クリスマスの浮かれた雰囲気の中。 その貼り紙はいつの間にか貼り出されていた。 世界図書館の掲示板に、またはターミナルのそこここに、『 ★有意義な正月を過ごす会★ ・年越し特別便を使って、有意義な正月を過ごしませんか? ・駅前広場噴水前にて受付先着順、 担当より会場を確認の上、各自移動をお願いします。 ・好きな格好でお越しください(画廊街・リリイ嬢の全面協力に感謝) ・お年玉有マスにゃ!!(にくきゅうはんこ) 』 とある者は「大きな黒猫が貼っていった」と。 またある者は「ダンディな尻尾のおじさまが貼っていった」と。 また猫耳猫尻尾の少年が「俺が貼ったんだけど」と言った。 ん?――壱世界某所―― 狭いアパートの一室。 中の空気は暖かく、ガラス窓は温度差で曇り滴が落ちる。 壁一面の本棚にはミッシリと漫画が並び、部屋の中央にはコタツ(とミカン) ドア一枚隔てた狭い台所には一通りの調理道具が揃う(カセットコンロもある)――ピコピコ、ズギューン 薄暗い部屋でテレビがピカピカと点滅する。 もそりと。動くものはただ一人。某会の主催者だ。 黄色い体に茶色の縞。口からのぞく牙は恐ろしく……「また死んだにゃ!」 ゲームのコントローラーを叩いた手は黒かった。 なんてことはない。虎の敷物のりちゃーどを被った、世界司書・黒猫にゃんこである。 ……敷物の隙間から、腹巻が覗いた気がする。「せっかく伝手でオタク部屋を借りたのにゃー。 遊びつくすにゃ!」 ゴロリと転がり、今度は携帯ゲームを手にする。「みんなまだかにゃー」* * * * * * * * * *●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
――ピポーン チャイムはやたらと軽い音で鳴った。 受付にてお年玉と一緒に貰ったメモによれば、会場はここで間違いないはずである。 「どう見ても安アパートじゃね?」 いつもよりちょっとキメて来てしまった服装が気恥かしい。 「入ってくれ」 中からは男の声がした。ここまで来たら行くしかない。 「お邪魔しまぁーす」 「やあ、いらっしゃい」 男はその狭い部屋に似合わないスーツ姿で……腰に虎の毛皮の様なモノを巻きつけているのが何となく卑猥。そして棚の上に伸ばした手には……ゲームソフト。 「……これって何する会なわけ?」 「ん?」 虎部 隆は直球で尋ねた。 男はムニャムニャと口の中で何か言う。 ――どろろーん! いきなり煙に包まれたかと思うと、そこには代わりにデカイ猫。 「みんなでゲームする会にゃよ」 「どこが有意義じゃーーー!!!」 隆は1m程の黒猫の首を絞め、神社の鈴を鳴らすが如く揺すりまくった。 ゲームソフトが宙を舞う。 「あら、綾もこの会に来たのね」 「黄燐ちゃんだよね? 今日はヨロシクね! お着物とっても素敵!」 「綾こそ」 部屋の手前で出会った日和坂 綾と黄燐は、ニコニコとお互いの服装を褒め合った。 綾はガッツリ振袖でフォックスフォームのセクタンまでおめかしをしている。黄燐も見事な四つ身晴れ着。 「で、集合場所はここだけど……休憩用に借りてくれたのかな?」 「外は寒いものね」 ――1分後 「え~有意義な正月を過ごすって書いてあったよ? それにリリィさん協力で好きなカッコで来いって書いてあったし、お年玉も貰ったし……フツーおめかしして初詣に行って神社の境内で買い食いするツアーなんじゃないの!?」 綾は1m程の黒猫の首を絞め、御神籤箱の如く揺すりまくった。 「く、くるしいにゃ~」 「ねぇ、これは何かしら? 絵が動いてるわ!」 黄燐がぺしぺしと興味津々でテレビを叩き、隆はコタツでセクタンとともにミカンの山を作って遊ぶ。 もうちょっとしたら綾っちを止めよう。と隆は思った。 「と、言うわけで、初詣じゃなくてゲーム大会だそうだ。 俺が買ってきたケーキもあるし、勝った奴から食うことにしねえ?」 「隆、何だかウキウキしてない? 私まだショックなんだけど!」 提案する隆に、綾がコタツに顎を乗せたまま膨れてつっこむ。 「あたし、お餅買って来たのだけど七輪はある?」 黄燐はにゃんこの肉球をぷにぷにさせて貰いながら言う。 「トースターがあったにゃ!」 ――どろろーん! 「こっちだ」 猫耳尻尾の青年に手を引かれ、黄燐は困惑する。 「え、猫じゃない……!?」 「ん~私、何も買って来なかったし、買い出し行ってくる。おいでエンエン」 「気をつけてなー」 綾はセクタンを連れてバタバタと駆け出していった。 「あんな箱でお餅が焼けるのね」 綾と入れ替わりに黄燐が戻ってくる。 「TVゲームは初めてなんだろ? 先にちょっと教えてやるよ」 「てれびげぇむって、これでするの?」 そう言ってテレビをまたぺちぺちと叩く。 「そそ、でもあんたが持つのはこっち、ココを押すと、画面の方のコイツが動く」 「まあ!」 (実は見た目だけだが、)子供の黄燐が目を輝かせるのを見て、隆は微笑ましく思う。 「で、こうやるとこうなって」 「あら!」 「こうしたら勝ちだな!」 「なるほど」 黄燐は小さな手を口の前で合わせた。 ――これはどういう仕組みなのかしら? 買って分解してみなくては…… 「お餅焼けたにゃー」 「また猫だわ」 「猫はコタツで丸くなるんにゃよ?」 にゃんこは変な理屈を言いつつ、皿をコタツにのせた。 磯辺焼きゴロゴロ。 「この時期といったら、お餅でしょう? あたしはこの食べ方が一番好き」 黄燐は嬉しそうにひとつ取る。 「いいねいいね、正月っぽい」 隆もムグムグと齧りついた。 「ただいま~。2Lのペットボトル3本とポテチとインスタントカレーとチンするゴハンとチーズ買ってきた~」 『おかえりー』「にゃ」 綾は両手の袋をドサドサと下ろしてコタツに入る。 「早いな。つか、インスタントかよー」 隆がつっこむと、綾が恐い笑顔。 「振袖の女の子に料理なんて期待するなっ! インスタントでもチーズかけて焼けば十分カレードリアっぽくなるんだから我慢するのっ!」 「かれぇどりあ?」 黄燐が興味津々に復唱する。綾は一転ニッコリ。 「美味しいんだよ! 後で食べようね~」 「楽しみだわ」 「で、何からする? こうなったら遊び倒してトップになってやるぅ! 隆なんて粉ミジンコよ、粉ミジンコ!」 綾はどこから出したか紐で振袖をたすき掛けにした。 「今、格ゲーのやり方を教えてたんだ」 「いいねいいね、格闘は得意だもん!」 「格闘じゃなくて格ゲーだって」 1回戦 にゃんこ VS 綾 「にゃー! 肉球で同時押しができないにゃ!」 「えぇい隙ありぃ!!」 勝者 : 綾 2回戦 隆 VS 黄燐 「十字きぃをぐりぐりすればいいのよね?」 「え、ちょ、何そのコンボ!?」 勝者 : 黄燐 3回戦 綾 VS 隆 「うりゃ!大キック大キック(中略)ほら空中!蹴りー!」 「お返し大キィーーック!!」 「ぐえっ」 「あっ隆」 ――試合中断 「綾っち……だから格闘ではないと……」 「ごめ~ん」 「不幸な事故だったにゃー」 「今回は黄燐にケーキかなあ」 「では、みんなには“らいすけぇき”ね」 「黄燐ちゃん横文字慣れてきたねー」 一服。 「札を使ったげぇむはやった事があるわ」 トランプを手にした黄燐が言う。にゃんこは札を持つ為に青年に変身した。 「大富豪かぁ~頭使うのは苦手なんだよねぇ」 「これロバートゲームって呼ばないか?」 全員の手札が順調に減って行く。 「今まで出たカードがアレだから……」 ブツブツと呟く隆の横でにゃんこがペッとカードを出す。 「あがり!」 「ゲッいつの間に」 にゃんこはいそいそと黄燐の後ろに回りカードを覗きこむ。 「あ、これは一緒に出せるんだよ」 「そうなの?」 「革命ってやつだよ」 バラリと。手持ちのカードが四枚まとめて出される。 「嘘お!?」 「あ、やったー!」 顔を青くする隆と、逆に満面の笑みで両手を上げる綾。 「まさか初心者が革命するとか思わないじゃんかよおお」 「強いのから出しちゃったからどーしようかと思ってたんだ!」 「くっそおおお!!」 一服。 「あ~、やだやだ黄燐ちゃん、沈めるのは隆だけにして! ぎゃ~」 「コツを掴んできたかも。うふふ」 「このキャラにゃんこに似てるにゃー」 「ちょ、もう一回!」 「うぅぅ、こんなトコでにゃんこさんと隆とビリ争いするコトになるなんて~」 「本当にけぇき2個目食べてしまってもいいの?」 「にゃんこもうだめにゃ……」 「何で逆転されちまうんだよ、俺頑張ってたよね!?」 夜も更け、さらに空が薄らと明るんでくる頃。 「絶叫しまくりで咽喉痛~い。隆、ミカン投げて~」 「あいよー」 四人それぞれコタツから生えてゴロゴロ。 「黄燐寝ちまったな。着物で窮屈じゃないかな」 すやすやとにゃんこを抱いて眠る黄燐に、隆は自分のジャケットをかけてやった。 「なんだかんだいって、まあ女子もいたし皆でゲームやりきったし、俺的には有意義だったな!」 「ん~楽しかったもんね」 綾もミカンを剥きつつ同意する。 ゆったりとした空気の中、2人は顔を見合わせてニヘッと笑った。 『今年もよろしくお願いいたします』 有意義な正月を過ごす会。 有意義に終了! (終)
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