オープニング

「壱番世界に、暦の変わるころに行われる『羽根つき』という伝統遊戯があるそうです」
 目隠し姿の世界司書・予祝之命は、特別便での旅の予定を問われてそう語りはじめた。
「日本という国において千三百年の歴史をもち、女児がすこやかに育つよう願いをこめて行われる神事だそうです。わたくしはその遊戯に大変興味があり――」
 おもむろに、懐から一枚の紙を取りだす。
「――アリオさまにお願いし、新年に体験できるよう取りはからっていただきました」
 手にした紙はインターネット上のホームページ画面を印刷したものらしい。
 ある日本の古民家で、羽根つき体験ができる催しについて記載されている。
「日本の京都という土地に赴き、さる古民家にて、羽根つきの道具一式をお借りできるとのこと。広いお庭もあり、自由に遊んで良いそうです」
 当日はそこで羽根つきを楽しみ、一日を過ごす予定だという。

「羽根つきのルールは簡単です。一対一で羽根を打ち合い、返し損ねた者が負け。そうして負けた者は、罰として顔に墨を塗られるそうです」
 こんなふうに、と、予祝は空中にマルやバツを描いてみせる。
 対戦者の選定については予祝がくじ引きを行う予定だ。
 勝ち残った者同士が対戦し、勝ち抜けた者が優勝となる。
 なお参加者数によっては初戦が三名となる可能性もあるが、この辺りは当日司書が調整をかける予定だ。
「それと、壱番世界ではこのころ、『お年玉』というものも振るまわれると聞きました」
 そこで、勝者にはお年玉を贈呈するという。
 『松』『竹』『梅』の三袋を用意するつもりらしく、上位三名までにチャンスがある。
「中身については当日受け取った方のお楽しみ、としておきましょう」
 「それから」と、予祝が言葉を繋ぐ。
「当日の衣装についてリリイさまに相談したところ、日本の着物姿が良いのではないかとご提案いただきました」
 そこで予祝は、先日リリイに着物の仕立てを依頼済なのだという。
 まだ手が空いていると言っていたので、特別便合わせで今から仕立てを依頼すれば出発には間に合うだろう。

 予祝はそこまでを一気に説明すると、一息ついた。
「……というわけで、おおかたの旅の準備は整っているのですが、いかんせん羽根つきをひとりで行うのは無理があります」
 ひとりで遊べないことはないかもしれないが、わざわざ古民家の予約をしておきながらそれではあまりにも悲しい。
「みなさまとともに楽しい一日を過ごすことができれば、わたくしにとってもそれ以上嬉しいことはありません」
 日本の伝統衣装をまとって、伝統遊戯をたしなむ。
「年に一度の機会ですし、もしご興味があれば一緒にまいりませんか?」




●ご案内
こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。
参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。
「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。

《注意事項》
(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。
(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。
(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。
(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。
(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。
(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。

品目イラスト付きSS 管理番号1611
クリエイター西尾遊戯(wzyd7536)
クリエイターコメント本SSでは≪壱番世界行き≫の特別便を運行いたします。

舞台は日本・京都の古民家です。
羽根つきの道具一式と、広い庭を貸し切りで使用できます。

現地でのタイムスケジュールは下記【1】~【4】の通りです。
(本文は古民家に到着した場面から描かれます。)

【1】三が日のお昼に古民家到着(着付け済)
【2】対戦相手をくじびきで決定
【3】トーナメント方式で順次対戦
【4】上位三名にお年玉を贈呈

※プレイングにて『羽根つきの戦略』についてお聞かせください。

※着物の仕立てを希望する場合は、
 プレイング内に『着物姿』とご記載ください。
 色柄など、ご希望がある場合は指定をお忘れなく!

※勝ち抜けた場合、欲しい『お年玉』の順位をご記載ください。
 (記載例)【お年玉】1竹2梅3松

★当日は予祝之命(czrm8388)が同行します。


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●イラストレーター:けいとより
お年玉欲しい今日この頃。
伝統の古き良き遊びで
新年のひとコマを熱く楽しみましょう!


●ライター:西尾遊戯より
あけましておめでとうございます。
敗者の顔に墨を塗るのは羽根つきのロマンですよね。
ぜひリリイさんお手製の着物をお召しになって、
壱番世界の伝統遊戯をご堪能ください。

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参加者
一一 一(cexe9619)ツーリスト 女 15歳 学生

ノベル

 今回の参加者は予祝之命、一一一。
 そして直前になって参加を申しでたイタズラ好きの二代目館長と、ニンジンには一家言あるという兎の貴族青年を含む四名となった。
 一は白地の袖に力強い筆文字で『英雄』と描かれた着物。
 予祝は緑の着物姿にあわせ、目隠し代わりの狐面をかぶっている。
 館長と兎青年も、それぞれお正月にふさわしい着物姿だ。
 ターミナルで着付けを終えた一行は、その足で壱番世界の日本・京都の古民家へやってきていた。
 事前に予約している旨を告げると、家主である老夫婦が快く屋敷の中へ通し、羽根つきの道具をかしてくれる。
 一行は羽子板と羽根の扱いに慣れるため、そろって練習を行った。
 ある程度打ち合いができるようになってからの方が、試合を楽しめるだろう。
「羽根つきって女の子の遊びだったんですね。知らなかったなぁ」
 つぶやく一に、予祝も頷く。
「墨を塗るのも、もとは縁起行為だったそうです。墨に厄除けや殺菌の効果があり、病気除けになると考えられていたのだとか」
 羽根にムクロジの種子を用いるのも、『無患子』=『子が患(わずら)わ無い』という無病息災への願いが元になっているらしい。
「やるからには全力投球と参りましょう。羽根つきも、落書きも!」
 なんであれ、羽根つきをいかに楽しむかを重視したいというのが一のスタンスだ。
「スポーツマンシップに則り、正々堂々と楽しみぬく事を誓います!」
 一の言葉に、他三名も羽子板を掲げ、応える。
「誓います!」
 くじを引き終え、対戦相手が決まったところで、いよいよ試合開始だ。


「基本ルールについては事前にお伝えした通りで、打ち損じるごとに落書きをし、先に三度落とした方が負けです」
 審判を務める予祝が二名の間に立ち、声をかける。
 最初の対戦は【一 vs 兎青年】だ。
「残念ながら、貴殿といえど我輩が相手では勝ち目はないな!」
 豪語する青年を前に、
「言ってくれるじゃないですか!」
 やるからには勝利はもちろん、お年玉を狙う一もやる気満々だ。
 だが、持ち前の跳躍力で羽根をひろっていく青年に対し、一は打ち返す際の力加減に苦戦し、初手から羽根を落としてしまう。
「くっそ~」
 全力ホームランや空振り、羽根を追いかけた勢いのまま生垣に突っ込む等の盛大なエラーを見せたものの、結果的に初戦を制したのは一だった。
 もともと運動センスのあった一は、実戦を通して腕を磨きつつあったのだ。

 二戦目の【館長 vs 予祝】戦は、周囲の予想に反して予祝の勝利となった。
 攻防バランスのとれた攻撃を行う館長に対し、予祝が粘り強く打ち返すことで相手のミスを誘ったのだ。

 続く三戦目は敗者同士の【兎青年 vs 館長】戦だったが、こちらはすぐに決着がついた。
 司書に負けた館長が意地をみせ、兎青年を気迫でのしたのだ。
「わ、我輩自慢の純白の毛並みが……!」
 館長の落書きは後頭部にまで及び、容赦がない。
 鏡を手に打ちひしがれる青年の様子に、少女たちは顔を見合わせて笑いあった。

 そして最終、【一 vs 予祝】戦。
「私と勝負するんです、退屈なんてさっせませんよー!」
「お手やわらかに願います」
 予祝は羽子板を構え、静かに向かい合った。
 最初の一戦を終え、相手の力量は見知っている。
 だが、実戦で力をつける一と、粘り強さをもつ予祝。
 お互い負ける気はしない。
「さあ命ちゃん。いざ尋常に、勝負!」
 カッと羽根をはじく音が響き、打ち合いがはじまる。
 予祝がゆるやかに返した羽根を、一がたたきつけるように打ち返す。
 激しさはないが確実に繋げる予祝と、力強くねじ伏せようとする一。
 両者一歩も引く気配がない。
 二人が二度ずつ羽根を落とすころには、試合開始から三十分が経過していた。
 あまりにもラリーが続くので、審判をしていた館長も出番がないと笑ったほどだ。
「お互い、ミスが命とりになりそうね」
 審判の感想を知ってか知らずか、一は羽根つきに全神経を集中していた。
 司書の足さばき。
 羽子板の角度。
 そういったものから羽根の行く先を先読みし、力に任せて返す。
 ――このままでは勝てないかも、ですね。
 どこへ打っても拾い返す予祝の技量に、一は手を焼いていた。
 力で圧倒しようにも、司書は勢いをそぐように弱々しい羽根を返してくる。
 試合が長引けば、激しく動き続けている一が先に体力を切らしてミスをしてしまうかもしれない。
 ――ならば、仕掛けるしかありませんっ!
 羽子板を胸元に引き寄せ、それまでと違う構えをとる。
 羽根の滞空時間が長くなるよう、大きく弧を描いて飛ぶように打ち返した。
「……!」
 それまでと違い、勢いのない羽根に司書の動きがブレた。
 すんでのところで打ち返すも、板の角度を誤り、上空へ向けて打ち上げてしまう。
 そのスキを見逃す一ではない。
 予祝との距離を縮めるべく、一歩。
 羽根はまだ打ちあがったままだ。
 さらに一歩。
 ――いける!
 落下しはじめた羽根を見据え、ひざを深く沈める。
 一の口からひゅっと息が漏れた。
 ――全身全霊をもって、目隠し司書の素顔を暴く!
 決意を込めるよう、羽子板を握りしめる。
「ぉおおぉお!」
 大地を蹴り、力の限り跳躍。
 飛翔した一の眼前に羽根が迫る。
 振りかぶった羽子板を一閃。
「もらったあぁぁああぁ!!」
「くっ――!」
 伸ばした予祝の羽子板が羽根先をかすめる。
 しかし打ち返すには至らず、羽根はそのまま地面に転がった。
 三度目の打ち損じ。
 いかに予祝といえど、近接上空から叩きつけられる速球には反応が遅れた。
 ひざをつく敗者をよそに、館長は勝者の手をとって告げる。
「優勝、一一一!」
「やーったー!」
 寸の間の後。
「敗者には墨で落書きの刑、これこそ羽根つきの醍醐味というものです」
 一は予祝の前に仁王立ちになり、両手に筆を構えていた。
「さあ、その神秘のヴェールをはぎ取らせて頂きましょう!」
 司書はなにごとか言いかけようとしたが、嘆息に代える。
「後悔しないでくださいね……」
 司書が面に手をかけ、一同が息をのむ。
 ぱかっと狐面を取る。
 と、そこにも面があった。
 再び面を取る。
 と、また新しい面が。
「わたくしの素顔を見るには、あと千と一の仮面を取らなければ(以下略)」
 結局、三百枚の面をはがした後、気力の尽きた一は泣く泣くひょっとこ面に落書きをしたという。


 一は『梅』のお年玉を第一希望としていた。
 手にしたのは梅模様の入ったちりめんのポーチだ。
「命ちゃん、これはなんですか?」
「京都のお化粧道具などを詰めたセットです」
 ポーチの中には女の子らしい小物が揃っている。
「わたくしの『松』は、京野菜の鍋セット」
 そして館長の選んだ『竹』が、京和菓子のつめあわせセットだという。
「せっかくですから、あとで一緒にお鍋をいただきませんか?」
 予祝の提案に、館長も便乗する。
「それなら、私のお菓子も皆と一緒に食べたいわ」
「おやつの後は、もう一戦したいです!」
 各々せっかく上達したのだから、また違った相手と打ち合いを楽しむのも面白いかもしれない。
 一の提案に反対したのは青年だけだった。
「我輩、次は審判に徹したい」
「「「却下!」」」



 そうして、四名は日が夜が更けるまで壱番世界にとどまり、遊びに宴会に、日本のお正月を満喫したという。




クリエイターコメント●イラストレーターより
このたびは素敵な企画に参加させていただき誠にありがとうございました♪
最後は皆で仲良く鍋をつつく流れ、ほのぼのしますね。


●ライターより
このたびはご参加まことにありがとうございました!
飛び入りの二名を招いての一日、
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
躍動感のあるイラストに仕上げてくださったけいとILにも大感謝です!

ちなみに、各お年玉の内容はこんな感じでした。
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【松】京野菜つめあわせ鍋セット
   採れたて新鮮なお野菜各種・白味噌つき

【竹】京和菓子つめあわせセット
   八つ橋各種・阿闇梨餅・五色豆など

【梅】京小物つめあわせセット
   お香・コスメ・油とり紙・手鏡・裁縫道具など
   梅模様のちりめんポーチつき

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実のところ司書は目隠しを取ることに抵抗はないのですが、
見たいといわれると、見せたくなくなるのが人情。ということらしいです。
次があればぜひ、また素顔を狙ってみてください。

それでは、別の機会にお会いする、その時まで。
公開日時2012-01-31(火) 22:40

 

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