画廊街のはずれにある、古びた劇場――。 ふだんは誰に顧みられることもなかった赤煉瓦の建物が、その日に限って、訪れる人が引きも切らない。 事情を知らぬものが何事かと問えば、『リリイのオートクチュール・コレクション』が行われるのだ、と答えが返ってきた。 仕立屋リリイ……ターミナルに店を構える美貌の仕立人のことはよく知られている。彼女が気まぐれに主催するファッションショーのことも。 ショーに先立って、会場として選ばれた古い劇場は傷んだ箇所の修繕や清掃が行われ、見違えるようになっていた。大勢のロストナンバーたちがかかわって、ショーの構成や演出プランが練られ、モデルたちの特訓も行われたと聞く。「今回のショーは、物語仕立ての短い場面をつなぎあわせた、パッチワークのようなものになると思うわ」 リリイは誰かに問われて、そう語った。「ひとつひとつの場面は、どこかの異世界のあらわしているの。そしてモデルは登場人物になって、それぞれの物語の一場面を演じる。たとえばブルーインブルーの海を海賊が征き――、ヴォロスの魔法使いが美姫と出会い、壱番世界のうららかな学園のひとときを経て、インヤンガイに散った悲恋、モフトピアの夢のようなきらめき……いくつもの物語が詰め込まれた、宝石箱のような時間をお届けできると思うわ」 やがて、期待にまなざしを輝かせた観客が劇場の席を埋める。 舞台袖から満席の場内をのぞきみて、モデルたちが心地良い緊張とともに、もう一度、段取りを踏まえた頃、スタッフがそれぞれの持ち場いるのを確認して、リリイは静かに頷いた。 緞帳が上がる。 流れだす音楽は、誰かが演奏しているのだろうか。 照明が劇場の闇をつらぬき、ステージを照らし出した。 そして――「本日は、わたくしのショーへようこそ」 夢の時間の開幕、だった。●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きＳＳ（ショートストーリー）」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きＳＳ（ショートストーリー）」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター／イラストレーターのＳＳに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。内容は「ファッションショーのステージの様子」を中心に描かれます。プレイングは、「イラストに描いてほしい内容」に重点をおいて、記入して下さい。《注意事項》（１）「イラスト付きＳＳ」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。（２）システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません（キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、ＷＲ側の納品履歴に並びます）。（３）ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きＳＳ」に参加することは特に制限されません。（４）制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うＳＳ、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。（５）イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。（６）ＳＳによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
「本日は、わたくしのショーへようこそ」 リリィの宣言と共にはじまった夢の舞台は賑やかに流れていく。 ファッションショーというよりも即興の演劇といった風にリリィの衣装を着たロストナンバー達が思うがままに演じていた。 リリィのショーであると共に、自分達のショーでもあるとロストナンバー達は思っている。 ～ああ、無情～ 真っ赤なドレスに真っ赤な日傘を差した美女が長い階段を下りてくる美女の傍らに似合いの男がいる。 中世の軍人を思わせるナポレオンジャケットとタキシードを混ぜ合わせたような礼服のディオン・ハンスキーだ。 一歩一歩、ゆっくりと降りていき、ステージの上に降り立った二人はにこやかに客席へ会釈をする。 準備の段階では裏方をやっていたはずのディオンが何故いるのか、スタッフは疑問だったが、観客はそんなこと気にするわけもない。 「姉さんの美しさによっていく輩は僕が蹴散らしてみせますよ」 力強く意気込むディオンだったが、その言葉にガッカリ感がそこらじゅうに漂ったのはディオンは気づかなかった。 ドレスを着た姉はディオンに日傘をぶつけるように渡す。 日傘はディオンの腹を打ち、さらに強い力が加わってディオンを舞台袖へと追いやった。 「ああ！？ そんな、姉さん愛が痛いよ、姉さん！」 姉から渡された大事な日傘を落とさないように抱えたディオンは舞台袖へ転がるように収まった。 ダンスの相手を探すかのようにステージを動く姉に仮面の下から涙を流し、ハンカチを噛むディオン。 本当に残念な姿だが、観客に見せていないだけ救いがあった。 ～異国情緒～ ステージではショーが続く、男女が踊りあい自らの姿と衣装のすばらしさを見せる。 「うむ、『ふぁっしょんしょー』とは華やかでよいな‥‥」 煌 白燕は客席から眺めていると、華やかさに眼を奪われ、そして自らも参加してみたい気持ちが高まった。 そのまま、白燕は控え室に向かうときらびやかな服からシックなドレスまで纏う女性達を見て思わず顔をほころばせる。 自らも衣装を選んでいると気になっていたふわふわでひらひらな物を一着手にした。 「これが壱番世界の服『ごすろり』というものか？ 可愛らしいな」 白燕の姿は壱番世界でいうところの古代中国王朝のもので、織り込まれた服でありに縫いとめた西洋の衣装とは作りが違う。 しかし、女性が可愛い衣装が好きなのはどこの世界でも共通らしく白燕も人目で気に入ってしまう。 「色も結構あるな。主なのは黒、桃色、白といったところか‥‥個人的には白が好きだな」 独特の手触りのあるフリルを手にしながらゴスロリ服を見ていた白燕は白い衣装を取り出した。 元の世界でも白い衣装を好んでいた白燕は手の空いている人に頼んで着替えさせてもらう。 白い袖の着物と肌着が脱がされて床に落ちると白燕の肌があらわになった。 「そういえば『ごすろり』には『めいど』という私の世界でいうところの女官の服があるそうだな？」 着替えを手伝ってもらっているとふと、そんなことを思い出して白燕は口にする。 『それは違うのでは？』と誰もが思うが、誰も突っ込むことはなかった。 ～ドレスアップ～ ヴォロスをイメージした１９世紀イギリスのアンティークドレスに身を包んだ一ノ瀬夏也の登場に客席が盛り上がった。 彼女のコーディネートは細部にまでこだわり、おおぶりのネックレスやイヤリング、そしてドレスに合わせた帽子などにこだわりが見える。 もちろん、ファッションだけでなく夏也らしい小物としてアンティークカメラを手に持ってステージの上を歩きながら写真をとっていた。 「こんなドレスが着れるなんて夢のようね。この世界事態真新しいものばかりで新鮮だけど、こうして自分も変わってみるのもいいわね」 初体験の衣装にワクワクしながら夏也は同じように着飾った男女を取る。 ファインダーから覗くモデル達の顔は生き生きとしていて、夏也のカメラマンとしての心をつかんだ。 撮影している夏也自信も楽しみ、いろいろな角度から被写体を捕らえようとステージを動き、自然体のシャッターチャンスを捉えては記録していく。 「風景写真の方がメインだけれど、こういう人物写真もたまにはいいわね。皆とっても楽しそうだもの」 思わず自分も笑顔になりながら夏也はシャッターをきる。 元の世界でＯＬをやっていたころからは想像できない体験をしているとシャッターをきりながら夏也は思っていた。 ～和洋転換～ 「わい、ぼんぼんやさかい。荒事は苦手なんよ。せやからこういう催しは大歓迎やね」 鞍馬の黒天狗と元居た世界では呼ばれていた森山天童は黒衣を身に纏い、ワイヤーもなしに羽ばたきながらステージへと降り立つ。 角を二本生やし、右手と左足には蛇をモチーフにした腕輪と足輪をつけ、赤いりんごを持っていた。 冠には月桂樹をあしらい、翼を細いチェーンで着飾っていて衣装の細部にまでこだわった様子がみられる。 金持ちというのは自称ではなく、着飾るのが好きなようだ。 「さぁ、人間よ。この実を食べて真実をえるか、それとも無知のままに平穏に暮らすか選ぶがいい」 普段の関西弁を抑えて、天童は企んだ笑みを浮かべながら空からステージにいる人々を眺める。 イメージコンセプトは堕天使のために人間を試そうというシチュエーションでの登場だった。 手に持っている赤いりんごは禁断の知恵の実であるりんごをイメージしていて、蛇のデザインもアダムとイブを楽園追放を唆した蛇を暗に示している。 そうした細かい拘りがリアルな堕天使像を作り出していた。 ～彷徨う紳士～ 「僕にとっては、とても大切なものなんだ」 黒地に濃灰色をした流水の刺繍が入った長袍をきたイェンス・カルヴィネンは袖から出てくると独白した。 中折れ帽子をかぶり、黒眼鏡をかけ、肩にオウルフォームセクタンを乗せている姿はインヤンガイの胡散臭い名士というイメージそのものである。 イェンスの立つステージはインヤンガイであり、事件が起きてそれらを追いかけるという演技を行うものが多数いた。 何か探し、町を彷徨うのはイェンスも同じだが黒い雲雀か、誰かの夢に現れて消える物語か‥‥目的のものははっきりしない。 （「本当に僕が探しているものは‥‥いや、考えることではないね」） 肌身離さずもっている長い黒髪のトラベルギア『クネヴィア』を袖の中でぎゅっと握ると演技を再開させた。 ～フィナーレ～ 「本日はわたくしのファッションショーを見ていただきありがとうございました。今回のモデルの皆さんは大変素敵でわたくしもうれしく思います」 最後のステージまで終わるとリリィが挨拶に姿を見せる。 ショーの成功を満面の笑みで喜んでいた。 「また、このようなショーができるよう皆様に衣装を提供していきたいと思います。今後とも仕立て屋リリィをご贔屓にしてくださいな」 自分の店の宣伝をちゃっかり入れつつリリィが頭を下げ終幕となる。 盛大な拍手と口笛が鳴り響き、リリィのファッションショーは惜しまれながらも終わった。 次なるショーの主役は貴方かもしれない‥‥
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