京都市内の一角、加茂川と高野川が合流し、鴨川と呼ばれる河川に変わる合流地点に沿って大きめの道路がある。 加茂川の橋を渡ると低い石垣に囲まれた神域へと通じる入り口があった。 活気のある町並みのド真ん中にぽかりと口を広げた石垣の切れ目に足を踏み入れると、糺の森と呼ばれる原生林へと抜ける。 観光用の通路の左右に並んだ木々からは人工的な森を感じさせるが、一歩踏み入れればエノキやケヤキなどの落葉樹が密生しており、 ほんの数百メートル先には夜中にも車が途絶えぬ大通りがあるとは思えぬ程の独自の異空間を作り出していた。 長い参道を超えて大きな鳥居を超えたところに賀茂御祖神社、通称下鴨神社が存在する。 年に一度、ここを出発する行列があった。 平安時代の衣装に身を包み、馬、輿を従える古の祭事であり、今もなお根付いている葵祭である。 斎王代と呼ばれる女性の蔵人所陪従、命婦、女嬬、童女、騎女、内侍、別当、采女。 主役が女性の華やかな貴族の祭り、という趣ではあるが、 斎王代に選ばれた女性は婚姻の証である鉄漿をつけ、ほとんど婚姻の儀式を彷彿とさせる。 その行列は下鴨神社を出てから加茂川に沿って約8kmほど北上し、上賀茂神社へと至って例祭がクライマックスを迎えるのだ。 行列の主役級、斎王代の輿に世界樹の苗が植えつけられていた。 その苗は生長する。 行列が下鴨神社を出て、進むほどに輿の木は伸びていく。 最初は赴きのある風流な輿の隅っこから木の枝が出ている程度だった。 一歩、一歩と進むたびに輿の木は生長していく。 やがて、上賀茂神社へと辿りついた頃、輿は大きな木をくりぬいた西洋の馬車を彷彿とさせるほどに、樹木に覆いつくされていた。「今年の輿は木に包まれているな」「あら、あれじゃまるで西洋の馬車ね」「担当は何をしてるんだ。趣向を考えて……」 輿は伝統的に使用されているものであり、観光客の発した「西洋の馬車」などに見えるはずがない。 しかし、輿そのものが木に覆われているのは誰が見ても明らかである。 その斎王代の乗る輿が上賀茂神社の境内へ差し掛かり、鳥居の真下をくぐった時、ばん、と言う大きな音が立った。 鳥居の下、輿から伸びる実の陰から朽ち果てた様相の兵士が歩み出た。 よろよろとした動きで錆だらけの矛を両手に構える。 彼の後から一人、もう一人、また一人。 観光客でごったがえした観衆は余興だと思ったに違いない。 だが赤錆の浮いた矛が一人の男性の心臓を貫いたのを合図にパニックへと流れ込んだ。「彼らは?」「まつろわぬ民ですよ。この上賀茂神社は京の街を囲った土囲の北限にあります。つまり、ここから中は都、ここから先は北夷の済む未開の地。呪術的に守護されたこの古い都の端には当然、無念を晴らそうとここまで来て呪術に阻まれ彷徨う妄念が拭き黙ることになります。そうでなくとも、この祭りは血生臭い」「ほう? 貴族の風雅な祭りだと聞いていたが」 ヌマブチの問いかけに三日月灰人は薄く眉間に皺を寄せた。「風雅? 中央から女性を敵の住む辺境へ差し出すとしか見えない儀式が何故? 起源についても妖しいものですよ。疫病に大凶作で苦しむ最中に『4月吉日を選び馬に鈴を懸け、人は猪頭(いのがしら)をかむり駆馳(くち)して盛大に祭りを行わせた』ら、たちまちの内に納まったといいます」「どうして凶作で馬を走らせて祭りを行うのでありますかな」「あなたは軍隊の出身ですから、想像がつくのではないですか? 都市国家が凶作に悩んだらどうするのか」「近隣地域への略奪、か」「はい。大凶作は今とは違います。一度おきれば復興する人員もなく、次の年の実りを得るための種籾はなく、数年にわたりダメージが残るでしょう。ではどうしたか? 馬につけたのは鈴ではなく錫、猪頭は戦で使う派手な兜でしょう。女性を差し出した祭列が赴いたはずなのに、武装した者が『駆け巡って』その結果『たちまちの内に五穀が実り』……要するにこのあたりに住んでいた原住民、あるいはこのあたりまで迫っていた敵に対し、婚礼を申し込んで油断させておき、騎馬兵が略奪を行った。……と、いうところでしょうか。大きくは外れていないと思いますよ。祭りにしているのは礼を慰めるためか、あるいは毎年の儀式で怨霊を封じ込めるためか。全く、為政者は末端を無視しますね」「嘆いても始まらん。それより何故、下鴨神社に植えた世界樹の実をここまで運ばせて、ここで芽吹かせたのでありますか? 園丁の指示では世界遺産に植え付けろ、という事だったはず」「先ほどの賀茂御祖神社は世界文化遺産のひとつ。ただし、この賀茂別雷神社も世界遺産です。ついでにこの祭りの出発地点は登録されていないものの、京都御所は世界遺産ではないものの、園丁のいう条件を十分に満たしています。それらを回ってくれる輿があるのなら利用しない手はありません。そして、ここ、都のはずれには制圧され、あるいは騙し討たれ、無念の死を遂げた怨念がつもりつもっているのでしょう」「そういうものでありますか、さて、そろそろ始まるな」 葵祭の見物客が阿鼻叫喚のパニックに襲われていた。 何しろゾンビのような腐乱した体に錆びた鎧、錆びた矛、それらが一心不乱に襲い掛かってくるのだ。 行列に加わっていた武人も中身は学生のアルバイトである。本来、命をとして斎王を守護する指名を帯びた守りの要もすでになく、 木に覆われていた輿そのものが一本の大木と化し、神域を汚す者達を生産し続けている。「それにしても」 ヌマブチが己の背後にいる四人の少女を一瞥する。「ダージリン中隊のシルバーパール小隊、いや、元小隊か。彼女達まで付き合わせる必要はなかったでありますな」「世界図書館が気付く、と思いましたからね。そうすると4、5人の戦闘型ツーリストと争う必要がありました。無駄な準備だったとは思いませんよ。世界樹旅団のご好意でもありましたから」「魔法少女大隊の一小隊が隊長不在で戦力が浮いているから使え、というあれか」「はい。それにしても申し出があった時、やけにあなたの表情が輝いていたのはいいとして」「輝いていないであります」「何故、シルバーパール小隊のチーム名を変えようとしたのですか? しかも、ええとたしかチーム名がまじっく☆ぐ……」「忘れた」 真顔で言い切るヌマブチ。 その後ろで壊滅したシルバーパール小隊の生き残り四名が表情を崩さないまま、額に汗を流す。 リシー・ハット曹長と長手道メイベル伍長は目と目でお互いを見つめあい、小さくため息をついた。======== 予言された未来は、世界樹旅団によってもたらされる。 世界司書が知った出来事はまだ不確定な未来だ。しかし、このままでは確実に訪れる出来事でもあるのだ。 壱番世界各地の「世界遺産」をターゲットに、何組かの旅団のパーティーが襲来することが判明した。かれらは「世界樹の苗」と呼ばれる植物のようなものを植え付けることが任務のようだ。その苗木は急速に成長し、やがて、司書が予言したような惨劇を引き起こす。 言うまでもなく……「世界樹の苗」とは、世界樹旅団を統べるという謎の存在「世界樹」の分体だ。 だが、この作戦を事前に察知したことにより、世界図書館のロストナンバーたちは、苗木が植え付けられてすぐの頃に到着することができるだろう。周辺の壱番世界の人々を逃がす時間は十分に確保できるはずだ。 むろんそのあとで、苗木は滅ぼさねばならない。苗木は吸い上げた壱番世界の『歴史』や『自然環境』の情報をもとに反撃してくるであろうし、旅団のツーリストも黙ってはいない。 司書は、引き続き、戦うことになるはずの、敵について告げる。========「そういうわけで!」 エミリエが声を荒げる。「世界樹の苗は葵祭りの輿に植えつけられているんだよ。御所を出発して、下鴨神社に立ち寄って、お祭りを通して養分を吸い上げた苗は、このまま上賀茂神社に到達したら、そこで成長する養分を得たら世界樹は爆発的に成長しちゃって観光客を思い切り巻き込んだ大混乱がおきるんだよ! それから一週間くらいでそのあたりはファージの闊歩するなんかこうあまり口にしたくないよーなヒドい有様になるんだよ。ヒャッハーとか言ってバギーを走らせてるお兄さんでさえファージに食い殺されて世界樹の養分にされてしまいそうなくらい無法地帯になっちゃうんだよ。……あ、でもたぶん、みんながついた頃には輿が世界樹に乗っ取られたくらいで、お祭りもまだやってて、爆発的成長も遂げられていないから、上賀茂神社の鳥居をくぐる前に決着がつけられるよ」 エミリエがこほんと咳払いする。 それまで声をはっていたのに、いきなりトーンが弱くなった。「それからね、今回の相手なんだけどぉ。三日月灰人さん、ヌマブチさん、それと魔法少女大隊、、、と言っても一小隊四人だけ。 この六人が相手で、葵祭の行列にコスプレして紛れ込んでいるか、観光客のフリして行列にあわせて歩いているか、それとも屋台でも出してたりして? ええと、よくわからないんだけど、とにかく壱番世界の住人に分からないようにしてると思うから、 こっちも『一般人の目に付かないように』そして『なるべく、お祭りの邪魔をしないように』して、葵祭の輿から世界樹の苗だけを焼却する事が目的です。 もし、手荒な真似をするときは、穏便に収集つけられるように言い訳とか用意しておいてね。 なお! 輿だって参列してる人の衣装だって文化財だから、生半可な言い訳は通じないから本当に、本当に気をつけてね!========!注意!イベントシナリオ群『侵略の植樹』は、、同じ時系列の出来事を扱っています。同一のキャラクターによる『侵略の植樹』シナリオへの複数参加(抽選へのエントリー含む)はご遠慮下さい。========
「某は隊士の犠牲の上の成功を是とは思わん」 魔法少女大隊を背にヌマブチは淡々と言葉を紡いだ。 危険であれば逃げろ、主命の遂行はあくまで可能な限りの目標であり己の保身を最優先とせよ。 敵前逃亡、降伏などの命令違反はやむをえない場合、これを不問とする。 私語、私用は任務に支障をきたさない程度に抑えること。 およそ、軍人として相応しくない方針を次々と口にする。 聞きなれない方針説明に説明を聞く者達もどういった反応を持って返せばよいのか途方にくれていた。 ヌマブチの服装は警備員、魔法少女大隊も民間警備会社然とした警備員の制服に身を包んでいる。 警備員の一隊が移動中に見えるが、彼らの歩みの五歩先を行く灰人は白シャツにスラックスと地元民を装った格好だった。 上賀茂神社境内を流れる奈良の小川として著名な浅い川にかかる石橋の上を、世界樹旅団の六人は淡々と歩く。 やがて、魔法少女大隊の四人が持ち場へと向かうと、ヌマブチは涼しい顔で斎王桜を眺めていた灰人に声をかけた。 「珍しい格好でありますな?」 「牧師服じゃ悪目立ちしますしね。今回の作戦はなんですか?」 「真理数のない者を探す。これはあちらも可能でありますから、索敵能力の勝負でありますな。そちらは?」 「そうですね、今回は少し派手に行こうと思います」 眼鏡の位置を直し、既に準備は終わっていますよ、と灰人は薄く笑った。 ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ 「……いた!」 世界図書館、世界樹旅団ともに真理数を持たないものを探すという操作方法を用いていた。 そんな索敵合戦を一歩出し抜いたのは小竹だった。 遥か上空を飛ぶセクタン・オウルフォームのメーゼは高空から獲物を狙う猛禽類の視野を持って人ごみを睨みつける。 擬態のため、緑で適当に塗られた姿が痛々しいメーゼは上空を旋回して地上を見つめ、 航空写真の範囲と、精密スコープの精度を持って素早くサーチを行い、その視覚を小竹とそのまま共有して認識する。 高空からの捜査が誰よりも一歩先じた要因だった。 「よっしゃぁ、メーゼをオウルフォームにしておいて正解だったー! 神社鳥居付近の警備員四人、これ多分、魔法少女のやつら。んで馬小屋の前にいるのがヌマブチさん!」 「え? え? ……あ、本当だ」 応じたのは小竹の横でデジカメを手に周囲を探る咲夜。 彼女もまた真理数を頼りに人ごみの人間を探っていた。 小竹が指差した方向にカメラをズームさせると、ディスプレイに馬小屋の白馬にニンジンセットを与えているヌマブチが映し出される。 「ど、どうしよう」 いきなり知己に、しかも重要人物に会うとなると心の準備ができていなかったのか、咲夜はきょろきょろと所在無さげにあたりを見渡す。 そんな咲夜をさておいて、小竹は、ずかずかと無防備に前進し、鳥居をくぐると白砂の敷き詰められた数十メートルの参道を早足で歩く。 左右にだだっぴろい芝生があり、道の左右にはテキ屋が列を成していた。 参道を抜けた所に古びた厩があり、そこで白馬を見つめていたヌマブチの肩にポンと手をおく。 殺気も敵意もなく。ただ見かけただけの友人に挨拶するように。 「どーも」 「……小竹か」 「久しぶりっすねー。時にこんな報告書が出回ってンですけどご存知でした?」 コピー用紙をひらひらとさせる。目に留まった文字は、まじっ……☆……。 ヌマブチはふっと目を背ける。 「問答無用、再度捕虜の幸運があると思うな」 おちゃらけた空気を断つ勢いで睨みつける。 周囲の人間がただならぬ気配を察して遠巻きにしはじめるのが気配で分かった。 とは言え、服装上、祭りでふざけた学生を警備員が叱咤している、程度にしか思っていないだろうが。 「おー、怖えぇ。んーで、どうします? 今ここでヤりあっちゃいますか? 別にいーですけど、俺、ヌマブチさんとタイマンは負けそーだから仲間来るまで待ってもらえません?」 「某は今回は裏方だ。……とは言え、これ以上、某の前にいるなら」 「わーったわーった。わかりましたよ。んじゃ、もう一つだけ。マン・ファージって元に戻せんですか?」 「知らぬ。これ以上の馴れ合いをする気はない」 「……そーですか、あ、でも人ごみでいきなり炎あげたりしねーって思ってたけど正解っすねー。いやー、もしやられたらどーしよーかと」 これ以上の詮索を聞く気はないと言わんばかりに、ヌマブチは持っていた皿のニンジンを馬の前に差し出す。 ものの二秒で皿は空になり、ヌマブチはそのまま神社の奥へと歩き出した。 「いーんすかー? 決戦はもっと入り口の方にある鳥居だって聞きましたよー?」 小竹の問いに返事は無い。 歩くこと数十メートル。 境内の中、双葉姫神社と呼ばれる山上の神社へと続く小道で立ち止まり、振り向く。 どうやら小竹と咲夜はヌマブチを追っては来ないらしい。 しかし、と思考を巡らせる。 彼がいた。仲間と言った。どうやら予定よりも早く嗅ぎ付かれた、ということらしい。 これから自分自身がどう動くのか脳内でシミュレートを繰り返す。 「……やれやれ、魔法しか癒しが無いでありますな」 ヌマブチは小さく嘆息してみせた。 ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ 野良猫に腕を引っかき傷だらけにされながら、連治はそれでも猫を胸に抱いて人ごみを歩く。 「あー、この猫の飼い主を探しているのですが」 これは口実である。 野良猫に100円ショップで買った首輪をつけて、人ごみをかき分ける口実にしているだけなので連治がどれほど探そうとも飼い主は見つからない。 ただ、行列の到着を待つ群集の中を無理矢理歩いて移動するための小道具として用意したため、その目的にはそこそこには役立っている。 時間は過ぎて行く。 到着予定時刻から三分ほど遅れ、ピッ、ピッ、ピッと警笛の音がした。 先導する警官の姿の後で、平安時代の服装に身を包んだ行列が上賀茂神社へと差し掛かる。 伝統的な意匠をこらした筈の輿は、巨大な木の根にまとわりつかれたように茶色の触手に覆われていた。 「葵祭、か。懐かしいな」 行列と、禍々しい木の根の輿を交互に見て連治は呟いた。 自分の世界でも同じ祭りがあった。 壱番世界は連治の出身世界と全く同じに見えて異なる世界だという。 観光ではなくあくまで猫の飼い主探しの勢いで輿の進路へと歩み出る。 途端、警備員に周囲を囲まれた。何かを言う前に行列の進行ルート上から追い出されてしまう。 「ちっ、仕方ねぇな」 連治が毒づいて、警備員の腕を振りほどく。 次に意識を集中させ、目を閉じ、次に開いた時、連治は輿の上にいた。 観光客が一斉にどよめく。 自分はさぞかし不審者に見えていることだろう。 「突然の無礼、御許しを」 言葉をかけたのは己の足元、輿の中にいるであろう斎王代へ、である。 「すぐに片付きますので」 抜き身の銃を構え、二発、三発と適当な根へと打ち込む。 『根絶えろ』 言葉を吹き込んだ弾丸は確かに命中した。 後は勝手に朽ちていく筈だった。 周囲が己に注目しているのを見て取り、再度、恭しく頭を下げる。 今度は観客に向けて、である。 ぱん、っと小さな爆発音がして、どこからともなく紙ふぶきが舞った。 その直後、連治の姿はすでに輿の上にはない。 やや離れた位置で、己の『奇術』に驚く群集を見て、彼は満足気な笑みを浮かべる。 ――が、群集が見ているのは彼らの足元だった。驚いた姿のものもほとんどいない。 不審者が輿の上で派手なパフォーマンスをしたというのに、群集が見つめているのは己の足元。 奇術師としては面白くない、というより、観客の行動が不可思議だ。 連治の耳の奥で「命令」が響く。 ≪ 足 を 見 ろ 自 分 の 足 を 見 ろ 今 す ぐ 自 分 の 足 を 注 視 し ろ ≫ 「足を?」 反射的に足元を見て、次になんとなく顔を上げる。 「……なんだ、ありゃ?」 高空からつっこんでくる「何か」が視界に入った。 ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ 時間は、連治が輿へのパフォーマンスを行うほんの僅か前に戻る。 リーリス・キャロンがいたのは高度2000メートルの高空だった。 少女は壱番世界へ来ると同時に一向から意図的にはぐれ、上空へと飛び上がった。 そして、今までそこで様子を伺っていたのだ。 彼女は0世界の絨毯屋――とは名ばかりの店で手にいれた玩具を、――高性能爆薬を手のひらで弄ぶ。 今回の作戦にあたり、少女が選んだ「玩具」だった。 ――世界図書館から受けた指令は要するに「輿に鳥居をくぐらせるな」「祭りの邪魔をするな」「人にバレるな」ではある。 リーリス的に解釈すると、輿を破壊すればいい、となる。 エミリエが物凄く止めていた気がするが、まぁ、どうにでもなるだろう。 人目につかない、というのは難しい。ならば精神感応を使えばいい。 輿を破壊した後、何事もなかった、と『魅了』して指示してしまえば祭りも中断されないだろう。 完璧な計画である。 そして、足元、はるか下の方に行列がやってくる姿が見える。 「さぁて、空中ダイブのお時間ね。……今回は世界樹の苗木をどうにかするのがオシゴトだけど」 少女は禍々しく笑みを浮かべる。 「どうせ斎王代も侍従も旅団の変装だろうし……。御輿もニセモノよね? なら、服も御輿も偽者なんだからどうでもいいものよね、うふふふふ」 言い訳を考えるのはほんの無聊を慰める遊戯。 「世界樹はチャイ=ブレと同質らしいの。なら、世界樹を食べたらギアの封印は外れるかしら? 試す価値は物凄くあるわよね?」 誰が聴いているわけでもないが、リーリスは中空に向けて問いかける。 返事は帰ってこないが、返事を求めている相手もいない。 ――やがて。 重力に任せて、頭から一直線につっこむ。 まっすぐに。 まっすぐに。 まっすぐに。 「足を見ろ」 落下しながら声ではなく、精神感応で地べたを這いずる幾万の群集に命ずる。 塵よ、ゴミのような存在どもよ。 足を見ろ、自分の足を見ろ、今すぐ自分の足を注視しろ。 貴様らに許される自由意志はない。 さあ、自分の足を見ろ、自分の足だけを見ていろ!! ごっ、と鈍い音がして、リーリスの体が弾丸のように輿へと突き刺さる。 「なっ!?」 連治の知覚では隕石の落下に見えただろう。 不意の衝撃にヌマブチが考えたのはグレネードやミサイルのような爆発物。 咄嗟に魔法少女大隊へと指示を投げかける。 「魔法少女大隊! 魔法障壁展開であります!」 「「「「まじかる☆うぉーる!!!」」」」 輿を四色の淡いオーラが覆った。 直後、どむっ、と空気が弾ける音がする。 圧迫した空間内で何かが爆ぜた。 「くっ……」 悔いに満ちた声をあげたのはリーリスだった。 どちらでもいい程度の予想だったが『あたってしまった』のだ。 C4爆弾を抱えて世界樹に侵食された御輿に高空から落下。 余勢を駆って苗木と輿を掘り進め、中央部で物理的な爆発を起こす。 自爆の形になるが構わない、どうせ自分に物理力は効かない。 『どうせ、斎王代も侍従もニセモノ、御輿もダミー、それなら壊しても問題ない』――そう考えた。 残念ながら、その予想があたってしまった。 旅団の用意したダミーの輿、斎王代も侍従も人形。 世界樹の輿までニセモノ。 「やっぱりダミーか。そう、そういうことね。なら、本物はどこにいるというの? ……応えろ」 魔法少女大隊に眼力を向ける。 が、魔法障壁とやらに阻まれ、魅了の効果は十分なレベルに到達しない。 「よし、逃げろ」 ヌマブチの指示で、魔法少女大隊は四方に飛ぶ。 「くっ」 (もっと塵化の力が戻っておれば、こんな玩具に頼らずに済むものを。この程度の障壁に阻まれぬものを。こんな塵どもに惑わされぬものを。許さんぞ、チャイ=ブレ) リーリスの瞳が赤く輝いた。 「おい、お前! 何してやがる!」 「え?」 「輿に斎王代が乗っていたらどうするつもりだった。周囲の侍従は! それだけじゃねぇぞ、あんな爆発起こして観光客を道連れにするつもりだったのか!?」 「だってリーリス生き物なら治せるからいいかなって思って」 「治せ……る?」 「とにかく、ニセモノだってのは分かってたの。爆発だって対策済だったのよ」 ニセモノだと思っていたのは本当だ。 根拠はなかったし、まぁ、仮にホンモノでも良かったけど、という本音は口にしない。 「それより今のがダミーってことは本物の輿がどこかに隠れてるってことじゃない? それを探さないと」 「……ったく、祭の邪魔するなって言われただろ……。世界図書館に戻ったら後でお説教だ」 「ええ、いいわよ」 連治の宣言に気楽な返事をし、リーリスは酷薄な笑みを浮かべた。 「で、あんただ」 連治が振り向くと、ヌマブチが踵を返した所だった。 彼の背に声を投げかける。 「戻りたいなら今が機じゃねえのか。苗木を排除してくれるのならこちらも協力・庇護を惜しまない、それでどうだ?」 「……何故、某に?」 「あっちよりあんたの方がまともに見えたからな」 応えず、ヌマブチは歩き去って群集に紛れ込む。 「フラれたな」 連治が小さく肩を竦めた。 ころころとリーリスが笑う。 「口説き方、なってないわ。後でお説教ね」 「へいへい」 ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ 「ヌマブチは二重スパイの可能性が高い。欺くなら今です。彼が世界図書館のメンバーを庇う素振りを見せたら、攻撃してください」 魔法少女大隊リシーとメイベルに灰人は囁く。 他の二人にはもう話はつけたと彼は言った。 そのために今から『イベント』を起こすとも。 魔法少女大隊は身内同士の抗争に慣れていないようで、素直に「はい」とは答えなかったが、 万一、ヌマブチが敵方に付くような二重スパイであれば攻撃を行う事を了承した。 灰人にとってはこの程度の約束で十分である。 下拵えはできた。 灰人の計画通り、世界図書館の攻撃の第一波は偽者へと注がれた。 だが本物の輿と隊列は今も下鴨神社付設の糺の森で、本物の斎王代をはじめとするスタッフ達と共に隠されている。 「では、どうぞ」 はるか遠くの上賀茂神社にいる灰人が手を天に掲げると、糺の森に潜んでいた侍従達が虚ろな瞳のまま一斉に立ち上がった。 偽者の隊列が攻撃された事で、世界図書館の妨害があることは確定したといえる。 ならばそのための計画に変更するまでだ。 本物の隊列が、そして本物の世界樹の苗木が糺の森を発つ。 正式なルートではなく、出町柳から加茂川を北上する最短ルートで。 常人の隊列速度ではない、観光用のため優雅を旨とする隊列と違い、一直線に上賀茂神社を目指して移動する。 鳥居へと輿を投げ入れれば、世界樹の苗は爆発的に成長するだろう。 そうすれば役目は終了だ。 「それでは、クライマックスと行きましょう」 灰人はどこからか取り出した狐の面を被る。 ゆらり、と姿が掻き消えて、その体は上賀茂神社大鳥居の上へと立った。 「今から未曾有の惨劇が起こります。死にたくなければお逃げなさい!」 灰人が大声で告げる。 見物客達は訝しげに彼を見つめる。 どうせ一言では信じないでしょうから。と灰人は小さく微笑った。 「綻(ホコロビ)」短くと己のセクタンの名を呼ぶ。 フォックスフォームのセクタン、綻が灰人の肩に現れ、一声鳴くと彼の周囲に炎をまいた。 あたり構わず、火炎弾を投げかける。 アスファルトの上に、土産物屋の看板に、大木に。どんっ、と火柱があがる。 パフォーマンスではない事を理解したか、あるいはやりすぎなパフォーマンスだと理解したか。 群集は一歩、二歩と後ずさる。 警察を、警備員を、という声に向けてなおも火炎弾を打ち込んだ。 「まだ出てきませんか? 世界図書館の連中も思ったより薄情ですね。では……」 鳥居の上から見渡し、小学生程度の男の子を一人、己の腕へと転移させる。 「聞こえているでしょう? 出てこないならそれでも構いませんよ。お忘れですか、私が針を用いフォンス氏にした事を。この子はどんなファージになるんでしょうね」 鳥居の下へ真っ先に駆けつけたのは小竹、その横に咲夜。 「ああ。灰人! いた! ちくしょう、人目がある!」 「人目?」 小竹の絶叫に咲夜は首をかしげた。 「人目がなかったら思いっきりブン殴ろうと思ってですねー!」 「ふぅん?」 応じたのはリーリス、いつのまにか小竹の後ろに立っている。 「してあげようか? ……みんな、逃げろって」 「え、マジでそんなんできるんですか!?」 ええ、いいわよ、とリーリスが赤い瞳を浮かべて微笑だった。 《逃げろ、振り返らずに、ここから離れろ。何もない。ここでは何も、なかった。記憶するな》 リーリスは再び広範囲に語りかける。 元々逃げ出そうとしていた群衆である。 リーリスの広範囲の精神感応の後押しで、我先にと境内から走り出した。 元々、鳥居前から境内の外へは大きな道がある。それに立ち止まる者もない。 迷子の子供から犬猫に至るまで、最優先事項はここから離れること。 「くくく、変な被害は出したくないと。便利な能力ですね」 「おいおい、祭の邪魔するなって言われただろ……。これ以上ねぇってくらい邪魔したな」 呆れ顔の連治が無人の屋台からたこ焼きを一つつまんで口に放り込む。 「あら、あなたは逃げないの?」 「今の、精神操作の類だろ? なら効きにくいんだ」 連治は「なんでかは知らないけどな」と付け足して二個目のたこ焼きを頬張った。 「2、3、4……。なるほど、四人ですか。では」 灰人は腕の中にいた赤子を前方へと放る。 連治のトラベルギアがチェーンへと代わり、子供を受け止めた。 墜落を免れた小学生はお礼も言わず、一目散に外へと走り出す。彼もまた、リーリスの精神感応に操作されているのだった。 おそらくは何も記憶に残さないだろう。 「今なら何しても、誰も見てないわよ?」 「……だ、そうよ?」 リーリスと咲夜に煽られ、小竹がぴしっと灰人に指を突きつけた。 「ドララーとしてフォンスさんの分。そして、腐った性根を直す分! きっちりオトシマエつける!!」 ……。 ……。 その姿のまま時間が流れた。 「だーかーらー、早く降りてこい! 殴れないでしょーがっ!? 竜化したら鳥居ごと壊しそうだし!」 「やれやれ、制限が多いと大変ですねぇ。鳥居、この国の神を示すものの一つ、ですね」 灰人が笑うと彼のセクタンが鳥居に複数の火炎弾を放った。 立派な朱色の鳥居は焼け付いて燃え上がる。 見る間に炎上し、尋常で無い炎が早くも炭化させて行く。 「神域でなんてことを……!」 目を見開いて抗議したのは咲夜。 だが灰人は高笑いをあげて受け流す。 「私は私から全てを奪った神を憎む。神を祀る象徴など燃え落ちてしまえばいい」 セクタン、綻の火炎弾が四人へと迫った。 それぞれが火炎弾を避けて、あるいは受け止めて、それでも咲夜の言葉は止まらない。 「神をも恐れぬ行為をなぜ!?」 「神が人に何をした? 信仰に報いぬ虚構の偶像を神と呼べますか。まして血塗られた歴史を尊び、生贄のごとき儀式を毎年要求するような者を」 「斎王代様は生贄じゃない。それに、京都は私の故郷と縁ある地、その地の神を冒涜することは許しません」 「生贄ではない? なるほど、認識が代われば元は忘れ去られると? それでは本末転倒です。歴史を紐解くと血塗られた謂れがあるものですよ。それは悲劇の繰り返し。神に慈愛などない! いや、なかった!! もはやこの世に希望などない、全て焼き尽くしてしまえ!」 「悲劇から生まれた神なればこそ、慈愛を兼ね添えた神格となるの! かかってくるなら相手になりますよ! 汗拭きタオルの殺傷能力、舐めないでください! 逮捕されたって手が滑って汗拭きタオルがあたっちゃいましたって弁明してみせます!」 「あー……そっか」 ぽりぽりと後頭部を掻くのは連治。 「すみません、なんか俺ら蚊帳の外なんですが、解説してもらっていいですか?」と、これは小竹。 「一神教と多神教の違いってやつだな」 「……と、言いますと?」 「俺の世界と違ってるかも知れねぇから自信はねぇが神道は神が多い、八百万(やおよろず)ってのは「すげー多い」って意味だ。お嬢さんが言ってるのはそっち。悲劇を経て神となったものが同じ悲劇を繰り返さないよう守護の神になる事は多々ある。例えば、国を負われた大国主が国家守護の神になったり、学で出世したものの悲劇的な最後を遂げたから学問の神として君臨する、ような。だから神を否定ってのは基本的にない。金運成就の神を信仰していても貧乏神につかれたら貧乏になる。金運成就の神様のせいじゃねぇ」 「んじゃ、灰人さんの方は?」 「あっちは一神教だな。もともと万能の神がいる。その神様は古今東西において一人だから、例えば酷いことがあったら神が何らかの意図でそういう事をしたということだ。しかも万能だからうっかりなんてありえねぇ。神に金運成就を祈って貧乏になったら神はそういう結論をくだしたって事で、そういうやつが神なんだからもう神など信じない。ってロジックになる」 「……なんか分かったようなわかんないよーな。っつーか、皆、詳しいッスねー」 「……」 神談義はリーリスにとってあまり心地良いものではないが、神への冒涜はやや小気味良い。 だがそれも退屈には違いない。なら、用事を済ませる方向に向かうべきだ。 「それより、ねぇ?」 小竹と連治の裾を引き、境内へ続くアスファルトの道を指す。 なんらかの術で視界に入っても見逃す程、存在感が希薄になってはいるが、指を指されれば分かる。 輿と隊列が、神社へと最初の一歩を踏み入れていた。 「どうやら、あれ、本物っすねー。っつーか、最初のがダミーだって本物見たらよくわかるわー」 軽口を叩いてはいるものの、輿へ纏わり付いた禍々しさがまったく異なる。 今思えば最初の輿は木枠でできたそういう意匠物と言えなくも無い。 だが、こちらは邪気とも瘴気とも言うべき怨念がヘドロのような粘着性を想起させる濃さの気体となって輿を取り囲んでいる。 エミリエの予言で見た「まつろわぬもの」の怨念だと直感できた。 なるほど、これが実体化すれば地獄から黄泉帰った死者の兵団のできあがりというわけだろう。 迫ってくる輿に小竹が飛びついて、取り付いた。 「苗木を握りつぶせ……るってレベルじゃねー!?」 担ぎ手に輿を左右に振られ、バランスを崩す。 「見苦しいですよ」と、灰人。 彼はいつのまにか輿の上に立ち、荒ぶる輿の動きに振り落とされず、さらに輿へ捕まる小竹の手を踏みつけた。 「うぐぉっ?」 輿に捕まっていた左手が振りほどかれる。右手一本で捕まる小竹を灰人が見下ろした。 「あと二十メートルほどで鳥居の、ああ、鳥居は焼け落ちてしまいましたね。これではどこから神域かわかりません。さて神社のどのあたりまで行けば世界樹の苗が育つか、試してみませんか?」 「くぬおおおおおー!!!」 「小竹さん!」 咲夜が叫ぶ。 「ちとてん、あの苗木食いちぎれる? ……あ、無理? やっぱり?」 暴走する輿へ飛び移る度胸はセクタン、ちとてんには無いようだった。 連治の手には銃がある。 「借り物の能力だが、退魔銃だ。こういうのに効果アリらしい……試したことはねぇけどな」 輿へ狙いをつけ、連射する。 命中した箇所を中心に、ぐわん、と瘴気が霞のように散った。 「時代は変わったんだ。大人しく歴史の中で眠ってろ」 2発、3発。 それでも前進を止めない輿の前、焼けた鳥居の真下でリーリスが待ち構えていた。 「植物なんて幹の中心と根が枯れれば終わるもの。両方殺して食べてあげるわ。あははっ!」 輿が猛スピードでリーリスへと追突した。 同時に世界樹の苗が猛烈に枯れて朽ちる。 「なっ!」 「……怨念、それも千年以上も溜め込んだ恨みつらみ、負の感情。あははっ、あはっ、おいしーいっ!」 輿は横転する。 倒れた輿からそれでも立ち上る残り滓へ、連治の弾丸が何発も何発も打ち込まれた。 素早く咲夜が中を確認し、斎王代の女性の生存を確認して安堵のため息を吐く。 「うわああっ!?」 輿から振り落とされた小竹が苦悶の絶叫をあげる。 リーリスに追突した衝撃で輿から振り落とされた小竹は歯を食いしばって痛みを堪える。 「くっ、こ、こんなもん!」 同じく転げ落ちた灰人は素早く立ち上がり叫んだ。 「私には失うものなど何もない。全て燃えてしまえばいい!」 ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ 「そこまでであります」 いつのまにかヌマブチが銃口を向けていた。 彼の背後で四人の魔法少女大隊が杖を構えている。 いつでも魔法攻撃に移れるということだろう。 連治は咲夜の前に立つ。リーリスは不気味な笑みを浮かべたままだ。 「今回は某達の戦力不足、灰人殿と共に退こうと考える」 ヌマブチの言葉に、小竹以外の三人が一斉に小竹を、そして彼の横で立ち上がる灰人を見た。 鳥居は焼け落ち、輿は横転して世界樹の苗木が徐々に生命力を無くして来ている。 「交換条件であります。そちらは灰人殿を帰す、こちらは鳥居と輿の修復を行う」 「どうやって?」 「ま、魔法で」 「なんか「魔法」って言う時、声が上ずりませんでした?」 「そんなことはない」 否定するヌマブチ。 小竹は「どうする?」と後ろを振り返った。 咲夜は鳥居に輿の修繕、それに斎王様や隊列の方々の安否が気にかかると。 連治は「祭りの邪魔すんなって言われたしなぁ」と。 それぞれに返答を返す。 リーリスは他の事になんの興味もないかのように、世界樹の苗木に手をあてて口元に笑みを浮かべたままだ。 「で、オレは灰人さんを一発殴りてーって思ってんですけどー」 「そうすると交換条件は不成立でありますな」 「あ、あの」 咲夜がいかに輿が、鳥居が、斎王様が大切なものかを述べる。 空気読めよ、と言わんばかりに連治が見つめる。 どんどん空気がじっとり湿り気を帯びてきた。 なんとなくこの場にいる全員に責められている気がして。 「えー、断ったらオレ、ワルモンじゃないですかー。やだー!!」 小竹は苦虫を噛み潰したよーに苦い顔を浮かべた。
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