ターミナルに再びクリスマスがやってくる。 それも夜と雪を引き連れて―― アリッサからクリスマス・イベントの告知が為され、ターミナルは一気に華やいだ。 赤と緑とキラキラとした飾り付けを眺め、どこかはしゃいだ空気を肌で感じながら、世界図書館へと足を向ける。 クリスマスにちなんだ面白い冒険旅行でもないだろうか。 そう期待していけば、図書館のホールで真っ赤なクマのぬいぐるみと遭遇した。 世界司書ヴァン・A・ルルー。 タキシードを着た彼は、こちらに気づくとにっこりと微笑み、《導きの書》の代わりに、そのもっふりとした手でどこからともなくカードの束を取り出した。「いかがです、私とひと勝負?」 え、と思わず聞き返す。「もしよろしければ、クリスマスに貸切のティーサロンでポーカーをしませんか?」 難しいルールはなしにして、ごく簡単に楽しもうと彼は言い、そうして、「ただし、ギャンブルですから、賭けるモノが必要ですが」 モフっとした手で器用にカードを切り、そのうちの一枚をひらりとこちらに提示する。 そこには、テーブルいっぱいのケーキやプディング、紅茶、そしてティーカップを持ってイスに腰掛ける少女が描かれていた。「賭けるのは、お持ちいただいたお好きなお菓子、そして手のひらサイズまでの小物でいかがでしょう? ソレをチップ代わりにし、ティーパーティのような時間を過ごせたらと思っているんです」 もちろん、こちらでも紅茶やクリスマスメニューを用意しておくと彼は告げる。 パーティ会場となるサロンは英国風の小さな屋敷であるらしい。 暖炉のある部屋で、テーブルを囲み、紅茶を飲みながら、クリスマスプディングといったデザートや小物を賭けてのポーカーをしようとの誘いだ。「勝てば欲しいモノを手に入れられますし、負けてしまえば奪われてしまいますが、素寒貧にはさせませんよ」 そう言えば、と思い出す。 ルルーは世界司書であり、ミステリを愛するものであり、そして何よりも本質は《ギャンブラー》なのだ。 そんな彼に果たして運だけで勝てるのだろうか?「さあ、勝負しましょう?」 ふふ…と、いつになく愉しげに笑うルルーを前に、一瞬で様々な思いがよぎる。 ――ベットorドロップ?●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
「聖夜にギャンブルか。なるほど、面白そうじゃねえか」 「ネットカジノは少しだけやったことあるけど、アナログもいいね」 「賭けるモンが菓子だの小物だのって平和でええわ。クリスマスらしゅうて楽しそうやし」 * 貸し切りとなった英国風のティーサロンに招かれた三人の男――ファルファレロ・ロッソ、ツィーダ、晦は、赤いクマとともに華やかなテーブルを囲むこととなる。 「オレからは葉巻だ。まあ、味の分かりそうな奴はいねぇようだが」 「じゃーん! 壱番世界から調達してきた50セントコインのチョコ! チップには最適」 クリスマスプディングやマフィン、ミンツパイ、紅茶と並ぶテーブルに着き、それぞれが持ち寄った《チップ》を披露する。 「みんないろいろ持ってきてるんやなぁ。こちらは缶入りクッキーと、でもって稲荷寿司や!」 ババン…という効果音すらつきそうなほど堂々と取り出したソレに、店員含む一同から何とも言えない視線が送られた。 「なんで稲荷寿司……」 「へ? 稲荷寿司はおやつやろ? ちゃうの!?」 「そのセンス、わかんねぇ」 「素敵ですよ。楽しいじゃないですか」 ルルーは物珍しそうに稲荷寿司を見、チップが揃ったところでどこからともなく未開封のトランプの箱を取り出した。 「ルールはごくシンプルに行きましょう。一番強いカードの方が勝ち、それ以外の方は勝った方に自分の賭けた分のチップを渡す。引いたカードの交換は一度のみ、ゲームの旅に新たな箱を開くといったところでどうです?」 「オレは一発勝負でも構わないぜ?」 「あ、でもカード交換があるなら助かるよ。やっぱ、一瞬でも長く夢みたいじゃん」 「どんなルールでもええよ? ただしやるからには負けへんで。運だけなら誰にも負けへん! ……たぶんな」 「ではそのように」 「なあ、ルルーさんよ。オレが勝ったら、アンタのファスナー下ろしてもらうぜ?」 「え、ファルファレロ、君何言っての?」 「ファスナーって、何のこと?」 「いいよな、ルルー? あんたもギャンブラーなら受けて立てよ」 不遜に不敵にそう宣言した彼に、赤いクマは鋭い爪を一本口元に当て微笑む。 「いいですよ。ただし、ファルファレロさんも覚悟してくださいね?」 「構わないぜ」 「なんや、ルルーから妙な迫力が……」 「巻き込まれないようにしよう、うん」 「では、カードを確認してください」 ギャンブルの夜が幕を開ける―― カードが配られ、とりあえずはお手並み拝見といったノリの中、 「ロイヤルストレートフラッシュ。悪いな、オレの勝ちだ」 積み上げられたチップと重ねられたカードの山の上へと、最後にファルファレロが自分の手札を開く。 「いきなり凄いカードきたんね。ギャンブルって早々うまくいくモンでもないんやなぁ」 「これで勝ったと思うなよぉ!」 感心する晦の隣で、テーブルに突っ伏し、トナカイ・ツィーダがじたじたと嘆く。 「ま、ギャンブルってのはいいよな。人生と同じ。生死のギリギリに賭けてこそ生きてる実感が持てる」 足を組み、踏ん反り返り、勝者の笑みで睥睨する。 「そう思うだろ、ルルーさんよ?」 「ええ。ギャンブルはまさしく一瞬の選択、判断が、命を左右しますからね」 「よし、景気づけに酒持って来い! ……は? 酒がない? じゃあブランデーだ。紅茶に入れる」 「なんや、豪快な注ぎっぷりやねぇ」 「ソレってもう紅茶風味のブランデーだよね!?」 「こまけぇこと気にすんな。次行け、次」 上機嫌なファルファレロに促され、ゲームは続く。 金銭は賭けられていない。 だがギャンブルをしているというだけでヒトは時に異様なほど燃えてしまうモノなのだろう。 「嘘だ! なんでなんで、うわあ…っ!」 フラッシュを狙ってのカード交換が災いしたらしい。ツィーダがテーブルに撃沈する。 「Shit」 「言うたやろ? 運ならだれにも負けへんて」 晦が手にした鮮やかなロイヤルストレートフラッシュに、ぐうの音も出ない。 紅茶が運ばれ、プディングやローストチキンのサンドウィッチ等が取り分けられては、ゲームの勝者へより多くの品が積み上げられていく。 勝利の女神の寵愛を受けている晦の周りにはほとんど余白がない。 ほくほくと、時に負けても基本勝ちの多い彼は、誰よりも無邪気で幸せそうに積まれた菓子を頬張り笑っていた。 勝って、負けて、また誰が勝って。 そうして迎えた、運命の十戦目―― 「じゃーん、ストレートフラッシュ、キタコレ!」 それまでただひとり負けのこんでいたツィーダが、チョコとクッキーと稲荷寿司と葉巻の上に自分の手札を開いた。 「な、なんでや!?」 「おや、すばらしい」 これまでとことん負けが込んでいたツィーダの手の中に、美しいスペードのストレートフラッシュが輝いている。 他のモノ手札はどれも、ワンペアか、よくてツーペアと散々な有様なのにも関わらず、だ。 「ま、ボクが本気だしたらこんなもんじゃない?」 「Bullshit!」 ガタン…っと、ファルファレロは盛大にイスを蹴倒し、立ち上がる。 「イカサマだろ、イカサマじゃねえのか」 持ち前の勘の良さが、この勝負が仕組まれたものだと告げていた。その声を無視することはできなかったのだろう。 だが、ツィーダは涼やかな表情でソレを退ける。 「イカサマ? そんなわけないじゃん。というか、イカサマは現行犯逮捕でしょ。その瞬間を掴まなきゃ単なる言いがかり、負け惜しみ的な?」 そこにあるのは勝者の余裕だ。 「え? イカサマってしてもええの?」 やるやらない以前に、そんな方法に思い至ることすらなかった晦は、ただひたすらにきょとんとして彼らを見やる。 「てめぇの手の内、読めねぇとでも思ってんのか?」 「でも、この勝負はもうついてるんだよねー」 「納得いかねぇ、これで勝負つけようぜ!」 がっちりとルルーを抱え込み、ファルファレロはそのこめかみに銃を突きつけ、剣呑な眼差しをこのゲームの勝者――ツィーダへと向ける。 「てめぇが本当に運だけで勝ったってんなら、ロシアンルーレットでも文句ねぇだろ?」 「あるよ、文句!」 抱きあげられてプランプランしているクマ司書を横目に見つつ、ツィーダは反射的に異議申し立てを行う。 結論から言えば――イカサマはあった。しかし、自分の手の内を知る晦とファルファレロの隙を突くためにツィーダはここまで我慢したのだ。 カードの偽造、生成、そして相手に良手を引かせてなお一度だけ許されたカード交換の時に自身へより良い手札を回すためのテクニックは周到だ。 「ねえ、ファルファレロさん」 「なんだよ!」 「イカサマはそれを見破れなければイカサマじゃないんです」 いまだ銃口を突き付けられているクマは、その境遇には似つかわしくない笑みを浮かべてツィーダを見る。 「でも、次はないかもしれませんよ、ツィーダさん」 静かな声に有無を言わせぬ宣戦布告が滲み出ていた。 「そうだな、次だ。」 ツィーダは背筋に氷塊がざらざらと流れて行くような感覚と共に、何か決定的なピンチが訪れていることを理解する。 しかし、ポーカーは顔色を変えたモノの負けだ。 「ボクに勝てるかな?」 ツィーダはにやりと笑い、応じて。 「ほなら、はよう次のゲームにいかへん?」 ひとりニコニコと純真無垢な笑顔で、晦もまた次のゲームを促した。 意地とプライドと菓子を賭けたギャンブル・ティーパーティの夜はまだ明けない。
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