壱番世界――日本のとある山奥の廃神社 人が訪れることが久しくない。 木々にまぎれて苔むした狛犬だけが守っている。 時は未明。 霜柱が静かに育っている。 冬の夜は新しい年を迎えようとしていた。 そして、静謐は突如として熱気に破られた。 水たまりに凍り付いた雪が踏み荒らされ、鳥や狐が慌てて逃げ出す。 螺旋特急ロストレイルが図書館を代表する荒くれ者達と……一匹のセクタンを解き放った。「うららーー!!」「どけどけー!」「ううおぉーー!」 逃げ惑うセクタン追いかけ益荒男達が荒れ狂う。 明るくなり始める山を火炎が舞い、爆風が通り過ぐ。 炎にあぶられた万年杉は抗議の葉を散らした。 純白の褌が高らかに翻り、肌と肌がぶつかり合い、血と汗が飛び散る。 彼らの目的はセクタンを参道登った神社に奉納することだ。 今年の福男は……「「「俺だ!!!!」」」●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
かがり火に照らされた参道がうすぼんやりと伸びていく。 夜明けが近い。 「えっ…褌一丁になれって、マジっすか? 褌以外は着用禁止ですか? 勘弁して下さいよぉ~~。自分、金属が無いとダメなんです。金属と一緒じゃないと死んじゃう病なんです! 裸になれ、ですか? は~い♪ なんでしたら、褌無しでも構いませんよー、なんてですね。ははっ」 「ドウダ、おまえ、エイブラムと同類になりたいのか」 レーシュは同田を挟んでエイブラムに警戒している。 話題のエイブラムの褌は黒地に金糸で火蜥蜴が刺繍してある立派なものだ。 「ポロリOKな親切対応さ!」 そう嘯くと、刺繍がぼやけた。光学迷彩を褌にもかけたようだ。 「それって刺繍意味なくない?」 「ちゃんと動けばなんとなく火蜥蜴が見えるような気がするだろ」 「いやいやいや」 そんな同田の肩をエイブラムがぽんと叩いて、なにやら鈍色の塊を渡す。しゃらっと手から流れ落ちそうになって慌てる。 「アンタのためにかしめたんだ。鎖かたぴらの褌にすれば大事なところはちゃんと隠れるってもんよ」 「っ!」 同田が着替えにいなくなり、エイブラム、レーシュに緊張が走る。 「くはははっ、いいねぇこの熱気! こういう荒事は嫌いじゃないぜ」 オルグも楽しそうだ。 そして、最後の一人クージョンは一人晴れ着姿、紋付き袴である。それにカメラを構えている。 「僕は詩人。物語を見届け――語り継ぐのが役目」 そこに同田のセクタン――バレットが戻ってきた。三人の視線が集中すると、バレットは後ずさる。 「スタート……だな」 「ドウダは待たなくて良いのか?」 「なんのためにあいつに『贈り物』したと思っているんだ」 「なら仕方がねぇ」 言い切ると同時にオルグが飢狼の瞬発力で飛び出した。やばい。バレットも脱兎のごとく逃げる。 木々をくぐり抜け、潰走。 オルグは地を這い、ジグザグに追撃。 練術強化をかけたレーシュが続き、狼がくぐった樹枝を粉砕しながら突進した。 パレットがホンモノの犬だったらとっくに腹を見せて降参していたところだろう。 そして、エイブラムは不敵に笑うと泰然と参道を歩み始めた。 † 「ようはいち早くセクタンをとっ捕まえて、神社に奉納すりゃいいんだろ? 足には自信があるんでな。ここで稼がないと」 全力でセクタンを追撃するオルグは、背後に竜人レーシュが迫っているのを感じた。 「単純なこった、力こそパワー! ってか?」 オルグはレーシュの攻撃に備え、煌拳をいつでも打てるように緊張した。コロッセオでの借りを返す機会でもある。 一方、レーシュはオルグとは微妙に距離を取りながら進撃していた。 「紳士的だな」 「お前に攻撃はしねぇよ、攻撃は……よ。大事な身代わりだからな?」 「身代わり!?」 林の中は見通しが悪い、と、くぐり抜けようとした枝から光がきらり、横切るのが見えた。 ――蜘蛛か その瞬間、オルグの全身に衝撃が走った。 電撃……ならば敵はエイブラムだ。 立ち止まるべきか、そのまま駆け上るか一瞬躊躇したが、セクタンのバレットを見失っては元も子もない。 ダメージを押し進むことを選択した。 瞬く間に、柴犬によく似たドッグフォームにせまり、オルグの牙が容赦なく迫る。 ――横殴りの衝撃 † 「Σぎゃーー!? バレットおおぉぉ!!」 鋼鉄製の褌に履き替えた同田。 ギアのウィンチェスターM1897から煙がたなびいていた。 引き金には指に引かれたまま、脇で押さえてフォアエンドを前後させ装弾を撃発させる。この間、一秒にも満たない。12ゲージの第二派が容赦なくオルグを襲う。毒入りだ。 「てめっ、やめろふざけんなっ! ぶっとばすぞ!!」 同田は、手が焦げるのもかまわず銃身を握りしめ、獣人に飛びかかっていった。 銃床をメイス代わりにM1897を振り回して、毒と衝撃にくらくらするオルグのドタマをかち割らん勢いだ。 「クソが! これはレーシュのための一撃だったのに!」 ブチ切れたオルグはついに煌拳を発動。 獣人の拳が黄金の輝きをまとい、朝靄を閃る。 「おらぁ!」 ――このままでは大切なバレルに傷が付く! 同田はとっさにM1897を引っ込めて、顔面を獣人の拳にさらした。 眉と前髪が燃え、まぶたが焦げる。 「コンダクター舐めないでく…ださぃ……」 † レーシュはセクタンを捕まえて境内に躍り出た。 むろん、作法は知らない。 賽銭箱が見える。 あとはこいつを放りこめば福男だ。 「ホモに狙われとる気がするが……気のせいだったか」 人の気配はしない。 鳥居から一気にゴールを狙おうと、朝靄を切り裂きジャンプ。 しかし、鳥居を踏んだ瞬間に赤竜人の前身に電撃が走る。 セクタンは暴投となって明後日の方向へ消え、レーシュは地に墜ちた。 砂利が痛い。 そして、痺れる体にむちを打って頭を上げると、ゴールである賽銭箱が鳴動した。 がたっと桟の格子が跳ね上げられ、男が姿を顕す。 エイブラム。 「貞操の危機だ……」 レーシュは勝負を捨てたとばかりに、回れ右。林に向かって逃げ出した。 追いすがるエイブラムの気配。 麓へと下るレーシュ。と林を登る満身創痍のオルグがあらわれた。 その手にはセクタン。 「オルグ。悪いが、おまえには身代わりになってもらう」 オルグはとっさにセクタンを手放すまいと身構えたが、レーシュはその脇をすり抜けていった。 ――!? そこに怪鳥音を発しながらエイブラムが襲いかかってきた。褌はどこかの枝に引っかかったのか引きちぎれている。モザイクががった股間がオルグの眼前に広がった。 ……略…… 「やべぇ、セクタン見失った」 「どうする」 「一時、休戦だな」 † 同田が神社に近づくとしっぽを振るバレットが待っていた。 主人の腕に収まって、はっはっと身をよじられる。 そのまま、同田は参道を駆け上がった。 唐突に同田が悶絶して冷たい石階段に倒れ込んだ。エリブラムのしかけた線が鎖の褌を引き……。 「○毛が鎖に絡まった。僕はこんなに鋼達が好きなのに……」 見届け人はカットとつぶやいてゴールにカメラを向け直した。 † 同田を心配そうに見上げるセクタンを残った三人の中でぬきんでたレーシュがかっさらった。 鳥居を駆け抜け、今度こそ間違いが無いようにジャンプ。上空からつっこみ、竜人の体重で本殿の天井をぶち破る。 そして、哀れなセクタンの頭を掴んだまま、豪快に賽銭箱にたたき込んだ。 「福男はレーシュさんで決定だね! おめでとう!」 クージョンは撮影しながら惜しみない拍手を贈った。 「ずいぶん楽しそうだったね。来年は僕も走ってみようかな? そういえば僕以外は普段も裸じゃないかな?偶然って凄いね。」 涼しい顔である。 カメラを境内に集ってくる敗者達にも向ける。騒動のなか、空気は清涼で苔が香る。新年の香り。 ぎしぎしと木々がこすれる音が日の出の静寂を破る。 レーシュが大穴をあけた本殿は歴史の重みに耐えかねて、崩れた。 降ってくる木辺はクージョンをかすめ、それは詩人の紋付きを引き裂いた。 † 「お前が福男だ」 「やった! 今年はいいことがあるぞー!」 勝利の油断にエイブラムがタッチ、電子糸が絡まる。 微弱電流に神経をとられ身動きが取れない。 こっこれは……藪に連れ込まれてアッーー!!! の流れ! 「結局今年も不幸だああああああああああ!!」
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