●聖なる夜よ、爆発しろ 十二月二十四日。 壱番世界では師も走る、仕事納め直前の慌しい日。 クリスマス? 何ですかそれは。栗の酢漬けか何かでしょうか。 ……などと興味の無いふりを装ってみても、ターミナルは何だか赤と緑が強調されて浮かれた雰囲気だし、カフェやケーキ屋だっていつもの五割増で甘い香りに気合を入れている気がする。 更には通りを歩くロストナンバーの中にも、明らかに浮かれて幸せ満載特盛一丁! な奴の多いこと。ああ知ってるぞ、お前らリア充ってやつだろう。どうせ二十四日はお手手繋いでいちゃいちゃするんだろ! バーカ! 爆発しろ! こういった具合で周囲を呪っているような独り身連中をターゲットにする店があるのを、ロストナンバー諸氏はご存知だろうか。 それはターミナルの某所にあるこじんまりとしたケーキショップ。オーナーパティシエの腕は勿論一流で、併設された瀟洒なカフェスペースではとびきりの紅茶や珈琲がお出迎え。 そんな店ならば、いかにもカップルが好んで買いそうなクリスマスケーキで盛り上がり……も勿論しているが、二十四日の夜に、奇妙なイベントでモテないロストナンバーたちを集めているらしい。 その名も『クリスマスなんか爆発しろナイト』。……そのまま過ぎてツッコむ隙が無い。二十四日の深夜から二十五日の明け方までお一人様大歓迎のケーキバイキングカフェとなり、幸せなクリスマスを呪いながらひたすらケーキを食べるという甘いんだか苦いんだか分からないイベントだ。 勿論、卑屈な思いを抱えなくとも美味しいケーキ目当てで訪れる客も多い。しかし、このイベントの最大の特徴はリピーターが殆ど居ないことと言われている。……そう、このイベントでケーキを自棄食いすると、何故か来年恋人が出来るという都市伝説のようなものが実しやかに囁かれているのだ。 一縷の望みをかけるもよし、とりあえず美味しいケーキに舌鼓を打つもよし。今宵、ケーキだけがあなたを裏切らない……はず。***●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
諸人挙りて、主は来ませり。いつもと違う聖なる夜を迎えたターミナルは、赤に緑にイルミネーションに、街全体がお祭り騒ぎだ。共に手を繋ぐ相手がいればよし、居なければ……それなりに肩身の狭いこの一大イベントを、誰もがどうにか楽しく過ごせるようにと、とあるケーキショップが善意(?)で始めたバイキングパーティー「クリスマスなんか爆発しろナイト」。どこからどう噂が生まれたのか定かではないが、恋愛成就の願掛けでやってくる独り者の多いこと多いこと。販売用のクリスマスケーキを求める客は殆ど退けており、カフェスペースは若干異様な雰囲気が漂っている。 そんな中、混雑のため4人がけのテーブルに相席したロストナンバーたちも例に漏れずケーキと、いや己と向かい合っていた。 「……何で俺はここに居るんだ……!?」 テーブルに頬杖をつき、だらしなく腰掛けて虎部隆はメロンソーダをちゅるちゅると啜るように飲んでいる。クリスマスだからって何となく、ちょっとだけ服をワイルドにキメてみたものの、可愛い女子から逆ナンされるわけでもない。寂しい現実を目の当たりにし、物理的・概念的・法的に……様々なアプローチでクリスマスを消滅させられないか考えてみるものの、うん、無理だ。結果ますますやる気の無い表情でフォークを口にくわえ、対照的に満面の笑みでケーキを山と持ってくる一一一をぼんやりと眺める。 「よく食うなぁヒメやん……」 「女の子って、甘いものは普段の胃袋の五倍は入るんですよ? 勿論別腹で」 さも当然のように言い切って、ホールで持ってきたザッハトルテをフォークで大きくカットし口に運ぶ一はうっとり顔。単純に甘いもので幸せに浸っているだけではなさそうで……。 「そんなことより、続き聞いてくださいよ! ちょっと背伸びした服の私に王子様はいつもの君でも良かったのにっていって優しく笑って手を差し伸べてくれて、私は照れつつもその手を取ってゆっくりと階段を上がりムーディな雰囲気としっとりした音楽に包まれた大人なレストランでディナーを楽しんだあと最後にこんなケーキが振る舞われて~えへへ~」 来年現れると信じて疑わない王子様の妄想大爆発で乙女モードの一はケーキより甘いオーラを放っている。 「ひ、独り身の癖に何でそんな希望に満ち溢れてんだよ!」 一の暴走モードにあてられたのかさっきまでのクリスマス消滅プランはどこへやら、一に負けじと厚切りのシフォンケーキにがっつく隆。勿論、食べたケーキの数だけ出会いがあると信じて! 「リア充爆発しろ……? ライオンカップルに言ってやりたい一言ですわね~」 椅子の上にちょこんと乗って、前足二本を器用にテーブルに載せながらふんふんとケーキの匂いを嗅ぐファリア・ハイエナ。彼女の世界でいうリア充とはライオンのことらしいが、面と向かって言うと後が怖いようでおとなしくブッシュドノエルをがっついている。 「あぁ~、あたくしにも雄がいればいいのに……って誰よ?」 何か気配を感じ、ファリアが空いていた隣の席に目を遣れば、そこには金ぴかのスーツにド派手な星条旗柄のシルクハットという出で立ちの間下譲二が居た。ファリアは譲二と顔を合わせたことがあるが、記憶の中の姿と大分異なる服装で脳内に疑問符が飛び交っている。 ファリアが戸惑うほど奇天烈な格好を譲二がしているのには勿論理由がある。クリスマスといえばターミナル中の美少女・美女が自分を取り合って大変な騒ぎになるのだと譲二は信じて疑わなかったのだから。今日の服装も彼なりの勝負服だったわけだが、残念ながら現実はケーキほど甘くない。自棄酒を煽ろうにも、ターミナル中の店にカップルが居そうで癪に障る。たまたま見かけた『クリスマスなんか爆発しろナイト』の看板にひかれてふらふらとやってきた……というわけである。 「酒ァ無えのか酒っ!!」 「……あー! この前の負け犬! あんたもケーキ、食いにきたんでしょ?」 派手な格好に似合わない寂しげな背中を見て何かを察したファリアがにやりと笑って譲二に隣の席を勧める。 「うるせえ、野良犬! 俺ァ女なんてよりどりみどりなんだよ!」 「おいおいおっさん、ここに来といてそのハッタリはねぇだろ? いいから食おうぜ。ほれ、あ~ん」 「あァ!? 何が哀しくてクリスマスにケーキなんざ……」 シュガーハイというやつだろうか、半ば自棄になってフォークに刺したチーズケーキを譲二に食べさせようとする隆。勿論頑として受け付けない譲二だったが、このイベントの伝説を聞いてころりと態度は豹変。 「そんなことなら最初から言いやがれ! ……ま、まー俺ァそんなの必要ねぇけどな?」 「え~いいじゃないですか! 美味しいケーキ食べ放題で運命の王子様が現れるんですよ? あっあのショートケーキ美味しそう」 話を聞いているのかいないのか、一が食べるペースを全く崩さずに苺ショートケーキのホールに狙いを定める。いつの間にか積み上げられた空皿の多さに、思わず視覚で胸焼けを起こしそうな他のメンバーであった。 「……そいつぁいけねえお嬢さん、俺ァ所詮カタギのあんたとは結ばれない運命……いいえ! 譲二様なら陽の当たる世界を歩いてくださるって信じておりますの……お嬢さん……譲二様……! なーんてな! なッ!!」 「……それでそれで、私はウッカリいつものように子供っぽくそれに喜んで食べちゃうんだけど、そうしたら口の端にクリームがついちゃっててそれを王子様が笑いながらハンカチで拭ってくれたあとケーキを差し出して『ハイ、あーん』ってみたいな、みたいなー!!!」 「……はいはい、あーん」 一に負けず劣らずのペースで次々とケーキを平らげながら、未来に現れる(と頑なに信じている)美女との妄想会話を熱演する譲二、その向かいで王子様との妄想デート話が止まらない一。テンション爆上がりの一に背中をバンバン叩かれて、最早聞き流すしかない隆はげんなりしながらミルクレープを『あーん』してやる。 「……リア充って、こういう人のことを言うんでしたかしら?」 「それは違うんじゃね……?」 ファリアの発した素朴な疑問、それをさらりと否定する隆。とはいえ、来年の甘い幸せを信じたいお年頃。 「まあ、食うぜこんちきしょー! 来年の俺を見てろよ!!!」 明日の胸焼けと体重計のことはとりあえず置いといて、Merry X'mas&Happy new year!聖なる夜の妄想よ、どうか現実となりますように。
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