Καταπιειτε Αναστροφη πτησηη! 空を飛ぶ燕の名を冠した最終奥義にして必殺技、しかし、魔神がそれを見るのは初めてではない。仕掛けた最後の勇者は祭壇越しに伸びた魔神の大木がごとき腕に掴まれた。その瞬間、凝集した魔力の奔流は暴走し、かの勇者の胸を貫いた。 目が虚ろへとゆらり。その手から龍刻石がはらはらとこぼれ落ちる。 こうして祭壇を囲む3人の勇者はそれぞれに無様な亡骸を晒すこととなった。 西方に座す勇者は驚愕の表情のまま石に封じられ 東方にあった勇者は焼き尽くされて、乾いて砕けた骨と灰の山 最後に南方の一人は、胸を穿たれ、だらしなく血と漿を垂れ流している。 そして、祭壇の北方で泰然としているのは、巨大な魔神† † † † † † † † † † † † † ヴォロス各地で遊ばれている龍牌と言う遊技がある。 地方によってはルーンポーンとも呼称されるこの遊びは、34種136枚の牌を用い、手の中で14枚を用いて魔法陣に見立てた役をそろえてその点数を競う遊技である。 その発祥は、遠く龍が地上を自在に闊歩していた時代にさかのぼる。伝承によれば、龍の賢人、慧龍クレンホトウが編み出した儀式魔術に端を発すると言われている。クレンホトウの術式は、竜刻石を所定の様式に並べることによって簡単な呪文で膨大な力を陣内に発生させることができる。効果が陣内に限定されること、術式の再現が容易なことにより、魔術の実験を行うには非常に適しており、これをもって慧龍は脆弱な人の子に龍の力をふるう術、すなわち竜刻石を扱うすべを伝えたという。地方によってはクレンホトウが人々の守護神、文明の祖と奉られているのもこの名残である。 歴史学者の中には、クレンホトウの時代には竜刻石はまだ存在していなかったとし、この伝承を否定するものもおり、正しくは、遙かに時代が下り、魔神メンタピが考案したという説もある。 ともかく、現在、遊技として広まっている龍牌は魔神メンタピが考案したものであることは間違いないとされている。メンタピは残虐な魔神で数百年ものときをジャンソウ地方に恐怖と共に君臨していた。彼の残虐性は時代と共に変遷し、最初はむやみやたらに人々を嗜虐していたのだが、後にはそれに飽き、人々に希望を持たせてからその芽を摘み取ることを好むようになった。そこで、彼が目をつけたのが龍牌である。 メンタピを含む4人が祭壇を囲み、闘牌を行う。竜刻石が役を形成し祭壇を中心に魔術が発動すると、膨大な力に敗北者は晒されることになる。人の子なら死ぬが、うまく行けばメンタピを倒すことすらできる。こうして何百何千の人々がメンタピに挑み、ほんの一握りが勝利を目前にし過大な希望を抱き、そして絶望の中に死んでいった。 伝説では、名も知れぬ流れの3人の勇者がついにメンタピを倒したという。彼らは奇術士団を名乗り、その勝利の方法は奇想天外「種も仕掛けもありません」。彼らは独自にクレンホトウの術式を解析し、正規の手順を経なくても術が発動することを突き止め、それを実践した。有り体に言えば、イカサマで勝ったと言う。こうして、魔神メンタピは祭壇に封じられ、100年毎に復活をするもそのたびにその時代の勇者に再封印されてきた。 ジャンソウ地方では来たるべき魔神との再戦に向け、人々の間では龍牌の腕が盛んに競われるようになった(もちろん竜刻石ではなく、ただの石を用いたものでである)。しかし、それでも千年の時が経てば人々の記憶も薄れ、サマも多くが失伝した。そして、今、三人の勇者は敗北し魔神は千年ぶりに蘇ることとなった。この千年で魔神もまた多くのサマを学習し、その力は強大。 ―― 暗黒の時代来たれり† † † † † † † † † † † † † 世界図書館、地下第893号資料室 「自主学習中」の看板が掲げられてはいるが、世界司書の目の行き届かないそこは鉄火場であった。特にお目付役のリベルがカンダータに出張中の今は、羽目を外すこと限りない。いくつものテーブルで世界中様々な賭博が行われている。壱番世界の花札、バカラ、は言うに及ばずブルーインブルーで遊ばれている小骨杯、インヤンガイのホウエンサイ等も遊ばれている。 そして0世界オリジナルの博打、エミリエが胴元になっている「アリッサの忍耐」も大人気だ。宇治喜撰241673の接続されたスクリーンがオッズを張り出している。「さぁ、はったはった! アリッサが1時間で勉強部屋から逃げるのに賭ける人ー!」「うぉー」「アリッサが2時間で勉強部屋から逃げるのに賭ける人ー!」「うぉーー」「まさかの大穴。アリッサが最後まで勉強をやり遂げるに賭ける人ー!」「「うぉーーー」」 チップ代わりのナレッジキューブが雨あられとバスケットに投げ込まれていき、エミリエの顔は興奮で紅潮していた。なぜならばアリッサは既に逃げ出しており、バスケットの置かれているテーブルの下にボックスに潜んでいるからだ。すなわち親の総取り。 その熱気溢れる部屋に密やかに、風が駆け抜けるように見張り役からの情報が広がる「「「ガサ入れだ! リベルが帰ってきたぞ!!」」」 瞬時にカードは回収され、点棒はしまわれ、テーブルの天板をひっくり返し、エミリエはロッカーに隠れ、そこで行われていた数々の行いが隠蔽された。 紳士淑女の勉強部屋に変じた893号資料室にリベルが泰然と踏み込む「ああ、こほん。まぁ、なんだ。勉強熱心でなによりです。その勉強の成果が試されるときが来ました。危険な任務だがヴォロスに行ってください。ああ、皆さんの大好きな命をチップに、です」 宇治喜撰(ウチュウセン)241673が本来の世界司書に戻り、任務の概要をスクリーンに投影する。:order_4_lostnumbers-> 魔神メンタピを封印してください:warning-> 竜刻を用いた:import 導きの書-> 魔神メンタピは運命操作の魔術を使う「あと、エミリエ、アリッサ、あなた方は勉強が終わるまでこの部屋から出なくてよろしい」
封印のまどろみの中、ひたすら龍牌のことだけを考えてきた。ようやく掴んだ綻び 頂のアルターから地平線を見据える。 千年前と何ら変わるところ無く太陽が赤く沈んでいく。 闘牌の余韻を味わっているうちに太陽が三たび沈んだ。 四日目には山を下ってみた。 人の世界は上と同じように平穏であった。定命の者は忘れっぽい。 街を焼き、為政者を吊した。 それからは勇者らが列をなして我のもとに現れるようになった。 最初のうちは打牌に緊張感が溢れるものであったが、すぐにひどく未熟な者までもが勇者に仕立て上げられていることに気づいた。 七日目の最後に戦った者などは何もしないうちに恐怖に震え、牌を手から滑らせ自滅した。興ざめである。 もっと人と戯れたいが、つまらない遊技はしたくない、贅沢な板挟みである。 † † † † † † † † † † † † † 奇妙な三人組であった。おおよそ見たことがない異国風の装束。 我が下界の散策から戻ってきたところ、彼らは祭壇の周囲にたむろっていた。儀式張ったところは何もなく、まるで街の酒場で面子を待っているかのようであった。 彼らがこれから命をかける覚悟があるのか、そもそもこれから行われる魔術がいかなるものであるのか理解していないのではないのかと疑問が浮かんだ。かつて、何も知らない旅人を勇者に仕立てて偶然による勝利を期待されたこともある。 余の耳は鋭敏だ。 一番若いとおぼしき青年の声が聞こえてくる。 「俺対面がいいな! だって一番腕掴まれにくいじゃん?」 彼は竜刻石をじゃらじゃら弄んでいる。 冒険者然とした男は一人だけで、先程から祭壇を細かく検分している。おそらく彼が一番の手練れであろう。 その彼の後ろで腕を組んでいる男は、一方どこかの貴族の従者といった風情であり、奇妙なフクロウを肩に乗せていた。どうにもこの場にはそぐわない。しかし、その相貌には不敵な笑みを浮かべ自信に満ちあふれている。 「早く座りなよ」 大胆にも我に呼びかけてきたのは最初の若い青年だ。考えてみれば、このように気軽に我に勝負を挑んできた者は一人としていない。興を覚えたので、最初の彼の宣言通りに彼の正面に座ることにした。 冒険者風の男が上家、従者風が下家である。 「我が祭壇にようこそ」 四人が揃うと一陣の魔力が駆け巡った。祭壇に無造作に置かれている牌達が共鳴する。 「我はメンタピ ……慧龍クレンホトウの力を受け継ぐ者。我は歓迎する。挑戦する定命の者達よ。名乗られい」 「葵大河。宝探しを生業にしている」 上家はやはり冒険者か。額に掛けている天眼鏡のようなものが彼の武器なのだろうか。要注意だ。そして、待ちきれないとばかりに正面の青年が口上を述べる。 「俺は虎部。あぁ、虎部隆ってんだ。よろしくな。ものは相談なんだけどさ。魔神さん。どんな状況であれアガるまで続行。オープン放銃は役満払い。でいいかい」 なかなかに心得ているようだ。我の運命牽引力に対抗しようと思えば、それを乱す工夫が必要である。面白い。 「黒葛一夜といいます。お見知りおきを」 下家の彼は自らの職業を探偵だと名乗った。探偵とは何であろう ……聞けば庶民が雇う目明かしのようなものだという。人の世の移り変わりも興味深い。 葵は不死鳥の方角、虎部はその名の通り虎の方角、黒葛は大亀、そして我が龍の方角。四人の手が伸び、竜刻石をかき混ぜる。魔力が発散し祭壇の足下に流れていく。 各人の魔力は25000が計上された。 我25000 黒葛25000 虎部25000 葵25000 † † † † † † † † † † † † † 死の闘牌は静かに始まった。 第一局は我が順当に12巡目に和がった。第二局は9巡目、第三局は10。 そのまま開始より5局連続で和がる。 人間どもが涼しい顔をしているのが強がりなのかどうかはじきにわかる。 決して手応えがないわけではない。三人とも危険な筋に果敢に攻め込んできており、そう簡単にはオリない。捨て牌は巧みに迷彩されており全員がそれなりの手を狙っている気配は伝わってくる。聴牌の気配も何度も感じた。 予想外の好敵手相手に我は善戦していた。我の運命牽引は壁牌に働くので、ツモ和がりのみであることも珍しいことではない。 第7局、八連荘にリーチがかかったところで、流局。親が黒葛に変わる。 「それ、ロンだ。32000」 第7局、八連荘にリーチがかかったところで、我の捨て牌が直撃した。 我は瞠目した。 和がられたのは葵、国士無双、単騎西待ち、六巡目。先程の流局で流れが変わったのだろうか。我が人間相手に役満を放銃したのは初めてのことである。いにしえに亜龍リュイーソと戦ったときのことが思い出された。そう言えば、彼も飄々としたところがあった。それに加え、聴牌の気配がなかったのが気になる。何らかの ……違う、 その局は黒葛がフクロウに話しかけていた。普通に考えればアレは使い魔の類であろう。親の黒葛を警戒しすぎた対面で仕掛けてきたと考えるべきか。我の壁が洗牌されていく姿に、違和感がある。崩される直前、壁全体がやや左に寄っていた。壁牌の数は合っていた。すり替え技の一種だろうか、初めて見る技だ。 葵が「バレなきゃイカサマじゃないからな」とつぶやくのが聞こえてくる。 くくく、確かにこやつらただ者では無さそうだ。今宵は愉しめよう。 我23900 黒葛14700 虎部14700 葵46700 「へー、これつまりパワーワード+シンボルマジックって感じ? んじゃ、虎部式裏闘牌を見せてやんよ!」 続いて虎部が親になるなり、場の空気が変容した。これまで面前を一貫させてきたところ、黒葛、葵が次々と差し込んで2副露。 鳴いた發と中を積み木の様に立体的に積んで大三元を誇示する。ここで、彼がツモ和がりしてもかろうじて黒葛の点は残る。そして、直撃すれば我も飛ばせる。難しい局面に先程までの静けさとはうって変わって、人間達は牙を剥いてこちらに視線を注いできている。祭壇に集まった魔力が密度を上げてきた。 こちらのリーチが封じられた形だが、我に対してこのような戦術が甘いことを思い知らせる必要がある。副露した分だけ打牌の選択肢が狭い ……運命牽引により我の当たり牌を引く確率が格段にあがる。 ところが虎部はさらに立て続けに二回鳴き、残された一枚の竜刻石を倒し手をオープンした。白裸単騎待ち。大三元を諦めての暴挙か。 この形、リーチで捨て牌を縛っているのと同義である。我は白板、七萬のシャボ待ちだ。我が当たり牌を引けば良し、虎部が九萬をツモ切りすれば、対々和混一色ドラ三の倍満で虎部が死ぬ。 「ちっ、俺が引いてどうするんだよ」 葵がどうやら白板を引いたようだ。 オープン放銃役満払いというのはこういう状況でかえって自らの首を絞める。葵が虎部に差し込んで流すわけにも行かないからだ。 「あ~あ」 葵はベタオリ。安牌を祭壇に叩きつける。この時点で白板は全て出尽くして虎部のツモ和がりは消えた。 そして、我もツモ切り 「おやおや、俺が和がってしまいましたね。ツモです。2600、1300」 ここで伏兵の黒葛がツモ和がり。沈んだ点数を大きく取り戻してきた。虎部の策略が潰れてもまだ高目をキープできるところ運気はまだ我の所にはない。 「この戦いは4対4の普通のゲームではありません。3対1の多数対少数のゲームなんです。つまり目を欺く相手はたった一人。そうでしょう?」 と黒葛が端正な顔のままにこやかに発する。くく、確かコンビ打ちと言うのだったかな。面白い。 † † † † † † † † † † † † † 牌を伏せ、次局に移ろうとした瞬間である。完全に油断していたと言っていい。 ――閃光と共に雷撃が天空より招来 馬鹿なっ 咆哮が思わず我の口からこぼれる。ここでまさかの直接攻撃。いや、違う攻撃源は祭壇だ! 我の魔力が吸い取られていく。千年ぶりに防御結界を展開してしのいだ。 嵐が過ぎ去った後、山の頂は廃墟に転じていた。膨大な力の奔流が床を砕き木々をなぎ倒していた。竜刻石でできた祭壇だけはそのままに。 「ごめん! 間違えちった!」 虎部が涼しい顔で笑っている。あの瞬間、彼は洗牌のために祭壇の中央に戻そうとした我白板を抜き取り、うずたかく積み上げた三元牌の上に叩きつけたのだ。 不完全な手段で完成した術式は魔力の暴走を生み。かくのごとしである。 だが、そのようなことをして人間が無傷であるはずがない。 「デフォタンガードだよ」 とこともなげに嘯く。いかなる術なのかはわかりようもないが、どうやら人間も千年前の無力な存在とはひと味違うようである。 しかし、無理な技のほころびを我は見逃さない。今の攻撃で虎部は12000の魔力を失っていた。 我26600 黒葛23900 虎部100 葵49400 「虎辺っち、さっきから行儀が悪いよ」 葵である。勝負に熱中してきたようだ。東場が終わってみれば魔力の差はさほどでもない。龍牌は振り出しに戻ったかのようである。こうなると人間が言い出すことは一つしかない。 「そろそろ青天井でいくか?」 当然に我は快諾する。希望が大きければ大きいほどそれが破れたときの絶望もまた深い。これは龍牌を定命の者と楽しむようになってからのお約束の儀式である。 「それよりもさぁ、ご祝儀どうする? このままじゃ面白くないよな。俺が勝ったら何かもらえないかな。魔神さん。トラベルギア賭けるからさ」 虎部は祭壇の上に、小さな棒状のものを取り出した。魔術的な筆記具だという。興味深いので我は、自らの運命牽引能力の一部を封じた護符を賭けることにした。黒葛は粘着帯、葵は天眼鏡を提示した。 「4着が1着に払うと言うことで良いな。ああ、言っておくけど。あんたらからもいただく気満々だからな」 本来の目的を忘れてきたようである。 † † † † † † † † † † † † † ここで人間たちのための希望の糸がもうひとつある。 確か黒葛が従えてきたフクロウだ。空を漫然と飛んでいるように見えるが、あれは使い魔で我の手の内を主に伝えているのだろう。流石に東場のあいだに一度も放銃しないのはやりすぎだ。 配牌された龍刻石をそのまま祭壇に伏せる。と、彼らの落胆が伝わってくる。そこで一瞬精神を集中し、牌を立てた。しかし彼らに安堵はない、何故ならば牌の大半は我に隠れて見えないからだ。これくらいのほうが油断を産み引っ掛かってくれるものだ。 そして、再開した南場はごみ手に黒葛が振り込んで連荘。闘牌を長引かせるために賢明な判断だ。 南二局。 我の河は萬子、筒子が溢れており、わかりやすい染め手である。フクロウに見せている手は發の頭、一索一索一索一索二索三索だ。チャンタ、混一色、ドラ無し。局面を左右するほどの手ではない。 ここで、黒葛は五索を大胆に切ってくる。一通はないと見たのか、もはや手を読んでいるところを隠そうともしていない。ゴミ手でも即飛び虎部は現物を捨てる。 そして、葵が一瞬の思案の後に四索を切る。 くくく…… かぁっはっはっはーーーー!!! ―― ロォーーーーーーーーーーーーーーン!! 緑一色、48000 【二索三索四索 二索三索 六索六索六索 八索八索八索 發發】 ……【四索】 ―― はーはっはっは くふぅ 愉快じゃ、驚愕に葵の顔がゆがむ 「馬鹿な。いっ…… くっ」 まさか、手にあったはずの一索がないとは言えまい。 ―― くくく、牌を確認するかな? 葵は視線を上げ、指示を出した黒葛に疑わしげな視線を送る。黒葛も平静をよそいつつも動揺を隠しきれていない、洗牌の手が震えている。 玄人芸が得意でない我でもこれくらいのことはできる。簡単な幻術だ。フクロウに晒している自壁に幻術をかぶせていただけだ。肉眼で直視すれば見破れたかも知れないが、使い魔越しの視界は不完全である。また、後から気づいたところで指摘のしようもない。サマでもなんでもないからだ。 もはや勝負は決したと言えよう。残り二局、役満の直撃でも我はゆるがない。 我76100 黒葛22400 虎部100 葵1400 たまらず、黒葛が葵に役牌を差し込んで我の親を流してきた。 焦ったか、これは先程と真逆の行動で自分の首を絞めることにしかならない。我の手配を見ることが出来なった彼の動揺ぶりは喜悦喜悦。運命の流れは完全にこちらに来た。 黒葛は緊張しきった表情をさせつつも、震えを抑えきった手で壁を構築する。よくぞ、緊張を抑え、平静に戻り、その上で緊張をよそおい、牌を積み上げられる。既視感のある光景だ。我が遠い昔に封印された時の記憶が呼び覚まされる。 配牌が完了した瞬間にフクロウが頭上から我の飛びかかってきた。腕を払ってたたき落す。 「申し訳ありません。しつけがなっていませんでした」 黒葛を一流の打ち手と認めよう。今の一瞬で彼は手牌を壁とすり替えたことだろう。そして我は彼の腕を掴むことができなかった。さしずめオウル返しと言ったところか。だが余りに間が悪い。 ――その手牌を倒すのかな 今、黒葛が天和で和がると16000オール、虎部と葵が確実に死ぬ。 黒葛は顔色を変えずに端の牌を捨てた。不慮意な打牌は放銃につながる。それは我の当たり牌だ。人和、苦もなく満貫を和がった。 我88100 黒葛9400 虎部100 葵2400 我が元に集結した88100の魔力。これだけの力があれば、慧龍が残した次元門の術式すら使えそうである。 「なぁ、魔神さんよぉ」 配牌しながら、親になった虎部がつぶやいた 「ヴォロスは楽しい『世界』だな。こんな緊張感が味わえるなんてな」 妙に引っかかりのある物言いだ。そもそもこの挑戦者達は当初より奇妙であった。我が見たこともない魔導器の数々。異国の装束。 巡がまわる。 「おまえ、ヴォロスがどこまで続いているか知っているか? 世界の果てにある秘宝について聞いたことがあるか?」 各々が手牌を進める。 我はこのジャンソウ地方に腰を落ち着けるまでは、慧龍に従って世界(ヴォロス)の隅々まで旅をしたものだ。確か、慧龍はそれを見いだしたはずだ。そして、その慧龍はもうこの世界(ヴォロス)にはいない。だからこそこのような遊技を始めたのだが。 「アナタはこの龍牌でしたかったナニカがあったのではないのですか?」 不用意に一筒を切ったときだ 「ロン『宇宙戦争』 ククク、狂気の沙汰ほど面白い、点数はいらない ――あんたの<真理数>を貰おう」 【一筒一筒 白白 中中 發發 鳥鳥 八索八索 一筒】 ……【一筒】 虎部の倒牌とともに世界は暗転した。 「ま、まさかあの役は……」 「知っているのか葵」 「……葵家のローカルルールだ」 夜が訪れたのかと錯覚した。 風は凪ぎ、頂のアルターが静寂に包まれる。 空に星はまたたかない。いかなる墨よりもなお黒い闇が覆った。我の手が震える。これは寒気、冷気が降りそそぎ、世界(ヴォロス)を浸食していく。原始的な恐怖が呼び覚まされる。この光景に我は見覚えがある。 ――貴様ら、何者だ。 これはなんだ! 我は ……知っているぞ!! おもわず、口に戯れ言がのぼる。不如意 「俺達は、世界(世界群)を彼ら(ファージ)から守るために闘っています。帰属する世界 ……<真理数>を失ったロストナンバーと自らを呼んでいます」 不定形の異形が祭壇の魔力に惹かれ形を取ろうとする。我が手元の魔力を形にしてなぎ払う。 「おまえの直感は正しい、今倒したのが俺らの敵、世界群を侵略する<ディラックの落とし子>だ」 ディラック ……慧龍との紀行で聞き覚えがある。慧龍は終末(ディラック)の浜辺から旅立った。 おぉおぉ ……これが世界(ディラックの空) 足下を見やると頂のアルター ……ジャンソウ地方 ……ヴォロスの世界が遠く離れていく。入れ替わるように星のようにきらめく無数の世界が見えてきた。宇宙高く昇るほどに祭壇の力は嫌が応にも増し、世界を照らすまばゆい智慧の光となった。 おぉおぉ ……慧龍クレンホトウ 我は遂に貴方様の御前に赴きます。 † † † † † † † † † † † † † 魔神メンタピは真理数を失っていずこかへの戦場へと旅立っていた。彼がヴォロスの民を煩わせることは二度とあるまい。 「ええ、そろそろ列車の発車時刻でしょうか」 黒葛は手に持っていた牌を場に起き席を立つ。 途端、横から手を掴み席へと引きずりおろされた。 ――待てよ 「虎部……さん?」 三人の頭上を輝く車両が近づく。 無明の闇を切り裂き、轟音と共にとてつもなく長い飛車が走ってきた。 「まだ局は終わってないぜ。そして……今、おまえが出した牌で、アガリだぜ。ロン『螺旋特急』 ……発進だ」 倒された龍牌のかけらは 一索二索三索 四筒五筒六筒 七萬八萬九萬 三萬.一萬四萬一萬五萬九萬二萬六萬
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