モフトピアのある村で、くまアニモフ達はお正月の準備を進めていた。とはいっても、モフトピアにもともとそんな行事があったというわけではない。「おしょうがつは、かるたとりなんだよ!」 にもかかわらず、今いそいそと村のあちこちをくまのぬいぐるみのようなアニモフ達が走りまわるのは、とある旅人にお正月の話を聞いたからだった。 お正月の楽しい遊びの話を聞いたアニモフ達は、張り切って彼らなりのお正月をしようとしているのだ。「おしょうがつはかるたなの?」「かるたはおしょうがつなの?」「え? うーん……かるたすればおしょうがつなんだよ、たぶん!」「「そっかー!」」 ただ、アニモフにはお正月の要素の一部を理解するので精いっぱいだったようだ。 そして「かるた大会特設会場」はアニモフ達の遊びへの情熱によって見事作り上げられた。 『かるた たいかい』の立て看板の先に、まっ白いもこもこの雲が平らに敷き詰められ、その上にアニモフの身長とちょうど同じくらいの大きさの絵札が並べられている。「『あ、あかいりんご、おいしいなっ!』」「えっと、えっとー」「どこだろー?」 予行練習も順調。あとは、一緒に遊んでくれる旅人達を待つばかりだった。●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
カルタを並べ終えて以降、そわそわとお客さんを待っていたくまアニモフ達は一人の旅人の姿を発見すると円らな眼をきらきらと輝かせた。 「きたー!」 「おきゃくさん! おきゃくさんだーっ!」 到着するのを待ち切れないくまアニモフ達は宮ノ下 杏子のもとへと我先に駆け出し、着物姿の彼女に次々飛びつく。 「わっ! 皆さん元気いっぱいですね」 驚いたような声をあげながらも、その大歓迎ぶりに杏子の頬は自然と緩む。こんにちは、と挨拶をすると、これまた元気いっぱいなこんにちはの大合唱が起こった。 一方で、彼女が纏っている華のたっぷりあしらわれた可愛らしい桃色の着物を、足元にひっついていたアニモフ達が「すごーいきれー」「おはなかわいいねー」などと話しながら興味深々に見ている。はにかんだ笑みを浮かべつつお礼を言うと、アニモフ達はまた違うものを発見して歓喜の声をあげた。 「おはなだーっ!」 「おはなだ! おはなー!」 彼らの視線の先にあるのは、杏子が腕に抱えている大きな花束だ。梅や椿、水仙を中心に、色とりどりの可愛らしい花が沢山束ねられている。 「このたびはかるたとりたいかいにおまねきいただきまして、ありがとうございます。ささやかですが、さしいれです」 はしゃぐアニモフ達に頬を綻ばせながら、杏子はその花束と、何かを包んでいるらしい風呂敷をアニモフ達にそっと差し出した。アニモフ達に合わせるように優しい口調で話しかけると、アニモフ達は嬉しそうにいっそうニコニコと笑う。 「ぬののなか、おかしはいってたー!」 「おまんじゅう! おまんじゅうたべる!」 「だーめ、あとでみんなでたべるのー!」 思わぬプレゼントに興奮冷めやらぬ中、杏子はさっそくカルタとりの会場へと案内されていくのだった。 まっ白くもこもこの雲が敷き詰められ、そこに普通のものの数倍はある大きなカルタが雲一面に並べられている。そこにアニモフ達は先程杏子から貰った花を早速飾り付けていた。そんなモフトピアならではのカルタ会場に、杏子はわぁ、と感動の含まれた溜息を洩らす。 「可愛い会場ですねー」 ずっと杏子にひっついているアニモフに素直な感想を伝えると、そのアニモフはえへへと照れ隠しのように杏子の着物の裾に顔をうずめた。 「きょーこちゃん、こっちきてーこっちー」 駆け寄ってきたアニモフ達が杏子をカルタとり会場の中央に誘導しようと、彼女の手をくいくい引っ張る。そうやって引かれていくままに、――並べられている札を踏まないように気をつけつつ――杏子はカルタ会場の中央まで移動していった。 会場の中央、360°どっちを向いてもカルタが置かれている状態のところに、他の大会参加者らしい沢山のアニモフ達がきりっと気合のこもった表情で立っている。一人も座っていないのは、おそらくカルタの大きさ故に座っていては札がとれないからなのだろう。 「よーし、あたしもがんばります」 ライバルの姿を見て杏子はぐっと握りこぶしを作ると、彼らと同じように立って競技の開始を待つ。すると間もなく、一人のアニモフが会場の最奥に作られた雲のステージに上った。その手には読み札が一枚。ふとステージの脇に視線を移すと、読み札を一枚ずつ持ったアニモフ達が行列を作っている。 「えー、それでは、かるたたたたいかいをはじめますっ」 微妙な言い間違いをものともせず、開会の宣言にアニモフ達は一様に歓声をあげた。杏子も拍手でそれに参加する。 拍手と歓声が一段落したところで、アニモフはいよいよ一枚目の読み札に視線を落とした。すうっと息を吸い、精一杯の大声で読み上げる。 「ふわふわおふとん、おひるねしよう!」 「ふ、ですね」 杏子は早速それらしい絵札を探し始めた。内容的に布団が描いてあるのは想像に難くない。 「おふとんいいなー」 「おひるねしたーい」 一部読み札の内容に釣られてお昼寝しだしているものの、アニモフ達もいち早く札を見つけようと付近でキョロキョロ首を振って絵札を探す。そんな中、札を避けて歩きながら絵札に視線を這わせていた杏子は「あっ」と声をあげた。 「見つけました!」 アニモフ達より早く、急いで札を手にとる。布団に入って眠るくまアニモフのイラストの描かれた可愛らしい絵札に微笑ましさを感じていると、アニモフ達が「きょーこちゃんすごーい!」「すごいすごい!」と歓声をあげながら彼女の元に集まってきた。 「ふふっ、ありがとうございますー。次もがんばりますよ」 「ぼくも! つぎはぼくがとるぞっ!」 「わたしもがんばる!」 きゃっきゃっと賑やかなまま、札を読み終わったアニモフがステージを降り、次のアニモフが代わって同じ場所に立つ。 「けーきをふたりではんぶんこ!」 「け! 「け」だって!」 「今度はケーキですね、えーっと……」 「あ、これだー!」 今度は「け」の絵札のすぐ傍にいたアニモフがすぐにとったようだ。杏子がとったときと同じように、アニモフ達は全員で札をとった彼を褒め称えている。 「はやーい! かっこいー!」 「すごーい! つぎはまけないぞー!」 「本当、すごく早かったですねー」 杏子もその輪に加わり、一緒に称賛の言葉を贈った。その中心で絵札を手にしたアニモフはいくらか照れながらも嬉しそうにしている。 そうして一枚誰かがとるごとに褒め合い、アニモフらしいまったりとしたペースでカルタ大会は進行していった。 「きょーこちゃんきょーこちゃん! きょーこちゃんがもってきてくれたおせんべい、たべていーい?」 「きょーこちゃんのあたま、かわいいかざりついてるね! さわらせてー!」 「ねー、きょーこちゃん。これなんてよむのー?」 また、唯一のゲスト参加となった杏子は好奇心旺盛で人懐っこいアニモフ達に大人気で、カルタ大会の最中もしばしば沢山のアニモフ達が彼女に群がっていた。途中からは、急遽休憩を挟んで杏子の持ってきたお菓子を食べだしたり、読み札を読む係だったアニモフ達もステージから降りてカルタを探しまわったりなど、みんなでカルタ大会を心ゆくまで満喫したのだった。 そして、ついに札はすべてとり終え、結果発表の時間となった。 結果を書いた紙を持ったアニモフが、ゆっくりとした足取りで雲のステージに上る。それを、その場にいた全員が真剣な面持ちで見つめていた。 「けっかはっぴょー! ゆーしょーは――」 ごくり、と固唾を飲む音がどことも知れず聞こえてくるようだ。杏子もまた、じっと次の言葉を待っている。 「15まいもとった、きょーこちゃんです!」 「「「おめでとーっ!!」」」 大きな声で結果が発表されると、アニモフ達は一斉に祝いの言葉と心からの拍手を贈った。 「わぁ、優勝ですか? あ、ありがとうございますー」 驚きながらも杏子は嬉しそうにアニモフ達からの精いっぱいの賛辞を受けていた。そんな彼女のもとに、結果発表を行ったアニモフが小走りでやってくる。 「おめでとう! それと、きょうはいっしょにあそんでくれて、ありがとう!」 差し出されたのは、アニモフ達が描いたらしい杏子の似顔絵だった。おそらくカルタ大会中に描いていたのだろう。杏子はそれを満面の笑顔で受け取る。 「素敵なプレゼント、ありがとうございます」 その言葉に、アニモフ達はまた嬉しそうな様子で拍手を送ったのだった。
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