オープニング

「館長。お話があります」
 レディ・カリスが直々にアリッサの執務室を訪れたのは、ヴォロスでの烙聖節が無事に終わった頃のことだった。
「そろそろ、『世界樹旅団』に対して明確な方針を打ち出すべきではないでしょうか」
「うーん」
 アリッサは考えこむ。
 当面、ターミナルで暮らすことになったハンス青年は、おそらく無害な普通人である。一方、世界群ではいまだに、旅団のツーリストが引き起こす事件の報告が入ってきているのだ。
「そうよね。ちょっと考えさせてくれない?」
 アリッサは言った。
 レディ・カリスは、アリッサが旅団に対して積極的な攻勢に出るなどとは期待していなかった。そもそもできることはと言えば、せいぜいが各世界群での警備に力を入れるくらいだろう。それでもまったく手をこまねいているよりはましだ。
 だが、カリスは忘れていたのだ。
 アリッサの思考がときとして、そんな常識的な判断をはるかに凌駕することを。

 数日後、世界司書たちは図書館ホールに集められていた。なんでも館長アリッサからなにかお達しがあるというのである。すでに、レディ・カリスがアリッサに面談したことは噂になっている。場合によっては、世界樹旅団への正式な宣戦布告があるかもしれないという予測もあって、緊張する司書もいた。
「みんな、こんにちはー。いつもお仕事ご苦労様です」
 やがて、壇上にあらわれたアリッサが口を開いた。
「今日集まってもらったのは、今度行う行事についてです。ロストナンバーのみんなが参加できる『運動会』をやりたいと思います!!」
 運動会……だと……?
 予期せぬ発表に司書たちは顔を見合わせた。
「会場は、壱番世界、ヴォロス、ブルーインブルー、インヤンガイ、モフトピア。5つの世界をロストレイルで移動しながらいろんな競技をやるの!」
「楽しそう!」
 最初に反応したのあはエミリエだった。
「でも運動会ってことは、チーム対抗? 組み分けはどうするの?」
「図書館チームと旅団チームの対抗戦です!」
「あ、そうなんだ。旅団チームと対戦かぁ…………。え……?」
「館長」
 リベルがおずおずと挙手する。
「念のため、確認しますが、旅団とは世界樹旅団のことでしょうか」
「そうだよ。ほら、これ」
 アリッサが手にしてみせたのは、ウッドパッドと呼ばれるかれらが通信手段として用いている機器だった。
「どうにかつながりそうだったから、これでメールを送ってみたの」
 見れば、ウッドパッドからケーブルが伸びていて、宇治喜撰241673に接続されており、茶缶に似た世界司書からは白い煙が上がっていた。
「ちょっと待て! 返事は来たのか!?」
「ううん。でも時間と場所は伝えてあるから」
「旅団に開催地と時刻を知られている状態で運動会をするのですか? もし、敵が攻撃してきたら!?」
「応戦するよ。当然じゃない」
「で、でも運動会は旅団とやるって」
「参加してくれるならやるよ。攻撃してきた人もお誘いしてみて」
「ま、待ってくれ、よく理解が……」
「要するに、同じ日時・同じ場所で、戦争と運動会の両方をやるの!」
 ざわざわざわ。
 図書館ホールはどよめきに包まれている。
「……カリス様?」
「……わたくしはしばらく休養します」
 ウィリアムは、そっと話しかけたが、レディ・カリスはかぼそい声でそう言っただけだった。

  *

 一方、その頃、ディラックの空のいずこかにある、世界樹旅団の拠点では、ウッドパッドのネットワークに送られてきた謎のメッセージが話題になっていた。
「これは一体?」
「罠にしても、あんまりだしな……」
「とりあえず、偵察に行ってみたらどうだ?」
「この日時に、この場所に連中がいるのが確実なら、一掃してしまえば、あとあと活動がやりやすくなるしな」
「よし、いくか!」
 そんな様子を横目に、ドクタークランチは我関せずと言った顔だ。
「……よろしいのでしょうか」
「くだらん。悪い冗談だ。行きたいやつは行かせておくがいい」

  *

「この運動会にはふたつの意味があるの」
 アリッサは、続けた。
「ひとつは、文字通り、運動会にお誘いしてみて、旅団の人たちの中で、私たちと交流してもいいという人を見つけるということ。もうひとつは、どの世界にでも私たちはいつでも大軍を送り込むことができるということを知ってもらう、一種の示威行為ね。だから、みんなには、思いっきり派手に暴れてきてほしいの」

  *

 インヤンガイの東に位置する、生き物の気配が一切ない朽ちた建物ばかりの地区がある。
 ゴースト・タウン――王林。
 十年も昔、大きな災害に見舞われ大勢の人間が死亡、生き残った者たちは他の地区に移った。その地区が他の地区からやや遠くにあったために捨て去られた土地。
「ここには、そのせいか多くの暴霊が集まり、別の名では『死霊の街』と言われ、人はほとんどこない」
 説明したのは仮面探偵フェイ。
 今回の運動会を現地人としてサポート役を買って出てくれたのだ。
「この街を真っ直ぐに駆け抜けもらう。なに、街そのものはちょっと広いテーマパークみたいなものだ。お前たちにならできるだろう……ただし、先ほども言ったように暴霊がうようよしているし、建物そのものはかなり痛んでいるから気をつけないと危険だからな?」
 ここでの競技は障害物競走、否、障害仏である。
 駆け抜けている間に襲いかかる暴霊を蹴散らし、ときにはちぎって投げてを繰り広げつつゴールに向かって進まなくてはいけないのだ。
 それも街そのものが競争フィールドとなるのでただ走るだけではない、建物の上を飛ぶこともできる。ただし、空を飛べる能力の者は立ち並ぶビルくらいの高さまでの飛行のみが許可されている。飛行能力を使っては競技の意味がないのとともにあまり高く飛んでいると目立って真っ先に霊たちの集中攻撃を受ける可能性が高いからだ。
「みんなが怪我をした場合やなにかあった場合は俺と裏方にまわる人間がフォローにまわる。あと、お弁当の用意も……って、ない!」
 ええええ。お弁当がない! インヤンガイ特性きのこ弁当、楽しみにしていたのに、犯人だれだよっ!

「ふん、本当にくだらないことをしているのでありますな」
 ん、声? それも、なんかこの不愉快極まれない声は、わりと頻繁に聞いているような気が。
 なんとなくいやーな気持ちになりつつロストナンバーたちは顔をあげる。
 三階建の屋上から見下すのは百足兵衛。そして、その手にあるのは弁当。
 こ、こいつか。こいつなのか弁当泥棒は!
 なんっー、姑息なことを。絶対にこいつ、運動会とかのイベントのときわざとさかさまてるてる坊主作るタイプだ!

「百足……この手で奴を殺すっ」
 ざわつくなかで探偵フェイが憎悪をこもった声をあげる。
 と
「くだらないのでありまーすぅ!」
 え、なに。この可愛い声。
 なんと百足の横にちょこんと、彼の腰くらいの大きさに腰くらいの黒髪、セーラー服の女の子!
「きいてみてたかわらいするがいいのだー。わたくしは百足べーさまの、ええっと、何番目かの虫のきぃちゃんなのだー。お前たちのたのしいうんどうかいを邪魔してやるのだー。きぃちゃんはインヤンガイ専用に加工された虫さんの生き残りなのだー。この土地のことは記憶しているし、お前たちロストナンバーのことも記憶を食べたからわかっているのだ」
 女の子。女の子、え、虫。え、虫……え?

「きぃちゃん? あの姿、あの可愛くてもばかっぽい雰囲気、理想の妹……まさか……あぁ」
 ああ、フェイが倒れた。ちょ、しっかりしろ。お前、まだ戦いははじまったばかりだぜ。いきなりクライマックスにしてどうするっ

「……っ、なぜ女の子なんだ。水薙っ! 小生は虫のボディを作れといったのに!」
 百足が叫ぶ。その横には黒いコート服の水薙があらわれる。
「お前の依頼した虫のボディ、かわくいねぇんだもん。むしろ、かわいい女の子として作った俺のサービス精神に泣いて喜べ」 
「小生の大切な虫が嘆かわしいっ!」
 なんかマニアの争いしてるよ、あの人たち。
 ロストナンバーたちは唖然とした顔で世界樹旅団をみた。正直関わりたくない。
「……この際、見た目は妥協するであります。しかし、中身は」
「安心しろ。お前がここで作った虫の唯一の生き残り、その機能は衰えちゃいねぇぜ。それにきぃはこの世界で殺した女の記憶を持ってる、世界の知識、そしてこの平和馬鹿どもとの関わり深かったらしいから弱点も知ってるかもな? この世界での侵略にもっとも適しる。きぃの初仕事は豪華にしないとな? 俺もやるぜ!」
 ぱちんっと水薙が指を鳴らすと地面からにょきん、にょきんとなんか生えてきた。
 こ、これは
「たけのこ!」
 両手で抱きつけそうなくらいの大きさのたけのこがわらわらわらわらと地上から生まれてくる。
 その数、おおよそ百八十体!
 しゃきーんと並んだあと、たけのこ、たけのこいいながら散っていく。
「俺がこの日のために夜を徹して作った自動たけのこ爆弾。勝手に動いて敵と確認すれば一分後に爆発する。ふふふ、お前等をふっとばすのはもちろん、この街を破壊するにはもってこいだ」
「……予算の都合で、一体だけだと爆発したやつがアフロ程度の傷ですむがな」
「うるせーぞ、百足べー! ふん、てめぇと一緒にこの世界の侵略と一石二鳥でさせてもらうぜ」
すごいんだか、ばかなんだかわからない!

「きぃ、先手必勝であります。歌え」
「はーい。むかでべーさま」

 少女が歌う。
 とたんに体から力が抜けていく。あ、あれ。そう思ったときにはロストナンバーたちはへたりこんでいた。

「みたでありますか。霊力干渉による精神攻撃を」
 そういう百足、お前だってへたれこんでるじゃん。
「この技の弱点は、精神があるやつは、問答無用でえじきになるところだよなぁ……あー、ねむい、ものすごくねむい」

 LaLaLaLaLaLaLaLaLaLa!

「なにバカしてるの、あんたたち」
「迎えにあがったぞ、我が朋友よぅうううう!」
「ヘイヘイ、いっちょレースとしゃれこむんだぜぇ。きゃはははははははデスワ」
 高笑いとともにあらわれたのは白豹、全身が銀の鎧姿のケンタウロス、巨大バイクに乗った髑髏の仮面に巫女さん装束というけったいな集団。
「貴殿たちにはいろいろと借りがある。まだ小生たちの仲間は数名待機しているからな。これは戦争であります。いまここで世界も、すべて破壊してく」
「百足殿。さぁ我が朋友よ。心の友とかいて親友よ! いざ、敵と戦おうぞ! いざゆかん戦場へ!」
 鎧ケンタウロスに首根っこをつかまれて、ぐぇといいながら百足はものすごいスピードで星に、いや、風のように去っていく。
「いつもながらシルバィのおっさんはせっかちだな」
「ヘイヘイ、水薙、ワタクシたちもいきますわよ。敵も仏も、ワタクシのクール・ビューティ・炎でメガ一撃ですわよ!」
 バイクがぶるるんと鳴いてこれまたものすごいスピードで走り出す。
「きぃちゃんも邪魔するんです……裏道も、トラップも作るんです。けど、ちょっと楽しそう」
「適当に邪魔して、遊べばいいんじゃないの? 私はどっちでもいいんわ。さ、いくわよ」
 ひらりとさっていく白豹。

 歌の効果が消えて、ようやく立ち上がったロストナンバーたちは遅れを取り戻すため、走り出した。

 弁当と運動会、そして世界を守らないと!

<ご案内>
このパーティシナリオは11月23日頃より行われるイベント『世界横断運動会』関連のシナリオです。

同イベントは、掲示板形式で世界群でのさまざまな運動会競技が行われます。つまり今回のシナリオで行われる競技+掲示板で行われる競技からなるイベントということです。

シナリオ群では、競技のひとつと、「その競技を襲撃しようとする世界樹旅団との戦い」とが描写されます。このシナリオの結果によっては、掲示板イベントでの競技が中止になったり(攻撃により競技ができなくなった場合など)、競技の状況が変わることがあります。

シナリオ群『世界横断運動会』については、できるだけ多くの方にご参加いただきたいという趣旨により、同一キャラクターでの複数シナリオへの「抽選エントリー」はご遠慮下さい。

抽選が発生しなかった場合の空枠については、他シナリオにご参加中の方の参加も歓迎します。

品目パーティシナリオ 管理番号1498
クリエイター北野東眞(wdpb9025)
クリエイターコメント このパーティシナリオにはカオス・ギャグ要素がてんこもりです。残酷な人格崩壊、行動描写(笑い的な意味で)が予想されます。お気をつけください。
 間違ってもシリアスに転ぶことはありません。はっちゃけてください。

 はじめてのパーティシナリオです。いろいろとがんばります。
 このシナリオは以下の選択番号を最低一つ、最高二つまで選んでプレイングをお書きください。

【一】邪魔たけのこを回収
 街にいる暴霊、朽ちた建物をかいくぐりつつ、お邪魔たけのこ爆弾を回収、破壊しましょう。
 放置していると勝手に爆発して大変なことになります。また破壊に手間取るとアフロになったり、ふっ飛ばされたりするので気をつけてね。

【二】お弁当を取り戻す
 邪魔してくる旅団との戦闘がメインになります。
 オープニングでも数名出てきましたが、それ以外も多くいます。彼らは待ち伏せ、トラップ、己の力を使って邪魔してくるでしょう。
 あと大切なお弁当奪還も頭にいれつつ。
 いっぱい敵はいるので、百足ばかりフルボコにしないように。
 また、戦うのもいいですが、きぃちゃんみたいに一緒に楽しみたいなぁと思っている人もいるようですので、説得してみるのもいいかもしれません。

【三】裏方に徹する
 けが人が出たとき用に救急テントが張ってあります。
 協力者の探偵フェイもいますので話しかけてもいいですが、個人的にショックなことがあってあんまり役にたちません。

 どうぞ。運動会を楽しみつつ、がんばってバトルしてください。

参加者
飛天 鴉刃(cyfa4789)ツーリスト 女 23歳 龍人のアサシン
リエ・フー(cfrd1035)コンダクター 男 13歳 弓張月の用心棒
アルド・ヴェルクアベル(cynd7157)ツーリスト 男 15歳 幻術士
アマムシ(cmaa2148)ツーリスト 男 27歳 呪術の道具
ツィーダ(cpmc4617)ツーリスト その他 20歳 放浪AI
リーリス・キャロン(chse2070)ツーリスト その他 11歳 人喰い(吸精鬼)*/魔術師の卵
ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノ(cppx6659)コンダクター 女 16歳 女子大生
医龍・KSC/AW-05S(ctdh1944)ツーリスト その他 5歳 軍用人工生命体(試験体)
ベルゼ・フェアグリッド(csrp5664)ツーリスト 男 21歳 従者
オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072)ツーリスト 男 20歳 冒険者
ハーデ・ビラール(cfpn7524)ツーリスト 女 19歳 強攻偵察兵
風雅 慎(czwc5392)ツーリスト 男 19歳 仮面バトラー・アイテール
ベルファルド・ロックテイラー(csvd2115)ツーリスト 男 20歳 無職(遊び人?)
ディガー(creh4322)ツーリスト 男 19歳 掘削人
坂上 健(czzp3547)コンダクター 男 18歳 覚醒時:武器ヲタク高校生、現在:警察官
狩納 蒼月(ccmz3201)ツーリスト 男 37歳 退魔師
ヨシュア・カレイ(cbdb3460)ツーリスト 男 28歳 吸血鬼探偵(科学捜査員)
ほのか(cetr4711)ツーリスト 女 25歳 海神の花嫁
ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード(cpzt8399)ツーリスト 男 29歳 機動騎士
森間野・ ロイ・コケ(cryt6100)ツーリスト 女 9歳 お姉ちゃん/探偵の伴侶
旧校舎のアイドル・ススムくん(cepw2062)ロストメモリー その他 100歳 学校の精霊・旧校舎のアイドル
冬路 友護(cpvt3946)ツーリスト 男 19歳 悪魔ハンター
バーバラ・さち子(cnvp8543)ツーリスト 女 45歳 マジシャン
パティ・ポップ(cntb8616)ツーリスト 女 25歳 魔盗賊にして吟遊詩人
ギルバルド・ガイアグランデ・アーデルハイド(ccbw6323)ツーリスト 男 38歳 重戦士
ロイ・ベイロード(cdmu3618)ツーリスト 男 22歳 勇士
臣 雀(ctpv5323)ツーリスト 女 11歳 呪符師・八卦仙
刹那(cfmt3476)ツーリスト 女 20歳 忍者
呉藍(cwmu7274)ツーリスト 男 29歳 狗賓
青海 要(cfpv7865)コンダクター 女 18歳 銭湯の看板娘
ナオト・K・エルロット(cwdt7275)ツーリスト 男 20歳 ゴーストバスター
ふさふさ(ccvy5904)ツーリスト 男 4歳 天才物理学犬
蜘蛛の魔女(cpvd2879)ツーリスト 女 11歳 魔女
ローナ(cwuv1164)ツーリスト 女 22歳 試験用生体コアユニット
天倉 彗(cpen1536)コンダクター 女 22歳 銃使い
アコル・エツケート・サルマ(crwh1376)ツーリスト その他 83歳 蛇竜の妖術師
アルジャーノ(ceyv7517)ツーリスト その他 100歳 フリーター
ディーナ・ティモネン(cnuc9362)ツーリスト 女 23歳 逃亡者(犯罪者)/殺人鬼
日和坂 綾(crvw8100)コンダクター 女 17歳 燃える炎の赤ジャージ大学生
アマリリス・リーゼンブルグ(cbfm8372)ツーリスト 女 26歳 将軍
ティリクティア(curp9866)ツーリスト 女 10歳 巫女姫
クアール・ディクローズ(ctpw8917)ツーリスト 男 22歳 作家
ジャック・ハート(cbzs7269)ツーリスト 男 24歳 ハートのジャック
ワード・フェアグリッド(cfew3333)ツーリスト 男 21歳 従者
燎也・オーウェン(cxzh3286)ツーリスト 男 25歳 万ハンター&パブ店主
ナウラ(cfsd8718)ツーリスト その他 17歳 正義の味方
セダン・イームズ(czwb2483)コンダクター 女 20歳 使用人…だろうか?
カーサー・アストゥリカ(cufw8780)コンダクター 男 19歳 教師
エルエム・メール(ctrc7005)ツーリスト 女 15歳 武闘家/バトルダンサー
セクタン(cnct9169)ツーリスト その他 2歳 セクタン(?)

ノベル

「俺たちをアンタらの仲間にいれてくれよ!」
 世界図書を相手に闘志に燃える世界樹旅団に声をかけたのは
「アンタ達のやり方に共感したんだよ」
「そうなの」
 旅団に寝返ったのはなんと青海要、ナオト・K・エルロットの二人。
 この二人、実は――

「ねぇ隊長、あたし、あの美味しそうなお弁当欲しいなぁ」
 と、要の一言により、お弁当を二人占めするために、図書側を裏切ったフリをして、旅団に接近したのだ!

「俺たち、ここに来る前に司書の本を隠して、おやつのおまんじゅうを食べてやったぜ」
「アツアツのお茶って嘘ついて冷たいお茶を出してやったわ!」
 二人の悪事に目を輝かせているのは二頭身の可愛らしいぬいぐるみの外見に、おなかがぱっくりと裂かれてリアル内臓がもろ見えの――グロぬいぐるみーたちである。
「こいつら、ひどい、ひどいことするグロッ! 有望なわるいやつだグロッ!」
「よし、絶対に勝てるんだぞグロッ!」
 ――ちょろい!
 にやりと悪い笑顔を浮かべる二人。
 お弁当をかけた自称、第三勢力が動き出した。

「あれはヌマブチ殿ではないか! あんなに虫まみれになって!」
 親友の某軍人と百足を勘違いして、男泣きするのはガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード。
「まだ間に合う! 女子の良さを教えるためにも更生せねば……!」
 あれは百足であって決して某軍人さんではない。
 しかし。
 思いこんだら命掛け、ガルバリュートは百足を求めて走った

「あいつは……!」
 殺気を全身から漂わせたのは飛天鴉刃。憐れ乳友のキサを偲んで会場に遅れて到着すれば、この世で殺したいランキング堂々一位の百足がいるではないか! 
 その行動にちょっと頭いたかったり、精神的にダメージをくらったりしたがそれ以上に今までの怒りで――ぷっつん。
「エヴァ!」
「あー! いっちゃう!」
 ツィーダ、アルド・ヴェルクアベルが止める間もなくマッハで走り出す鴉刃。二人は慌ててそのあとを追った。

「おらぁあ」
 ヨシュア・カレイは回収したたけのこを空へと放り投げるとバラで刺して、誰にも被害のないように処理をしていた。
「ふ、ふはははは! どんどん破壊してやるぜ! ん?」
 ひらひらと落ちてきた一枚の紙。見ると「上を見ろ!」とある。それに従って上を見ると、また紙が落ちてくる。
 なにかあるのか、わくわくして見てみると
『馬鹿が見る』
「なんだよ、この地味ないやがらせぇえ!」

「アリッサ、やるじゃん!」
 今回のことを旅団に対する挑戦状と解釈したエルエム・メールは乗り気だった。
「コーラスアス、カップ=ラーメン……きてるかなぁ? よーし コスチューム、ラピッドスタイル!」
 エルエムはぐっと拳を握った。
「いくわよー! のろまなたけのこなんかに捕まらないよーだ!」
 ぴょん、ぴょんと軽やかにエルエムが進む。と、その美しいピンクの髪にがしぃとしがみついたピンク色の物体――セクタンが、ニヤリッと笑った。
 このセクタン、何者だ?

「弁当を取り戻すためにも本気でいかないとな」
 燎也・オーウェンはハンターと吸血鬼能力の長所を生かしてがんがん暴霊を倒していった。見れば落とし穴やあからさまに可笑しい矢印の看板が置いてあったりと……
「こいつら本気でアホなのか、からかってるのかわかんねぇなぁ」
 頭痛を我慢して歩いていくと、いきなり動けなくなった。
「ん、お! なんだ、これ」
「キシシ、私の糸よ!」
 えっへんと胸を張ったのは蜘蛛の魔女。たけのこ回収するためあらゆるところに蜘蛛の巣を張ったのだ。
「キシシ、お弁当が私を待ってるんだわ!」
「おい、助けろ……げっ!」
 じり、じりり。今まで、よくもやってくれたなと暴霊とたけのこが燎也に迫りくる。――アフロになれっていうのか!

「伏せて!」「……邪魔よ」

 弾けるたけのこ、雄たけび声をあげる暴霊。

 現れたのはローナ。その背後にはローナ・ワンと天倉彗。
 ローナはローナ・ワンを偵察に出し、そのあとは仲間の救援に専念した。それに銃使いの彗も行動を共にしていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、助かったぜ」
「……邪魔よ、どいて」
 彗は二丁の銃で敵を撃って、撃って、撃ちまくる。目がやや危険な領域にはいっている。
 彗は横から振り下ろされた刃を間一髪で避けた。
見ると鎌を持った女。
「痛い目をみせてあげる!」
「……自分たちの昼すら用意できない奴に負ける気はないわよ」
 半分挑発、半分本気で言っている。
「仕方ないでしょう! 水薙が忙しくて作ってくれなかったのよ! この作戦のいせで朝も抜きだったし! みんなのお母さんのクセにっ!」
 どうやら水薙は一部の旅団のお母さん的存在らしい。
「イッておしまい!」

 ちょっと、ここから時間は遡る。
 彗と旅団が対峙する向かい側のビルでは……

「なぁ、お前ら、食べ物の恨みは恐ろしいって知ってるか? 俺は弟子の饅頭を知らずに食べて、ひどい目にあったことがあるんだ」
 風に髪の毛を弄ばせて、凛々しい狩納蒼月が超絶笑顔で地上にいる旅団に語る。
「なんだ、あのおっさん」
「なんか言ってるけど」
「あん?」
 意味がわからず旅団は動きをとめて見上げると、
「個人的に恨みはまったくないが……」
 が……?

 次の瞬間――地上に向けて猛攻撃を開始した。

 まさに怒れる夜叉である。慌てて旅団が逃げるがそこは食べ物の恨み、お弁当の恨み、鶺鴒型の死神、ではなく、式神を使い、容赦なく追撃。
蒼月は退魔師であるため、暴霊もついでに木端微塵。
――食べ物の恨みとは誠に恐ろしい。
「僕も手伝わせてもらう!」
 颯爽と現れたのは男装美麗のセダン・イームズとその肩に止まった相棒のフィー。
「障害は乗り越えるものじゃない、叩き潰すものだ」
 セダンは刀身を雷に変え、蒼月の攻撃をかいくぐりビルに向かってくる敵を薙ぎ払っていく。
「お、ありがとな」
「気にしないでくれ。奴らには日ごろからむかついていたんだが、我慢の限界だ。食べ物の恨みの恐ろしさ、知るがいい」
「オイオイ、隠れてるつもりか? こっちにみえみえだぜ!」
 ジャック・ハートは風と雷の力を使いまくって蒼月の攻撃と連携し、たけのこ飛ばしたり、暴霊をふっ飛ばしたりしていた。
「メンドクセェ、みんなふっ飛ばしちまえばイイだろうォ。隠れても見えてんだよ。スケスケだぜ?」
 ざわぁと旅団が反応する。
「スケスケだとぉ」
「もしかして、私たちの服もスケスケ! いやーん、変態!」 
「えっちー! スケスケ大王!」
 すけすけなのは建物であって服の下は……いや、みえてるのか?
「スケスケ大王。さすがに、女の子の服の下を見るのは感心できないぞ?」
「僕をすけすけにしたら承知しないぞ、スケスケ大王」
 思わずつっこむ蒼月、セダンがジト目で睨んできた。
「あのなァ……! っ!」
 スケスケ大王の称号にジャックが文句を言おうとしたとき、風を切って、刃が飛び、ジャックは蒼月、セダンを連れて屋上から地上へと逃げた。
 それを追いかけて刃を纏った人物が地上へと降りたつ。
「一撃で仕留めてあげようと思ったのにィ。痛いのが好きみたいね」
 スカートの裾を持ちあげて優雅に一礼した少女の周りに無数の刃が浮かぶ。
「イッちゃいな!」

 そして奇跡が起こった。
 ジャック、セダン、蒼月に刃が飛ぶ。
その向かい側では彗に鎌を振り上げた敵が前へと進み出る。

「ヌマブチ殿~! 待たれよ!」
 涙をきらきらと零しながら、ちょっとキレイなガルバリュートがその真ん中を通過した。

 ほぼ同タイミングで刃は避けられ、大きく宙を回って主のもとにかえるはずだったが、ガルバリュートにあたり――ばきぃ。
 そして、彗に避けられた鎌も勢いをつけすぎて前へと出て、ちょうど通りかかったガルバリュートにあたり――ぎしぃ。

 ヌマブチへの愛と鍛えた肉体、さらには高速移動によってちょっとキレイなガルバリュートは敵の武器を意図せず破壊したのであった!

「まっちょ、まっちょのせいで、アタシの≪無敵の牙≫がぁ!」
「わたくしの≪断罪の鎌≫がぁ!」
 この場合、避けちゃったのって責任あるのかなと、全員が気まずい視線を交わす。
「って、きゃあああ、なに、これ」
「いやぁ、ぬるぬる!」
 地上からいくつもの触手を伸ばして、二人を捕まえたのは液体化したアルジャーノ。お弁当奪還を目標に掲げた彼は容赦がなかった。
 なんの躊躇いもなく敵の服と装備をひんむいて、下着姿にしていく。彼が通過したあとには下着姿の敵しか残っちゃいない。
「いゃあああ」
「ちょ、きゃああ」
 それは女の子だって例外ではない。
 二人の女の子は下着姿にされていく。
「うっしゃああああ! 俺の予想的中!」
 思わず叫んだのはカーサー・アストゥリカ。
「カワイコちゃんがいるって、寒空出たかいがあったぜ、ケボォ! ふ、興奮しすぎたぜぇ」
 鼻と口から血をだらだら流しつつも、目は下着姿の乙女たちをガン目することを忘れない。
 はじめに見た髑髏巫女もイイ、きぃちゃんは将来が楽しみと上機嫌だった彼はアルジャーノが敵を下着姿にしていくのについていくことにした。無力化すれば運動会に誘いやすいという考えであって、決して下着姿の女の子が見えるとかじゃないよ。たぶん。
「アアン! わしの服がぁ」
「お、次はドス声のおと……」
 鍛え上げられたむきむきのまっちょ、しかもふんどし姿のおっさんにカーサーは勢いよく血を吐いた。
「……くっ、これもお約束ってやつかよ! まぁ女の子の」
 じとっと彗とセダンの冷たい視線を受けてカーサーは慌てて笑顔を作った。
「いや、戦意がなくなったやつと仲良くなれないかなぁーって思ってさ! な、アルジャーノ」
「ハイ? これ、皆サンのお弁当デス」
 奪い返したお弁当に上機嫌のアルジャーノ。
「で、あのひん剥いたひとたちは私のお弁当デス」
 にょきにょきと触手を動かすアルジャーノ。彼は悪食で、なんでも食べる。鉄だろうが、人だろうが。
「タンマ! オイ、テメェ、子供が見れないもんにするつもりかョ!」
「そうよ、今のでもギリギリなのに」
「エー……」
 ジャックと彗に止められて不満げなうねうねするアルジャーノ。危なかった。本当に危なかった、いろんな意味で。
「俺の作った弁当やるぜ。だからタンマ! 女の子は世界の宝だ! 食べちゃらめぇっ!」
「ワカリマシタ。では、皆のお弁当ですかラ、皆で食べれば良いんじゃないですカネ?」

「そうだな。みんなで弁当を食べよう。敵といえ、このままじゃ風邪をひいてしまうからな」
「な、なによ。べ、べつにあんたなんてかっこいいと想わないんだからねっ!」
 上着をかけた蒼月に、敵の女の子のまんざらでもない反応。
 こ、れ、だ!
 カーサーは拳を握りしめ、俺、かっこいい作戦を決行しようとしたが、もう一人の子にはすでにセダンが上着を貸している。残るは……
「わしに上着」
「いや、あんた、いらねぇだろう、なぁ、寒くないだろう?」
「わしに」
 ――お約束かよ!

「ひどい……たけのこは地盤を強化するためにあるのに、その魅力を全くわかってない! 爆弾での地盤固ならもっと配置を考えないと……!」
 ディガーは怒っていた。
 たけのこ使用について。――いや、これはお邪魔たけのこであって、地盤固めとか考えてるわけじゃないから……
「きちんとたけのこを使わないとダメじゃないか!」
 ディガーは穴掘りを愛する者として燃えた。
 振動で危なそうな建物を回避しつつ、かたっぱしからたけのこを捕まえていくと、埋めはじめていった。

 そこに通りかかったのは坂上健。
「待て、水薙っ!」
 水薙を追っていた健が――ぷにゅう。――どかん!
「ぎゃあ!」
 健が――アフロに!

 と、おもいっきり味方に被害出しつつもディガーは一心不乱に己の美学のためにも穴を掘って、埋めて、埋めて、埋めてを繰り返した。
 と、そこから髪の毛が現れた。
「わぁ!」
 現れたのは地中を移動していたナウラ。
 地中を移動してたけのこを引きずり込んで土責めにしたり、敵を発見してノートで知らせたりしていたのだ。
「なんか、ここ、たけのこが土にいるのが多いと思ったけど、貴方のせい?」
「うん」
「あいつらお弁当をとった卑怯な奴らだからな! 力いっぱい邪魔してやろう! よかったらたけのこをもっと奥に運ぶよ?」
「本当? これで、地盤固めができる!」
 ディガー、目標がズレてる。

「まぁ、これはたけのこでしょう? ここにも、ここにもあるわ!」
「わふぅん!(わん語翻訳・たけのこをとってくれればいいんですね!)くんくん~(いっぱいです)」
 蜘蛛の魔女の作ったたけのこホイホイにかかったたけのこをなんの疑いもなくバーバラ・さち子とふさふさはゲットしていく。
「いっぱいね、ふさふさ」
「わん(みんなさんが喜びます!)」
 鞄に押し込み。
 大きな手でいっぱい抱えて。
 邪気のない笑顔を一人と一匹は交わした。

「変身!」
 風雅慎はバイクに跨り、運動会がはじまった瞬間から気になっていたバイクの髑髏巫女に勝負を申し込んだ。
 バイクに言葉はいらない、接近、エンジンをふかして挑発。
 巫女は一度スピードを緩め、後ろに乗っていた水薙を降ろすと、エンジンを吼えさえ、真正面から挑んできた。
「……ほう、このオレに対抗するつもりか? 女でも容赦しないぜ……!」
 エンジンを鳴らし、ぶつかるすれすれで回避。大きな動きで相手を誘うと髑髏巫女は前輪を浮かせ、ぶつかってきた。慎も対抗する。

激しいバイクアクションが繰り広げられるのを水薙は呑気に眺めていた。
「おー、すげぇな。敵も……ん?」
「人形フェチの御方がいると聞き及んでおりやす。わっちの魅惑のぼでぃ」
 旧校舎のアイドル・ススムくん。今回は水薙を悩殺する気満々だが――台詞をすべて言う前に鉄拳が飛んだ。
「あっ、なにするんでやんすか! 旦那をきゅんきゅん言わせようとさーび」
 思いっきり蹴り倒された。
「うるさい、黙れ。とりあえず、消えろ。俺の美学が今叫んでる。お前の存在を許すなって!」
「そんな、ごむったいなぁ~、友好をはかるために、げろっと……って、あ、あああん。そんな、はげしい! も、もっとやさしく……!」
 往復ビンタされてススムくんの口から心臓ぽこぽこと連射される。

「見つけたぞ!」
 ハーデ・ビラールは瞬間移動によって水薙の前に現れた。
瞬間移動と念動力を使用して、真面目に運動会に参加していたのだが、因縁の相手の存在を確認し、ほっておけなかったのだ。
「どうせお前たちの手足も爆弾なのだろう? なら、土産に置いていけ!」
 光の刃で切りかかるハーデの前に飛び出したのはハイキ。たけのこで光の刃を防ぎ――爆発。それをくぐりぬけて蹴りを放つ。ハーデはぎりぎりでそれを避け、距離をとる。
「女、お前の相手は自分……アフロになるがいい」
 片手にたけのこを持ったハイキが断言する。――きめ台詞がそれでいいのかよ!

「ハーデ、運んでくれてサンキュウな! 水薙、お前の相手は俺だ!」
 途中でハーデと合流して、運んでもらったのは健。
「あんたが言ったとおり俺じゃあの子を救えなかった。それに関しちゃ憎悪も絶望もない。でも悔しいから……八つ当たりさせてもらうぜ」
「ふられ魔人がノコノコとなんのようだよ」
 ぐさっ。
「ふられてねぇし!」
「あとアフロでかっこつけてもなぁ」
「言うなぁ! 自分でもわかってんだから!」
「クルス、お前の初任務だ。こいつの相手してやれ。俺は百足を追っかける」
「はい。マスター」
「まてよ……く、クルス」
 水薙の背後から出てきたクルスと対峙して健は焦った。ここはかっこよく男同士の勝負のところだろう!
「……健さん、あの、少し恥ずかしいので、じろじろ見ないでください」
「え、あ、ごめん」
 思わず目を閉じてしまったが、いや、いや、今は敵だしと、慌てて目を開けると、青白い文字が全身に浮かんだクルスが片手をあげる。
ふわっと風が――小さな竜巻が生まれ、ススムくんを浮かせると健に突っ込ませた。
「!?」
 ススムくんとのキッスだけは根性で回避したが、口いっぱいにイチゴの味がした。
うおおおお! 声にならない悲鳴が響いた。

 竜巻に乗った一匹のたけのこが慎と髑髏巫女のバイクが突撃する直前に間に転がり、二人を吹っ飛ばした。
「ち……今回は痛みわけか」
 変身を解いた慎が舌打ちする。と、もくもくとあがる土煙に転がるのは髑髏巫女――なんと黒髪が美しい清楚系美女が現れた。
「あ、私、仮面がないとなにもできなくて……いや、みないでください! 殿方と向かいあうなんて、恥ずかしい」
 お約束展開。どうする、ヒーロー!

 救急テントではアフロと化した人々を救うため、櫛による戦いが繰り広げられていた。
「久しぶりやな。なんや凹んでるけど、どないしたん」
 アマムシはアフロ化した人の頭を櫛で整えつつ、医龍・KSC/AW-05Sにしがみついるフェイを見た。
「つるつる、きもちいい、医龍、嫁にこい」
「フェイ様、しっかり」
 怪我は治療できるがアフロを治すのは専門でないため、医龍も櫛でせっせっとがんばりつつ、手があいたときにフェイに話しかけたのだが、いきなりうざく抱きついて泣き出してしまったのだ。
これもまた治療の一つとほっといている医龍。たまに尻尾で叩く――フェイ様、ちょっと邪魔ですよ。
「フェイ、しっかり、どうした?」
 百足のことが色んな意味でいやな森間野コケは運動会に参加する前にフェイに会っておこうと思ったのだが、なぜかフェイがぐんにょりしている。
その姿をみて心配で頭の上にラベンダーを咲かせる。
「お弁当、盗られたの、ショック? それとも何か見た」
「妹が、妹が……医龍と結婚して、つるつるぺたぺたの毎日で、理想の妹にはぁはぁして」
「こら、アカンわ」
「しっかりなさい!」
 ドシ目になったコケは蔦で思いっきり右ストレートパンチを放つ。
「……けど、フェイ、大切なところは変わってない。安心」
「安心してええんやろうか? これ。つんつん、フェイ、生きとる? 生きとる?」
 地面に倒れたフェイをつんつんするアマムシ。
「……コケ、行ってくる」
「でしたらワタクシも、このままアフロが増えるのは見ていられません。飛ぶほうがスムーズに進めるはずです。よければ運びますよ」
「よろしく! 行ってくる、フェイ」
「行ってきます、フェイ様」
 戦場に向かうかっこいい背中でコケと医龍は去っていく。それをアマムシが泣き倒れるフェイとともに見送った。
「さて、わいもがんばらんと……フェイ、邪魔」
 アフロ化した人々を治癒というか髪を戻すべく、アマムシはフェイをそこらへんにほっておいた。

「もう、フェイったら~、しっかりして」
「……リーリス」
 リーリス・キャロンがにこにこと近づいてくるのにフェイは眉を顰める。
 いやな予感に逃げようとしたら思いっきり腕を掴まれた。
「さ、行くわよ」
「ちょ、ど……!」
 リーリスはフェイを連れて宙へと飛び、そこからきぃちゃんの居場所を見つけると、
「いってらしゃーい!」
「ああああ~~!!」
 地上に向けてぶん投げた。
ちなみに落ちたら死ぬかも? みたいなレベルの高さから。大丈夫、だってこれはコメディだもん。
「さぁて、私は今のうちに食事しよっと……さぁ! 肉持つ者は殺し合え! 魂だけは救ってあげる。いらっしゃい!」
 隠している本性丸出しに大魔王リーリスは高笑いした。

「状況が全くわからんが、つまりは暴霊にたけのこを回収させればええんじゃな?」
 集合直後から寒さのため冬眠しかかっていたアコル・エツケート・サルマが騒動に気がついたのは、すべてがはじまってみんながアフロ化していたり、弁当を求めて戦いに赴いたりとごたごたの真っ最中。
 くわわぁ~。大きく口を開けて欠伸をすると、アコルはぷよぷよと漂っている暴霊たちにたけのこを襲う念波をまき散らしつつ、飛行して進む。
「お、あれは」
 分身の術を使って二人になった刹那が影を使い、たけのこを狩っていた。尻尾がふわふわ、耳をぴこぴこと忙しく動かしている。
 ゲヘヘヘと下品な笑みを浮かべて刹那に接近する暴霊がいたのにアコルがすいすいと近づいた。
「悪いことしたらあんよ~」
 暴霊に念波を飛ばして、たけのこへと突っ込ませる。
「あ、ありがとうございます」
「ええよ~。たけのこ狩りかい?」
「はい。……あれ、食べられないんですよね」
 ぽつりと刹那が呟く。もし食べられるのなら回収して煮付けにするのに。
「うーん、どうじゃろう」
 アコルは大きく口をあけると、たけのこをぱくり。ごっくん。
「大丈夫なんですか」
「こりこりしていて、わりとおい」
 どん!
 アコルのなかでたけのこは爆発、もくもくと煙があがる。そこから現れたのは焼けて茶色になった姿は壱番世界でいうところの珍獣のツチノコみたいなアコル。
「……蛇の丸焼き」
 じゅるりと刹那は喉を鳴らした。

「筍のくせに喰えないとかどういうことだよ!」
 山育ちの呉藍は怒っていた。こんなあからさまに食べてくださいの見た目のくせして食べられないなんて! 喧嘩売っているとしか思えない。
 龍樹に炎を纏わせて、とりあえず目についたたけのこたちをぶった斬り、爆発させていく。
「あー、もう、たけのこ、たけのこうるせぇ! 一つ残らず爆ぜちまえ!」
 邪険にされているのはたけのこもわかるらしい。どうも先ほどから大量のたけのこたちが呉藍に攻撃をしかけてくる。しかし、そんなもんに負ける気は――
「あ、手がすべった! そっちにいったぞ!」 
 と、ヨシュアの声。
なんと宙に浮いたたけのこがヨシュアの攻撃を気合いで避けると、ぐっと小さな身をガッツで回転させて呉藍に向けて突っ込んできた。

 たけのこおおおおお!(たけのこ語翻訳・仲間のかたきー、うけてみろー)

「!?」
 呉藍の顔面にがしぃとたけのこが突撃。そのチャンスを逃すまいとその場にいたたけのこたちもわらわらと呉藍に襲いかかった。
 これに似たことがちょっと前に、スイカでもあったような……
 たけのこたちは呉藍を巻きこんで大爆発した。

「ふんぬぅ!」
 ギルバルド・ガイアグランデ・アーデルハイドがハルバードでたけのこを打ち砕いていく。その傍ではパティ・ポップがたけのこを両手に持ちあげるとまじまじと見つめる。
「まぁ、これはきのこ? でも、あたしのヤマカンが告げてるわ! これは危険だわ」
 きのこ、ではなくて、たけのこ。しかし、彼女はたけのこを見たことがなかった。
 ちょっとへんなきのこと認知したパティは手の中のたけのこを宙へと掘り投げてガターを投げて破壊していく。
「俺は、ロイ・ベイロードだぁあ!」
 ロイ・ベイロードが叫びながらたけのこを叩き切る。
「ギル、たけのこは適当に薙いでおくだけでいい。旅団を狙え! パティ、奴らから武器を奪え」
「うむ」
「オケッイ!」
 ロイ、ギルバルド、パティの三人は元いた世界では一緒に旅をしており、互いの役割を心得ていた。
 ロイの的確な指示にパティはたけのこを倒しつつ、旅団の武器を素早く盗み、その隙を突いてギルバルドは旅団を殴り倒したあと死なないように回復魔法を施すことも忘れない。
「あのダルメシアンめ、こんなときにいないとは……」
 ロイはがんがんたけのこと旅団を相手にしつつ、食欲魔人のギルバルドに見つからないようにお弁当を回収していった。
「もうっ! 数が多いわね。ロイ、ギル、耳栓してね」
「待て、パティ、それは」
 ロイが止めるのも構わず、パティはキッと前を向くと

「うぉらあああああ!」
 叫ぶと同時に破壊音波を出して敵と周囲の建物を吹っ飛ばしていった。
「よし、もう一回、いくわね」
「この馬鹿! すべて壊してどうする」
 ロイは慌ててパティを止めた。

「すげー、全部吹っ飛んじまったス、見たっスか、フォニス! あれが百姓さんの天罰っスよ!」
『天罰……?』
 冬路友護が興奮して相棒のフォニスに叫ぶ。
 フォニスは吹っ飛んだ荒れ地からお弁当をせっせっと回収しつつ首を傾げる。
冬路はトラベルギアを使い慎重に移動、トラップ破壊を優先的に行っていたところを、ロイたち一行と巡り合ったのだ。
「すごいっスね! 感動したっスよ!」
「ロイ、ギル、褒められたわ!」
「褒めないでやってくれ、パティが調子に乗る」
「む、弁当をそんなにも沢山! 戦士のエネルギー!」
「ギル、食べようとするな。君も俺たちと一緒に来るか?」
 ロイの誘いに冬路は笑顔になる。
「いいっスか! ぜひぜひ! あ、あそこに倒れているの旅団の人っスかね。やる気なさそうだし、説得をしてみまスっ!」
「俺たちは倒すことばかりだったが……いい考えだ」
「えへへ」
『あ、危ない!』
 フォニスの叫びに冬路が顔をあげるとたけのこが降ってきた。
「!?」
 冬路は仲間が出来たとともに、爆発までついてきた。

「このなかをつっきれなんて、ボクには……」
ため息ついたのはベルファルド・ロックテイラー。
弱弱しいことを呟いているが開始からはや数時間ほど経つが、たけのこと暴霊地獄にくわえ旅団の乱入でめちゃくちゃになったなかを彼は傷一つ、アフロにもならずすたすたと進んでいた。
 たけのこー!
 たけのこがベルファルドに迫ってきたのに
「待てー! お弁当返せー!?」
「待てといって待つかぁあああ!」
 臣雀は弁当をもって逃げる全身黒タイツ姿の雑魚ぽい旅団を追っかけていた。旅団は思いっきりたけのこを踏み、自爆。
 宙で回転したお弁当はまるで狙ったようにベルファルドの手のなかに。
「はい。お弁当」
「ありがとう!」
 お弁当を雀に渡したあとベルファルドはさらに進む。
その後ろでは雀が
「みんなでぱーとしたほうが楽しいよ!」
愛くるしい笑顔でアフロ化した旅団に誘いをかけていた。

 今度は三体のたけのこがベルファルドに狙いを定めて襲いかかってきたが、しかし
「おらよっ」
 三体ともいきなり吹っ飛んだ。
「大丈夫かよ?」
「平気ですか?」
 ベルゼ・フェアグリッドとクアール・ディクローズ。
 主にベルゼがたけのこを「食べられないのに、自己主張がうるせぇ!」と真っ当な怒りをもって処理をしていた。
クアールは暴霊を相手にし、使い魔のウルズ、ラグズにもそれぞれ近くの敵、空の上にいる敵と隙なく妨害処理をしていた。
 同じチェンバーで暮らしている仲だがいろいろと複雑なため、ベルゼは少しいやそうな顔で。クアールはいつものごとく冷ややかな顔。
「あ、はい。ありがとうございます」
 へらっとベルファルドは微笑み、さらに進む。
 その後ろでは、ベルゼが
「うっらー! あ、手がスベった!」
 もちろん、わざと。
まとめて爆破したなかの仕留めそこなった一体のたけのこがくるくるくるとクアールの顔面に飛び、その顔に密着、爆破。
 アフロ姿のクアールの出来あがり。
 眼鏡の無表情なのに、アフロ。
「ぷ、はははははは! アフロ、アフロ眼鏡!」
思わず腹を抱えて笑い転げるベルゼをクアールは無言で見つめていたと思うとおもむろに眼鏡をはずし、なんとその姿を災禍の王に――ちなみにその姿もアフロのまま。
「っ!? ちょっとまて、俺、味方!」
「少し躾をし直したほうがいいようだな」
「ぎゃああああ!」
 アフロの恨みは深かった。

 まだまだ進むベルファルド。その前に今度は刀を持った侍風の旅団が現れた。
「勝負の前に名乗るのが礼儀、拙者、名は」
「邪魔ぁ!? あー、お弁当が見えなくなっちゃった!」
 おもいっきり侍さんの顔面を踏みつけたのは日和坂綾。
 お弁当奪還に乗り出した彼女はとまらない。さる人たちは彼女を赤いウリ坊と呼んだ。思いこんだらとまらない!
「こうなったら、エンエン、いくよ! 狐火操り火炎乱舞! 全部燃やしちゃえ!」
 ふみふみ。
 綾、侍を踏んだままだよ。

「ふぅ、よかった。ボクって本当にツイてるなぁ」
 ベルファルドは運がいい。別名を歩く幸運男。そして敵は彼を恐れて凶運の男と呼んだ。
真に恐ろしいのは彼が敵と認知した相手は運から見放される。まるでベルファルドが笑顔で運を吸収するように。
 彼が通り過ぎた道に転がるのは不発のたけのこ、不幸に見舞われる旅団の山! おお、怖っ! 
 存在そのものが歩く凶運と化したベルファルドはようやく、それを見つけ出した。
彼がここまできた理由はちまちまと走り回っていた。

「ま、まつのですぅ!」
「ほら、わたくしを捕まえるのだぞ!」
 ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノはマルゲリータの目を使い、きぃを見つけると、笑顔で近づいた。
「これは遊びじゃ。追いかけっこで勝ったらお弁当を食べ放題!」
 と誘ったのだ。
 きぃは迷った顔をしたが、共にいた白豹は尻尾を一度軽くふるときぃを背中降ろして
「ほら、敵を追っかけて」
 と促した。
 きぃはもじもじとしたあと、ジュリエッタとお弁当を賭けて一生懸命戦っていた。どう贔屓目に見ても女の子たちがじゃれているにしか見えないけど。
「お弁当、絶対、絶対、もらうの。あっ」
 ぽてっときぃが小石に躓く。
 そこに
「うわぁ!」
 右手からふっとばされた旅団。
 たけのこー!
 左手からはたけのこ。
「いかん!」
「……危ない!」
 ジュリエッタとベルファルドはほぼ同時に動いた。
 ダイズが宙を飛び、ジュリエッタにあたる。
 ジュリエッタがきぃを両手に抱きしめ、雷を放ち、飛んできた旅団とたけのこを弾き飛ばした。
「泰山府君に伏して拝み奉る!」
 宙をくるくると舞うたけのこを雀の炎の呪符が飲みこみ
「えーい、吹っ飛べぇ!」
 綾の飛び蹴りが旅団に炸裂。吹っ飛ばされた旅団は星になった。きらん。
「無事でよかった~。きぃちゃん~」
 綾はジュリエッタの腕のなかで呆然としているきぃに猪のように突撃すると頬すりをした。
「きぃちゃん! お弁当取り戻したりし、一緒に食べよう! 私は可愛いものが大好き、ゆえにきぃちゃんも大好き!」
「大丈夫だった? きぃちゃん」
「そうじゃ、無事か?」
 綾にもみくちゃにされたきぃはこくこくと頷くと、自分の立場を思い出した。
「あ、遊ばないの。敵なの。お、お弁当たべないの!」
 きぃはきりっと顔を作るが、ぐぅとお腹が鳴る。
「……あ」
 真っ赤になるきぃにベルファルドが笑顔で近づいた。
「ボク、ベルファルド! お腹空いてるなら、みんなで一緒に食べない?」
 仲良くできたら、それでいいじゃないか。敵とか味方とか抜きにして。
「けど、むかでべーさまが、敵は怖くて、凶暴で、容赦なくて、最悪最低の奴らで、子ども虫のしりこだまぬくっていってたもん!」
 またあることないことを吹きこんで、あの蟲悪党! ――その場にいた全員の百足に対する殺意が一ポイント上昇した。
「抜かない、抜かない。もう、こんなかわいいきぃちゃんにひどいことするわけないじゃない。百足は蹴りいれたいけど」
「怖くないぞ? それに、きぃちゃんはわたくしを捕まえたのだから、お弁当を食べる権利がある」
「うー……ネファイラねぇたま、どうしようっ」
「きぃ、あんたがお弁当を食べたら、そのぶん、敵から空腹なやつが出るわよ? お腹がすいていたら、戦えないわ」
 白豹の言葉にきぃは目をぱちぱちさせたあと笑顔で頷いた。
「うん。きぃ、お前たちのお弁当を食べる。それで困らせる!」

「大丈夫?」
 赤十字のマークのついた白服を身に付けたワード・フェアグリッドが建物の端でげぇげぇと吐いている男に近づいた。
「ここ、怖い。怖すぎる。みんなへん。たけのことかおかしい……真っ白な蝙蝠の幻影が見える。どうしよう、俺、死ぬかも。空廼、助けて」
 人とたけのことその他諸々に酔った旅団の郁矢は嗚咽を漏らした。
「泣かないで、はい。これ」
 ディーナ・ティモネンは聖母のような笑みとともに白いリュックからパイを取り出すと郁矢の口のなかに問答無用で突っ込んだ。
「むぐぅ!」
「食べ物がない、悲しい気持ち、わかるから」
 旅団を欠食児童集団と判断したディーナの態度は優しかった。食べ物がほしいから戦う。その心情が理解出来るから。
 ディーナはワードとコンビを組み、暴霊は丁寧に斬り倒して進みながら、旅団を見つけたら隙をついてその口に食べ物を突っ込みまくっていた。
「また、倒れてル?」
 白目を剥く郁矢にディーナは慌てた。
「パイ、突っ込まれた人タチ、みんな倒れてル」
「な、なんでかしら……おなかすきすぎて嬉しいから?」
 不意打ちに食べさせられたせいである。
「こんなに飢えて可哀想に……私は、飢えた子どもたちを救うわ。ここに食べ物があるわよ!」
 プレゼントを子供たちに配るサンタの如く、お菓子をディーナは敵に向けてばらまいていった。突っ込むときにちょっと力が入りすぎて窒息させてたりするんだけども。――愛はある。
「がんばっテ、運ぶノ、任せテ」
 ワードは郁矢の両腕を掴んで、ふわりと浮く。飛べるという利点を最大限に使うため、今回は救援に回ることにしたのだ。
 ふわふわとワードは郁矢を、オルグ・ラルヴァローグの元へと運んだ。
「パイ、甘……ごふっ、金色の犬がぁ! 空廼、どうしよう!」
「テメェ、旅団の奴らだな」
 オルグは厳しい顔をした。
旅団なんて今の自分がみたら見境なくちぎって投げて……大暴れしそうだから、わざわざ裏方にまわったというのに。
 ここなら仲間しかいないし、自分の治癒の力が役立つと思ったが――アフロに治癒もなにもないので櫛でひきのばしていたのだが
ワードのやつ、敵まで運んできやがった
「無理」
 ぱた。
 郁矢は殺気だけで倒れた。
「オルグ、怖い顔したノ、倒れタ」
「俺のせいじゃねぇぞ! おい、起きろ」
 頭を叩いて起こすと郁矢の情けない顔が、ふっと変わった。
「テメェ、なにガンくれてんだぁ? ぶっ殺す! 倒れたせいでたんこぶできただろうが」
「んだとぉ!? それはお前のせいだろうが!」
 二重人格である郁矢は凶暴人格・空廼に人格を変えてつっかかる。それにオルグの殺気も上昇。
 あとはもう武器を片手に殺し合うだけ……の、二人の服を引っ張ったのはワード。
「今回は運動会……ケンカ、ダメ」
「ワード」
「……ちっ」
 仕方なく二人は殺気ムンムンの状態で睨みあい、治療を開始した。

 ほのかは大鍋で粥を作って、おなかをすかせた人々に振舞っていた。
「……おなかがすいているなら、満たしてあげればいいんじゃないかしら」
 だし汁は帆立の貝柱、具は枝豆、細切りにしたほうれん草、よそおったときに揚げじゃこを乗せてと大変豪華だ。
 アフロ化した人や怪我人、空腹に負けた者が敵味方問わずにここで食事をしている。
「ここを吹っ飛ばしてやろうか」
「お、それいいな。ここには敵も多いしな」
 空腹に負けて、お粥をいただいていた旅団がこそこそと悪だくみ。恩をアダで返すのは悪党の十八番!
「ん、あの女、なにしてんだ?」
ほのかがふらっと動いたと思ったら、右手に持った包丁ですぱーん! その場をふらふらとしていたたけのこを叩き切った。それも真っ二つに。
無表情も手伝って無茶苦茶恐い。
「これは食材にならないのね……残念……あら、おかわり? いっぱい食べてね。どうしたの? ……毒なんて入ってないわよ? みなさんに同じものをふるまっているんだし……」
 ここでなにかするのは止そう。旅団は素直にそう思った。

「ほのかさーん、こっちにもお粥おねがいしまーす! ほら、きぃちゃん、食べて、食べて」
 綾たち一行はテーブルの一つを占領して、お弁当をいただいていた。
 綾はきぃを膝の上に抱っこして御満悦だ。
「はい。アーン」
 雀の差し出すダシ巻き卵にきぃは口を開けて、ぱくり。
「おいちい」
「ほら、お弁当、はんぶんこー」
 よほどにおなかがすいていたのかきぃはがつがつと食べていく。
「お粥、おいしい。ほのかさん、いいお嫁さんになれますよっ」
「うむ、本当に美味い!」
「……ありがとう。みなさん、楽しそうでよかったわ」
 綾、ジュリエッタに賞賛され、ほのかは目尻を緩めた。

「あら、あの馬鹿が大変そうね……きぃ、いらっしゃい。行くわよ」
「はい。ネファイラねぇたま! むかでべーさまのところにいくのですっ」
 きぃが綾の膝から飛び降りて、白豹の背中に乗っかる。
「えー、いっちゃうの? ここにいようよ」
「まだ食べ物あるよ!」
「えっと、ごはんありがとうございます。けど、むかでべーさまが危ないみたいなのできぃいくのです!」
 白豹がひらりと空へと飛んで去っていくのを綾が見送っていると
「ん、あれって、ふさふさと、さち子さん?」

「わふぅん、わふぅん!(みなさん~、いっぱい採れましたよ~)」
「みんなー、見て頂戴―」
 笑顔で近づいてくる一匹と一人が持っているそれにその場にいた全員が顔を強張らせる。
 山のような――たけのこ!

 そして二人がテントへと到着したと同時に、たけのこたちは待っていたぜ! とばかりに爆発した。
 すべてを吹っ飛ばし、その場にいる敵、味方をアフロへと変えた。
「……たけのこはなにも生まないのね。けほっ」
 ほのかがしみじみと呟いた。

「このロリコン! 潔く燃え死んじまえっ!」
 リエ・フーが罵り文句とともにトラベルギアで結界を張り、炎と風で攻撃をくわえるが、シルバィはランスを大きく振い、それらを薙ぎ払うと宙へと逃げる。
「姐さん! 頼む!」
「死ぬぇぇ!」
 鴉刃が接近、刃を振るう。シルバィは素早く地面を蹴り後ろへと回避――すかさずツィーダが撃つ。
 その攻撃をシルバィは掌で受け止めてみせ、片方の手に持っていたランスを大きく振り上げてリエ、鴉刃に向けて投げた。
「させないんだからな!」
 アルドが盾で防御し、弾かれたランスはくるくると回転してシルバィの手のなかに収まった。

 百足のお命いただきたい組合会長・鴉刃を筆頭に弁当取り戻したいリエ、最近鴉刃が百足ばっかりにかまっておもしろくないアルドとツィーダの四人はシルバィと百足を相手に激しい攻防戦が繰り広げられていた。
 しかし、当の百足は
「……酔った……!」
「おお、我が朋友、百足殿! しっかりなされよ!」
 軽く乗り物酔いしていた。

「ったく、なんだよ、あの馬!」
 リエが悪態をついた。先ほどから攻撃という攻撃をすべて防御または回避し、反撃までしてくる。
「多少言動がアレでも、実力は折り紙つきということか……そうだ、百足も色んな意味でおかしいからな。ふ、ふふふ、見た目ではないということだ」
 鴉刃は先ほどから目の前にいる百足に攻撃できないストレスでそろそろ大切なものが崩壊しそうだ。
「今の私は、復讐に燃えるただの影だ。ふ、ふふふ。待っていろ、キサ、お前の憐れ乳の前に奴の首を捧げてやるから」
「鴉刃、壊れちゃだめだよ! もう、あいつ、本当に嫌いだ!」
「いやがらせしてやろうぜ。むかでべー、むかでべー! みんなでそういってやるからなー」
「ロリコン! 幼女をたぶらかして悦にはいんな! この変態蟲野郎!」
 ツィーダとリエが精神攻撃――小学生レベルの悪口にシルバィが反応した。
「違うぞ! 百足殿は、虫が好きなちょっとイタイが、ピュアホワイトな青少年だ! あと、むかでべーとは可愛らしい呼び名ではないか! いじめ良くない! 恥ずかしい! だめ、絶対ダメ!」
「シルバィ殿、それはいろんな意味でフォローになっていない!」
 青白い顔で百足がつっこむ。
「……っ、そろそろ遊びは終わりだ。……シルバィ殿」
「百足殿、承知した」
 リエが噛みついた。
「遊び! ハッ、なにぬかしてやがる! ……ん、あれは!」
 背中に風を感じたとき、リエの横を素早く白い風――豹が通り抜けた。
「遅くなってごめんなさいね。さぁ、反撃しましょうか、私の盾」
「うむ。我が剣殿! きぃ殿は百足殿と一緒に吾輩の背中にしがみついておれ」
 白豹の体が輝き、銀色の大剣に変り、シルバィの片手にすっぽりと収まった。
「こちらも本気でいこう! 行くぞ、我が最終奥義!」

 LaLaLaLaLaLaLaLaLaLa!
 声高くシルバィが謳う。

「いきなり最終かよ! って、ヤベェ!」
 尋常ではない力の波動にリエが叫んだ。

 シルバィの掲げた大険が光輝き、天を貫き――落ちる。
「神々の黄昏! 十七六億とんで三千さらとびの、六十七分の一すけーるぅ!」

 ――閃光。
 シルバィの攻撃をくわえたビルが粉々に破壊され、辺り一面を吹き飛ばした。

「……ばかめ。シルバィ殿は個体で世界一つくらい壊せる力を持つのだ……うっぷ、気持ち悪い」
「うむ、アレを使うとしばらくはまともに動けなくなる。しかし、敵の強さに敬意を払って本気でいったみぞ!」
「貴殿は……ん」
 百足は文句を口にしようとしてその動きを止めた。
 なにか一点を見つめて、目をきらきらさせ、きもい顔で悦にはいっている。
「蟲の楽園があった……!」
「百足殿……! そんな嬉しげな顔でどちらへ……!」
 
「見てはいけない!」
「え、どうしたの?」
 お弁当奪還を狙い、ハリセン装備をしたティリクティアは予知能力を使ってアマリリス・リーゼンブルクをサポートしながら、ここまで辿りついたのだが――いきなりの目隠しには驚いた。
 アマリリスは百足に蟲いっぱいの幻術を見せてみたのだが、思いのほかにきもい喜びように引いてしまった。
「あれを見たら人格が歪んでしまう」
 それくらいきもい。
「きも男め……これでもくらえ」
 歩いていたたけのこを掴むと百足に投げて、爆発させておいた。――あ、きもさがアップしただけかも。

 どどどどどぉぉぉ!

「ヌマブチ殿! 捕まえたぞぉ!」
 ようやく追いついたガルバリュートがきもく悦する百足を逞しい腕のなかにぎゅっと抱きしめた。
「!?」
「蟲よりも女子がいいことを拙者が教えるぞ! さぁ、文句は言わせん、帰るぞ!」
「百足殿! こやつ、同類の匂いが! 負けん、負けんぞ!」
 ガルバリュートと向かいあい、シルバィがタックルを食らわせる。
「むっ! 邪魔はさせんぞ、この肉体美を見よ」
「なんの! 我が美しい鎧をみよ!」
「!?」
 むきむきの肉体と鎧がぶつかりあい――真ん中にいる百足をサンドイッチした。むしろ潰した。

 がら。
 瓦礫を払い、鴉刃が立ちあがった。
「……殺す」
 鴉刃、大切なものすら崩壊した模様。
 その前にきぃが立ちはだかり、叫ぶ。
「鴉刃!」
「なんだ!」
 鴉刃も吼える。
「私より胸ないくせにむかでべーさまにひどいことするな!」
 ――沈黙。
「そ、そんなことは」
「きぃ、お胸あるもん!」
 胸を張るきぃと鴉刃の胸をその場にいるリエ、アルド、ツィーダは見比べ、視線を明後日の方向に向けた。
「姐さん、つるぺたでも気にするなよ!」
「エヴァ、気にしちゃだめだよ! まな板でも!」
「そうだよ。鴉刃、完膚無きまでになくても!」
「……お前ら全員、あとで殺る」
 戦意喪失した鴉刃にきぃはトドメとばかりに唄おうと口を開くが
「させないわよ!」
 ティリクティアが聖歌を歌い、対抗する。
 自分の力を防がれてきぃは驚いた顔をした。
「歌は効かないぞ……ここにいる以上、お弁当を取り戻さないとな」
 アマリリスが距離を詰めた。

「待ちなさい! そのお弁当はあたしたちのものよ」
「おう!」
 別方向から要、ナオトの自称・第三勢力が迫ってくる。

 お弁当がぽろっと百足の手から零れ落ち――しゅたぁ! それを奪い取る影があった。
「な、あれは!」
 アマリリスが目を見開いた。
 なんと、それはピンク色のぷるぷるのセクタン!
「あれは誰のセクタンだ?」

 ……しーん。

 そう、あれはターミナルでも存在そのものが謎といわれるセクタン。
 なんとこいつはお弁当を狙う第四勢力―― 一匹だけど――として仲間たちの影に隠れ、ときにはプリティな見た目を使い、チャンスを狙っていたのだ!
 ニヤリ。
 セクタンはニヒルな笑顔とともにお弁当をゲットするとすたこらさっさと逃げていった。

「お弁当泥棒! 待ちなさい!」
「運動会はお弁当を制した者が勝利! けど、あたしたちの戦いは始まったばかりよ!」
 ティリクティアがハリセンを片手にアマリリスと追いかけ、要とナオトも走り出す。

「へんな生物にお弁当とられちゃった……!」
 唖然としたままきぃが呟く。
「で、アレ、助けなくていいの?」
 白豹に戻ったネファイラの呆れた視線を向けた先ではガルバリュートとシルバィが肉体ぶつけあいを――百足を真ん中に挟んで――睨みあっていた。
 そろそろ本当に潰れて百足、死にそう。

 その後、水薙が百足からガルバリュートをひっぺがすことに成功し、
「弁当が奪われたし、百足もつるぺたになったから帰るか。てか俺ら結局、なにに負けたんだ?」

今回、旅団は一匹のセクタンに敗北したのである。

クリエイターコメント 参加、ありがとうございました!
 初のパーティシナリオ、みなさんのおかげで無事に完成しました。

 主にたけのこががんばりました。お弁当もがんばりました
 一部、敵・味方ともに(コメディ的な)人格崩壊してしまった人たちがいますが、それもまぁ運動会だから!
公開日時2011-11-24(木) 23:30

 

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