オープニング

「ケーキ」

 召集したロストナンバーの前に立つ世界司書・湯木が真っ先に放った台詞がそれだった。手には生クリームらしき白い物体が入ったボウルと泡立て器。それをシャカシャカと軽快にかき混ぜながら、彼はもう一度口を開く。
「ケーキ。ケーキ、ケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキケーキ」
 ゲシュタルト崩壊を起こすレベルでケーキを連呼する湯木の表情は、パッと見だといつもどおりの淡泊なそれだった。しかし、よく見ると今の彼の目は当社比300%くらいの勢いでキラッキラしている。ついでに絆創膏の張り付いた頬も幾らか紅潮しているようだった。
「クリスマスじゃ。パーティやる。ケーキ作り放題食べ放題するけぇ、食材とってきてくれ」
 てっきり依頼だと思い集まっていたロストナンバー達がげんなりしているのを気にする風もなく、湯木はいつになく機嫌良さげにひたすらクリームをかき混ぜている。シャカシャカシャカシャカという音が、脱力しているロストナンバー達の耳に鬱陶しく響いた。
「クリームとスポンジはこっちで用意する。じゃけ、トッピングになるもんを手に入れて来てくれんかの」
 言いながら、かき混ぜていたクリームの味見をする。泡立て器についたクリームを少し拭い、ぺろりと舐めた。
「目的地。モフトピアの、ひつじアニモフのおる島じゃ。ちょうどこの間収穫祭があったばかりでの、果物はたっぷりある」
 いい具合にできていたのか、湯木はボウルの端についていた分も掬って舐めている。チケットはもう用意してあるらしく、傍らの机の上に人数分が置かれていた。
「お願いすれば、快く譲ってもらえるじゃろ。多少、遊びを要求されるかもしれんが」
 なおもクリームを舐め続けている司書に「このまま全部舐めつくすんじゃないのかコイツ」的な視線を送りつつ、斯くしてロストナンバー達は一路モフトピアへと向かったのだった。

* * *

 村にやってきたロストナンバー達を発見すると、住人であるひつじアニモフ達は歓喜してぞろぞろもふもふと瞬く間に一行を取り囲んだ。
「わーいおきゃくさん!」
「おきゃくさーん!」
「あそぼあそぼ、あそぼー」
「ねー、あーそーぼー!」
 歓迎ムードの中、食材の件について事情を話すとアニモフ達はそれを快く引き受けた。
「いいよー」
「そのかわり、いっぱいあそんで!」
 にこにこと応えつつ、アニモフ達はロストナンバー達の腕や服の裾をくいくい引っ張る。そんな微笑ましいムードの中で、アニモフのうちの一人がいいことを思いついたというように両手を上げ、ぴょこぴょこ跳ねて主張した。
「ねーねー、せっかくなら、くだものは「あれ」のけーひんにしよーよ!」
 それを聞いたアニモフ達は、なんという画期的アイディアと言わんばかりに「おおー」と感嘆しつつ拍手する。ロストナンバー達に説明された内容を要約すると、「ちょうどこれから某ロストナンバーに聞いた話を参考にした遊びをするところだったので、それに参加することで食材をゲットして欲しい」ということらしい。

 そうして広場に連れてこられたロストナンバー達に手渡されたのは、銀色にピカピカ輝く、バリカン。それと、もふもふふわふわの毛に覆われたマフラーだった。
「えっとねー、こうやるんだよ!」
 手にバリカンを持った説明係のアニモフが注目ーというように手を振り、てこてこと走り出す。すると、もう一人のアニモフが説明係の行く手を遮るようにもふりと躍り出た。
「ふはははははーきたなーゆうしゃめーしょうぶだー」
 彼がアニモフ特有のゆるい顔にめいっぱいの「わるい」表情を浮かべて台詞を言い放つと、脇に控えていたアニモフが立て札を持って割り込む。
『まおうのてした が あらわれた!』
 そう書かれた立て札を誇らしげに掲げると、立て札係はさっと後退した。それを見届けた説明係はバリカンを手に「まおうのてした」と対峙する。
「「……しょーぶっ!!」」
 シュバッっという効果音が鳴りそうな勢いで、二人のアニモフがジャンプし交差する。そしてぴたりと着地し、しばしの沈黙。やがて、「まおうのてした」のアニモフの羊毛の一部がふわわんっと宙に舞った。
「うおーっ! やーらーれーたー!」
 ぺちゃん、と「まおうのてした」が倒れる。そこへ説明係が近付くと、「まおうのてした」は倒れたままそっと布袋を差し出した。
『まおうのてした を たおした! あいてむ を てにいれた! けいけんち を 50 てにいれた!』
 端っこからすかさず立て札が差し出される。わーいっと喜びながら、説明係は布袋からアイテムを取り出す。

 蝋燭と、鞭

『まよけのどうぐせっと を てにいれた!』
「こうやるんだよ! たびびとさんはまふらーの「け」がなくなったらおしまいね!」
 アニモフ達は毛を剃られてもすぐに生えかわるらしい。そうはいかないロストナンバー達はマフラーの毛を代用してね、ということのようだ。
 だがそれよりも袋から出てきた物体にツッコミを入れるべきじゃないのか。ロストナンバー達が葛藤している間にも、アニモフ達は「ぼくおうさまやるー」「じゃー、ぼくまおうやる!」「えーわたしもまおうやりたーい」などと騒ぎながら散開していってしまった。

 おそらく勝負に勝つと貰えるアイテムの中に果物も入っているのだろうが、ロストナンバー達は一抹の不安を覚えずにはいられない。
「はい! ゆうしゃのそーびだよ!」
 しかし純真な瞳で「ゆーしゃ」と書かれた手作り感満載のバッジを差し出すアニモフを前に、一行は最早何も言えなくなるのだった。


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<ご案内>
このシナリオは、12月17日頃から運営される掲示板イベント「ターミナルのクリスマス2011」関連の内容です。このシナリオの結果をもとに、同イベントの掲示板内で、企画スレッドが運営されます。このシナリオに参加したからといって掲示板に参加する義務は発生しませんが、合わせてご参加いただけるとより楽しめる内容になっています。もちろん、掲示板イベントはシナリオ参加にかかわらず参加できます。
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品目シナリオ 管理番号1545
クリエイター大口 虚(wuxm4283)
クリエイターコメントこんにちは、大口 虚です。もふもふ万歳。

今回は皆様に後日ターミナルで催すクリスマスパーティで作る、ケーキのトッピングとなる食材をRPGごっこで入手して頂きます。

参考までに、今回舞台となる島は当方の過去シナリオ
 ・戦うひつじ達の行進曲
 ・ウール100%くりすます。
に出てきたものと同一となっております。

RPGごっこで入手できるのは主に果物ですが、ハズレも混ざっています。ハズレは果物以外の食材だったり食材以外の何かだったりします。そしてハズレのものも果物と一緒にパーティ会場に届けられます。
また、どこかにいる魔王役のアニモフを倒すと沢山の果物を入手できるようです。

プレイングには【どんな果物を探しているのか】を盛り込んでいただけるとありがたいです。「こんな果物もあったりする?」と空想の食材を捏造して書いたりしてもOKです。ハズレで何を貰ったかを考えてくださっても結構ですよ。
それと、プレイングの頭に【判定用の1~9のお好きな数字】を入れてください。希望の果物のおおよその入手率とハズレの数を決定させて頂きます。

勇者役は抽選後の参加者覧の一番上の方にお願いします。勇者に何か得があるかというと、アニモフ特製ゆうしゃバッジを貰えるのと勇者を自称できること以外は特にないです。勇者以外の方も役職を適当に名乗れます。

※スケジュールの都合により、プレイング受付期間が5日と短くなっておりますのでお気をつけください。

参加者
オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072)ツーリスト 男 20歳 冒険者
坂上 健(czzp3547)コンダクター 男 18歳 覚醒時:武器ヲタク高校生、現在:警察官
ダルタニア(cnua5716)ツーリスト 男 22歳 魔導神官戦士

ノベル

「もう、かれこれ三度目か」
 ふ、と明後日の方向に視線を放りつつ、オルグ・ラルヴァローグは過去二回にわたる件の村の記憶を掘り起こしている。アニモフ達のデモンストレーション後、配られたマフラーとバリカンの感触が、それまでの思い出を彼の脳裏に蘇らせているのだろう。
「よ、オールグ! 何かあんた、本当に毛刈りイベントに縁があるのな、ぷぷぷっ」
 そんなオルグの肩を叩き、坂上健はわざとらしく笑ってみせた。回想を終了させたオルグはガックリと肩を落とし、頭痛を抑えるように頭を抱える。
「言うな! くそ、……何がどうして、こうなった……!」
 彼が呻くようにツッコミを入れたのは、デモンストレーションの最中に出てきた『まよけのどうぐせっと』である。鞭と、手持ち用サイズの蝋燭。これらは以前この村で行われたクリスマスパーティで持ちこまれたものだ。
「て言うかソレ、サタンの魔除けじゃなかったのか、どこから来たんだよ魔王!?」
「その設定、よく覚えてたな」
 叫ぶオルグに、健は感心したように呟く。件の『まよけのどうぐせっと』はデモンストレーションで入手したアイテムとしてご丁寧にもロストナンバーもとい勇者一行に贈与されていた。
「過去に何があったのかは存じ上げませんが……ずいぶん変わった風習の村のようですね」
 ダルタニアは横から『まよけのどうぐせっと』を覗き込み、不思議そうに首を傾げる。
「まぁ、でもさすがにこれ以上は出ないだろ! こういうのは!」
「そう信じたいけどな。先が思いやられるぜ」
 健もオルグも俯き重い溜息をつく。しかしオルグは顔を上げると、何かを決意したかのようにぐっと拳を握った。
「だが、今回は健とダルタニア、そして俺……そう、ツッコミ役しかいねぇ! ここいらで軌道修正と行こうぜ……でないとこっちの精神がガリガリ削られてくんだよモフトピアなのにッ!!!」
 そう叫ぶオルグの目は真剣そのものだ。背後で炎がメラメラ燃えているのではないかというほどの気迫すら感じられる。
 それを周辺のひつじアニモフ達は「わーかっこいー!」「かっこいー!」「ゆーしゃっぽいー」と発言内容は理解できないままぱちぱち拍手して讃えていた。それから一人のアニモフがオルグによじ登り、その胸にお手製ゆーしゃバッジを取り付ける。
「ゆーしゃゆーしゃ! かっこいい!」
「……ああ、えー……。……ありがとよ」
 一気に脱力したオルグは取り囲むアニモフ達の頭を適当に撫で、彼らの歓声に応えた。
「ぬぁにぃ、オルグに勇者バッジ?! うぉおぉぉチクショー、格好いいぜ! 俺も欲しかったー!」
 アニモフの輪に混じって、健もオルグの胸のゆーしゃバッジを心底羨ましそうな眼差しで見つめている。
「格好いいのかコレ!?」
「何言ってんだよ! 勇者だぞ! 勇者のバッジ! あーくそ羨ましい!」
「では、坂上さんもそういった役職を名乗ってみては?」
「お、そっかそれいただき!」
 ダルタニアの発案を受け、健は真剣な表情でしばし沈黙した。口元に手をあてて考えるポーズをする彼の足下では、アニモフ達が真似してまったく同じポーズをしている。
「んじゃ俺、勇者の手下1で」
 シュタッ、と効果音が付きそうな勢いで挙手しつつ、健は真面目な表情のまま宣言した。
「……おまえが1ってことはダルタニアが2になるのか?」
 オルグに話をふられると、ダルタニアは手を軽く振って否定する。
「いえ、わたくしは元の世界で魔導神官戦士と名乗っておりましたので、今回もそれで」
「ああ、なるほど。ということは1以降はいないわけか」
「そこは今後手下増えることに期待ってことにしとけって! それにな、オルグ」
 言葉を区切ると、健はオルグに真っ直ぐ視線を合わせる。その表情は真剣そのものだ。
「一番を主張することに意義があるんだぜ」
「……そうか」
 本人がそれでいいならいいのだろう、とオルグは自身を納得させる。
「そういえば、ケーキのトッピングとのことでしたが……皆さんはどういったものをお探しで?」
 先に準備を整え終えていたダルタニアが問うと、健とオルグは軽く考える素振りを見せる。
「そうだな……。ケーキに入れるなら、色鮮やかで甘みがあって、あんまり匂いがない物の方が向いてるんだよな。そういう意味じゃドリアンはちょっとパスしたいぜ」
 たまたまそこを通りかかったアニモフが今の台詞にショックを受けたように硬直したのを、ロストナンバー達は見逃さなかった。
「ま、まあ、ケーキの果物なら、ショートケーキのいちごは欠かせないよな。後はバリエーションに応じてみかんとかバナナとかキウイフルーツとかか?」
 オルグはそれを見なかったことにしつつ、会話続行を選択する。健とダルタニアもそれに従い、そっと一人のアニモフから視線を逸らした。
「わたくしは、他にぶどうなどがあればいいかと。果物以外にもトッピングに使えるものはありそうですが」
 健はダルタニアの言に同意するように頷きながら聞いている。
「……他に果物なら、俺の腕じゃ黄桃、栗、その他ベリー類ってとこまでかな。梨と無花果もコンポートにすればいけそうだけど……リンゴも焼いちまいたくなるしなぁ。俺菓子作るのそんなに得意じゃないんだよ。今あがったの外したらケーキに出来る自信がねぇや」
「そうですか……調理の必要なものは湯木さんができればいいのですが」
「湯木のおっちゃんそんなに料理得意だったかぁ? オルグとダルタニアさんはそっちの自信はどうよ?」
 健の問いに対する二人の反応はなんとも微妙なものだった。
「……ま、そこはパーティに菓子作り得意なやつが参加するのを期待、ってことにしとけばいいんじゃねぇか?」
「そっかぁ、別に持って帰りさえすりゃ他の誰かならケーキの材料に出来るかもしれねぇもんな。オルグ、冴えてるぜ! よぉし、そうと決まりゃあ気楽に大マジで毛刈りイベントに参加するぜ!」
「じゃ、そろそろ行くか。しっかりとマフラーも付けて、と……でねぇとまた俺の毛皮が大変なコトに……!」
 オルグはそこでまた過去の記憶が蘇ったらしい。ぶるりと震え、マフラーが外れることのないように結ぶ。それから手にしていたバリカンに視線を落とし、その顔に複雑そうな表情を浮かべた。
「とか言ってる俺自身が、バリカン持つことになるとはな……」
「……手が震えていますが、それほどの大惨事にみまわれたのですか?」
 「いや、……ちょっとな」と遠い目をしだすオルグの様子を、ダルタニアは不思議そうに伺う。
「では、ここは本気でやっておきますか」
 そう言ってスラリと抜いたのは切っ先のきらりと輝くレイピアだ。
「いやいやそれはさすがにやめてやれ! 相手アニモフだから! レイピアじゃ毛は刈れねぇし! あれだ、大惨事は避けるとき全力でいけばなんとかなる!」
 すかさず入ったオルグのストップに、ダルタニアはどことなく残念そうではありつつ「そうですか」と応え、レイピアを納めた。

 一行が村の端から出発すると、待ってましたと言わんばかりに魔王の手下達が勇者一行の前に立ちはだかる。
『まおうのてしたA~F が あらわれた!』
「きたなーゆうしゃめー!」
「ずるーいおいらがさきだったのにー」
「わたしがさきだよぅ」
「ちがうもんちがうもん! ぼくがさきだもん!」
「やーだーあたしがさきー!」
「ははははは! ここでおまえたちもおしまいだー!」
「「「「「だーめー!!」」」」」
『しかし まおうのてしたたち は もめていた!』
 しっかり素早く状況説明の札を出して引っ込んでいくアニモフに感心しつつ、勇者達はその光景を落ち着いた様子で眺めていた。
「これ、もう先に進んでもいいですかね」
「いや、一応魔王の手下倒さないとアイテム手に入らないしな……」
「だな。おい、喧嘩はやめろ!」
 ひとまず仲裁しようとオルグはもめる魔王の手下達に近寄る。そのとき、もめてるはずの彼達の目が一様にキラリと光った。
「いまだー!」
「「「「「「かくごーっ!!」」」」」」
 魔王の手下達は素早く一斉に勇者一行に飛びかかる。
「ちょ、多い多い! ずるくねぇかソレ!?」
 まさかアニモフがフェイントを仕掛けてくるなど思いもしなかったオルグは自身の毛皮の先にもバリカンをあてさせてなるものかと慌てて地面を蹴り後退する。しかし目前では魔王の手下達が容赦なくバリカンの歯を日光に輝かせ、今にも彼をしとめようとしていた。
「クソッ! 刈られてたまるかぁあああああああッ」
 このままの勢いで突っ込まれたら、確実にマフラー以外の毛も刈られる。そう確信したオルグは咄嗟に一番先頭のアニモフを両手でキャッチし、そのまま飛びこんでくるアニモフ達に向かって投げ返した。
「きゃーどいてーっ!」
「きゃーっ!」
「わーっ!?」
 投げられたアニモフは突っ込んでくる味方にぽよんっとぶつかった。そこで弾かれたアニモフはまた別のアニモフにぶつかり、それで弾かれたアニモフがまた別のアニモフにぶつかって、といったことが繰り返される。そして最終的に飛びかかってきた全員が地面にぺしゃりと墜落していった。
「すげーナイスコントロール!」
「攻撃は最大の防御、というのはこのことですね」
 咄嗟の行動とはいえ、見事自身の毛を守りきったオルグの手並みに健とダルタニアは思わず拍手をしていた。一方、渾身の不意打ちを破られた魔王の手下達はというと自分がおはじきになったような体験に興奮したらしく、揃ってオルグにアンコールをしている。
「いまのもーいっかいー!」
「もっかーい! もっかいやってぇー!」
「分かった分かった、もう一回だけだからな」
 当初の目的を忘れて「もう一回」を要求する魔王の手下達を温い気持ちで眺めつつ、オルグはとりあえず彼らの毛をバリカンで順番にちょっとずつ剃ってから、アンコールに応えるのだった。
『まおうのてしたA~F を たおした! ゆうしゃ は けいけんち を 300 てにいれた! あいてむ を 6こ てにいれた!』
「オルグ、アイテムは何が手に入ったんだ?」
「ああ、今開けるぜ」
 オルグは手に入れたばかりの布袋の口を順番に開けていく。ゲーム開始から初のアイテム入手とあって、健とダルタニアも興味深げにそれを覗きこんでいた。
『バナナ を てにいれた! さかな を てにいれた! タコ を てにいれた!』
「待て前半三袋中二つ海鮮物ってどういうことだ!」
『たいりょうばた を てにいれた!』
「いらねぇよ!!」
残り二袋はまともなの出ろよ、と祈りつつ、オルグは残りの袋にも手をかける。
『どこんじょうせっと を てにいれた!』
 アニモフ特製らしい栄養ドリンクの瓶二本と丈夫そうなロープ二本が入っていた。
「これは、ど根性と関係あるのですか?」
「えっとねー、こうやるんだよ!」
 ダルタニアの疑問に応えようと、魔王の手下役だったアニモフ三人は袋からロープと栄養ドリンクを取り出す。一人が二本のロープの端をまとめ持ち、残り二人が栄養ドリンクを手にそれぞれロープの片端を自身の体に巻きつけた。
「「ふぁいとぉおおっいっぱぁあああああ」」
「教えていったのどこのどいつだぁあああああッ」
 どこかで聞いたことのあるような内容のアニモフの絶叫に思わずオルグのツッコミが飛んでいった。
「そろそろこの村にあれこれ吹き込むやつ取り締まった方がいいんじゃねぇのか!? 来る度に変な風習やら遊びやら増えてんじゃねぇか!」
「落ち着けって、ほらまだ一袋残ってるぜ。まだ食材バナナと魚とタコだけだし、ここでいちごあたり出してくれよ!」
 健に促され、オルグはひとまず深呼吸すると残りの袋も一気に開けていった。
『あやういみずぎ を てにいれた!』
「……あやうい水着ってなんだ」
 入っていたのは、小さい布のようなものである。手にとって広げてみると、とても面積が狭く実用性はおよそないであろうと思われる、女性用水着だ。
 ベシーンッ! と、オルグは水着を地面に叩きつける。
「だから、誰だよこんなもんモフトピアに持ち込みやがったのはぁああああああッ」
「RPGといえばそれだっていってたー」
 叫ぶ傍らで、無邪気に「あやうい水着」について説明するアニモフに、オルグはすっかり脱力して地面に膝をついてしまった。
「……休憩しますか?」
「……おう」

 しばしの休憩の後、一行は再度魔王を探して出発した。先程の魔王の手下達に居場所を尋ねたところ、魔王は村で一番大きな木の下にいるらしい。
「ここからさきへはいかせないぞーっ!」
「いかせなーい!」
「えっと、えっと、とまってー!」
『まおうのてしたG~I が あらわれた!』
「おっ、またでたな。よーし、今度は俺が相手だ」
 健は意気込んで前に進み出ると、ゴホンと咳払いする。それからバリカンを掲げ、些か芝居がかったような口調で名乗りをあげた。
「やぁやぁ我こそは勇者オルグの一の手下、ケン・サカガミなり! 尋常に勝負勝負~!」
対峙するアニモフ達はその名乗りに「か っ こ い い !」と言わんばかりに目を輝かせた。
「われこそは、まおーいちの、えーっと、」
「しょーぶしょーぶー!」
 口調を真似っこしつつ、アニモフ達はバリカンを構える。そして、健とアニモフ達は互いに間合いをとり、仕掛けるタイミングを計り始めた。じりじりと互いの出方を伺い、息を殺す。健から見て、敵は三人。それぞれどう動くのか、それを読み切るのかが勝利の鍵だ。
「とりゃあーっ」
「とーっ」
「うおーっ」
 三人は同時に動きだした。しかし、正面から一斉に、ではない。一人は真直ぐに来ていたが、二人は左右に分かれ、健を挟み撃ちにしようとしているようだ。
「――そこだッ!」
 健は正面から来る一人に向かって駆けだし、その傍らを抜ける。アニモフの手から突き出されたバリカンの歯は健のマフラーをわずかに掠り、その毛を宙に舞わせた。しかし、健の思いきった行動により挟み撃ちを目論んだアニモフ二人は標的を失い、べしゃっ、と味方同士で衝突する。
「「いたーいっ」」
「ああっ、だいじょうぶっ?」
 味方のトラブルに驚いた隙に、後ろに回り込んでいた健は素早くバリカンを振るった。ふわわんっ、とまっ白い羊毛が飛ぶ。
「あっ、えっと、えっと、やられたー」
「「ええっ、だいじょうぶ!?」」
味方の撃墜に、今度は残る二匹のアニモフが驚きの声をあげる。オロオロする彼らの毛も、健はささっと刈っていった。
「「や、やられたぁー」」
『まおうのてしたG~I を たおした! ゆうしゃのてした1 は けいけんち を 150 てにいれた! あいてむ を 3こ てにいれた!』
「いよぉっし、やったぜ!」
 健はアイテムの袋を手にすると、思いきりガッツポーズをとった。
「お見事です、坂上さん」
「すごかったぜ、やるじゃねぇか!」
 観戦していたダルタニアとオルグも、健に称賛の言葉を送る。それに照れるような反応を返しつつ、それを隠すように健は早速アイテムの袋を開けた。
『さつまいも を てにいれた! 七色マロン を てにいれた! えくすかりばー を てにいれた!』
「エクスカリバー!? 何そんなすげー武器が入ってたのか!?」
 武器をこよなく愛するが故に、札に書かれた武器の名称に健は光の速さで反応する。興奮を抑えきれない様子で急ぎ三つ目の袋からアイテムを取り出した。
「……バリカン、ですね。「えくすかりばー」とは書かれていますけど」
「――ッ!!! これじゃ、ない……っ」
 中身を確認した健はがっくりと両手両膝を地面についた。どうやら今のは結構堪えたらしい。勝負には勝ったはずなのに、彼の周辺には妙に重い空気が降りていた。
「ま、まぁ、元気出せよ。ほら、さつまいもも手に入ったぞ」
「さつまいもって果物じゃねぇ?! いや、トッピングには使えるだろうけどさ」
 健はどうにか復活すると、オルグが差し出したさつまいもを受け取る。なかなか立派なさつまいもだったので、果物ではないもののそれなりには喜べる食材だろう。
「それからなんだっけ、マロンって言った? おおっ、すげー栗が虹色!?」
「七色マロン、というそうですよ」
 名前の通り、袋にたっぷり入っていた栗はそのどれもが虹のような七色の輝きを発しており、まるで一つ一つが宝石のようだ。
「いやっふぅー! 七色マロンゲットォ! これってもしかしてレアアイテムか!」
始めてみる食材に、健の先程までの沈みぶりは一気に消し去られていったらしい。元気を取り戻した健はさっと立ちあげると、「この調子で次行こうぜ、次!」と一行を促しつつ広場へ駆けだしていった。

 広場奥の巨大な木に向かって、勇者一行は躍進を続けていた。幾多の魔王の手下達を退け、多くのアイテムも入手できている。
「このまま果物が出なかったらどうしようかと思ったけど、どうにか桃もみかんもキウイも、ついでにブルーベリーも手に入ったな」
 ほくほくとした表情で、健は入手したてのブルーベリー入り袋を目の前にいるアニモフに手渡す。大量に手に入ったアイテムは、今まで倒した魔王の手下役のアニモフ達が運搬を手伝っていた。
「いちごも充分な量確保できたし、ひとまずパーティはなんとかなりそうだな」
「ビスケットやチョコレートも手に入りましたよ。……しかし、」
 「これはトッピングに使っていいものなのでしょうか」と首を傾げるダルタニアの手にあったのは、トマトと、タイ焼きだった。
「……タイ焼きは案外、中央にのっけたらいい感じになったり……しねぇか」
「その場合、中に挟むトッピングはオルグが手に入れた魚?」
 スポンジ+クリーム+魚。オルグはつい少しだけ想像してしまったことをひっそりと後悔した。
「兎にも角にも。あとは魔王を倒すだけですね」
「ああ。魔王かー、やっぱ手下より強そうだったりするのか?」
「手下よりっつってもアニモフだからな。ま、期待はあんまりしない方が賢明なんじゃねぇか?」

 そして、勇者たちはついに魔王と邂逅する。RPGごっこのラストを飾るボスは、一行の予想を遙かに超えていた。
「ふはははははははははッ! きたなゆうしゃどもめ! わしがきさまらを、ね、ねだやしにしてくれるわっ」
『まおう が あらわれた!』
「大きいですね」
「ああ、でかいな」
 ダルタニアもオルグも、その魔王の姿をじっと見上げていた。そこには驚きというよりも、唖然といった方が正しい感情が宿っている。
「……でかいのはいいけど……どうやって戦うつもりなんだ?」
 健の疑問は当然のものだった。魔王=強い=巨大 という発想はいいのだが、集団でピラミッドを組んだ状態では、バリカンを持って戦うどころか一人たりともまともな身動き一つとれないだろう。
「たかいのこわいよー、おろしてー」
 頂きにいるアニモフに至ってはすでに降りたがっている。
「しかたありませんね。では、ここはわたくしが」
 ダルタニアは言うが早いか、身軽な動作でアニモフのピラミッドを駆けあがる。足元で「むぎゅっ」とか「きゃあっ」とか聞こえるのは気にしてはならない。
 そして頂上に辿り着くと、まずてっぺんのアニモフの毛を剃り、その体を抱き上げると下に優しく放った。放られたアニモフはころころと柔らかい羊毛の段差を転がり、やがてぽてっと地面に到着する。
「おりれたー!」
 ダルタニアは手際よく、ピラミッドの構成員達の毛を次から次へと刈っていき、その山を崩していく。
「手下より手間がかかる、という意味では。確かにボスに相当するのでしょうね、これは」
 そんな呟きを交えつつ、ダルタニアは魔王を徐々に解散させていく。そんな折、下の方にいたアニモフがふいに「もうつかれたー」と呻いた。「ぼくも」「わたしもー」と同意の声が続く。
 そして、崩壊は突然訪れた。下が崩れたことで、瞬く間にピラミッドは元の形を失っていく。
「「「「「「「「きゃーっ」」」」」」」」
「うおっ、こっちにも崩れてくるぞ!?」
「逃げようぜ!」
ダルタニアはすんでのところで身を翻し、ひつじの雪崩から免れる。やがて雪崩はおさまり、広場には魔王の代わりにひつじの山が残った。
『まおう を たおした! まどーしんかんせんし は けいけんち を 500 てにいれた! まおうのたから を てにいれた!』
「魔王の宝、ですか?」
 立て札に書かれたその言葉を音読すると、立て札係のアニモフがそっとある方向を指差した。村一番の木の陰に、今までよりいくらか大きめの袋が置かれている。
「なるほど。では、さっそく中身を拝見しましょうか」
 袋の前に立ち、それをそっと開けると、中には沢山のいちごと、実の星型をしたブドウがたっぷり入っていた。
「すごいでしょー!」
「おいしいぶどうなんだよー!」
「これは……珍しいですね。ありがたく頂きます」

 ダルタニアがアニモフに礼を言っていると、健とオルグが追いついてきた。
「お、すげー星型だ! なんだそのぶどう!」
 健は珍しいぶどうに素直に驚きの声をあげていたが、一方、オルグはどこか沈んだ様子だった。
「オルグさん、どうかされましたか?」
「……ピラミッド組むなら、バリカンは置いてけよ。なんでバリカンと一緒に降ってくるんだよ」
 よく見ると、首辺りの毛が一部。極端に短くなっていた。おそらく、先程の雪崩の最中にアニモフが持っていたバリカンが偶然当たったのだろう。
「……そればかりは、すみません。わたくしの回復魔法でも、回復できません」
「だよな、畜生! どうしてこうなった……!」
 落ち込むオルグを前に、ダルタニアは思い出したようにアニモフ達に預けていた袋の一つから茶色い瓶を取り出し持ってきた。
「これ、毛生え薬らしいですが……一応使ってみますか」
「毛生え薬!? そんな都合のいいもんがあったのか!」
 オルグは一転、喜びの表情でその瓶を受け取る。そして、急いでその蓋を開けた。

「「「臭ッ」」」

 その場にいた全員が、同じ言葉を口にした。そして、オルグは見た。その茶色い瓶のラベルを。「ドリアンエッセンス」という文字に二重線を引き、その下に「けはえぐすり」と書きなおしてあるのを。
「そんな誤魔化し方いらねぇよッ!!」

 こうして、アニモフ達とのRPGごっこは無事ハッピーエンドを迎えたのだった。

【END】

クリエイターコメントお待たせいたしました!

皆様のご協力により、あれこれありながらもどうにか様々な食材を集めることができたようです。

今回入手したアイテムは以下の通りです。

・いちご
・バナナ
・キウイ
・まよけせっと
・どこんじょうせっと(ロープと栄養ドリンク)
・鮮魚
・タコ
・大漁旗
・あやうい水着
・黄桃
・みかん
・ブルーベリー
・七色マロン
・さつま芋
・「えくすかりばー」と書かれたバリカン
・星ぶどう
・毛生え薬(偽)
・ビスケット
・板チョコ
・トマト
・タイ焼き

入手したアイテムはすべてパーティ会場(クリスマスイベント掲示板内該当スレッド)に送られます。もしご都合のよろしければ、そちらにもご参加いただけると有り難く存じます。

今回もとても楽しく書かせていただきました! ……楽しくて調子に乗りすぎて後で字数削りに悩まされたりもしましたが!←
この度はご参加ありがとうございました!
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
公開日時2011-12-17(土) 01:10

 

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