――――――未確認巨大人型生命体 回避確認――「バルバトス」降下成功――イレギュラーを複数確認――増援を求む「例えば、それは検分撃破」 いつもよりいくらか真剣みが増した口調で、リクレカが告げた。「マンファージ対応に先行したロストナンバーが見つけた宇宙船の撃破、可能なら撃破前に調査もお願いします」 それは施設からの帰還時にシーアールシーゼロが発見した船だった。その後の観察によれば、どうやらフォールス達の中継点となっているらしい。「目標の宇宙船ですが、航宙戦仕様の装備を持ちラエリットの上空数百kmに位置しています」 スクリーンに映された画像は、いつもの平面図とは違い断面図に近かった。地上にアズール盆地とその周辺の現地軍、その上空から宇宙船までの高度にフォールス達が存在している。「ラエリットの現有技術ではこの高度まで移動する手段がありません。よって今回はロストレイルで直接該当宙域に侵入することになります」 つまり、今回はロストレイルを足場にした宇宙戦闘になる。 車両は天秤座号が選ばれた。戦闘高度次第ではラエリットに落ちる可能性があるため走行安定性を重視したのだとか。「予想戦闘宙域には宇宙船の他、地上への増援と思われるフォールス達が存在します。放置すればロストレイルが撃墜される危険もあるためまずはこれらを一掃して下さい」 なおロストレイルの突入は現地軍への援護も兼ねるため地上時間13:52を予定している。「宇宙船に関しては、調査を行う場合はまず攻撃能力を奪って下さい」 スクリーンが宇宙船の拡大図に切り替わる。破壊目標として示されたのはビーム砲3門、ミサイル発射口10門、連装機関砲10門だ。「周辺の脅威をロストレイルが自衛出来る程度にまで落としたら船内に突入して下さい」 侵入口については現場判断に任せるそうだ。どのみち最終的に撃破するのなら多少強引な手も許されるだろう。「船内には獣人型フォールスがいますので、適宜これを排除しながら船内を調査。脱出後は船を撃破して速やかに同宙域から離脱して下さい」 なお、あまり長居するとフォールスの増援が現れるらしい。そうなると危険度が跳ね上がるため船内調査をする場合は迅速な行動が求められるだろう。 内部構造が不明のため、具体的にどのような調査を行うかは一任される。ほぼ確実にあるだろう物は格納庫や制御システムあたりだろうか。「飴玉状のナレッジキューブは車内に用意しておきます。また宇宙戦闘になるので空気利用の長距離攻撃手段等は使えないのでご注意下さい」 空気振動による音波攻撃や大気中の酸素を利用する火炎攻撃等、また低圧環境なので液体を利用した攻撃も不可能となる。ただしロストレイル付近や飴玉効果のある白兵戦距離なら0世界環境となるので一応使用可能ではある。またギアはこの制約を受けない。 敵側も同条件のため、例えばA型フォールスは火炎放射や溶岩弾を使えない。「過酷環境下、敵領域内での行動になります。非常に危険な依頼となりますのでどうかお気をつけて」 アズール盆地最寄りの地下都市でマンファージ討伐に向かうメンバーを下ろしたロストレイルでは、車掌達が車載武器の最終点検を行っていた。 彼らを乗せた補給部隊が帰ってきたら、いよいよ宇宙に出撃だ。 戦闘要員との相性も勘案するため、車載武器の選定には宇宙戦に参加するロストナンバーも関わった。 突入時の敵戦力状況が不明なのは心配だが、ここまで来た以上どうにかするしかないだろう。......増援投入種 コード確認 Ch-1IV-3T-O-3O-57-6 Ly-MS-1I-9-1F-1X-2試験投入種 コード確認 Ch-1RC-48-R-3Y-5C-7......!注意!このシナリオは『【彼方からの訪問者】ディープ・スキャン』と同一の時系列の出来事を扱っています。同一キャラクターによる両方への参加はご遠慮下さい。
アズール盆地より車で約1時間の距離にある地下都市、ツィルヴァ。その軍用地下駅にてロストレイルは武装の最終点検を行っていた。 「イイっ、この渋い砲身、火薬の匂い、クゥ~たまんねぇ」 車掌やアカシャに混ざって武装のチェックを行っているのは坂上健だ。武器オタクながら壱番世界の日本在住という実物からは縁遠い事の多い世界出身である彼にとって、普段は触れることも出来ない武器を扱えるというのはそれだけで垂涎物だ。 そんな彼が武装したロストレイルに興奮しないわけが無く、出発前から弾薬運搬に砲身の手入れにと天秤座号の武装化を積極的に手伝いもした。まあ愛が溢れすぎて顔面が崩壊していた等のあまりよろしくない整備員の言もあるが……なんか色々危ない気もするのでここでは伏せておく。 ただ、彼の希望する大型兵装は残念ながら搭載を却下された。扱うには火器管制能力が不足していたりそもそも他車両の固定武装だったりとまあ理由は色々だ。ちなみに天秤座号の基本火力は釣り合う天秤かのごとくロストレイルの中でも平均的なものである。車両自体の安定性に優れるので射撃反動の影響が少ないのが強みと言えば強みだろうか。まあ主砲や機関砲等は何門もあるし弾薬は十分にあるので砲手を堪能するには十分だろう、多分。言うまでも無く彼は砲手として参加しているので、降りる気なんてさらさら無い。 ちなみに今回、後部車両にはミサイルが追加装備されている。ふさふさが調整した特殊弾頭なのだが、これが何故か後ろ向きに取り付けられているのだ。もちろん天才犬であるふさふさのことだ、何か考えがあってのことだろう。 マンファージ撃破の報を受け、天秤座号が静かにホームを発つ。 (超常の能力持ちは、みな地上に残りましたか。いいでしょう。宇宙なら手慣れています。任せてください) ふさふさにはある計算があった。敵艦高度から考えるに、ラエリットを90分程度で一周する速度で航行しているはずである。それ以下の速度だと重力に引かれて落ちる高度だ。ならば、この速度を逆手にとれば敵に大打撃を与えるのも容易だろう。 ディラックの空を経由し、天秤座号が宇宙空間へと顔を出す。敵が後方の惑星の陰に隠れるような位置だがふさふさの計算ならすぐに接触するはずだ。 ふさふさは早速ミサイルを後ろに放ち、予想接触地点への軌道修正を済ます。電波吸収材で保護され散弾を詰め込んだ弾頭は見えない弾丸の雨となって時速5万キロオーバーのスピードで敵を襲う、はずだった。 「……わふぅ?(あれ、ずいぶんと敵が見えるのが遅いですね)」 ここで1つ計算違いが発覚する。ふさふさの前提では敵艦は周回軌道をとりその遠心力により重力に対抗していると考えていた。しかし、これは後に判明するのだが今回の敵艦は本来マンファージの地上投入のみを目的していた。それが地上の戦況悪化によりなし崩し的に中継地点の役割を担う事になったため、地上観測可能な高度で位置を保持することを余儀なくされていた。よって艦の速度は対地静止位置を維持できる程度で、重力に対しては下方のバーニアで無理矢理高度を保っていたのだ。その速度はふさふさの計算の約16分の1。遅いのも当然だった。 ただ、その計算違いがあったにもかかわらず最初のミサイルは敵部隊へ多大なるダメージを与えた。現地軍に大気圏脱出能力が無いため、宇宙のフォールス達は敵襲など予想していなかったのだ。それに予想より遅いと言っても時速3千キロオーバーで航行しながら高速で飛んでくる散弾に突っ込んだのだ、無事なわけがなかった。 大気圏突入中だった一般型フォールスが姿勢を崩し次々と燃え尽きる。指揮官型は耐え抜いたようだがあれだけのダメージを受けていれば現地部隊の敵ではないだろう。 『弾着確認――敵艦の推定損害率33%。間もなく砲撃射程内に入る、射撃用意』 「よっしゃ来たぁ」 敵襲に気付き、慌てて戦闘態勢に移行するフォールス達。その隙を突いて健の気勢のままロストレイルの砲撃が敵を襲う。 「うぉぉぉ、撃つぜ撃つぜ撃つぜ! 防御の近距離弾幕もこっちで張るぜ! うわぁぁぁ、銃器サイッコー!」 反撃に放たれたミサイル群を撃ち落としながら、健は寄ってくるフォールス達を次々と撃ち落とす。ロストレイルの中では平均クラスと言っても対フォールス戦には十分な威力があり、その辺の小型ワームより倍以上大きいフォールス達が一般型なら主砲3発で墜ちるのだ。艦をかばい盾を構えて防御に専念する指揮官型も8発も撃ち込めば爆散した。接近してくる敵は機関砲弾を2桁叩き込めば沈黙した。 「ヒャッホー! 最高だぜー!!」 テンションが上がり奇声を上げる健。周りに誰も居ないからいいものの顔もかなりお見せできません的な表情で、なんというか……ガンナーズ・ハイ? 脳内麻薬がだだ漏れているおかげか攻撃回避の高速変態機動を続けるロストレイル内でも平然と砲手を続けているのはさすがだが。 戦闘態勢に入り急減速した敵艦だが、それでも前方に居たロストレイルとの距離はあっという間に詰められた。 「落ちて爆散するくらいなら吶喊の方がましに決まってるだろ! 殺ラレル前ニ殺レ、っての」 敵艦の弾幕を目の当たりにしても健はひるまない。めまぐるしく動き続けるターゲット画面を追いながらあたりをつけて各砲門を乱射、敵艦の砲門を確実に減らしていった。そんな列車対巡洋艦の砲戦のさなか、ふさふさのギアがワイヤーを手に敵艦に向かって放たれた。それは敵艦の目の前を通り過ぎ、直後にワイヤーが天秤座号の変則軌道に合わせて絡みついた。 「わふぅっ!(今です)」 後方に抜けたロストレイルがそのまま敵艦を下方に引っ張る。バランスを崩した敵艦は下方バーニアを噴かしてどうにか姿勢を整えたが、大気圏に突入しかけたのか数カ所から火を噴いた。最初のミサイルであちこちに穴が開いている艦だ、内部にいたフォールスはひとたまりも無かっただろう。程なくワイヤーは耐えきれずに切れた。 速度差をディラックの空を経由することでカバーし、降下した分を除き周辺の生物型フォールスをほぼ一掃した天秤座号はいよいよ敵艦攻略に取り掛かる。長射程のミサイル発射口とビーム砲台を潰せば、残りは短射程の機関砲のみだ。とはいえ巡洋艦のそれなので一門だけでもフォールスのミサイルに匹敵する攻撃力があるのだが。 「肉を切らせて骨を断つ、寄せて一気に落とす戦法で行く」 ワイヤー攻撃が火器管制システムにもダメージを与えたのか、敵艦の射撃精度はかなり低下していた。この後は調査して帰るだけなら一気に突っ込んだ方がいいだろう。増援の関係で時間制限もあることだし。 一気に肉薄する天秤座号。客車の数両に穴が開くが、気にせず残った砲座に一斉射撃を行いすぐにディラックの空へ待避する。再び戻ってきた天秤座号の前には、全ての武器が沈黙した敵艦の姿があった。 さて、時間があるので敵艦の調査だ。 ふさふさは敵艦に取り付くと、穴の開いた部分からケーブルを見つけ出し艦内のシステムへと侵入を試みた。損壊が激しいためか内部ネットワークは寸断されており、一度のアタックでハックできる範囲は限られたが逆に防御も崩壊しており、数回繰り返して外部に情報を垂れ流すように設定して天秤座号に帰還した。あとは送られてくる情報を順次解析すればいい。 健はその間、艦の各所から敵が出てこないか砲座から監視していた。出てきたら機関砲で蜂の巣にするつもりだったが、幸か不幸かそのような事態は起こらなかった。そこにふさふさが入ってきた。 「おっ、ふさふさ。艦内には入らなくていいのか?」 「わふぅ?(健さんこそ、行かないのですか)」 健にはふさふさが何を言っているのかは分からないのだが、首をかしげられたことは分かった。 「俺はガンナーだからな、最後まで砲手を全うするぜ」 つまり、降りるつもりはない。もちろん艦内へ向かうつもりも。 「真面目な話、コンダクターの俺が戦艦内に突入してもフォールスと渡り合うのは無理だと思うからなぁ。それにふさふさが行くと思ったしな。だったら俺が残った方が良いだろ」 しかし、ふさふさもまた船内は健に任せるつもりだったのだ。もとより頭脳班担当の彼に直接戦闘は酷だろう。 しばしお互いを見つめ合い、そしてお互いにツッコむ。 「って、誰も行かないのかよ!」 「わふっ、わっふぅ!?(誰も入らないのですか!?)」 まあ、調査は可能ならという話だったので無理に突入することもないだろう。 敵艦からの情報送信が止まったことを確認し、天秤座号は距離をとって敵艦を撃墜した。イータム方面からは敵の増援らしき光点が複数近づいてきていたが、それには構わずディラックの空へと待避する。地上施設の占拠は終わっており、帰還時刻も迫っていた。 ふさふさが収集した情報は地上に転送して解析中である。 地下都市ツィルヴァに戻り、被害箇所の応急処置を済ませマンファージ討伐に向かっていたメンバーも収容し、天秤座号は帰途についた。 宇宙チームの集めた情報は敵艦の損害が激しかったためそれほど多くは無かったが、それでも重要な物だった。 あの艦は地上に降りたマンファージを敵母星からここまで運んでいた。最初の方の航路データは消失していたが、亜光速航法で100年強の宇宙旅を経てラエリットまでたどり着いたらしい。途中の補給はリープゲートによる物資搬送で行われ、最後の補給はイータムの敵基地で行われていた。またマンファージ以外にも数体の指揮官型フォールス、及び生物型フォールスの設計データも輸送していたようだ。 地上チームの情報を加味すれば、脅威の源は明らかだった。 この世界の敵は、宇宙の遙か彼方。100光年ほど離れた植民惑星に居る。
このライターへメールを送る