年の暮れも押し迫った、閉店後のクリスタル・パレス内。 ホワイトボードを持ち込んで、急遽、従業員全員による総会が行われていた。 議題は、年越し便での、従業員慰安旅行の行き先である。 懸案事項が山積みのまま年末を迎えるターミナルではあるが、しかし考えてみれば、世界図書館はつねに慌ただしかったのだ。「いろいろあったけどさー、そんで、これからもっといろいろあるだろうけど、ひとまず、リセットしようぜ」 とは、マーカーを手にしたシオン(シラサギ)の弁である。「とりあえず、みんなの希望を聞こうか。どの世界で何をしたい?」「はいはーい!」 真っ先にハツネ(あさぎ色のウグイス)が手を挙げる。「ニューヨークのカウントダウンイベントを見に行きたいですー! ロバート卿が痛快に金にモノ言わせてくれたホテルのスイートルームでっ!」「そういえば、御面屋どのが石仮面をかぶって云々的な噂を聞いたのだが。テーマを『人間讃歌』とし、仲間たちとの絆や強敵との死闘、王道を行きながら実験的、そんなツアーを企画しておられるような……、そんな夢をみたような」 グスタフ(金のガチョウ)が眉間に縦じわを寄せ、人生の一大事のように真剣に考えている。「そういえば、皆がいろいろ企画してるみたいだな。悩むなぁ。リリイさんとヴォロスの船上パーティーもたまらんし、竜星の温泉街へのツアーもいいし……、シャハル王国には、緋穂ちゃんとユリアナちゃんと夢幻の宮ちゃんが行くんだっけ。いいねぇ、綺麗どころと親睦を深めたいねえ」 ジークフリート(無駄に美形な七面鳥)は、自らまとめたメモをめくる。「インヤンガイのランタンフェスティバルにも心惹かれるし、あ、インヤンガイでは新年早々の運試しもあるのか。ランタンといえばブルーインブルーでも水没する島で天灯を空にあげるらしいな。願いをこめて天灯を飛ばすか、常夏のビーチでハメを外すか……」 そこまで言って、ジークフリートは、はっとなった。「メイベル嬢が新しい水着を買うだと!? 俺を誘っているのかそうだなそうなんだな!」「落ち着いてジークさん!」 小町(スズメ)が、メモを覗き込む。「モフトピアで、アニモフさんとお正月を迎えるのも捨てがたいし、初春もふもふダイビングで一本釣りもうっとりだし、ああん、どうしよう。マホロバの神社に、着物で初詣するのもいいし、朱昏の山寺で、除夜の鐘を聞くのもたまんないわ。アルカトゥーナで年越しの宴も素敵だし、ブルイーンブルーで、アドさんをもふりながら、海魔討伐と宝探しもいいなー。はっ! ブルーインブルーで豪華帆船船上パーティもあるのよね〜。やーん、誰かお誘いしたいー!」 両手を頬に当て、目をきらきらさせている小町たんだった。「(*^_^*)(=^▽^=)……!☆(訳:いやいやいや、ここは何といっても、壱番世界の山奥の廃神社でふんどし祭りじゃなかろうか。……ん? なんだって? ウィリアム執事とヴォロスのジャングル温泉で混浴……? それは……、なんというレアな……!)」 無口なペンギン料理長(大きめの皇帝ペンギン)は、めくるめくイメージに百面相中であった。 従業員たちが、ああでもないこうでもないと、楽しげにきゃっきゃウフフしている中で、ラファエル(青いフクロウ)はひとり考え込んでいたが、やがて、ぽつりと言った。「……私は、温泉でゆっくりしたい」「えっ」 シオンがぽろっと、マーカーを取り落とす。「店長……。ごめん気づかなくて。そうか……。そんなにウィリアム執事と混浴したかったのか」「私とだと『混浴』にはならないぞ? というか、そうじゃなくてだな」 マーカーを拾い上げ、ラファエルは【モフトピアの温泉旅館】と記入する。「私が転移したときにお世話になった浮き島の子ギツネアニモフさんがたは、温泉旅館を運営しておられる。身も心も疲弊していた私は、彼らによって癒された。いわばあの浮き島は、第二の故郷といえよう」「あー、店長、あそこ好きだもんなー。慰安旅行つったら、あの温泉旅館で、子ギツネ女将としみじみ話し込んでるもんなー。それはそれでいいんだけど、もうちょい、目新しさがほしいかな」 モフトピアの温泉旅館、と記された上から丸をつけ、矢印を引っぱり――【その隣の浮き島群で、新春等身大すごろく大会! 晴れ着でも浴衣でも普段着でもOK!】 と、シオンは、でかでかと書きなぐった。 ■□ ■□「 等 身 大 ? 」「 す ご ろ く 大 会 ? 」「 な に そ れ ? ? 」 口々に言い交わす鳥たちを、シオンはにんまりと見回す。「ふふーん。実はなぁ、あの温泉旅館の近隣には、ちっこい浮き島がずらっと並んでて、さあ、すごろく大会のコマとして使ってくれ! いろんなイベントコマがあるぞ! ラヴもカオスもどんと来い! と言わんばかりの光景でさぁ。いっぺん、やってみたかったんだよなぁ」 ■□ ■□●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい
——その名も、『おんせんりょかん島』。 ここは、子ぎつねアニモフが温泉旅館のスタッフとなり、旅人たちを出迎えてくれる浮き島である。こうなっちゃったのは、ラファエルが転移したとき、ピュアなアニモフたんズにいらんこと教えたからだが、アニモフたんズはごっこ遊びとしてとらえ、現在に至っている。 「いらっしゃいませー」 「ませー」 「ませー」 子ぎつねたちに盛大な歓迎を受け、4人が通されたのは、ふわんとしたパステルカラーの大部屋だった。 50人は雑魚寝できそうな広さである。クリパレの従業員たちは全員鳥状態で、はしゃぎながら飛び回っているため、こう、「しっとり」とか「ゆったり」とかな風情とはほど遠いが。 とはいえ、脇坂一人は、ずっとペンギン料理長と、しみじみ語り合って(?)いた。彼の落ち着いた和装は、穏やかな渋ささえ感じさせる。 「……淑女でいたいのよね」 「(p*・ω・)p……!(訳:脇坂さんは、そのままで淑やかですよ!)」 「でも最近、キャラがブレ気味で……」 「(ヾノ・∀・`)(訳:ブレも新しい魅力の開花です)」 「モフトピア、来てみたかったからうれしいですわ。……でも」 パティ・ポップはつぶらな瞳を輝かせた。が、鳥たちをチラ見し、ため息をつく。 実は、パティの使い魔ズ、ラッキー・ルル・レミ・ロムの4匹のネズミたちは、ときどきクリパレの裏口に待機し、食材のおこぼれをいただく機会を狙ったりしているので、ちょっと、後ろめたいのである。 「……あなたたち鳥も、一緒ですのね? ……まあいいですけど」 「ちょ、パティ姉さんのツンの切れ味が鋭いなぁ! すんませんね、いちお、これ、従業員の慰安旅行なもんで!」 シラサギ状態のシオンは、空中でふぁさふぁさとホバリングしている。 「や、シオン。お前もKIRIN仲間だよな? お互い、魔法使いにならないよう、がんばろうぜ」 坂上健が、にこにこと声を掛ける。 「えっ? いきなり仲間認定!?」 ぽて、と、床に落ちたシラサギをよそに、健は同行者たちに笑みを向けた。ここ、ドレスコードないよね、という彼は、カジュアルな普段着での参加だった。 「ほとんど初めましてかな? 一さんとはすっげぇ昔に挨拶したっけ? コンダクターの坂上健です。警官志望の武器ヲタクです。宜しくお願いします」 「こちらこそよろしくお願いします。一一 一です」 一は、旅館に着いてすぐ、浴衣に着替えていた。爽やかな青地に朝顔柄の、彼女らしい装いだ。 「あれ? 一さんてコンダクターだった?」 「違いますよ!? よく間違えられますけど」 「でもセクタン連れてるじゃん。なあポッポ」 健は、自身のオウルフォームのセクタンと、一が抱きかかえている青いフクロウを見比べる。 「これラファエルさんですよ。いろいろお疲れみたいで、ロストレイルの中で寝ちゃってて、だから」 一はずっと、爆睡中のラファエルを介抱していたのだった。店長の役得にむっとしたシラサギが飛びあがり、くちばしでざくざく突く。 「起きろよ店長! JKの胸でいい夢みてんじゃねぇよ。てゆうかおれと代われぇぇ!」 シラサギは強引に、一の腕の中にもぐりこむ。 「一、おまえは正義だ」 「はいぃ?」 「その浴衣は正義だ。いや世界の〈真理〉だ」 ……結局、一は、鳥二羽をまとめて抱っこして面倒みる羽目になった。 ♡♡ ♡♡ ——で。 休憩もそこそこに、なし崩しに、すごろく大会は始まった。 コマに見立てた浮き島には、子ぎつねスタッフが矢印看板を持って待機している。 「そうだ、私、面白いもの持ってるんですよー!」 一は、エナメルバッグからそれはそれは巨大なサイコロを取り出した。なぜ、これが収納可能なのかは聞かないお約束。乙女のバッグは亜空間なのだ。 「優勝を狙いますわ!」 「目標は全コマ制覇だろう! 漢の道は一期一会、ゆえに極めることこそ漢道!」 「どうせやるなら目指せ一番ですよね!」 「カオスとか要らないから……。ネタ振ってないから……」 それぞれの意気込みを胸に、今、運命の賽が振られる……! 【健くん&パティさん回】 初対面のふたりは な ぜ か 同じコマにばかり止まっていた。 「疾きこと風の如く……、やった! 依頼で大活躍のコマ、アーッ?」 「きゃーっ」 どんでん返し&リア充は落ちろのコマで、ふたり仲良く落下。 「フ、フフン。徐かなること林の如くって言うだろ」 「そうですわね」 胃が痛んだ話コマで、ふたり仲良く1回休み。 「ギャー、火の如く侵掠されたー」 「いやぁぁ」 特にオチのないコマに止まり、ゴール直前でスタートに戻ってしまった。 「怪我はないか?」 「はい、大丈夫ですわ」 あまりの息の合いっぷりに、もしやリア充カップル誕生かと思われた、が。 「……自分の夢を叫ぶまで無期限休みコマ? 警官になりたいぞ彼女が欲しいぞ魔法使いになりたくないぞぉぉぉぉ!」 「あたしは魔法も使えるのですわ!?」 若干、世界観の不一致があったようである。 【一人さん&一さん回】 別に狙ったわけでもないのに、なぜか一一コンビが爆誕していた。ホラ新年だしね? そんなこんなで、こちらもふたり揃って絶賛カオス街道まっしくらである。 「なんでしょうねこのコマ? ……わかった欲望のコマだ。わー、美味しそうな食べ物がいっぱい」 「……(マッチョで渋くてワイルドな紳士各種の幻覚を見ててときめきが止まらないなんて言えないわ)」 「わわわ、眼鏡増えてますよ?」 「なんで眼鏡が!」 「うわわわわわー! 空から子ぎつねアニモフさんが大量に降ってきました。お仕事ご苦労様です!」 「……(可愛いものがいっぱい)」 「オウルフォームセクタンが巨大化してますよっ?」 「あれ? ポッケちゃん。いつの間にこんなことに! というか、ドングリフォームだったはず?」 「すみません私です」 「「ラファエルさん?」」 「ポッケさんは避難いただきましたので、ご心配なく」 「カオスに負けちゃいけません。お気をたしかに!」 「大丈夫。耐えるから。構わず行って……。辛くとも挫けていては、恋も農家もツッコミもやっていられない」 「わかりました。がんばります!」 ふんぬ、と、気合を入れて、一はサイコロを振る。 「一一一のドキドキ2013年予想ー! 今年はもしかしたら意外な人と再会しちゃうかも! 長年の蟠りに決着をつける大チャーンス! 根拠は乙女の勘でっす!」 ♡♡ ♡♡ 乙女の勘と予想はカオスに吸い込まれ、4人は雪だるま状態で同時にゴールした。 宿に戻ってのち、健は勇んで温泉へ行った。一人は温泉宿の風情を楽しみながらも、パティと何か盛り上がっている。……どうやら、スキンケアの話のようだ。 女子力の高いふたりをよそに、一は、先ほどから百面相をしていた。 「どうしました、一さま。ご気分でも?」 「あっ、いえ、その」 ラファエルに問われ、ようやく、懸念事項を伝える。 樹海で、ロック・ラカンと遭遇したことを。 「そうですか。ロックは今、リオードル公のもとに」 「あの……、ロックさんとはどういう?」 「いささか、込み入った経緯がありまして。日を改めて、お話したほうが良いかもしれませんね。よろしければ、休業日にでも、お訪ねください」 「おんせんまんじゅう、どうぞー」 子ぎつね女将が、お茶と温泉まんじゅうを配り始めた。 モフトピアの夜は、更けていく。 ——Fin.
このライターへメールを送る