夜空に不思議に煌く光のカーテンは、空にたなびくものやぼんやりと光を発するものなど、見え方は多岐に渡っている。 だがただひとつ確実に言えるのは、それは不気味なほど美しいということ。 ヴォロスのとある山奥に発生する極光現象は、年に一度だけ人々の前に姿を見せるという。 そしてそれを見た人々の間で、いつの間にか一つのジンクスが囁かれるようになった。 *-*-*「今年も年越し特別便がでるんだって。だからー……」 そこまで聞けば誰でも想像できる。このあとに続くのは、魅力的なお誘いだ。「ヴォロスでオーロラ、見ない?」 ロストナンバー達に用件の概要が読まれていたかどうかなんて、気にしない。楽しいお誘いなんだから、そんなこと気にしていたら始まらない! 銀髪の世界史書、紫上緋穂(しのかみ ひすい)はものすごくワクワクしている気持ちを隠さずに、言葉に込める。「ヴォロスのとある山奥にね、一年に一度だけオーロラが見られる場所があるんだって。竜刻の影響みたいなんだけど、なんで一年に一度なのかはわかんない。地元の人は、オーロラは一年の間、幸運を貯めてくださってるなんていってありがたがってるけど」 オーロラの出る山は雪深く、防寒具は必須だろう。もこもこしてしまうだろうが、こだわりがあるとかもこもこは嫌とかいう人は、防寒作用のある生地で作った普段着風の防寒具を貸してくれるとはいうが、雪山の中に入ってしまうと少し浮いてしまうだろう。「オーロラが出るのは、壱番世界で言う一年の終わりの夜から一年の始まりの早朝まで。山には毎年オーロラを見に来る人がいるから、期間限定のビレッジになってて、地面の雪は踏み固められているから地面に寝転んでオーロラを見ることもできるよ。もちろん、丸太や切り株も置かれているからそこに座って見上げるのもいいね」 テントや寝袋を持ってくる人もいるようだが、やっぱり寒さを感じながら見たほうがそれっぽいよね、と緋穂。「温かい飲み物が色々と配られるんだけど、極めつけはね、オーロラと飲み物に関係するジンクス!」 お祈りするように手を組んで、うっとりとしながら続ける。「カップにお茶やスープを入れてオーロラを映しこみ、『来年』が『今年』になる瞬間に飲み干すと、オーロラのパワーを得てその年一年、いい年になるんだって!」 だから地元では、オーロラは一年間幸運を貯めていると言われるのだろう。 ステキなオーロラを堪能するのはもちろんだが、せっかくだからこのジンクスを試してみてはどうだろうか。「ちなみにぃ~」 ロストナンバー達がまだ見ぬオーロラへと思いを馳せていると、一転、テンションの下がりきった声が足元から聞こえてきた。「私は別の仕事があって一緒にいけないんだ~……。だから私の分も、楽しんできて!!!」 ギリギリまで一緒にいくつもりだったらしいが、どうしても都合がつかなかったらしい。 チケットを受け取ると足元にしがみつきかねない緋穂からそそくさと離れるロストナンバーたちであった。●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
山奥のヴィレッジは身を切るほどの寒さだ。顔などは風が吹きつければ痛いくらい。それでもヴィレッジには一年に一度のオーロラを見ようと、人々が集まっていた。中に光源を入れたテントはそれ自体が発光して雪原を淡く照らし、数カ所で焚かれる焚き火は人々の寄る辺となる。 「この土地ならではのお土産ないですか?」 Marcello・Kirsch――ロキは時間までの間、ヴィレッジの管理人に尋ねた。今の時期は雪の下に眠っているが、この地では『オーロラの欠片』と呼ばれる虹色の石が拾えるのだという。宝石の類ではないが透き通った虹色をしていて、大きなものは加工してペンダントトップや指輪などに、小さいものはイヤリングやピアスに、または小瓶に詰められて売られているという。 「それ、お願いします。大きいのと、小さいのの詰め合わせを」 一つは恋人へのプレゼント用に。そしてもう一つは―― (素敵な旅行を用意してくれた緋穂に、お礼も兼ねて) 恨めし……いや、羨ましそうに皆を送り出した世界司書へのお土産のようである。小瓶に詰まった小さな虹色を見ると、彼女の喜ぶ顔が浮かんだ。 「オーロラって、見た事ないんスよねー」 「私もです。以前から見たいと思っていたんですけど、なかなか時間が取れなくて……」 ダークオレンジ色のコートを着込んだマッティアの言葉に、飲み物を入れる準備をしながら舞人が答える。 「壱番世界でもオーロラは滅多に見れるものではないんですよ。寒い場所に行けばいいというものでもないですし。様々な条件が合わないと見れないんです」 「へー。じゃあ例え一年に一度でも見れるのが確実なここは貴重な場所っスね」 コーヒーお願いできるっスか? とマッティアが付け加えると、舞人は勿論ですと柔らかく答えた。 (オーロラか……凍てつく空に掛かる天空のカーテンといったところか。その神秘的たる光景、我輩の思い描く「理想郷」にもきっと存在するものだろう) ヴィクトルがなんとか自前の襟巻きの上に巻いたマフラーは見た目にも暖かい。 (理想の地に到達する前に、一度見ておくのも悪くはあるまい) しっぽがゆらゆらゆら。 「おっ、ヴィクトルさんも楽しみっスよね?」 近くの切り株に腰掛けたヴィクトルの揺れる尻尾を目ざとく発見したマッティアが指摘すると、年に一度の事だからな、と照れ隠しのような答えが返ってきたりして。 ケホケホケホ…… やはりこの刺すような寒さの中では咳が酷くなってしまった。それでも在利は後悔していなかった。身体の心配以上にオーロラに対する好奇心が勝ったのだ。きっと、実際に見れば更に後悔の欠片は吹き飛ぶことだろう。 「在利さん、大丈夫?」 背中を丸めて咳き込む在利の背中にすっと添えられた手の感触は、防寒具越しにもわかる。ゆっくりと彼の背をさすりながら、テューレンスは用意してきたカイロを手渡す。 「ありがとうございます。体を温める薬を持ってきたので、飲んでおく事にします」 「テューラもオーロラを見るのに憧れていて、とても楽しみにしているんだよ」 「僕と同じですね」 にこ、と微笑み合って。 「飲み物、貰ってくるね。在利さんはそこで、待ってて」 テューレンスは立ち上がり、軽やかな足取りで飲み物配布所へと向かった。 *-*-* 「さすがにこの寒さだと、カイロもすぐに冷める気がする……気のせいか」 「貼ってるとあったかいっスよ。ありがとうっス」 手に握ったカイロをもみもみしているロキ。彼から貼るカイロを貰ったマッティアは、お腹に貼りつけたようだ。 「携帯用の小型の湯たんぽもあるけど、お湯を貰ってこないとな」 「こう寒いと、飲み物もすぐに冷めてしまいますね。直前にもう一杯入れましょう」 今入っている分は飲んでしまいましょう、舞人の言葉にロキもマッティアもカップに口を付ける。 「「あ」」 「「え?」」 在利とテューレンスの声がハモった。何事かとヴィクトルを始めとした四人がそちらを見ると、二人は小さく口を開けたまま、空を指さして。 「始まったか……?」 いち早く悟ったヴィクトルが天を仰ぐ。それに釣られるようにしてロキもマッティアも顔を上げて。 「見つかりましたか?」 舞人は入れなおした飲み物を配って回りながら、上を見ている者達に尋ねていく。 その間にも次々とオーロラが姿を表し、ヴィレッジ内には歓声と美しさに対するため息で満ちていった。 カーテンのようにたなびく虹色。天への道のようにシュプールを描く虹色。ほわっと円を描く様に広がる虹色。 「うわぁ……凄く綺麗。夜空にかかるカーテンみたい……」 やはり後悔の欠片は吹き飛んだ。身体は心配だったが来てよかったと在利は笑んで。 (覚醒してなかったらこう美しい風景も見れなかったんだよね……) そう考えると複雑な気持ちにはなるが、これもひとつの縁だ。 「綺麗だな……。オーロラもだが、青白く輝く雪原と夜空の組み合わせも」 この景色を心にとめて、帰ったら沢山の話をしてあげよう、ロキは小さく頷く。 (竜刻の影響だったか……年に一度限りの光景と言うのには、何か理由があるのかもしれぬな。この辺りは、気が向いたら調査してみようか。丁度オーロラの発生している地点の麓に何か秘密があるかもしれぬ) そこまで考えて、ヴィクトルは小さく頭を振った。好機に駆られるとこのような光景でも調査の対象としてしまうのは魔導師の悪いクセだと苦笑して。 「んー……。予想以上に……なんていうか、スゴイっすね……」 「美しい、と一言で言ってしまうには惜しい光景ですよね」 無意識のうちにマッティアの手はネックレスのペンダントトップへと伸びる。舞人も丸太の隣に腰をかけ、空を見上げた。 「なんて、美しいの、だろう……。とても、神秘的な、輝き……自然って、やはり、素晴らしい、よね」 感動のあまりじっと見つめていたテューレンスは我に返ってこの光景を写真へと収める。勿論肉眼でもしっかり脳裏に焼き付けるが、写真があればこの瞬間を思い出しやすくなる。 「カネートにも、オーロラ、見せて、あげたいな。……そうだ、“音”で、なら、伝えられる、かな」 テューレンスの奏でる透き通る様な弦の音とベルの様な音か、オーロラのしなやかさと輝かしさを表現して。人々の心にも染みこんでいく。 この感動を、忘れまいと。 *-*-* どれくらいそうして見上げていただろうか、「カウントダウン始めます!」の声にそれぞれが手元のカップを握り締める。しっかりと、オーロラを写し込んで。 「さよなら、今の年。よろしく、新しい年」 温かい紅茶をこくり。 (今年も――) 心の中で思いを形にし、林檎とシナモンのお茶を飲み込む。スパイシーだが甘い後味が落ち着く。 「……うむ、実にすばらしい光景だ、一年間の幸運を溜めているとされるだけある。では我輩も、そのご利益に預かるとするか」 ココアをこくん。口の中に甘さが広がる。 「いただきます」 温かい紅茶を飲み干し、飲み足りない人はいないかと最後まで気を配って。 ミルクだけを少し注いだコーヒーは、まだ若干熱かったか。 「……っつー……。少し熱すぎたかも……」 飲み干した後、少しだけ凹んで。 「……いい年になりますように」 スープを飲み干して、皆に微笑みかける。 新しい年が始まった。 皆にオーロラの幸運がもたらされますように――。 【了】
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