「全員揃ったな。これより最終確認を行う」 機械兵達の大半がブリーフィングルームに集まっていた。「今回は空陸の総力戦になる。特に前線部隊は非常に危険な任務となる。後ろに回るなら今のうちだぞ?」 半分冗談めかして機械兵隊長の高機動型、ケンプは告げる。配置転換の希望者は居ない。全員覚悟はもう決めていた。「よし、説明に入る。ヴィクトリカ、聞こえているな?」『通信状態は良好ですよー』 アマゾンではカノンと呼ばれていた長距離砲撃型のヴィクトリカは家出までしてクランチに改造を受けていた。今は機動要塞となって地下格納庫から通信で参加している。「今回は敵本拠地への上陸戦だ。非常に激しい抵抗が予想されるが、運が良ければ不意を突くことが出来る」 正面の巨大ディスプレイにターミナルの概略図が表示される。旅団が確保した捕虜と潜入していたウォスティ・ベルの情報から作成されたものだ。「これより数時間後にナラゴニアは敵本拠世界に侵入、同時に攻撃部隊を出撃させる手はずになっている」 ここまでは各部隊ほぼ共通の作戦スケジュールだ。「我々は上陸部隊の1つと空戦部隊による制空権確保への参加、長距離砲による前線支援が担当だ」 ブリーフィングはそれほど時間をかけずに終了した。ヴィクトリカの件による多少の変更はあったものの基本方針は既に固まっていたのだ。 以下がその内容である。・上陸部隊(陸戦型各種・輸送艇型(ホバータイプ)) 火力担当(機動砲撃型他)、制圧担当(高機動型他)、突撃担当(格闘型他)の3部隊で構成。 砲撃班の先制砲撃後煙幕を利用し接近。チェス盤からターミナルに上陸して火力制圧及び砲爆撃管制を行う。 ※ウォスティによればチェス盤は硬質平面とのこと・補給部隊(輸送艇型・補給型) 上陸班に随行後、チェス盤上にて後方待機。・砲撃部隊(長距離砲撃型・噴進砲型) ナラゴニア本土より先制砲撃後、砲撃指示待機。・対空部隊(対空型) 本土防衛隊へ出向。ナラゴニア本土にて迎撃待機。・空戦部隊(空戦型) ターミナル上空の制空権確保及びベルクの護衛。・空爆部隊(爆撃型) 指定エリアにて爆撃指示待機。・特殊砲撃隊(機動要塞) コードネームはベルク。 指定ポイントより対地砲撃及び制空権確保。 ナラゴニアの出現によりターミナルは騒然としていた。 トラベラーズノートには次から次へとメールが届く。 その中の1件、このメールがあった事に何人が気付いただろうか。 そこにはシンプルながら恐ろしい内容が記されていた。――――件名:【緊急】砲撃警報送信者:リクレカ・ミウフレビヌ送信先:全体 導きの書にナラゴニアからターミナル全土への砲撃予言。各自警戒・対応を願います。 予想弾種:榴弾(榴散弾含む)・ロケット弾・煙幕弾――――『砲撃隊各機、配備完了しました』『こちらベルク、主砲充填率100%、いつでも行けます』「空戦隊一時退避、砲撃隊時間合わせ。……3、2、1、撃てェーっ」 ケンプの指示によりターミナルに向けて要塞主砲と大量の榴弾・ロケット弾が放たれた。 チェス盤にも撒かれた煙幕弾を利用し陸戦部隊はターミナルに接近する。不意に轟音と振動。「何事だ?」『ターミナルより高エネルギー波。ベルク主砲と干渉、主砲がチェス盤に着弾しました』『友軍ナレンシフ・ワーム数体消滅』『ファントム隊・クルセイダー隊に直撃。応答有りません』『相互干渉……威力は同等って事!? 隊長っ』 連続しての入電。敵本拠地とはいえ出撃早々空戦型2部隊を含む味方戦力喪失に焦る一同。 落ちつかせるためにケンプは砲撃部隊のタスラベル隊に次弾以降のカウンター砲撃を指示した。位置的に他に対処法がなかったし、先の砲撃から間もないため即座のカウンターは不可能だった。 砲撃をしのいだターミナルでは、トラベラーズノートに新たなメールが入っていた。――――件名:【要請】湾岸防衛送信者:リクレカ・ミウフレビヌ送信先:全体 旅団の機械兵部隊がチェス盤上より接近中、揚陸作戦の予言あり。 手の空いている方は可能なら対応願います。予想敵戦力:機械兵陸戦型混成部隊約3個中隊(砲戦主体・格闘あり) 砲爆撃・空戦支援あり推定上陸時間……(以下略)※チェス盤は頑丈です。着弾影響等を心配する必要はありません。―――― ……下から、だと!?「上陸ポイントまで3500」「よし、ティジー隊はもう少し後ろで待機してくれ。ハッチ開け、各機出撃。輸送隊は展開後後方待機」『『了解』』「隠密型、先行して様子を見てくれ。各隊偵察型、索敵を怠るなよ。格闘型各機、砲戦中の防御は任せる」『あいよ、バリアできっちり防いで見せまさぁ』 ターミナルの主要建造物はやはり駅舎と図書館だろう。ロストナンバーは図書館で依頼を受け、駅舎から異世界へと旅立つ。故に他の施設や居住区も利便性の観点からその間に建てられる事が多い。 逆にそこから外れた場所に立ち入る者は少ない。ターミナルからチェス盤に降りる道は遺跡整備の作業員が時々使う程度で存在が知られているかどうかすら怪しい。ウォスティが上陸ポイント候補として伝えたのもこの点が大きい。 地形的には高所を占める図書館側が有利だが、旅団側も強力な火力支援を用意している。 普段は喧騒からほど遠い一角が、主戦場の1つとなった。======!注意!イベントシナリオ群『進撃のナラゴニア』について、以下のように参加のルールを定めさせていただきます。(0)パーソナルイベント『虹の妖精郷へ潜入せよ:第2ターン』および企画シナリオ『ナレンシフ強奪計画ファイナル~温泉ゼリーの下見仕立て観光風味~』にご参加の方は、参加できません。(1)抽選エントリーは、1キャラクターにつき、すべての通常シナリオ・パーティシナリオの中からいずれか1つのみ、エントリーできます。(2)通常シナリオへの参加は1キャラクターにつき1本のみで、通常シナリオに参加する方は、パーティシナリオには参加できません。(3)パーティシナリオには複数本参加していただいて構いません(抽選エントリーできるのは1つだけです。抽選後の空席は自由に参加できます。通常シナリオに参加した人は参加できません)。※誤ってご参加された場合、参加が取り消されることがあります。======
チェス盤に降りる道の途中、ちょうど作業員倉庫らしいチェンバーの入り口手前にリクレカのメールを見た数人が集まっていた。 「――というわけで、この道を登らせなければ大丈夫だと思うよっ」 No.8は集まったメンバーでは唯一機械兵との戦闘経験がある。当時の経験と軍事知識から進行ルートをこの道に絞り込んだ。崖を登れそうな相手は限られるのと、連携を重視する相手が大きく別行動を取ることは考えづらいからだ。ついでに相手の目標は重要拠点である駅舎と図書館の制圧と見ていた。実際の目標は戦線を押し上げつつの順次制圧だったがそう外れてもいない。 集まったメンバーにはNo.8と幽太郎・AHI/MD-01Pからヘッドセットが配られた。通信はもちろん、幽太郎の策敵情報を共有できる眼帯型ヘッドマウントディスプレイ付の優れものだ。ついでにCCDカメラと小型センサーで幽太郎も全員の視界情報を共有できる。ナレッジキューブ製なのでサイズの問題は気にせずに済んだ。通信傍受対策として幽太郎による暗号化も行われている。 煙幕に包まれたチェス盤上を幽太郎は監視し続ける。元が偵察目的の試作型だけに、この程度は何の障害にもならない。敵の接近までNo.8とルオン・フィーリムは道の各所に各種トラップを仕掛けていた。 「センパイ、頑張りましょっ」 「うん、みんなで力を合わせれば大丈夫でしょ。終わったら一緒に温泉でも行く?」 「えっ、せせせセンパイ!?」 そこはかとなく色っぽく迫られわたわたするNo.8。周囲は温かな目で見守っている。センパイことハイユ・ティップラルはそんな反応に満足しつつもディスプレイ表示を随時確認することも忘れない。 (戦人形の力は消せない。なら――) 今の友人達、大切な仲間との時間を守るために。ぐうたらだけど実は色々凄いメイドが一瞬見せた真剣な表情には誰も気付くことがなかった。 「敵影確認。情報転送スルヨ」 幽太郎から通信が入り、全員のディスプレイに敵の情報が表示される。どうやらホバー輸送艇である程度接近する算段らしい。 「こ、怖いわ……」 心優しきオーガ族のお姫様、ベガ・ヴァーナはギアのスコップ片手にディスプレイ上の敵の動きを見ている。よく見なくても分かるくらい震えているが、普段はお花が好きな優しい女の子なのだ、これは仕方ないだろう。 「そろそろ防御展開した方がいい?」 ルオンはトラップ設置を切り上げ道の側面、チェス盤側に魔術シールドを設置していく。苦しい戦いになるかもしれないけれど、この世界とみんなを守るため。引き下がるわけには行かないと真剣な表情のルオンはいつもより凛々しさがアップしている。 天渡宇日菊子はギアの鉄塊器で素振りを始めた……素振り? 「壱番世界にこういうスポーツあるんだろー? ほら、ホームラーン! なやつ」 どうやら砲撃を打ち返すつもりらしい。 「あるらしいけど。爆発とか近接信管とか気を付けなきゃだよっ」 「りょーかーい」 No.8のツッコミも軽く受け流す。実は半分くらい精神集中――というか煩悩撃退だったりする。 (もふりたい、ああもうふりたい、もふりたいぞー) 菊子は幻獣とか獣とか竜とかが大好きだ。図書館の登録書類の職業欄にドラケモナーって書くくらい大好きだ。なもんで硬くて素敵な地竜シャランドゥやスイカップ竜なルオンやもふもふ毛玉なムク(フェリックス・ノイアルベールの使い魔)が居るこの状況はある意味ピンチだった、主に理性喪失的な意味で。 (こんな状況じゃなきゃもふれるのになー、あーイライラするー) そんなわけで行き場のない思いを全力で叩き付ける気満々だ。 ちなみにふさふさは今この場にいない。幽太郎からデータ受信端末を受け取ると自分のチェンバーに戻っていったのだ。何か秘策があるらしい。 「それじゃあ応援行くッス」 氏家ミチルが歌い始めると、全員の体に力が漲ってきた。 (ミディアンでも胸を張って生きられる。大切な人達と再会できた。色んな人と知り合えた) 大好きな世界を守るため、みんなあちこちで戦っている。出来る事をしている。ここにも一緒に戦う仲間がいる。 相手も追いつめられた状況かもしれないが、負けるわけにはいかないのだ。 (自分も、守りたいんス!) 大好きな世界を守って。そして、もっとみんなでいろんな物を見たいのだ。 強い思いは歌に乗り、全員の色んな能力を大幅に強化した。 一同が準備している間に機械兵は一部を後方に残し、輸送艇から展開して接近を続けていた。 『目標地点まで2400』 『登坂ルート上に複数反応。図書館側と思われます』 「よし、パラディン、ルビンマに砲撃指示。エイブラムス、1400で攻撃を開始しろ」 『『了解』』 「ナラゴニアカラ砲撃確認。榴弾トロケット弾」 幽太郎の声と同時にディスプレイにワーニング表示が現れた。 「じゃ、私もいくよ」 ハイユの風の魔法で砲撃の軌道が多少ずれる。幾つかがチェス盤に着弾し、残りはルオンのシールドが、それも突破した物はシャランドゥが翼で防いでいった。 「シャランドゥさん、大丈夫ですか?」 「これくらいなら平気だよ」 シャランドゥを気遣うベガ。この後に起こることを聞いていたので湧き上がるものは何とか理性で抑えた。念のためフェリックスがいつでも回復できるよう近くで待機している。 「おっりゃー、ホームラーン!」 菊子は手近な榴弾を思いっきり打ち返した。さすがにナラゴニアまでは届かなかったがかなり遠くまで飛んでいった。 「第2波、チェス盤カラ小型ロケット・多弾頭ミサイル」 「かーらーのー、ピッチャー返しー!」 幽太郎の声に菊子は対象を陸戦隊に切り替え、ロケット弾をそのまま打ち返した。対人制圧用のサイズなので威力は知れているが威嚇くらいにはなるだろう。 そしてこの応酬を幽太郎を通して自チェンバーから観察していたふさふさが、遂に動いた。 「ふさふさカラ通信、ミサイル来ルヨ」 「総員退避だよーっ」 No.8のかけ声に、その場で応戦していた全員が倉庫チェンバーに一時避難した。ルオンは魔術シールドを出せるだけ出してから最後に飛び込んだ。というのも、ふさふさが用意したミサイルは――。 「ふっふーん(まったく、このような原始的なテクノロジーで攻めてくるとは旅団も焼きが回ってきたものです)」 自分のチェンバーに戻ったふさふさは、ミサイル砲台の最終チェックを行っていた。 機甲部隊3個中隊と聞いて大戦力に感じるメンバーもいたが、少なくともふさふさにとってはローテク兵器の集まりにすぎなかった。まあ旅団に焼きが回ったというよりただチェス盤はそういうロストナンバーが担当しているだけだが。 チェス盤は遮蔽物の全くない完全水平面である。長距離射撃の得意なロストナンバーにすればわざわざ撃たれに来ているようなものだ。機械兵部隊もそれを承知しているからこそ長距離支援砲に煙幕を用意し、対長距離防御力の高い格闘型を前面に出していた。しかしふさふさにはそれらは児戯に過ぎないと感じられた。というのも。 「はぁふ! はぁふ!(0世界の技術力は世界群イチィィィィィッでしょう!!)」 ……えーと、まあ各世界の技術が結集しているわけですから。というかどこで覚えたんですかその台詞。 それはともかく。 0世界における防衛戦という特殊状況は、普段の冒険旅行では扱えないような物の使用を可能にした。そしてふさふさはその天才的頭脳を活かして密かにナレッジキューブの濃縮実験を繰り返していた。その研究で生み出された現段階で最も濃縮率の高いナレッジキューブを爆弾にしてミサイルの弾頭に採用したのだ。名付けてKC(Knowledge Cube)分裂爆弾である。 計算上、想定通り核分裂反応を起こせば世界を一つ吹き飛ばす事すら可能な代物を搭載したミサイルを大量に用意したのだ。他のメンバーが一時避難をするのも当然というかターミナルごと吹き飛びませんかと突っ込みたくなる威力だが、そこはまあギアがどうにか調整してくれるだろう。 幽太郎の情報から陸戦隊の現在位置を把握、着弾点と飛行ルートを指定して無線とメールで発射を伝える。 「わっふーん(ポチっとな)」 そしてふさふさは、ためらい無く発射ボタンを押した。 『敵反応ロスト。消失ポイントFOXTROT』 「むっ? 警戒は怠るな。ブラッドリー、ストライカー、上陸準――」 『高速熱源体多数接近』 「ちぃっ、チャフ・フレア散布、撃ち落とせーっ!」 上陸部隊はミサイルに対して各種機関砲弾幕で迎撃、残りはチャフやデコイフレアーで回避する2段構えの防御で対応した。彼等の想定する通常の対装甲弾頭相手ならそれで十分だったかもしれないが、物が特殊弾頭である。 地面すれすれや上空から落下コースなど様々なコースを取るミサイル群は先頭が撃ち落とされると連鎖的に爆発した。連鎖爆発を起こすくらい、1発あたりの爆発は強力だった。 ギアの制御効果か爆弾は核反応を起こさず、代わりにその高濃度の情報はターミナルに悪影響を及ぼさない程度の指向性を持った熱と電磁パルスに変換され一瞬で放出された。それでも起爆点の温度は瞬間的に数万度となり、熱膨張した空気が爆風を巻き起こす。そして密度の低下した空間に大量の空気が流れ込み、加熱により軽くなった空気は激しい上昇気流を発生させ、周辺の煙幕を根こそぎ巻き込んでキノコ雲を形成した。 威力だけなら小型核に匹敵する。直撃していたらそれだけで上陸部隊は壊滅していただろう。200mほど離れて起爆させたためかろうじてそれは避けられたが、一度後退して立て直す必要がある程度には被害を受けていた。熱のダメージもさることながら、電磁パルスによる電障効果も大きい。 「くっ……一度後退して立て直す。ティジー、忙しくなるが頼む」 『隊長、カウンターはどうします?』 「既に他部隊が上陸しているな、範囲攻撃では巻き込むか……スピリット、ランサー、フォートレス、サンダーボルト、発射地点に空対地ミサイルを叩き込め。他の砲爆撃部隊はDELTA-ECHOラインに時間差攻撃。防御を固めさせるな」 砲撃、空中部隊に指示を出し、上陸部隊は一度後退した。動けない機体は輸送艇がワイヤーアンカーを引っ掛けて無理矢理回収した。 ちなみにこのミサイル攻撃、要塞攻撃部隊もその上昇気流に巻き込まれたり利用したりで高度を稼ぐのに一役買っていたのだがそれはまた別のお話。 頃合いを見て幽太郎がチェンバーの外を窺う。一時後退を余儀なくされた地上部隊は数km先まで離れていた。代わりに空対地ミサイルがターミナルへ撃ち込まれ、飛行部隊が接近していた。 「地上部隊後退、航空部隊接近中、爆撃ト砲撃ニ注意」 幽太郎の状況確認を待って他のメンバーも倉庫チェンバーから顔を出した。約3名ほど少々げっそりしているのはここぞとばかりに補充をした菊子の影響が大きい。何をどうしたかは聞くだけ野暮というものだ。一方ミチルは何だか嬉しそうである。色々あってとある人のワイシャツを手に入れていたのだ。 (えへへ、いっぱい頑張ったら後で褒めてくれるかな?) 入手ルート自体はちょっと怪しいものの、ついそんな妄想が頭に浮かんだり。 「あたし達の目的は防衛、深追いはせずにこのラインを維持した方がいい。しばらく砲撃と空に専念ね」 ハイユの発言に一同は頷いた。 「よーし、そんじゃいくぞー」 菊子が翼で上空に舞い、気合いを入れ直して再び応援歌を歌ったミチルがその効果で飛べるようになった模型飛行機に乗って続いた。フェリックスも空へと回る。 早速長距離対空弾頭が飛んできた。だがフェリックスの火炎魔法であっさりと撃ち落とされた。その間にミチルと菊子は突っ込んできた爆撃型を迎え撃つ。 「氏家キャノン、発射ー!」 ギアの竹刀に気合いを乗せて放たれた一撃が襲い、先頭の1機を破壊する。続いて菊子が回避行動を取った1機を掴み上げ、そのまま別の機体へと上から投げ降ろす。 「こんな危ない物もった敵はー! ぽーいだー!」 ぶつかった2機は仲良く地上へ落下しつつ、どうにか体勢を立て直そうとする。しかし。 「やあっ」 気合いと共に跳び上がったルオンがギアの槍、マドゥルガーダに電撃をまとわせまとめて叩き切った。 「おー、さすがうちの婿候補」 「ありがと。でもまだっ」 菊子の賛辞に軽く応えながら(ついでに一部スルーしながら)、着地するや魔術シールドを展開する。既に砲撃情報が入ってきていた。 ハイユ、シャランドゥ、ルオンの3人で砲撃を防いでいる間に、フェリックスが爆撃型の1機の上に立っていた。敵機を見下ろしながら告げる。 「私の住む世界を荒らす愚か者よ、報いを受けろ」 ギアの長剣で翼を叩き切られた空爆型は為す術もなくチェス盤へと落ちていった。 ふさふさのチェンバーに撃ち込まれたミサイルは内部ででたらめに炸裂した。機械兵サイドから見れば発射点はあくまで「チェンバーの入り口」であり、その先に空間がある事は把握していなかったのだ。 それでも砲台は既に2台ほど破壊されている。それに既に接近戦が展開されている状況ではKC分裂爆弾を使うわけにもいかなかった。 「わふっ(仕方ないですね、残りは……件の要塞にならおあつらえ向きでしょう)」 残弾を自動装填にし、目標を上空の機動要塞に固定する。発射をフルオートに任せ、ふさふさは格納庫に向かう。 そこに収納されていたのは全長10mを越す機動兵器。竜星のアヴァターラである。以前ヴォロスでの依頼の際、既にヴォロスの一部となっていた竜星で受領し自ら改造して使用したそれを色々あって0世界に持って帰っていたのだ。 コクピットに滑り込んだふさふさはアヴァターラを起動させる。改造の1つ、ヒッグスジェネレータにより竜星と比較して重力の大きなヴォロスや0世界でも安定した運用が可能になっている。また応用すればフィールドバリアも張る事が出来る優れものだ。 ミサイルが尽きたことを確認し、ふさふさはアヴァターラでチェンバーから飛び出した。 次にミチルと菊子が目を付けたのは、ふさふさのチェンバーに長距離対地弾頭を撃ち込んでいる爆撃型だった。幽太郎のおかげで位置は分かるものの、接近戦を仕掛けるには少々遠すぎる。 「いっけー!」 菊子はそのうちの1機にギアを思い切り投げつけた。予想外の攻撃に虚を突かれた機械兵は回避が遅れチェス盤へと落ちていった。 「もっぺん行くッス、氏家キャノン!」 ミチルは先程より気合いを込めて再び竹刀を振り抜いた。斬撃が衝撃波となって爆撃型を襲う。直撃は避けたもののバランスを崩した所に、既に構えていたミチルが2発目を放つ。先程とは違う構えから放たれたのは気合いの乗った突き。真っ直ぐ伸びた一撃は敵の体を貫通し、ダメージのかさんだ爆撃型は帰還を余儀なくされた。 その間に再び飛来する敵空中部隊。今度は空戦型と爆撃型の混成だ。計4機。 フェリックスがミサイルを迎撃しつつ、ミチルが飛ばしている飛行機の何機かを盾にしながら肉薄し飛び乗っては翼を叩き切ろうとする。しかしそこは敵も必死、連携を取りながら短距離対空弾頭や機関砲で牽制し容易には接近させようとはしない。 機械兵達も味方同士でデータを共有している。何度もやり合っているうちに攻撃モーションを見切られ始めていた。特にミチルの遠距離攻撃は竹刀に気を付けていれば比較的対応しやすい。 「気ヲ付ケテ、高々度ニ2機」 幽太郎が新たな接近を告げるも目の前の相手がなかなか落とせない。機転を効かせたフェリックスが進行方向に氷礫を撒いて、かわしきれずに突っ込んだ所を菊子とミチルが打撃で破壊してようやく1機減らしたところだ。 「ハイユさん、少しお願いします」 「まかせて」 地上側は陸戦部隊こそまだ後退したままだが、砲撃対処や対空支援の他ふさふさからの連絡でチェンバーに向かうミサイルにも対応しているので忙しい。それでも空対地弾頭は少しは減っているので少しならどうにかなるだろう。ついでに時折轟音が響いたり巨大なエネルギー柱が視界に入るが、上が上手くやってくれているのか今のところ直撃された場所はないようだ。 ルオンは一度魔術シールドの展開を止め、ディスプレイに映る高々度の敵に意識を集中する。跳躍では届かないが、逆にその位置だからこそ当てやすい攻撃もある。彼女の放った落雷2発は見事に高々度の2機に命中、強力な電流が一時的に行動不能に陥らせる。だが敵の行動も早かった。 「爆弾、500kg級」 幽太郎の警告。低高度ではことごとく落とされるからと高々度爆撃を試みた爆撃型は1発目の落雷を見て即座に爆弾を切り離していた。狙いは甘いが威力はでかい。 「まだまだ、これくらいならね」 対して、ハイユは落ちついていた。自由落下なら放物線や自律推進の攻撃よりも狙いは付けやすい。火の魔法を収束させて放つことで爆弾を上空で炸裂させ、軽くなった破片や小爆弾は風の魔法でチェス盤へと追いやった。 そして動きを止めた爆撃型は菊子にとっては手頃な武器となる。 「まとめて落っこちろー」 ブーメランのように投げつけられた爆撃型に空戦型が叩き落とされる。爆撃型だけにしてしまえば落とすのは簡単だった。 「戦況は」 『空戦隊ファルコン、爆撃隊ホーネット、アードバーク、サンダーボルト、コルセア、イントルーダーやられました』 「12機か、辛いな」 機械兵の上陸部隊はようやく再攻撃体制が整った。その間に直属だけで12機もの航空戦力が脱落した。 「帰ったら頭があがらんな。エイブラムス、ストライカー、行けるか?」 『こっちはOKですぜ』 『こちらも行けます。むしろブラッドリーの方が辛いのでは?』 「言うな、分かっている」 機動砲撃型メインの火力部隊エイブラムス、格闘型メインの突撃部隊ストライカーと比べ、高機動型メインの制圧部隊ブラッドリーは損害が激しかった。しかし屋内戦や占領をこなせるのは歩兵に相当する高機動型だけである。留守番するわけにはいかない。 「パラディン、ルビンマ、煙幕を頼む。行くぞ」 輸送艦型に分乗し、煙幕弾の着弾を待って再びチェス盤から接近を仕掛ける。 電子戦能力で劣る機械兵部隊は、この時1つ勘違いをしていた。 最初のミサイルが飛んできたのはエイブラムスがロケットランチャーを撃った後だった。故に位置察知は砲撃地点の割り出しで行われたと思い込んでいたのだ。 以前の密林戦でNo.8と偵察型の接触がどのような形だったかを失念していたのも大きい。 機械兵の索敵能力では、ステルスに対しては相当近づかないと気付くことが出来ないのだ。 つまり、この時点で未だに幽太郎の存在は気付かれていなかった。それはすなわち、煙幕下でも見つかっていることに気付いていないということだ。 一時的に攻勢砲撃が止み、代わりにそこら中に煙幕弾が撃ち込まれた。 「煙幕か。ということはもう1回来るかな?」 ハイユの予測の正解を幽太郎が告げる。 「地上部隊接近中。数ハ減ッテルミタイダヨ」 ディスプレイに陸戦隊の接近が表示される。今度はふさふさのミサイル攻撃はない。 「おっ、来た来た。ようやく私の出番かなっ」 対空戦では出番がなかったNo.8がチェンバーでの工作作業を止めて顔を出した。一緒に作業をしていたベガもそれに続いた。 ディスプレイ表示では輸送艦型から展開した部隊が少し距離を置いて待機しつつ、偵察型が側面に展開して広い視界を確保。隠密型で接近してまずは様子を探るつもりのようだ。 とはいえやはり肉眼で見える方が戦いやすい。事前にふさふさに聞いた話では光学迷彩は雨に弱いらしい。ということで。 「それじゃ手はず通り」 幽太郎とベガを除く地上の面々は次々とチェス盤に降り、まずNo.8が匂い付ペイント弾を隠密型に投げつける。そしてハイユが風と水の魔法で雨を降らせ光学迷彩を無効化した。 『隊長、敵の動きが妙です。チェス盤に降りてきます』 「どういうことだ……気付かれている?」 『か、完全にばれてます。ペイント弾食らいました』 「いかん、下がれっ」 慌てて隠密型に後退命令を出すケンプ。隠密型は特化型故に戦闘能力は低いのだ。しかし、手遅れだった。 シャランドゥはいち早く前に出ると格闘型と輸送艦型以外を出来る限り巻き込む位置からアシッドブレスを吐いた。強酸性のブレスを浴びた機械兵の装甲は腐食しボロボロになる。シャランドゥはさらに首を動かしブレスを掃射した。盤面に残った酸はハイユと一緒に熱で蒸発させ風で浴びせかけた。 続いてルオンが魔術シールドを各所に張りながら隠密型を優先的に倒していった。時々輸送艦型がワイヤーアンカーで戦闘不能機を回収しているが、破損度合から修復にはかなり時間がかかるだろう。酸の腐食は装甲板の交換が必要になる。撤退手段を奪うことになりかねないという理由で、輸送艦型には手を出さないことはあらかじめ決めていた。 もちろん機械兵も黙っていない。機動砲撃型がロケットランチャー、滑空砲、ガトリング砲で火力制圧を仕掛けてくる。ハイユが直撃弾をメインに風の魔法で軌道に干渉し、ルオンの魔術シールドが次々と受け止めてゆく。その隙を突いてシャランドゥが突撃する。彼の翼は非常に硬く、並の弾丸や小型ロケット程度はもろともしない。滑空砲も対人の榴散弾なら平気だったのだが。 「徹甲弾ニ対物高速弾!」 密林戦で防がれた経験から、今回機械兵は徹甲弾も用意していた。幽太郎が気付くものの、高速でほぼ直線で飛んでくる弾をかわすのは容易ではない。 「シャランドゥさん!」 ベガが悲鳴を上げた。シャランドゥの体には2つの穴が空いていた。戦車装甲を貫く弾まではさすがに防げなかったのだ。 「フェリックス、シャランドゥノ回復ヲ」 幽太郎はすぐにフェリックスに呼びかける。依然空中戦が行われる中をフェリックスは上手くかわしながらシャランドゥの元まで飛んできた。 そして、味方の負傷のショックにより、心優しいオーガ族のお姫様は。 「――に、何しやがるんだゴラァッ!」 ブチ切れた勢いで筋肉が膨れあがり、完全に戦闘モードに切り替わった。そのままの勢いで道から飛び降り格闘型の一機に跳び蹴り、というより踏みつぶし。為す術もなく潰れた格闘型からパイルバンカーを無理矢理引き抜くと棍のように振り回しながら次々と格闘型に襲いかかっていった。もちろん滑空砲や狙撃銃を撃たれるものの、こうなったベガはしばらく痛みを感じなくなる。ダメージはしっかり受けているのでフェリックスが随時回復していった。 一方の空中。敵も減ってきているが味方もフェリックスが抜けたので現在2人である。空戦型4機を相手に、ミチルが竹刀をフェイントで振ったり衝撃波を撃ったりを織り交ぜながら菊子が接近するも、4方向からの機関砲を捌きながらはかなり厳しい。模型飛行機も大分数を減らしている。 (ちょっとキツイッス) 不利を自覚したミチルはハイユと連携を図った。 「ハイユさん、誘導するので攻撃頼むッス」 「わかった。バランス崩せばいい?」 「それでいいッスよ」 菊子もそれに合わせ、2人で敵を誘導する。なかなか手強いが特性上進行方向に制限のある空戦型をある程度の範囲に収めるのはそこまで難しくはなかった。ミチルは時に飛行機から飛び降りて再び乗るような曲芸的な動きで、菊子は自力飛行の特性を活かした不規則な動きで空戦型を翻弄する。あくまで接近が難しいのであって回避や誘導はこちらも相手の癖を大分見抜いている。 そしてある程度に収まった所で、ハイユが竜巻を発生させた。乱気流にはあらがえずバランスを崩す2機。程なく消えた竜巻に体勢を立て直す間も与えず、片っ端からミチルが翼を叩き落としては菊子が捕まえた。かろうじて竜巻を回避した2機も何故か動けなくなっていた。フェリックスの使い魔ムクがこっそりと影縛りの術で動けなくしていたのだ。 「仲良く眠っちゃえー」 菊子は捕まえた機体を機動砲撃型や狙撃型に向かって投げつけた。 「うぉんどらぁっ!」 「やらせないよ」 ドチ切れて天性の格闘センスを存分に発揮しているベガはシャランドゥとの2トップで格闘型を中心に順調に敵戦力を削っていった。周囲には関節を引きちぎられて破断した格闘型のパーツが転がっている。 「借金分はしっかり取り返させてもらうんだよっ」 「そして私がばっちりサポート」 「そこねっ、やぁっ」 No.8とハイユとルオンはシールドを駆使しつつそれ以外の相手をしていた。借金してまで武器を揃えたNo.8は別の意味でも張り切っていた。グレネードランチャーに付いたドッグタグ風請求証が涙を誘う。 とはいえ火力の最も高い機動砲撃型は集団戦法を取っていることもありなかなか崩せなかった。菊子が爆弾丸抱えの爆撃型を叩き付けて削ったりもしたが元々最初のミサイルでの損傷率が低かったこともあり、装甲厚や多重装甲による腐食回避も手伝ってなかなか戦闘不能にまで追い込めない。本当は先に偵察型をつぶしたいNo.8だったが、散開されている上開けた地形では接近が難しい。機械兵達の強力な妨害もあり、少なくとも1人では無理だった。それでも高機動型や狙撃型は大分減らしたり、ハイユの水の魔法とルオンの落雷の連携でスタンさせた所にNo.8がグレネードを撃ち込んだりしたが、ことこのタイプに限っては後退させる数と前線復帰の数が釣り合ってしまっていた。ベガとシャランドゥが合流しても砲撃圧がすさまじく、無理をすると回復が追いつかなくなる状況だった。 「もうっ、キリがない」 「なめるな、この愚民どもがぁ!」 ルオンが呆れ気味に呟き、フェリックスは思わず暴言を吐いていた。 完全に拮抗したかと思われた状況は、しかし2つの要素によって変化した。 「おりゃー」 空中戦を勝利で終わらせた菊子が最後の空戦型(上陸部隊直轄の中で)と共に機動砲撃型のど真ん中に飛び込んだ。空戦型をぶん投げ、手近な機械兵を掴むとジャイアントスイングをかまして周囲の機械兵をなぎ払った。危なくなったら空中へ逃れる。ミチルも空中から氏家キャノンで援護する。 「おおっ、キクさんにミッチーちゃんやるぅ」 「ああ、空からの攻撃に弱かったのね」 No.8が感嘆の声を上げ、ハイユが納得する。滑空砲を始め対地攻撃力は高い機動砲撃型だが、対空となると機関砲しかなかったのだ。 そしてさらに。 『大型兵器接近』 「何!? この期に及んで何が……」 『あ、あれは……アヴァターラです』 ふさふさがアヴァターラに乗って現れた。アヴァターラと言えども竜星の量産機クラスなら機動力にさえ対処できれば機械兵でも落とせるのだが、相手はふさふさが独自改造を施したカスタム機だ。フォースフィールドを展開してしまえば砲撃は無力化されてしまう。しかも武装も強力で、不安定かつ味方もちょっと危ない弱い砲はともかく、滑空砲に採用したナレッジキューブ濃縮の副産物である劣化ナレッジキューブを使用したAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)は、それでも情報を徹甲弾として最適な材質に近づけているため威力はタングステンや劣化ウランを凌ぎ、タンタルとほぼ同クラスかそれ以上だった。 「くっ……支援砲、威力重視。400と210D」 『しかし攻撃範囲が』 「かまわん。フィールドを突破しないとどうしようもないぞ」 ふさふさは味方の盾となるべく攻撃をフィールドで受け止めている。付け入る隙があるとすれば、そこしかなかった。 「はははっ、圧倒的ではないか私達は」 回復一辺倒から解き放たれたフェリックスが笑う。戦力の揃った図書館側は一気に攻勢に転じた。 「わふっ、わふぅ(技術力の差をみせつけてやります)」 アヴァターラから放たれる徹甲弾は機動砲撃型を次々と撃ち抜いてゆく。機械兵の攻撃の大半はフィールドに防がれた。 「オラオラオラオラオラァッ」 アヴァターラに気を取られている隙を突き、肉薄したベガは機械兵を殴り倒す。散発的な攻撃ならベガには余裕で避けられる。 「おめぇらもまとめてぽーいだー!」 菊子は上空から飛び込んでは投げ技を仕掛ける。投げ飛ばされた機械兵は別の機械兵と衝突して被害が増大する。 ミチルは味方の勝利を信じ、上空から再び応援歌を歌った。 アヴァターラによって防御に余裕が生まれたことで、ようやく偵察型へ攻撃を仕掛けることができるようになった。機械兵側にとっても重要な位置付けらしく、これまで妨害が激しくなかなか近づけなかったのだ。 「ルオちゃん、シャラさん、センパイ、行きますよっ」 No.8がサブマシンガンで援護しつつ、ルオンとシャランドゥが突撃する。機動力はハイユがかまいたちを起こして封じ込めた。 風に翻弄される1機をシャランドゥの尻尾が叩きつぶし、少し離れた機体にはルオンが電撃で牽制しながら飛び込んで叩き切った。 「2つめっ、次っ!」 同じ要領で散開している偵察型を順次倒していく4人。援護がなければ偵察型の武器自体は歩兵用サブマシンガンだけなのでそこまで苦戦することもなかった。 「6機目、コレで全部だっけ?」 「メカユーさん、まだ偵察型残ってるかなっ」 「活動反応無シ、全部倒シタミタイダヨ」 幽太郎に全機撃破の確認を取ると、No.8以外の3人は前線へと戻った。 「援護は任せて」 「期待してるよっ」 ルオンとそんなやりとりを交わしながら、No.8は一度倉庫のチェンバーに次の作戦のための道具を取りに戻った。 「こ……この化け物め」 攻撃範囲を狭め威力を高めたtype400ロケット弾、完全に単機目標の代わりに絶大な威力を誇る210式D型対戦車砲弾。それらを使用した支援砲撃でさえアヴァターラのフォースフィールドを突破することは出来なかった。正確には210Dはフィールドを突破していたのだが、アヴァターラの装甲自体も強化されていたため減速した砲弾は装甲に弾かれた。かなりの衝撃にふさふさは内心気が気ではなかったりしたが、それは外の人達には分からない。 もはや半分意地となって攻撃を続ける機械兵達だが、その視界が突如として狭まった。こうなってしまっては得意の長距離戦に持ち込むことはもはや不可能だ。 「くっ、偵察型が全滅か」 『どうします?』 役割分担のはっきりしている機械兵部隊では、部隊の目を担当する偵察型の有無は死活問題だった。なので。 「……これ以上の戦闘継続は不可能だ、ナラゴニアへ撤退する」 ケンプはあえて外部出力を使い、図書館側にも分かるよう部隊の撤退を告げた。 「繰り返す、これ以上の戦闘継続は不可能だ、ナラゴニアへ――」 No.8は空戦の間に作ったステルスコートを施したダンボールを持ち出すと、チェンバーから戻ってきた。 彼女は補給型を撃破すれば敵は撤退すると読んでいた。後方で待機する補給型を倒すためには前線の目を欺く必要がある。なので前線の目である偵察型と隠密型を破壊した上でステルスを利用した接近を計画した。この作戦は全員に伝えてあり、決行時には全員がサポートする予定だった。 ただ。補給型を狙うまでもなく、この時点で機械兵は撤退を決定していた。 「ア、ハッチャン」 「メカユーさん、ステルス突撃大作戦行って来るよっ」 「機械兵、撤退スルッテ」 「へ?」 「信用デキルノ?」 No.8はアマゾンでの一戦を振り返りながら考えた。 「多分。いたずらに味方戦力を減らす戦い方はしない人達だからねっ」 撤退宣言がされた後も、前線メンバーは油断することなく機械兵達を観察していた。ルオンの魔術シールドは張れるだけ張ってある。 機械兵達は隊長らしき高機動型の宣言通り、こちらに攻撃することなく順次輸送艦型に収容されていく。破壊された機体を回収している輸送艦型もいるがそっちはそもそも脅威にはならないだろう。 守るための戦いだから撤退する者は追わない。相談の際に決めたことの1つだった。だから図書館側のメンバーは警戒こそすれど仕掛けなかった。 No.8が前線に合流する。 「君とは2度目か」 隊長らしき機械兵が声を掛けた。 「今回も私達の勝ちですよっ」 No.8の返しに一瞬間をおいて、隊長は告げた。 「……まあ、我々の部隊ではかなわんな」 表情は読めないが、ひょっとしたら苦笑しているのかもしれない。 「素直に撤退させてくれる礼になるかはわからんが、我々が撤退したからといって油断するなよ? ナラゴニアが撤退したわけではないからな」 隊長は言いたいことだけ言って輸送艦型で去っていった。 「何だったんスかね?」 「さぁ?」 ミチルの疑問にハイユがポーズ付で応える。だが、その疑問はすぐに解消された。 ナラゴニアに、異変が起きた。 「ナラゴニアカラ反応、アンノウン」 幽太郎が告げる。ディスプレイには警告表示。そして。 「あれは……世界樹の根か?」 フェリックスが呟く。 世界樹は根っこや蔓のような物を大量に生やし、そして0世界の各所に伸ばし始めた。 ゴガッ。 「えっ、チェス盤に刺さった!?」 ルオンが驚くのも無理はない。これまであらゆる攻撃に傷一つ付くことの無かったチェス盤に、その根は刺さったのだ。 「わふっ(やらせませんっ)」 次々飛来する根の1つにふさふさはアヴァターラの弱い砲を放った。しかし世界樹の根には何の効果も及ぼさず、逆にアヴァターラはフォースフィールドを無視するかのように根に串刺しにされた。脱出装置が働き、ふさふさはチェス盤に転がり落ちた。一緒に爆弾のような物が転げ落ちる。 その場にいた全員が顔を真っ青にした。この爆弾は、まさか――。 菊子がドラケモ愛なブーストでふさふさを回収すると、全員猛スピードで倉庫チェンバーに飛び込んだ。ほどなくして、世界樹の根がKC分裂爆弾に突き刺さり大爆発を起こす。 しかし、だ。 チェンバーから出た一同が見たのは、アヴァターラが破片も残らず消滅したチェス盤上で、ものすごい勢いで根が再生する光景だった。そして世界樹の根は、まだまだあちこちに突き刺さっていく――。
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