我々はこの場所を知っている! いや! この景色とこの場所の名前を知っている! ヴォロスの南の端。 そこにある古びた街の最奥に続く深い森のさらに奥。深々としげる緑に侵されるように、階段状のピラミッドがそびえていた。壱番世界アステカの太陽の神殿にも似たその階段上、祭壇となったその場所に人影が揺らめいている。 手にしているのは石で出来た古びた面。それを手にしたその人影は、その面を自らの顔面につけると、片側の手につけていた血のりを面になすりつけたのだ。 鈍い音が響く。 面から飛び出た骨針は面をかぶっていた者の顔面に深々と突き刺さった。 面をかぶっていた者はつかの間全身を震わせた後、しかしやがてほどなく歓喜の声を張り上げたのだ。 神殿に、森にとどろくその咆哮に誘われたように、いくつかの人影が神殿の階段下に辿りつく。 神殿を囲む樹林はクリスマスツリーの様相を呈した飾りつけをなされていた。いまだ片付けられていないその木々はに飾られた電飾が、不穏な色をたたえた咆哮にそぐわず、のんびりと明滅している。「かかってきなさァ~~~いッ ロストナンバー!」 石の面をかぶった者は階段下に控えこちらを仰ぎ見ている者たちを見下ろし、勝気に笑う。「どうした? この面をかぶり、ロストナンバーを超越したこの身をどかしてみろ……おれがどくのは、道にウンコが落ちている時だけだぜ」 言って、面で顔を隠したその人物は実に奇妙な立ちポーズを決めた。 何の前後の脈絡もないが、どうやらこの男(?)をどかさないと大変なことになるらしい。 例えば神殿の周囲に立つ、撤去の忘れられたクリスマスツリーが破壊されるなどの恐ろしい事案が起こるかもしれないのだ。 そうして、ロストナンバーたちは知るだろう。 そうッ! これが! この風景がッ! 夢の中での出来事なのだという事をッ!!●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
「え、なに? 石で出来た仮面とか、何か気持ち悪いなあ」 神殿上で吠えていた謎の男の頭を後ろから殴りつけた後、アステは手の中の岩を放りやってからしゃがみこむ。 「しかもこれ血ですごく汚れてるし。こんなのつけるとか、頭イカレてんじゃないのかな」 言いながら石仮面を拾い上げたアステは、父親の書斎で似たような仮面を目にした事があったような気がして首をかしげた。 その眼下には白衣を身につけた少年がひとり立っていた。その背後、全身をふさふさとした毛並みの中型犬の姿がある。ふたりとも思うところあるような面持ちでアステを見上げていた。 「あれは危険な仮面だ」 白衣の少年――スカイ・ランナーが重々しく口を開く。対する中型犬――ふさふさはのんびりとした構えで首をかしげた。 「はふぅ」 「そうか、やはりそう思うか」 「わぅふ?」 「そうだ。あの仮面は破壊しなくてはならない」 神妙な面持ちでうなずくスカイ・ランナーは、ふさふさの言葉を解してはいないようだ。 ふさふさは、けれどそんな事などどうでもいいように、アステがいる祭壇を目指し階段に足をかける。 アステは石仮面を手に、まだしげしげと眺めていた。 神殿の上空、アコルはとぐろを巻き、眼下で瞬くツリーを見つめていた。 「……いやー。これ、夢の中じゃしのう」 アコルは精神に関連した神に類される存在だ。夢の中じゃもの、言うてしまえば何でもありになってしまうからのう。呟きながら、アコルは祭壇からパクってきた酒に舌鼓を打つ。 「まあ、巳年じゃし? ワシ蛇竜じゃし? 神じゃし? アステカっちゃあ蛇竜祀ってたっていう話じゃし?」 夢の中では都合よく酒も尽きることを知らないようだ。 アコルは満悦で酒をあおる。欲を言えばこの場にオネエチャンがいないことか。ぜひともメイド服の脱衣の順番も詳しく知りたいところだが。 ふさふさが階段を駆け上がった後もアステはまだ石仮面を手にしたままウロウロと迷っていた。時おりチラチラとふさふさの顔を盗み見てくるその様は、まさに”押すなよ、絶対に押すなよ”的なものを連想させる。 ふさふさはアステから少し離れた場所にうつ伏せで横たわっている男を見た。声をかけてみたが返事はない。ただのしかばねのようだ。というよりもふさふさはアステがこの男を殴り殺すのを見ていたのだから、それは明らかな話だ。 「はぁふ!」 ふさふさはアステの顔を覗き見て声をかける。 「はぁふ!」 「……え、なんだよこの犬」 近付いてきたふさふさに、アステの足が半歩ほど下がった。そしてふさふさはそれを見逃さず、アステがさらに下がるのよりもはやく動く。 ドギュウウゥゥン!!! どこからともなく響いた擬音と共にふさふさの体から大きな影が出現した。が、アステには見えていないようだ。 「一部二部限定じゃなかったかのう」 上空から見ているアコルが何事か呟くが、その言葉がもつ意味など解することが出来る者はいない。 「やれやれじゃのう」 アコルは浅く息を吐いた後、再び酒を口に運んだ。 ふさふさから顕れたそれの名はクラウド・コネクティッド!! ふさふさは、石仮面を持ったままおろおろとしているアステの顎をギアでさする。 「はぁふ!(原始人は鳥にスタンド攻撃された気になるでしょう)」 しかし、ふさふさのギアで顎をさすられたアステはッ! 次の瞬間、その眼光を鋭く光らせたのだッ! 「KUAAAAAAAAA!!」 突如奇声を発し雄々しく立ち上がると、アステはそのまま手の中の石仮面を高々と掲げた。 「僕は人間をやめるぞ! 那智――――ッ!!」 一方その頃。スカイ・ランナーは石仮面をかぶるアステを見て吼えていた。 彼が所属している”企業”では石仮面に関する調査を行っていたのだ。彼が今この場にいるのも、それに関連した調査のため。 企業は特に老人を拘束したりもしてはいないし、あやしげな光線を放射したりなどの行為もしてはいない。が、スカイ・ランナーはなぜか石仮面をかぶることでどういう変化が起きるのかを知っていた。 「夢じゃしのう」 上空でアコルが小さくうなずく。 さておき。吼えた後、スカイ・ランナーは身につけていた白衣をわざわざ大仰な所作で脱ぎ捨てた。それと同時、少年であった彼の容貌は人間のそれから大きく逸脱した、鳥のそれへと変じていたのだ。 「わぅふ」 ふさふさが口を開く。その目は鳥人へと身を変えたスカイ・ランナーを見つめている。が、発した言葉には特に意味はないようだ。 アステは石仮面を外し、いつの間にか神殿の壁に張り付いていた。こちら向きで、上下逆さまに。 「僕は……! 僕こそが悪のエリートッ!」 歓喜を満面にたたえ、アステはため息をもらす。自分の体が超人的な能力を得たような感覚で満たされているのだ。 「うおおおお!」 鳥人へと変じたスカイ・ランナーが身構える。彼の肉体は企業によって改造を施され、サイボーグ化しているのだ。構えた両腕肘部には重機関砲が、両脚膝部には紫外線照射砲が内蔵されている。それぞれが見敵必殺のための武器なのだ。 自らのサイボーグ化した肉体を誇示するようなポーズを見せたスカイ・ランナーの上空、アコルはまだのんびりと酒を口に運んでいた。 「飲んどる場合かーッ!」 発せられた砲撃がアコルの酒を直撃する。 「ふおおおおおお!!」 破壊された酒の壺を抱え、アコルは悲痛を叫ぶ。 それらを横目に、ふさふさは現出させたクラウド(略)と共に大きく吼える構えをとった。 「はぁふ! はぁふ!(0世界の技術力は」 「我が“企業”の科学力はァァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ」 「は()」 だが、ふさふさの雄叫びはスカイ・ランナーによって遮られる。スカイ・ランナーのテンションは、石仮面をかぶったアステを置いて、今やマックス状態だ。 しかし言葉を遮られたふさふさの目には静かな怒りが揺らめいている。 「わぅふ(どかす? 私には関係の無いことです)」 ドギュウウウン! またもや効果音がどこからともなく響き、ふさふさのクラウド・コネクティッドが雄叫びをあげた。 「あふぅ(それよりも鳥を倒さないといけません)」 言うが早いか、ふさふさは再びギアを出し、今度はスカイ・ランナーにタッチする。 ――私のクラウド・コネクティッドは! ギアもしくは本人が触れた相手の右手を左手に、もしくは左手を右手に、もしくは両手を逆に変える能力ッ! 「絶望ォに身をよじれぃ、虫けらどもォオオーーッ!!」 神殿の壁に張り付いていたアステがスカイ・ランナーとふさふさの前に降り立つ。気持ちも大きくなっているようだ。 待ち構えていたようにスカイ・ランナーが四肢を構える。だが彼はスデにふさふさの攻撃を受けている。両手が逆になっているせいか、一分間に600発の鉄甲弾を発射可能な彼の重機関砲の命中率は著しく落ちていた。 「わ! わ!」 攻撃を避けながら、アステは叫んだ。 「HEEEEEEYYY! あアアァんまりだアアア」 言いながら泣き伏したアステの上空、アコルはひとり、割れた酒の壺を抱えながら三人を指差し告げる。 「目が覚めた後、次にお主は「え? 夢オチなの?」という。 ……最終的に、性欲を満たせれば良かろうなのじゃァァァァッ!! メイド服ゥゥゥ!」 言いながらアコルが去った後。三人が目を覚ますのは間もなくだ。
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