オープニング

 ナラゴニアが0世界に出現する数日前。
「ドクター、見せたいものとは一体」
 機械兵隊長の高機動型・ケンプはドクタークランチに呼び出され地下格納庫を2人で歩いていた。
「すぐに分かる。とりあえずこれに目を通したまえ」
 クランチはケンプの問いに答える代わりに1冊の仕様書を手渡した。
「ええと……大樹動力炉(トリツ・ジェネレーター)搭載、粒子盾全周囲展開可能……AAL(対空レーザー砲)22門、L-MLC(大型ミサイル発射口)6門、L-IBC(大口径イオンビーム砲)4門、主砲はMHPGBC(魔導重加圧式ギガブラスターカノン)……どこの化け物ですかこれは」
「私自らが設計した機動要塞だよ。それよりもだ、諸君らは確かヴィクトリカを探していた。違うかね?」
 ヴィクトリカ。アマゾンではカノンのコードネームで呼ばれていた長距離砲撃型機械兵は、作戦から帰還後程なく行方不明となっていた。「探さないでください」の書き置きに大騒ぎしてからもう随分経っている。
「本人たっての希望だ、見たまえ」
 クランチが最後の隔壁を開ける。
「こ、これは」
 そこにはまさに今仕様書を渡された機動要塞が鎮座していた。2人に気付いた要塞からは、懐かしい声。
「あ、隊長ー、お久しぶりです」
「……まさか、ヴィクトリカ?」
「そーですよー。前回の戦いがあまりに悔しかったんでドクターにお願いして改造して貰いました」
「所在の隠匿を含め全て本人の希望だ。よほど先の一戦が悔しかったのであろうな」
「なんということだ……」
 思わず天井をあえぐケンプ。
「試作段階の技術まで使って貰えたんですよ。もう前線のピンチに何も出来ない私じゃありません」
 そうじゃない、そういう事ではないのだとケンプは心の中でため息をついた。

 クランチが去った後の話によると、前線部隊が広域電障の一撃で壊滅したのが相当応えていたらしい。その非人道性から身内では評判が悪い彼にあえて協力を依頼するため家出などという手段を取り完成までの隠匿もお願いしたそうだ。
 重い足取りで部隊の皆に経緯を説明した後、ケンプは補給型のディルにオーバーホールを頼んだ。不甲斐ない自分をどうにかしたい気分だったのだ。



「例えば、それは砲撃衛星」
 つけっぱなしの映像端末には要塞級機動兵器の姿。
「高々度に位置する旅団の機動要塞を撃破してください」
 ナラゴニア出現に大騒ぎになっている中、エアメールを見て図書館に集まったロストナンバー達にリクレカは告げた。

 攻撃力も防御力も、ついでに待機高度も高い事から地対空攻撃は望み薄との判断がされた。全くの不可能ではないが壱番世界において地上から衛星軌道へ正確かつ高威力の攻撃が可能な程度の能力が要求される。
 提案されたのは、高度100kmにおける直接戦闘。
「敵要塞の規模、形状より取り付いてしまえば反撃が少ないと予想されます」
 取り付くまでが大変なのは言わないお約束だ。
「攻撃目標は2点。背部の動力炉と主砲です」
 映像にマークが付く。主砲は見たまんまだが動力炉らしき場所には機械要塞には不釣り合いな巨大な木の瘤が映されている。これが動力炉らしい。世界樹が絡んでいるのだろうか?
 動力炉を破壊すれば遠からずエネルギー不足による機能停止に陥るだろう事が告げられた。主砲破壊がターミナルに対する攻撃力を削ぐ事になるのは言うまでもなかった。ただし主砲を破壊した場合、ターミナルをイオンビーム砲の射程に捕らえるため急降下する事が予測される。
「要塞の武装は主砲の他にイオンビーム砲・ミサイル・レーザー・ビームバリアが存在します」
 出身世界によっては馴染み深いだろうそれらの兵器は主砲のような凶悪な威力は有していないらしい(とはいえ艦砲級ではある)。
 兵装位置の表示から、レーザー以外は前方に火力を集中する形になっているらしい。これらは回避なり防御するなりすればいいとして、肝はバリアの突破方法だろうか?
「バリアの発生器を破壊出来れば楽なのでしょうけれど、残念ながら位置は不明です」
 あるいは減衰覚悟でバリア外から攻撃すべきか。バリアの特性としてはエネルギー兵器には滅法強いが実弾等は完全防御に至らないとのことだ。その下の装甲を貫けるかどうかは別として。
 ちなみに主砲は複数の技術を取り入れた強力なビーム砲である。ターミナルに直撃すれば大打撃は免れない。そしてもう1つやっかいなのは。
「バリア系能力による正面防御はほぼ不可能と出ました。主砲を正面からまともに受け止めた場合、出力にもよりますがバリアごと地面に叩き付けられるか貫通されるかのどちらかの結果になると予言されました」
 なんとも恐ろしい兵器だ。相対距離の関係で直接交戦に突入するまで数発は飛んでくる事が予想されるが、防御が難しいにもかかわらず回避すればターミナルが危険である。あるいは何か手があるのだろうか?
「なお、護衛として機械兵の空戦型が付いています。そちらも気を付けて下さい」
 こちらの装備は対空ミサイルと機関砲、まんま戦闘機だ。
 ちなみに0世界上空はどこまで行っても地上とほぼ同じ環境らしい。酸欠や温度対策等の必要はなさそうだ。

 説明を終えて要塞攻撃隊が飛び立ったのは、旅団からの大規模砲撃が敢行される直前の事だった。


「こちらベルク、切り離し無事完了。いい眺めですよー」
 ヴィクトリカはベルクのコードネームを与えられ、0世界上空100km地点に展開していた。
 主砲のMHPGBCは理論上ナラゴニアの気圏内で120km先の中規模軍事施設を一撃で壊滅可能な長射程兵器だ。
 前回砲撃を防がれた経験から防御フィールド対策も施してある。正面から受け止めてられても重加圧によりフィールドごと押し返し、反射フィールドはビームを長くする事で相殺エネルギーが収束現象を引き起こし一点突破する仕組みになっている。あくまで理論上は。
 その威力故、味方上陸後は巻き添えを避けるためいつもの砲撃管制に従う事になっている。
 逆にその威力故、上陸前砲撃では主翼の一端を担う事にもなっていた。
 背中の木の瘤、大樹動力炉がうなりを上げる。世界樹の実を消費し生み出されるエネルギーは全て主砲に回された。砲身に黒紫色の光が集まる。
「こちらベルク、主砲充填率100%、いつでも行けます」
『空戦隊一時退避、砲撃隊時間合わせ。……3、2、1、撃てェーっ』
 ナラゴニアから大量の砲弾・ロケット弾が放たれた数瞬後、放電に縁取られた黒紫色の極太ビームが主砲から放たれた。
 本来ならターミナルに大打撃を与えただろうそれは、しかし。
「地上から高エネルギー反応!?」
 ターミナルから放たれた強力な閃光。斜めに衝突した2つの光は互いの軌道を逸らし、ヴィクトリカの主砲は轟音と共にチェス盤に着弾した。音の割にチェス盤に目立った損害は見られない。逆に閃光は護衛航空部隊を何体か消し飛ばしていた。
「相互干渉……威力は同等って事!? 隊長っ」
『こちらでも確認した。タスラベル隊に当たらせるがあまり期待しないでくれ』
「プラットフォーム直結型ではないようです。カウンターは散らした方がいいかと」
『了解した。砲撃隊にデータ送ってくれ』
 予期せぬ強力な攻撃に緊張するヴィクトリカ。しかし同時に闘士もかき立てられた。
(半端な覚悟で改造してもらってない。今度はやらせないんだから!)
『こちらラプター。ベルク、急上昇する敵影を確認した。狙われているぞ』
「了解。出力には余裕あるから危なくなったら一回戻っちゃって」
『そっちこそ油断するなよ』
 空戦隊と連絡しつつ、ミサイル発射口を開く。半分は上昇中の敵部隊、半分は地上砲の予測位置へ大型ミサイルを発射した。


 大樹動力炉に秘められた仕掛けは、当のヴィクトリカを含めまだ誰も知らない。クランチ他数名を除いては。


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!注意!

イベントシナリオ群『進撃のナラゴニア』について、以下のように参加のルールを定めさせていただきます。

(0)パーソナルイベント『虹の妖精郷へ潜入せよ:第2ターン』および企画シナリオ『ナレンシフ強奪計画ファイナル~温泉ゼリーの下見仕立て観光風味~』にご参加の方は、参加できません。

(1)抽選エントリーは、1キャラクターにつき、すべての通常シナリオ・パーティシナリオの中からいずれか1つのみ、エントリーできます。

(2)通常シナリオへの参加は1キャラクターにつき1本のみで、通常シナリオに参加する方は、パーティシナリオには参加できません。

(3)パーティシナリオには複数本参加していただいて構いません(抽選エントリーできるのは1つだけです。抽選後の空席は自由に参加できます。通常シナリオに参加した人は参加できません)。

※誤ってご参加された場合、参加が取り消されることがあります。
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品目シナリオ 管理番号2143
クリエイター水華 月夜(wwyb6205)
クリエイターコメントこんにちは、水華です。イベントシナリオのお誘いに参りました。
旅団という事で再び機械兵です。原形を留めてないのが1機いますが。

こちらでは高々度に位置する要塞の破壊が目標です。
空戦になるので飛行能力は必須です。
飛べない方には飛行装備の貸し出しもありますので申し出て下さい。
さすがは0世界というか、まともなのからカオスなのまで色々あるとかないとか……。
地対空で落としたい方もいるかもですが、主砲はともかく動力炉は背中ですので難しいかと。

内容はほぼOP通りですが、主砲に関しては難しいかもなのでヒントを。
現在判明しているのは
・正面から受け止めると力負けする
・回避すればターミナルに危険が及ぶ
・斜めに当たった閃光(冬城WRシナリオの『レディ・カリスの首飾り』)で互いの軌道が逸れた
の3つです。
1つめがほぼNG、2つめもかなり危険です。
3つめは強力兵器のぶつかり合いのようにも見えますが……?
最初の2つ以外の防御手段から色々考えてみて下さい。

なお大樹動力炉の仕掛けはあまり気にしないで下さい。
ある種のフラグですが作戦上の障害にはなりません。
文字数に余裕がある場合のみ予想してみてもいいですが、対処はほぼ不可能です。
仕掛けが明らかにならない可能性も一応ありますが……。
あ、仕掛けのせいでPCさまにバッドステータス付くような事は起きませんのでそこは安心して下さい。

それでは皆様のご参加、お待ちしています。

参加者
蜘蛛の魔女(cpvd2879)ツーリスト 女 11歳 魔女
"氷凶の飛竜" ゾルスフェバート(cnhm9881)ツーリスト 男 34歳 翼竜の野生児
リジョル(cvdp7345)ツーリスト 男 20歳 (戦略級)魔術師
モービル・オケアノス(cbvt4696)ツーリスト 男 15歳 戦士見習い

ノベル

「ちょっと、あんた空飛べるんでしょ!? 私を背中に乗せなさいよ! あいつらギャフンと言わせてやるんだから!」
 図書館から駆けだした蜘蛛の魔女は"氷凶の飛竜" ゾルスフェバートに目を付けた。
「ノル、ヘイキ。オチル、シラナイ」
 ゾルスフェバートの視線は既に上空に向けられていた。瞳には闘志が漲っている。
(アイツ、タブンツヨイ。デモ、オレモットツヨイ)
「じゃあリジョルもご一緒させてもらうよ。少々大荷物だがね」
 いつの間にか沢山の魔導書を用意したリジョルもゾルスフェバートの背に乗った。
「トブ。ツカマル、シッカリ」
 ゾルスフェバートが翼を広げる。
「落ちるわけないじゃん。私を誰だと思ってるのさ」
 蜘蛛の魔女は自分とリジョルを支えるように糸を出した。

 ゾルスフェバートが飛び立って1分も経たないうちに、ナラゴニアからの長距離砲撃がターミナルを襲った。
「先制攻撃か。でもやらせるわけにはいかないんだよ」
 3人とは別行動をとったモービル・オケアノスはギアの両手剣と火炎ブレスで適度に砲撃に対処しながらターミナルの端へと向かっていた。
(ぼくだって、やれるんだ)
 身震いを一つして、翼を広げる。ターミナルから滑空しようとして、上空の異様な気配に気付いた。何か強大なエネルギーが降ってくる――!!


「グルル……」
(アイツ、コウゲキツヨイ! アイツタオス、オレモットツヨイ)
 高エネルギー同士の衝突を目の当たりにし、さらに闘志を焚きつけられたゾルスフェバートは力強く翼で空気を叩くとぐんと勢いよく上昇した。背中で蜘蛛の魔女が叫ぶ。
「ちくしょー! 離れた所でふんぞり返ってないでこっちきて勝負しろよこのビビリ野郎のポンコツどもがぁ!」
 ビビリも何もそういうコンセプトの機体と戦術である。蜘蛛の魔女には全く関係ないことだが。
 一方、同じくゾルスフェバートの背に乗るリジョルは双方の砲撃を冷静に分析していた。
「あれだけの威力を生み出せる物はそう多くはないだろうね。大方……ナレッジキューブといったところかい?」
「ふむふむ、それでそれで?」
 興味を示した蜘蛛の魔女が相槌を入れる。
「旅団側には世界樹の実というナレッジキューブと同じような物があると聞いたから、おそらくそれを使っている」
「おお、なるほど」
「つまり高密度の情報同士がぶつかり合って反れたってところだろう」
 他と戦闘空域が離れていることもあり、この時点ではレディ・カリスの首飾りの情報は入っていなかった。それでも双方のエネルギー源を言い当てたリジョルの観察眼は鋭いものがある。もっとも、少なくとも要塞主砲は情報を各種エネルギーに変換してから放っているので100%正解というわけでもないが。
(動力炉を見てもしやと思ったが、正解かな)
 リジョルが持参した大量の魔導書は、動力炉が木製であることから世界樹絡みと読んで用意した物だ。どうやら出番はちゃんとありそうだ。

 上空からの飛来音に頭を上げると、大型ミサイルが数発接近していた。
「ジャマモノ、コワス!」
 いち早く反応したゾルスフェバートが氷のブレスで凍結させ、ただの落下物と化したそれを大剣で破壊する。
(ん? 迎撃が少ない)
 この高度、ちょうど空中戦が行われている辺りではなかったか? そう思い下を見たリジョルはぞっとした。
「アブソリュート・フレア!」
 とっさに吸熱魔術を展開した。瞬時には必要かどうか分からなかったが、もしもの場合ゾルスフェバートがダメージを負うのは可能な限り避けたかった。
 直後、3人は強烈な上昇気流で遥か上空まで吹っ飛ばされた。

 圧倒的な暴力は、脳裏に何かを呼び起こしそうになる。
 飛び立とうとしたモービルは、エネルギーのぶつかり合いとその後の轟音ににわかに立ちすくんでいた。
(ううん、今は)
 ひるんでいる場合じゃない。大きく首を振って、モービルは今度こそチェス盤へと滑空。
 ちょうどその時、近くで強烈な爆発が起きた。チェス盤上の敵に放たれた特殊弾頭ミサイルが大量に炸裂したのだ。一瞬で数万度も加熱された空間は煙幕を飲み込み強力なキノコ雲を形成する。それはつまり、強烈な上昇気流が発生していることを意味する。
(よしっ)
 モービルはトラベラーズノートでミサイルの情報を確認すると、意を決してその上部へと突っ込んだ。気流を捉え上空への急加速をかける。
 空戦隊が一時退避していた事もあり、特に妨害を受けることなく空戦域を突破することが出来た。


「ああっ、もう、なんなのよ~」
 リジョルのただならぬ気配にとっさに糸で自分達をぐるぐる巻きにゾルスフェバートに縛り付けた蜘蛛の魔女は、半分くらい目を回しつつも毒づいていた。
「強力なミサイルか。まあ結果オーライだね」
 ノートでその辺りの情報を確認したリジョルは周囲を見回す。ターミナルの大きさから考えて、上空2桁前半キロといった所だろうか。爆発の原因確認ついでにレディ・カリスの首飾りの情報も確認して2人に伝えた。
「アブラ、ニオウ。テキ、クル!」
 体勢を立て直したゾルスフェバートめがけて対空ミサイルが数発飛んできた。さっきのより小さい。
「いっけぇぇぇゾっくん! 敵を纏めてフルボッコにしてやんなさい!」
 いつの間にかあだ名で呼ばれていることは意に介さず、ゾルスフェバートは氷のブレスを吐き出す。近くの数発は凍り付き、後続も冷気で目標を見失った。
「リジョルも加勢するよ。ホーミングミサイル!」
 続いてリジョルが破壊魔術で対空ミサイルを撃ち落とした。空中にいくつもの火球が生まれ、その合間を縫って空戦型機械兵が飛んできた。
 機関砲にだけ気を付けながら、慌てず先程と同じ連携で次々と迎撃する。撃ち漏らしは蜘蛛の魔女が糸で絡め取っていた。
「その気になればジェット機でさえも捕縛できる私の糸を甘く見ない事ね!」
 まさに小型のジェット機に相当する空戦型は動きを封じられた所で次々と撃ち落とされた。

『アロウズリーダーよりベルク、ドラゴンがやられた』
「え、ちょっと早すぎ。まさか突っ込んでないよね?」
『……そのまさかだ』
「あーもう、いくらドッグファイト得意でもファンタジー相手に接近じゃ不利だってば。こっち囮にしていいからアウトレンジに徹して」
『了解した。一旦補給に戻る』
「はーい、なるべく早く戻ってきてね」

 長距離弾頭を使い切った要塞護衛部隊は補充のため一度ナラゴニアへと戻った。途中でモービルと接触したがお互い移動を優先していたため、交戦は短距離弾頭を火炎で撃ち落とすにとどまった。

「さてと、充填率100%……隊長、第2射行きます」
『了解。こっちは立て直しで後退している、遠慮無くやってくれ』

 陸戦支援にチェス盤からの上陸地点を狙った主砲は、程なく要塞攻略隊に察知された。
(任せて大丈夫だよね)
 別行動を取っているモービルは他の3人に任せて上昇に専念した。

「デカイノ、クル!」
 敏感に気配を感じ取ったゾルスフェバートは大きく息を吸い込んだ。
「さて、リジョルもやりますか」
 リジョルは持参した魔術書から情報を抽出、元々が高密度なそれをさらに凝縮する。使用された魔術書は白紙となってしまっているが別に問題はないらしい。
 蜘蛛の魔女は糸を盾状に展開する準備をした。
 飛んできた高エネルギービームは3人の直撃ルートではなかったが、
「ブチヤブル、コオリツケ!」
「予測通りなら、これで……!」
 ゾルスフェバートが巨大な氷錘を吐き出し、リジョルは凝縮情報弾を撃ち放った。
 目視で直撃ルートで吐かれたゾルスフェバートの氷錘は、発射時の反動と重力や空気抵抗などで僅かにずれて命中した。主砲正面と接触した先端部はあっという間に溶けて消失したが、残りはビームの側面に食い込んで押し込もうとしている。
 そこにリジョルの凝縮情報弾が炸裂した。情報同士の干渉こそ起こらなかったが、側面からの高エネルギーに加え情報の氷属性部分がゾルスフェバートの氷錘を強化した。
 結果、主砲の軌道は数度ほどずれた。高度を考えれば着弾点は相当ずれたことになる。
 そして今の応酬で主砲のある特性も判明した。
「ツヨイ、マエダケ。ヨコ、ヨワイ!」
 正面突破力を重視した主砲は、横からの力に弱かったのだ。


(ちょ、ドクター試作ってそういうことですか!?)
 最初の高エネルギーはともかく、ロストナンバー2人だけで砲撃軌道を逸らされたことにヴィクトリカは動揺した。
 その後何発か応酬はあったものの、蜘蛛の魔女が軌道に対して斜めに蜘蛛糸の盾を張った上でゾルスフェバートとリジョルの連係攻撃でことごとく軌道を逸らされた。
(後で調整してもらわなきゃ……来たっ)
 やがてことごとく砲撃の邪魔をしてくれた3人の姿がイオンビーム砲の射程に入る。
(この距離なら……行くよっ)

「このくらいーっ」
 蜘蛛の魔女が叫びながら、蜘蛛糸の盾でイオンビームを受け止める。
「グオォォッ」
 その間に威力を溜めたゾルスフェバートのブレスが蜘蛛糸ごとビームを包み消滅させる。
 主砲と違い明らかに自分達を狙ったビームだが、こちらは大気で減衰されるため地上まで届かないので回避してしまえば問題なかった。ゾルスフェバートが不規則な軌道を取って狙いを散らし、回避しきれないものは蜘蛛の魔女とゾルスフェバートの連携で凌いだ。
 要塞の姿は、大分大きくなっていた。高さが高さだけに時間がかかったが、もう少しでこちらからも攻撃できるだろう。
 ふと、下から飛来音がした、見ると大型ミサイルが飛んできている。今まで自分達を狙っていた空戦型の長距離弾頭とは大分異なる。
「ニオイ、チガウ。ナンダコレ」
 ゾルスフェバートは今までのミサイルと異なる匂いに少々戸惑った。今飛んできているミサイルには火薬臭さがない。
 手の空いているリジョルはトラベラーズノートを開いた。新たなメールを確認すると、その中に強力なミサイルで要塞を狙うという内容があった。
「気を付けろ、ミサイルは要塞狙いだ。衝撃が来るぞ」
 リジョルが叫ぶ。
「えっ? どーゆーコト?」
「さっきのと同じミサイルだ。おそらく急速な熱膨張による衝撃波の後に炸裂点へ向かう強力な風と上昇気流が出来る」
「もっと分かりやすく」
「つまりドーンと押されてギュイーンと吸われるわけさ。あと熱い」
「よっしゃわかった」
「ワカッタ、ダイジョウブ」
 何が起こるか分かれば対処もしやすい。火薬臭さがないのはナレッジキューブを使用しているからだった。
 蜘蛛の魔女は自分とリジョルの体を固定し直し、リジョルは爆発に伴い吸い寄せられた時の攻撃に備える。
 ゾルスフェバートはミサイルを意識しながら不規則軌道な飛行を続けた。

(大型ミサイル? このくらいでっ)
 ヴィクトリカもミサイルに気付いたが、レーザーで撃ち落とせばいいと考えていた。数は多いが普通の対空弾頭なら数発食らっても大丈夫だろう。
(そーいえば何だったんだろ、さっきのキノコ雲)
 ふとそんな疑問を抱いた時、空爆部隊から通信が入った。
『スピリットリーダーよりベルク、強力なミサイルが上に行った。狙われたら気を付けろ』
「もう来てるよっ。ただの対空弾頭じゃないの?」
『さっきのキノコ雲の原因がソレだ』
「ええっ!?」
 ヴィクトリカは慌てた。さすがにあの威力を直撃されたらただでは済まない。ゾルスフェバートそっちのけでミサイルを狙ったが、タイミングが少々遅かった。
 ビームの直撃に連鎖爆発を起こすミサイル。リジョルの読み通り衝撃波に続く吹き返しと上昇気流は3人を一気に接近させたが、ヴィクトリカにはそれどころではない異常が起きていた。
(くっ、バリア展開……えっ、電磁パルス?)
 指向性放熱と衝撃波をビームバリアで軽減したものの、同時に発生した電磁パルスはバリアを逆流し内部へとダメージを与えた。結果、表面上はあまりダメージを受けていないにもかかわらず一時的な機能停止を余儀なくされたのだ。


(攻撃が止んだ?)
 吸い寄せられた所へ集中砲火を浴びせられると考えていたリジョルは何の障害もなく接近出来たことにいささか拍子抜けしていた。
「ねー、なんか要塞静かなんだけど」
「キンゾク、コゲクサイ、ニオイ」
 爆発の規模の割に要塞は大したダメージを受けていない。炸裂に近い側面装甲が多少溶けてはいるがそれ以上のダメージは見られない。無傷の動力炉は淡い光を発していた。
「ふむ、EMP効果でもあったのかな?」
「なにそれ」
「近くの雷で機械が壊れるのと同じような現象だよ」
「てことは、チャンス?」
 既に飛び道具の射程には捉えている。
「だね、一気に仕掛けよう」
 言われるまでもないとばかり、ゾルスフェバートは溜めていたブレスを吐き出す。蜘蛛の魔女は糸を丸めて玉にした物を背中の蜘蛛足で次々と投げつける。リジョルは破壊・召喚魔術のミニメテオで小型隕石を呼び出す。散発的に飛んでくる長距離弾頭はあっさり蹴散らされた。
 要塞へ一斉に浴びせられる攻撃、しかしそれらは直撃する前に再び張られたバリアで大幅に減衰された。
(あ、あぶなっ)
 ギリギリで機能停止から回復したヴィクトリカは、そのまま多数のレーザー砲門を3人に向けた。
「うわっとぉー!?」
 レーザーの単発威力はビームよりも弱く、蜘蛛糸の盾だけで防ぐことが出来た。少しでも負担を軽くするためリジョルは薄い霧を周辺に展開した。
「レーザーを防ぐには障害物を作ってエネルギーを無駄遣いさせてやるのが効果的なのさ」
 煙箱の中で光が見えやすくなるのと同じ原理である。横に漏れる光が増えれば進行方向へのエネルギーは減衰する。それでも弾幕のように乱射されるレーザーはこれ以上の接近を困難なものにした。
 ゾルスフェバートは再びランダムな軌道を取りながら要塞の背後を取ろうとする。そうはさせまいとヴィクトリカもレーザー弾幕を張りながら向きを少し変えた所で、地上からの高エネルギー反応をキャッチした。
 レディ・カリスの首飾り、出力65%プラスアルファである。
(しまった、主砲クイックチャージっ!)
 接近戦にエネルギーを割いていたヴィクトリカは慌てて主砲にエネルギーを回す。一時的に弱まったバリアを通過し機体を揺らす攻撃も気にせず、機体の向きを戻しながらギリギリまでチャージしてから螺旋状の光に対して主砲を放った。同時に残りのエネルギー全てをバリアに回す。
 しかしいかんせん緊急対応だ。出力15%の主砲ではわずかな減衰にしかならなかった。そしてプラスアルファの要素が牙をむく。
 今回の対空砲撃には、ナレッジキューブの他に運を司るギアも投入されていた。僅かな機体回頭で一瞬見えた動力炉を狙ってコンマ以下の単位で僅かにずらして撃たれた首飾りの閃光は、主砲とほんの少しだけ斜めに当たったことにより微妙に軌道がずれ、ちょうどその位置のバリアがブレス+蜘蛛糸玉+小型隕石の同時命中でかなり薄くなったタイミングだったためほとんど減衰されずに突破。偶然バリアジェネレータにかすりながら機体を貫通し、ほんのちょっとだけ動力炉もかすって上空へと消えていった。運もここまで来ると凶器である。
(バリア出力低下25%、動力炉出力低下5%……ああもうキッツイ)
 内心愚痴りながら、しかしそうすぐに次弾は来ないだろうと再びゾルスフェバート達に意識を向けるヴィクトリカ。この時、背後への警戒を完全に失念していた。


 激しい戦闘を横目に、モービルは密かに要塞よりも高い位置にまで達していた。要塞が3人に気を取られている隙に背後からの急襲をしかけようと、狙いを定め一気に急降下をかけた。

「さっきより光が弱くなってない?」
「そうだね、バリアの発生装置に何かあったのかな?」
 首飾りの閃光にゾルスフェバートの背に伏せていた2人は要塞のバリアが弱まっていることに気付いた。こちらにとっては好都合だ。
「アイツ、ヨワッタ。カツ、オレ」
 一時離れていたゾルスフェバートは再び要塞に接近する。再びレーザー弾幕が襲いかかるがそれはそれ。背後に回りにくいなら先に主砲を破壊してしまおうと離れている間に決めていたのだ。
 蜘蛛糸の盾を張りながら接近。主砲めがけてブレス、糸玉、小型隕石を集中的に浴びせかける。ヴィクトリカはバリアのエネルギーを前方に集中させて対抗した。
(くっ、ちょっ、やばっ)
『ベルク無事か? ミサイルじゃラチがあかん、突っ込むぞ』
「え、ちょっと駄目だってば。あっさり返り討ちにあうよこいつら相手だと」
『しかしだな』
「駄目なものはだーめ。私の目の前でやられないでよ結構トラウマなんだからー」
『……分かった。生きて帰るぞ』
「もっちろん。私帰ったらドクターに補強してもらうんだから」

 無線で死亡フラグっぽいやりとりをしていることなど知らない3人は攻撃を続ける。時折飛んでくる長距離弾頭はリジョルがホーミングミサイルで叩き落としているので脅威にならない。バリアと干渉する上に距離が近すぎるためイオンビームや大型ミサイルは飛んでこなかった。それでも主砲はなかなか破壊できない、それだけではなく。
「あれ? さっきあそこ少しへこませてなかったっけ?」
「うん? いつの間に戻って……自動修復か!」
 よく見ればさっき少し傷ついたはずの動力炉は傷跡無く淡い光を発している。バリアも僅かではあるが光の強度が増してきていないだろうか。
 だが、あえて3人は主砲への攻撃を続けた。主砲自体へのダメージはある程度回復速度を上回っているのもあったが、もう1つ。
「ニオウ、リュウ、ウエ」
 もう1人の存在にいち早く気付いたからだった。

『ベルク、後ろだ』
「えっ!?」

 モービルは両手剣を振りかぶり落下速度を加えて勢いよく動力炉に斬りかかった。慌てて背面にバリアを回すヴィクトリカ。しかし慌てたのがあだとなり、逆に正面のバリアを薄くしすぎてしまった。
 結果。
「そこまで上手くはいかないか……でも悪くはないね」
 攻撃を受け止められたモービルは、しかし飛び退きながらも笑みを浮かべた。背面のレーザー砲を数発食らうもリジョルが大量の雲を発生させて威力を減衰させていた。
 そして正面は。
「たりゃぁぁぁっ!」
「タタク、キル!」
 主砲の砲身を小型隕石が何度も叩き歪ませ、蜘蛛の魔女がワイヤーカッターの要領で蜘蛛糸による斬撃、傷ついたその部分をゾルスフェバートの大剣がしたたかに強打する。
(しまっ……!)
 僅かな隙を逃さない鮮やかな連係攻撃は、要塞の主砲を根本から叩き折った。こうなっては戦闘中の修復は絶望的だ。
(こうなったら急降下して……)
 主砲を失ったヴィクトリカは、イオンビーム砲の射程にターミナルを捉えるべく高度を下げ始めた。しかしそれは周りにいるロストナンバー達に弱点の背を見せることにもなる。このような判断をしてしまうのはひとえに、中枢のヴィクトリカに近距離戦経験が皆無だったからだ。元が長距離砲撃型だったため、接近されない戦術でずっと守られてきていたのだ。

 降下しながらのレーザー攻撃を蜘蛛糸の盾で凌げば、背後は簡単に取ることが出来た。合流したモービルがレーザーで負った怪我はリジョルが回復魔術で治療した。
「ありがとう、恩に着るよ」
「一緒に戦う同士じゃないか、気にすることはないよ」
 モービルの例をおどけて返すリジョル。
「よーし、それじゃ一気に動力炉を破壊するぞー」
「「おーっ「オウ」」」
 蜘蛛の魔女が気勢を上げる。一気に畳みかけようとして……地上の様子に慌てて回避行動を取った。


 ターミナルに降下するヴィクトリカに、容赦ない洗礼が浴びせられた。
(高エネルギー反応!? 駄目元でイオンビーム、でもってバリア全開っ)
 3発目のレディ・カリスの首飾り、今度は初弾と同じ出力100%の一撃だ。
 主砲を失ったヴィクトリカに対抗手段は残されていなかった。イオンビームは簡単に消し飛ばされ、ビームバリアは容赦なく貫通される。ガガガガガと削撃音を響かせながら機体前面のレーザー砲を、ミサイル発射口を、イオンビーム砲を、次々と破壊していく。全身を包み込んだ閃光は背部のレーザー砲にも軽い不調を起こさせながら、遥か上空へと抜けていった。
(出力低下30%……ま、まずい)
 前面装甲は溶け、あちこちで内部機械がむき出しになり火花を散らしている。ダメージは中枢にも及び、判断力の落ちたヴィクトリカは中枢回復を最優先した。

 もちろんこの隙を逃す4人ではない。
 リジョルが展開した雲と蜘蛛の魔女の蜘蛛糸の盾を頼りに、ゾルスフェバートは匂いを辿って急降下をかける。小型隕石が動力炉に殺到し、十分に溜めたゾルスフェバートのブレスが蜘蛛の魔女の糸玉を凍結強化しながら動力炉を襲う。モービルは一緒に急降下しながら両手剣を構えた。
 出力が極端に低下したバリアはあっけなく突破され、動力炉は瞬く間に傷ついていく。そして。
「イキノネ、トメル。ココカ!」
 ゾルスフェバートは勢いそのままに動力炉を突き破った。とっさに蜘蛛の魔女とリジョルは背中から飛び降り、蜘蛛糸を動力炉から出てきたゾルスフェバードに引っ掛けることで再び背中に戻った。続いてモービルが両手剣で思いっきり斬りつける。
(うっ、あ……)
 大穴が空き、切り開かれた動力炉から光が漏れる。許容を越えたダメージに修復が追いつかず、動力炉から次第に光が失われる。
 そして。
 止めを確信し離れた4人が見つめる中、要塞は完全に沈黙した。ヴィクトリカはエネルギー供給を失いスリープモードに移行した。

「オレ、サイキョウ!」
 ゾルスフェバートは勝利の雄叫びを上げた。その背から飛び降りた蜘蛛の魔女は要塞の背中に飛び乗って動力炉の残骸を貪り始めた。
「うん……結構重いかも」
 普通の人ならすぐ満腹かな、私は平気だけど、とか思いながらもばりばりむしゃむしゃ食べ進める。普通の人はそもそも食べないと思うが。
(何も起きないな)
 リジョルはゾルスフェバートの背に乗ったまま沈黙した要塞を観察していた。世界樹の実をまき散らすかとも思ったがそんなこともないようだ。むしろ蜘蛛の魔女が実も食べている。
 しかし、嫌な予感が消えない。


 大樹動力炉はウッドパッドやナレンシフと同様に世界樹から作られていた。明らかに他と違う木の瘤は狙ってくださいと言っているようなものだった。あからさまな弱点なら偽装なりなんなりすればいいものを、どうしてしなかったのか。
 それは必要がなかったからだ。偽装は困難だと周りには誤魔化していたが、クランチにとってはむしろ真っ先に破壊されて欲しい場所だったのだ。武装まで破壊されたのは痛いが、想定の範囲内である。ヴィクトリカを制御中枢に残したのは運用試験を兼ねた余興だ。
 動力炉の仕掛け。それは一定以上の損傷で世界樹に近づくことで発動する。

 なぜなら、仕込まれていたのは世界樹の蔓を誘導する誘因物質のような物だったから。


 重力に引かれて落下速度を上げる要塞。旋回しながら観察を続ける一行(食事中の1名を除く)。
 遠巻きにその様子を眺めていた空戦型の生き残りが、突如急旋回して離脱した。
「ん?」
 モービルが不審に思い周囲を見回す。
「!! 下っ」
 何かに驚いたような声にゾルスフェバートとリジョルも下を見た。

 世界樹から、何かが伸びてきていた。

「離れるんだ!」
 リジョルの大声に驚いた蜘蛛の魔女は動力炉から口を離した。すかさずモービルが首根っこを掴みゾルスフェバートの背に放り投げる。
「ちょっと、なにすんの――!」
 蜘蛛の魔女も気付いた。世界樹の蔓が伸びてきていることに。

『きゃぁぁぁぁぁ――「プツッ」』
 蔓は次々と動力炉に突き刺さると、要塞を貫通しその全身をはい回った。衝撃で目を覚ましたヴィクトリカは外部出力全開で叫び声を上げるも、中枢は破壊され死亡した。
「これはまずいねっ」
 そう言いながらモービルはギアで蔓に斬りかかった。しかし弾力性のある蔓に弾かれ、逆に蔓に突撃される。
「ドケ!」
 ゾルスフェバートがブレスを浴びせ、リジョルのメテオ(今度はミニではない)が連続して降り注ぐ。モービルは蜘蛛の魔女の糸で強引に離脱させられた。
「さっきのお返しよっ」
「ありがとう、助かった」
 凍り付き、破壊される蔓の群れ。しかしそれらはすぐに再生し、さらに世界樹からは新たな蔓が次々と伸びてくる。
「まずい、一旦退くぞ」
「ニゲル、ナイ。オレ、ツヨイ。マケナイ!」
 強敵に闘争心をかき立てられるゾルスフェバートだったが、冷静に見れば勝ち目がないのは明らかだった。
「無理だ……ええい、蜘蛛の魔女、頼む」
「え、何? ――りょーかい、私に任せて」
 蜘蛛の魔女が大量に糸を出し、ゾルスフェバートの胴に絡めた上で斜め下に強靱な網を張った。そこにリジョルが隕石を叩き込む。
「グオォッ!?」
 さすがのゾルスフェバートもこれには姿勢を崩し、隕石の勢いにのって一同は離脱した。しかし蔓は追ってくる。
「ああもう、しつこいよ」
 モービルとゾルスフェバートが迎撃するがキリがない。
(蔓は最初、全て動力炉に突き刺さっていた……まさか!?)
 疑問に思ったリジョルがよく観察すれば、蔓の狙いは蜘蛛の魔女。
「蜘蛛の魔女、さっき食べた動力炉を吐き出すんだ」
「ええーっ、乙女に向かって何を」
「言ってる場合じゃないんだ。アレと同じになりたい?」
 アレと言いながら、要塞を指差す。
「もう、仕方ないわね」
 そう言いながら胸を数度叩き、まだ消化していなかった動力炉を全て吐き出した。蔓も全てそちらに逸れる。
「利子付けてあげるわよっ。ゾっくん!」
 蜘蛛の魔女はゾルスフェバートにかみついた。膨大な魔力が流れ込み、ゾルスフェバートのブレスは氷裂波動砲と化し自分達から要塞までの間の蔓を全て凍り付かせた。再び隕石が襲い砕いてゆく。
 もちろんすぐに再生される。だが今は時間稼ぎが出来れば十分だった。
 今度こそ一同は空域から離脱した。


 要塞は世界樹に取り込まれ、その攻撃触腕と化した。救いは武装をほぼ破壊され尽くしていて、その再生に時間がかかることだろうか。
 そして世界樹に襲われたのは空中だけではなかった。


「こ、これは……」
 網で受けた隕石を切り離しついでに世界樹にぶん投げて、減速しながら帰還する一行。
 その目に飛び込んできたのは、世界樹の根が次々と地上へ突き刺さってゆく光景だった。

クリエイターコメントまずはご参加下さった皆様、及び最後までお読み下さった皆様、ありがとうございます。
お楽しみ頂けたなら幸いです。
そして提出が遅れてしまい申し訳有りませんでした。

最後は撤退になりましたが、目標は達成しています。
達成したからこそ動力炉の仕掛けにより要塞が取り込まれました。
これは破壊後に起こるほぼ強制イベント扱いなのであえて予測しにくくしました。
実は動力炉を切り離されたらどうしようと少しだけドキドキだったりもしたのですが……。
ちなみにターミナルに世界樹の根が伸びたのは動力炉の仕掛けとは関係有りません。
クランチはその辺りもある程度計算していたかもですが。

ナラゴニアとの戦いはまだ続くようです。
皆様のご無事を祈りつつ、今回は手短な挨拶とさせて頂きます。
公開日時2012-09-18(火) 21:00

 

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