「今年も年越し特別便がでるようですね」 赤いクマのぬいぐるみことヴァン・A・ルルーに声を掛ければ、彼はもっふりと下手を口元に寄せる。「ああ、私はモフトピアまで《おみくじタマゴ》を探しに行くつもりですよ。……ええ、粉砂糖の雪が積もる浮島のひとつへ」 なんでも、その浮島にはこの時期になるとチョコレートやキャンディやクッキーなどがぎっしりと詰まった《おみくじ入りタマゴ》が至る所に出現するのだという。 綿アメのようにふわっふわの花畑。 スフレオムレツのようにふわっふわで甘い岩場。 シフォンケーキのようにふわっふわで色とりどりの木々。 そんなやわらかな甘い香り漂う岩陰に、地面に、木の洞に、隠れた《タマゴ》を見つけ出す宝探しの要素も心をくすぐる。「何が生まれてくるのかはタマゴを割ってみるまで分かりません。ですが、あふれるお菓子に紛れて、これからの一年を暗示するモノが飛び出してくるというのはちょっとギャンブル的で楽しそうですしね」 いいながら、ルルーは本革の大きなトランクを持ち上げて見せ、「アニモフたちと一緒にお菓子に囲まれ、甘い香りに包まれた時間をすごすのも一興かと思いまして」 ティーセットと茶葉は既にこちらで用意していると笑った。 ただし、タマゴは普通の方法ではけっして割れない。 ハンマーでどれほど思い切りよく叩いたところで、殻にはヒビひとつ入らない。 では、どのようにして中のお菓子やおみくじを取り出すのか。「ああ……タマゴを割るにはですね、キスをするんです」 タマゴにキス。 なんだか妙に照れるような、気恥ずかしいような、でもアニモフたちがそんな風にタマゴと戯れる光景は見てみたいような、くすぐったい気持ちにさせられる。 話を聞くだけで、既にふわもこ甘々な香りが漂ってきそうで、ついこちらの頬もゆるむ。 すると、「いかがでしょう? もしよろしければ、これからの一年を占いに、私とタマゴ探しへ行きませんか?」 クマ司書が小さく首を傾げて、そのもっふりとした手を誘うように差し伸べてきた。●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
「プリン、カラメル、わたあめ、キャンディ、生クリームにショコラ、甘い香りでいっぱいなのです! ふわふわ幸せの香りがするのです!」 シーアールシーゼロは、仔ウサギや仔トラのアニモフたちと手に手を取って森の中へと飛び込んでいた。 「いいにおいー」「おいしいにおいー」「タマゴはそーいうとこに隠れてるのよ」「のよ」「タマゴタマゴタマゴをさがっせー」 彼らの歌うような声に、ゼロの足取りは一層軽やかになった。 「タマゴタマゴ、タマゴを探せ、なのです!」 ぴょこんぴょこんと跳ねる白いケープにふわふわの白いベレー帽が、パステルカラーの森ではステキな目印となる。 「ゼロのこれからの一年がふわふわモフモフふんわりで満たされますように、なのです」 そんな願いを込めてルルーへの同行を決めたゼロの幸先はすこぶる良さそうだ。 「すてき……ゼシもここでタマゴさがすの」 綿菓子の花畑を探索場所に選んだゼシカ・ホーエンハイムたちを、甘い花吹雪が出迎える。 アニモフたちがそこら中を掘り起こしているのだろう、綿菓子の花びらがぷわんぷわんと空に舞っていた。 「クマししょさん、ここは、クマさんたちもゼシたちもいいかおりね」 「ええ」 「いいかおりの中に、タマゴはかくれている、かな?」 「隠れていると思いますよ。ああ、ほら、あそこに」 ルルーが指さした先では、キャアっと別の歓声がわきおこり、花の海から顔を出した羊型アニモフたちの手には大きなタマゴが掲げられていた。 「ゼシも、ゼシもがんばろう」 きゅっと拳を握って固く決意するゼシカに対し、青梅棗はルルーの背にもたれるようにしてペタリと座り込んだまま、ぼんやり辺りを眺めている。 その頭の上には、デフォルトフォームの八甲田さんが、やはりぼんやりと乗っかっていた。 「おや、青海さんはタマゴを探しに行かないんですか?」 「……いいの……、貴方といるわ……」 ふるるっと小さく首を振り、まるで人形のようにじぃっと動かない。 そんな棗が珍しいのか、アニモフたちの中には興味深げに寄ってくる者たちもいた。 ぽかぽかとした日差しと、アニモフたちのもっふりした感触、やわらかなスポンジケーキの地面と綿菓子の花。 すべてがゆるりとした眠気を誘う。 「……やわらかくて、温かい」 「……うん、ゼシも……すごくきもちよくって」 両のまぶたがくっつきそうになっている。 「ダメ、ねむっちゃダメよ、ゼシ……タマゴをさがすんだから」 こしこしと目をこすりながら、ゼシカはなんとか花畑の中をごそごそ進んでいく。 「貴女は……、ずいぶん熱心ね」 「ゼシはおねがいごとがあるの。大事なおねがい。タマゴがみつかったら、きっとゼシのパパも見つかるの」 「そう……探してるの、ね……」 棗の中の《何か》が振れる。 触れて、変わる。 誰かが見つけたタマゴを分けてもらうのではなく、自分で探してみたいかもしれない、と。 「おお、マルゲリータ、見つけたか……!」 よく知る童話を参考に、白ブラウスに赤いスカートの民族衣装でコーディネートを決めたジュリエッタ・凛・アヴェルリーノは、目を眇めて樹を振り仰ぐ。 オウルフォームのセクタンが、煌めく甘い色彩の中に目当てのモノの発見を知らせてきた。 タマゴといえば、鳥が産むもの。 そんな発想から選んだ場所は、枝の先にあるだろう鳥の巣だった。 足場の悪さを覚悟していたが、ここはモフトピア。必要な引っ掛かりがちょうどいいところに用意されていて、するすると、あっという間に木のてっぺんまで辿り着く。 「ほう……! ここはずいぶんと見晴らしがいいようじゃ」 イチゴにレモン、メロンに紅茶――シフォンケーキの葉がふわふわと揺れる森を見渡し、自然、口がほころんでしまう。 「ここでなら、ホンモノのお菓子の家だって見つかりそうではないか」 しばらくこのまま、風に当たりながら木の上で過ごしたい。 だが、まずはタマゴの捕獲が先決だ。 マルゲリータが、細い枝の先に止まり、ポツンとひとつだけ引っかかっているタマゴの前で小さく首を傾げてジュリエッタを待っている。 「おお、待っておれ、いますぐ、もうちょっ……と、あ、きゃぁっ!?」 手にした途端、ジュリエッタの身体が大きくバランスを崩した。 ざざざざっ…っと、葉擦れの音を伴って、少女の身体が落ちていく。 落ちていく。 落ちていって―― ぼすん。 クマ型アニモフたちが取り囲んでいたスフレオムレツの岩に、思い切り埋まりながら抱き止められた。 ☆ 「タマゴタマゴ、タマゴを見つけた、なのです!」 アニモフたちを引き連れたゼロの帰還と共に、星形クッキーが目印の森の広場は一気に賑やかさを増した。 ゼシカに棗、ジュリエッタ、そしてルルーの手にも、それぞれ見つけたタマゴが抱えられている。 「中身を知るにはタマゴにキスをするのであったな。……さて、何を願うかのう」 「ゼシはね、もうきめてるの。タマゴさんに、パパがみつかって、パパがぎゅぅってしてくれて、うんとあそんでくれて、ママのお話をきかせてくれて、それでね……それで、もうナイショでどこかに行っちゃわないでって、ヤクソクしてくれますように、って」 「ゼロにもなにか見つけなければいけないモノがあるのです。それがタマゴみたいに見つかりますように、なのです」 「……ルルーさんが、お腹の上で私をお昼寝されてくれますよう、に?」 願い事を呟く唇が、タマゴに触れる。 途端――目の前にあふれ出すのは、甘やかな香りと懐かしい色彩だった。 ゼシカの手には、クリーム色のふんわり大きなカステラ。 ゼロの手には、カラメルたっぷりのとろけるカスタードプリン。 棗の手には、花の形をした色とりどりのゼリービーンズ。 ジュリエッタの手には、金平糖にリンゴ飴、かりんとうが飛び出してきた。 「先生がよんでくれた、えほんのカステラ!」 「ゼロがはじめて食べたプリンなのです!」 「……あの時、お揃いでもらったお土産……」 「ほう、懐かしい。昔、お祖父さまに縁日で買ってもらった菓子ばかりじゃ」 おみくじタマゴは、これからの一年を占うタマゴ。 その殻が少女たちの手の中で、キラキラ輝く小さな星に姿を変えた。 ゼロには真珠、ゼシカにはサファイア、棗にはアメジスト、ジュリエッタにはアクアマリンの、それぞれの一年の輝きを約束する星が、その手の中に落ちてくる。 「すごいすごい」「きれいだねぇ」「きらきらだよ」「みんなキラキラ」 アニモフたちの手の中にも、たくさんのお菓子と星があふれていた。 「ルルーさんは何をもらったのですか?」 「私はミンスパイですよ」 フフ、と笑うルルーの手にも、やはりパイと星があふれている。 「みんな甘い香りなのです。甘いゼロもキスをしてもらったら、何かが生まれるかもしれないのです」 「ほお、面白いな。よいぞ、キスは慣れておるしのう」 「ゼシも、ゼシも先生にしてもらったみたいにキスをする!」 「……キス? ……こう?」 互いの頬にキスをしあう少女たちを、そこへまざるアニモフたちを、赤いクマ司書は微笑ましげに眺める。 そうしながら、彼はトランクに詰め込まれたティーセットを、ふわふわの地面をこねて作った即席テーブルに並べていった。 「ではみなさん、お茶会を始めましょうか」 あたたかな窓辺でそっと絵本を開くような、そんな甘く優しいティータイムのはじまりはじまり。
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