晴れやかな空の下。 5人がいるのは、壱番世界のアメリカ合衆国、カリフォルニア州。 カリフォルニアはテーマパークが集中してある地域で、ひとつひとつ回るとなると、1週間ではたりないという。 じっくりと楽しむのなら、1、2日は費やした方がいいだろう。 今回アメリカへと渡ったのは、スリルの味わえるアトラクションが多いテーマパークを満喫する為。 アメリカ西海岸の玄関口と言われるロサンゼルス国際空港に到着すると、空港内でレンタカーのキーを受け取り、駐車されているエリアへと足を向けていた。 「面白い形の空港ね」 徐々に近づいてくる陸地と空港の全体像を航空機の窓から眺め、今は空港内のアーチ型の通路を歩きながら、コレット・ネロは呟いた。 金色の長い髪を両耳の後ろで一房、桃色のリボンで結わえ、同色の幅広のカチュームをしている。 緑の瞳は楽しい出来事を前にして、きらきらと輝いて見えた。 「俺の運転なら目的地まですぐだぜ」 オルグ・ラルヴァローグは立派な金色の鬣と尻尾を兼ね備えた偉丈夫だ。 元の世界の狼族の中では背が低く、小柄な方だが、同行しているメンバーの中では一番背が高く、一行の保護者のようにもみえた。 「本当に大丈夫か」 「大丈夫だ、問題ない」 オルグの自信に満ちた応答に虎部隆は不安なのか、聞かずには居られない。 運転できるという事は知っているが、その運転技術はまだ見た事がないのだ。 自分が免許を持っていれば引き受けるのだが、今思っても遅い。 大丈夫と言われるたびに、不安が湧き上がるのは何故だろうと隆は思わず自問自答。 「ほら、オルグもそう言ってるし、大丈夫だよ」 「ファっち」 穏やかな声色で話すのはファーヴニール。 緩い弧を描く髪は項あたりで結わえられ、背に流している。 一見、たおやかな女性のようにも見えるが、男性だ。 裾が広がるAラインのすっきりと見えるロングコートには、数々のアクセサリーが取り付けられ、ネックレスに指輪、イヤリングとアクセサリ過多かも知れない。 クアール・ディクローズはそんな皆のやり取りを見守っている。 薄いフレームの眼鏡の奥にある瞳は柔らかな色が見て取れ、感情の籠もっていないように見えても、内心の感情の起伏があるのが分かった。 「あれだ」 黒い車体が陽の光を浴びて弾いている。 スポーツカータイプのオープンカーで、ちょうど5人乗りの車で、運転手席にオルグが乗り、助手席にはコレットが、隆とファーヴニール、クアールの3人は後部座席に乗り込んだ。 *** 「とても気持ちいい~」 コレットは長い髪が流れて乱れるのをゆるりと片手で押さえながら微笑む。 日本とは違い、若干色の薄いアスファルトの道を、精密さとは違う少しワイルドな運転でもって走らせるのはオルグ。 「ぐっ」 言葉を発しようとして、隆は下を噛みそうになって、押し黙る。 振り返ってみれば、遠くに小さな小石らしきものが見えた。 綺麗に舗装されている方ではないので、ときどき車体を揺らす振動がどことなく怖い。 「大丈夫か!? ほんっとーに、大丈夫か!?」 後部座席から、身を乗り出すようにして、運転席のオルグを見上げる。 腕を掴むなどの運転の邪魔をするようなことはしない。 「順調だ、心配するな」 はははは、明るく笑う。 「……タブン」 「……え、何、何!?」 「ふふ」 僅かにカタコトになったオルグに反射的に反応を返す。 「大丈夫だ」 にやりと悪い笑みを口元に刻んだ。 「まぁまぁ。はい、席に戻って。オルグもヒトが悪いよ」 ファーヴニールが隆の肩に手をあてると、目線でクアールに合図をして、同じように革手袋に包まれた手を置いた。 「はい、っと」 力を入れられて、諦めたのか気が済んだのか、ぽすんとスプリングを弾ませて、クアールとファーヴニールの間、真ん中の席に収まる。 「遊園地まで一気に行くぞ」 「はい」 コレットは膝の上に乗せた艶のあるピンクの紙バッグをそっと手で押さえ、にこやかに頷いた。 「めいいっぱい楽しみましょうね」 今までのスピードは肩慣らしだったという風に、オルグがアクセルぐっと踏み込んだ。 がくんと首に重力が前方からかかる。 「ぜんぜん、大丈夫じゃないーーー!」 ダイレクトというほどではないけれど、風避け具合はいちばん少ないのはなにげに真ん中の隆。 「強い風っていうくらいかな」 オルグの後ろの座席なので、そんなに風圧のかからないファーヴニールはのんびり。 「たまにはいいですね、強い風も」 クアールは瞳に優しい色を讃えて、眼鏡のフレームをついと押し上げた。 「折角だ、スポーツカーの性能を生かしてやらないとな」 「海が見えないのが残念だけど、広々とした景色は見られるし。ショップで良い感じのTシャツあるといいな」 ファーヴニールはときどき変わったデザインというか、大変微妙なデザインのTシャツを着ていたりするので、売店で売っていたら、どんなデザインを選ぶのか、興味が沸く。 本人は居たって普通の趣味だと思うのだが。 「そうですね」 クアールはクアールで、乾いた地面や青よりは水色といった感じの空を物語の種として、記憶の留めていく。 「ぜんぜん大丈夫じゃない、全然大丈夫じゃ……」 ブツブツと繰り返す隆。 「まぁまぁ、大丈夫だって」 ファーヴニールが慰める。 「……クッキーでもいかがですか」 クアールが遠慮がちに、一枚ずつパラフィン紙で個包装してあるクッキーを差しだす。 綺麗な和柄の小箱に収められたクッキーが並んでいる。 「いいね、いただくよ」 「ありがとうな。……あ、美味い」 二口で食べて、優しい甘さに表情が和らいだ。 「コレットさんも」 クアールが前屈みになって、助手席に座るコレットに声をかけた。 「ありがとうございます。あ、もう一枚頂きます。これは、オルグさんに」 コレットは振り向いて、オルグの分も手に取る。 「オルグさん、口を開けて下さい」 自分より先に、運転しているオルグにと思い、オルグの運転の邪魔にならないように口元へ近づける。 「口に放り込んでくれ」 「はい」 コレットは嬉しそうに笑って、オルグの口にいれた。 ぱくりと一口で収まる。 「ん、美味いな」 「……ありがとうございます」 褒められて照れたのか、少し声が小さい。 「優しい味ですね」 賑やかな時間を過ごしつつ、その間にオルグがスピードで距離を稼ぎ、予定していた時間より早く到着したのだった。 *** 広大な駐車場にオープンカーを止めると、ゲート前まで巡回しているバスに乗りこむ。 オープンカーは電動の幌を稼働させて、万が一、雨になったときのために被せてあった。 入場パスを購入して、ゲートをくぐれば別世界が広がっている。 きめの細かいアスファルトで整備され、広々とした通路が様々なアトラクションへと導いてくれる。 遠くでジェットコースターのレールを走るカートに乗り込んだ乗客の悲鳴や、楽しくて声を発する人、スリルを求めて握るバーから手を放して両腕をあげている。 頂上付近で光が瞬いているのは、乗客のスリルを味わう表情を捉えるカメラのフラッシュだろう。 家族連れも多く、ベビーカーを押す親や、歩き疲れた子どもを抱きかかえ、休憩スペースに足を向ける人々。 ゲート入口で手にした園内パンフレットを見ながら、目的のアトラクションへと向かう。 「園内は広いですから、少し歩くことになりますね」 「構わん」 「運動も必要だよ」 「緑も多いですし、散歩するようでいいのではないでしょうか」 「園内の隅とかなら、園内を横切る乗り物もいくつかあるな」 各自手にしたパンフレットを熟読しつつ、気になった所を口に上らせる。 少し遠かったが、その間には何気ない会話や、視界に収まるアトラクションをパンフレットを見つつ解説したり、気になったのは後でまわってみようとか、会話が弾む。 「結構並んでいるね」 「待つのも遊びの一つだと思えばいいだろう」 ポールや紐で順番に並ぶように作られたエリアを、迷路を探索して進んでいる人のように進んでは曲がってを幾度か繰り返し、先に並んでいる人の背中に追いつく。 「日陰だし、暑くないのはいいね」 「風もひんやりとして、気持ちがいいです」 ファーヴニールとクアールが一行の一番最後の列で並んでいる。 「持ってるから、そのあいだに日傘畳めよ」 少々、ぶっきらぼうながらも、隆が親切にコレットに手を差しだす。 「ありがとうございます」 隆の好意を受け取り、コレットは鞄を持ってもらう。 白い折りたたみの日傘を丁寧に畳む。 アトラクションが終われば、また日傘を開いて差すのだが、待つ時間を考えれば、荷物になるので、畳んで鞄に仕舞ったほうがいい。 列を作っていた人も順調に乗車して楽しんでいるのか、レールを走る滑車の音と共に人の声が定期的に聞こえてくる。 「どんな感覚なんだろうな」 オルグの出身世界は魔法の力が強く争いのある世界であったから、娯楽的な遊具の多い遊園地自体、物珍しいものだ。 初体験といっていい。 とはいえ、スリルのあるものは、実際の命のやり取りをするスリルに比べるべくもない。 それとこれとは別物だ。 「風が強くて気持ちいいところでしょうか」 「あんたの運転のスピードくらいだよ」 「オルグ、そんなにスピードだしてたかい?」 「そうですね」 やんわりとクアールが肯定する。 「余裕があれば、スピードだけを体験するのではなく、高所からの景色もいいですよ」 ふわりと身体が浮かぶ、少しの恐怖と共に空が近くあるような体感は、レールを走り高所を巡るコースターの特徴だ。 絶叫系のアトラクションは高所恐怖症の気のある人は苦手な部類だが、幸いにして一行にはいない。 初めてで苦手だったということが発覚する場合もあるが、たぶん、大丈夫だろう。 最初に乗るのはボブスレーで、滑るような動きで速度はあまり出ないほうだ。 スピードよりは滑らかな動きがつくるスリルライドを楽しむもの。 山の造形を持つ、ボブスレーの乗り場が近くなると、空から屋内へと変わり、水の流れと水飛沫が作り出すひんやりとした空気が肌を撫でる。 どこか懐古的な感じを受ける。 この遊園地よりは各地のあるものの方が二世代ほど先なので、そう思えるのかも知れなかった。 2つのコースがあったが、両方とも初めてということもあり、感覚で選んだ。 順番になり席に乗り込むと、安全確認をした後、出発を知らせる小さな音とともに出発した。 少しずつ坂を上っていく感覚は、どきどきする気持ちを高めてくれる。 からからと押し上げる車体の音。 冷ややかな山の形の内側で、頂上らしき場所では小さな口を開いて、青い空が見える。 両側からは水を送り出すさらさらとした音と冷気のようなものが感じされた。 ついたと思ったときには空の青から、緑の色と山の造形の色と視界の景色が切り替わり、滑るように進むボブスレー独特の動きに乗せられて、スポーツカーよりは遅いスピードながら、するりと動く感覚はちょっとしたスリルをもたらしてくれる。 ふわりと浮かぶような感覚がやってきたと思ったら、身体が微かに浮かんで、人工の湖へと降りていた。 立ち上がる水飛沫と霧。 肌が霧で湿度を孕む。 乱れた髪や少し濡れた顔を指で払いながら、降り場へと到着した。 スリルを味わう緊張感のような感覚から解放されて、出口へと繋がる通路を通り出る。 同じように楽しんで居る人の声が上から降ってきた。 「楽しかったですね」 手櫛で乱れた髪を直し、コレットが笑顔を向ける。 「これは何度か楽しむというのも納得できるな」 水飛沫が気持ちよかったと、少しだけしんなりとした毛並みをオルグは撫でた。 *** 「けっこう時間経っちゃったから、お昼にしようか。色々あるし、折角だから限定モノもいいよね」 「やっぱり、本場のハンバーガーだろ」 国によって大きさは違うとは知っていても、なかなかみかけないもの。 是非とも本場の味というものを味わってみたい。 「席を取っていてくれますか?」 「じゃ、3人は席について待っていてくれるかな。コレットと俺で買ってくるよ」 ファーヴニールがさっと手を挙げ、立候補する。 「お願いできますか。それでは、行きましょう」 クアールが書き付けたメモを手に、販売ブースへと向かった。 「俺達は席とキープだな」 「あそこなら、人数分の席が空いているようです」 「じゃ、行こうぜ」 昼食を取る人々が増えてきたのか、順調に席は埋まっていく。 一足先に隆が辿り着いてファーヴニールとクアールを待った。 「待たせたね」 「お待たせしました」 やけに大きな紙コップにささったストローと日本のものよりは3~4倍ありそうなハンバーガーに山盛りのフライドポテト。 さすがに大きさが違うのと入る量は有限なので、コレットはキャラクターの焼き印の押されたパンケーキ。それでもティータイムでちょっと食べる量ではなく、大きい目だ。 2枚重なっているが食べられる自信がなかったので、余分に皿を貰ってきている。 「1枚、どなたかいりませんか?」 「俺が引き受けよう」 オルグの体格なら、ハンバーガーを食べてもまだまだいけそうだ。 「メープルシロップはかけますか?」 「たのむ」 付属のポーションに入ったシロップをかける。 「バターが染み込んでいて美味しいですね」 「それ、かぶりつくの大丈夫か?」 隆が心配そうに言うのは、ファーヴニールの手にあるハンバーガーだ。 ぎゅっとバンズを両手で押さえつけて、大口を開けているファーヴニールだ。八重歯がちらりと覗く。 「いけるいける」 具が圧縮されてしまっているが、それが正式の食べ方なので、本場の流儀に倣ってぱくり。 「うん、美味い」 肉のパテが3枚挟まったハンバーガーのメインは肉なので間違っては居ないけれども。 肉汁が皿の上にぽたりと小さな塊を作っている。 「じゃ、ファっちに倣って食うか」 「そうそう」 クアールは外国人観光客向けに用意してあるフォークとナイフを使って、口元を汚さないように切り分けて食べていた。 実は大の辛党でその中はたっぷりのタバスコがかかっている。 顔色ひとつ変えずに食べているクアールにオルグが気になって聞く。 「辛くないのか?」 「ええ、ちょうど良いくらいですね」 「瓶の半分くらいかけてたよな……」 隆が先程の情景を思い出し、辛さを想像する。 「全部食べ終わったら、満腹になりそうです」 満腹というか、お腹が落ち着くまでしばらく休憩が必要かもしれない。 この後は、ジェットコースターに乗ろうと考えているからだ。 胃の中のモノをリバースするのは勘弁したい。 「お昼は時間をかけましょう」 食欲旺盛な男性陣にコレットは微笑んだ。 *** 十分に休憩を取ってから、ジェットコースターの順番待ちの列に並び、待つ時間も楽しいアトラクションと思い楽しんでいると、パレードが始まり、待ち時間も退屈ではなく、あまりない時間の過ごし方ができた。 やがて順番がやって来ると、コースターに乗り込み見上げれば、青かった空は茜色に近くなっている。 乾いた風に冷たさが少し混じっているが、高揚感が消していた。 高低差を生かしたスピードとカーブは、ボブスレーとは違ったスリルを生み出し、スピードと身体の全面に打ち付ける風に、思わず息を止めてしまう。 「きゃっ」 「おおおおお!」 「気持ちいいぜ!」 「髪がめちゃくちゃになのはしょうがないか」 「……」 比較的緩やかになったときにほっとしたように息をついたとたん、スピードをあげて最後のカーブを曲がり、降り場にちょうど到着するために、スピードを落としはじめたのだった。 *** 「そろそろ陽が落ちますね」 どうしますか? と暗に問うたコレットに、クアールがパンフレットを開いて指で差す。 「後少しすれば、花火ショーが始まるようです」 「見ていこうぜ」 「折角だしね」 「ここまできたら、一緒だ」 全員一致で見て帰ろうということになり、花火ショーが始まる前に乾いた喉を潤す為にジューススタンドで各自の分を買い、見晴らしの良い場所を探して歩く。 キャラクターが描かれた風船を持った子供や、動物の耳をつけたカチューシャの大人達、遊園地を代表するぬいぐるみを抱いた人、めいいっぱい楽しむ人々でいっぱいだ。 綺麗に見える場所は既に場所取りをして準備万端で、パレートの通る場所はスタッフが整備にあたっている。 もう一つのお祭が始まる、そんな雰囲気に疲れ始めていた身体も興奮で元気を取り戻す。 空も茜色だったものが、夕闇から夜へと。 始まりの合図なのだろう、園内を満たしていたメロディが変わる。 「始まるのか」 「夜空に映えますね」 最初の一発が打ち上がれば、人工湖の方も船が出てきて競演を始めた。 花火を打ち上げ、湖上と夜空を同時に彩り、傍近くでみられない園内の観客のために、フロートの上にキャラクター達が曲に合わせて踊り、パレードをする。 フロートの周りには中世時代のような衣装を綺麗に着飾り、行進していく。 赤、青、黄、桃に紫と様々な花火の色が打ち上がり、花開く。 「夜の花、ですね」 「良い例えだだね」 それからは、花火ショーが終わるまで、ゆっくりとした時間を堪能した。 時間が過ぎるのはあっという間。 「楽しい1日でした」 「そうだな」 お祭が終わるときのような寂しさを感じながら、遊園地を後にしたのだった。 *** オープンカーに再び乗り込み、夜風を浴びながらドライブ。 被せていた幌は、そのままにするかどうか悩んだが、幌は収納してしまう。 夜空が見えるのを遮るのは勿体ない気がしたから。 遊園地からの帰宅者の波にもまれるよりも、早めに出てきたのは正解だった。 半数は付近のホテルに移動するのだろうから、混雑はあまりなさそうだが、できれば自分達だけでのびのびとしたい。 アップテンポな曲が、楽しい気分にさせる。 帰りの運転手はオルグではなく、クアールだ。 「行きよりはスピードを落としますね」 「あ、曲はこれをかけて」 ファーヴニールが曲名をいい、コレットがセットする。 夜風にファーヴニールの歌声が響き渡る。 煌びやかな遊園地とその周りのホテルの灯りがぐんぐんと遠くなっていく。 離れて行けば行く程、現実とは違う空間なのだと実感がわいてきた。 「お菓子はここにありますから、みなさんどうぞ」 遊園地の売店でかったキャラクターの絵の包装袋の詰まった缶。 チョコレートクランチらしい。 「このデザインどう思う? 良い感じだと思うんだよ」 どうしてこの配色のTシャツを選んだのだろうと思うような、実に微妙なデザインのものを広げていうファーヴニール。 ほかのごく普通のキャラクターTシャツもあったはずなのに。 「そういうのってどうなんだ? いいものか? お、安全運転だなぁ」 しみじみと隆。 「行きは急いだからな」 言い訳というか、ちょっぴりスピード狂な返答。 「皆さんに用意したんです。これ……」 そういってコレットが少し照れた表情を浮かべ、紙バッグから取り出したのは、可愛らしいラッピングを施された4つの箱。 「どうぞ、オルグさん、ファーヴニールさん、虎部さん。あ、クアールさんのはここに置かせてもらいますね」 助手席のコレットと運転席のクアールの間にあるボックスに立てかけるように置く。 「ハッピーバレンタイン」 「いただこう」 「ありがとうね」 「あ、……ありがとうな」 「ありがとうございます」 各々の嬉しそうな反応にコレットはほっと胸を撫で下ろす。 楽しい一日と、バレンタインデイに乾杯。
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