モフトピアの小さな小さな浮島。 雲船着き場は『かみさま』を一目見ようという島民で溢れていた。くまもふ、うさぎもふ、ねこもふ、いぬもふ、りすもふと、様々な形態のアニモフが集まってきている。 カウントダウン看板の設置が完了したらしく、拍手が沸き上がった。残りはあと、半日もない。新年の瞬間に向けて、クラッカーを配るものがいる。 『かみさま』はいつ来るのだろう。 島にお向かえして、美味しい料理を作って、特産の果物を振る舞って、歌って踊って、それから、初日の出をみんなで見るのだ。……間に合うもふ? 大丈夫、きっと来るもふっ。 伝え聞いた『かみさま』の衣装を用意するものが幾人か。どうやらそれぞれが違う服を持ち寄ってしまったらしく、どの服が気に入るか分からなくなった子たちは、更に『かみさま』服を用意することにしたらしかった。きっとどれか気に入ってくれるもふ! もいできたばかりのフルーツの籠。今し方釣れたばかりの魚たち。この島は小さくても、豊かな島だ。料理に必要な食材は、すぐ手に入るだろう。『かみさま』の食べたい料理を、いっしょーけんめー作るもふー。 彼らの準備は万端だ。さあ、あとは。――『かみさま』、早く来てくださいもふーっ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆「ええ。今年も、年越し特別便が出ます」 恒例の行事があるのかと問われ、リベル・セヴァンはもちろんですと頷いた。「今私の手元にあるのは、モフトピアの小さな島行きですね。多種のアニモフが、それぞれ家族のように暮している、あたたかな島とあります」 癒やされバカンスだねー「そう捉えても良いでしょう。貴方がたは『かみさま』として迎えられますから」 え。神様?!「――ああ、違います、そういう意味では無く、彼らにとっては『お正月に来る客人』という程度の意味です。何かを叶えて貰おうという考えは、あまり見られません。安心して下さい。 どちらかというと、一緒にお正月を迎える準備を行ったり、『かみさま』として一緒に着飾ったり、そうですね、お祭りの主役、だと思われると良いかもしれません」 とても歓待を受けると思いますよ。言って、リベルはふっと微笑んだ。「というのも、この島にはまだ『かみさま』が来たことがないのです。 これは彼らにとって初めてのお正月になります。貴方がたが最初の『かみさま』になりますから、皆さんから、お正月らしいお祝い事や料理を教えるのもいいでしょう。 どうぞ、楽しんできて下さい」 ところで、リベルさんは一緒に行かないの?「――え?」●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
* 「私は、ナウラって言うんだ。貴方の名前は?」 まずは自己紹介から。ナウラは一人一人のアニモフの名を聞いては、名を呼んで、良いことがありますように、と願いを込めて撫でた。しゃらり、装飾に使われた鉱石が触れ合い、澄んだ音が鳴る。『かみさま』に撫でてもらえるとあって、ナウラの周囲はアニモフでいっぱいだ。 「ありがとうもふー」「もふー」 一生懸命なアニモフ達の気持ちが伝わり、ナウラは微笑んだ。今日は、優しい『かみさま』として振る舞いたい。記念すべき日だから旅人達だけでなく、アニモフ達も楽しめるように。 (初めてモフトピアに来ました。アニモフさん可愛いです……!) きゅんとくる可愛らしさに、ずきゅんと打たれた樹菓。 彼女は冥界で働く神のひとりだった。モフトピアに死後の世界や、そもそも死があるのかも不明だけれど、死が身近でないなんて、とても素晴らしい事だと、思う。 「ようこそもふー」 ぱふんと、背後からアニモフが抱きつかれた。 (か、可愛いです!) 今は、死に関わる事は一時だけ忘れよう。モフトピア式の『かみさま』として、この子たちと遊びたい。 サクラは明らかに挙動不審だった。 「どうしましょうどうしましょう、神様です神様です。とってもとっても責任重大ですっ」 「落ち着いて下さい、サクラさん」 「だって、だって神様ですよ! しかも1番最初です責任重大です! このままの方が料理は作りやすいですけれど身も心もアニモフさんたちになりきるためには着ぐるみの方がいいでしょうか! あぁ悩ましいです悩ましすぎます」 荷物を抱えてプチパニックしつつも、日本の正月を伝授しようと頑張る姿勢は人一倍だ。 「普段剣術や居合の稽古に使う着物なのじゃが、これからアニモフ達に教えることを考えると、振袖よりは普段着ているこれが動きやすいと思ってのう」 と、矢絣のお召に袴のジュリエッタ。 「よければ、リベル殿もどうじゃ? リベル殿はスタイルも良いからのう、この青い着物も似合うと思うぞ。動きやすいしのう、どうじゃ着てみぬかのう?」 勧められて、リベルに断る理由はない。 * 「良いか。これは羽根つきといってのう。……リベル殿、良いか?」 手本を示すため、ジュリエッタはリベルと軽く打ち合った。ひょいと、わざとジュリエッタは空振りする。 「これはわたくしの負けじゃ。負けた方には、」 本来ならば顔に墨を塗る、のだが、何しろアニモフだ、大惨事になりかねない。ジュリエッタはふと考え、代案を思いつく。リベルになにやら渡し、 「負けた方にはの、それ、雲の綿飴の欠片をひっつけてやるのじゃ」 差し出された頬に、リベルはぺにょりと貼り付ける。頬と指の間に糸が伸びた。 「どうじゃ。やってみるかの?」 「やるもふー!」「もふー!」 挙げられた手の多さに、一度に大勢は出来ないのじゃと苦笑しつつ、一人ずつ、丁寧に相手をする。 アニモフたちは『かみさま』のジュリエッタと対戦したがった。 「おおっ、羽根のあるアニモフが嘴を咥えてとはこれいかに……っと、空を飛ぶのはちょっと卑怯じゃぞ!」 ジュリエッタの頬に、綿飴の欠片が、ひとつふたつ。 樹菓はアニモフと凧揚げをしていた。 初めての凧揚げに夢中になるアニモフたちを見て、樹菓はもっと盛り上げたいと思う。 ひらりとドレスの腕を上げ、導きの杖を空へ向け。 すると、アニモフが次々と、ふわふわと浮き上がりだした。きゃいきゃいと上がる歓声。 「大丈夫です。凧と一緒に空高く飛ばせてあげます」 樹菓のチカラだとわかると、さらにアニモフたちははしゃいだ。 十分に遊んだ頃、樹菓はゆっくりと杖を移動させ、クッションになりそうな厚い雲の所まで移動し、彼らを降ろす。 (死の予感で警戒する必要は……ないですよね?) 染み着いた思考は、なかなか消せない。 * ナウラが餅つきを、サクラが餅花を、そして二人ともがお雑煮作りを提案した。 「襷と割烹着を持ってきたんだ。吉備さん、どうぞ」 「ありがとうございます。餅花とお雑煮作りに必要なものは持参してきました」 「私も少し持ってきた。あとは現地調達出来るかなって」 「いいですね。ご当地風って感じです」 どんなお料理になるのか、アニモフたちは興味津々。二人が準備していると、お手伝いするもふーとわらわら集まってくる。 ナウラは島の果物を探しに、アニモフへ案内を頼んだ。その間、サクラは料理の下準備。 手足を粉だらけにしながら、アニモフはお餅をこねこね。 「これは餅花って言って、紅白のお餅を皆が好きな木の枝に差して飾って、15日の日に焼いて食べるんです」 サクラが紅白お餅を作りつつ解説している横で 「アニモフさん達は甘い方が良いかな?」 ナウラは、餡子やジャム、モフトピアのフルーツを使ったデザートお餅を制作中。 「そうだ。雑煮は、どう作る? 私の方は、味噌ベースに、大根人参豚肉を煮込んで、摩って砂糖を加えて水で溶いた胡桃タレを餅にかける、というものだけど」 「わあ、美味しそうですねえ! うちは四角いお餅で焼かずに合わせ味噌ですけど、アニモフちゃんたちには色とりどりの丸いお餅をすまし汁仕立てにした方がスープっぽくて馴染めるかなって」 「ああ、それも旨そうだ」 「せっかくですし、2種類作っちゃいましょう、ナウラさん!」 「そうしようか」 「わーい! お料理たくさんもふー!」 華やかな宴になりそうだ。 「みなさーん、そろそろご飯にしましょう」 サクラのかけ声で、皆が集まってくる。 「ごちそうもふー」「美味しそうもふー」 次々と席に着くアニモフに、ナウラとサクラが給仕していく。 「これはお雑煮です。お正月の朝は、お椀にかわいいお餅を入れたスープを食べるんです。中身は皆が好きな物を彩が奇麗になるよう入れればいいですよ」 初めて見る雑煮とお餅に、アニモフたちは大喜び。 全員に行き渡るまで見守っていた樹菓が、そっと 「あなたの命、いただきます」 食材に向かって手をあわせてつぶやいた。 神妙な姿に、アニモフも自然、真似るように頭を下げる。それを見て、樹菓は微笑んだ。 「感謝の精神は、どこの世界でも忘れずにいたいです」 他の皆も、同様に手をあわせた。 「いただきます!」「いただきますもふー!」 *** ――さいごのかみさまはこれから 宴もたけなわの頃、リベルは嫌な予感がした。 突然、気の抜けたファンファーレと共に、空に虹色に輝く文字が。 ――Waring !! A huge deva is approaching fast!!―― 島が揺れた。いや、モフトピア全体が揺れているのだ。 ずしぃーん ずしぃーん あわせて軽妙なビートがボリュームをあげていく。 「あれは……人……!?」 雲間に巨大な人影が揺らめく。それは島を片手でつかめるほどの大きさで、宙に浮く島と、綿雲を手で押し退け迫ってきた。 巨大な女性だった。 灰色の髪を振り乱し、腰を左右に振りながら踊っている。青い唇が神々しくも扇情的だ。足下は雲間に隠れてよく見えない。 と、思ったら脚を大きく持ち上げた。 足輪が打ち鳴らされ、リズムを刻まれる。 島が揺れる。揺れる。 踊るアニモフ。跳ねる地。過ぎゆく女神。 『かみさま』の日。 宴はそうして、幕を閉じた。
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