:import 導きの書 -> 「朱い月に見守られて」にpeer kilishima leoが転移する予定です。:message 図書館 -> タグブレイク現象の影響であると断定。:order_4_lostnumbers -> peer kilishima leoを救出してください。:sub_mission -> ロストナンバーの活動拠点を築いてください。 ->「朱い月に見守られて」の政治経済を調査してください。:warning -> UNKNOWN WORLD トレインウォーで行方不明となったコンダクターの桐島怜生が行方が判明した。 正確には桐島怜生の転移した世界が「朱い月に見守られて」であると導きの書に指し示されたのだ。この世界は今まで図書館には知られなかった世界であって詳細は不明ではあるが、世界番号から考えるとマイナス上層に属する世界である。 ともあれ、予言の顕れた導きの書の持ち主、宇治喜撰(ウチュウセン)241673がこの世界の担当となる運びとなった。 会議室に置かれたプロジェクタに、円筒状のウチュウセン……241673が接続され、スクリーンに作戦概要が投影される。† † † † † † † † † † † † † ぼくの名前はさつき、岐阜さつき、明階二級の資格を持つ神学者だ。誇り高い茶柴一門の出身で自由交易都市フォン・ブラウンで研究を続けている。 シュリニヴァーサとの待ち合わせ場所に急いでいるところだ。今朝は立派なひげが一本とれてね。ひげで耳かきしていたらつい時間を忘れちゃったんだ。そういうわけで急いでいる。 ごちゃごちゃした市街区画を抜け、バイクのモーターを一気に全開、『遺跡』に向かって回廊を駆け降りる。この辺は天井も高くて耳に当たる風がとても気持ちいい。 回廊を抜けて巨大な斜坑にたどり着くとそこはもう『遺跡』だ。ここの部分だけ、斜坑に幅があって階段状にプラットフォームが築かれている。その一番上のプラットフォームを見上げると、いつものようにシュリニヴァーサがニュートンの肩の上にちょこんと座っているのが見える。 スノーシュー一門のシュリニヴァーサは変わった猫で、猫族からも距離を置かれている猫族の中の猫族だ。茶柴一門のぼくは本当はそんな彼とつきあいがあってはいけなくて、ここでの研究はぼくとシュリニヴァーサだけの秘密だ。 シュリニヴァーサはぼくに気がつくとニュートンの肩の上から振り返ってしっぽを立てて揺すった。ぼくもしっぽを振って応える。そして、バイクをホップ、ステップ、ジャンプ、プラットフォームをシュリニヴァーサのところまで登っていった。「今日は鼻がむずむずします。なにか起きるんじゃないのかと思うのです」「そう? 今日こそ何か発見できたらいいね! あと、おはようシュリニヴァーサ」 この『遺跡』は巨大な斜坑で、古代の機械で壁が埋め尽くされている。ここが何のために作られたのかを解明するのがぼくらの研究課題だ。ぼくは神様が作ったんだと思うんだけど、シュリニヴァーサは犬族と猫族が共同で作ったのだと考えている。ちょっと信じられないけどね。 上の方はここからずっと斜め上の方に伸びていて、フォン・ブラウン市よりも上に伸びている。端まで行ったことあるけど結局行き止まりだった。そのまま世界の外に飛び出てしまうのではないのかと思ったけどね。 下の方はずーっとずーっと下の方に伸びていて、最後には円環状の回廊につながっているんだ。そこから先はまだ探索していない。図にすると『  ̄ ̄ ̄○ 』こんな感じかな。不思議だよね。都市を結ぶリニアとも似ているけど、ずっと大きいし、長い。昨日、やっとその地の底から帰ってきたばっかりなんだ。「結局、下にあるものはよくわからなかったね」「そうでもありません。あの巨大な円環は、昔どこかに似たようなものを見たことがある気がします。ニュートンに調べさせています」 あぐらをかいて斜坑の先をのぞき込んでいると、シュリニヴァーサがぼくの膝の上によじ登ってきた。耳の後ろをさすってあげる。そこにニュートンが水皿をそっと差し出して、シュリニヴァーサがのどを潤した。 ニュートンはシュリニヴァーサの疑神だ。ぼくよりちょっとだけ背が高くて、無口で、シュリニヴァーサの言うことだけを聞く。時々、ぼくも疑神が欲しくなるんだけど……おっとと、いけないけない……そんなこと思っているなんてお父様に知られたら大変なことになる。『神は神の知恵を猫族に与えた。それから神は神の姿を犬族に与えた。犬族に神の関心が移ったことを嫉妬した猫族が疑神を作った。犬族は疑神を認めてはいけない』 ってね。「そうそう、街に帰ったらなんか凄いことになっていたよ。あのレディー・ランガナーヤキがまた新しい疑神を手に入れたんだって。なんでももの凄くかっこよくて、そして、これが驚きなんだけど、なんと、ランガナーヤキの言うことをちゃんと聞かないんだって。どうなっているんだろうね。不思議だね」「あのサイベリアン一門の闇商人ですか。彼女はチャーチルとサッチャーも他の猫から奪ったという話でしたね。私のニュートンも奪われないようにしないといけませんね。彼女は疑神を三体もつれて街を歩いているのですか?」「うん。それで、ひどいんだよ。ランガナーヤキの奴は疑神に桐島怜生って犬族みたいな名前をつけたんだよ。どうなっても知らないんだから。 ……ん、あれっ」 コォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーー 不思議な音が斜坑の奥底から立ち上ってくる。 シュリニヴァーサが命令でニュートンが観測機器を立ち上げると、装置に見たこともないスペクトルが表示され、放射線カウンターが数値を急上昇させた。何かが起きている。 シュッ、シュッ…… と、遺跡が千年の眠りから覚め、斜坑に光の線と古代文字が浮かび上がる。死んでいたはずの機械達が次々と息を吹き返し、うなり声を上げ始めた。リニアとは比べものにならない桁外れのエネルギーが空間に満ちる。ついにはK中間子まで観測された。圧倒的なCP対称性の破れが起きているのだ。 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ…… どこからともなく顕れた鋼鉄のレールが斜坑を縦断していく。とてもホログラムとは思えない。まさか実体があるのだろうか。シュリニヴァーサがプラットフォームから飛び降りて、レールに前足を伸ばす。 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ ぼぉーっ!! ぼぉーっ!! 煙を突き抜けて、圧倒的な質量が斜坑から迫ってきた。 危ないっ! ニュートンが飛び出し、シュリニヴァーサをつかんで二本のレールの反対側に転がっていく。 気がついたら圧倒的な質量は停まっていた。リニアにどことなく似ているけど、もっと長くて、でこぼこしている。 腰を抜かしてへたり込んでしまったぼくの前で扉が開いた。 そして、ぼくは神様と出会った。=========<重要な連絡>「桐島怜生」さんは、このシナリオに参加しなくてもノベルなどに登場します。プレイング締め切り日時までに、NPC「エミリエ・ミイ」宛のメールという形式で、600字以内のプレイングにあたるものをお送りいただけましたら、それをもってこのシナリオのプレイングとして扱います。このメールの送信がなかった場合、「救出後すぐにロストレイルに収容され、調査には参加しなかった」ことになります。エミリエ宛のメールはこのURLから!https://tsukumogami.net/rasen/player/mex?pcid=cttd4156※強制転移したロストナンバーの方は「世界図書館のチケットによって移動していない」ため、「現地の言葉を話せません」。この点のみ、ご注意下さい。=========
窓を流れる景色は、いつしかディラックの空を抜け、機械に埋め尽くされたトンネルをロストレル号は疾走していた。未知の技術を予感させるも、降り積もった汚れはどことなくインヤンガイを彷彿させる。 ここは新しい世界、名前だけは判明している ――― 朱い月に見守られて ――― † † † † † † † † † † † † † ゆさゆさと揺られて桐島怜生は気がついた。 ――確か、軍隊と戦っていたところだよな 戦いの途中で謎の光に包まれ、それから後の記憶がない。 ――まさか、捕虜になったのか 目を開けると、桐島は籠の中に入れられていた。時代劇の中で見る籠とは趣が異なるが、前後を二人に担がれている紛れもない籠。外からは丸見えだが、中からも外が見放題である。 近未来的な街並みであった。 獣人が多い。犬を彷彿させる彼らは遠巻きにこちらを見ている。そして、やたらと猫が目に付く。まるで猫集会の中を闊歩しているようだ。にゃーにゃーうるさい。獣人とは異なる、まさに人間のように見える者もいるが、彼らは例外無く猫とセットだ。台車に乗せていたり、小脇に抱えていたり、頭に乗せていたり。違うな。あれは人間ではない…… 良くできているがロボットか。ロボットが猫の世話をしていると言うことか。 前後を確認すると、籠を担いでいる二人もロボットだ。となると、上を見上げると、籠の天網板の上にフカフカに太った猫がふんぞり返っている。 街には天井があるようだ。LEDが淡い光を放っており、静かに空調の音が低く響いている。ふと、思い出してポケットを探るとトラベラーズノートはそこに入ったままであった。開いてみると親友からのメッセージが届いている。 う~ん、説明すると長いんだけど、おまえは新しい世界に飛ばされたんだ 冷泉 色々、納得は行くが、ゆゆしき自体だ。チケットがない以上は原住民とは意思疎通が困難と思われる。そう思い至った矢先に。天網板上から見下ろすデブ猫と目が合った。 「A-pane- de-kha- hai?」 猫語か? 猫語なら少しはわかるぜ。両手を上げて、ネコミミを作って 「にゃー!」 † † † † † † † † † † † † † 「いっちばんのり~~」 元気いっぱい女子高生、藤枝竜が真っ先にプラットホームへと火を吹きながらふわっと飛び降た。いつも通りのことである。残りのロストナンバー達も後に続く。 と、彼女の目の前で腰を抜かしている獣人が一人。その獣人は、ぴょこっとした耳を後ろに伏せて、しっぽを両脚の間に挟んでごろんと転がっていた。火に驚いただけではないのだろう。とても犬っぽい。 「えっとですね…危害は加えませんが、言いふらされるととっても困るんです!見なかったことにはできませんか?」 藤枝は両手を広げてロストレイル号を隠そうとするが、隠しきれるものではない。 たとえば、大学生、小竹卓也がたまらずに、その犬人に抱きついていた。 小竹が鼻息をフンスフンスさせる度に、犬人はおびえて手足をばたばたさせるが、そう簡単には抑えこみははずれない。 続いて降りた小竹を政治家、博昭・クレイオー・細谷がたしなめる。 「小竹さん。この子はおびえていますよ」 小竹がはっとし、憐れな犬人を離し、もふる対象を失った両手をにぎにぎしながら一歩下がった。 そして、中等教導院教師であるセルヒ・フィルテイラーが腰をかがめ、背の低い犬人に目線をあわせて穏やかに話しかけた。 「こんにちわ。驚かせてごめんなさいね。大丈夫ですか? 言葉はわかりますか?」 流石である。しばらく無理して触ったりせずにいると、犬人もじょじょに落ち着きを取り戻しはたようで、恐る恐る四人のロストナンバーを見回した。幸いなことに、こうなると好奇心の方が勝つようで、開口一番 「あのっ」 「はい」 「えっと、みなさまは神様……だよね。感激です! ぼくは岐阜さつきだよ」 話しを聞くとロストナンバー達の姿はこの世界の伝承に伝わる神々そのものだという。犬人さつきは、藤枝にもらったEKIBENバーガーにかじりつきながら熱弁した。神々の写真も残っているし、神学者であるさつきが間違えるはずはないと。 そして、ロストレイル号の漂着したこの場所は神々の残した遺跡であると言う。 「そうね。私は藤枝ドラゴン、特技は火を吹くことです! 学生ですよ。んー、もう竜神でもいいや。私たちもこれから色々調べようと思ってるんです。一緒に教え合いっこしませんか?」 「はいっ!」 「自分は小竹卓也。自分も学生だ。さっきはごめんの。だが、もう一回なでさせてもらって良いかな」 「はいっ!」 さつきはしっぽが千切れんばかりに興奮していた。 そうこうしているうちに、ロストレイル号の反対側からぐるりと回って、見知らぬ青年と、その小脇に抱えられた猫があらわれた。と、なんと猫の方が口を開いた。 「不思議な輸送装置ですね。リニアに似ていますが違う原理で動いているようですね。先程は驚きました。下から……出現しましたね。この先は探索し尽くしたつもりだったのですが、状況的に異次元から来訪したと見るのが妥当でしょう。神など、犬族の与太話とばかり思っていましたが、こうして目の前にすると興味深い」 雄弁にしゃべるの猫と、無言のままに立ち尽くす人型との組み合わせは妙にしっくりと来るものがあった。猫はぴょんとさつきに飛びついて、さつきの腕の中に堂々と収まった。 「初めまして、私はシュリニヴァーサと言います。この界隈で世捨て人をやっています。こちらの相棒はニュートン。できの良い疑神…… 古代語で言うならばROBOTです」 「これはこれは、中をご覧になられてしまいましたか」 細谷は政治家の習慣か、剣呑に対応しそうになるが、セルヒが制止する。 「自己紹介が途中でしたわね。私はセルヒ・フィルテイラーと言います。中等教導院の教師をやっていましたのよ。こちらのおじさんは、博昭・クレイオー・細谷。詳しくは説明できないのですけれども私たちのことは秘密にしておいていただきたいのよ」 「ご紹介にあずかりました細谷です。シュリニヴァーサさん、さつきさん。あなたにはあなたの好奇心があるかと思いますが、我々もここには調査に赴いているのでございます。よろしければ双方の共益的発展が願えないものかと思いました」 ともかく、一行がこの世界に流れ着いた仲間=桐島怜生の名を告げるとさつきには身に覚えがあるようである。なんでも街の顔役がその名を口にしていたとか。さつきは神様にかまわれてにっへらにっへらしながら答える。 「レディー・ランガナーヤキって言うんだけどね。怖い悪い奴なんだよ。新しい疑神をつれていると思ったら、疑神なんかじゃなくて本当の神様だったんだね。ランガナーヤキはなんてことを、うーうーうーだよ」 色々と疑問点はあるが、まずは藤枝竜と小竹卓也の二人がさつきの案内で桐島怜生を探すことになった。小竹がトラベラーズノートで助けに行くと言うメッセージを桐島に送ると三人は出発した。 一方、残されるセルヒ・フィルテイラーと博昭・クレイオー・細谷はこの世界の調査を行うこととなった。 「ねーねー。シュリニーも岐阜さんも美人さんですよね。男性が犬で、女性が猫なんですか?」 さつきが街に向かうためにバイクを準備しているところで藤枝がにやにやしながら訪ねる。仲良いですよねー、と。 すると、フンっとシュリニヴァーサは飛び降りてさつきの肩から飛び降りて反論した。 「彼女、さつきは便利な使い走りです。そして、私は男です」 † † † † † † † † † † † † † その頃、街ではちょっとした騒ぎが起きていた。桐島怜生が逃げ出したのである。 事の発端は、桐島が他のロボットと違って猫様の言うことをちゃんと聞かなかったことである。桐島は桐島なりに努力したつもりであったのだが、不用意に寝ているランガナーヤキをなでてしまい、彼女の不興を買った。さらに、辞めろと怒るランガナーヤキの言葉を喜んでいるのだと勘違いしてしまったのであった。その結果、言葉がわからないので当たり前ではあるが、言語システムに障害が発生したと判断されてしまった。そして、ついに猫様に従う二体のロボットが桐島のオーバーホールを行うこととなった。ドリルと電極を抱えたロボットが迫って、服をはぎ取られる段階で流石の桐島も生命の危機を感じて逃げ出した。それこそ、トラベラーズノートを確認するのを忘れるほど。 整備室のドアをギアでぶち抜いて見知らぬ街を駆けだした。 † † † † † † † † † † † † † 「新しい世界というものはどこも興味をそそられますな」 「おもしろい娘でしたわ。彼女らの神が人間だったとして、何故この世界から消えたのか? 気になりますわ」 ロストレイル号に残されたセルヒと細谷はシュリニヴァーサから色々聞き出していた。 彼によると、この世界では、比較的人間に近い犬族と、猫のままの猫族が共存していると言う。ただ、残念なことに犬族と猫族は伝統的にあまり仲が良くなく、その多くは別々の都市に住んでいる。このフォン・ブラウン市は例外的で両方の種族が住んでいるが、それだけに政治的には難しい状況である。 それに対して、細谷は統一政府樹立が目指せないのかと進言した。 「あらゆる世界は不安定な状況にあります。世界を侵食する魔物の発生例が何件も報告されているのでございます。不可思議な魔法のようなものを使う巨大な魔物も観測されたことがあります。この世界にも技術はあるようですが、この世界に存在しない物理法則を公使する魔物を相手では相応の被害が出ることが予想されます。そこで、世界図書館という互助組織がございまして、ええ、我々の組織ですが、有事の際には助力できるかと存じます。 「そうなのね。今回も敵との戦いで、仲間がこの世界に飛ばされたのよ」 「なるほど、みなさまは他の世界からいらっしゃったと。この街で猫族の有力者と言えばレディー・ランガナーヤキになりますが、そうですね。会えるかはわかりませんが、街に案内しましょう。トラックに乗ってください」 そう言って、シュニリバーサは調査機器を満載したトラックに飛び乗った。疑神のニュートンが運転席について、残りの二人は荷台に乗り込んだ。 「念のために確認ですが、みなさまはあの『朱い月』からいらっしゃったわけではないのですね」 「『朱い月』とは?」 「この世界の空に浮かんでいる。動かない天体です。ちょうどこのフォンブラウン市の真上にあります。危険ですが、地上に出れば見られます。太陽の何倍も大きて、見ていると魂を吸い込まれそうになります。我々はその月から神話の時代にこの世界に旅してきたとされています」 「ところでシュリニ、と呼んで良いかしら。アナタにも我々が神に見えるのですか?」 「いいえ、神が存在するとしたら、それは……我々猫族ですから。犬族の言う神……は我々の奉仕種族、有り体に言えば奴隷です。だから、疑神はその奉仕種族に似せて作られているのです」 「えっ? じゃ、私たちも?」 「私は、下等な犬と仲良くする変わり者ですから」 そう言って、シュニリバーサはセルヒの膝上に登って丸くなった。どうも奉仕して(なでて)欲しいらしい。 † † † † † † † † † † † † † 小竹は幸せをかみしめていた。 バイクを駆り、持ち主のさつきは小竹にしがみついていた。コーナーを曲がり、振り落とされそうになるとさつきがぎゅっとふかふかの腕に力をこめる。これは鼻息を荒くせざるをえない。 藤枝は、当然のようにバイクに併走して、走っていた。この世界に来てからやたらと体が軽い。 いや、実際に体が軽い、先程もうっかりジャンプしたら天井に頭をぶつけてしまった。ぶつけた頭は相応に痛むので慣性はそのままなのであろう。重力の小さい世界なのか、物理法則が異なるかなのであろう。体術に影響が出ることは間違いないので、藤枝は走りながらこの世界に身体感覚を慣らしていた。 トンネルを駆け上がり街に到着したら、そこは犬と猫であふれかえっていた。人型の疑神も多数いるので、うまくやれば紛れることができるのかも知れなかったが、疑神を連れた犬というのは否が応でも目を引く。とは言え、岐阜さつきは猫族と仲良くしている変人として著名であるので、一瞬はぎょっとする犬人もさつきを認めると軽蔑したかのようなまなざしを送ってはそそくさと離れていった。一方、猫たちは一行に興味を示さなかった。 買い食いをしてみたところ、既に猫たちの間ではランガナーヤキの疑神が逃げ出したと噂になっていた。こうなると計画を変更する必要がある。 「なんだ自力で逃げ出したんか、助けに来るまでも無かったな」 「桐島さんの手がかりが無くなってしまいましたね」 ランガナーヤキ機関の入り口まで来て、三人は考え込んだ。小竹がトラベラーズノートで連絡を取ってみようとしたのだが、メッセージは帰ってこない。桐島はトラベラーズノートを無くしたか、見るのを忘れているのかもしれない。 小竹と藤枝は顔を見合わせた後、さつきに向き直り、後ずさりするさつに満面の笑みを浮かべて告げた。 「「仕方ないから、観光しよう(ぜ)(ましょう)!!」」 † † † † † † † † † † † † † その頃、桐島は猫の食事を調理していた。猫の家なのに台所は人間サイズというのも違和感を感じるが、ロボット用の設備なのだろう、あまり気にしないことにした。 「ご飯できたにゃよ」 ツナのミルク煮を二枚の皿に盛って、猫の老夫婦に差し出す。 「おいしいにゃりか?」 「Samajhada-ra」 「E-ka manaka- hai para」 食べ終わった猫たちをがごろごろするのを横目に自分の分の食事を腹に収める。どこぞやの倉庫から強奪した食料はまだまだある。全体的に薄味なのは気になったが、なかなかうまい。種類は豊富だった。マグロ、鯛、鮭等の魚、肉は牛肉も豚肉も鶏肉がしっかりそろっている。野菜もジャガイモからほうれん草までちゃんとある。豊かな世界なのだろう。そういえば、タマネギだけ別に分けてあったけど何でだろう? 皿を洗って、一段落すると眠くなったのでクッションを並べる。横になりながら、これまでのいきさつを反芻する。今日は忙しい一日だった。解体されそうになって逃げ出してからは、忍び込んだ倉庫から食料を持ち出して、適当な坑に潜んで独り寂しく食事している時に、この猫族の老夫婦に拾われたのだ。この老夫婦は他の猫と違ってロボットを持っていない事が桐島の警戒心を下げた。それと、猫が猫なら、他の猫のために一致団結はしないだろうと。調査隊が来るまでここにこもっていよう。 すやすやと眠りに落ちた桐島に二匹の老猫はすり寄って一人と二匹は川の字になって寝た。 † † † † † † † † † † † † † 細谷とセルヒを乗せたトラックも遅ればせながら街に辿り着いた。 活気のあるように見える街はシュリニヴァーサによると平常以上の賑わいようである。疑神のフリをして、他の疑神に話しかけると、ぼんぼんの岐阜さつきが犬族のくせに疑神を連れていたとか、ランガナーヤキが自慢していた疑神が暴走して倉庫を破壊して逃げ出したとか、様々な噂が飛び交っていた。 桐島怜生が無事脱走できたのなら先行隊が発見できるであろう。それより、レディ・ランガナーヤキと交渉する材料の収集を優先した。 数時間の後には、細谷とセルヒが人気の無くなった倉庫に忍び込んでいる。桐島が襲撃したと言うその倉庫は食料庫であったようだ。地面には缶詰や生鮮食料品がしこたまにころがしたままになっており、缶詰はご丁寧に一種類ずつ開けた痕跡がある。 「ずいぶん荒らされているわね」 「桐島さんもロボットに間違われてずいぶんおなかが空いていたのでしょう。缶詰をケースごと持ち出したりしているようですね。ロボット食を間違えて持って行かないよう注意を払った形跡があります」 二人が進むと、より大仰な扉(ぶち破られているが)に突き当たった。その中を覗くと、やはり荒らされているが、転がっているのは電子部品や、化学薬品のタンクだったりする。 こちらが本命の重工業交易品なのであろう。 ところが、燃料タンクの横に不自然な物品が 「これは、タマネギ ……ですわね。どうしてこんなところに。先程の食料庫にはありませんでしたよね」 「ふむ、なるほど、これは使えそうですね」 † † † † † † † † † † † † † くすぐったい湿った感触で目を醒ます。 腹を空かせた猫夫婦がせかしている。 「んー、おはようにゃん」 ミルクを温めて、猫夫婦がミルクを飲んでいる間に、調理する。そうだね。今度は肉野菜炒めにでもしようかにゃ。 タマネギ、キャベツ、にんじんを切って、牛肉と一緒に油を強いた鍋で適当にまぜまぜ。やがて香ばしい香りが立ち始める。あれっ、猫って野菜食べるんかな? 食料庫にあったって事は食べられるんだよね。 † † † † † † † † † † † † † 「くんくん、香ばしい、においがしますね!」 「くんくん、うん、食べたことのないにおいだよ!」 「フンスフンス、さつきは良いにおいだなぁ」 「くんくん」 「くんくん」 「くんくん」 「くんくん」 次々と起き上がるロストナンバーと犬たち。 小竹、藤枝、さつきの三人はそこら辺の回廊にしけ込んでから約16時間が経過していた。最初は三人で屋台で買った食料でやっていたのだが、食べ物を食べる疑神がいると興味を示した屋台が移動してきて、屋台が移動したのなら付いていくしかないと、ちょっとした犬たちの集まりになってしまった。 藤枝が火を噴いて焼き鳥を焼き、小竹はかしずかれ王侯貴族のようであった。ロストナンバーの二人が疑神ではないと知れるのは時間の問題であった。 この地下都市は回廊が編み目のように張り巡らされており、特に、天井の低い回廊は無秩序にパーティションが立てられていたりして、誰の物とも言えないナワバリ、クッションが置かれた居心地の良い隠れ家が至る所に存在した。彼らは暖かい一角に陣取ると眠くなるまで飲み食いを続けていたのである。 そして、毛玉の山から目を覚ました一行は、この世界ではちょっと珍しい色のにおいに引かれてぞろぞろと動き出したのであった。 犬の大移動が始まると、いかにも大小様々のもっさふっさもっさふっさである。いくつもの回廊を抜け、至る所で猫に威嚇された。 遠くまで漂ってきた香ばしいにおいに、やがてパチパチジュージューと肉の焼ける音が加わってくる。 回廊から玄室をのぞき込むと見知った顔がフライパンをひっくり返していた。 彼は振り返ると、両手を頭にくっつけてネコミミポーズを取り 「いらっしゃいにゃ!」 まごうことなき壱番世界日本語 こうして、桐島怜生は無事ロストナンバーと合流できた。そして桐島は藤枝からチケットを受け取ってようやく、この世界の住民と会話が成立するようになった。 そこで、桐島は一宿一飯の礼を述べるべく老猫夫婦に向き直った。 「助けてくれてありがとうにゃん」 「なんじゃ、おぬし、しゃべれるのか。それにしても奇妙なしゃべりかたじゃな」 「そうにゃりか?」 どうもしばらくは猫語の癖は抜けなそうである。 再開を祝しているところ、猫夫婦の家に立ち入るのは無礼に当たると犬たちは外で待っていた。小竹も犬たちと一緒に外で待っていた。もう犬たちと遊ぶことを我慢することがないからである。にゃんわんパァァァァルァダァァァァイィスッ!! と 別れの挨拶が長引いているよう。なかなか二人が出てこないのが気になって中を覗いてみると、藤枝は作りかけの朝食をつまみ食いしていた。 「おいしい肉野菜炒めですね。こちらの料理にはあんまり野菜が使われていないから彼らには新鮮に感じるのかも知れませんね。久々のタマネギの甘みがおいしいです」 「あれっ? 犬猫ってタマネギはダメなんじゃなかったっけ?」 「タマネギ!」 「「タマネギ!」」 「「「タマネギ!」」」 犬たちが騒然となり、玄室になだれ込んできた。さつきなんぞは悲鳴を上げて藤枝にしがみついてしまった。 「神様! 大丈夫ですか! 死なないで! 死なないで!」 タマネギが犬猫にとっては血液を溶解させる毒であったとしても、人間にとっては何でもないと、小竹が犬たちをなだめて回ってどうにかその場は収まったが、犬たちには人間は毒もものともしない超越した存在だと確信を深めてしまった。さつきを先頭に跪いて仰ぎ祈る始末である。 その有様をあきれながら見守っていた猫夫婦は桐島の脚をひっかいて、朝食の作り直しを命じた。 「それにしても危険なら、なんでこんなところにタマネギがあるんだよ」 † † † † † † † † † † † † † 『紫電』が走る 細谷が刀をさやに納めると回路をショートさせた疑神が崩れ落ちた。 ちょうどその頃、細谷とセルヒは、クッションや毛布であふれかえった豪奢な部屋でレディ・ランガナーヤキと対峙していた。老練なボス猫は天井を這う配管に登って、フーフー威嚇の唸り声を上げている。 「我々の力を多少は理解していただけたかと思いますが、ご協力いただけませんでしょうか?」 「シュリニヴァーサ! 貴様どこでこの疑神を拾った!」 怒声を上げる闇商人にセルヒが耳を上げてやんわりと答える。 「いいえ、私達は疑神ではありませんわ。人間よ。アナタ方の友人になれればと思いますわ」 「我々の同胞、桐島怜生にも良くしていただきましたようで、感謝しております」 「なんだ、あのポンコツのことか。暴れてどこかに行ってしまったわ」 「今回は、その件ではなく……」 細谷は、シュリニヴァーサに語ったように世界群と世界図書館、そしてファージのことについてかいつまんで説明し、犬猫の統一政府樹立を促したいと。ひいては商人であるランガナーヤキが要人に顔をつなげないかと。ランガナーヤキは視線を逸らし興味無さそうな表情をよそおい、天井から降りてくることもなかった。 横で話を聞いているセルヒは耳をぴっとのばして聞いていたが、どうなるのか気が気ではない。無視を決め込む闇商人に細谷が付け加える。 「そう言えば、倉庫に面白いものがありましたね。これ、タマネギですが、この世界ではあんまりおおぴらに存在してはよろしくないものですよね。しかも、あれだけの量」 「おまえ達が、アホゥの犬どもの手綱を握ってくれるとでも言うのか?」 「それが必要ならば。あなたも交易が増えた方がより多くの利益が得られることでしょう」 「この街にはアメショ一門の先代当主が隠居している。後で紹介しよう。犬どもの方はだな。シュリニヴァーサ、おまえが案内してやれ」 † † † † † † † † † † † † † 結局のところ、そのアメショ一門の先代当主とは、桐島をかくまった猫老夫婦であった。藤枝が桐島のために持ってきたEKIBENバーガーを老夫婦に譲ると、ロストナンバーが他の猫族の都市を訪れる際には一門に話しを通すとを承諾した。バーガーのレシピと引き替えに。 一方で、犬の方はと言えば、岐阜さつきが興奮をもてあまし気味に通信機をセットアップしていた。ロストレイル号の前でシュリニヴァーサに合流した彼女は話しを聞いて喜んで手伝いを申し出た。通信機が雑音を混じらせながら一体の犬を中空に結像した。 「はい、お母様! さつきです。聞いて驚かないでよ! ぼくはいま神様と一緒にいるんだよ! 遺跡にあらわれて! 今代わるから!」 彼女は、さつきの母、岐阜みかん、高位階梯の神官である。細谷にあいさつをし、近いうちに岐阜みかんがロストナンバーに会うために、このフォンブラウン市を訪れる運びになった。 小竹はあいかわらずしっぽを振る犬たちに囲まれて嬉しそうだ。できれば猫とも仲良くなりたかったところではあるが、この世界で両方と同時に遊べるようになるまでは今しばらく時間がかかりそうである。細谷のまいた種がどのように花開くのであろうか。 後ろでは、藤枝がプラットホームをマーキングするべく「ロストレイル降車場」と看板作りを行っている。暫定的な発着場としては申し分ない場所である。 桐島はシュリニヴァーサに本を借りて、寝っ転がって読みふけっている。この世界についてはまだまだわからないことだらけだ。 そのシュリニヴァーサはセルヒと遺跡の成り立ちについて議論している。 出発の時間はやがてやってきて ロストナンバー達が乗車し、ロストレイル号の動力に火がともると、再び遺跡は息を吹き返し発光をはじめた。 「シュリニーと岐阜さん、今日は帰ります!ま、また!」
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