......定期信号確認不可緊急応答コード送信...システム応答無し周辺状況報告 電波状況 正常 動力炉 作動中 内部状況 確認不可ラエリット・システムを停止と判断イータム・システム アクティブモード移行オペレーション「セカンドディザスター」準備開始...... アズール盆地に現存する地上施設で稼働していた「ラエリット・システム」。その対応についての報告がその後の調査報告と共に現地の対フォールス国際機関AFOから世界図書館に伝えられた。 本部会議の結論はシステムの停止。その後の調査により元々システムが地上における戦力管理システムでもあったこと、重力制御に成功していて外部からのプログラム追加によるリープゲートの終末誘導システムが完成する可能性があったことが主な理由だそうだ。 システムの停止以降、ラエリットへのフォールスの飛来は止んでいる。地上のフォールス達は補給を絶たれ徐々に追い込まれているらしい。一見喜ばしい事態に思えるが、AFOは警戒を緩めなかった。実際、それは嵐の前の静けさであったことが後に判明する。 そしてもう1つ重要な事として、AFOからの連絡には衛星イータム攻略作戦への協力依頼も含まれていた。 一方、世界図書館ではこれまで集めた情報とそれに基づいて導きの書が示した内容からラエリタムの危機要因が明らかになった。 ラエリタムは約1750年前のマンファージ発生以降ファージの侵食を受け続けており、その結果世界繭に蓄積されたダメージは世界を保つのが困難になるレベルに達しようとしていたのだ。世界繭が弱るほどファージは侵入しやすくなりその結果侵食がさらに進むという悪循環により、あと数ヶ月もすれば崩壊という状態にまで追い込まれている。ラエリタムに多数のファージが存在するのもおそらくこのためだろう。 もちろんこれはあくまでファージの侵食が進んだ場合の話であり、何らかの大きな衝撃が発生すればそれ以前に崩壊する可能性もある。逆にファージの本拠地を突き止め撃退することが出来ればまだ崩壊を食い止めることも可能だ。 そのためには何よりまずファージの拠点を特定する必要がある。フォールス側はその痕跡を丁寧に消しているため、未だにその特定に至ってはいない。 AFOからの連絡にあったイータム攻略作戦に関して、連絡を受けて導きの書に示された事象により協力することが決定された。 導きの書が示した内容は3つ。 内2つはポジティブなもので、イータムの基地にファージの拠点と化した植民惑星の位置データが存在することと、攻略に成功すればラエリットへのフォールス襲撃が激減するというものである。 そしてネガティブな1つはシステムの停止を受けてイータムのフォールスが大攻勢の準備をしていること。それも生物型フォールスだけでは無く隕石の大量投射や核分裂弾頭ミサイルまで用意しての大攻勢、すなわちもう1度大天災を引き起こそうとしているというものだった。 結果、イータム攻略という目的自体はそのままに、作戦内容は大幅に変更されることになった。「例えば、それは星間攻防戦」 ホールにわざわざプロジェクタを持ち込んだリクレカがそう切り出した。「ラエリットの現地組織AFOよりイータム攻略戦への協力要請がありました。もとより協力する予定でしたが、ほぼ同じタイミングでイータムのフォールスも大攻勢を仕掛けると導きの書が示しました」 大きなスクリーンにラエリットとイータム、そして双方の戦力と思われる印が表示された。ぱっと見でも戦力差でフォールスに大きな分があるのは明らかだった。「ご覧の通り、敵の攻勢を防ぎきらない限り正面突破はまず不可能ですが、反面敵基地周辺の戦力は手薄になると想定されます」 そこでAFOと世界図書館は主力部隊で敵の攻勢を防ぎつつ、手薄になった敵基地を別動隊による陽動強襲と隠密潜入で一気に制圧する作戦を採用した。☆ 本来のイータム攻略という目的においては、作戦の本命はこの別動隊の方にある。「皆様はロストレイルにてイータムの都市遺構に潜伏、敵基地が手薄になったところを見計らってこれを強襲、占拠して下さい」 より具体的には敵の攻勢が第3段階の生物型フォールスに移り、その大部分が主力部隊との交戦に入る頃合いだ。「いわゆる生物型フォールス、バイオモンスター(以下BM)の内、大型種のキメラ型はほぼ出払っているはずです。残っていたとしても基地敷地内に入ってしまえば手出しされることはないでしょう」 アズール盆地の地上施設と同じく、この施設も重要なのか敵は施設へのダメージを避ける傾向にあるそうだ。また今回も資料として重要なので作戦目標以外の破壊は可能な限り避けるよう現地からのお達しがある。「小型種であるライカンスロープ型――見た目で言えば獣人ですね、こちらはある程度残っていますので注意して下さい」 残っているとは言っても、敵は基地襲撃を想定していないようで突入時の目標周辺戦力は施設内作業に必要な程度と予想される。ただしこちらは基地襲撃に気付くと増援が来る可能性が高いので、基地潜入後は迅速な行動が要求される。「作戦目的は敵植民惑星の位置データ入手及びラエリットに対する侵攻能力の低下です。これを達成するには基地内のBM工場の破壊と中央管制塔の制圧が必要になります。非常に危険な任務になりますので心してかかって下さい」 スクリーンに敵基地構成と周辺図が映し出された。基地は中央管制塔の他3つの倉庫のような建物と発電プラントで構成されていて、4km程離れた位置にマスドライバーを含む宇宙港がある。宇宙港からさらに4km程進んだ地点と、基地から宇宙港の反対方向に8km程進んだ場所に都市遺構があり、エリア全体は山脈に挟まれ幅2~3km程の峡谷のような地形だ。「手薄とはいえ戦力的にはこちらが不利な上、敵は戦力の増産も可能ですので正攻法での攻略は困難です。潜入時は可能な限り隠密行動を貫いて下さい」 獣人の大半は宇宙港に集結しているため、潜入はその反対側の都市遺構から行うことになる。遺構から基地手前2kmまでは岩場が続いているため容易に身を隠せるが、その先は基地まで平地が続いている。「宇宙港の先にある都市遺構には、獣人に対する陽動強襲要員が待機しています。皆様の合図で宇宙港周辺の敵に攻撃を仕掛けますので、敵の注意がそちらに向いている間に基地への潜入を果たして下さい」 襲撃など想定していない敵のことだ、混乱しそちらに掛かり切りになることは容易に想像できる。ただ、同時にキメラ型が察知して引き返し始める可能性もあるので開始のタイミングは重要だ。「潜入後ですが、まずは敵のBM工場を破壊して下さい。ここを放置すると増産された獣人により帰還が極めて困難になります」 工場は3つの倉庫状の建物のうちのいずれか1つで、他の2つは倉庫と資源管理施設となっている。前者が完成品の、後者が原料と食糧の貯蔵管理施設だ。また工場自体もBM工場と兵器工場に内部で分かれている。「外見ではどれがどの施設かは分かりませんので、破壊前に必ず確認をお願いします」 特に倉庫には核兵器を含む武器弾薬が備蓄されているため、間違って破壊すると誘爆して周辺一帯が全て吹き飛ぶことになる。工場自体もうっかり弾薬製造ラインあたりを破壊すると大惨事だ。「工場は構造上、この部分が弱点になっています。直接攻撃でも構いませんが、破壊に反応して敵が集まることが予測されますので遠隔手段を用いた方がいいでしょう」 そのため今回、ナレッジキューブ製の時限爆弾が1人1つ用意されている。工場の破壊はもちろん、爆発による陽動も可能なので上手く使いたいところだ。敵を誘い込んで罠にかけるのもありだろう。「工場を破壊したら、敵の隙を突いて中央管制塔へ突入。制御室にて超光速通信設備から敵植民惑星の位置情報を入手後、敵の戦略プログラムであるイータム・システムを停止して下さい。これにより敵基地は機能を失うはずです」 イータム・システムはフォールス側のラエリット方面軍の総司令に相当する。BMファージはたいした知能を持たないため、システムさえ停止すれば敵は戦略的行動を取れなくなるはずだ。「システム停止後は施設の防衛をお願いします。施設内の敵を掃討し、主力部隊到着まで外敵から守り切れば作戦終了です」 指揮系統を失ったフォールス達は烏合の衆に過ぎないだろうが、下手に暴れられてもやっかいだ。導きの書によると、BM達はシステム停止からしばらくは混乱状態に陥り、その後手近な攻撃目標(ロストナンバーや現地軍)に襲いかかるらしい。 施設内の敵さえ排除すれば地勢的には圧倒的に有利になるので防衛はそれほど苦労しないだろう。BM用という難点はあるが倉庫に武器弾薬の備蓄もある。またこの時点で最低限の作戦目標は達成しているので、その後の調査は出来なくなるが最悪撤退しても構わない。「なお、現地軍到着後は1次調査が行われます。もし気になることがあればそのときに調べてみるといいでしょう」 ちなみに今回、敵基地潜入ということもあり旅人の言葉は先史文明語に対応している。そのため現地軍との会話には通訳が必要だったりするが……まあ誰かやってくれるだろう。 イータムの都市遺構のうち敵宇宙港最寄りの場所に、陽動強襲部隊が準備をしながら身を潜めていた。「んーと、これとこれはどっちがいいかなぁ」「んっ、そのグリモアは空気無くても使える?」「やったことないからわかんない」 いつぞや樹海で迷子になっていた3人組だったりする。まあカード召喚はこういう場合便利だろう。「ねーねー、なんで建物壊しちゃいけないの?」「現地の要請らしいわねぇ」「よーせー? フェアリー?」「妖精さんじゃない、お願い事」「ふーん……どうしてなんだろ?」 準備しながらの雑談で、ふとそんな疑問が出た。危険な気もするのに、探究心が勝ったのだろうか。「多分、だけど。発端マンファージだったよね」「確かそんな話だったわねぇ」「それさえ倒せば交流できる、そう考えているのかも」 植民惑星の様子は未だ不明だ。マンファージ支配下で子孫が生き延びている可能性も否定できない。「あ、妖精デッキも用意しとこうかな、あれ使いやすいし」「魔法薬は大丈夫? 今回フル回転だし」「大丈夫よぉ、効果高いのありったけ用意したわ」「んっ、もうすぐかな」 まあ何はともあれ、まずはイータムの攻略だ。なにせここで敵地情報を入手できないと、元凶のマンファージを倒す前にラエリタムが崩壊するかもしれないのだから。=============!注意! このシナリオはパーティシナリオ『【月涙燐光】ラエリット・ガーディアン』と同一の時系列の出来事を扱っています。同一キャラクターによる両方への参加はご遠慮下さい。=============
「始まったようですね」 敵基地から約2km、ちょうど岩場が途切れるあたりで3人は身を潜めていた。ここから基地までは何の障害物も無いため、基地の外観がよく見える。 基地のさらに向こう側では幾筋の光が見えたり時折振動も響いてくる。どうやら宇宙港への攻撃を始めたようだ。 「本件を特記事項Ω軍属、サイドB2連盟未加盟星系・現地主権国家所属軍からの要請による未確認生物との交戦及び拠点防衛に該当すると認定。リミッターオフ、未確認生物に対する殺傷コード解除、事件解決優先コードB1及びB6、保安部提出記録収集開始」 ここからが本番とばかりに、ジューンは自身の平時の制限を解除する。諸々の状況を考えればここから先は時間との勝負だ、出来る限り早期に目標を達するのが望ましい。 その傍ら、百田十三が視線を基地から上空へと移した。先行偵察に出していた飛鼠達が帰ってきたのだ。どうやら陽動は上手くいっているようだ。 「ジューン、ゼロ、ひとまずこれを渡しておく」 潜入に先立って、十三は符をジューンとシーアールシーゼロに1枚ずつ手渡した。 「これは?」 「護法符だ。1度だけだがあらゆる事象からその身を守ってくれる」 言うなればセクタンの守りのようなものだろうか。ジューンはすぐに受け取ったが、ゼロはなにやら考えているようだ。 「まあ、無理にとは言わん」 これまでのレポートから考えてゼロに護法符が必要かと言われるとどうなのだろうか。なので十三は無理に押しつけるつもりは無かったが、ゼロは少し考えてから受け取ることにした。 「ひとまずもらっておくのですー」 ちなみにゼロと十三は依頼で同行するのは初めてなのだとか。とはいえ同じ大規模作戦に参加していたり依頼に因らない旅で一緒になったりはしているので見知らぬ仲ではない。 「幻虎招来急急如律令、お前を含めた全員に眩惑を被せ、敵を擦り抜け工場迄俺たちを連れて行け!」 十三が符術により呼び出した虎はその名の通り幻か蜃気楼のように実態無さげに揺らめいていた。その虎に十三とゼロがまたがると、周囲からは2人の姿も見えなくなる。これで敵の目をくぐり抜けるというわけだ。 「付いてこれるか?」 「善処します」 重量等の関係で乗ることが出来ないジューンは幻虎に伴走することで光学迷彩効果を得ることにした。 基地周辺に残っている飛鼠達によると敵の注意は宇宙港側に向いていてこちらはがら空きらしい。迅速な行動のため、突入前に一度だけジューンが基地全体をサーチする。 「構造物サーチ及び生体サーチ開始」 確かに基地内の獣人は宇宙港側に集中し一部は基地から移動を始めていた。そして彼女のサーチ能力はこの距離からでも屋内構造をある程度把握することも可能だった。外見が同じでも用途により内部構造は異なるはずだ。加えてラエリタムへの訪問経験も多いとなればそうそう見間違えることはないだろう。唯一のネックは逆探知の危険だが、デメリットよりメリットのが大きいと彼女は判断した。 「――BM工場確認。ノートにBM工場から中央管制塔への経路も併せて記載します」 サーチの結果をトラベラーズノートで2人に伝える。これで基地内で迷うことはないはずだ。ついでに工場爆破時の隠れ場所も決めておく。 お互い顔を見合わせ、こくりと頷く。この先、3人はしばらくトラベラーズノートのみで連絡を行う手はずになっている。離れると音が聞こえなくなる程度には空気が薄く(なのでナレッジキューブの飴玉も携帯している)、無線では敵に傍受される危険があるからというジューンの提案だった。 岩場を飛び出した3人はそのまま基地までの平原を最短距離で突っ走った。たどり着いてみれば襲撃などまるで想定していないのかゲートは開きっぱなしで、レーダー反応等も無かったのでそのまま入り口から飛び込んだ。事前偵察通り、こちらの入り口周辺には敵が見当たらない。 『では、今のうちに』 3人は素早く工場へと近づく。さすがにここには作業員なのか獣人が数体うろついている。が、どうやら3人には気付いていないらしく近づいても何の反応も示さない。 『レーダー波の感知もありません。どうやら光学視界のみのようです』 とはいえあまり長居すると見つかる危険性が高まるので、素早く外壁に爆薬をセットする。爆破指定箇所は構造材の要位置で、この位置で爆破すればちょうど工場内の一区画のみを圧壊させることが出来る。 専門知識のあるジューンに設置作業を任せ、十三は周辺を警戒しながら数枚の符を用意する。爆破によりどうしても敵の目を引いてしまうので、管制塔制圧までのあいだ基地周辺の敵の目を引きつける囮を用意しているのだ。 ゼロは待っている間に管制塔と倉庫の位置を確認していた。もしもの場合、メンバーで物理的破壊に最も強いのはおそらく自分だろうというのもあるが、彼女には考えていることがあった。 そしてこっそり1人で倉庫に移動し、そして程なく戻ってきた。時々白い少女の幽霊伝説を旅先で残すくらいだ、その存在感の無さはナチュラルなステルスとして機能し敵はおろか味方もゼロの行動には気付かなかった。 『設置完了。1分後爆発します』 ジューンの設置完了の報を受け、3人は素早く工場から離れる。その最中にも新たな獣人が工場から出てきて宇宙港へと向かう。どうやら現在絶賛増産中のようだが、それもまもなく止まる。 1分後、爆薬が点火し外壁が崩壊、そのままBM工場ラインが爆破点から崩落してゆく。空気が薄いためか音はしないが震動は地面を伝って感じられる。そして。 「炎王招来急急如律令、敵を倒しながら宇宙港を目指し続けろ! ただし建物には手を出すな」 爆発に合わせて十三が炎王を召喚した。その様子はさながら爆発が炎の魔物を生んだようで周囲の獣人達は慌てふためく。その隙を逃すはずもなく炎王は周囲の獣人を次々と殴り焼いていった。反撃する獣人も居たが何せ相手が相手だ、殴りかかれば自分が焼けてしまうのがオチだったし実弾砲が効く相手にはとてもではないが見えなかった。ただ、獣人達にとって幸いだったのは彼らの武器に中距離射程の冷凍光線があったことだ。 工場内から漏れ出す空気を使い切ったのだろう、酸素を得られず白熱体となりながらも基地から宇宙港へ向かおうとする炎王に対し、宇宙港へ向かうためゲート付近に集結していた獣人達は一斉に青白い光線を放った。さすがにこれは堪えるのか炎王が身をよじる。その様子を十三は幻虎で管制塔に移動しながら飛鼠で確認していた。やがて炎王が冷凍光線に耐えかね消滅するとすぐに次の矢を放つ。 「飛囀、炎王符を運べ……炎王招来急急如律令!」 消滅したその地点に、再び炎王を召喚する。冷凍光線には雹王の方が良さそうだが、相手が熱兵器を持っていない保証はないし、この先のためにもとっておきたい。何より炎王の方がよく目立つ。 そうして炎王で敵の気を引いている間に、一行は無事管制塔へとたどり着いた。さすがに重要施設なのもあり、先程の騒ぎと相まって定点警備兵が周囲を警戒していた。もっとも警備兵は2体だけだったが。 うち1体は何も気付かず周囲を見回していたが、もう1体は違った。何かを感じ取ったのかビームソードを発動させると迷うことなく斬りかかってきたのだ。 しかし攻撃はゼロのギアである枕によって防がれ、その隙に懐に潜り込んだジューンが体内に高圧電流を叩き込んだ。獣人は何度か痙攣した後、地面に倒れそのまま溶けるように消滅した。 『どうやら指揮官型だったようですね』 指揮官型、つまりファージ変異獣だ。こちらに気付いたのもそのあたりが関係していそうである。最も今はその検証をしている場合ではない。素早く残り1体を倒し、突入前に十三はもう1体式を召喚する。 「雹王招来急急如律令、先行し進路上の障害を全て排除しろ!」 ジューンが管制塔入り口の電子ロックを解除すると、真っ先に雹王が飛び込んでいく。続いてゼロ、十三、ジューンの順で管制塔に突入した。殿のジューンは扉を閉めるとキーを書き換えた上で再び扉にロックをかけた。 十三の読み通り施設内に残っていた敵は雹王があらかた片付けていた。進路上には砕け散った獣人の氷付けがそこかしこに転がっている。たまたま雹王が通り過ぎた後に顔を出した獣人達も攻撃は全てゼロに防がれその間にジューンと十三に倒されていった。 最低限の人員しか残されていなかった管制塔内をあっさりと突破し、無事制御室までたどり着いた。雹王に入り口を封鎖させれば、基地内の最重要エリアだけに敵もうかつに手を出せない。あとはシステムを停止――その前に植民惑星の位置データを入手する必要がある。 「翻訳が要らないのは楽でいいですね。この手のものはお任せ下さい」 警戒は十三に任せ、早速ジューンがシステムに潜入する。ゼロは制御卓について表の操作を担当だ。これまでのレポートから先史文明規格の記録媒体を用意し、必要なデータや気になるデータを落とす準備をする。操作方法も地上施設探査とその後のレポートから事前に予習済みだ。 「防御プログラム突破、メインコンソール出ます」 「でたのですー。えーと、超光速通信施設のデータはどこなのですー?」 ゼロが表から操作し、ジューンが内部の障害を排除すれば必要なデータは程なく浮かび上がった。 「あったのですー」 ひとまず記憶媒体に保存する。あとはシステムを落とすだけだ。 「ではシステムを――ちょっと待って下さい。これは」 「どうしたのです?」 「直近の通信ログを保存して貰えますか?」 「分かったのですー」 それはついさっき、おそらく施設に突入された際のやりとりだった。ざっと流して見ただけだったが何か重要なワードが含まれていた気がしてジューンはゼロに保存を頼んだ。 「ログの保存完了したのです-」 「では、イータム・システム、ダウンします」 ジューンがシステムをダウンさせる。中央官制を失った各施設は一部の最低維持機能を残し安全装置により自動的に停止していった。そして同じく上位命令を失った獣人達は一時的にその行動を完全に停止した。 システムを失った獣人はもはやただのファージ変異獣とその支配下生物に過ぎない。行動停止中に式達に数を減らされた獣人達は、近くの式達への反撃を開始したもののもはや全体としての統率はなく、逆に各個撃破されていった。 宇宙港へ移動中だった獣人の内、基地に近い者達は引き返してきていたが炎王と雹王の突撃に遭いそのまま戦闘に突入した。炎王と雹王は連携しながら獣人を基地と宇宙港の間に集める。そして集まった所で巨大化したゼロが地面ごと持ち上げ、別の渓谷へと移した。 やがて宇宙港側の制圧報告も入り、宇宙からもフォールスの大攻勢を謎の敵を含め阻止に成功したとの連絡が入った。なんでも最後に現れた謎の敵は小型のワームだったそうだ。 念のため基地内に敵が残っていないか飛鼠達に探らせていた十三は、倉庫に張られた護法符を見つけた。後で聞いた話によると倉庫の流れ弾対策にゼロが貼っておいたそうだ。 やがてイータムにたどり着いた現地軍とロストナンバーにより別渓谷に移されたBM達も殲滅され、イータムに千数百年ぶりにラエリットから来た人間が降り立った。 現地軍による一次調査にはロストナンバー達も参加した。特にジューンとゼロはシステムを止めた2人なのだから要請されるのも当然といえた。ちなみに現地軍にはORAパイロットとしてナガセ中尉も来ていたので、空き時間に久々の親交を深めたとか深めなかったとか。 解析の結果、イータム・システムが事実上イータムからラエリットへの侵攻作戦の総指揮を担っていたことが明らかになった。超光速通信で本星との連絡は取っていたようだが特に指示が送られた形跡は見当たらなかった。 だが同時に、ラエリタムの危機がもう1つ明らかになった。そして皮肉なことに、ラエリタムの2つの危機は共にマンファージによって招かれロストナンバーが解決しなければ間に合わないことも明らかになった。世界の危機にその世界の人々が出来ることがほぼ無かったのだ。 なぜなら、それは2つともラエリットからとてつもなく離れた場所へ行かないと解決できないのだ。 帰りのロストレイル。2人はイータムの施設から入手したデータとにらめっこしていた。 「小型ワームはいきなり現れたそうなのです」 「通信ログに特殊増援とありました。リープゲートを使ったそうですね」 ラエリタムのリープゲートは過酷環境下を通過することになる。大抵の生物は中で絶命してしまうがどうやらワームともなると例外らしい。 しかし、システム停止に伴いゲートの終末誘導も止まっている。少なくともラエリットを狙い撃つように小型ワームを放つことは出来ないはずだ。宇宙のあちこちにワームを撒かれるのも困りものだが、それはむしろ元を絶つことで対応する必要がある。 それよりも、だ。 「プラネットカノンが、まさかこんな形になっているとは思いませんでした」 机上の空論のはずだった惑星射出兵器が、より凶悪なものとして実用段階に至っていたのだ。 ジューンが引っかかりを覚えた通信ログに、その内容はあった。 e-tam:オペレーション「セカンドディザスター」失敗。当基地も間もなく制圧されます。 new raelit:状況把握した。ラエリットを高レベルの脅威と判断、目標を制圧から破壊へと変更する。可能ならブラックホールカノンの終末誘導を頼む、最後の一仕事だ。 e-tam:了解。 つまり、イータム・システムも突破されたことによりマンファージ側はラエリットの制圧をあきらめ破壊してしまうことにしたらしい。敵主要施設を破壊し平穏に大きく近づいたと思った矢先にこの発見だ、現地の人々の表情を見るのは辛いものがあった。そして、その方法が。 「過酷環境も使いようだったのですー」 ブラックホールカノンの仕組みについては、以前から最終手段案としてあったのか施設に存在した。普段は障害要因となる空間内環境を逆利用し、中性子星をゲート内に叩き込み内部の高圧環境により圧縮、ブラックホール化して撃ち出すのだ。その特性上、広範囲を破壊できるため精度もある程度無視できる。 その影響力故に、直撃しなければいいというわけにもいかない。星間バランスが崩れるだけでも大変なことになりかねないのだ。 そしてもう1つ忘れてはならないのがラエリタムの世界繭の状態だ。ファージに侵食され続け崩壊まで数ヶ月とも言われている世界繭が、この大規模破壊に耐えられるか。 導きの書が示した回答は、否だった。
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