『年越し特別便? そういや、随分と乗ってねぇなー』 世界司書アドははみはみと爪を噛みながら看板に文字を出す。『んー。確か、ブルーインブルーで面白いモンがあったな。っても、辺境の遺跡だし海魔いるしで楽しいかどうかは人によるんだろうけど……えーっと』 看板にもちゃもちゃとした線を出しながら、アドは導きの書を取り出した。『あったあった。その昔、名前もついてない辺境の遺跡に海賊のアジトがあったんだ。その海賊、小心者というか心配性というか、いろいろと験を担ぐ性格だったらしくてな、お宝と一緒に縁起の良いもんを沢山集めてたらしい。アジトにも験担ぎで色々手を加え、番犬がわりにアジト付近で海蛇の海魔を育ててた。番犬っつーか、番蛇っつーか、まぁ、お宝を護る見張り? そんなのにしてたらしい。海賊はとっくにいないけどな』 アドはぱらりとページをめくる。『海賊がいなくなった今も海魔は海賊のお宝を守っている。ってんで、多くの海賊がお宝をみつけようと行ってみた。が、海蛇の海魔がでっかく育ちすぎてて手に負えなかったんだと。ただ、お宝を手に入れることはできなくても、そのアジトから生きて帰ってくるとなんか良いことがおきたりしたらしい。験担ぎの効果なんかね』 そこまで説明すると、アドは書から顔を上げ物思いにふける。『どうだい、誰か、オレと一緒にいってみねぇか? 新年早々海魔討伐だけど、験担ぎと宝探しはできるぜ』 アドから行動してみたいという、たいそう珍しいお誘いに、一瞬の沈黙が流れた。『おっと、ちゃんと説明しないと決められねぇよな。遺跡は縦長、海面上に現れている部屋っつーか、フロアっつーか、そこから地下へと向かう。書にはいまんとこ遺跡が崩壊したり新しく海水が入り込んだり、っていう危険なのはねぇな。地下へと部屋が続いていてアリの巣みたいな構造になってんだが、古いし海水入ってるしで入れない部屋も多い。部屋にある海水も水溜まり程度から80cm程度……成人男性の太ももくらいの高さだし、溺れる事もないんじゃねぇかな?』 アドは導きの書をぱらぱらとめくり、別のページを開く。『大型の海蛇海魔は全部で9匹、全長30~50m、でかいだけの海蛇で特徴的な攻撃はないから、戦闘が得意なロストナンバーなら楽勝だろ。9匹を仕留めるか捕獲するかして、日の出までに最上階の部屋にあるギミックの上に9匹の海蛇を置くと、〝九頭海蛇が護る宝箱〟が現れるってなってる。最上階の部屋ってのは、最初の場所だな。天井が壊れてただの広間っぽくなってるみてぇだけど』 説明を全て終えたのか、アドはぷすー、と鼻を鳴らし書を閉じる。『ちょっとハードな運試し、って思えばいんじゃねぇかな? オレも行きたいし、一緒に行ってくれるなら安心だ。海蛇の海魔1匹はオレがなんとかする。変わりに残り8匹は頼んだ。ってことで、つおいひと募集』 新年早々、他力本願の司書だった。●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
潮の香りをたっぷりと含んだ海風が髪を舞い上げ、泳ぐ様に靡びかせる。辺りに遮る物は何も無く乗ってきた船も波に揺れている。周囲は満天の星空とそれを写す水面がどこまでも続いているが、彼らの立つ地面は人工的な物だ。 海面より二m程盛り上がった場所にあったのは地面を削り作られた9つの円と、階段だ。大きめの円を中心に、囲う様に並んだ円の溝には乾いた鱗がある辺り、これが海蛇を載せるギミックなのだろう。ギミックより少し離れた場所にあった穴、上陸しやすいよう海に浮かんでいた浮板から近くにある穴は覗いてみると瓦礫で作られた階段があり、入口傍には松明が置かれていた。残念ながら松明は殆どが湿気って使い物にならないが、この階段が海賊達が使っていたものに間違いないとも、教えている。 「じゃぁ行こっか。おいたんはエレナと一緒にがんばろうねー。2人でがんばれば海蛇だって怖くなーい」 『エレナマジ天使』 共闘の申し出を受けてからずっとエレナの肩に乗るアドは、嬉しさの余りか感謝の印なのか、何どもエレナに擦り寄ったり頭をぐりぐりと頬に押し付けたりしている。ちぎれんばかりに振られている尻尾にはびゃっくんとお揃いの和柄リボンが結ばれている。 モービルが先導し階段の中へと降りていく。瓦礫で作られたとは思えないほど綺麗な階段をゆっくり降りていくと、壁に作り付けられた松明を見つけた。モービルはフッと小さく火の息を吐いてみると、ボッという音をたて松明に火がついた。 「入口にあったのと同じ作りの松明ですね。近く、誰かが来ていたのでしょうか。建物の中にあったから湿気らなかったのでしょうね」 「灯りがあるだけで随分助かります~ぅ」 モービルは行く先々で松明を見つけては火を点け、先へと進む。海賊が間借りしていた遺跡はあちこち崩壊しているが、天井はモービルが飛べる程高く、通路も四人が並んでも尚余裕があり、とても綺麗だ。天井や壁にある穴道も大きな瓦礫がなく歩きやすい。水没していたり、松明のない場所ではヴィヴァーシュが灯りを灯してくれ、四人は順調に奥へと進む。 どれくらい進んだのだろうか。不意に、ズルリと何かを引き摺る様な音が聞こえ、皆の足が止まる。進行方向でズルルと音がしモービルが剣に手をかけると頭上から小石が転がってきた。見上げ、天井近くの穴で光る瞳を見つけたモービルは地面を蹴り空へと飛び上がった。 「ウミヘビ…よ、予想より全然大きいですぅ!? きゃ~」 前方と横穴からも海蛇が顔を出し、鋭い牙を光らせ残された3人へと襲いかかる。 悲鳴を聞き下の様子を伺ったモービルだが、皆がバラバラに逃げたのを確認すると目の前の海蛇へと視線を戻す。 ――助けに行くにしても、目の前のを仕留めてからだ―― 穴中からじっとこちらを狙う海蛇にモービルは一気に近づき、大きな顔に両腕を回し引きずり出す。じたばたともがく海蛇をその豪腕で押さえ込み、引きずり出していると背後から別の海蛇が襲いかかってきた。飛び退き、空に滞空していると二匹の海蛇がしゅるしゅると舌を出し入れしながらモービルを睨みつける。大剣を手にモービルはふと、このまま斬っていいのだろうかと考え出す。数を増やせば運ぶのが大変だし、何よりこの大きさなら血飛沫も多いだろう。女性もいるのだから、流石にまずいのではないだろうか。考えている最中も海蛇は何度もモービルに噛み付こうとしていたが、彼は軽く避けている。ただ大きいだけの海蛇はモービルの敵にはなり得ない。 考えた末、モービルは大きく旋回すると下方から海蛇の喉元を突き刺し、二匹まとめて串刺しにした。多少の血はでるが、ギミックに載せるまで剣を抜かなければいい。 「……先に、おいてこようかな」 モービルは巨大な海蛇二匹を物ともせず、運んでいった。 迫り来る海蛇の攻撃を避け、撫子は横っ面に強水流をぶつけ海蛇の進路を逸らして壁にぶつける。獲物に逃げられた海蛇は怒り撫子を追いかけ、また水を放つ。撫子は行動を繰り返し、海蛇が身動きが取れないよう、狭い場所へと海蛇を誘導する。2匹の巨大海蛇を相手にしても冷静に対処する撫子の動きはまさに蝶のように舞、蜂の様に刺すという表現そのものだ。 牙を見せ迫っていた海蛇の顔が引っ張られる様に止まる。海蛇の身体が隙間なく穴を塞いでいるのを見た撫子の瞳が、ゴーグルの中で輝いた。 3匹の海蛇に追われエレナが駆け抜ける。エレナを一口で飲み込んでしまいそうな大きな口は、肩に乗るアドが空気の玉を放ち、押しのけていた。右手にトランクを、左手にびゃっくんを持つエレナは脇目もふらず只管走る。 「あった!」 エレナが捜していたのは広い広い場所。海賊のアジトなら必ず全員が集まれるような広場が、最奥にある。そこを目指し、駆け抜けていた。目的の場所を見つけたエレナは中央まで駆け抜けるとUターンし、びゃっくんを空へと放り投げる。 「びゃっくん、ごー!」 ぬいぐるみのフォルムから一変、巨大なメカびゃっくんへと変身すると、有線のロケットパンチが放たれ、2匹の海蛇が捕獲される。間を開けずエレナはトランクを開くと錬金術を開始し、足場と三点脚立のついた火炎放射を錬成しだす。 「おいたん、お願いねー」 少し遅れて迫ってきた一匹をアドが防ごうとするが、天井付近の壁が大きな音を立てて崩れてきた。驚きに目を見開くエレナ達の前に、2匹の海蛇と撫子が降ってくる。豪快な音を立て落ちてきた2匹の海蛇はだらりと舌を出し、障害となった2匹を迂回した海蛇が大きな口をエレナへと向ける。しかし、その口に入ったのは無機質な鉄の塊りだった。 『撫子マジ女神』 「女神様?」 『戦女神とか勝利の女神とか』 「素敵だね!」 口内へ火炎放射を叩き込まれた海蛇はお腹の空く香りをさせていた。 ヴィヴァーシュは接近戦よりも遠距離攻撃を得意とする為、2匹の海蛇と一定の距離を保ちながら、移動していた。海蛇から目を逸らさず辺りを確認しながら動く姿は、暗い遺跡の中だというのを忘れさせるような優雅な動きだ。 「このあたりですかね」 ヴィヴァーシュが足を止め、海蛇もまた動きを止める。何かを警戒するように、2匹はじわりじわりと動きヴィヴァーシュへと近寄る。ヴィヴァーシュの吐く息が僅かに白くなりだす頃、海蛇の瞬きが増えその動きが鈍くなり出す。身体を萎縮させながらも獲物に近寄る海蛇は、もったりとした瞬きをし身体を纏め出す。 「海蛇も冬眠するんでしょうかね」 海水がパキパキと音を立て、辺りはゆっくりと凍りつき出した。 9つの円の上に9匹の海蛇を置くと、エレナがこんな事を言い出した。 「おいたんは『九匹』って言うけど、『九頭海蛇』って名前なのはどうして? 九匹じゃなくってホントは九つの頭を持った蛇だったりしないかな。じつはお供えしたら大変なことが起きちゃったりする?」 『え?』 「うう、なんだかいや~んな音がしてますぅ~」 硬いものを粉砕する音に、粘着く物を混ぜる音ような音、轟轟という機械の音がする中モービルは無言で大剣を抜く。 「心配性の海賊は二重の罠を仕掛けた……というところでしょうか。ただの海蛇ならば問題なくとも、一匹一匹があの大きさなら……まぁ、こうなりますよね」 水平線の向こうに、初日の出が広がり出す。 その陽を背に、見上げるほど大きな九頭海蛇が鎌首をもたげて四人を睨みつけていた。
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