――セネガンビア地域、列石群某所。 そこは、セネビアとガンビアの二国に跨る世界遺産『セネガンビアの環状列石』のとある場所。通称『高貴なる女主人の墓』の近く……なのだが、何故かとてつもなく大きな木が生えていた。「……一週間前には、こんなもの無かったはずだが……」 研究の為ここを訪れた学者が、帽子を押えながら呟く。そして、急に殴りかかってきた枝を避け、瞳を輝かせて叫ぶ。「なんかこれはこれで新種の植物みたいだし、もっと調べたい! 」「いや、どう見ても危険ですから落ち着いてください教授!! 」 がしぃっ! と助手に羽交い絞めにされて避難させられる教授。他のガイドやら学生やらもこの謎の木によって殴られそうになっており、各々逃げ惑っていた。「何故こんな事に……。ん? あれは」 学生の1人が木に何かなっているのを見つけた。しかもたわわに実ったそれは目の前でガバァ、と割れ、中身がぬるぅり、と出てくる。それは……なぜかは解らなかったが、どうみても人間だったとおもしき骸骨だった。しかも、剣や槍、盾を手にしている。 気がつけば、見渡す限り骸骨、骸骨、骸骨。その数、なんと101体。彼らは何も言わず、ただただ学者たちを見つめ続ける。「な、なななななな……」 異様な空気に怖気づき、ガイドがしりもちをつく。その傍らで、もっとも大きかった果実が、割れた。それは、骸骨とは違う音を立て、毅然とした面持ちで立ち上がる。「……? 」 ガイドが顔を上げる。と、そこには列石と同じラテライトを思わせつつも、なまめかしさを感じさせる肌の女性が居た。細かな三つ編みを何本も編んで束ね、豊満な胸を揺らし、上品な装飾品で飾り立てた女性だ。化粧や身に纏うけはいから、『女王』やら『女主人』という言葉が似合いそうだった。「あら、お客様かしら?」 綺麗なアルトヴォイスが響く。彼女は脅えるガイドや骸骨兵に慌てふためく学者たちを見、ふふ、と笑う。「お前達、お客様ですよ。丁重にもてなしなさい」 肉感的な魅力の『女主人』の命令に、骸骨兵たちが動き出す。脅え、逃げ惑う学者たちにむかい、彼らはがちゃがちゃと音を立てて襲い掛かった。 しばらくして、そこには人間だっただろう物体が転がっていた。『女主人』は骸骨兵たちを見て呟く。「……すこしやりすぎたようね。まぁ、いいわ。まだまだ来るでしょうし……」 そう微笑む彼女の体から、赤土の一欠けらがぽろり、零れた。 その様子を、離れた場所から見るものがいた。彼は小さく笑って木製スマートフォンっぽい物にメッセージを入れる。「セネガンビアの苗木は、第三段階に入った。……引き続き、観察する」 彼の近くで、蜃気楼が僅かに揺れる。そして、彼の足元の影が、僅かに震えた。***** 予言された未来は、世界樹旅団によってもたらされる。 世界司書が知った出来事はまだ不確定な未来だ。しかし、このままでは確実に訪れる出来事でもあるのだ。 壱番世界各地の「世界遺産」をターゲットに、何組かの旅団のパーティーが襲来することが判明した。かれらは「世界樹の苗」と呼ばれる植物のようなものを植え付けることが任務のようだ。その苗木は急速に成長し、やがて、司書が予言したような惨劇を引き起こす。 言うまでもなく……「世界樹の苗」とは、世界樹旅団を統べるという謎の存在「世界樹」の分体だ。 だが、この作戦を事前に察知したことにより、世界図書館のロストナンバーたちは、苗木が植え付けられてすぐの頃に到着することができるだろう。周辺の壱番世界の人々を逃がす時間は十分に確保できるはずだ。 むろんそのあとで、苗木は滅ぼさねばならない。苗木は吸い上げた壱番世界の『歴史』や『自然環境』の情報をもとに反撃してくるであろうし、旅団のツーリストも黙ってはいない。 司書は、引き続き、戦うことになるはずの、敵について告げる。*****「と、言う訳で世界樹旅団の策略を、きみ達には打ち破ってもらいたい。ちなみに、きみ達が向かうのは壱番世界のアフリカ大陸にある、セネガンビア地域だ」 エルフっぽい世界司書、グラウゼ・シオンが真剣な表情で集まったロストナンバー達を見る。彼は『導きの書』を開き、捲りながら説明を続ける。「世界樹の苗については、すぐ解る場所にある。一般的に『高貴なる女主人の墓』と呼ばれている墓の付近に植えられているからな。 ただ、旅団ツーリストの1人が列石に擬態して様子を見ている。どれがそれなのか解らないが、気をつけてほしい」 ほかの2人もまた、苗の近くに潜んでいる。1人は透明になって苗木の傍にいるらしいがめんどくさがりなのでその人に見つかってもさほど心配しなくて良いらしい。 ただ、問題は影に身を潜められる旅団ツーリストだという。「影に溶け込めるツーリストは、暗殺者でもある。注意して進まないと自分の影に忍び込まれ、首を絞められたりするからな」 グラウゼは険しい表情のまま、『導きの書』を再び捲る。「今回、セネガンビアにやってくる敵ツーリストは3人。リーダー格は擬態能力者だな。唯一の女性は影ならば何でも潜める。体力はそうない方だから、戦闘については大丈夫だろう。 ただ、逆に透明になれる奴は手慣れだから気をつけろ」 また、擬態能力者は砂を操る能力もあるらしい。現場となる地域は充分、材料がある。下手したら砂の槍などを地面から生やしたりするかもしれない。それ故に、より気をつけてほしい、との事だった。「ちなみに、第三段階時に登場する『女主人』は人間みたいだが、その正体はラテライトで作られたゴーレムだ。……そいつさえ倒せば骸骨戦士は動きを止める」 しかし、周りには101体の骸骨戦士。そして、3人の旅団ツーリスト。彼らは己の使命の為に全力を尽くすだろう。それは、こちらも同じなのだが、まだ問題があった。「今回の戦場は列石の間で行われる。なるだけ列石を倒さないように頼む。向こうはそんな事を気にせず戦うだろうがな。 もし倒してしまったら戻してこい。絶対に壊すなよ? な? 」 妙に力の篭った声で念を押すその目に、ロストナンバー達は何も言えなくなった。 なお、学者たちが来るまでには充分時間がある。何かしらの工夫をしておけば彼らが来る事はないであろう。或いは、彼らが来るまでに倒してしまえば問題は無いのだ。「ま、第三段階になる前にあの3人をどうにかして苗木をとっぱらうってのも手だぜ」 そう言いながら、彼は『導きの書』を閉ざした。 一通り説明が終ったグラウゼの表情は厳しいままだった。本当は彼自身も手伝いたい気持ちでいっぱいなのだろうが、世界司書であるが故に向かう事が出来ない。それが悔しいのだろう。グラウゼは1人1人の目を見、頭を下げる。「世界遺産『セネガンビアの環状列石』と、周辺の人々の命はきみ達に任せる。……そして、絶対に帰って来い」 そういうと、人数分のチケットと弁当を手渡し、優しく微笑んだ。 ――ナレンシフ内 黒髪の少女が心配そうに世界樹の苗を見つめる。妙に緊張し、まるで初めて暗殺を依頼された時のようだ、と苦笑する。「心配したってはじまらない。……後は完遂させるだけさ」 リーダー格の男がそう言っている傍らで、長身痩躯の男はふわぁ、と大きな欠伸をした。そしてめんどくさい、とでも言うような顔でリーダーを見る。「なぁ、ばっくれて美味いもんでも食べにいかないか? 」「何言ってるんです? これは世界樹様のため、私達旅団の為なんですよ!! 」「まあまあ、落ち着け」 少女の避難に男が欠伸で答え、リーダーが間に入る。彼は少女の肩に手を置き、小さく微笑む。「大丈夫だよ。君は優秀な暗殺者だし、彼だって戦いになれば頑張ってくれるさ」「ま、強い奴がいるならなー」 彼はそう言って青い髪をかきあげる。その様子に肩を竦めながら少女は溜め息をつく。「……ともかく、図書館の人たちと戦うんです。貴方も満足できるでしょうね」 そんな事を言いながら、彼らは眼下に広がる列石群を見つめるのであった。***** !注意!イベントシナリオ群『侵略の植樹』は、同じ時系列の出来事を扱っています。同一のキャラクターによる『侵略の植樹』シナリオへの複数参加(抽選へのエントリー含む)はご遠慮下さい。
起:事前対策は万全に。 ――セネガンビア地方・列石群。 5月の穏やかで過ごし易い風の中、『図書館側』のロストナンバー4人はずらりと並んだ列石群に目を見張った。彼らがいるのは予見で言われた「女主人の墓」のあたりである。 「うわぁ……! すごいね! ぼくの部屋にも一個ほしいなぁ……」 列石群に見とれたのか、ツーリストのディガーが目をキラキラさせて辺りを見渡す。が、同じくツーリストの榊、コンダクターのヘルウェンディ・ブルックリンと川原 撫子は目立つ位置に聳え立つ『世界樹の苗木』に表情を曇らせた。ディガーもそれを見、表情を険しくする。 (実ぃつける前に取っ払うっつーのはどーかな?) 榊が苗木を注視してみると、既に小ぶりながら実をつけている。今からこれを払うとなると、不意打ちを招くかもしれない。そう思った彼は、刀から手を放した。 今回の敵は列石のどれかになっていたり、透明になったり、陰の中に潜んでいる。この場所に踏み込んだ時点で既に、戦闘は始まっている、と考えても過言ではない。 最初に動いたのは撫子だった。彼女はパスからトラベルギアである小型樽(背中に背負えるタイプ。銀色のホースつき)を取り出して背負う。地面に置いたのは背負っていた何かの袋。傍らには彼女の相棒であるロボットフォームセクタン・壱号が立っている。 「それは……?」 不思議に思った榊が問うと、撫子はにこっと笑った。 「倒しちゃった用のセメントですぅ☆ 70Lバックパックにギリギリ入りましたからぁ☆」 戦闘が終るまでここに置いておく、といい、にっこり。その準備にほっ、としつつもディガーは「せっかく綺麗に並んでるんだし」と、倒さないように戦おう、と改めて決意を固める。 一方、撫子の準備のよさに「それならば」と安堵する榊ではあるが、世界司書の言葉を思い出し、眉を寄せる。 (列石ぶっ壊しちゃ拙いっつーのは、めんどくせーな) 壊しても良いのならば先制攻撃ができるのに、と苦々しい顔で辺りを見渡す。が、そんな彼にヘルがガスマスクを手渡す。首をかしげていると、ヘルはふふ、と微笑んで 「ちょっとアイデアがあってね」 と囁いた。その一方、撫子とディガーがそれぞれ色々持って動き出す。 「それじゃあ、学者さん達を遠ざける為に行って来ますねぇ☆ 」 「2人とも、気をつけてな」 榊に見送られて、2人は笑顔で歩き出すのであった。その間にヘルも準備を始める。彼女は燃え易い物を集めると風の向きなどを調べ始めた。 (相手は、列石に擬態している。ならばコレに耐えられるかしら? ) ディガーと撫子は学者一行が近づかないように、手を打っておくことにしていた。ディガーはゴーグル、手袋着用という井出達で幾つもの落とし穴を掘っていた。学者たちを足止めするためである。手早く、そして、正確に幾つもの落とし穴が出来ていく。穴掘りを得意とするディガーには朝飯前であった。 (ごめんなさい! でも、ここに来ると危ないんです!! 命の危険があるんですっ!!) 心の中で謝りつつ穴を掘るディガーであったが、穴を掘るのはとっても楽しかった。無邪気な子供のように目を輝かせていたのを知っているのは、撫子だけである。 一方、撫子はというと、落とし穴より手前側にロープを張って拡声器にスイッチを入れた。腰には鉈、片手には釘バットという姿が物騒である。 (これで準備はオッケーでぇす☆) 彼女は「あーあー」とマイクのテストをした後、徐に咳払い。そして、思いっきりはっきりと辺りに忠告を促す。 「この周辺で人喰いピューマの目撃情報がありました! 退治が済むまで周辺地域への立ち入りを禁じます! 民間人は至急撤収して下さい! 繰り返します、この周辺で……」 彼女の忠告が果たして学者一行に聞こえたか。それはさておき、遠くのガイドがひき帰したのを見ると、どうやら伝わりそうな雰囲気だ。 (上手くいきましたぁ☆) その様子を見、撫子は拡声器を壱号に預け、ディガーと共に2人の元へ戻る。と、2人もまた準備を整えていた。撫子とディガーもヘルからガスマスクを受け取り、作戦内容を聴く。それに頷いた撫子は首元に手を置き、小さくほくそえむ。 「それはぁ、いいアイデアですぅ☆」 「ぼくもちょっとやってみたい事があるんだ。こんなのはどうかな?」 ディガーもまた提案を話し3人はおもしろそうだ、と頷いた。 「面白そうじゃねぇか? やってみよう!」 「探す方法は、多いに越した事は無いわ。頼んだわよ、ディガー」 4人は顔を見合わせ、いたずらっ子のように笑い会う。そして、頷き合うと早速動き始めた。 こうして4人は作戦を開始する。 全ては、世界樹旅団から世界遺産と人々の命を守る為……。 「壱番世界には手を出させない。私が皆を、家族を守るんだから」 ヘルはぐっ、と拳を握り締めて決意を新たにした。 承:青空ハイド・アンド・シーク しばらくして、あたりは煙につつまれた。ガスマスクを装着した4人は目を凝らして列石を観察する。それと同時に何かを叩く音。キィィィン……、とどこか澄んだ音色が、煙と共に広がっていく。 (どこに居る?) 榊が目を凝らしていると、苗木の前に、うっすらと輪郭のような物が見えた。同じようにディガーも音の違いでそれに気付いたようだった。 (なるほど) (あの……透明の人、あそこにいるみたいなんだけど、攻撃してこないからほっときます? ) (そうですねぇ☆ 後から料理しちゃいましょう☆) 榊の呟きとディガーの問い掛けに撫子が小さく頷く。実際にその存在は少し暇そうに木の傍に居る。動く気配は無い。しかし念の為に見張る撫子であった。 一方、ヘルは列石群から目を離さず、真剣に見つめていた。この煙は彼女の提案によって起こされた焚き火によるものである。彼女はトラベルギアである銃を握り締め、小さく溜め息をつく。 (石に化けてるだけの人間ならたまらず変身を解いちゃうはず) 列石群の様子を真剣に見ながら、震えている石があったら股間であろうあたりに蹴りを入れるつもりであったが、煙が充満した今でも、列石に異変は無い。上空では既に相棒のオウルフォームセクタン・ロメオが旋回し、この辺り全体を見張っているのだが……。 (おかしいわね……) ヘルが眉を顰めた時、ディガーが息を飲んだ。彼は近くにあった石を叩き、共鳴を使って敵を探っていたのだが、彼の耳が列石とは異なる響きを捉えていた。 (でも……違うかもしれない。もう少し様子を見よう) ディガーは1つの石を集中してみる。と、僅かなゆれが生じた。それを見逃さず、ディガーが叫ぶ! 「居た! 」 彼の声にヘルが速やかに向かう。しかし、それよりも早く、撫子へと伸びる影があった……! 「! 撫子!!」 榊が叫んだ時、風が起こる。紐が首に回った刹那、撫子はそれを右手に持ち、軽々と背負い投げ。同時に踏み込んで左手に握っていた鉈を一閃。しかし、影はそれを避け、するり、と列石の影へと逃げてしまう。 「逃げられちゃいましたかぁ☆」 相撲取り程度ならば軽々バックドロップもできる彼女にとって、手ごたえが軽すぎた。叩きつけると同時に影へと飛び込んだ相手は、どこへ消えたのだろうか? (影の中ってどうなってるんだろう? 真っ暗なのかな?) 辺りを見渡しながら、ディガーは思わずそう考える。その一方でこうも推測する。 (他の影がなかったら、移動できないんじゃないかな?) 彼は僅かに身を離し、あたりを見張る。同じことを考えた榊もまた自然と自分の影が、仲間や自然物の影に触れないよう動き、それを見た撫子も同じように行動する。 (影に潜る能力者か……厄介ね) 一連の流れにヘルは内心で溜め息をつく。が、彼女は銃を握り締め、地面へと発砲する! 同時に彼女の影から何かが飛び出し、身構えた。ヘルは中で爆ぜるタイプの弾丸を直接撃ち込んでいたのだ。 「よくも……!」 黒髪の少女は辛うじて弾を避けたらしいが、掠めたようで頬や手足から血を流している。ヘルは何も言わず列石を蹴ろうと振り返るも、そこには1人の男が立っていた。どうやら、この男がリーダー格らしい。 「ふぅ、危なかった。君が注意を逸らしてくれなかったら蹴られるところだったよ、ルゥナ」 「ふん、隠れんぼが得意な変質者にはこうしろってパパに習ったのよ」 忌々しげに言い放つ彼女を見、ルゥナと呼ばれた少女が肩を竦める。 「変質者などと一緒にしないでいただけませんか? 私達は工作員なのですから」 鋭い視線を向けるルゥナ。それを見、接近しようとした榊と撫子に対し男が指を鳴らす。と、砂の槍が地面から伸びてきた。咄嗟の事に目を丸くする撫子を庇うように榊が立ち塞がる! 「便利だな、いいなそれ」 ふっ、と笑って刀を一閃。衝撃波で砂の槍を切り払う。 その時、ただ1人苗木の方を振り返ったディガーは思わず息を飲んだ。そこにはいつのまにか長身痩躯の男が立っている。 「ショウもルゥナも見つかっちまったんじゃあ、かくれんぼはお仕舞いだよなぁ。なぁ? 」 「お前はサボりすぎだ、イェン。……そろそろ働いてもらうよ」 リーダー格の男、ショウに言われ「はいはい」と生返事を返すイェン。彼は首を回しながら苗木の前から少し前に出る。ルゥナはショウと頷き合うと、するり、と影に溶け込み、苗木傍の列石の影から姿を現す。 「そんなに面倒くせーんなら手え抜いてもいーじゃん」 咥えた煙草をピコピコと動かしながら、榊が愚痴る。が、聞こえたのだろうか、イェンと呼ばれた男は苦笑する。 「そうしたいのは山々だけど、リーダーにどやされるんでね。それに、あんたらと戦うのは面白そうだし?」 「そろそろ時間だな」 ショウがそう呟いたとき、苗木に実っていた果実が、一斉に割れた。そして、あたりに乾いた物が落ちていく音が響いていく。最後に落ちたものだけ、妙に重い音だった。 かちゃかちゃと音を立てて並び立つ、101体の骸骨兵士。そして、悠然と降り立つ美女。……ラテライトの女主人ゴーレムがにこり、と微笑んだ。その笑みは男ならば思わずくらり、と来るような、妖艶なもの。しかし榊もディガーも、勿論ショウもイェンもぐっ、と堪えた。思わずジト目になる女性3人。 「これはこれは、お客様が4人も……。歓迎のし甲斐があるわね?」 女主人は口元を綻ばせ、飾りをしゃらり、と鳴らしながら踏み出す。踏み出すごとに揺れる飾りと胸に、堂々とした様を覚える。そんな彼女に続くように骸骨兵士たちも続く。がちゃり、がちゃり、と軽い音が妙に耳障りだった。 「さぁ、次は乱闘ごっこでもしようじゃないか。図書館の諸君?」 ショウがもったいぶったような口ぶりでヘル達を見やる。ルゥナが小刀を構えながら一堂をみやり、イェンがぱきぽきと手の関節を鳴らす。空気が張り詰める中、1人のんびりとした声が響いた。 「時間稼ぎだった訳ですねぇ☆ でもぉ、壱番世界の女の子舐めない方が良いですぅ☆」 撫子がいつもの調子で身構え、ヘル達もまた己の武器を握り締める。暫くにらみ合っていた両者であったが、やがて、どちらからとも無く動き始めた。 ガスマスクが外され、乾いた大地へと転がる。 立ち上る砂煙と、響き渡る骨の音。 苗木を守らんと立ち上がる101体の骸骨兵士とそれを統べる女主人、3人の旅団ツーリストを相手に、榊たちの戦いが幕を開けた。 「イェン!」 「分ってる! 苗木から離れるな、だろ? 」 ショウの支持に、イェンがぶっきらぼうに答える。それを確認しつつもルゥナが姿を消した。しかし、影の中ではない、と4人は感じた。彼女はどこかに潜んでいるのだ。 「こうなった以上、何かに擬態したり、透明になったり、影に潜んだりはしません」 不意に聞こえたルゥナの声。それは何処から聞こえたのか、全く分らなかった。 転:激闘にスプラッシュ・シャボン 列石群に広がる、101体の骸骨兵士。それだけではなく、3人の旅団ツーリストを相手にしなくてはならない。しかし、女主人のゴーレムさえ倒せば骸骨兵士はどうにかなるのだ。 戦場に骸骨兵士が散らばり、次々に4人へと襲い掛かる。榊とディガーが前に出てどうにか追い払い、ヘルと撫子が後ろから攻撃する事でどうにか時間を稼ぐ。この時点で、女主人とイェンはまだ動かない。 (あの苗木からアイツらを動かさねぇと……) 榊が、骸骨をなぎ倒しつつ苗木を見る。前にイェンとショウがいる。ルゥナの姿を探っていたが……気付いた時、榊へと向かって来ていた! (なっ!?) 気付くまでさっきに気付かなかった。その事に背中に冷たい汗を感じながら、榊は気を引き締める。 「覚悟!」 「くると思ったぜ」 手を刃へと変化させ、抜き手で刺す榊。しかし、それをバックステップでかわすルゥナ。その足元をヘルに撃たれ、少女はすぐさま列石に身を隠す。 「骨には鈍器ですよねぇ☆」 撫子が襲い掛かってきた骸骨兵士を鉈で返り討ちにし、ギアのホースに手を伸ばす。が、やたらめったらと骸骨兵士が絡んでくる。それに気付いたヘルがまた銃の引き金を引く。 「キリがないわねぇ……」 「余所見をしているばあいかい?」 そう言っている傍から、ショウが砂を操って飛ばしてくる。それをどうにか身を縮めて堪えるヘル達。 「この調子なら、俺はサボっててもいいよなぁ?」 ケラケラ笑いながらイェンが呟く。彼は何処となく楽しそうに傍観を決めているようだが、女主人が呆れたようにイェンを見る。 「これ、そこな男。お前も私を守りなさい」 「へいへい……」 仕方なく、女主人と苗木を守るように立つイェン。しかし、何かあったらすぐ動けるように身構える。 そんな様子に、榊苛立っていた。どうにかして隙を作り、苗木を取り除きたいのだが、骸骨兵士はわらわらと襲いかかってくる。それに、ルゥナは姿を晦まし、何処にいるのか探る事が出来ない。 それでも諦めずに衝撃波を放ち続けるの一撃が、骸骨兵士を通り抜けて世界樹の苗木へと迫る。 「邪魔はさせんっ!」 ショウが叫び、砂の壁で衝撃波を鎮める。しかし、榊は衝撃波を何度も放つ。後ろからはヘルの銃声。ロメオの力を借りて戦場全体を見る彼女の援護があるお陰で迫る砂の波も把握できる。 「榊! 気をつけて!」 「しゃあねぇな……!」 榊が衝撃波を放ち、再び砂の槍とぶつかる。その煙に乗じてルゥナが飛び掛り、それをディガーがシャベルでなぎ払う。ついでに骸骨兵士もなぎ倒した。 「キリがないけど、がんばるよ!」 「雑魚は私とディガーさんで抑えますぅ☆」 そういいながら撫子が、ギアのホースから勢いよく水を飛ばす。列石を倒さないように調節しつつ飛ばすのは、大量の石鹸水。彼女は何もかもを巻き込んでおもいっきり水を舞い躍らせた。骸骨兵士の所為で遅れたが、これは彼女の奥の手であった。 太陽の光を浴びて、キラキラと輝く石鹸水。敵味方関係なくずぶ濡れとなり、骸骨兵士たちはなぎ倒されていく。それは静観を決め込んでいた女主人を慌てさせていた。 「こ、コレは?! お前達、私の盾になりなさい!!」 女主人が叫び、骸骨兵士たちを呼び集める。しかし、石鹸水で足を滑らせてしまい、なかなか集まらない。それに苛立ちつつも女主人は石鹸水から逃れようと苗の前から動き出した。 「ちょっと?! これ、勢い強くない?」 「冷たっ!? しかもぬるぬるしてねぇか?」 列石に隠れつつアシスト攻撃していたヘルと、世界樹の前から動かなかったイェンが声を上げる。水を避けようと目を覆いながら動くイェン。 「ラテライトは、すごく脆いんだよ」 好機とばかりに女主人へと殴りかかるディガー。シャベルの一撃を受け、女主人の体から赤土の欠片が零れる。敵でなければ色々と話してみたい、と思っていたが、彼女を倒さない限り骸骨兵士たちは動き続けるのだ。 「たしかぁ、大水で壊れた事例はありますからぁ、濡らし続けるのは無駄じゃないですぅ☆」 撫子のギアが更に石鹸水を撒き散らす。おかげで地面はぐちゃぐちゃとなり、ショウは砂を操る事が出来なくなっていた。舌打ちしつつ、ショウは拳を握り締め榊へと襲い掛かる。 「ここは俺の故郷じゃねーけど嬢ちゃん二人の故郷なんだよな」 小声でぽつり、と呟く榊。ショウの一撃をするり、と交わしつつ模造刀を構え、一閃。 「悪りぃ、手ぇ、抜けねぇんだわ」 その一撃を手の甲で受け止め、ショウもぽつり。 「それは、こっちも同じだ」 彼の言葉に、榊はニヤリ、と不敵に笑う。僅かな間に交わる視線だけで、2人は互いの力が互角であると悟った。 「こんなの……どうってこと、ない!」 ルゥナがびしょびしょになった上着を脱ぎ捨てて撫子へと向かう。しかし、その動きをヘルは読んでいた。降り注いだ石鹸水のおかげか、彼女の気配を僅かに感じ取れるようになっていた。 「そこっ!」 ヘルの放った粘着弾がルゥナへ直撃し、身動きが取れなくなる。バランスを崩し、地面に転がってしまう。 「ばかな!? 先ほどの弾丸とは違う?」 「私のギアは持ち主の念じた通りの弾丸を生み出す。だからこんな事もできるのよ!」 戸惑うルゥナにヘルが叫び、今度はイェンへと粘着弾を放つ。しかし、イェンはその全てを避けると女主人へ攻撃し続けるディガーへと向かっていく! 「おっと、それ以上はご遠慮願うぜ!」 強力な蹴りがディガーを襲い、シャベルでどうにかガードする。バランスを崩して女主人を押し倒してしまい、更にダメージを与える事が出来たものの、シャベルを蹴り飛ばされてしまった。 「うわぁっ?!」 「ディガー!!」 ヘルが銃を撃とうとしたとき、撫子のギアが唸ってイェンを水流で叩きつけた。しかし、手元が滑って榊とショウまで吹き飛んでしまった。石鹸水が垂れ、滑りやすくなっていたのだ。目に石鹸水が入り、痛がるイェン。 「くそっ、目がぁ! 目がぁあああ!!」 「……そりゃ、石鹸水だからなっ!」 同じような条件である榊であったが、気合で立ち上がり、世界樹の苗へと向かおうとしたショウをタックルで押さえ込む! 「今だ、ヘル!!」 彼の叫びにヘルが頷く。彼女は世界樹の苗へと銃をむけ、思いっきり引き金を引く! 同時に立ち上がろうとしたショウには「ダメですぅ☆」と、撫子が再び水流をぶつける。 「!? 待て!」 「いかせないよ!」 イェンが動こうとするのをディガーが押さえ、大部分が崩れた女主人へ榊が衝撃波を放って止めを刺す。鈍い音を立てて崩れる女主人に合わせ、骸骨兵士たちが動きを徐々に鈍らせていく。 「貴方たちにとって旅団が居場所で世界樹が大切な支えであるように、私にとっては此処が大切な故郷なの。だから……」 言葉と共に飛ぶ弾丸。濡れたのにも拘らず苗木は着弾と共に燃えていく。それでも、ヘルは引き金を引き続ける。相手にも信念があることを理解している彼女ではあるが、やはり、自分の信念は貫きたいのだ。 「退いてくれとは言わない。力ずくで退かせてみせるわ!!」 ――ダダダダダダダダダダッ!! 炸裂する弾丸、散らばる打撃音、青空に昇る煙、燃え立つ炎。音を立てて燃えていく苗木を呆然と見上げるルゥナの目から、涙が零れでる。 「苗木が……世界樹様の苗木が……」 「漸く……ってトコか」 懐から新しい煙草を取り出し、咥えながら榊が呟く。漸く取り除く事が出来た災いに、彼は小さく安堵の息をついた。 世界樹の苗木が燃えていく様を、榊たちはただ、見ていた。炎はあっという間に苗木を飲み込み、灰に替えていく。成長するのも早かったが、燃え尽きるのも、早かった。それに一抹の寂しさを覚えるロストナンバー達であった。 「任務失敗、か」 燃え尽きた苗木の灰に触れつつ、ショウが力なく呟く。それに頷きながら、イェンがよろよろと立ち上がった。 「リーダー、水対策打っておけばよかったッスねー。石鹸水は盲点だぜ? あー、痛かったー!」 彼は撫子の背負っているギアを指差し、悔しげに言う。ショウは肩を竦めると粘着弾で身動きが取れなくなったルゥナの元へと歩みよる。彼女は今もどうにかとろうともがいていたが、あまり効果がなかったようだ。 「どうするんだ?」 榊の問いに、ショウはふん、と鼻を鳴らす。 「どうするもなにも。苗木をお嬢さんに燃やされてしまったからな」 彼はちらり、とヘルを見ながらそう言い、歯を食いしばって涙を流すルゥナを抱えた。そして欠伸を噛み殺すイェンを小突く。 「言った筈ですぅ☆ 壱番世界の女の子舐めるとぉ、痛い目を見るってぇ☆」 「別に舐めてかかった心算はねーよ。あんたらのような気合入った女の子だったら、この強さも納得もいくし? おまけにどっちも俺のタイプだし」 イェンがそう言いながら撫子とヘルを見る。と、泣きはらした目でルゥナが彼をにらみつけた。 「そんな軽口叩く余裕があるなら、園丁さまへの謝罪を考えてください」 「ともかく、これで終わり、かな?」 ディガーがそういって辺りを見渡す。幸い、列石は少々ずれてはいたものの、1つも倒すことなく戦闘を終らせる事が出来た。ただ、水浸しであるため、列石が少々壊れやすくなったかも……しれない、という不安があったのだが。 「しかし、どことなくいい匂い」 ふと、ヘルが呟く。よくみると、ふわり、とシャボン玉が宙に浮いていた。焼けた灰の上を、シャボン玉がふわり、ふわりと飛んでいく。その奇妙な光景に彼女はくすり、と笑った。 結:濡れた赤土に足跡を残し 「ルゥナと私が戦闘不能になり、苗木が燃やされた。私達の作戦ミスで招いた事だ。……撤収するぞ」 ショウの言葉にイェンが頷く。彼はルゥナを抱えたまま、榊達を見た。 「敵として再会するならば、力の限り戦わせて貰う。……他の奴らに、やられるなよ」 「そこまで言われるとは、嬉しいな」 榊が苦笑混じりにいい、ショウと笑い会う。それをルゥナが目で咎め、イェンが諌める。彼女にとっては世界樹の役に立てなかったのが本当に悔しいらしい。 「だから言ったんだよ、俺は。面倒な事は止めて美味いもんでも食べようって」 「世界樹旅団にも、色んな人がいるんだね」 ディガーが思わずそう呟いていると、ルゥナが肩を竦める。 「貴方がた世界図書館と同じです。そちらも、色んな人がいるのではないですか? 」 「確かにそうね……」 ヘルが頷いていると、ロメオも同じように頷く。同意なのか、壱号も手を挙げ、撫子が笑う。 「ところでぇ、これからショウさん達はどうするんですかぁ?」 ふと、撫子が問う。それに答えたのはルゥナだった。彼女は複雑な表情でショウとイェンを見る。 「任務失敗の報告を園丁に行うだけです。この後、どうなるかは判りません」 「ま、こうなった以上出たトコ勝負じゃね? 俺は世界樹に戻る前に、ちょいとこの世界の美味い物を食べに寄り道したいんだけどねぇ?」 今度はイェンが溜め息をつきながら肩を竦める。その姿にくすくす笑ってしまう撫子達なのであった。 しばらくして、ショウ達3人はナレンシフへと乗り込み、あっという間に空の彼方へと飛んでいってしまった。それを見送ると4人は後片付けを始める。 その途中、ヘルはちらり、と撫子を見た。彼女はルゥナに首を絞められた際、ひょいっ、と紐を捕らえて彼女を投げたのだ。 「それにしても、よく耐えられたわね」 「あぁ、これですかぁ☆」 ヘルの言葉に、撫子は衣服の襟を摘んでにっこり笑う。 「ギャロップって金属鎧には効かないんですぅ☆ だから学生服のカラーに鉄板巻いて、それを自分の首の長さと幅に合わせて自作してみましたぁ☆」 一瞬稼げれば、分はあると踏んだ彼女らしい対策に、ヘルは小さく微笑む。そして、ふと、実父の事を思い出した。 (アイツも無事だといいんだけど) とりあえず、後でトラベラーズノートで連絡を取っておこう、と思うヘルであった。 片付けも終盤に差し掛かり、散らばった道具も集まった。列石は何事もなかったかのように立ち続け、その姿をディガーはうっとりと見つめる。 「やっぱり素敵だなぁ」 と、名残惜しそうに呟く。それに、戦ったショウの事も羨ましかった。石に擬態できる上に砂も操れる。それが、ディガーにはとても魅力的だったのだ。 「どうした?」 「ううん、なんでもないよ」 煙草を玩びつつ問う榊に苦笑するディガー。彼は列石を振り返りつつも落とし穴を埋めに向かうのであった。 因みに、穴を埋める作業は穴を掘る作業より少し勢いが足りなかったのは、気のせいにしておこう、と思う榊なのであった。 「そろそろ、帰りましょ?」 ヘル言葉に、一同頷く。世界樹の苗木は無事撤去でき、世界樹旅団の企みの1つを阻止する事が出来た一行は安堵の表情を浮かべる。確かに全員、疲れてはいたものの、妙な爽快感を感じていた。……のだが。 「それにしても、派手にやったな」 榊が濡れた衣服を見て呟く。撫子のギアが放った石鹸水が勝利の鍵となったのは確かだが、彼女も含め全員がずぶ濡れになってしまったのも事実である。 「た、確かにベタベタするね」 「早くシャワーを浴びたいわ……」 ディガーとヘルも、さすがに乾きかけた石鹸水にむず痒さを覚えているらしい。榊もまた、小さくくしゃみをする。 「ごめんなさいぃ」 僅かにしゅんとする撫子。ロメオと壱号はそんな彼女を励ますように跳ねたりピコピコ光ったりしている。 「そんなに落ち込まないで。ま、兎も角これでセネガンビアは守れたわね」 ヘルが撫子の肩を叩いて笑い、それに彼女も励まされる。そんなやり取りに小さく微笑みながら、榊は煙草を咥えなおす。 「行くぞ」 彼の言葉に頷き、皆歩き始める。その中でディガーは、ちらりと列石を振り返り、小さく溜め息をつく。 (あぁ、やっぱり欲しいなぁ……。でも、我慢しなくちゃ) 未練があるのか、何度も列石を振り返る彼に溜め息をつき、撫子が手を引いて諦めるように促す。仕方なくディガーは引かれるまま、仲間と共にその場を後にするのであった。 ――ナレンシフ内。 ショウがウッドパッドで報告している傍ら、漸く拘束が解けたルゥナは悔しそうに壱番世界を見ていた。 「所で、リーダー。確か俺たちの他にも苗木を植えに行った奴らって居たよな? 」 ウッドパッドを弄っていたウェンの言葉に、ショウは「ああ」と何処となく心配そうに頷く。ルゥナは壱番世界の地図を広げ、眉を寄せながら呟いた。 「確か、園丁の話だと私達を合わせて18チームが行った筈。他のチームはどうなったのでしょうか? 」 「……十中八九『図書館』の奴らと戦っているのだろう。それか……苗木と共に破壊活動をしているか、だな」 漸くウッドパッドから顔を上げたショウの表情はきわめて暗い。任務を遂行できなかっただけではなく、他のメンバーとも連絡が付かない焦りが顔に表れていた。このような顔をするのは珍しいのか、イェンとルゥナも表情を険しくする。 何を思ったのかイェンもまたウッドパッドで連絡を取ろうとしたものの、心当たりのある面々からは何も回答がなかった。 「面倒なコトになりそうだぜ、全く」 溜め息混じりに呟くイェン。その傍らで、ルゥナはうとうとし始めた。戦闘でかなりの体力を消耗したのか、限界に来ているらしい。 「ごめんなさい、2人とも。私、少し休みます」 「そうしておけ、ルゥナ。また指令が下るかもしれないからな」 ショウの言葉に頷き、ルゥナは椅子に深く腰掛け、眠り始めた。イェンが自分の上着を掛けてやる。そして、ショウに1つ頷く。 「上層部はもう次の手を打っているんだろうな。俺の勘がそう告げているぜ」 その言葉にショウも1つ頷き、もう一度ウッドパッドで園丁に連絡を取る。暫くして来た連絡に、彼はふっ、と口元を綻ばせた。 こうして、4人の『図書館所属』ロストナンバー達はセネガンビアでの戦闘に勝利を収めた。少し沈んでいく太陽の下、停留所へと向かうその足取りは軽い。 「あの女主人とも話してみたかったし、列石も……」 と、ディガーには心残りがあるものの、概ね帰路は順調である。ヘルは実父と連絡が取れなくて「べっ、別にアイツなんて! でも、気にしてあげてるのよ?」なんて口走ってロメオがフォローし、それに榊が「はいはい」と相槌をうっていた。 「ともかくぅ、私達が勝利したって事実は揺るぎませぇん☆」 きゃぴっ☆ とウインクとポーズを決める撫子と壱号。そんな姿に3人とも微笑みながら、彼らは停留所を目指すのであった。 (終)
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