蠢く黒が、一面を覆い尽くしていた。 衛星画像らしき南米大陸の映像の中で、アマゾンの広大な熱帯雨林に生まれた黒い点。位置としては南米ブラジル、中央アマゾン保全地域群の一部にあたるそれを映像は拡大してゆく。 黒い点はうごめきながら、徐々にその範囲を広げてゆく。無数に存在する黒の構成物は、映像がかなり拡大されてようやく判明した。 樹冠と呼ばれる、高さ30mほどの緑の絨毯を黒く染め上げていたのは軍隊蟻。万単位で構成される群れが進路上のあらゆる動物に襲いかかり糧とする小さくも恐ろしい生物である。 その軍隊蟻が、数千万とも数億とも思えるような数で密林を蹂躙していく。数そのものを武器として、あらゆる動物を追い立ててゆく。 映像が切り替わる。密林の中を様々な動物が一目散に走り抜けてゆく。ほ乳類、爬虫類、昆虫他あらゆる動物が――「本物の」軍隊蟻を含めて黒い群れから逃げている。黒い群れに飲まれたあらゆる動物は跡形もなく食べ尽くされた。 異常を察知したのだろう、現地の人間が何人かやってきた。滑りやすい液体を塗った靴をはじめ通常の軍隊蟻には十分な服装をしている彼等は、しかし数分後には跡形も残らない。 彼等の装備は確かに地面の蟻がよじ登るのを防いだ。しかし登れないと分かった蟻たちは、口から一斉に溶解液を噴き出し靴を溶かしだしたのだ。 さらに、この地にはふさわしくない重砲音。それは彼等の後方――蟻の勢いに離脱を始めた状況ではまさにその頭上に、木の実のような物体を飛ばしてきた。それは彼等の頭上で弾け、中からは無数の蟻が――。 映像は黒い地面の中心へと移る。そこには熱帯雨林特有の背の高い木々に隠れた、それでも10mほどの大きなトネリコのような木と、それを守る機械兵集団。世界樹の苗とそれを守る旅団のロストナンバー達だ。 世界樹の苗がその身を震わせ、自身の実を周囲にばらまく。地面に落ちた実はたちまち軍隊蟻の集団に変化し周辺の動物を駆逐してゆく。 苗の近くに落ちた実は変化しない。比較的軽装な機械兵がそれを拾い集めると、近くにいた榴弾砲のような機械兵に装填した。そして、発射。着弾した実はやはり軍隊蟻の群となって周辺の動物を駆逐してゆく。 再度、映像が切り替わる。どこからか飛んできたヘリが異変の起きているエリアに近づいてくる。しかしヘリは地上と空中からのミサイル攻撃であっけなく四散した。パイロットは脱出したものの、そこに苗の実が飛来する。それは蟻ではなく血吸い蝙蝠に変化し次々とパイロットにかみついた。それを合図に他の飛行生物たちも襲いかかる。それらはレーザーや破壊光線を放つモノもいれば、アーカイブの針が刺さっているモノもいるのだった。共通するのは皆、この地に生息している生物たちの姿をしている事――。 予言された未来は、世界樹旅団によってもたらされる。 世界司書が知った出来事はまだ不確定な未来だ。しかし、このままでは確実に訪れる出来事でもあるのだ。 壱番世界各地の「世界遺産」をターゲットに、何組かの旅団のパーティーが襲来することが判明した。かれらは「世界樹の苗」と呼ばれる植物のようなものを植え付けることが任務のようだ。その苗木は急速に成長し、やがて、司書が予言したような惨劇を引き起こす。 言うまでもなく……「世界樹の苗」とは、世界樹旅団を統べるという謎の存在「世界樹」の分体だ。 だが、この作戦を事前に察知したことにより、世界図書館のロストナンバーたちは、苗木が植え付けられてすぐの頃に到着することができるだろう。周辺の壱番世界の人々を逃がす時間は十分に確保できるはずだ。 むろんそのあとで、苗木は滅ぼさねばならない。苗木は吸い上げた壱番世界の『歴史』や『自然環境』の情報をもとに反撃してくるであろうし、旅団のツーリストも黙ってはいない。 司書は、引き続き、戦うことになるはずの、敵について告げる。「例えば、それは機甲遊撃隊」 携帯映像機器を閉じた等身大のクラロリ少女人形が、導きの書を片手に口を開いた。「旅団側の初期戦力は機械兵部隊です。アーカイブの針によるファージの出現も予言されています」 苗木の実やファージについてはほぼ映像通りなので省略します、と世界司書のリクレカ・ミウフレビヌは続ける。「機械兵ですが、性能は壱番世界の各兵器の3割増程度のようです。タイプは高機動型・狙撃型・機動砲撃型・装輪偵察型が各2、補給型・長距離砲撃型・噴進砲型・空戦型・爆撃型が各1となっています」 より細かく説明すると、以下のようになる。・高機動型:軽装歩兵に相当。装備はアサルトライフルやショットガン、グレネードランチャーなど。格闘武器も所持。・狙撃型:装備はスナイパーライフルとサブマシンガン。ライフルはアーカイブの針射出タイプあり。・機動砲撃型:戦車に相当。装備は滑空砲と機関砲。・装輪偵察型:装備はサブマシンガンと索敵関連。・補給型:装備は修理・補給関連。戦闘力は皆無。・長距離砲撃型:装備は榴弾砲。燃料気化砲弾を含む各種榴弾を使用。・噴進砲型:装備はロケット砲と対空ミサイル。ロケット弾の他、煙幕弾や浮遊機雷散布弾も使用。・空戦型:戦闘機に相当。装備は対空ミサイル及び機関砲。対地攻撃能力無し。索敵能力も高い。・爆撃型:装備は爆弾。対空攻撃能力無し。「彼等はこちらを相当警戒しているようです。苗木が実を付けるまではこちらの殲滅より時間稼ぎの攪乱戦術を採ると出ています。相手の動きに惑わされないよう気を付けて下さい。苗木さえ撃破すれば旅団は撤退するでしょう」 具体的には砲爆撃による足止め(滑空砲の射線確保を兼ねる)や複数の前線部隊による陽動、炸裂ワイヤー等のトラップなどが予言されている。あくまで現段階での予言なので戦況により相手の行動も変わるだろう。「地形状況ですが、樹木等により見通しが悪い点に気を付けて下さい。特に樹冠の存在により地上と空中の間の見通しは極めて困難となっています」 幸い足場そのものはそれなりにしっかりしているらしい。ただ現地生物には危険な種も存在するのでそちらへの注意は必要だが。「自然遺産ですので、一応周辺環境への配慮をお願いします。ただ、旅団側は一切配慮しないでしょうから出来る範囲での話になりますが」 苗が見つからないよう不必要な自然破壊はしないものの、交戦時の周辺影響は全く考えないだろうとのことだ。「苗が植え付けられてから実を付けるサイズになるまでの所要時間は約1時間です。実を付け始めるとかなりやっかいですのでそれまでに片付けたい所ですが……エリアはある程度絞りましたが、周りの樹木が大きいため見つけ辛いと思われます」 よほど上手くやらないと間に合わないようだ。そして実を付け始めた苗木は枝葉による自衛も行う。「かなり厳しい戦いが予想されますが……どうか、無事に帰ってきて下さい。よろしくお願いします」 そう告げるリクレカの導きの書は、わずかに震えていたのだった。!注意!イベントシナリオ群『侵略の植樹』は、、同じ時系列の出来事を扱っています。同一のキャラクターによる『侵略の植樹』シナリオへの複数参加(抽選へのエントリー含む)はご遠慮下さい。
『こちらファイター、敵列車の接近を確認。先制しますか?』 『やめておけ、突っ込んでこられても困る。停車ポイントが分かり次第スカウトに伝えろ』 time -1:00 南米アマゾンにたどり着いた一行はまず現地民の避難に取りかかった。幸い指定されたエリアの周辺は森林保護と研究のための施設が1つあるだけで、それほど時間をかけずに避難を終わらせる事が出来た。 「へぇ、いいモンあるじゃねぇか」 この施設には上空からの観察を目的に小型ヘリが1台置かれていた。陸路で避難が行われたため残されたそれに、ファルファレロ・ロッソは目を付けた。 「え、ファルファレロさん?」 相沢優が気付いたときには、既にファルファレロはタラップに足をかけていた。 「南米の麻薬カルテルを視察に来た時試し乗りしたんだよ。まあ勘と度胸とハッタリでなんとかなるもんさ」 いやそういう問題じゃなくて。空き巣強盗とかミサイルどうするんですかとか各々が諸々思ったり思わなかったりしている間にも本人はさっさと乗り込んでしまった。程なくローター音が辺りを包む。 「それじゃ先行くぜ」 この爆音下で聞こえたかどうかは定かではないが、気にせずファルファレロは密林の上空へと飛び去っていった。 「……私達も行きましょう」 しばし一同呆然としたあと、セリカ・カミシロの言葉に残りの4人は地上から密林に入っていった。ファルファレロの腕ならどうにかなると思うしかなかったし、何より時間が惜しかった。 『敵ロストナンバーは4.35.20の施設よりこちらへ向かっている模様。現地車両及びヘリの動きを確認』 『よし、ファイターは一旦戻れ。アルファ、ブラボー、予想侵入ポイントへ向かえ。カノン、気化砲弾用意』 time -0:50 「ちっ、見えねぇか」 ファルファレロがヘリを奪ったのには幾つかの理由がある。その1つに鳥瞰による苗木の発見もあったのだが、一面樹冠に覆われた状況では見つけられそうにもなかった。オウルフォームのバンビーナ(迷彩ペイント済み)も密林を探っているが、そう簡単に見つかるものでもないだろう。 それでも迅速さが求められる状況でヘリの機動力は貴重だ。逆に言えば、敵側の優先迎撃対象にもなる。 ファルファレロは素早くファウストを構えると続けざまに2連射、紫電の弾丸が標的を捕らえるとそれらは続けざまに爆発した。爆風がヘリを揺らす。 「クソッタレ、どっから撃ってきやがった!?」 ミサイルを撃ち落としたはいいが、肝心の機械兵はどこにも見えなかった。 『対空ミサイル、全て落とされました』 『やはり一筋縄ではいかんか。ランチャー、ファイター、第2射用意、まだ撃つなよ。カノン、ポイント指定は?』 time -0:45 一方、地上の4人はNo.8が出身世界の経験から先行偵察を請け負い、他の3人がその後ろを付いていくフォーメーションでここまで特に妨害を受けることなく進んでいた。優のタイムはオウルフォームで肩に留まって周囲を警戒し、水鏡晶介は敵の策敵網を警戒し、潜水魔法で地中を移動していた。 「これだけ昆虫が豊富だと、百足兵衛がいたりして」 「いたら司書の予言に出ていると思うわ」 「出て来てほしくはないね。それにしても、随分困った事をしてくれる連中だ。大切な遺産を護る為にも何とかしなきゃねぇ」 周囲を警戒しつつも優とセリカと晶介がそんな会話をしていたのは、未だに旅団側が目立った行動を見せないからだ。さすがに空中での爆発音は気になったが、ローター音は聞こえているのでヘリは無事だろう。 (いくらなんでも何も無さ過ぎ?) No.8はこれまでの順調っぷりに疑問を抱き始めていた。自身の軍事知識に敵の目的を加味して考えてみる。 (考えられるのはまだ見つかっていない、見つかっているとして進行方向が外れているから仕掛ける必要がない、あとは――) 『前線より砲撃要請。座標4.24.22』 『カノン、カウントダウン開始。対空弾は炸裂に合わせろ』 time -0:40 「優さん優さん、ちょいとセクタン上空に飛ばしてほしいですよっ」 「エイト? ああ、いいよ」 No.8の幾分か真剣味の増した表情に、優は一瞬戸惑いつつもタイムを樹冠の上に飛ばした。世界移動中に何処か緊張しつつも「ほらほら、お揃いですよっ」とお互いの迷彩服にわいきゃい言っていたときとは明らかに違う(ついでに今のNo.8はカモフラージュのために落ち葉付だ)。念のためファルファレロにノートで異変がないか尋ねる。 「いやー、あまりに何も無いし実は既に見つかっていて砲爆撃に巻き込まれないように距離を取っているのかなっ、なーんて「ドン」……え?」 まさにその通りだった。 「うわっ、口から出たマグロっ!?」 「それなんてリバース!?」 「色々間違ってるから」 「『嘘から出た誠』と『口から出任せ』を合体させてさらにアレンジ?」 No.8がボケたり晶介と優が突っ込んだりセリカ冷静に分析したりしながらも対応は早かった。砲音が遠かった事もあり上からの攻撃に備え、程なくタイムが放物線を描きながら高速で飛来する物体を見つけた。 防御は間に合うはず、だが嫌な予感が消えない。 「っ!? 強い殺気を感じるわ」 「そういえば燃料気化砲弾があるって言っていたね」 セリカの言葉に、優が司書の説明を振り返って口にする。燃料気化砲弾は熱と爆風による殺傷兵器であり、燃料自体に毒性がある可能性もある。 今回の状況下ならば炸裂地点を中心とした火災とその後の長い爆風、燃え残った燃料に警戒する必要がある。正面から防いでいたら連発されて足止めされる可能性もあった。 つまり早い話が炸裂させなければいい。幸いそれが可能な人物はちゃんと参加していた。 「優とセリカは念のためシールドを張ってくれ。エイトは伏せろ」 緊急時なので敬称略。晶介はエイトが割り出した軌道に向かって氷魔法と魔塊を放った。凍結による炸裂阻止と魔塊に飲ませる事による広域被害防止の二段構えだ。 「ちっ、エリア外からかよ」 ヘリに乗っていたファルファレロには砲撃地点がしっかりと見えていた。司書が指定したエリアのさらに西である。 次いで飛んできたSAMとAAMもエリア外の北と北東から放たれていた。 「見てる場合かっ」 ノートの受信には気付きつつ、ミサイル迎撃のために再びファウストを構える。と、地上から氷魔法と黒い口のような塊が現れ最初の砲弾を飲み込んだ。そしてついでとばかりにミサイルに火炎放射を浴びせて撃ち落としてから地上に戻っていった。 「ったく、余計なお世話なんだよ」 そう毒づきながらもノートを開いたファルファレロは、敵長距離砲のおおまかな位置を地上メンバーに伝え、ついでに1人ヘリに回すよう要求した。 実は今の攻撃は地上への足止めと射線確保の他、爆風でバランスを崩したヘリをミサイルで落とす狙いもあった。本人は知らないがヘリもかなり危なかったのだ。火炎放射は単純に燃料の有効利用だ。 『気化砲弾、炸裂しません』 『ちぃっ。対地散弾、多弾頭焼夷弾、時間差で仕掛けろ。ファイター、悪いがヘリは任せる』 time -0:35 気化砲弾は防いだものの、正確な砲撃はこちらの位置が完全にばれていることを示していた。おそらく電子探査を使用しているのであろうが、索敵能力は相手の方が上のようだ。 「長距離砲撃型と噴進砲型は囮かしら?」 セリカは水筒を片手に口にした。 「だろうね。エリア外だし倒しに行っていたらその間に苗木が育ってしまう」 晶介が答える。実際に旅団側はそのつもりで戦力配置をしていたのでこの推測はビンゴだった。図書館側の苗木の位置予測範囲までは旅団側は知らないのだ。 「でも遠くから撃たれ続けるのはやっかいですね」 「うーん、多分前線からの指示だからそっちを潰せば止まるはず……砲撃観測ならきっと偵察型の仕事だよっ」 優の懸念にNo.8が経験から予測を立てる。 「偵察型か……」 晶介が呟く。実は出発当時、参加者の多くが補給型が穴と読んでいた。が、実質1時間勝負と考えるとわざわざ補給に時間を割くかはかなり怪しい。短時間での強襲撃破と考えれば敵の目を潰して攪乱する方が有効だろう。それに補給型を前線に出すのはリスクも大きい。 2度目の対地砲撃は広い範囲に鉄球と焼夷弾をばらまいた。優とセリカの防御壁により4人とも無傷ではあったが、炸裂点が高かったため魔塊での被害防止は間に合わず、結果としてドーナツ状に周辺への被害が生まれてしまった。 防ぎきれなかったものは仕方ないので、とりあえず晶介が氷魔法で延焼だけは防いでいった。優もモフトピアで入手した水のビー玉で手伝ったが、何せ範囲が広すぎた。 だが悪いことばかりでもない。今の砲撃で幾分か視界が良くなった他、ヘリが地上に近づくスペースも出来たのだ。 ヘリにはセリカが乗ることになった。厳しい状況で逆に連帯感が高まったのか、ある程度テレパシーが通じるようになっていたのだ。 晶介が魔塊でヘリを隠している間にセリカが乗り込むと、ファルファレロはすぐにヘリを上昇させて操縦桿をセリカに預けた。 「ちょっと、私が操縦するの?」 「とりあえず落ちなきゃいい。両手が使えりゃ俺は無敵だ」 そう言いながらファルファレロは2丁拳銃を構えると、いつの間にか集まっていた鳥ファージの群を撃ちまくった。 「もう、落ちても知らないわよ」 そう言いながらもセリカは左手だけでヘリを操縦していた。ファージが放つレーザーを防御壁で防ぐためだ。 (右上から殺気?) ふとセリカが感じ取った気配がそのままファルファレロにも伝わる。 「やっと鶏小屋から出てきたな、このチキン野郎っ」 その方向を見れば、空戦型と思われる機械兵が突っ込んできていた。ファウストの魔法弾を避けながらメフィストの実弾は装甲で弾き、そのまま短射程のAAMを撃った後機関砲を連射。 「きゃぁっ」 ミサイルはともかく機関砲は撃ち落とせず、セリカの防御壁で受けるも連続する衝撃は一時的にヘリのコントロールを奪う。空戦型はそのまま飛び去り、アフターバーナーを噴かせながら急旋回していた。 (おい、そこをこうだ) (これをこう?) 舌を噛みそうな振動下、テレパシーでやりとりしながらヘリを立て直した所に再び突っ込んでくる空戦型。 「木偶人形なんぞにやられるかよっ」 『ヘリで戦闘機に勝てると思うなっ』 ファウストを空戦型に連射するファルファレロ。威勢はいいが分が悪いのは確かだった。 (くっ、晶介!) 地上は地上でいつの間にか戦闘中のようだがこのままではまずい。 (すまん、スピードが速すぎてタイミングが取れなかった。次で崩す) (頼むわよ) 飛行タイプの機械兵は晶介が風魔法で揺さぶる予定だったのだ。どうにか2度目の接触を乗り切って3度目。 『そろそろ落ちやが……うぉっ』 再度機関砲を構えた空戦型を突風が揺さぶった。高性能の戦闘機でも乱気流には敵わない。 「落ちるのはてめぇだっ」 すかさずファルファレロがファウストを連射する。紫電に包まれた空戦型は燃料タンクに引火したのか翼を爆発させ、そのまま地上へと落下していった。 一方の地上、ヘリが飛び去ったあとに残り3人が砲撃跡に出るといきなり狙撃された。あらかじめ優が張っていた防御壁が弾の軌道を逸らせ、そのまま地面に出来た穴からNo.8が逆算する。 「西南西、多分森の浅い位置だよっ」 先の長距離砲撃で見通しが良くなった分、射線もよく通るのだろう。放置すると危険度が高い狙撃型を一気に叩こうと前に出ると、今度は側面から榴散弾が飛んできた。多少離れているが相手の姿はよく見える。 「あれは……機動砲撃型か」 優がその姿を確認する。機動砲撃型は0.8~1kmの距離をとってこちらへ滑空砲を撃ち込んできている。 3人で目配せをすると、まずNo.8が向かいの森へと駆けだした。晶介は機動砲撃型に魔法の氷柱を放ち、優は相手の砲撃を防鏡壁で狙撃型の予想潜伏地点へと弾き飛ばした。予想は見事に当たっていて、慌てて飛び退く狙撃型が3人の目ではっきりと確認出来た。 上空にジェットエンジンの音が響いたのはそのタイミングだった。 晶介はすぐに風魔法を用意したが、亜音速で突っ込んでくる空戦型に放つタイミングをつかめなかった。下手に放てばヘリまで巻き込む。 セリカからのテレパシーに答えながら、一撃離脱戦法でヘリを翻弄する空戦型を冷静に地上から観察する。2度目の急旋回の後、3度目の攻撃に空戦型が機体を起こしたその瞬間を晶介は狙い撃った。 乱気流に巻き込まれた機体は紫電を帯びて爆発した。それを確認した晶介はすぐに意識を地上へと戻した。 『ファイターが撃墜された模様、アルファ隊は交戦中です』 『くっ、やられたか……地上部隊の陽動に専念。ヘリはファージに任せて無視するしかあるまい』 time -0:30 敵陸戦タイプはいずれも1km程の距離を保ったままなかなか近づいてこない。滑空砲をはじき返して狙撃型の手を止めているものの決定打にはなっていない。機動砲撃型は装甲も厚くなかなかダメージを与えられないでいた。 No.8は戦闘の合間を縫って森へ分け入ると、ワイヤーアンカーで樹上を渡りながら偵察型を探していた。偵察は専門分野だし、迷彩服の下のスニーキングスーツはレーダー波を吸収するので電子の目もある程度ごまかせる。未だに罠が見当たらないあたり、まだ苗木からは距離があるのだろうか。 (よし、見つけたっ) 程なく交戦エリアにセンサーを向けている機械兵を発見した。対象区域からの距離は約1km程だろうか。 (うっわ、密林でその距離見えるとかどんだけっ!?) 道理で一方的に索敵されるわけである。ちなみにNo.8との距離は250m程だがスニーキングスーツのおかげか見つかっていないようだ。 ひとまずノートで皆に場所を伝えて観察を続ける。偵察は得意でも戦闘には自信がないのだ。 晶介と優は機械兵を攻めあぐねていた。こちらから近づこうにもその分後退され、最初の戦闘位置から数百メートルほど南に来てしまっていた。防鏡壁を見たせいか長距離砲撃が止んでいるのは幸いだが。 「これは陽動されていそうですね」 「そのようだね、誘導しながら戦闘を長引かせているみたいだ」 優の予想に晶介も同意する。このまま正面からやり合っていてもキリがない。ダメージはなくとも消耗はする。 「ふむ、少し仕掛けてみるか……優君、ちょっと」 小声でなにやらやりとりする2人。そして突然優は1人になった。 「よし、いくらでも撃ってこい。全てはじき返す」 『言ったな?』 優の啖呵に機動砲撃型が応えた。一時的に600m程まで近づいてくると滑空砲と機関砲の同時斉射を仕掛けてきたのだ。もちろん優は防鏡壁で全てはじき返す……狙撃型の方へ。 『ちょ、おま、落ち着け。弾飛ばされる身にもなれっての』 『お、すまん。つい熱くなってしまった』 再び1km程距離を取る機動砲撃型、そして再び滑空砲を撃ったのだが。 『何っ』 優は今度は機動砲撃型へ弾き返したのだ。対人攻撃用の榴散弾なので砲撃型には大したダメージにはならなかったが。そして、もう1つ。 『ぐぅっ』 「悪いが眠って貰うぞ」 撃ち合いの間に潜水魔法で地中を移動した晶介が狙撃型の背後に回り込み、至近距離で電撃を叩き込んでいた。地中から不意を突く狙いは見事に当たったのだ。 『おい、スナイプ、ジェノンッ……くっ、駄目か』 電撃を叩き込まれた狙撃型は回路がショートしたのか全く動かない。 「君もな」 『ぐあぁっ』 そして程なく機動砲撃型も沈黙した。仕掛けられるのは分かっていたが、重装備の機動砲撃型は接近戦にはからきし弱かった。 『こちらアルファスカウト。タンク、スナイプ両名やられました』 『何っ。やむを得ん、一旦下がれ』 (なにやら交信しているみたいだねっ) No.8は偵察型の様子をつぶさに観察していた。状況から考えるに、戦況が悪いことを報告でもしているのだろう。 (あ、動きだし……うわわっ) 交信を終えたらしい偵察型は移動を開始したが、相対距離200mでいきなりサブマシンガンを撃ってきた。さすがに見つかったらしい。 (こうなったら沼地に陽動してはめちゃうよっ) No.8は沼地の方へ逃げ出したが、元々撤退中だった偵察型は追ってこなかった。まあ無理に追わなくても良いかと一瞬思ったが、放置したらまた砲撃要請をされるかもしれない。 味方を呼ぼうとノートを開いた目の前を、迷彩梟が横切った。ファルファレロのバンビーナだ。 「オウルフォームなら樹冠も関係ねぇなぁ」 鳥ファージ群を粗方片付けたヘリはNo.8の情報から偵察型に狙いを付けた。操縦桿はファルファレロが片手で握りファウストで狙いを定める。 いかに装輪駆動で高機動とはいえ所詮は陸戦型、ヘリ相手では分が悪かった。移動先を読んだファルファレロの一撃は見事に偵察型を捕らえ、紫電に包んで沈黙させたのだった。 (エイト、大丈夫? 一度合流しましょう) (了解だよ、セリちゃんっ) 砲撃で開けた場所にヘリを着陸させ全員が合流した。 「30分を切りましたね」 時計を確認して優が呟く。機械兵を4体倒したものの、残り時間も半分を切った。 「これ以上、機械兵に時間を割かれるのは避けたいわね」 「うーん、長距離砲と、多分爆撃型と補給型も前には出てこないと考えると……あと5体かなっ。でも偵察型が残ってる……」 セリカも時間を気にし、No.8は前線の機械兵の残りを推測する。爆撃型を除外したのはヘリで制空権が確保出来ているからだ。 「前線の機械兵なら考えがあるぜ。まあ任せな」 ファルファレロはそう言いながら銃器を皆の前に並べた。偵察型と狙撃型から奪ったサブマシンガン2丁とスナイパーライフルだ。 「せっかくのブツだ、ありがたく頂戴しようぜ」 「おおっ、いいんですかっ」 食いついたのはNo.8だ。彼女の武器はギアの手榴弾だけで、状況に応じて種類を選べるものの1日10個という制限がある。 話し合いの結果、No.8とセリカがサブマシンガン、晶介がスナイパーライフルを手にした。 「旅団員まで相手している余裕はないって思っていたのですけど」 「どうやら機械兵=旅団員みたいだね」 先程の敵のやりとりから優と晶介はそう推測した。司書の説明に旅団員が出てきていない気がして疑問に思いつつもそちらも警戒していたのだが、そう考えれば納得がいく。 「私もそう思うわ。機械兵相手だし気配を読み取るのは難しい気がしていたのだけれど、妙に分かりやすかったのよ」 さすがに生物よりは分かりにくいけど、と断りながらセリカも同意した。 「図書館にも機械系のツーリストはいるし、旅団側にいてもおかしくないわよね」 『ブラボー聞こえるか? スカウトを死守してくれ。アルファとファイターがやられた』 『了解。駄目でも恨まんで下さいよ?』 time -0:25 ファルファレロが再びヘリで飛び去った後、4人は密林を北西へと進んでいた。再び対地散弾や多弾頭焼夷弾は降ってきたが、一度受けた攻撃ということもあり先程よりは周辺被害を抑えることが出来た。 「でもこれ見つかってるよねっ」 No.8の言うとおり、撃たれたと言うことは敵の策敵網に引っかかっていることになる。だがそもそも陽動で動いているだろう敵だ、時間も考慮すれば攻撃だけ防いで無視しても良いだろうと放置することにした。やっかいな砲撃も間隔は結構長い。 (エイト、近くに何か居ない? 妙な雰囲気を感じるわ) (セリちゃん? えーっと、あ、ナマケモノが居るよっ) セリカは嫌な気配を感じて先行しているNo.8にテレパシーを送った。 (気を付けて、その子他の生き物と気配が違うわ) (へ……うわっ、ナマケモノが暴れ者になったーっ!?) 言うまでもなくファージである。No.8は発煙手榴弾を目くらましに急いで後退した。代わって晶介とセリカが前に出ると、氷魔法とレーザーで手早く片付けてしまった。肉弾攻撃は優が防御壁で防ぎきった。 「首に針が刺さっているね」 「まだ針が熱いですし、撃たれて間がなかったようですね」 晶介がめざとく針を発見し、優が抜き取った。おそらく狙撃兵の仕業だろう。下手に正面戦を仕掛けると返り討ちに合うと考えたのか、ファージでの足止めに切り替えたようだ。 「あ、今度はカピバラだっ」 「本当、可愛いわね……っ!」 今度は少し先をカピバラが横切った。セリカが見ても妙な気配はなかったが、直後に横から敵意を感じ次の瞬間には首元を針が貫いていた。防御壁を張るには少し距離が離れていた。 「今度はカピバラがガビバルァにっ!?」 苦しみながら変質していくカピバラをセリカはレーザーの連射で焼き払った。 「わっ、セリちゃん凄いっ……あれ?」 「エイト、方向分かる?」 「あ、うんっ。東北東だよっ……?」 「晶介」 「わかった」 「ショーさん、ファイトだよっ」 これ以上ファージを増やすわけにはいかないと、セリカはサブマシンガン片手に晶介と狙撃型を倒しに行った。どこか逆らいがたい雰囲気を出しながら。 (これ以上可愛い生き物をファージにされてたまるものですか) 目の前でカピバラを撃たれた衝撃は相当なものだったらしい。惜しむらくはレーザーの射程が機械兵相手には短すぎたことだろうか。 (これは旅団、地雷踏んじゃったな) 冷静なまま怒っているセリカを見て、優は密かにそんなことを思った。同情は全くしないけれど。 数十秒後、派手な雷光が密林に放たれた。 『ブラボー隊、スナイプやられました』 『スカウトは無事か?』 『はい、大丈夫です』 『これ以上は仕掛けるな。こっちでどうにかする』 time -0:20 「具体的にはどうするんですか?」 「キロ単位で結界張って根こそぎ一掃するんだよ。ヘリがありゃイケるだろ」 そんなやりとりをしてからはや10分、ファルファレロは順調に結界の準備を進めていた。 「歯ごたえあったのはイカれた飛行機だけかよ、つまんねぇ」 あれから対空ミサイルはおろか飛行タイプのファージも襲ってこない。単純に針をほぼ使い切っただけなのだが、そんなことファルファレロが知るわけがない。 司書が指定した正方形のエリアの4角、その最後の南西地点にファウストの紫の魔力弾を撃ち込む。 「さぁ、ネンネの時間だぜぇ」 ファルファレロがファウストに意識を集中させると、エリアの4角に紫の五芒星が浮かび上がる。いつぞやと同じような光景だが今回は規模も効果も違う。 「骨の髄までシビレやがれっ!」 4つの五芒星を繋ぐように巨大な魔法陣が描かれる。そして、ファウストの引き金に指をかける。 「ななななんだか凄いことになってるよーっ」 「これは……ファルファレロさん?」 『なんだこれは……いかんっ、後方部隊来るなっ』 無造作に引かれた引金。響いたのは銃声ではなく不気味な放電音。 4つの五芒星は放電しながら紫の光を迸らせ、巨大魔法陣を余すことなく包み込んだ。しかしその光の攻撃対象は旅団側のみ。つまり機械兵やファージ、さらには世界樹の苗にもダメージを与えていた。 特に機械兵は回路に過剰なまでに電流を流され、身体のあちこちをスパークさせた後に沈黙してしまったのだ。 「はは、ざまぁみろってんだ」 エリア内の機械兵はこれで完全に沈黙するはずだ。ふらつく足元を叱咤しながら、片手は操縦桿から離さずファウストの銃口を自分の頭に付け、もう一度引金を引く。大地に走る紫電、これがとどめだ。 とはいえファルファレロもかなり消耗していた。単純に以前と規模が違いすぎた。面積比で5桁倍以上はあるだろう。 不思議と穏やかな気持ちだった。トラベルギアが戦う意志を力の源としている事を考えれば、過解放で一時的に闘志が失われたのかもしれない。 だが、ここは戦場だった。 『前線からの応答有りません。広域電障攻撃と思われます』 『こんのぉ~、よくもみんなをぉぉーっ』 『馬鹿、カノン落ち着け、発煙弾』 time -0:15 紫電が収まると辺りは静まりかえっていた。異常な光景に野生動物達も呆然としているようだ。 ファージの気配はかなり薄らいでいた。何体か見かけたもののかなり衰弱しており特に労せず倒すことが出来た。それでもジャガーファージは多少苦労したが。 機械兵も見つけたが倒れたまま動かなかった。罠らしき機雷やワイヤーの痕跡もあったが全て破壊されていた。 「後は苗木を見つけるだけかな」 「そう思いたいわね」 優の言葉にセリカが応える。が、エリア外の機械兵は無事なのだ。当然、抵抗は残っていた。 『機雷弾再散布。カノン、発煙弾……って何してるの』 『みんなのカタキぃっ』 ざらつく殺意がファルファレロの意識を急速に戻した。ファウストの電撃で無理矢理全身を覚醒させる。 「砲弾、だと?」 飛んできたのは砲弾だった。これまで何度も飛んでいた対地散弾である。 「ったく、何処を狙って……!?」 名前の通り対空攻撃は想定されておらず、長距離砲撃型自体が対地攻撃専門だ。完全なるやけっぱちである。 「ちっ、クソがぁっ」 だからこそ不意打ちだった。結界の疲れもあるが完全に想定外だったのだ。対地攻撃用といえどヘリの真上で炸裂すれば撃墜は免れない。ヘリの装甲では中の人だって無事では済まない。 ファルファレロは思い切り操縦桿を傾けた。とにかく攻撃範囲から逃れる必要があった。機体バランスなど考えている場合ではない。 「長距離砲?」 4人も重砲音は聞いていた。 「精密砲撃は出来ないし、発煙弾とかじゃないかなっ」 普通に考えればNo.8の言うとおりだろう。位置情報無しに移動目標相手に砲撃してもまず当たらない。ただ、仲間をまとめて失ったことで敵が色んなものをぶっちぎっただけのことだった。 結果。 「え、ちょっ!?」 無数の鉄球が金属を貫く音、そしてしばらくしての爆発音。 「大丈夫なのかしら?」 一同が心配するのも無理はなかった。少なくとも撃墜は確定だ、音的に。 「大丈夫だぜ」 「ファルファレロさん」 パラシュートをロープ代わりにファルファレロが木の上から現れた。かろうじて直撃こそ免れたがヘリは半壊し制御不能となったため、放棄してパラシュートで樹冠に降りたのだ。 「奴らまだ何か撃ってやがる。やっかいなことになる前に突っ切るぜ」 『やった、やったよみんな』 『やってないからっ。ああもう、メカニック、砲身消耗無視するから後で直して』 time -0:10 にわかに密度が増していた砲撃が止んだ。 「何だったんだ、一体?」 晶介が訝しがる間にもタイムとバンビーナが周辺を探っていた。 「円状に煙幕が発生していますね」 上空から見た結果はその通りだった。馬鹿正直に苗を囲んでいるのか、それとも大規模な囮なのか。 「その内側、何か異なる気配がするわ」 「煙幕に近づくほど罠の痕跡が濃くなってるよっ」 セリカとNo.8の言により、内側に苗があるのはほぼ確定だった。 「んじゃさっさと片付けるぜ」 早速煙幕に突っ込もうとするファルファレロに、セリカが待ったをかけた。 「他にも敵意が残っているわ。何か罠がありそう」 『時間です。苗木に移動しましょう』 『あれ、私って出番無し?』 『貴方の装備じゃ制空権と前線指示の両方がいるでしょ、ボマーは後方待機』 『そんなぁ』 time -0:05 旅団側の時間稼ぎは煙幕と機雷のミックスだった。 本来ならワイヤートラップも組合わさってより複雑な罠となる予定だったが、それは既に破壊されている。それでも足止めとしては十分な役割を果たしていた。 何せ煙幕である。機雷を隠すのはもちろん、地形自体を覆っているため一同の歩みは大幅に遅くなっていた。防御壁を張って突っ切ろうにも木に衝突する危険があったし、排除しようにも誤爆すれば自然を傷つける可能性があった。 それでも何とか突破することは出来たのだが、時間は無情だった。 いやらしさだけなら、今回の妨害の中で一番だったかもしれない。 『苗の様子は』 『なんとか育ったっぽい、でも近づけないかも』 time 0:00 煙幕を抜けたところで。優の時計からアラームが鳴った。 「ギリギリセーフかなっ、それともアウト?」 「ぶっ倒す分にゃ関係ねぇ」 「みんな、とりあえずこれを靴に塗って」 No.8とファルファレロのやりとりの間に優は鞄から液体の入った小瓶を取り出した。 中身は滑りやすい液体である。言うまでもなく軍隊蟻対策だ。 で、セーフかアウトかで言えばアウトだろう。なぜなら既に実を付けだしているからだ。 「やらせないよ」 晶介は撒かれはじめた実を巨大掃除機状の魔塊で次々に吸い込んでゆく。魔塊の中で火炎処理をする算段だ。カバーしきれない分は氷魔法で凍らせていった。 「うわぁっ、えっと、えっと、それっバナナーっ」 No.8はバナナを投げた。しかし何も起こらなかった。 「いや軍隊蟻は肉食だから」 「えーっ、せっかくのおやつのバナナ……」 優の的確な指摘にちょっぴり凹むNo.8。まあ世界樹の苗が生み出しているから関係はないかもしれないが。 (急ぎましょう、防御は私が受け持つわ) セリカの意志が全員に伝わる。実を付けだした以上、もう一刻の猶予もなかった。 世界樹の苗は図書館側を攻撃しながら、高機動型1体を枝で拾い上げ旅団側に渡していた。 『隊長! メカニック、直せる?』 『回路が焼き切れています。中枢が無事ならなんとか』 time 0:05 「見えた、世界樹の苗」 実を防ぎ、枝の槍を撃ち落とし、葉っぱの弾幕を弾きながら一同はようやく世界樹の苗のたもとに辿り着いた。 「よォし、一気に行くぜ」 「さっさと終わらせよう」 ファルファレロと晶介が一気に片付けようとしたが、そこに1本のワイヤーが割って入る。 『悪いがそう簡単にやらせるわけにはいかんのでな』 ワイヤーを炸裂させながら、高機動型は一同を睨み付ける。が、見るからにボロボロだ。 『隊長、いくら何でも無茶です。まだ修理は』 『動ければかまわん。これ以上時間はかけられんだろう』 いっそ悲しいまでの使命感である。どう考えても大した邪魔になりそうにない。 「終わらせましょう」 優がそう言いながら防御壁を複数展開し、高機動型に飛ばした。 『むぅっ』 高機動型はのけぞりながらも山なりにグレネードランチャーを放つ。 「やらせないわ」 その攻撃はセリカの防御壁が受け止めた。 『隊長っ』 他の機械兵が援護に入ろうとするも。 「邪魔はさせないよっ」 No.8が手榴弾とサブマシンガンできっちり妨害する。 そして。 「いくぜっ、火炎地獄(インフェルノ)」 「体の芯まで凍りつけっ」 ファルファレロが放った強力な火炎弾の嵐が、続いて晶介の極寒魔法が苗木に炸裂する。 「って、オイ」 カチコチに凍り付いた苗木を見て思わず晶介を睨むファルファレロ。意味ねぇだろと言いかけたがそうでもなかった。 急激な温度変化は多くの物体を脆くする。苗木も例外ではなかった。 晶介の魔塊が巨大な鎌に変化する。切り刻むつもりで放ったその一撃目で、苗木は粉々に砕け散ったのだ。 苗木が粉砕されると間もなく、苗の生み出した軍隊蟻も砂のように崩れていった。 「まだ、やりますか?」 砕け散った苗木を横目に、優は機械兵に話しかけた。 『……作戦は失敗だ、各自撤退しろ』 高機動型は撤退命令だけ出すと、そのままその場に倒れ込んだ。 『隊長!』 駆けつける機械兵達を警戒しながら、一同はその場を後にした。 苗木はもう倒したのだ。これ以上戦う理由はなかった。 それに機械兵達は追いつめられていた。下手に手出しをすれば、それこそどんな反撃をされるか分からなかった。 後日。 あちこちに残った砲撃跡は、別口により最低限の修復がなされた上で森林火災として処理されたそうだ。 既に跡地のそこかしこでは久々に地面に届いた太陽の下、新たな生命の息吹が顔を出していた。
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