―――石が生えている それは状況を何も知らない人達がこの状況を例えた言葉だ。 その言葉の通りこの国唯一の世界遺産であるバーレーン要塞、その白色に近い胡粉色の石壁は、本来なら採石所で切り出さなければ存在しないはずの石がまるで生物のようにゴトゴトを音を立てて増殖し、隙間無く噛み合う音を鳴り響かせて、壊れた部分も、入口の部分さえ覆い隠して石は積み上がって行き、 最後に城塞に居た人間が出た瞬間、壁が完全に閉じる。 増える石は横の分の増殖も貰ったかのように急速に、上部の樹に入り組むように混じり、ドーム状に絡まってゆく。 ここで初めて人々は樹の存在を知る。 何時生えていたのか、遺跡内に入っていた人達さえ解らない。まるで魔法が解けたかのように出現した樹は、そのナツメヤシに似た樹は鈍く光る実をたわわに実らせながら、樹は石と混ざり、屋根のようにその葉を茂らせる。 真横を爆風が凪いだ。慌ててその方向を見れば地面がえぐれていた、因みにそこには同じようにこの事態を呆然と眺めていた観光客がいた場所。爆風の近くにはボウリングボール台の黒い球体。ここで歴史をかじった人間がいれば、ここが古代文明の時代メソポタミア文明とインダス文明の中継交易都市だったと同時に、大航海時代ポルトガル人による要塞都市の面を持ち、恐らく防衛用の砲台が在った事を。 そしてその意味を判断する間もなく、周辺から逃げ出す人々。しかし本当に僅か、彼らとは反対に要塞に向かう人達が居た。勿論彼らは異変を解決する人間ではない。むしろそれを利用し、事が運べばその実を得ようとしている事など、人々は知らない。======== 予言された未来は、世界樹旅団によってもたらされる。 世界司書が知った出来事はまだ不確定な未来だ。しかし、このままでは確実に訪れる出来事でもあるのだ。 壱番世界各地の「世界遺産」をターゲットに、何組かの旅団のパーティーが襲来することが判明した。かれらは「世界樹の苗」と呼ばれる植物のようなものを植え付けることが任務のようだ。その苗木は急速に成長し、やがて、司書が予言したような惨劇を引き起こす。 言うまでもなく……「世界樹の苗」とは、世界樹旅団を統べるという謎の存在「世界樹」の分体だ。 だが、この作戦を事前に察知したことにより、世界図書館のロストナンバーたちは、苗木が植え付けられてすぐの頃に到着することができるだろう。周辺の壱番世界の人々を逃がす時間は十分に確保できるはずだ。 むろんそのあとで、苗木は滅ぼさねばならない。苗木は吸い上げた壱番世界の『歴史』や『自然環境』の情報をもとに反撃してくるであろうし、旅団のツーリストも黙ってはいない。 司書は、引き続き、戦うことになるはずの、敵について告げる。========「皆サンは世界遺産が要塞化する、マダ被害が出ていない1時間前に到着する事になりマス」 挨拶もそこそこに、ロイシュ・ノイエンは集まった参加者に話を切り出す。「今回の標的は世界樹旅団のどなたかによって、遺跡の中に生えている樹は見えなくなっていマス。場所は恐らく根の張り易い要塞内の一番広い広場の部分デスケド……『一部が丸く交換されている』のデス。交換された場所は残念ながら観る事は出来ませんデシタ」 ここで魔法に長ける者は転移魔法の一種だと判断できただろう。ならば敵には魔法を施した人間が存在する事になる。「その交換を解除して下されば樹は顔を出しマス。樹自体は普通の木と同じですガそれと同時に何か別の能力が発動するらしいのデ、そこに警戒しながら対処して下さいネ。更に遺跡の周辺には1回ダケ、確認のために旅団の人が見に来るようデス」 それは掛けた人間なのかと誰かが聴く。「イエ、別ノ。でも交換を修復できる人ミタイデスネ。その交換を行った人はどこかの空家に5分前まで潜伏しているそうデス。ア、それとその施した人と見に来る人以外の人達は一度ダケ、潜伏先周辺の市場に顔を出すみたいデスヨ」 聴けばどうやら遺跡から近い市場だという、つまり潜伏先はその市場に近い空家の一つが潜伏先だろう。「遺跡と市場の距離は整備された道で大体徒歩15分ですが、皆サンの到着場所は列車を隠す必要性から、徒歩で遺跡からと市場からはそれぞれ5分と20分の場所に着キマス。勿論ソコからすぐに迎えば確実に旅団側との遭遇には間に合いマスヨ」 勿論これは一般的な徒歩での移動距離なので工夫すれば早く着くことは可能だが……「ですが場所は壱番世界デスノデ、出来れば壱番世界の常識内の方法デ、可能な限り遺跡も破壊しないで欲しいと世界図書館から通達が来てイマス」 難しくなければお願イシマス。とここまで言い切ってから一度大きく呼吸をするロイシュ、そしてここで初めて作成済みのチケットを参加者達に差し出す。「最後の映像カラ、恐らく相手には要塞化した遺跡に向かえるだけの実力が有るデショウ。無理なら戦わずに樹の破壊に集中してクダサイ。くれぐれもドウカ皆サン、怪我には気をつけて行って下サイネ」 そして送り出すために、彼らの安否を願う様に、彼は深々と頭を下げた。======== 時刻は要塞が変形する5分前、本来作戦の参加者なら、次の作戦のために各々が準備や調整に勤しむ貴重な時間に、「あ~~~カンペゼーション帰りてぇ~~~~」 約一名窓の下日陰部分でゴロ寝。ちなみに服は現地に合わせているがターバンの下は日本人風の男で、「何言ってんだか、一番人が居るって騒いで参加しておいてどの口が言うのかい?」「ゲブっ」 それを踏むのは同じく現地の衣装、ブルカの為顔は見えないが、声音や服の流線から男よりも歳上の女性に聴こえる。「いやぁ~~~確かに沢山人がいるのはうれしいですよ?久しぶりの人の波はたしかに楽しいですけど、それも過ぎるとうっざいですよ。いやほんとに。さっきだって人がこれ以上いらないのにこれ買えあれ買えこっちもどうだいとか、ったく人がいらないのにぃぃ」「その荷物は?」「ぃぉぉぉおううぅぅ……!!?ちょ、姉さん死にます、いや本気で!」 ブーツ5cmダウンにウネウネと身悶える男、そしてその横には押し切られて買わされた大量のドライフルーツ。「いやならキチンと断ればいいグロ」「そうタケ、でもこのイチジクはおいしいタケよ」 更にそれを食べるのはどうあがいても人型ではないテディベアとタケノコ、シリアスはどこかへ行きそうだ。「でも、私たちもさっき「世界図書館」の人を見かけたし、やっぱり来たのかな」 そんな雰囲気をに染まらず、隣で座る着物姿の女性の袖を握り、心配そうに皆を見つめるのは10にも満たない幼い少女。そして少女の肩にはダンゴムシに似た蟲が子首をかしげ皆を見る。「だろうね。この前だって図書館側と思しき竜を見かけたし、ここもバレるのは時間の問題だろうさ」 言いつつ女性の視線は腕の中の球体、その中には紐と箱を合わせたような装置が2つ。そして踏まれる男にも同じ装置が1つ。「でも安西さんが直した時は、まだ魔法は解けてなかったんですよ。僕の転移魔法が効く内は僕らは隠れてればいいし、ドクターの言う通り発芽後あの城塞の中にこの装置を置けば任務達成でしょ」 男にすればこの作戦は最終段階。既に世界樹の芽は次の形態に発芽する直前で、後はその装置を設置するだけだった。「それでも油断大敵だよ。相手だってあたしらのように予想外の技を持ってるかもしれないし、さっきからやな予感がするからね。そろそろを出るよ。ほら、雛のだ」「あ……!はい」 球体から装置がこぼれた、それをキャッチし少女に渡す女性。「え、ここに隠れてた方が楽イタタタタタタタタハイ分かりました!すいません!!!」 更にブーツ5cmダウン、よく骨が折れないなぁと筆者が思ったりしつつ衣装を整え、幾つかの重火器と思しき金属を中に隠し入れてから、女性は少女をまっすぐに見据える。「それともう一度言っておくけど、今日の雛はきぃの保護者だ。ちゃんと責任を持つんだよ」「…………」 少女の肩が震える、真一文字に結んだ表情は緊張と不安が滲んでいる。その目は何かを成したいと願うようだが、「大丈夫グロ。雛やきぃは俺達が守るから安心しろグロ」「そうタケ。むしろタケの本分は二人をまもることタケ」 それでも心強い2体を頼りたげに視線が僅かに伏せられる。そしてその様子を見て「そうかい」と呟き、迷いなく外に通じる階段を下り始める女性。「あ、できたら僕も守って」「あたしより強い奴が何を言う、さっさと変身すればいいじゃないか」「いや、アレはトラウマなんですって」 そして踏まれた背筋を必死になでつつやっと男が立ち上がる。そんな男の頭をむぎゅっと踏み付け我先へと踊り出る2体を後ろで眺めていた少女は横に視線を向ける。「…………きぃちゃん」 リリリと鈴の音鳴らし、着物姿の女性が少女を見る。しかし見ると言うよりはその声に反応して体を向けただけで、その人形同然の造形も、ガラス玉に似た黒い眼球にも感情は何一つ浮かばない。そして視線に入った首の黒いリボンを見た瞬間、ブルリと少女の体が震える。「じゃあこれ着よう」 蟲になでられ、慌てて少女はブルカを女性にかぶらせようと背を伸ばし、合わせるように着物の女性は屈んだ。「きぃちゃん行こう。私の後ろついて来て、ね?」 そして少女は着替えてすぐに、まるで連れ出すかのように、握り返す力の感じない着物の女性を手を引いた。========!注意!イベントシナリオ群『侵略の植樹』は、、同じ時系列の出来事を扱っています。同一のキャラクターによる『侵略の植樹』シナリオへの複数参加(抽選へのエントリー含む)はご遠慮下さい。
バーレーン要塞は14世紀の大航海時代、ポルトガル軍によって要塞化された経歴もある遺跡だ。アラブ独特の文化も取り入れたポルトガル様式の土塁は、20世紀に行われた修復作業のかいあって、外側の外壁は今尚10mを超える城壁の風格を醸し出す。 「じゃぁこれは電磁加速による空中ダッシュだから、魔法じゃないからね!?」 その城壁を跳ぶ様に、紫電を纏って駆けるのはチェガル・フランチェスカ。目的は遺跡近くの町カールババッド(Karbabad)に潜伏している世界樹旅団の1人を探し出すため。そして遺跡内には3人のメンバーが残る。 3人のうち1人パティ・ポップが己の魔法のサーチマジックで見つけた、修繕が進んだ広場にいる最後の魔女から距離を取る。彼女は過去の依頼経験から最後の魔女の行動を予測して、少しでも発動後の影響が少ない位置に移動する必要があったからだ。 「勘違いしないでよね、私はあんたを利用してるだけなんだから。ぶっちゃけ、あんたにはここで死んで欲しいと思っているわ」 「私の名前は最後の魔女。この世に存在する最後の魔女」 声を掛けたのは蜘蛛の魔女、しかしかけられた言葉に最後の魔女は応えない。 「私以外の魔女の存在は認めないし、私以外に魔法を扱う者が存在してはならない」 舌打ちさえも聞き流し、ただ一心に魔法を施す。 その姿は依頼を精力的に参加しているとして好意的に見える。が、彼女の魔女としての性質を知る者は同じ世界図書館の仲間とはいえ、己が殺すべき魔女が近くにいながら手を出さないのはいささか異質に見える。勿論それには彼女なりの理由が存在するが、それは誰も知らないし、本来依頼には必要ではないものだ。 「何故なら、私が最後の魔女だから。……そもそも壱番世界に魔法なんて存在するわけが無いわ」 故に最悪の魔女は理由が此方に来るまで、何時ものように魔法を掛けて、何時もの様に魔法を否定する、矛盾を孕んだ彼女の魔法で目的の存在だけを出現させた。 「意外と小さいのね」 最後の魔女によって出現し、蜘蛛の魔女が叩く世界樹の苗の高さは実際2mも超えていない。傍から見ればトリネコの木にも似た苗は、これが予報後の大きさと脅威になるのかと疑問に思えてしまうほどだ。 「あ!!これって、世界樹??だったら、今のうちに抜いてしまうわ」 しかしこれが魔法で隠されていた物であり、およそ50分後に周囲を破壊する要塞になると予報されている以上処理しない理由もない。ゆえにパティはダガーを取り出し、まだ柔らかさの残る木肌に突き立てた。それを3回ほど幹に突き立てた時、 「!!……キキッ、弱いくせに本当に1人で来たのね」 何かが爆発した音と何かを硬い棒で弾く音が、ほぼ同時に混ざったような音がした。 そしてコンマ1秒遅れて彼らの真西から先程よりも長い、何かが着弾した音がする。 「くっくっくっ……。わざわざ向こうから退治されに来るだなんて、旅団の皆さんは勇気があるのか馬鹿なのか」 また混ざった音が響く、爆発音は要塞内の細い南門から、金属音はそこから弾かれたモノをまた蜘蛛の魔女が己の名を冠す蜘蛛の脚で弾いた音だ。 「……宜しい、この私が直々に終焉を与えてあげるわ」 距離40m、駆け出すパティと蜘蛛の魔女の背で最後の魔女が侵入者へ魔法を施し、次いで門の影から旅団員が先の2発の弾とは違う、丸い何かを投げつける。 だが投げ方は甘い、今度も蜘蛛の魔女が己の腕よりも逞しい脚で叩き落とすように球体自体を破壊した。 「「「「………………!!!」」」」 が、その瞬間、この要塞に居たロストナンバー達は『誰も予想しない事態』に遭遇し。最後の魔女達は遺跡から一時離脱することになる。 ちなみに1つ補足を言わせてもらうなら最後の魔女の魔法は『全て』発動している。現に旅団員―――女の道具である球体も、用意した紐のついた装置は機能を停止し、女の投げたガラス玉も本来の機能を失った『ありえない量の空気を閉じ込めた崩壊寸前のガラス玉』という、極限まで壱番世界の常識に沿った品になった。 それがさらに壱番世界の理に適うように空気を放出、空気砲の原理で広場中央に居た3人は『空気の逃げ道になった上空』に飛ばされただけである。 「……何が起きたんだい?」 そして隠れるために壁の多い壁に居たため、叩きつけられる形でそこに残れた女にもこの奇跡の理由は分からなかったが、とりあえず苗は完全には除去されなかった。 「う~~お店が目の前にあるのに……」 藤枝・竜は本来なら遺跡を捜索するはずだった。しかし彼女は今カールババットの市場を歩いている。それは遡ること20分前、 『こいつが食べたいのかい?なら大通りに行ってみな。あそこなら両替所もあるよ』 それは彼女が通行人の持っていたサンドイッチ状の食べ物に気を取られたからことから始まり、彼女の興味に気付いた通行人は親切にも商品を買った場所を教え、案内してくれた。 だが竜は現地のお金を手に入れていない、一応ナレッジキューブはあれどそれは0番世界の通貨であり壱番世界では使用不可能である。勿論ポンポコフォームを使えるコンダクターでもないので現在教えて貰った店の前で、回転肉焼き器から薫る匂いに胃を刺激させられながら、本来の目的を果たすため情報がないかトラベラーズノートを開くと、 「あれ?」 目の前でメールが届く、差出人はチェガル。 『30番大通りで旅団2人組発見』 「あ、ここから近い」 ここというのは3035番通りのこと、地図で見る限り1本下の通りが30番大通りなのですぐ左に南下すれば旅団達と遭遇できる位置だ。 「あれれ?もう一通来ましたよ」 がここでまたメール、今度はパティからで内容は以下の通り。 『海落ちた遺跡が見える助けて』 「………えええぇ」 ここで説明するなら、まず『海』という単語から彼女らは遺跡から何らかの方法でペルシャ湾、さらに『遺跡が見える』から遺跡の見える範囲であまり遠くない場所に飛ばされたのだろう。そして『助けて』という単語と区切りを付けずに打たれた文体からおそらく今現在も何らかの問題を抱えている意味を含んでいる。と言っても流石に短期間で全てを彼女が理解した訳ではない。 「た、助けに行ったほうがいいですよね?でもどうやって助ければいいんでしょうか……」 だが『助けて』と言うメッセージが来ている以上彼女も助けに行きたいと思っている、が彼女の能力ではいささか救助には不得手だ。勿論有り余る体力は何かを引き上げる方に用いたり、口から出す炎は落ちた衣服を乾かすことも可能だが、その前にどうやって彼女らを探すか、飛行能力もなければ詮索技術も存在しない竜にはこの内容は手が出せないものだ。 「うぅ、とりあえずチェガルさんに相談したほうがいいですよね。確かさっきのメールだと隣の道にいるのでしょうか?」 とりあえず足は件の大通りへ、もしかしたら未だチェガルが先程の旅団員を見張るために未だそこに居るかもしれないと思い、早足で脇道を通り過ぎようとして、 「敵を発見タケ! 自爆するタケっ!」 「ななな!!?」 何かが竜の体に被弾する。慌ててショートソードのフレイムたんで防御体制を採るも、被弾したものは既に爆発し、こっそり竜の髪を可愛らしいアフロに形成する。 「きぃちゃん!にげよう……!」 出口先から、自分よりも声音の高い幼い少女の声が聞こえる。最初通行人に案内された際、この通路では目立つ観光施設が存在しない住宅街のせいか人通りは盛んではなく、女子供が外出している姿はまず見ない。そして先程の襲撃から、ほぼ世界樹旅団の一団だろう。 「ま、まって下さい!私あなた達とお話したいんです!!」 慌てて竜が叫び通路へ飛び出す。 直ぐ右を向けば2人組が2・3m手前で停まっている。背の高いブルカの女性は表情は見えないが、小さく頭巾を着ていない、声の主であろう少女は竜を見つけた瞬間「違う……」と弱弱しく呟く。 「へ?違うって何が違うんですか?」 竜には『違う』の意味が判らない、がこうして止まってくれたのは好機なのでそのまま己のお願いのために2人、正確には正面の足元にいつの間にか彼女らを守るように増えたぬいぐるみも含めた旅団に近づこうとすると……少女がビクリと肩を震わせてから背の高い女性を守ろうと両手を挙げ、ぬいぐるみと少女の間で立ち塞がったのだ。 「え?あ……私は戦いにきたんじゃないですよ?あ、お近づきの印にEKIBENバーガーをどうぞです」 竜は右手のフレイムたんが少女を怯えさせたのかと思い、慌ててショートソードとハンバーガーを交換した。が少女の震えは止まらず、どうあがいても目尻には涙らしきものが浮かんできている。 「わわ、本当に私は戦いに来たんじゃないんですよ!!?!」 「こら、雛を怖がらせるんじゃないグロ!」 「……!」 竜達が慌てる中ぬいぐるみは竜を叱咤し少女の震えは止まらず、女性はただ竜を見つめるだけ、竜には何が雛の琴線に触れたのか判らずどうすればよいのかわからない上、このまま少女が怯え続けたらどうしようと、必死に弁解を脳内模索している所で、 「悪いね、この子は図書館の人間が少し怖いんだよ」 後ろから女性声がした。振り返ると同時に竜の手からチャードル姿の女へEIBENバーガーが渡り、その口布をあげてパクリ…………と躊躇なく食べたのだ。 現れた女の行動にしばし全員が沈黙する。とりあえず雛が助けを請うように視線を向ける以上そこそこ頼れる人物なのだろうか?もしそうなら彼女がこの堂々巡りを打破してくれるのか……と、全員が女の返事を待つように沈黙していく。 「……いい小麦を使ってるねぇ。あと立ち話もなんだしあっちの席で話さないかい?」 結果感想は友好的、そしてどうやら彼女は竜の話を聴いてくれそうだ。 「その鎧は脱げないのですか?」 一方メールにあった通り遺跡組は海中、遺跡北上のペルシャ湾に飛ばされた。 「はっ、巫山戯ているわ。私は最後の魔女よ……!全ての終焉を象徴する私のそヴォッ……!まぁ重厚過ぎるかし……」 「ほっときなさいよ!大体なによ、あんたあの魔法まったく消せなかったじゃない!!」 島の固い地盤ではなく衝撃を分散さらせる海中に投げ出されたため目立つ怪我もない。しかし用意もなく飛ばされ、さらに魔法も封印されているため絶賛遭難中だ。 ちなみにパティは濡れて通気性の下がったマントに空気を包み、その上に4匹のネズミの使い魔を乗せた簡易浮き輪でしのいでいるが、無駄に水を吸うゴシック衣装やここでは重し同然の鎧を着けた魔女2人は絶賛海難中だったりする。 「口を慎みなさいっ、折角魔法で弱ったあなたをわざわざ生かしてあげてるのよっ……!」 「はっ!存在意義の無いクサレ魔女が!!さっきも言ったけど私があんたを使えるからわざわざ生かしてやってるだけなんだから!!」 ちなみに2人の罵り合いはこの後もかなり続いたが、その後海水を洗い落とすなどの作業に追われた結果彼らはギリギリの時間内に遺跡に戻り、彼らを救助したチェガルも捜索時間をかなり喰われたことはここに記録する。 「最後にあたしの名前は安西あんこだ。見ての通りきぃは喋られないし雛は少し話下手だからね、あたしが大体受け答えするよ」 場所は先ほどの会話場所から近い店先のテーブル。ロストナンバー達は軽食と軽い挨拶を終え、あんこが話を切り出す。 「よろしくお願いします!」 竜が2個目のシュワルマを机に置く、ドネルケバブに近い肉と野菜を挟んだ食べ物はあんこがEKIBENバーガーのお礼にとこの店で注文した品だ。彼女もついでに購入したデーツを使った飲み物を持っている。 「まず今安西さん達がここに世界樹の芽を植えていることなんですけど、どうしてそんなことするんですか?世界図書館のチャイ=ブレさんはそんなことしなくても生きてますよ?」 まるで2人が緊張状態では無いからは机の上ではグロ太郎といつの間にか戻ったたけたんはどこからか持ち出した干しぶどうを食べてくつろいでいるが、横では雛が不安げに、きぃはその光景を記録するように2人を見つめてる。 「チャイブレ……はそっちさんのイグシストの話だね」 そんな中表情はチャードルで見えないが、あんこの声音は比較的落ち着いている。 「そうです。そこまでやることないじゃないですか、1つじゃだめなんですか?」 「1つってのは今壱番世界に植えようとしてる芽の数かい?」 「芽じゃないです、今安西さん達の住むところにある世界樹のほうです。そもそも屋久杉とか一万年くらい生きてるんですから、世界樹が100年も持たないっていうのはおかしいんじゃないですか?」 「ん?藤枝はどこで世界樹が100年持たないなんて聴いたんだい?」 「え?あ、それは……貴方達がたくさん世界樹の芽を植えてるからそう思ったんですけど……」 竜の言葉が詰まる。事前の情報では世界樹の分体である苗が壱番世界の情報を吸収して成長すると聞いている。しかしそれは世界中の苗の特徴であり、世界樹旅団の目的ではなく、そこは竜の机上論だ。 「少なくとも世界樹は100年は確実に、さっきのヤクスギよりは生きれるはずだし、わざわざ新しい世界樹を作ることはしないよ」 「じゃぁなんで芽を増やすのですか?世界樹が枯れないなら新たな芽なんて作らなくてもいいじゃないですか?」 竜が身を乗り出す。必要がないなら何故苗を植えるのか直ぐに知りたかったからだ。 「……それは無理な話だね、その根を使って世界樹の要求に応えてるからね」 スピーカーから大音量の肉声が鳴り響く、イスラム教で礼拝時刻を知らせるアザーンのしらべだ。 「あんたたちもロストナンバーだからわかると思うが、あたしらはイグシストに所属することで消失の運命を止めている。その対価にあたしらはイグシストの要求することをこなす」 雛が何かを感じたのか心配そうに竜の顔を覗く。きぃは変わらず、グロ太郎とたけたんは食事を止め話を聴いていた。 「流石に崇拝者じゃないけど、イグシストに所属しているかぎりこの要求は生きるためにこなさなきゃいけない仕事だ。断ればあたしや、所属する知り合いを危険に晒すことになる」 それほどまでにこの話が世界樹旅団にとっては当たり前で、世界図書館とは異なる、ロストナンバーとイグシストの関係としては正しい『常識』だ。 「だからこの仕事を放棄する気はできないよ」 「と……とにかく植えすぎですよ!やりすぎです!」 反射的に立ち上がり反論する竜、が否定ができない。世界図書館も結果的に世界の秩序を守護する存在になっただけで、本来は世界樹旅団と同じチャイ=ブレとロストナンバーの互助組織であることに変わりがないのを知っている。 「植えすぎても実際藤枝たち図書館のやつが間引くんだろう?なら数を増やして成功しや易くするためだ」 「でもその芽が出た場所は大変なことになるんですよ!場合によっては人が沢山けがとかしちゃうかもしれないんですよ?」 「それで身内を危険に晒すのかい?あたしは賛同できないよ」 「でも…………!」 竜とあんこの対話に人形じみたきぃ以外は各々の緊張を高めて往き、雛が危険かと警戒する肩のゴーを優しく撫でたしなめる。 この話はしばらく並行すると思っていた、恐らく所属が違う限り妥協点はこの2人には見い出せなかった。 けど次の瞬間、空中に爆発音が響くという形でこの対話は中断された。 「……そろそろだね」 チェガルもアザーンの肉声を聞いていた。 予定時刻の10分前だ、彼女も遺跡に戻らなければいけない。 結局目的の旅団員を見つけることは叶わなかった。その原因は多々あれど本来の目的は世界樹の苗の撃破、今会えなくてもきっと相手もあそこへ現れると無意識に自分へ言い聞かせつつ、何気なく左を見る。 「………あ」 多くのイスラム教徒であろう人々が遺跡とは別の方角にある寺院に頭を向け拝礼している、旅行者以外は全員だ。その旅行者は自分と正面に1人しかいない。 「あ」 そして目の合った旅行者は髪を2つに分けた茶髪の少女で、頭に心理数が無い。 「「いたぁぁぁーーーーーーーーー!!!」」 そしてほぼ同時に、2人のロストナンバーはお互いへ光線を放っていた。 「あれはキョウかい?まったく何やってるんだか……」 傍から見れば昼間のライトショーに見える。白い曲線と紫の直線の光が交錯し、時に並走し、時には花火のように2色の光を散らせる。その光の中に2つの人間があり得ない方法で飛んでいるのだが、人の居ない遺跡と市場の中継地点にある空き地かそれ以上の距離、少なくとも人間の視力ではまず見えない距離で戦っているのだろう。 「しゃぁない迎えにいこうか。雛、用意できるかい?」 「あ、はい」 「ちょ、ちょっと待ってください!」 チャードルを脱ぎ捨てあんこ達が動き出し始めた、慌てて竜が食い下がろうとするが次の台詞で切り捨てられる。 「悪いが話は終わりだよ。もう直ぐあたしらは次の仕事に入らなきゃいけない、あんた達の仕事もあるだろう。こなさなくていいのかい?」 「…………」 竜はあんこを見据えている、その表情には意思は有れど何処か軸がぶれたように瞳が、揺れているように見える。 「……止めたきゃ仕事をこなしな」 結局竜はあんこ達を足止めしなかった。その顔は下を向いて、正しいことを否定するために、先程から今まで聴いたあんこの言葉を必死に消化しようとしていた。 「…………………………ゥ………………ウウウゥゥゥ…………」 そして数十秒経った頃、獣の呻くような竜の口から上がり、バチン、と頬を叩く音がした。そして竜はあんこ達と同じ方向へ走り出した。 「……あの虫はあんなに大きかったかしら?」 場所はバーレーン城塞内北側、先程の暴発で4分の1が吹き飛ばされた城壁の上でパティは迫る雛達をみて思わず呟いた。 彼女は前の依頼で雛達4人組と相対している。その時のほのぼのとした経験から半場その縁に呆れつつも、半場余裕で応対できるとたかをくくっていたが、早速前回との明確な違いに戸惑いを隠せずにいる。 一番の原因はワームの大きさだ。前回ではツリーを運べる30cm程度の大きさのワームは見たことがあるが、今見えるワームは人を載せられるほど、ゆうに目視でも10mを超えている巨大なものがこちらに迫ってきているのだ。しかも今のパティは最後の魔女の魔法のせいで魔法の類は全て使えない、この状態でもし突撃され、更にきぃの状態が前回と違うなら、彼女の手札が全て無くなる危険があった。 最後の魔法を解除してもらえないか?と、ふと下の最後の魔女へ視線を向けると未だ彼女は蜘蛛の魔女と言い争いが途切れていないらしい。しかしそれでも彼女は旅団側によって修復された魔方陣を、先程と同じ手筈で解除している。 そして魔法が再び解除された瞬間、3人は息を呑む。 「ふ……まさに最後を倒すには相応しい姿ね」 既に苗は10m近くまで伸びていた。 トリネコの木に似た広葉樹は中東主体のナツメヤシへと完全に変態し、1時間前の姿を見なければまるで最初から広場に立っていたかのような佇まいだ。これがあと数分も経たない内にこの要塞を修復し、周囲を蹂躙するようになるのだろう。 「ふふん、只の樹なら切り倒すのは造作もないわ。ちょぉ~っと時間は掛かるけれども」 一刻の猶予はない、未だ修復は開始されていない好機を活かして蜘蛛の魔女は伐採を開始する。しかし樹は先ほどと違い皮も厚く、響く音を聞けば5分位以上は掛かりそうだとパティは予測できた。 最後の魔女はこれ以上苗が巨大化しないよう魔法を施し続けているようだ。それを見てパティは蜘蛛の魔女への加勢を止め外を見張ることに決めた。虫は500m先の乾燥地帯で停止している、いつ動くか判らないからこそ、魔女2人が安全かつ集中して作業できるようにと考えて。彼女は機会を図った。 他の世界図書館が各世界樹旅団との対決に向け画策する中、10分前から始まった空中戦は少しずつ、しかし確実にチェガルの方に軍配が上がりつつある。 チェガルのビームは有限だ、体内の雷の塊が一度低下すれば再び使用するまで運動して再び充電する必要がある。対して少女のビームは無限で、衣装と合わせた紺のステッキや手から一定量のビームを出し続けられる、ゆえにチェガルのようにあくせくと動くことはない。だが逆説的に考えれば少女は移動以外で『あまり動かず』チェガル側が止まれば少女は命中させようと長くその場に停まることが多い。 「キャッ!!」 「まだまだぁっ……!」 先程チェガルは少し長く留まり、それを少女が狙おうと確実に停まったのを確認してから、すぐ走るのではなく背のコンジットボウを取り出し、少女へ撃った。 少女は悲鳴を上げつつ避ける、だがこちらはただのはったり。直ぐさま僅かに残ったエネルギーで急発進、バスターソードを構え懐に飛び込む。 「うわわっっつ!!」 辛うじて少女が反応し、己のビームで無理矢理上体を曲げて直撃を避けた。しかし左の袖は大きく裂かれ、桜模様の端切れが鮮やかに砂漠に映える。この法則を利用すれば1対1ならチェガルは勝利できると確信を持つ。 「ほら、あの時みたいにコーラに変身しないの?というか軟弱男、既視感。お前カップだろjk」 「え?」 ここで少女の言葉が詰まった。 「あの時は仕方がなかった?んな言い訳通じるとか思ってないよね?」 「はい?」 明らかにチェガルの発言が飲み込めていない。 「ちょっとちょっとぉ~~キョウちゃんはキョウちゃんですけど?」 「え、今更別人のふり?せっかく舎弟になれば許してやろうと思ったのに」 「うわ、ぜったい嘘だ」 そしてチェガルも違和感に気付く、それは近づく巨大な疾走音を隅に追いやるほどに、彼女にとって『最悪な』違和感だ。そして疾走音の正体である全長50m近い、SFやファンタジー映画にでも出てきそうな巨大昆虫が湿気の多い砂を吹き飛ばしながら2人の傍に横付けされる。 「キョウ!なに油売ってんだい!?」 「あ、あんこちゃんだ♪」 あんこの台詞にチェガルの何かが折れかけた。 「すぐ行くよ、時間が経っても苗が第3形態にならない」 「え?キョウちゃんちゃんと魔法かけたよぉ?」 「……ちょっとストップ!」 これ以上は傷口に塩をすり込むだけだが、チェガルは確かに聞きたかった。 「あんた、そうツインテールの魔法少女。あんたの変身前の名前は?」 正直対象人物の特性上この可能性は実はあった。彼女は対話でも自分を『図書館』と名付けたり『コーラ』を飲み物だと言っていた気がする、ではなく言っていた。 「キョウくん?キョウくんは『松方・京之清』だけど?」 「………」 さて、1つ話を振るならチェガル・フランチェスカは過去の依頼でカップ=ラーメンという、変身能力を持つロストナンバーに出会った。その仇敵は過去の情報でその変身時間は『数分』と判明している。 この『数分』という時間単位は人の感覚によって様々だが、基本的には5・6分程度で長くて『10分未満』を指す。 「まずカップって『カップ=ラーメン』ちゃん?」 「うん」 「あの丸と棒を足したようなロボットちゃんだよね?」 「そうそう」 「お仕事のときに毎回口調を変えるぅ」 「なにそれ初めて」 「後ちょっと経ったら変身解けるけどぉ、キョウちゃんロボットになった?」 「……………」 さて変身したキョウとは鐘の鳴る中、礼拝の時間に遭遇している。そしてその時間は彼女が要塞前に移動し始めた10分前、更に世界樹の芽が時間になっても変化しきれずこうして『十数分以上』キョウと対峙している。つまり先程のあんこ達の証言も加えれば『キョウはカップが変身していた旅団員の実物』でありカップ本人ではなかった。 「それにカップちゃん今コーラスちゃんといっしょにボロスって場所に行ってるよ」 「そこヴォロス、そしてその情報マジ?」 「マジマジ~♪ 追ってるリューコクが見つかりそーだって」 「……じゃぁ本当に初めて?」 その意味にチェガルの声音がどんどんと低く小さくなっているのだがその様子にキョウが気付くはずも無く、 「うん、きみ初めて♪」 キュートポーズで論破成立。 「ふっ、 ざっ、けっっっ……なあああああぁぁぁぁあああああぁぁぁ!!!!」 結果チェガルのカップ=ラーメン フルボッコ計画は此処で完全に崩壊した。 正直そのロボットの抹殺のためだけに参加したのも同然なのでダメージはでかい。 しかし旅団側の仕事には全く関係のない話なのである。 「それじゃ痴話喧嘩も終わったことだしキョウを返してもらうよ」 「あ、じゃぁ~~ねぇ~~」 「ちょっと!待ちなさ……!」 最後のセリフはあんこから放たれたM651催涙弾によって潰された。弾は壱番世界の兵器のため最後の魔女の影響を全く受けていないCSガスがチェガルの喉を焼き焦がす。 「ゴー君、遺跡にいって」 必死に痛みをこらえるチェガルを放置し、雛の号令でゴーが再発進する。もう遺跡までは1kmにも満たず、旅団側を止める者は誰一人居らず、世界樹旅団全員がバーレーン要塞に集結していった。 「来たわ、早く避けて!!!」 パティが叫んだ瞬間、彼女の居た城壁が派手に崩壊した。勿論出現したのは世界樹旅団だ。 「キキッ、あんた死んでなかったの?」 「そっちも無事じゃないか、悪いがそこをどいてもらうよ……!」 会話は最低限、直ぐさまあんこが催涙弾を撃ち出すやいなや、蜘蛛の魔女は弾かず最後の魔女を抱え跳ぶ。 「懐かしいねぇ。昔はこうやってあんたの背中を守ってあげたんだっけ」 「……っ」 蜘蛛脚を活かした跳躍、それはがれきを駆け上がり、未だ残る壁に爪を引っかけ時には垂直に進みただでさえ難しい弾道をかく乱する。 勿論あんこは次の弾を込める間、本来は追撃の手はずが整っていたのだが、 「あれっ?キョウちゃんビーム出ないや」 「グロロロ!?グロ拳がまた使えないグロ」 「あれタケ!この前使えなかった時にいた魔女がいるタケか!?」 半分が最後の魔女の魔法のせいで、己の特殊能力が使用不可能になっていた。 「ゴー君、木をたおさないように走って!」 だがファージであるゴーを操る雛と、雛の蟲型ファージを借りて操るきぃには効果が薄いのか、雛は10mを超える巨大な虫に乗り、きぃは100匹近い甲虫を背に乗る雛を護るように纏わせて、魔女達を追跡する。 「キョウたちはきぃを守りな。あたしはあっちを追うよ」 「任せるグロ」 「あいあいさ~~」 あんこが魔女達を追いかけ、戦闘能力を失ってしまった残りは壁に沿いコントロールのために舞うきぃを中心に円陣を組み防衛に回る。が、悲しいかな彼らは防衛に関しての経験が不足であった。 「ひゃんっ!」 真後ろから飛んで来たダガーにキョウが悲鳴を開ける。思わず上げた悲鳴に他が反応した隙に4匹のネズミがきぃへと襲いかかる。 「きぃをまもるグロ!」 「よしタケ!さっそく……」 グロ太郎が最初に反応、きぃを守ろうと小柄ながらネズミ達を払おうとし、たけたんもそれに参加しようとして、 「あ!!爆弾きのこ!!またしても!!」 隠れていたパティが飛び出し、自分の下僕に飛びかかろうとしたタケタンを叩き落す。 彼女はあの時確かに城壁から落ちた。しかしハーフリング由来の小柄な体と、ダガーを複数使用することで落下衝撃を最小限にし、最後の魔法で無力化した彼らを確認してから、きぃのサポートを無力化するために襲撃を試みた。 「止めなさいよ!」 だが先程叫んだキョウが復活した。そして持っていたステッキを振り上げる。 しかしキョウの動作も、パティの回避行動も、魔女達の逃走劇も、バーレーン城砦に響いた音に全員が止まった。 「…………木が」 正体は世界樹の苗が倒れた音だ。倒したのはガスで足止めを食らったチェガルと、やっと追いついた竜のが2人同時に体当たりして樹をへし折った。 切り口は蜘蛛の魔女がギリギリまで作ってくれた、その切り口があったからこそ幹は根元から中心近くまで割れ、割り箸のように下半分を裂いた状態になっている。勿論樹としての活動など、誰が見ても不可能だと判断できた。 「あんこさん、ちゃんと私も『仕事』こなしましたよ……!」 あんこが振り返るとへたり込んだ声の出ないチェガルと声の主の竜が居た。全速力で、途中からうずくまっていた重装備のチェガルを引っ張ってからの体当たりで、流石に体力のある彼女が疲れるほどだったのだろう。そしてまだ疑問があれどどこか充足した表情に、ふとあんこの頬が緩みそうになる。 「魔女さん……!」 蜘蛛の魔女が前触れもなく最後の魔女を話放し、体勢もとれずに城壁から最後の魔女が落下した。それを見た敵のはずの雛があわててゴーを降り駆け寄ろうとして、その行く手を最後の鍵で遮られる。 「あ!あの……私、魔女さんに」 「……死にたくなければ退がりなさい。今日の私は気分が宜しく無いの。幾ら貴方達でも、手元が狂って……殺してしまうかも知れないわよ」 もう次の言葉は出せなかった。それでも言いたげに口をぱくぱくとしていたところにゴーの上からグロ太郎達の声が掛かり、慌てて雛が皆の場所へ戻る。 「……追わなくっていいわね?」 図書館側は誰も追撃はしなかった。彼らの目的は全員世界樹の苗の駆除であり、世界樹旅団の撃破が目的ではなかったからだ。 「問題なかったし、これでいいかなっと」 去りゆく世界樹旅団を載せたゴーが小さくなっていくのを目にしながらふとパティは思い出す。 。o〇(あれがきいちゃん??なんか、印象が違うんだけど……) パティの知るきぃは明るく歌が得意で雛と同じ年頃の少女だった。しかし今回あった彼女はそこから10年の歳を経て代わりに感情を失くした、日本人形のような姿に変貌していた。 彼女は知らない、きぃが世界図書館によってあのような姿になったことを。それによって雛のように図書館の人間を怯えるよう人が出来たことも知らない。 最後に今回の依頼は、図書館側は世界遺産の一部破壊、世界樹旅団側は苗の破壊と痛み分けに終わったが…………どちらにも怪我人の出ない、じつは最も平和的な解決をしていたことは未だ誰も気付いていなかった。 【Fin】
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