オープニング

 それはとても美しい帆船だった。
 夜なお明るいブルーインブルーの港にそびえる白亜の城ともいうべきか…
 船体は真っ白に塗装され、優雅な曲線を描き縛りあげられた帆も真新しい白色。
 船員も揃いの白い衣装に身を包んで、キビキビと出港の準備を整えていた。
――運動会での船倒しから新築の船は貸し渋られるとの噂もあったはずだが、それを無視しても、これは破格の待遇である。どうも裏では有能な世界司書の非常に強引な働きかけがあったようだが……。まぁそれも噂のうちである。

 ところで。乗客用の乗船タラップの前に、大きなテントが張られている。
 タラップを使う前に必ずこのテントに入らねばならない仕組みになっていて――持ち物検査か税関か……?
「えーちょっと、その服装はダメだよー!
 ちゃんとドレスコードがあるって招待状に書いてあったでしょ!?」
……どうやら服装チェックがあるらしい。
「ほらほら、そっちに貸衣装が準備してあるから、好きなの着てって?
 あ、それはダメぇ似あってないよ! もーセンスないなぁあ……」
 ビシバシと容赦無い意見を飛ばすとともに的確に見立てをしているのは、ピンクの髪を結いあげ、ブルーのミニドレスに身を包んだ少女である。目元は明るい黄色の仮面(穴が三つ三角に並んでいる……?)で隠していて、正体はわからない(ことにしておこう)。
「あ、ところで一人で来たってことは、ドリーム同伴のお客さんってことでいいんだよね?
 ドリ伴ひとりはいりまーす!!!」
「かしこまりました」
 奥から声がした。
「ささ、奥に行って!」
 少女に急かされるまま奥へと進むと、先ほどの声の主が頭を下げたまま客を迎える。
「ようこそお越しくださいました……なんだ怪訝な顔をするなよ。バイトだよバイト。いつもご贔屓に。博物屋だよ」
 銀色の長い髪をキチリと整えて緩く纏めた、白の執事風の衣装に身を包んだ男がニヤリと笑う。ターミナルに妖しい店を構えている男は年越しのバイトに呼び出されていた。
「お客様の理想の同伴者を、一夜限りの魔法で御出しいたします。イメージが固まってないお客様のためにカタログも御準備いたしました。目の色、髪型もお望みのままでございます」
 歌うような商売文句とともに、滑らかな手つきでカタログをテーブルに並べて行く。
「勿論人型以外のお客様にも、博物屋特製のカタログを御準備してございます」
 付箋には「竜」「獣」「その他」それぞれ「100%」から「20%」まで20%刻みで数字が振られている。ケモナーなお客様、ケモパーツ好きなお客様にも十分楽しんでいただける仕様でございます……。
「お相手が決まったら、相手と手を繋いでいるところを想像しながらテントを出るんだ。
 すると理想のお相手が貴方の手の先に……。
 一緒にゆっくりタラップを上って。後は夢のような一夜を豪華客船で過ごす。
 楽団は優雅な音楽を奏でているし、美味しい食事もある。船からはブルーインブルーの灯りが海から昇る星のように見えるだろう。
 どうぞ良い夜を。そして良いお年を……」
 博物屋が芝居がかった一礼をする。

 その頃テントの裏では、ピンクの髪の少女がトラベラーズノートに書きこみつつ、怒鳴り声をあげていた。
「仕事何ていいから早く来てよ! 船出ちゃうでしょう!?
 お客様の御指名なんだよ、さっさと来る! はい! 次の特別便でね?
 もー頼むよー、誘われてない? チキン君にも優しいエミリエが代わりに誘ってあげてるでしょ!! 無理しても来るの!! いい??」

 夢のような夜が始まる。
 ……はず。

☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆


●ご案内
こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。
参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。
「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。

《注意事項》
(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。
(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。
(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。
(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。
(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。
(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。

品目イラスト付きSS 管理番号2398
クリエイター灰色 冬々(wsre8586)
クリエイターコメント◆灰色冬々WR
こんにちわ! イラスト付きSS企画「年越し特別便2013」ぷみさIL様とご一緒させていただくことになりました灰色冬々です!
 えーっと、OPで分かりづらかったかもしれないので今回のテーマを。
 「ブルーインブルーの豪華帆船で理想の相手とデート!!」
 で、ございます。
 ILさまに負担をかけまくる内容なのですが(ぷみさIL「良きのよ良きのよ(キャッキャウフフ」)即OKしてくださったぷみさILにフライング土下座!しつつ、今回の注意書きに参ります。

☆『(PCの理想の相手の姿をした)幻影』もしくは『NPC』とご参加ください。
 ★『(PCの理想の相手の姿をした)幻影』は博物屋(cfxp9484)が魔法で出す、触れられるしゃべれる本物と見まごうような幻です。理想の相手との楽しいひと時を過ごしたい方にオススメです。どんな姿でどんな話し方、過ごし方をするのかご記載ください。
 注:登録PC・他PL様のNPCは御遠慮下さい。
 ★『NPC』の場合、冬々が土下寝の勢いで借りて参りますので、借用許可が頂ければイラスト・ノベルには必ず登場いたします。
 注:許可が下りなかった場合、代役NPCを準備させていただきます。代役を上記幻影としたい場合はプレイングに別途ご記載ください。
 ★ノベルは出航後の船内からのスタートになります。(エミリエ・博物屋は特別にプレイングを頂かない限り登場いたしません)

☆以上、よりプレイングには、

 ・相手:『幻影(詳細含む)』もしくは『NPCの名前』を必ず明記下さい。
 ・服装:ご希望がございましたらご記載下さい。(ILお任せでもきっと素敵に描いて下さると思いますよ!
 ・行動:船上パーティです。ダンス・食事・夜景を見る等、自由に行動を記載ください。

を、ご記載いただけましたら幸いです。
 ノベルはいかんせんあまり字数がございませんので、IL様宛の情報多めが吉かと思われます。
 長くなって申し訳ございません。それでは皆さま素敵な一夜をお過ごしくださいませ。

◆ぷみさIL
遠慮してる間があったらその文字数をむちゃぶりに使うんだ
フィーバーしちゃえよ、です。

参加者
メアリベル(ctbv7210)ツーリスト 女 7歳 殺人鬼/グース・ハンプス
リーリス・キャロン(chse2070)ツーリスト その他 11歳 人喰い(吸精鬼)*/魔術師の卵
刹那(cfmt3476)ツーリスト 女 20歳 忍者

ノベル

――メアリのお相手はジョージィ・ポージィ
――マザーグースに出てくる男の子
――女の子にキスして泣かせる悪戯っ子よ

――キャスケット帽にサスペンダーで吊った半ズボン、メアリとお揃いの赤毛にそばかす

 歌うように言われた希望に博物屋が頷く。

「さあミスタ・ポージィ、パーティを楽しみましょ」
 キラキラとシャンデリアの輝くホール、二人で手を繋いで歩み出る。
 片手を繋いだまま向かい合ってお辞儀。
 くるりくるり。
 ふたりの赤毛が輪を描く。
「メアリのタップとステップをご覧遊ばせ」
「僕のリードもなかなかのものでしょう」
 楽団も可愛らしい二人の為にカルーセルのようなワルツ。
 遊園地の煌びやかなお馬さん。
「男の子と踊るのって楽しいわ
 ミスタ・ハンプはすぐ割れちゃうからツマンナイ」
「勿論。玉子には負けない。今日のジョージィ・ポージィは君の為にいるんだから」
 今日はメアリだけのもの。
 息もぴったり。
 くるくるくる。

 曲が終わってお辞儀をしてから二人でテラスへ。
「ブルーインブルーの空はとっても広くてキレイなの」
「女の子のふんわりしたスカートよりも?」
「まぁ悪戯はダメよ」
 ポージィが目をキツネのようにして笑う。
 まぁ悪戯な顔。
「あ、流れ星みっけ」
 メアリは胸の前で手を組んでお願い事。
「何をお願いしたの?」
「……ふふ、内緒。言ったら叶わないかもしれないでしょ?」



――お別れの時間が来ちゃったね
「今夜はとても楽しかった!」
 メアリはポージィの頬っぺたに感謝のキス。
 ミスタはびっくりしちゃって、メアリにキスするのは忘れてしまったみたい。
「ミスタが消えちゃうなんて寂しいな
 だからメアリが消してあげるね」
 後ろでに隠していた斧でミスタを真っ二つ。
 驚いた顔のまま、ミスタは光の粒になって消えちゃった。
 魔法が解けちゃったのね。
「前にスズメが言ってたの
 クックロビンを殺したのは自分の事をずうっと覚えていて欲しいからだって」
 その気持ち、今ならわかる。
 メアリはメアリが殺した人を忘れないし、ミスタはミスタを殺した人を絶対忘れないでしょ?
 これがメアリの愛のカタチなの。

 バイバイ、ミスタ。





「リーリス、博物屋さんとデートしに来たんだけど。駄目なの? 偽物はイ・ヤ♪」
 予想外の注文に博物屋はピンクの髪の上司に目で伺う。
「客の希望ならしょうがないね。もう出航するし行ってきなよ」
 少女は扇でシッシッとばかり二人を追い払う動作をした。
「決まりね♪」
 リーリスが博物屋に腕を絡ませる。


 博物屋にドレスを選ばせたリーリスは鏡の前でくるりと回って自分の姿を確かめた。
「長手袋がしたいと言ったからね。それに合わせた」
「そういう時は『似あうのを選んだ』って言って欲しいな?」
「本物を選んだのは君」
「博物屋さんって女の子に優しくないんだぁ」
「テンプテーションして来る女の子にはね……ちょっと抑えて貰えると助かるんだが」
 二人の周囲には、先ほどから魔法の光がキラキラと瞬いている。
「イヤ♪ どこまで耐えられるか興味があるの」
 リーリスの魅了と精神感応が博物屋のガードとぶつかり火花を散らしているのだ。
――激しい夜になりそうだった
「美味しそうなきれいな色の炭酸ジュースを飲んで、可愛いケーキが食べたいな。ところで博物屋さんは甘いもの好き?」
 八重歯をチラつかせるリーリスに、博物屋も精いっぱいの余裕を作って笑顔で返した。
「好きだよ」

 淡いピンク色のソーダの入った細いグラス。
 一つ一つが小ぶりに作られたケーキは色とりどりのフルーツで飾られていながら、上品さを保っている。
「ほら、ここのホワイトチョコの飾り。ツンとすました鳥みたいで、君に似ている」
「私がすましていると言いたいの?」
「そう言ってみたい気分」
「ダメね。ガードが固くて何を考えているかわからないわ」
「ははっ」
 博物屋はするりとリーリスの手から食器を奪うと、その手を取ってホールへ出た。
 恭しくお辞儀をすると、そっと腰に手を回す。

「私が相手で良かったのかな?」
「好きな人? 居たよ、リーリスにも。でも死んじゃったの。もう名前と目しか覚えてないの。だから……もういいの」
「そっか。残念」
 事もなげに言って肩をすくめてみせるので、リーリスは魅了を強めた。
 周囲に飛ぶ魔法の光が、二人のターンに合わせて尾を引いて行く。
「博物屋さんは結構すごい魔法使いなんじゃないのかしらって思って興味があったの。そういえば、ナラゴニアから来たサキくんと恋仲だって聞いたわ。一緒のベッドに寝る仲だって。博物屋さんは男の人が好きなの?」
「誤解だ」
 博物屋は首を振った。
「お嬢さんは“そう言うの”がお好きなのかな?」
「ううん、知りたかったから聞いただけ。知識探求は魔術の基礎って習ったわ……違うの?」
「いや、違いない」
 光を撒く二人のダンスは息を飲むほど美しかった。





「まず、食事をしましょうか」
「はい」
 刹那が自然と前を行くのを見て、龍之介はエスコートされている女性のように慎ましやかな返事を返した。
 刹那がヒゲをピンとたてて振りかえる。
「龍之介様ったら」
 彼は楽しそうに笑っている。刹那は緊張した面持ちのまま、龍之介の隣に収まった。
「綺麗だなって思ってただけだ」
「もうからかうのはよしてください」
 実際、刹那は美しかった。黒猫らしいしなやかな体のラインに霞模様の地紋の描かれた振袖は良く似合っている。
 隣に立つ龍之介も長い黒髪を一つに縛り、仕立ての良い着物をゆるりと着こなしている。
「まぁ、こちらの魚は鮮度がすばらしい。この港で獲れたものでしょうか」
「これは豆のような…?」
「この肉はソースが絶品です! 龍之介さま、お取りいたしましょう」
 幻影とはいえ、ついつい主であった龍之介よりも先に毒身をしてしまう刹那であったが、どの料理も新鮮で美味しく。感嘆とともに、龍之介の皿を山盛りにしていってしまう。
「うん、これは城では味わえない味だ。ほほう、この飾りは花か?
 うーむ、凝っている」
 龍之介も一つ一つの料理を口に放りこんでは唸っている。
――城でも食べられないか、考えていらっしゃる
 刹那は龍之介の顔を伺いながら微笑む。彼は外で美味しい食べ物を見つけると、良く城でも作らせた。それは外では同じ食事を与えられない食いしん坊の忍者の為だったのだが……刹那は気づいていなかった。
 今夜は隣で。同じ食事を取っている。
 夢のようだ。
 一通り舌鼓を打ったのち、二人はテラスへと出た。
 先を行く龍之介が手を差し伸べてくれる。
「私、城を出てから色んなところへ行ったのですよ。そう、食べられない筍を取ったり」
「それは……なんとも不毛な」
「ええ、煮つけにできないなんて」
「ははは」
 龍之介が笑うのを見て、刹那は尻尾をゆるりと振った。
「それにみなさんと協力して大きなクラゲと戦ったり……」
 刹那の赤と青の瞳がじっと龍之介を見つめる。
 幻。
「わたし、龍之介様にはずっと感謝をしておりました。道具である私を人間として扱ってくださったこと。本当に言葉にならないくらい感謝していたのですよ」
 ぽろりと、大きな瞳から滴が落ちる。
「もう、お会いできることもないでしょう。
 でも今、お伝えできる事が私には嬉しい……」
 瞳を閉じると夜色の毛に涙だけが星のように輝いた。
「好きでした、愛していました……さようなら」


 見事な星空の下。
 それぞれの夜。


(終)

クリエイターコメント★ぷみさILより
この度は、WRさんの創って下さった楽しい舞台と
ご参加戴いた魅力的な皆さんの、手助けが出来ましたら幸いです。
それぞれの夜に幸多からん事を。
甘いのたっぷりごちそうさまでした!  [ぷ]

★灰色冬々WRより
この度はぷみさIL様と一緒にきゃっきゃうふふとOPから作業させていただきました。
OPは、
灰「NPCを誘って、ダメだったら代役で」
ぷ「代役するなら理想のキャラに相手して貰えるということにしたらどうでしょう」
灰「それなら最初からNPCか代役選べることにしちゃいましょっか!そうすれば字数も安心!幻影はうちのNPCに出せそうなの居ます」
ってかんじで出来ました。

ノベルとイラストは
灰「ビッ>服装について
ビッ>描写シーンについて
ビッ>博物屋について」
ぷ「ヒュバッ>衣装について
ヒュバッ>幻影について
ヒュバッ>博物屋さんについて
ヒュバッ>描写したいシーンについて」
以下シュビドゥバ
ってかんじでやらせていただきました。
非常に楽しかったです(満足げ)
御参加いただいた三名皆さまがこの夜を楽しんでいただけましたら幸いです。
ありがとうございました。  [灰]
公開日時2013-01-30(水) 21:30

 

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