「クリスマス、か」 ティアラ・アレンは、古書店『Pandora』のカウンターからガラス越しに外を眺め、そう呟く。 店の出窓には、並べられた本と一緒に、小さなクリスマスツリーが飾られていた。 ティアラの故郷では、クリスマスという習慣はなく、こちらの世界に来てから知ったのだが、偉大な魔法使いの誕生を祝う祭りなどはあったから、どこも同じようなものなんだと妙に納得した記憶がある。 いつか整理しなくては、と思い続けていた倉庫は、本をもらってくれた人たちのおかげで片付いたので、クリスマスには、いつものように店番をしながら、のんびり本でも読んで過ごそうかと考えていた。 飾りが明かりを反射し、きらきらと光るクリスマスツリーをぼんやりと眺め、何気なく動かした視線が、カウンターに置いてあった、自作のチラシの文句を捉える。「そうだ!」 ふとひらめいたアイディアに、ティアラは指をパチンと鳴らした。 店の看板商品となっている、希望の人物を主人公に物語を創作してくれる本の、クリスマスバージョンを作ったらどうかと思ったのだ。 現在の本を創りあげるのには様々な苦労があったが、少しアレンジするだけであれば、それほど難しくはない。「よっし! やるわよ!」 ティアラは早速、気合とともに、店の奥へと向かった。「これでOK!」 そしてクリスマスイブ。 ティアラは作ったチラシを店頭に貼ると、満足げに微笑む。 あれから研究を重ね、ついにクリスマスのための魔法の本が完成した。 またよく分からない本が数十冊ほど出来上がってしまったが、研究には犠牲が付き物だし、倉庫も空いているので問題ない。「あとはお客さんが来てくれるのを待つだけね!」 彼女は力強く頷くと、店の中へと戻った。●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
臣 雀、一ノ瀬 夏也、キリル・ディクローズの三人は、少し緊張したような面持ちで、しかし期待に満ちた眼差しで、ティアラの方を見る。 そして、本は魔法の光に包まれた。 ◇ ◇ ◇ 「ここがドラゴンがいるっていう山ね」 夏也はそう言うと、愛用のカメラで周りの写真を撮りました。灰色のごつごつした岩肌が、ずっと続いています。 「殺風景だね」 雀もぽつりとつぶやきました。 この火山にある洞窟には悪いドラゴンがすんでいて、近くの町の人がとても困っていたので、勇者である雀は放っておけず、退治を引き受けることになったのです。 ドラゴンは財宝を隠しているとも言われていましたから、子供たちに配るプレゼントを探していた、見習いサンタの夏也も手伝うことになりました。 「待って!」 洞窟に入ってしばらく。 夏也が雀に声をかけ、引き止めます。そして、近くに落ちていた石を、前に向かって放り投げました。 すると、大きな音がして壁が崩れ落ち、道は埋まってしまいます。 「危なかった~! ありがとう」 「人為的な罠があるのね。ドラゴンの財宝と関係あるのかしら?」 二人は顔を見合わせると、慎重に進んで行きます。 ◇ 「みゅ……」 今日はクリスマス。 サンタクロースの弟子のキリルは、白い大きな袋を引きずりながら、プレゼントを配っていました。 けれども、こっそりプレゼントを置かなければならないのに、間違えてチャイムを鳴らしてしまったり、うっかり転んで寝ている人を起こしてしまったり、失敗続きです。 でも、キリルはサンタさんですから、頑張らなければいけません。 「みゅ!?」 「サンタさん、ありがとう!」 しかし今度も、目が覚めた子にばれてしまいました。 でもすごく喜んでくれたから、キリルは、はにかんだ笑顔でお辞儀をします。 ◆ その先には、黄色い大きな二つの目が待ち構えていました。 「跳んで!」 雀は夏也に向かってそう叫ぶと、自分も反対の方向へと跳びます。そのすぐ後を、灼熱の息吹が通り過ぎました。 「あたしに任せて、夏也さんは隠れてて!」 そうして、雀は背負っていた大きな剣を抜き、ドラゴンへと向かって走ります。 ドラゴンは雀に向けて炎の息吹を何度も吐きますが、雀はそれをひらりとかわし、剣を振るいました。しかし、ドラゴンも負けてはいません。 激しい攻防が続き、やがて焦ったドラゴンが、丸太のような尻尾を振るい、バランスを崩しました。 雀の剣が、ドラゴンに突き立てられようとしたその時――小さな影が、ドラゴンと雀の間に飛び出しました。 ◇ 「おおキリル、お帰り。ほれ、頑張ったご褒美じゃ。メリークリスマス!」 キリルがサンタの家に帰ってくると、そう言ってお師匠さんが、キリルに小さなサンタ帽子をくれました。 「めりくり、めりくり。ありがとう、ありがとう」 「帰ってきてすぐですまないんだが、また出かけてくれるか? 弟子が困っているようでの」 「困ったら助けあう、あう」 「そうじゃな。――三番じゃぞ」 そうしてキリルとトナカイは、『3』と書かれたドアを開け、飛び出します。 こうやってサンタさんは、いろんな世界へとすぐに行けるのです。 ◇ ◆ それは、小さなドラゴンでした。 赤ちゃんドラゴンは、お母さんを守るように立ち、かぼそい声で鳴きます。雀は、剣を持つ手を下ろしました。 「ひょっとして、子供を守ろうとして、ここに近づく人たちを威嚇してたの?」 赤ちゃんドラゴンは、震えながら雀を見ています。 「ごめんなさい、何も知らなくて」 雀が謝ると、赤ちゃんは不思議そうに目を丸くしました。 その時、どこかに行っていた夏也も、戻って来ました。 「奥を見てきたの。人工的な部屋があって、空っぽだった」 夏也は、そう言って考え込みます。 「罠が発動した跡が沢山あるし、ここって盗賊団とかのアジトだったのかも。もしかしたら――ううん、きっと、罠もドラゴンの仕業だって思ってる人がいる」 「じゃあ、事情を話して、町の人には火山に近づかないでって言えばいいんじゃない?」 「でも、もう町の人は相当頭にきてる。私たちが退治するって言ったから納得したようなものだもの」 「じゃあ、どうしたらいいんだろう……」 お母さんドラゴンと赤ちゃんは、不安そうに身を寄せ合っています。 「お困りのようだね」 夏也と雀が顔をあげると、そこにはすらりと足の長いトナカイが立っていました。背中には、小さなキリルが乗っています。 「お師匠が、助けて、助けてあげてって」 「師匠が!?」 驚く夏也に、キリルは、またはにかむようにして微笑みました。 そしてドラゴンの親子は、キリルとトナカイの案内で、誰にも見つからないようにそっと火山を飛び立ち、夏也と雀は町へと戻ると、もう悪いドラゴンは倒したとみんなに伝えました。 ドラゴンの親子は無事に新しいすみかを見つけ、財宝を手に入れられなかった夏也は、新しいプレゼントを探しに行くことになるはずだったのですが……。 それから数日後のことです。 プレゼントを探しに行く準備をしていた三人の前に(そう、雀とキリルも一緒です!)、また、あのドラゴンが現れました。赤ちゃんの姿はありませんでしたが、怪我もなおり、とても元気そうでした。 「何しに戻ってきたの!? 危ないじゃない!」 雀が思わず、大きな声を出します。もし誰かに見つかったら、酷い目にあわされるかもしれません。 けれどもドラゴンは三人をじっと見ると、大きな前足をそっと地面に近づけ、広げました。 そこからは、金貨や、宝石や、果物や、おもちゃや……たくさんのものがこぼれ出したではありませんか! 「これ……どうしたの?」 夏也が驚き、たずねると、ドラゴンは大きな目を動かして、キリルを見ました。 キリルはお師匠から言われたことを思い出し、はっとします。 「新しい、新しいドラゴンの島、ドラゴンは神様、神様」 「神様!?」 キリルの言葉に、雀と夏也は顔を見合わせます。やがて、夏也がぽんと手を叩きました。 「ドラゴンが神様として崇められてるってこと? これは、お供え物なのね?」 するとドラゴンは、嬉しそうに、太いしっぽを揺らします。 「でも、もらっちゃっていいの?」 「いいんだってさ」 聞き覚えのある声にそちらを向くと、ドラゴンの陰から出てきたのは、トナカイでした。 「君たちにはぜひお礼をしたいって言うから、危ない橋を渡って連れてきたんだ。島の人にも、これ、子供たちにプレゼントしていいですか? って聞いてみたけど、『へへーっ! もちろんでございます!』って言ってたぜ」 「プレゼントだって! よかった! これでクリスマスに間に合うね!」 「助けあい、あい」 雀とキリルも大喜びです。 「よし! 早速配る準備をしなきゃ!」 そうしてこの世界にも、クリスマスがやってきます。 ◇ ◇ ◇ 「わー! すごいすごい! こんな大冒険してみたかったの!」 「途中どうなるかと思ったけど、楽しかった!」 「みゅ……。サンタクロースも大変、大変だけど、ぼくもね、サンタクロースみたいな、立派な、立派な手紙屋になりたい」 三人が、口々に感想を言うと、ティアラも微笑んでそれに加わる。 そして、本の最後のページから、作成された挿絵を取り出すと、三人へと渡した。 「メリークリスマス!」 時が、いつもは訪れない夜に優しく包まれ、過ぎていく。
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