クリエイター北野東眞(wdpb9025)
管理番号1158-10152 オファー日2011-04-14(木) 22:04

オファーPC 月見里 咲夜(ccxv5171)コンダクター 女 18歳 学生
ゲストPC1 ガン・ミー(cpta5727) ロストメモリー その他 13歳 職業とは何なのだー?

<ノベル>

 月見里咲夜が、その依頼を受けたのは場所が自分の地元だったからだ。
 それも保護すべきロストナンバーは地面にへばりついている状態――という。

 与えられた情報を整頓すると、今回の保護対象はわりと小さくて、それもいると予想される場所は発掘調査現場の近く、かなり見つけづらいことが予想される。
 そんなわけで地元民、地形を心得ている咲夜に白羽の矢がたったわけだ。
 保護すべき相手はさして危険はないらしいので、今回は咲夜と、彼女のセクタンであるちとてんの一人と一匹での探索となった。

「発掘調査現場近く……」
 というと、何も建てられない、まったいらな地面が広がっていることになる。
 遺跡調査のため、建物が建てられないのだ。
 咲夜の地元は、驚くほどに遺跡が多い。
 咲夜は生まれてから今の年齢になるまで遺跡調査の立て看板を見ない日はなかった。その壁一枚向こうでは地面を掘り、ときとしては大勢の細かな作業をしている人たちを眺めて、育った。
 実際、咲夜の家の近くも調査されたことがあって、彼女自身、小学校から中学生までの間に発掘作業体験に三度も参加したこともある。
 広い大地に、ビニールシートと大きな穴。あとはひたすらに根気よく彫っていく。砂漠で金を見つけるかのような途方もない作業。
そこから見つけ出した品は丁寧に土埃を払い、専門家が鑑定していく。
気の遠くなるような作業の連続だが、わりとのんびりしているせいか、はたまたそういう地道な作業とは相性がよかったのか。
 中学生の頃は土器修復体験もさせてもらったほどの情熱はもっている。
 調査される予定地はまだまだ多くあり、ほとんど手つかずの大地には時折、気まぐれのようにぽつんぽつんと建物が立っているが、それは民家で、遺跡があると知れる前に建ててしまったもので、これはどうしようもない。

 そんな事情のため都市開発なんてまったく進んでいない。
 田舎といわれればそうだが、広い土地に、わりとのんびりした雰囲気が自分の住んでいる土地の良さなのだと思っている。

一度家に戻って支度をすることにした。
土埃で汚れる可能性もあるので汚れてもいいシャツとズボン。動きやすさを重視してスニーカー。
 あと、他の人にちとてんと保護したロストナンバーを見られないためにも保護用手提げ鞄を用意した。
「へばりついている、のよね……」
 だったら水くらいは用意しておいたほうがいいのかしら。けど、何を食べるかはわからないし。
 少し悩みつつ、水だけはペットボトルのなかにいれておいた。
 そしてちとてんをいれようとすると、金平糖の袋を手にもって立っている。
「はいはい」
 ちとてんをふわふわの揺れる尻尾をむにゅりと二度ほど指でつまんで感触を楽しんだあと、一緒に金平糖もいれてあげた。
「よし、準備はいいわね」
 手提げ鞄を右肩にかけて歩き出す。
 手提げ鞄のなかでちとてんはすることもいないので、かりかりかりと小さな音をたてて、甘い金平糖を食べて寛いだ。

 この辺り、と教えられてやってきた遺跡調査場の近くは、次の調査対象らしく、咲夜の身長よりもうんと大きな鉄の塀にぐるりっと周囲を覆っている。これは風によって土が周囲に飛んだり、荒らされたり、また遺跡泥棒を防ぐためのものだ。
 咲夜は慣れたように、その塀に沿って歩き、作業員用のドアを見つけるとそっと開けて中を覗き込む。
まだ調査ははじまっていないので誰もいないが、下準備は完了しているらしく、ところどころ大きな深い穴が開いている。
咲夜はさっそく保護対象を探すことにした。
 道にへばりついている……
 なんとも面白い表現だが、本当にへばりついているのだろうか?
 前かがみの態勢で咲夜はきょろきょろと首を動かし、地面を見つめる。
 ――穴のなかに落ちていたりしないといいけれど。
もし、穴のなかに落ちたら探すのも大変だが、どうやって拾いあげようか……
「うーん、いないわね。……ちとてん、あなたも手伝って」
 声をかけると、もぞもぞもぞと、ちとてんが手提げ鞄から顔だけ出してきた。
 一人と一匹はへばりついているはずの保護すべきロストナンバーを探すが、まったくそれらしい影はない。

「いないわね。へばりついている人」
 あれ、そういえば人とはいわれてはいない。
 小さいというので、小人をイメージしてしまったが、いろいろな世界からやってくる異世界の者には人とは違う者も多い。
 もしかして、もこもこの獣さんかもしれない。だったらとっても嬉しいのに。
 咲夜はそんなことを考えていると、それが目にとまった。
 ――あ
 ――カラッカラ……になりかけた

 黄色くて、長くて、さっきぽには緑色のへたがついている。
 見事だ。
 もし、こんなにも無駄にかつ美しく皮をむいだ人がいたら、それはある意味称賛に値する。
 咲夜は無駄に感動して、それを見下ろしていた。

 地面にへばりついた、それはそれはきれいなみかんの皮(中身だけおいしく食べられてしまった)――へたつき。

「……みかんの皮よね、これ」
何日も放置したのだろう、土に汚れてしまい、しおしおに干からびて、なんとも残念なことになっている。
 作業員が昼のデザートに中見だけ食べて捨てました、にしかみえない。
 それとも、まさか、これが?
 困惑したまま、目を瞬かせる。
 よく見れば、――ちょっとふっくらしている、ように見える。

 干からびたかわいそうな中見だけ食べられちゃったみかんの皮の前に近づいて、屈みこむ。
ただのゴミだったら持って帰ればいいのだし。
 そっと咲夜は手を伸ばして、へたの近くを指でつまんで持ち上げる。
「あっ」
 やはりただのみかんの皮ではない。ちゃんと顔があった。
 萎れたみかんの皮にしか見えないそれが、ぴくっと動き、目をカッと開けた。
「無礼なのだー! 我はみかんどらごん、首をもつなー!」
「蜜柑の皮がしゃべった!」
 じたばたと体をうねうねさせるそれに、咲夜は眼玉が零れ落ちてしまうくらい見開いた。保護対象と思っていたが、やはりしゃべりだすとびっくりする。
「みかんではない、みかんどらごんなのだー! うやまえーなのだ!」
 咲夜の手から逃れないと判断すると、みかんの皮――いや、みかんどらごんははぁはぁと荒い息で胸を逸らして言い返してきた。
 首根っこ掴まれて、つるしあげられている……という状況下にかかわらず、このみかんどらごんのプライドはエベレストよりも高いようだ。
「けど、みかんじゃないの」
「みかんどらごんなのだー!」
 それってただみかんにどらごんという言葉がついただけじゃないの? とつっこむのはさすがに野暮か。
「えーと……」
「ふん、我がみかんどらごんのいだいさにおそれをなして声もないのだな! えっへんなのだー!」
 どう聞いてもドラゴンという単語はカナではなくて、ひらがなの『どらごん』に脳内で変換されてしまう。
「ええっと、あたしのお話を聞いてくれる?」
「我に話なんかないのだー! そろそろ離せーなのだ!」
 ぷりぷりと怒ってくねりくねりと動くみかんの皮――いや、みかんどらごん。確かに猫の子ように首根っこを掴んで吊るしたままは失礼だろうと、咲夜は両手にみかんどらごんを包むように持ち直した。
「はじめまして。あたしは、月見里咲夜というの。よろしく、あなたは?」
「我か? 我はいだいなみかんどらごんのガン・ミーだ!」
 えっへんと聞こえてきそうなほどに胸を逸らしてみかんの皮、いや、みかんどらごんのガン・ミーがえばってみせる。
「よろしく。ガン・ミー。あたし、とっても大切なお話があるのだけど、聞いてもらえない?」
「むぅ。……我はかんだいなので、聞いてやるのだー! ありがたく思えー!」
「ええ、ありがとう。さすが、偉大なみかんどらごんだけはあるわ」
 にこりと咲夜は微笑むと、みかんどらごんはそっぽ向いた。
「……わ、わかればいいのだ!」
 わりとおだてに弱いらしい。

 そんなこんなで咲夜はガン・ミーに事情を説明した。自分の陥った状況にガン・ミーは少しだけ戸惑ったようだが、保護されることには承諾してくれた。
「じゃあ、見つかるといけないから、鞄のなかにはいっていてね」
「わかったなのだー! 言うことを聞いてやるのだ! ありがたく思えなのだー!」
「ええ。じゃあ、しばらく、このなかにいてね」
 ガン・ミーは大人しく咲夜の用意した保護用の手提げ鞄のなかへとはいった。
「ふん。なかなかに居心地がよさそなのだー! ……ん?」
 かりかりかり。――ひまを持て余したちとてんが金平糖を食べている姿に、ぐぅ、きゅるるるると腹が鳴った。
 ガン・ミーは自分がものすごくおなかがすいていることを思い出した。
 ぐぅ、きゅるるる。――ああ、我の腹のどらごんもあばれているなのだー!
 咲夜には強がったが、この世界にきてから何も食べていないのだ。それも目の前でおいしそうなものを食べるとは、挑発しているとしか思えない。
 ごっくん。唾を飲む。
 ――いまこそ、みかんどらごんのほんとうの実力をみせてやるのだ!
ガン・ミーはちとてんを睨みつける。
「お腹すいたのだー。それをよこせー、狐」
 ちとてんは目をぱちぱちさせるが、気にせずもぐもぐと金平糖を食べている。
 無視されてむかっ。
――こ、こんな狐ごときに侮辱されるわけにはいかない。みかんどらごんのプライドにかけてゆるさないのだ!
 どう考えても、それはただのカツアゲで、誇り高いみかんどらごんがしていい行動なのかということはひとまず棚の上においておいた。むしろ、空腹は限界に達して理性吹っ飛んでいた。唯一、ガン・ミーをガン・ミーとしているのはそれはみかんどらごんの誇りの一点のみである。
 いまこそ、みかんどらごんらしい実力をもって、食べ物を貢がせるのだ!
 いざ――!
「よこせといったら、よこせー!」
 きりっとした顔でにじり寄る。
 その姿はもはやプライドなんてないただの駄々っ子そのものだ。
 ちとてんはその様子をきょとんとした眼で見つめたあと、黙ってペットボトルのふたをあけて、そっと差し出してきた。
「食べ物が欲しいのだー! お前は我のいだいさがわからないのか? ばかなのか? 狐!」
 そういいながらも喉もすごく乾いていたのに受け取って一気にごくごくごくごくと飲んで文句を垂れ流す。
「ふっはぁー! 飲んだのだー! 食べ物をよこせーなのだー!」
 水を飲み終えたガン・ミーにちとてんは金平糖を袋から取り出してようやく差し出してきたのに、ガン・ミーは飛び上がるほどに嬉しかった。
が、
「よし、ようやく理解したのかなのだー。これでよいのだー」
プライド高いみかんどらごんとしては厳かに受け取って、口を大きくあけると、がぶりっと噛みつく。
 かりかりかり。
「……甘いのだー!」
 きりっとガン・ミーは険しい顔を作る。
「もっと寄こすのだ―。食べてやるのだー!」
 大変、気に入ったらしい。

クリエイターコメント オファー、ありがとうございました。

 今回は保護のお仕事、お疲れ様です。
 みかんどらごん、いいですね、萌え……はっ! うふふふ。

 また、ご縁がありましたら。そのときあなたが優しい旅人であるように、そして、新たな旅人が誇り高いみかんどらごんであるように!
公開日時2011-04-28(木) 22:10

 

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