ふと気配に気づくと、つぶらな瞳に見つめられている。 モフトピアの不思議な住人――アニモフ。 モフトピアの浮島のひとつに建設されたロストレイルの「駅」は、すでにアニモフたちに周知のものとなっており、降り立った旅人はアニモフたちの歓迎を受けることがある。アニモフたちはロストナンバーや世界図書館のなんたるかも理解していないが、かれらがやってくるとなにか楽しいことがあるのは知っているようだ。実際には調査と称する冒険旅行で楽しい目に遭っているのは旅人のほうなのだが、アニモフたちにしても旅人と接するのは珍しくて面白いものなのだろう。 そんなわけで、「駅」のまわりには好奇心旺盛なアニモフたちが集まっていることがある。 思いついた楽しい遊びを一緒にしてくれる人が、自分の浮島から持ってきた贈り物を受け取ってくれる人が、わくわくするようなお話を聞かせてくれる人が、列車に乗ってやってくるのを、今か今かと待っているのだ。 ●ご案内このソロシナリオでは「モフトピアでアニモフと交流する場面」が描写されます。あなたは冒険旅行の合間などにすこしだけ時間を見つけてアニモフの相手をすることにしました。このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、・あなたが出会ったのはどんなアニモフか・そのアニモフとどんなことをするのかを必ず書いて下さい。このシナリオの舞台はロストレイルの、モフトピアの「駅」周辺となりますので、あまり特殊な出来事は起こりません。
見覚えのある駅が現れた。 セクタンのメーゼが窓枠に立って、移り変わる景色を見ている。小竹卓也は連れに目をやり、徐々に大きくなる駅の姿を眺めながら下車の準備を整えた。 車窓から遠景がはみ出して、ホームが間近に迫った。ゆっくりと速度を落とすロストレイルに、アニモフ達がはしゃいでいる。先走って列車に駆け寄ろうとするクマのアニモフを、仲間がぷんすか怒りながら止めていた。 ロストレイルは完全に停車し、そして扉が開く。 さて、今回はどんなアニモフ達と遊べるかなー、と卓也はホームに下りた。 列車を降りた卓也の正面に、トカゲ型の小さいアニモフがいた。ぽってりした体は緑のうろこに覆われている。黒目がちの大きな瞳は涙で潤んでいた。頬には涙の跡が見えるから、泣いていたのだろう。 ぽかんとロストレイルを見上げていたアニモフは、卓也に気づくと駆け寄って服の裾をくいくいと引っ張った。 ドラケモナー、つまりドラゴンとか獣とかそういう属性の混じった人外を好む卓也にとって非常に好ましいシチュエーションだ。 卓也のテンションゲージが急上昇しているのを知ってか知らずか、アニモフはぷるぷる震える手でロストレイルを指す。 「こ……これ」 「これ?」 「す……」 「す?」 「すごーい! すごいです、すごいですー」 アニモフは興奮した様子ですごいを繰り返す。無邪気にぴょんぴょんはねるとトカゲの尻尾が左右に揺れた。勢い余って卓也のすねにぺちぺち当たる。 「これ、なんですかー?」 「これ? ロストレイル」 「ロストレイルですか! なまえもすごいです」 アニモフはきらきらしたまなざしを、列車にそそぐ。ロストレイルロストレイル、と呪文のように繰り返していたが、突然「あ」と声をだしてうなだれた。 「どうしたの?」 卓也は屈んで、アニモフと目線の高さを合わせる。アニモフの瞳はうるうるが増し、表面張力と重力が決死の攻防を繰り広げていた。つまり涙がこぼれる寸前だった。 「ともだちと一緒に、駅に来たです。でも、はぐれちゃって……」 しょんぼりと語尾がしぼむ。どうやら、迷子になって泣いていたらロストレイルが到着して、驚きのあまり涙が止まったらしい。そして興奮が落ち着いたらまた思い出して悲しくなったらしい。 卓也はちらりと時間を確認した。約束の時間までは、十分余裕がある。 「それじゃ、一緒に探そうか」 そう申し出ると、ぱあああっと擬音が聞こえる勢いでアニモフが笑顔になった。 「わーい、ありがとうです!」 満面の笑みにつられて、卓也も笑う。頭を撫でると、意外になめらかな手触りだった。うろこの表面はつるりとして、ひっかかるところがない。 撫で撫で、撫で撫で。ついでに涙の跡を拭ってやると、お返しとばかり頬をむにむにとこねられる。幸せなひとときだ。 が、いつまでもそうしてはいられない。友達探しという大変な使命があるのだから。 卓也は名残惜しくもアニモフから手を離した。もふもふ中心のモフトピアで、トカゲ型のアニモフはあまり見かけない。できれば抱っこかおんぶをしたいな、と思っていたら名案が浮かんだ。 「肩車しない? 高いところからだと、遠くまで見えるし」 「します!」 即答したアニモフを、卓也は肩へ招く。 アニモフは喜びに満ちた悲鳴を上げた。普段の景色を、人間の身長から見下ろすとまるで違う。別世界だ。 卓也は興奮しっぱなしの声を聞きながら、足をばたつかせるアニモフが落ちないようにしっかりと抑えた。 「いました!」 人探しは、すぐに終わった。 きゃっきゃと騒ぐアニモフと旅人の取り合わせは目立ったようで、同じトカゲ型のアニモフが騒ぎながら走ってきた。 赤と青と白のアニモフは、涙と鼻水の跡にまみれてぐちゃぐちゃの顔をほころばせる。 「いた」 「見つかった」 「よかったー」 彼らもまた、はぐれた友達を必死に探していたのだろう。泣き笑いの顔で、卓也の足にぎゅうぎゅうと抱きつく。 「今度ははぐれるなよ」 おしくらまんじゅうの刑に処された卓也は、鼻の下を伸ばしつつ緑のアニモフをそっと下ろした。 「ありがとうございます! 肩車もたのしかったです」 「いやいや、こっちこそ」 緑のコがぺこりと頭を下げた。卓也もなんとなくおじぎをする。モフトピア話やトカゲアニモフの話や、他の珍しいアニモフの話を聞けてこちらも楽しかったのだし。 肩車、の言葉に他の三色のコが反応した。 「かたぐるま……」 「いいな……」 「うらやましいです」 きらきらぴかりん、と物欲しそうな眼差しが卓也の首のあたりに向かった。 「景色、ぜんぜん違うんですよー」 緑のコが火に油を注ぐ。 うるうるした瞳の、トカゲ型アニモフが無言で訴えている。拒否する理由はない。 卓也は問いかける形で誘った。 「きみたちも、肩車してみる?」 「「「はい!」」」 「ぼくももう一回!」 アニモフ達を交互に肩車して、ついでにトーテムポールごっこもしたら、大変嬉しかったらしい。ありがとうの言葉と共にぎゅうと抱きつかれた。 「しあわせ……」 「しゅわわせー」 「はんなりぽん」 「この気持ち、プライスレスです」 非常に満足したアニモフ達は、この後行くところがあるらしい。 「「「「バイバイです!」」」」 卓也は手を振る彼らと笑顔で別れた。 ぶらりと歩きながら、これからどうしようかな――と思ったところで気づいた。今回の目的はこれではない。 少々青ざめた卓也は、時間を確かめて真っ青になった。 頭をフル回転させて、集合場所と残り時間と最短ルートを計算する。 「……OK」 全力で走れば、たぶん、間に合う、だろう。 頑張れ自分! と卓也は地面を蹴った。
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