――上空から1つの戦場が見える、しかし其処には動物は居ない 動物の形を模った「何か」がお互いの戦力を削りあっている 一方は銃弾や雷撃を用いる、銀色で出来た動物に似た「機械」 もう一方は数や触手を駆使する、数多の動物で出来た「厄災」 そんな中、戦場ではない、しかし近い場所で大きな音が鳴った 「機械」は全く動じない。只目の前の「厄災」へと銃口を向け 「厄災」は一部だけが気付いて、誘われる様に戦線を離れる 「機械」はまた廃墟が老朽化と腐食で崩れ落ちたと判断した 「厄災」はまだ取り残した動物が居るかと勘違いしたようだ だが廃墟は崩れたのでは無い、内側から壊されたのだから 取り残した動物は居ない、既に彼らが「回収」したのだから ではその正解は?――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――「トレインウォーに参加された皆サンはお疲れ様でシタ。こうして戻ってきて下さって本当に嬉しいデス」 そう言い集まったロストナンバー達に頭を下げるのはロイシュ・ノイエン。日付はロストレイル8号が帰還してから間も無い頃、そして彼らの居る場所は世界図書館の館内である。「ですが皆さんの知っている通り、今回12名のロストナンバーサン達が『タグブレイク』と言う謎の現象によって別々の世界に飛ばされてしまいまシタ。 幸いロストナンバーサン達は全員無事でして、今回皆サンにはその内の1人『ワーブ・シートン』サンが到着する『近い終焉・カンペゼーション』に降り立ってもらい、ワーブサンの捜索をしてもらうことになりマス」――12人全員が無事 世界司書から語られた事実に暫し参加者に安堵の表情が零れるが、それは僅かの時だけ。「ですがこの世界は『リムーバー』と呼ばれるロボットと、壱番世界でも見られる『ファージ』が争っている世界デス。そのファージもワーブサンが出現した際に、起きた爆発音に釣られてワーブサンを捜しに来マス」 次に現れた危険な言葉に、殆どの参加者の表情が強張る。 ファージと言えば世界図書館の認める最も危険性の高い存在であり、今もコンダクターの故郷である壱番世界で猛威を振るう存在だと誰もが知る所であるからだ。「皆サンはワーブサンと同時にカンペゼーションへ到着しますが、現在街の近くで戦闘をしているファージとリムーバーサン達との戦闘を避ける為、ワーブサンの居る『サヴァーブ放送局』から走って10分程の街外れ場所に降り立つことになりマス。建物は入り口にある看板とチケットの効果で判断出来マスヨ。」 挨拶でずれた帽子など気にせず、導きの書と作ったメモ帳を見比べながら、「建物は11階建てで、表面が白いガラス張りの円錐型の建物デス。階層は判りませんでしたが窓の無い部屋で周囲には演出用でショウカ? 偽物の木々や看板が見えますから何かの倉庫かもしれまセン。 1個だけの扉は出現した衝撃で開いて、更に廊下側のガラスが衝撃で散乱していますから、手段としては大道具で蓋をして篭城もできますし、判断としては割れたガラスで場所がある程度特定可能だと思いマス」 彼は少しずつ、しかし確実に読めた情報を提供して行く。「ワーブサンを追う最初のファージは20体。内2体は歩く3mのウツボカズラで、残りはカブトガニに似た30cmの大きさデス。それぞれ聴覚と触角で生き物を探して、触手化した複数のツルと尻尾で麻痺させようとするので注意してくだサイネ。 特にカブトガニさんは複数で襲う上に、生き物を見つけると音を出して仲間を呼び寄せる事がデキマス。更に時間を追う毎に種々のファージは増加しマスので戦うよりは逃げた方が安全デショウ」 此処まで言い切った後一呼吸、一層緊張した面持ちでロストナンバーへと顔を向ける。「そして最後に、絶対に忘れないで欲しいのは、この街は『世界に到着してから3時間後』に爆破されマス。 今回リムーバーサン達は今戦っているファージをこの街に追い立て、爆破する事によってファージを押しつぶそうとしているカラデス。 アト、こちらは世界図書館としてのお願いで、新しく発見したこの世界を知る為ニ少しでもイイので放送局で情報を収集して欲しいデス。幸い場所が情報を扱う場所なので見つけやすいと思いますガ、もし難しいなら収集は諦めて全員で帰って来て下サイネ」 誰かが欠けるのは一番嫌デスカラと、ほんの少し表情を曇らせるが、直ぐに真摯な表情へと戻り、既に真理数の刻まれたチケットを参加者へと差し出す。「これから行く場所は初めての場所デ、ファージの出る本当に危険な場所デス。だから無茶だけはしないヨウに気をつけて、必ず全員で戻って来て下サイネ」=========<重要な連絡>「ワーブ・シートン(chan1809)」さんは、このシナリオに参加しなくてもノベルなどに登場します。プレイング締め切り日時までに、NPC「エミリエ・ミイ」宛のメールという形式で、600字以内のプレイングにあたるものをお送りいただけましたら、それをもってこのシナリオのプレイングとして扱います。このメールの送信がなかった場合、「救出後すぐにロストレイルに収容され、調査には参加しなかった」ことになります。エミリエ宛のメールはこのURLから!https://tsukumogami.net/rasen/player/mex?pcid=cttd4156※ 強制転移したロストナンバーの方は「世界図書館のチケットによって移動していない」ため、「現地の言葉を話せません」。この点のみ、ご注意下さい。=========
―――3:00 ワーブ・シートンは複数の変化に気付いた 「あれ?ここはどこ??」 1つ目は此処がロストレイルの車内ではない扉しかない部屋で 「ん??」 2つ目はこの部屋には自分しか居らず 「本物の木じゃないのかぁ」 3つ目は周囲に傍目では樹よく似た大道具があり 「………!?」 4つ目は遠くの音が銃声に似た音であり 「なんなんだ、あれはぁ~!!」 そして銃声を聴く為に部屋の外へ出た所で 此処は自分が見た事も、聞いた事も無い世界だという事に気づいた ―――2:55 「せめてあと1時間の時間が追加されていれば、何かしら出来そうなのに」 そう呟いたのはディブロ。今回「セカンドディアスポラ」と言う現象によって別の世界に飛ばされたワーブ・シートンを捜索する為に集まったメンバーの1人である。 呟いた発言の原因に、今回の作戦がある事情により、ワーブの発見と同時に新しく発見された世界「近い終焉・カンペゼーション」の捜索時間が大幅に制限されていた。 「しかし、ファージ駆除とはいえ街一つを爆破ってのはな。近い終焉……名前通り、世界は終わりに近づいているのか?」 世刻未・大介が言う様に、この世界にもファージが存在する。そしてこの世界ではファージが支配者の如く表立って闊歩し、それに対抗するようにリムーバーと言うロボットが未だ戦い続けているのがこの世界だ。 「義弟ワーブ、どこに行った? 心配かけやがって。俺は、お前を探すために、わざわざ参加したのだぞ」 街の外で響き続ける爆音を、その聴力によってより身近に感じつつ、ロボ・シートン歩調を皆に合わせつつも足早に、巨躯の狼は目的地へと向かう。 「ほな、今回の作戦をおさらいしよか」 そんな義兄弟を気遣うロボの様子により救出成功への意思を堅くしながら、相良・空牙は再び作戦を確認する。 今回の作戦は大介の案を基調とした、救出班と情報収集班に分かれてそれぞれ捜索するものだ。 「ワーブは恐らくは撮影所……ま、そっちは救出班に任せて、俺は六階までを重点的に調べよう」 1~6階の事務所を大介と空牙が、 「ワーブの匂いは、俺はわかる。長い付き合いだからな。」 7~11階の撮影所をロボとディブロが、それぞれこの世界の情報とワーブの捜索を行う。 途中一定時間が経過するか、ワーブを発見次第合流し、爆発前に今回の捜索場所である「サヴァーヴ情報局」のヘリポートに呼び寄せたロストレイルに乗って帰還する手筈だ。途中で何かあればトラベラーズノートでお互い連絡し、情報交換も行なう予定だ。 目の前に玉子を細長くしたような白い円錐状の建物が見える。 未だ看板は見えないが、この辺りで10階以上ある建物はあの建物以外見当たらないから、恐らくあれが情報局なのだろう。 「コソコソするのは苦手だが、時間は限られてる以上、急がないといけないな」 大介の言葉の通りに、全員が急ぎ建物へと向かった。 ―――1:50 「見事に通路を塞いでいますね」 ディブロが現状況を最小限で語った感想、因みに二度目 そしてその言葉の通り、通路が見事にファージで塞がれていた 解説にすると現在救出班が居るのは5階と6階を繋ぐスロープ。この建物には階段は無く、各階2箇所ずつ緩やかなスロープで各階を繋いでいる。その通路を命一杯塞ぎながら彼らの前を進んでいる、巨大な緑青色の巨体が世界司書の言っていたウツボカズラ型のファージだろう。 因みに2度目と言った通り、ディブロ達は先程4階付近のスロープで同じファージを見掛けている。そして現在同じ状況に出会ったという事は、現在このファージ達は同速度かつ同方向で上に上っている事になる。 「詰まっているわけではないですね」 「そうだな、少しずつだが、進んでいる」 「どうしますか? このままだと時間もかかりますし、先にワーブさんを見つけられそうですね」 どこかのんびりとした口調でディブロは語っているが実際は早急に解決すべき問題である。現在この状況になって10分以上経過し、ワーブの捜索時間も、各階の情報収集時間もこうして削られているのだ。 勿論、ファージそのものの殲滅は既に最初の4階で試した。結果は予想以上に硬い皮膚に苦戦しながらも、前進用に触手を全て前に出されたことが幸いし倒す事が出来たが…… 「しかし、ここで通路を、完全にふさがれたらまずい」 巨大な死骸が丁度好く通路にはまり、通路を1本塞ぐ結果になってしまった。そして二度と同じ失態を犯さぬ様、今度は隠密行動を重視し、機会を窺っていた。 「6階に着いたようです」 鈍足の巨体と、その巨体で影になった壁面との隙間から灰白色の壁色が見え始め、ファージが6階に到着したと2人は知る。 「さて、どうしましょうか?」 後から来る二人の為にも、今度こそ道を封鎖させずに通過しなければいけない。ディブロは囮として自分の仮初めの肉体を使おうかとも考えていたが…… 「なら今度は、奴らをまこう」 そんな状況の中、ロボは名乗りを上げた。 「シリウスの牙。“祖”の力で、加速を得る。持久力なら、お手の物だ。奴らをまく」 どうやって、と言いたげに小首を傾げたディブロへ端的に説明、前のファージに気付かれない為に叫ぶことはせず、4本の牙に淡い光を薄く纏わせた瞬間。 彼は音も無く消えた ディブロが振り向く頃には既に隙間を抜ける。そして一間遅れて野太い獣のような遠吠えが響く。 振り向けば件のファージの表情が見て取れる。なるほど、図鑑を知っていればその形は正にウツボカズラだ。しかしその大きさは既に本来のサイズを超え、蓋の変わりにびっしりと口周りに生えた牙のような物が、さらに凶暴な風格を彩る。 「さぁ、付いて来い!」 闘士はわざと声を上げ、ファージは愚直に触手達を揮う 電柱並みの太い触手がしなる中、ある時は垂直に飛び越え、またある時は僅かなステップで最小限に避けながら、時折けど離れ過ぎず近過ぎず、惹き付けながら廊下を進む。 ロボの視覚に、ファージの後ろで萌黄色のマントが映る。ファージの影で完全には見えずとも、ファージがスロープから離れ、人が通れるサイズだけの道が開けたのだと判断した。 「では、また会おう」 一転して逃げの一手を採る。今まで惹き付けていた時よりも格段に速い速度でファージからどんどん離れて行く。 逃さんと言わんばかりに長い触手が伸びる。しかし闘士は後ろを見ずに悠々とかわして行く。 「!?」 突然正面から来た何かが真横を掠めた。しかしそれは当たらず、くぐもったファージの声からファージに当たったのだと判断できた。 「お疲れ様でした」 7階入り口でディブロが待っていた、そして彼の硝子球が1つ少ない事から、恐らく先程の何かは彼のトラベルギアだろう 「援護感謝だ」 「ええ。そして今度は通り過ぎるまで待ちましょう。先ほどのファージは近くに来ても反応しませんでしたし、どこかの部屋に隠れれば見つからないと思います」 「そうだな」 挨拶もそこそこに、2人は次の案を練る。次はワーブと行動する為にも、もう少し安全策を考える必要があるからだ。 「大道具があるというところから、撮影に使う機材を収める場所でしょうか、ならば、上の階層のどこかだと思います。場合によってはそこの部屋に隠れることも出来るかもしれません」 「匂いは後1、2階上から漂っているからな、その部屋はもう直ぐだ」 ―――2:20 (住民は随分前に避難したみたいだな) 机に被ったほこりを払いながら、大介はそう結論付けた。 現在3階、壱番世界で言えばオフィス風の部屋に居る。現在空牙とは別行動を採り、1つ上の階を空牙が捜索している。 恐らく人が居た頃にはここで外からの情報を集め、原稿を作成し、雑務をこなす等の作業をしていたと思われるが、今は机と、僅かな原稿以外は残っていない。 (ここまで慌てた様子も無く、ほとんど荷物を残さず退去した様子から、恐らく随分前から避難勧告が出ていたのか) ――12・55・42・03・01 この文字盤はこの世界の時計のようだ。見た目はゴムのように弾性がある透明なボールで、中では液晶のように数字が浮かんでいる。乾電池等の蓋やボタンは見つからないが、並んだ文字列や太陽の向きから、恐らく前2つが時刻で、残りの3つの数字が年号か何かを表しているのかもしれない、これも先程見つけたナップザックに入れる。 他にも紙じゃない素材で出来た用紙に、携帯電話サイズの情報端末と思しきファイルなど、どれも壱番世界には無い素材のものが多い、しかしこんなに技術があっても…… そう思いながらも大介は次の引き出しを開く。僅かに残った紙面を引き出し、読みながら、少し顔をしかめて、一部を袋に仕舞い、また引き出しを開ける。 ファージについての情報は思った以上に芳しくない。ファージが最近になって突発的に増殖したのか、それともこの世界の常識になる程身近な存在なのか、どちらかは判らないがあまり詳細な情報が見当たらないのだ。 時折ファージ関連らしきものを見るが、この世界ではファージ災害クラスの害獣で、日々ファージの出現予報が報道されていたと、推測されるものが殆どだった 突然足を止め、ロッカーに隠れるようにその場に立つ 足音の無くなった部屋に、かさかさと虫が這うような音だけが響く かさかさ、かさかさ、かさかさ、かさかさ、……… 数は複数、詳細は不明。緩慢に、しかし音を出さないように首を僅かに傾けると甲虫の装甲が少しだけ見えた。 かさかさ、かさかさ、かさか……、かさ………… 気づかれなかったようだ。見付らなかった事に安堵しつつ、足音を立てずに、彼は部屋を後にした。 ―――1:55 「設備がいくら近代化しとっても、やっぱここには人がぎょうさんおったんやなぁ」 現在4階、これは一通りこの階を散策してからつぶやいた感想。 ここは食堂を中心にした、撮影所スタッフの共同スペースのようだ。大食堂が1番広く、他に入浴場、シャワールーム、ロッカールームに似た部屋がいくつもあった。 彼も先程の大介同様、めぼしい情報材料を収集しているが、何かのマスコットグッズや雑誌等、こちらは事務的なものより趣向的なものが多い模様。 現在空牙はロッカールームを調べ始める。 1つ1つ丁重に品物を物色する姿は、衣装と相まって盗賊姿が様になっている。ただし本人はこの衣装をヒーロー風と考えているので、決して盗賊と言わないように。 「こっちは青色なんや」 次に見つけたのは一枚の写真だ。壱番世界の一般家族のような親子写真に見える。しかし壱番世界の人類との相違点は、肌の色がありえない色をしているのだ。 この家族は肌の色が見事なまでに紺色だ。1階で見たポスターの美女は紅色だったり、見事な金色の肌の人間等、中間色の肌が居ない。それ以外は尻尾があるとか耳がとがっている事などはないのでまだ親しみ易いが、決して奇異ではないとは言えない。しかし…… 「……幸せやったんかなぁ」 父親と思しき男性にしがみつく子供の姿が、切に無事に居てほしいと願わずにはいられなかった。 「!!?」 体が強張る。明らかに何かが這う音が聞こえた為だ。 左手でフェルに待てと示し、動かぬ様なだめる。そしてフェルの尻尾の火に砲丸にも似た小さな花火玉に火を点し、間を置かずに投擲。 導火線の音にも敏感に反応して、数匹が花火へと群がる。 蟲が沸くような様子に、悲鳴にも似た声が出そうになる。それでも声を押さえて、決して見つからないように、必死に爆発を待って…… 「……!」 パンッと軽い爆発音が響き、僅かな爆風に1匹が軽く宙に浮く 慌てたようにファージが周囲を走り回り、そして「盛大に鳴いた」 反射的に1人と1匹は駆け出す。火薬を抑えたのが裏目に出た、撹乱用に火力を抑えたお陰で決定的な傷を付けれず、その刺激によってファージが警戒の為に泣き出す事になったのだ。 不幸中の幸いに今回は退路と反対側に投擲し距離を稼ぎ、逃走の都度、他の花火を点火することで撹乱が効いた。しかし 「うぉっ」 視界が揺れる、左脚が腫れたように重くなる。 フェルが火の玉を脚にぶつけた、しかし熱さは無く、僅かに、甲高い音が聞こえるのみ。あぁ、これが例の麻痺かと思いながらぐらつく視界の中…… 「………………めろ」 近くの虫音が途切れた、そして誰かに体を持ち上げられる。 「無事か?」 「な………」 相手は大介だ。先程、下の階から上がってきた模様だ。 「立てないなら暫く一緒に行動をするぞ」 「………すいまへん」 助かった、と心の中で思いながらも、結果的に迷惑をかけてしまった事実に対する申し訳なさと、悔しさを感じながら、空牙は暫く大介の世話になった。 ―――1:40 「おいらに、隠れるところ……しょうがない。バリケードで、積み上げるまでだな」 現在9階の第3倉庫、ワーブはそこでロボたち救出班の到着を待っていた。 遭難から数分後、空牙のメールから現在自分の状況や世界の様子を共有し、味方からの指示でこうしてこの倉庫内に待機していた。 まずは隠れる為の小さな穴倉を作る。扉や廊下は、敵と同時に味方の進路妨害をしかねない為、今回は室内のみの作成だ。材料は倉庫の為不足等無く、完成し、今は穴倉の中で隠れていた。 「おいら、何で、こんなところに来ちゃったのかなぁ??」 思わず内の言葉が声に出る。 彼は自分に体当たりしてきたカンターダの兵士に起こった、タグブレイクと言う現象でこの世界に飛ばされた。それが他のロストナンバーにも発生し、特に法則も無く各世界に飛ばされたようだ。 意味等無い、ただ、偶然ここに、偶々自分が、あのディアスポラ現象の時と同じようにここにやって来た。 (……ひどい世界だなぁ) 窓から見た景色に、生命の息吹等感じられない 過去に元居た世界で、極寒の大地で極限状態での生活を余儀なくされた事が有った。しかし氷上にはペンギン等の生物が存在し、海に出れば魚を採る事も出来た。時折同じ熊と戦う事も有ったが、何とか生き残る事が出来た場所だった。 しかしここには生き物は居ない、街中ゆえに植物も見えず、段々と大きくなるファージとリムーバーの戦闘音が「助かる」と信じていても、1人で居る今は心許ない話だった。 …………………ぞく 悪寒がする、今までの湿った気持ちが一気に冷える 直ぐに感情を全て殺して神経を張り巡らす あぁ、間違いない、情報によく似た音が聞こえる ポラリスの爪が光る、硬いものを裂いた感触がする、けど音は止まない。ワーブは更に潜め、熱感知を避ける為に穴倉に隠れながら、次の獲物を見極めようとする。 2度目の感触、今度は少し柔らかい。ファージはこんなものだったのか? 拍子抜けしそうだ。 しかし音は止まない、それよりも音がどんどん大きくなっている、もしかしたら件のウツボカズラか…… ワーブは穴倉から飛び出した。そして手短にあった樹のセットを掴み、部屋を飛び出し、 「来るな!!」 投擲。槍投げの要領で投げられたセットは弧を描いて…………盛大な着地音と共に盛大な悲鳴があがる。 …………悲鳴? 「ワーブ、ここにいたのか。探したぞ。」 「ロボの兄貴、来てくれたんだね??」 待ちわびた義兄弟の到着、見え始めた「助かる」と言う実感に、思わず野性の顔を棄て抱きつくワーブ、先程の足元の一部は救出班のものだった模様。 「たすかった……ありがとう。あいつら、何なんだよぉ。」 「喜んでいるところ申し訳ありませんが、ワーブさん、この近くにあなたの隠れていた場所はありますか?」 「……え? おいらのいた??」 義兄弟との再会を喜んでいる中、ディブロからの質問に目を白黒するワーブ。 「実は先程飛んできた物体に反応して、ウツボカズラ型のファージがこちらに凄い速さで来ているようです。回り道するのは距離的に不可能なので、ロボさんのいた部屋に入ってやり過ごしたいと思うのです」 言われて耳を澄ませば、先程から、そして確実に大きくなる巨体を擦る音が聞こえる。少し足早になっているのは絶対耳の所為では無い。 その後暫くファージを巻くまであの部屋で数十分を過ごすが、その間にロボから先程の投擲について、しっかり叱られる事になった。 ―――1:00 現在8階の廊下側、「放送室」の前、居るのは空牙1人だ。 既にファージの麻痺は殆ど取れ、1人で行動出来るまでに回復している。特に後遺症も無い事からあの毒は殺す為では無く、獲物を無傷で捕獲する為の毒だったのだろう。 「……こっちにもぎょうさんファージが来とるなぁ」 望遠鏡から見える景色には、街の外で銃を撃つ銀色の機械が見える。機械と言っても何処か肖ったのか、仕組みを組み込んでいるのか少し動物のフォルムに近いようなものが多い。恐らくアレがファージと敵対するリムーバーなのだろう。 そして望遠鏡が無くとも、街中には生き物に似た、でも何処か節が多い、触手が生えた、何かがおかしい、生き物が歩いている。 「ふぅ、ただいまなんだなぁ」 「お、ワーブさん。お帰りなさい」 戻ってきたワーブに挨拶を返す。どうやら7階までのバリケードが全て出来たようだ。空牙達も先程まで少しずつバリケードを作ってきたが、持ち前の怪力と作業に強いトラベルギアがあるワーブがやると、空牙達の倍以上の早さで済んでしまう。 残りの3人は「放送室」に居る。これまで大介達が集めた情報末端を再生する機器を探しているようだ。 「あれ? ぜんぶファージなんだなぁ」 「そうやと思います。ここは生き物がおらんそうやから、動くのは全部そうやと」 「ファージは、ほうっておきたくないけど、今回はどうしようもないんだよなぁ」 本来ロストナンバーとして、彼らを頬っておく事など出来るわけが無い。しかし倒すには数が多過ぎる。ましてやあのファージに一斉に襲われると考えれば、むしろ背筋が凍ってしまいそうだ。 そんな使命をこなせないもどかしさと、数の暴力に似た原始的な恐怖が2人の間に流れた頃 「この世界、何があったのかなぁ??」 そんな凄惨な世界にワーブが素朴な疑問を投げ掛けた時 「ん? なんや?」 空牙は不思議な事に気づいた。 ファージの一群が下に沈む――否、何処かの地下へと潜っているようだ 「……これやばいんちゃう」 この街がどう爆発されるかは知らないが、もし地下に避難しているのなら、あのファージは………… 「おい、2人とも。こっちへ来てくれ」 突然大介が呼びだした。その様子にただならぬ様子を感じた2人は、空牙は先程の言葉を抑えつつ、急いで放送室に入っていった。 ―――0:55 『現在避難準備中の皆様へ、政府からのお知らせです。4832年、7月16日に、モンデル駅において最終避難が行なわれます。ランバル地方で未だ避難の済んでいない方は、至急7月15日までに……』 現在8階の「放送室」に全員が集まっている。 更なる情報媒体と再生機を探していた3人は、発見した発電機によって電力を取り戻した部屋一番のスクリーンに、スーツにも似た衣装に包んだ女性が記事を読み上げる映像が映っている。ワーブは残念ながらチケットを持っていない為内容は解らなかったが…… 「少なくとも10年近く前に住民は避難したのか」 見つけた時計を改めて大介は確認し、 「駅ってさっき下に下りてったあのファージらの行き先なんか?」 的中した予想に空牙が1人肝を冷やす。 「とにかくこの、情報端末は持ち帰らないとな。これ以上、探す場所はあるか?」 器用に前足でボタンを操作しながら、先程の映像端末をロボは取り出し、 「特に探す場所もしらみつぶしに探しましたから、そろそろ去る方が安全でしょう」 ディブロが資料用と個人用の2種類に仕分けたザックを片方ずつ背負い込む。 「ロボの兄貴、もう下はふさぐ場所は無くなったよ」 確認するように、下の状態をワーブが報告した後、 「よし、それじゃあ出発するぞ。今何が起こるか、分からないからな」 大介に情報端末を渡して、ロボは帰還を宣言した。 ―――0:40 今回の最大の成功点は「建物の入り口を封鎖した事」だ。 ディブロのこの案によって、ワーブを中心に行なった行動は、僅かな隙間を縫って入っていく小動物サイズのファージ以外、建物への侵入を阻止した為ある程度の危険度は下がった。 対して今回の最大の失敗点は「可能な限り敵との戦闘を避けた事」だ。 これは捜索で消耗を抑える為には最も効率が好いが、欠点として「ファージを生かす事」になる。それは「ファージ同士の合流」を促し、「予期せぬ場所への出現」の可能性を残す事になった。それこそが…… 「今度は完全に塞がれましたね」 しかも唯一の出入り口をだ。 「わおぉお~~~~~ん!!」 場の空気を震わす遠吠えを上げながら、再びシリウスの牙を、しかし先程とは違う光を纏わせてロボは突進する。 狙いは緑青色の壁、巨大ファージの破れなかった肉壁を、今度こそ食い破らんと齧り付く。 「ヴォオオオオ!!」 負けじと義兄弟のワーブも吠え、同じく極限まで高めたポラリスの爪で、僅かに開いた傷を掴み引き千切らんとし、フェルが火の玉を、空牙が篭手から創り出した火炎銃で壁を焼き切ろうと試みる。 「何分かかる?」 「分かりませんね、最初の時には結局切り開くことができませんでしたので」 答えるディブロは人型ではない。仮初めの肉体を隅に横たえ、球を刃に変化させた愚蛇の庵を携えながら、遠隔操作で3人のサポートと、新たに持ち込んだ廃材で、新しいバリケードを作る。 そしてその回答で更に事の重さを感じながら、何度目か判らない『刹那』を発動させ、音を立てて触手が落ちる。ウツボカズラ型はまだ動いており、しかもくの字に折れ曲がってはまっている為に、触手が殆ど動けるのだ。その触手に味方が捕まらないよう、2人は尽力を尽くす。 しかしそんな状態から既に10分、未だファージは倒れない。 後10分程でファージ自体の命は尽きるらしい。しかし挟まった肉壁が貫通する目処は立っていない。 焦りは言わずとも募る。何時開通するのか分からなければ、虫型のファージが何時隙間から侵入するのか、……自分達は爆発に巻き込まれるのか、気が気でならない。そしてその気持ちが一番強いのは、 (……足、もしかして引っ張っとうのかな) 空牙であった 彼はこのメンバーで唯一のコンダクターであり、今回の依頼が始めてである。自身の実力を憂い、先程起こしてしまった失態を取り返そうとがむしゃらに炎を打ち込んでいた。 しかし壁は壊れない、植物は火に弱いはずなのに、焦げ目がついても、皮膚自体が剥がれる事は無く、心が折れそうになる。 (……何かあるはずや。諦めたらあかん) でも諦める事は出来ない。ここで諦めれば、今頑張っているロボとワーブが、サポートをしてくれる大介やディブロに迷惑をかける。そして何よりも、 (せっかく兄弟が再開できたんや、諦めるなんて出来ひん) 頭を振って暗い気持ちを払う。そしてふと下を見た時に、 「おっ?」 ほんの僅かだが、肉壁が少し剥がれていた。 そこは最初始めて見たファージに驚き、左の凍化銃で撃ち込んでいた場所だ、そこは足元に近い為あまり火の銃は打ち込んでいなかったから、少ない数で剥がれた事になる。 (同時に撃つんがええんか?) あまり得策とは思えないが、でも実際これは結果が結果を出しているならば…… ―――0:10 全員がファージの内側に居る。ファージの腹の中は動物特有のてらてらと光る皮膚に覆われているが、誰も文句は言わない。 まだ皮膚は1枚残っていた。最初にかかった時間を考えればよそ見する余裕は無い。しかしかかった時間を考えれば間に合わないはずの時間だ。 しかし、全員には悲壮感は無く、肉壁は、後はロボ達で引き剥がすまでに進んでいたのだ。 今度は空牙が隅に蹲っている。疲労困憊でフェルが触ってもピクリともしない、先程気づいた方法を用いて、気力限界までトラベルギアを使い続けたのだ。 彼の用いた方法は、科学的に言えば「細胞内凍結」に近い。急激な温度変化によって細胞内の水分が凍結し、細胞を構成する膜を破壊し、その細胞を殺す。更に炎によって強制的に細胞内の水分を蒸発させる事によって、最終的に細胞をフリーズドライのような脆い細胞に変えるのだ。 但し行うには理論上1箇所にに大量のエネルギーが必要で、広範囲には向かず、2枚目の扉では少し穴を開けた後で気力が尽きてしまった。 だが道は貫通した、一部を死骸で作ったロープで固定し、ロボとワーブが引っ張りながら、その周囲を大介とディブロがトラベルギアで少しずつだが突破口を切り開く。 そんな空牙が作った小さな出口は、外の光を通して眩しく感じる程に輝いていた。 ―――0:04 <カンペゼーション>発、0世界<ターミナル>行きの緊急列車は、 まもなくターミナル標準時15時に、<停車場>より発車します。 チケットをお持ちの方は、お乗り遅れのないようにお願いします。 「早く出せ! 追いつかれるぞ!!」 社内に流れるアナウンスに半ば怒鳴りながらも、ワーブを押しながらロボが乗り込む 次いで大介、フェル、肉体に戻ったディブロと抱えられた空牙が乗り込み、さらに数匹の小さいファージが乗り込んでから扉が閉まり、上昇し始める。 暫し車内は喧騒に包まれた。先程までと違い小動物サイズのファージの所為か、駆除に手間どうも、狩猟に長けたロボとワーブが捕獲し、ディブロ達が確実に止めを刺すまで暫しの時間が掛かった。 「……あぁ……ディラックの空に入ったようやな」 窓を見る余裕が出来た頃には、既にロストレイルはカンペゼーションを離れていた。 「おいら……助かったんだ」 やっと感じた達成に、ぺたりと尻餅をつきながらワーブが安堵の声を上げ、大介が体を預ける様に席に着く。既にカルペ・ディエムは柄だけになっていた。 「結局あの後の街の様子を見ることは無理でしたね」 結局彼らはサヴァーヴが爆発する瞬間は見る事は出来なかった しかし世界司書の予言が事実になるなら、もうあの町は無いのだろう。 ……情報収集の為に訪れた街、サヴァーヴは 10年前に人が消えた、この世界の廃墟の1つだ しかし情報を収集する内に、この街には過去があり 人が暮らしていて、生活を営み、文化を花開かせ そして、ファージによって滅ぼされた世界…… 「……世界の終わり……こうは、なりたくないものだ」 発したのはロボだが、それは今回参加した全てのロストナンバーの 世界へ最も願う言葉でもあった ―――近い終焉・カンペゼーション ファージによって死に絶えかけた世界 本当なら二度と来てはいけないこの世界に 世界図書館か、この世界の意思かは解らないが またこの世界をロストナンバーが訪れる事になるのは また直ぐ先のお話である 【END】
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