ラエリタムは空からの脅威、フォールスと戦っている世界だ。 前回の訪問結果を図書館が分析した結果、生物型フォースについては指揮官型は全てファージであると導きの書が示した。つまり生物型についてはファージの同族支配能力で統制を取っていることになる。一般タイプに通信機能が見つからなかったのも必要ないからだろう。 しかしまだまだ疑問点は多い。特にフォールスと人工生命体の類似性然り、先史文明との関連性が随所に見受けられるのは何故なのか。こちらについては幾つかの推論が出るにとどまり、引き続き調査が必要だろうという見解で一致した。 ラエリタム側から先史文明遺跡の共同調査が持ちかけられたのは世界図書館にとっては渡りに船だった。「例えば、それは真相探求」 リクレカはいつもの調子でロストナンバー達に告げた。「硝煙の風・ラエリタムの研究機関より、AFOを通じて新たに発見された先史文明遺跡について共同調査を持ちかけられました。これに同行し、先史文明に関する情報収集をお願いします」 映像端末の内容を映したスクリーンには、遺跡の概略と思われる図が映し出されていた。「今回の遺跡は陸戦で奪還した地域に埋もれていたものになります。現地の準備及び先行調査で安全は確認されています」 図を見る限りでは、何らかの複合研究施設と思われる。具体的にどのような研究をしていたかはこれからの調査で判明するだろう。「先行調査で気になる内容があったそうです。あちらとしては主にこの分野に関して私達の協力を得たいのでしょう」 いつもの映像資料の他に、今回は紙資料も用意されていた。それはラエリタム側の人員要望書のようなもので、特に宇宙開発関連の知識が求められているようだ。資料には気圏外居住地の代表格である衛星ドーム都市やスペースコロニー、ワープ技術と思われるリープゲート、なにやら物騒なプラネットカノンなんて言葉まで並んでいる。「あちらに協力しつつ、こちらとしては先史文明とフォールスの関連性について調べていただけると助かります」 少なくとも生物型フォールスはファージの統制下で動いている。放置すれば危険なのは明らかで、今は少しでも多くの情報が欲しい状況だった。ラエリタムのファージに関しては導きの書も曖昧な事象しか示していないのが現状だ。 先史文明に明確な何かがあれば大きく解明されるかもしれないし、あるいは大天災までは生きていた施設なのでそのあたりから分かることもあるかもしれない。 最寄りの地下駅でロストレイルを降り、現地までは学者と一緒に兵員輸送車で案内された。 先史文明遺跡は現代と仕様が異なるため、特に電気機器系統の復活には数ヶ月かかるそうだ。電源となる発電生物の培養はもちろん、通電時に漏電がないかなど確認事項が山ほどあるのだ。どういうわけか落雷を受けたような故障もかなりの頻度で見られるらしい。 他にも換気のための通気口確保など地中に埋もれていたが故の準備もある。当然言語も現代と異なるので、資料読みや機器制御にも専門家が求められるのだ。そのあたりもこの世界で学者の評価が高い理由なのだろう。 そんな感じで雑談していると、程なく車両が止まりハッチが開かれた。 アスファルトで固められた斜面の先。大きな鉄の扉が開かれるのを待っていた。
開閉ボタンが押されると、扉は重い音を立てながら開かれた。 「凄いですぅ……先史文明で最先端技術でオーパーツ……どこにも隙がないときめき満載プレイスですぅ☆」 蛍光灯のようなものに照らされた明るい廊下に、興奮を隠さず川原撫子は足を踏み入れた。 「撫子さん、撫子さん? 息が荒いですよ撫子さん」 腕を引かれて宙に浮いてしまっているのは限りなく猫に近いこぶたのぬいぐるみことリッド。覚醒のきっかけになった世界だし気になっているだろうと撫子が調査に誘ったのだ。 「軽い興奮状態のようですね。問題はありません」 そんな撫子の状態を冷静に分析しながら、ジューンは念のためサーチで安全を確認した。結果はオールグリーン、つまり問題なしだ。不測の事態に備えてか撫子の荷物には釘バットもあるのだが、今回出番はなさそうである。 「これで準備は万端なのですー」 少し遅れて、膨大な電子資料とにらめっこしていたシーアールシーゼロが輸送車から降りてきた。彼女といえば巨大化能力だが、今回巨大化したのはハードではなくソフト、具体的には並列処理能力と演算能力を超巨大化していた。いわば歩くスパコンである。もちろん彼女の特性上処理限界能力も記憶容量も無限で、世界図書館の宇宙開発関連資料を全て記憶した上で、ラエリタム到着後は現地研究所で借りた先史文明言語の資料を移動時間に記憶していたのだ。 「おおー? 電気系統は復活しているのですー?」 「まあ、ある程度回復させておかないと調査になりませんし」 完全復旧というわけでもないですけどね、と学者が答えた。言われてみればもっともだが、雑談の内容が内容だったのでひょっとしたらと少しだけ思っていたゼロとジューンだった。 一行は最初の事務棟と思われる施設を抜け、調査用に掘られたトンネルをくぐって宇宙関連資料のある建物へとやってきた。所々にあるひび割れが大天災の衝撃を物語っているが、立ち入り可能な程度で済んでいるのはむしろ幸運な方だったのかもしれない。 案内された研究室では、先行していたらしい学者が先史文明のコンピュータと格闘していた。 「プロテクトはまだ解けないのか?」 「結構骨が折れますね」 どうやらプロテクトがかけられていて容易には中が見られないようだ。 「お手伝いしましょうか?」 申し出たのはジューンだ。カンダータでも幾度となく電子戦を繰り広げた彼女にかかればそう時間をかけずにプロテクトを解除できるだろう。 それでも多少は時間がかかるということで、ゼロと撫子は部屋にある紙資料や修理済みの携帯式電子端末を学者達と読み解いていった。 「衛星ドーム都市は竜星のとほぼ同型みたいですぅ☆」 イータム関連資料の電子端末をロボットフォームの壱号や古代言語学者と一緒に見つけたのは撫子だ。 どうやらイータムには6つのドーム都市の他、軍事関連施設と宇宙港が4つずつあったらしい。壱番世界の月と比べると起伏に富み山がちな印象を受ける。軍事関連施設には生産や研究施設、宇宙港にはドッグやマスドライバーが設置されていた。 (竜星ではヘリウム3を採取してましたけどぉ) 同じ施設がイータムにもあるのではないかと調べてみたが、出てくるのはチタンやタングステンなど鉱物の採掘施設ばかり。発電設備に関する資料によると、この世界のヘリウム3は主にルティナというガス惑星で採取されていたらしい。 「なんだか学校っぽいのですー」 一方、紙資料に片っ端から目を通していたゼロはそんな印象を受けていた。研究資料や論文はもちろん、作成途中のレポートなんてものも沢山あったのだ。壱番世界でも広大な研究設備を持った大学や研究学園都市などがあるので、ここもそれと同じような場所だったのだろうか。となると、研究分野はかなり多岐に及んでいそうだ。 「プロテクト解除完了しました」 封印を解かれたコンピュータの画面がスクリーンに映し出された。デスクトップに設定されていたのは壱番世界の太陽系に酷似した図で、ヴァーラ系と記されている中でラエリットは第3惑星に位置していた。ヘリウム3採取源であるルティナは第5惑星だが、太陽系と違いヴァーラ系には第6惑星までしかないようだ。 全員が画面に注目し、もちろんゼロは内容を全て記憶しながら、コンピュータのデータから重要そうなものを拾い上げてゆく。 「私は銀河と外宇宙をつなぐスペースコロニーの出身なのですが……懐かしい単語ばかりですね」 まるで弔われた辺境区のよう、と出身世界を懐かしみながらもコンピュータを操作するジューン。星図と星間座標のデータによると植民候補惑星はヴァーラ系のある銀河内に複数存在したそうだが、実際に植民先として選ばれた惑星は見つからなかった。というよりも。 「植民先に関するデータが一律に削除されています」 「削除? 存在しなかったわけではないのか」 「はい、削除履歴が存在します。これは……ウィルスプログラム?」 それは電子戦に精通したメンバーでなければ見つけられないような、巧妙に隠された痕跡だった。ウィルス自体は挙動後自滅するように設計されていたようで今となってはどちらも復元は不可能だ。 「今までの遺跡も調べ直す必要があるかもしれませんね」 「そうだな」 学者達の話によると、植民先の資料に関してはこれまで全く見つからなかったそうだ。管理区分が違うと考えられていたのだが、ジューンが削除履歴を見つけ出したことからこれまでのデータも再確認する必要が出てきた。それは現地の仕事として。 「なんだか不自然なのですー」 いったい誰が、何のためにウィルスで消去などしたのだろうか。 データ削除の謎はひとまず保留して、他にも気になるデータは次々と出てきた。 たとえばスペースコロニーは円筒型のものが採用され、第3~第5惑星の周辺に多数建設されたほか第4惑星にはドーム都市の建設もなされたらしい。 「ということはぁ、イータムの衛星都市を押さえただけでは通信途絶しませんよねぇ?」 「星系外への通信も第5惑星周辺に主要設備を設置していたようですね」 これだけ進んだ技術を持っているわりに、大天災に対して余りにも無防備だったのは疑問点の1つだ。通常どこかしらで観測されて対応準備がなされるはずである。 ジューンが気圏外との通信記録を調べてみると、大天災の直前には大規模な太陽嵐が発生していた他、謎のシステム障害による通信途絶も頻発していたらしい。保存されていたニュース記事には同時期に気圏外人工物の爆発事故が何件も起こっているというものもあった。 マイナス階層ということもあってか当時はテロなども多数起こっていたため衛星の事故もそれを疑われていたようだが、今となっては全く違う見方ができる。 「テロの実態がフォールスの侵攻だとしたら、その過程で当時の人工生物を接収した可能性も考えられます」 ジューンは生物型フォールスと現地人工生物群の類似性の由来にそのような仮説を立てた。あくまで推測で、それが正しいかどうかを判断するには情報が足りない。 リープゲートに関しては、まだ研究段階だったらしく電子データよりも紙資料の方が多かった。複数の資料の共通項を読み解いていくと、どうやら高圧高重力の超時空空間を用いた移動方であり、空間の由来は極めて近い位置の別宇宙のブラックホールがもたらす歪みがこちらの宇宙に干渉して出来た空間という説が有力だったらしいが証明はされていない。正確にはリープ航法でゲートはあくまで入り口、空間内で圧縮加速されるため転送物への負荷が大きかったり、リープ空間からの帰還点が物理距離に比例して拡散するため重力端子による終末誘導が必要だったりと大天災までには実用化には至らなかったようである。 「えっとぉ、どういうことなのかよく分かんないですぅ」 「解説するのです」 撫子やリッド、現地の学者達には資料だけではよく分からなかった。なのでジューンがCGプログラム作成で補助しながらゼロが解説することになった。 作成されたCGモデルは、板を挟んで隣同士に置かれた2つの水槽の片方に強力な磁石が吊されたものだった。両方とも液体で満たされている。 「磁石が別宇宙のブラックホールと考えて下さいなのです」 宇宙研究が進んでいない世界ではブラックホール自体の研究も進んでいないかもしれない。磁石に置き換えたのはゼロなりの配慮だ。 「磁石のない水槽がリープ空間なのです。ゲートを開かないと水槽の中を通れないので遠回りになるのです」 「惑星上の2点間の表面距離と直線距離の違いと考えて下さい」 たとえば惑星の裏側までの距離は、表面だとぐるりと半周することになるが直線距離だと地中まっすぐ貫通するのでだいぶ短くなる。宇宙空間にはそのような障害がないように見えるが、より高次元の視点で見た場合は似たような状況にあるからそこを直線移動できればショートカットできるというのがこの世界のリープ航法理論らしい。イメージとしては3次元空間を2次元化して1つ上の次元から見たら平面じゃなくてでこぼこだったとかそんな感じだ。 「こっちの水槽に鉄球を落としてみるのです」 リープ空間に見立てた水槽に鉄球を落とすと、鉄球は磁石に引かれて加速しながら底に到達した。磁石に引かれたのでまっすぐには落ちない。 「この誤差が帰還点の拡散なのです。これを収束させるには来てほしい場所にも磁石を用意する必要があるのです」 投入口の真下にあたる部分に磁石を置いてもう一度鉄球を落とすと、先ほどよりは真下に近い位置に鉄球は到達した。さすがにどんぴしゃとはいかなかったが。 「これが重力端子による終末誘導なのです。次に固めた砂鉄を入れてみるのです」 先ほどと同じように砂鉄の塊を入れると、同じように磁石に引かれる挙動は見せたもののすぐにバラバラになってしまった。 「これが転送物への負荷なのです。空間内の環境に耐えられないと変形や崩壊を起こすので危険なのです」 ゼロの解説により学者達はある程度仕組みを理解したようだ。空間内環境と到達点拡散の2点がクリアできなかったのだ。 「レールガン、サーマルガンでしょうか。衛星軌道からの撃ち下ろしだと、もっと壊滅的な被害が出る筈です」 リープゲートの説明が終わり、ジューンは再びコンピュータ内の重要データを探していた。 「私の出身世界では、今は封印兵器とされていますがかつての星間戦争では衛星軌道上からの主星破壊兵器の使用が主流となっていました。おそらくプラネットカノンもそれに近いものかと推測しているのですが」 その名前から大規模破壊兵器を推測していたジューン。その予測自体は当たっていたが、仕組みは予想とは全く異なるものだった。 「あ、プラネットカノンの記述を見つけたのですー」 どうやらこれも研究段階で打ち切られたらしく、凶悪性も相まって電子データとしては残していなかったようだ。検索待ちの間に学者に学術的助言を行っていたゼロはリープゲートの資料の中にその記述があるのに気がついた。 <リープゲートを用いた惑星の移動及び軍事転用について> リープゲートはその性質上、ゲートの大きさを超えない範囲ならあらゆる物質の転送が可能である。 いずれやってくる恒星ヴァーラの死の際、新天地へと移動する手段の1つとしてリープゲート利用の研究を行うことを提言する。 (中略) 取り込んだ物質を圧縮加速して放出する特性から、惑星を砲弾として射出する惑星砲=プラネットカノンの可能性について研究会で取り上げられた。 悪用を防ぐためにもどのような危険性があるか研究すべきだろう。 (中略) 惑星がリープゲートに取り込まれた場合、岩石惑星やガス惑星はほとんどが高圧に耐えられず自壊するとの計算結果が算出された。 同様に氷惑星はゲート内で液化後、空間脱出時の減圧により蒸散する。 また終末誘導時の必要重力は転送物質の質量に比例するため射出精度は極めて劣悪なものとなる。 検証が必要ではあるが、現時点で惑星のリープゲート利用は非現実的であるとみていいだろう。 なお、星間バランス崩壊による二次被害は甚大なものになると予測されるため、惑星に限らず一定以上の星間影響力を持つ天体につながるリープゲートが発見された場合は速やかに封印することを提言する。 「うわぁ……なんというか、ものすごく凶悪ですぅ……」 「惑星そのものを射出する兵器、ですか」 いろんな意味でトンデモ兵器だったが、トンデモらしく(?)実現不可能のために打ち切られたようだ。それでもさりげなくリープゲートによる惑星破壊自体は可能なあたり、やはり打ち切って正解だったのだろう。 「うーん、何か引っかかるのですー」 ただ、ゼロはその理論にすっきりしない何かを感じていた。プラネットカノンは破綻しているが、リープゲートの研究記録を読む限りゲートの発見及び解放と物質転送までは実証されている。つまり、この世界にリープ航法は一応存在するのだ。 もしも、フォールスがより高度な技術を持っていたら? あるいは、もしも実現可能な凶悪な利用法があったとしたら? 圧縮加速しての放出は、恐ろしい何かを作り出せる気がするのだけれど。それが何かは、少なくとも今すぐには思い浮かばないゼロだった。 宇宙研究棟での調査を一通り済ませた一行は、他の棟も時間の許す限り調べて回った。大半は当時の技術力の高さを示す以上にめぼしい情報はなかったが、生物科学研究棟には気になる資料が残されていた。 「フォールスって先史時代の食料兼用兵器じゃないでしょぉかぁ。リッド君どぉ思いますぅ?」 「兵器は毒性を含む場合が少なくないみたいだし、食料を兼ねるのは難しい気がするよ」 そんな話をしながら手に取った紙資料が。 「撫子さん、それものすごい重要資料みたいなのですー」 先史文明言語を読めるゼロの目にとまった。 <戦闘用人工生物に関する研究について> これは一部研究機関で行われている生物研究について、その危険性を分析・提言するものである。 (中略) 現在研究されている主なバイオモンスター(戦闘用人工生物・以下BM)は以下の2通りである。 ・キメラ型 マテリアルファイター(以下MF)級の武装が使用可能な大型種。 半機械半生物の仕様は対MFあるいはMFとの共同運用を視野に入れているものと思われる。 量産性と互換性のバランスが研究機関ごとに違う模様。 ・ライカンスロープ型 主に屋内戦想定と思われる小型種。 人間兵士と同様の武装が可能だが身体能力はパワードスーツ兵に匹敵するものと思われる。 量産性と人的被害の減少が目的らしい。 なおライカンスロープは狼男の意味だが姿はこれに限定されない。 (中略) 非常に重大な要素として、これらBMは完全自立行動体であることが挙げられる。 人工生物といえど人間の指示に従わせるには一般動物と同様の過程が必要であり、能力が高くなるほど人間の指示に従わず暴走する可能性は高まる。 また能力が高いほど暴走時の被害が大きくなることから、BMや完全自立兵器の開発は非常に危険性が高く、即座に開発を中止するべきである。 「わっ、わっ、まぐれのビンゴですぅ☆」 まさに先史文明の生物兵器研究資料を手に取っていた撫子である。ただし開発反対派のそれではあるが。 「キメラ型が生物型フォールスに酷似しているように感じるのですが、MFというのはORAを指しているのでしょうか?」 「はい、最近の調査で判明しています。BMに関しては早期に研究が中止されたとの資料はあったのですが……確かに似ていますね」 「ライカンスロープ型みたいなフォールスが現れたことはあるのですー?」 「そっちは聞いたことがないですな」 ちなみに食用の人工生物は普通に開発されていた。よりおいしくよりヘルシーにというともすれば欲張りな欲求も、研究開発を進める上では大きな原動力となるのだ。まあ肉質や飼育の都合で大型家畜とさほど変わらない大きさだったそうだが。 しかしやはり、フォールスは先史文明との共通点が多いようだ。ジューンの予測通りフォールスに接収されたのか、あるいは別の何かなのか。共通点は見つかれど、決定打に欠けるのはやはりもどかしいものがある。 引き上げの時刻となり、輸送車に戻る途中。ふと事務室に目を向けたゼロはデスクに1冊のノートが置かれていることに気がついた。 「ちょっと待って下さいなのです」 おもむろに部屋に入り、ノートを手に取り。 「日記帳なのですー?」 その内容をみて、ゼロは固まった。 「何かありましたかぁ☆」 「これは大発見かもしれないのです」 そこに書かれていたのは、これまで知られていなかった大天災での出来事だった。 ○月×日 xx時 空に無数の閃光が発生し校内の電子機器が全て機能しなくなった。 物理研の連中によると高高度核爆発による広域EMPらしい。 気象研が観測気球を飛ばすと、回収物は放射能で汚染されていた。 「どういうことですぅ?」 「高高度における核爆発の場合、物理的な地上被害が発生しない代わりに広範囲にわたって電子機器に障害をもたらします」 「半径数百kmの電子機器全部に雷が落ちるようなものなのですー」 厳密には電磁パルスの性質等違いがあるがわかりやすく言えばそんな感じだ。それはさておき。 xy時 宇宙研の連中が騒がしい。 何の騒ぎか尋ねたら旧式の天体望遠鏡を手渡された。 言われるがままに空を見て、背筋が凍った。 なんだこの隕石群と化け物群は。 生物研がバイオモンスターだのキメラだの騒いでいるが、あれは制御の問題でとっくに廃止されたプロジェクトのはずだ。 xz時 空が燃えている。 無数の隕石が大気に焼かれながら降ってくる。 軍の対応も指揮系統が寸断された上にまともな対空兵器がMFのみでは焼け石に水だろう。 物理研の言う通りなのか、あの閃光から別の地域との連絡が一切取れない。 他の地域の人々は、この世界は、無事なのだろうか。 . . . 月 日 事務所が土砂に埋もれてからどれだけ経つだろうか。 食料も酸素も尽きかけている。 最後の生き残りである私は、これだけは伝えなければいけないだろう。 大天災は、間違いなく何者かの意図による災害だ。 後者2つはそれこそ奇跡に近い低確率で起こるかもしれないとして、あの規模の核爆発だけは自然発生はあり得ないらしい。 一介の事務員である私には詳しいことは分からないが、優秀な研究者達が出した答えだ。信用に値するだろう。 願わくば、我々の仲間にこの日記を見つけてほしい。 もし今これを読む君が我々の仲間なら、天空に、いや宇宙にはくれぐれも気をつけてくれ。 日記はそこで終わっていた。 「つまり、だ」 大天災は隕石群と巨大生物群だけではなく、その前に高高度核爆発を大量に引き起こす3段攻撃、あるいは宙間居住域の孤立化も含まれるなら4段攻撃だったということだ。そして確実に何者かの意図が存在する。 ラエリットはフォールスに脅かされ、フォールスの一部はファージで、ラエリタムにはファージによる危機が迫っていて。これらと先史文明はどうつながっているのか、あるいはただの偶然なのか。 まだ謎は解けないが、それでも確実に答えに近づいていると思いたい。 ファージについてはロストナンバーしか知らないとしても、思いはおそらくロストナンバーも学者も同じだろう。 輸送車に乗り込んで、後は帰るだけと思いきや。 「緊急連絡っす。あっちの遺跡でとんでもない物が発見されたそうで」 そんなわけで急遽寄り道することになった一行。本来の調査対象と異なり、こちらは設備機能回復前の初期調査段階だったので専門装備無しでの立ち入りは危なく、ひとまず映像で見てもらうつもりだった先方だが、 「だったら安全を確保すればいいのですー」 とのゼロの言でジューンがスキャンで安全性を確認して、ゼロが巨大化して地面の数カ所に穴を開けることで建物を傷つけずに通気口を確保した。地上に掘り出す方が楽に思われるが、そうするとフォールスに破壊される危険性が高いのだ。電気系統の回復は膨大なチェックが要るのでさすがに今回は無理だったが、ゼロが発電生物に謎団子を与えて一気に培養したので人数分の携帯照明はあっさり確保された。 念のためと撫子はリッドを頭に乗せ、調査団曰く軍事施設跡を目的地に向けてまっすぐ進んでいった。すると。 「おっきなお船なのですー」 「これぞオーパーツの塊ですぅ☆ じゅるり」 「撫子さんよだれ、よだれー」 「宇宙船ですね。揚陸艦クラスでしょうか」 ジューンにとっては懐かしい、それ以外の面々には非常に珍しい物が姿を現した。他にも新発見のORAも数台置かれていた。 「宇宙船のドッグのようですね」 ジューンの安全チェックが行われた後、時間の都合もあって簡単な調査だけ行われた。 「ここがエンジンルームですねぇ☆」「家事の下にレバーがありますぅ☆ えっとぉ……姿勢制御レバーなの、壱号」「こんなところにブリッジの脱出ボタンがありますぅ」なんて撫子は大はしゃぎだったが、ジューンの見立てでは単独で大気圏離脱も可能な高性能艦らしい。もっとも今はガス欠で全く動かないが。 ジューンはこの遺跡の重要性を感じ取り自己供出による機能回復を申し出たが、そこまですることでもないとか自分たちが把握できない機能は使いたくない等の理由でやんわりと断られた。 寄り道のおかげで帰りが遅くなったが、少しだけ都市観光もしていくことにした。 「出来ればナガセ中尉にお会いしたかったのですけど――」 ジューンは以前共闘した中尉のことを思い浮かべていたが、今回はヴェルナシティではないので会うのは難しいだろう。 「そういえばお土産ですよお土産。紅茶に合う甘いお菓子ってないですかぁ?」 撫子はたった今思い出したかのように同行している2人に尋ねた。リッドと一緒に行くときに成り行きでリクレカに買ってくると言ってきていたのだ。ちなみに本人の返事は確認していない。 とはいえそんなのこの町は初めてのメンバーで分かるのかと思いきや。 「有名な洋菓子店があるようですね」 ジューンがちゃっかり街案内にリンクして確認していた。名産の芋菓子を購入し、勢いで総菜も色々買い込んだ撫子だった。
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