパン一切れ以外口にされていなかったからなぁ……」 お茶の準備だけしておこう、と呟いて、弟子は奥へと引っ込んでいく。その際、ゴミ箱にぶつかったものの、それに気付かなかった。 (片付けておきましょう) と、彼女が近づくと……その中に、黒い沁みのついた布を見つけたが、今はとりあえず片付ける事に専念した。 その後、弟子が食事の用意をする、と言ったので七夏もそれを手伝う事にした。その途中、ノートを開き……1つ頷く。 「あの、料理の準備は待ったほうがいいかもしれません」 「何故でしょう?」 「カルートゥスさん、お土産を持って帰るみたいですから」 それでしたら……と、弟子はパンだけ用意する、と言って七夏と奥へ。キッチンの奥にはなにやら小規模の井戸のような丸い穴が。話によると、パサパン(壱番世界でいうナンに近い物)を焼くという。 「ぜひ、手伝わせてくださいっ」 興味を持った七夏は、弟子に教わりながら生地を捏ねたり、窯にひろげた生地をはりつけたりして調理を楽しんだ。 結:研究所でみたのは……? (……早くしてくれ) ルカがじれったそうに、というより、硬直しているように見えるのは、カルートゥスと2人きりで仲間を待っているからだろうか? カルムは翼を使って上空から街を眺めており、時折無邪気な歓声を上げている。撫子は合流した花とカルートゥスのお使いで屋台へ出かけているし、メルヒオールにいたっては噴水の仕組みを近くに居た竜刻使いと話していていない。 竜刻がこの街にある理由などを聞いているが、口下手な彼は内心必死だった。 「この街を作ったメンバーの中に、儂もいたんじゃよ。この国の宰相をしていた頃、開拓の話があってのぉ。偶然地下水脈内で見つけた竜刻が面白い効果を発揮しておったから此処に作る事にしてのぉ」 「そういえば、この辺りでは小規模な爆発が日常茶飯事と聞いた。竜刻の力とは、それほど扱い難い物なのか?」 話が終ったのだろう、漸くメルヒオールが質問してくる。それに安堵しつつルカもカルートゥスの言葉を待った。 「そうじゃな。竜刻の性格にもよりけり、じゃ。気難しい奴になると、簡単な仕組みのからくりであっても爆発をおこしちょる。噴水の竜刻の力は特に気まぐれでのぅ。その所為で小さな爆発が毎日どこかで……」 そう言っている傍から、ボンッ、と小さな爆発音。どうやら、操作に手間取った屋台の主が使っていたからくりが、はじけた音らしい。それに苦笑しつつカルートゥスは近づいていき、籠状のからくりをあっというまに直してしまった。 「「凄い」」 メルヒオールとルカは思わず口を揃えてそういった。 「うわぁ……っ♪」 竜変化で小型の竜になったカルムは、街の全体を上空から眺めていた。街の端っこにカルートゥスのラボがあり、街のほぼ中央に噴水公園がある。噴水公園からさらに奥には、色々なガラクタが並んだ市があったり、劇場のようなものが見えたりした。しかし、特に興味を持つものもなく、暫くして噴水公園へと戻る。 カルムが元に戻っていると、花と撫子が幾つかの料理を屋台で買っていた。川魚や野菜を揚げた物や香ばしい匂いを放つ肉の串焼き、とろとろと煮込まれた山羊乳のスープなど、色々揃っている。それらをもちながら、撫子と花は苦笑していた。 「七夏さんが研究所で待っていますぅ。どうにかカルートゥスさんを研究所に連れて行きたいですぅ☆」 「きっと退屈しているだろうし、誰かが背負った方が早いかも」 「それだったら……」 カルムが見つめる先、カルートゥスの話をメルヒオールとルカが熱心に聴いている。メルヒオールは右の上半身が呪いの為に石化しているため、背負うのは難しそうだ。やはり、ルカに頼むしかないだろう。 「カルートゥスさん、実は……」 花達で事情を説明すると、カルートゥスは小さく溜め息を付く。 「なんじゃい、お客様がきておったんかいな。早く言うてくれぃ」 苦笑しつつ彼は、ルカを見上げて「疲れたので背負ってほしい」と願う。しかたなくルカが背負うと、カルートゥスはにこにこ顔で言った。 「それじゃあ、儂のラボまで案内するぞい」 「お帰りなさいませ、博士。そして、いらっしゃいませ!」 「おまちしておりましたーっ」 研究所。カルートゥスの弟子と七夏が、6人を出迎えた。待っている間、2人は研究所を掃除し、食事ができるようにセッティングしていたという。まぁ、こっそりルカと花が連絡しており、虫たちも力を貸していた為早く出来たようだ。研究所からは香ばしい香りが漂い、思わずお腹の虫が鳴きそうになった。 弟子とカルートゥスに案内され、旅人たちは食卓に着く。司書から貰った弁当を見ていたカルートゥスはそれも食べたいといったので、屋台で買った物と一緒に並んでいる。テーブルの中央には七夏が焼いたパサパンが入った籠もあった。 カルートゥスと弟子は食事の前に、となにやら手を組んで祈りの言葉を口にした後、手を合わせて「いただきます」と言った。旅人たちもそれにならう。話によると、この地方でのマナーらしい。 司書がくれた弁当を、カルートゥスに1つ上げると、彼は夢中でそれを食べていた。 「味は……」 ルカが恐る恐る問うと、カルートゥスは満面の笑みで頷いた。弟子が慌ててお茶を注ぎ、それを一気に飲み干すと、 「この弁当を作った奴は、アイツの次に料理上手じゃわい」 と、どこか懐かしそうに言う。 「アイツって?」 「アイツはアイツじゃ」 カルムが問いかけるも、はぐらかすようなカルートゥス。彼は屋台で買った山羊乳のスープに、ちぎったパサパンをつけて食べる。と、目を丸くする。 「なんじゃい、いつもより軟らかくて美味しいのう」 「あの、それ、私が焼きましたっ!」 七夏が緊張気味に触覚を揺らして答える。が、カルートゥスはこれも笑顔で食べてしまう。どうやら気に入ったようだ。 「うん、初めて焼いたそうじゃな? けれど、すごく美味しいのう!」 「よかったですねぇ☆」 撫子が頷き、七夏は嬉しいやら恥ずかしいやらでもじもじしてしまう。その傍らでメルヒオールは料理を食べつつ、辺りを見渡した。動いているからくりは、やはり生活用品や玩具の類いのみ。工具やら危険な物は動いていなかった。 「気になる事でもあるのかね、お若いの?」 「ああ。危険な物が、動いていないのが気になって」 彼の言葉に、カルートゥスは1つ頷く。そして、穏やかにこう言った。 「これは推論じゃがの。竜刻が攻撃的な物に力を与えんのは、多分『意志』じゃよ。この国は、昔戦乱続きじゃッた事もあるからのぉ」 その言葉に、僅かだが苦い思いを感じとった。何故だろう、カルートゥスの目が、少し寂しそうに震えていたように思えた。 「若い旅人さんがた。今日はゆっくりしていくといいぞい。儂が今手掛けとる物も、見てほしいからのぉ」 食事も終盤に差し掛かり、カルートゥスが上機嫌で言った。それに興味をしめす6人の様子に、弟子が少し不安げな顔になる。 「は、博士、良いのですか? あれはまだ……」 「なぁに、大丈夫じゃろうて。竜刻使いらしい者もおるでの」 カルートゥスは小さくウインクした。 食事を終え、後片付けを弟子に頼むとカルートゥスは6人をドームの中へと招きいれた。七夏は気になっていた幕の奥へと入る事ができ、とてもわくわくした。 6人の目の前に現れたのは、一隻の……船を思わせるような物だった。まだ作っている段階なのだろう、はっきりとはわからないが、そんな風に思えた。 「おっきぃなぁ! これ、船なの?」 花が駆け寄り、老人に問う。と、彼はくすくすと笑う。 「確かに船じゃが、まだ秘密じゃ。なんせ、動くかどうか解らんしのぉ……」 そう言いながら、カルートゥスは機材を使って刻印のような物を彫っていく。メルヒオールには、それが何か解っていた。竜刻使いたちがからくりになにやら刻んだり、書いたりして竜刻の力を与えていたのを覚えていたのだ。 「文様を、そこに刻むのか?」 「左様。ちょっとした、試しじゃよ。けれど、カルートゥス・フォセス最大の発明になる事間違いなし、じゃ」 その言葉に、撫子が目をキラキラさせ、カルートゥスの両手を握る。その力の強さにこけそうになるも、カルートゥスはにこにこしていた。 「あのっ、多少の事はお手伝いできると思いますぅ! 力仕事は……あまり言いたくないけど得意ですしぃ……」 「僕も、手伝えるとおもう。何かできないかな?」 カルムもまた頼むも、カルートゥスはにこにこと 「気持ちは、受け取っておくわい。力が必要になったら、な」 とやんわりと断った。その姿に、何かを感じた七夏は小さく首を傾げる。 「大切な物、なのかしら?」 「しかし、この船は……どこへ行くんだろう?」 その傍ら、ルカがぼんやりと見つめ、呟く。途中で見かけた地図を思い出せば、この辺りに大きな船が浮びそうな泉や海、川はなかったように思えた。けれどもその呟きは、カルートゥスには聞こえていなかった。 七夏の影響か、愛らしい虫たちがそこら辺に集まる。それを見、カルートゥスは嬉しそうに虫を見つめていた。 「おぬしらはええのう、好きに飛ぶ事が出来て。儂は、おぬしらが羨ましいんじゃよ?」 そういいつつ、カルートゥスは6人に「迷惑を掛けた」と頭を下げた。撫子たちがめっそうもない、と首を振れば、彼は苦笑する。 「儂は、昔から考え事をするとうろちょろする癖があるんじゃよ。まぁ、あの弟子ももうちょいでん、と構えてほしいんじゃがの。それでも、探してくれた事に感謝しておるよ」 そういい、また何時でも遊びに来て欲しい、と1人1人の手を握ってくれた。小さな手だったが、見かけによらずごつごつしていて、まさに『職人の手』であった。そして、手を握るたびに、各々声を掛けられる。 「厄介な呪いじゃのう。じゃが、おまえさんなら解けると信じておるよ」 メルヒオールは、その言葉に目を丸くする。 「好奇心旺盛な事はいい事じゃ。それを伸ばしなされ」 カルムは、満面の笑みで頷く。 「力が高まっておるようじゃな。これからも、虫たちと仲良くするんじゃぞ?」 七夏は、僅かに口元を綻ばせ、1つ小さく「はい」と返事する。 「勇気じゃよ。言葉を放って見る事が1歩じゃよ」 ルカは、気難しそうに瞳を閉ざし、小さく唸る。 「軽やかな心音じゃな。この世界を楽しんでおるのだな」 花は、笑顔で「楽しんでます」と一礼する。 「落ち着いて、コントロールする事じゃ。恵まれた力は大切にの」 撫子は何の事を言われているのか把握し、少し顔を赤くする。 カルートゥスはそれぞれにだけ聞こえるように、確かに言った。彼は、少し前に会ったばかりの6人をとても気に入り、気に掛けてくれているようだった。 「なぜじゃろうな。おまえさん方が着てくれたお陰で、儂はもっと生きられそうじゃ。また何かの機会があれば、遊びに来て欲しい」 一同はその言葉に、「是非」と答えた。 帰り際、弟子が持たせてくれたお菓子を抱えながら、撫子は溜め息を付く。 「壱号の活躍の場がありませんでしたし、弟子入りも断られましたぁ」 「今、間に合っているそうだ。しょうがないだろ?」 メルヒオールに励まされるも、撫子はロボタンの壱号を抱えてしょんぼりする。その傍らで、花はちょっと首を傾げていた。 「そういえばさ、あの船、なんかおかしくなかった?」 「確かに(なんか、こう、違和感があった)」 ルカも頷き、七夏はそうだっただろうか、と首を傾げる。が、カルムは思い出しながら小さく呟く。 「あの船、まだ舵が出来ていないんだよ。そこにも仕掛けをつくるんじゃない?」 その言葉に頷きつつ、街を後にする。もうすぐ、停留所にロストレイルが来る時間だ。後ろ髪引かれる想いがあるものの、一同は報告のために0世界へ戻らなくてはならない。6人は顔を見合わせ、1つ言う。 ――できることならば、また……。 (終)
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