「……クリスマス。ロマンチックな恋が生まれる夜」 司書事務室の片隅にて、無名の司書は、頬に手を当て、うっとりと両目にお星様をキラキラ浮かべていた。まぁ、サングラスで隠れてるんで、遠目だとあんま、細かいこたぁわからないわけだが。「ブランさんは、バンドを組んでどーとかって言ってたわ! これぞ急接近のチャーーンス! あたしもバンドに参加してロックでパンクでシャウトなミュージックでフォーリンラブよ!」 鼻息荒く、無名の司書は駆け出そうとする。 しかし、その背に、砂糖菓子のような甘く可愛らしい声で、氷水をぶっかけるような内容の要請があったのだ。それまで、ずっと頬杖をついて考え事をしていた、エミリエ・ミイである。「ねー。黒いおねーさん。意味不明なこと言ってるとこみると、もっっっのすごくヒマなんだね。独り身はつらいねー」「お子ちゃまが何言ってるの、エミリエたん。おねーさんは、ブランさんを口説くんで忙しいのよ」「だっておねーさん、ふわもこロストナンバーに片っ端からプロボーズしてるけど、今までに108回断られてるじゃん」「109回目にOKが出るかもしれないじゃないッ!」「無駄無駄無駄な妄想は置いといて、エミリエを手伝ってよ。ターミナル中に、すっごいイタズラをしかけようと思うんだけど、どう?」 にやり。 くふふふ、とエミリエは微笑む。「……エミリエたんのイタズラって……。……まさか、あの禁断の」 無名の司書は、ごくりとつばを飲む。 忘れもしない。 秋のセクタン大発生。 セクタン、セクタン、セクタン、セクタン。右を向いても左を見ても、どこもかしこもぷるぷるですべすべでもこもこでふわふわでぽんぽこりんだらけの……。 その黒幕がエミリエだとかそうじゃないとかいろんな噂はあるが、ことの真偽は確かめられていない。「うん! イタズラだよ。思いっきりイタズラするんだよ。目標、クリスマスに沸き返るターミナル!」 エミリエは、すとんと椅子から降り、ぴっと人差し指で天を差す。「すっごいイタズラするんだよ! 徹底的に、絶対的に、感動的に、全体的に、潜在的に、根本的に、凶悪的に、頭脳的に、本格的に、基礎的に、本質的に、抜本的に、基本的に、具体的に、ものすっごく、そりゃもう、情け容赦のない子供騙しのようなしょーもないいたずらをするんだよ!!!! 合言葉は大山鳴動してねずみ一匹!! ……と、いうわけで、イタズラをしましょう。夜闇に紛れて。さあ、闘技場へGO!」 無名の司書のショールを、エミリエは引っ掴む。「え、えと? どうして闘技場?」「んもー、ものわかり悪いなぁ。これからたくさんぬいぐるみを作らなきゃなんないんだから、広い場所が必要でしょ?」「そっか……、なんだ、ぬいぐるみのセクタンね……。エミリエたんたら可愛い。……って」 チャイ=ブレの禁忌に挑むわけではないと知り、無名の司書は、ほっと胸を撫で下す。 しかしそれは同時に、別の過酷なミッションのゴングが鳴り響いた瞬間でもあった。 ターミナル中を埋め尽くすほどの、セクタンぬいぐるみの大量作成計画。 果たして、そんなことが可能なのだろうか……? ★ ★ ★。*・☆・!注意! このイラスト付きSSは、イベント掲示板と連動して行われます。イベント掲示板内に対応したスレッドが設けられていますので、ご確認下さい。掲示板への参加は義務ではなく、掲示板に参加していないキャラクターでもSSには参加できます●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
ACT.1■ミッションinコロッセオ 【エミリエ悪戯作業支援、三原則】 第一条:命令された作業は、正確・迅速に執り行なう 第二条:第一条に反しない限り、可能な限り緻密なヌイグルミの設計図を、構築・作成する 第三条:第一条・第二条に反しない限り、ヌイグルミの裁縫作成を行う 補足:自機の性能の範疇を超えるものに関しては、その限りではない 以上、設計図作成担当の、幽太郎の心意気である。 ACT.2■そして当然、イタズラは成功したわけですが 幽太郎くんが空を飛びターミナル中にセクタンぬいぬいの絨毯爆撃をし(でもぬいぬいだから当たっても痛くないよ)ぬいぬいを装填したセントリーガンが道行くロストナンバーの皆さんに自動無差別プレゼント攻撃するわルークくんが強靭な後脚でぽ〜〜んぽ〜〜んとぬいぬいを飛ばして画廊街の入口や各店舗前にセクタンピラミッドを形成するわあかりたんが隙間という隙間にお約束的にセクタンをみっちり詰め込んでいくわ裁縫上手なルオンたんのおかげで見事な仕上がりになった偽セクタンフォームのトナカイやスノーマンやペガサスは通りすがりの皆さんに大好評を博し各自大喜びで捕獲しほくほく持ち帰るわ3番ホームにダンシングセクタンツリーがずらっと立ち並んで足の踏み場もないわロストレイル3号の全座席が全部ぬいぬいにジャックされるわ車掌さんの頭にもデフォルトセクタンが乗せられるわでもそれは不器用なぬれ羽くんが指を絆創膏だらけにしながら制作したものなんで縫い目がアバンギャルドなギザギザでところどころ血痕が残ったセクタンシュタインだわマナさんのワゴンの販売物が全部ロボフォームセクタンにすり替えられててしかもロボにはラジコンが仕込まれてて車内を激走するわリベルさんのお部屋にも巨大セクタン型の袋(ぬれ羽くん作)にセクタンぎっしりコンプリート詰め合わせプレゼントがあって袋からこぼれ出たサンタ服の可動式ロボタンがよりによって『導きの書』の上でノリノリでウエストをシェイクしてリベルさんを固まらせるわ誰に何をどう突っ込んでいいのかそもそもこのイタズラを考えた皆さんは何で一番バレちゃいけないひとにうっかり届けちゃうかなぁ。 とにかく、リベルさんには、速攻でバレちゃいました。 そんで、全員、とっつかまりました。 あかりたんは、エミリエたんを引っ掴んで逃げてくれたんだけどね。 ルークくんとか、超ジャンプしたんだけどね。足、速いんだけどね。 ルオンたんはドジっ娘なので、すっころびました。 幽太郎くんは光学迷彩で隠れたのに、見つかっちゃいました。ななななんで? リベルさん、エスパー? ああっと、視力のいいぬれ羽くんにだけは、ダッシュしてきたリベルさんの勇姿が1キロ先から見えたみたいなんだけど、無言のままでした。だってめんどいし。シオンがコロッセオに持ってきたケーキをまだ食べてる最中だし。もぎゅもぎゅ。 ACT.3■リベル・セヴァンの報告書 聖夜のターミナルを席巻した【偽セクタン大量発生事件】の顛末につきまして。 まずは、結論から報告いたします。 主犯は、エミリエ・ミイ。 共犯は、無名の司書。 協力者は、墨染ぬれ羽、ルオン・フィーリム、幽太郎・AHI/MD-01P、仁科あかり、ルークの5名。 ブレーンとして、虎部隆、バナーの2名。 資材調達は、シオン・ユング。 なお、篠宮紗弓も顔出ししたようですが、美味しいワッフルを差し入れたとのことなので潔白とします。 ++ 「どうしてこんなことになったのか、お聞きしたいのですが」 図書館ホールの一角で、リベルは報告書作成のため、事情聴取を始めた。 ……とはいえ。 犯人はわかっているし、協力者たちは、善意や興味で加わっただけのようだし、大騒ぎを巻き起こしたわりには被害自体はさほどのことはないのだが……。 「ふごーーー! むごーー!」 「ふごごごごーーー!!!」 赤のミニスカサンタなエミリエと、黒のミニスカサンタ(いつの間にか着替えてた)な無名の司書が、さるぐるわをかまされ、全身を荒縄で海老フライ状にぐるぐる巻きにされ、ホールのすみっこで、びちびちはねている。 こいつらは主犯と共犯なので、リベルさんがチャイ=ブレに代わっておしおきよ! になってるわけだが、ぬれ羽くん、ルオンたん、幽太郎くん、あかりたん、ルークくんについては、巻き込まれた被害者とも考えられるため、報告書作成後はリベルの判断で裁いてよかろう。 「ずみまぜーん。音ど衝撃ど光に反応じで音楽流じだら踊るオモヂャを、壱番世界にいだジオンざんに頼んで、ぬいぐるみの中に仕込んだのはわだじでずぅ」 素直なあかりは、号泣しながらも、親切丁寧適切かつわかりやすい白状を行っている。さすが13歳女子。 リベルはペンを手に、あかりに向き直る。 「詳しく説明していただけますか?」 「ゼグダンヅリーど合わぜ技にもじまじだ。バナーざんが提案じだロボ ダンも幾づが完成ざぜまじだ」 「それは、どういう意図で?」 「やりだい衝動に突ぎ動がざれだんでずぅ。神出鬼没なら驚いでもらえるど思いまじだ」 スケボーやラジコンカーにセクタンぬいぐるみを乗せ、ロストレイル内を走らせたのもあかりであるらしい。ちなみにラジコンカーは私物だそうな。 「皆が面白がっでぐれだらど思っだです。悪気はながっだですよゔーゔおおおおん!」 「……なるほど」 ACT.4■いったい何が起こったか そして、リベルはメモを取りながら構成してみる。 ぬいぐるみ作成における、長い道のりを。 ++ ++ 幽太郎が、あかりのセクタンを分析し、製作難度別に型紙を作る。 ぬれ羽が、差し入れのケーキをもぐもぐ食べながらセクタンシュタインを大量増産し、ピンクの布で作った巨大セクタンの中にセクタンケンシュタインを放り込んでいく。まるでビッグセクタンがちびセクタンを捕食してるごとくに。 裁縫が大好きなルオンは、手慣れた手付きで布に印を付け、布を切り、楽しそうに丁寧にぬいぐるみを縫っていく。 「あはっ♪ 我ながら可愛く出来たかも~っ。いくつか友達に持って帰ろうかな」 「バカッ、わたしのバカ! 中途半端だ! なぜネタの神が降りない!!」 最初に作ったロボフォームが、ふつーになっちゃったあかりが、がっくりポーズをし、 「中に機械を仕込むんだよね?」 仕上げ担当のルオンがアレンジを加え、 「できたものは、端に寄せておくよ」 ルークがぽんぽーんぽーんと、小気味よく蹴り上げては積み上げ、作業場所を確保する。 なんと見事な連係プレー。 エミリエたんは見てるだけ。 無名の司書はセクタンの山に埋もれてただけだった。 ++ 「ごめんなざーい! もう二度とこんなことは……しますん!」 「……どっちですか、仁科さん。しかし、よくわかりました」 リベルはメモを閉じる。 「全責任はふたりの司書に取らせます。皆さんに罪はありません。どうぞお帰りください」 「「「「「 ……!!?? 」」」」」 リベルの温情裁きに、5人は顔を見合わせる。 許してくれるのはうれしいけど……、どうしてこんな簡単に……? そういえば……。 リベルさん……、 セクタン詰め合わせ袋を開けたとき……、 ほんの少しだけど……、 うれしそうな顔をした、ような? 謎を秘めたまま、セクタンまみれの夜は更ける。
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