「救出作戦は成功。儀式も終了しました。みなさん、すみやかに撤退してください」 世界図書館からの通達がノートに着信する。 儀式場での戦いによる刺激の結果か、流転機関探索チームの行動によるものか、チャイ=ブレの体内組織は活性化をはじめている。あちこちで消化液や抗体の群れを分泌しはじめているのだ。 ルイス・エルトダウンは村崎神無の斬撃を浴び、重傷を負っている。 このまま、チャイ=ブレに吸収され死亡することは確実と思われた。 †††「私が、彼を殺すの……?」 ニコル・メイブに抱きかかえられ、その腕の中で、村崎神無は血に染まった己の手を見つめる。「あり得ない、そんなこと、絶対に、絶対に……っ」 彼を誰にも殺させないように、彼に生きて罪を償わせるために、そのために手を取った自分が彼を手に掛けた。 あの時、あの一瞬、内側から自分を覆っていた悪意の残滓が、殺意の炎が、神無を狂わせたのだといまなら分かる。 どれだけやれば死に至るかを分かっていながら、気づいたときには、取り返しのつかない傷を負わせていた。「行かなくちゃ……私は見届けなくちゃいけない!」 叫び、腕を振りほどき、神無は日本刀を手にかけ出す。「カンナ!」 ニコルの声が飛ぶ。 けれど、彼女は《抗体》が蠢き、いつ押し寄せ来るかもしれない消化液のリスクすらも顧みず、奥へ奥へと突き進んでいく。「カンナ、絶対にひとりで行かせない。絶対にもう、ひとりになんかさせないから」 抱き締めて力尽く手止めようとしたところで、それを神無は許してくれない。 ならいっそ。 いっそついて行く。「この期に及んでカンナを危険な目に遭わせる男と、ソレを止められない私が許せない」 そんな彼女たちを追いかけるものがいた。「ルイスに会いたい人がいるだろうし、手助けするよ」 多い方がいいでしょ、と、マスカダイン・F・ 羽空が笑みを浮かべる。 捕われた身でありながら、なおもルイスの意思を、願いを、善性を、マスカダインは信じ続けていた。 そして、《彼》を追う者たちの意思もまた、叶えたいと願うのだ。「逃げ遅れちゃったら意味もないでしょ?」 その手に握られているのは、トラベルギアから伸びる、いやに長いゴム紐の一端だった。「ボクがお守りになってあげるよ」 「あなたに会いたい、もう一度、もう一度、もう一度……っ」 一一一の胸を占めるのは、ただ、会いたいという願い。 もう一度、もう一度、もう一度。 もっと傍にいたかった、もっといろいろな話をしたかった、もっと彼のことを知りたかった、もっともっともっと、叶わないと分かっていても、壊したのが自分たちだと分かっていても。 ――“あなた”の隣にいられる日がくることを願っていた。 がむしゃらに、真っ直ぐに、迷いなく、一はただ、ルイスを求めて突き進む。 そんな彼女へと、周囲の壁が蠕動し、消化液が波となって押し寄せてくる。「一!」「――え!?」 咄嗟に誰かが自分を庇ってくれた。 壁のような《何か》が消化液を弾く。「え」「まだ、伝えたい言葉が残ってるんだよな?」「……優、さん」「俺がルイスを看取る理由はない。でも友達を危険だと分かっているのにそのまま送り出すことなんてできないから」 相沢優が、背中越しにこちらへ告げる。その手にはトラベルギア、そして展開される特化された《防護壁》が一を護ってくれていた。 彼は友人のためにここへ留まっていた。「しだり、ごめん。力を貸してもらえるかな」「優の頼みだから」 しだりはその短い言葉の中にすべてを含んで、頷いてみせる。 消化液は性質を変性させて溶解性を失わせ、抗体は水で包み込んで転移させていく。 ルイスの元へと進むために、一の願いを叶えるために。「ありがとう……」 一の視界がじわりと滲む。 それをグッとぬぐい去り、再び走り出す。 どこへ向かえばいいのか、それすらも分からずに。 だが。「ゼロはルイスさんの最期を見届けなければいけないと、何故か思うのです」「ゼロちゃん!?」 いつの間に、いや、はじめからそこに居たのかもしれないと、そう思えるほど当たり前にシーアールシーゼロが一の隣にいた。「安寧の反対の存在がゼロを呼ぶのです」 ある意味で奇妙なほど対称的なルイスの最後を見届けることに、そうしなければならない何かをゼロは感じていた。 そしてソレが、自分たちを導きもするのだ。「ルイスに伝えなきゃな。あいつは捕虜を殺さなかったんだ。絶望と同じだけ、希望を持ってたってことじゃないか。あいつの最期に立ち会って、あいつの言葉を伝えたいんだ」 坂上健の隣にはジューンの姿がある。「私はアンドロイド。アンドロイドは人により添うモノ。だから、私は彼を迎えに行かなければ」 ジューンの電磁波が、竜やコウモリを模した肉獣である《抗体》を撃ち落としていく。「人は生まれ方は選べなくとも、死に方は選べるのですから……あの方の願いを、私は聞き届けなければ」 最期の言葉を聞き届ける、最期の瞬間に寄り添う、孤独にさせないようにと願う、ふたりの行く手にも抗体は次々と襲いかかってくる。 体内から異物を排斥しようとする免疫が、いよいよもって本格的に機能し始めているらしい。 ソレは、ここまで辿り着くまでに出会った数の比ではない。「ルンは狩人。ルンはみんなを無事に連れかえるが仕事」 そんなふたりを護るように、金の髪をなびかせて、ルンの身体が跳躍する。 そして次々と、増え続けるコウモリを射落としていく。 彼女の中にあるのは、ひとりで死なせてはいけない、という想い。 人の数だけ願いはあり、それがぶつかり合うのは当たり前だ。 ぶつかり合えば、戦わなければならない。 だが勝つにしろ負けるにしろ、願うという行為そのものには何ひとつ悪いモノなどない、と思う。「一緒に帰ろう、ルイス」「おい」 逃げるぞ、と再度由良久秀は、肩を掴み、揺さぶる。 しかし、ムジカ・アンジェロはソレには応じない。 彼は分身が残した《鉄仮面》を拾い上げ、代わりに問いかけを、声にならないカタチで落としていく。 何故、いまさら、と。 何故、いまさら自分に魔王になれなどと口にしたのか。 互いに干渉しないことを確認し合ったはずだ。 いずれ孵化するだろうと告げたあの彼の言葉が、捩れ、変質してしまったというのか。「おい?」「……分身じゃダメだ。これで終わりにはできない。行こう」 まるでそうすることが当然であるかのように、躊躇いなく、ムジカは由良を誘う。 やるべきこと、選択すべきことは既にもう、自身の中に答えとして出ているのだ。 由良は溜息をつく。 深く、深く。「……わかった」 そして、むっすりとしながらも腹を括る。 待避を促したところで、ムジカが聞くはずがないことは知っていた。 何より、ここで彼を見放して自分ひとりでは、おそらく帰路で死ぬ確率はかなり高い。 ならば、ついて行くしかないのだ。 それに。「訊きたいこともあるからな」 幾度も姿を現しては消えるあの男が本当に最期を迎えるのか、自分の目で確かめたいという願いが底に在る。 ムジカのセクタン、オウルフォームのザウエルが先を飛んでいく―― †††「優、これ以上は」「しだり、ありがとう! 一、行け!」「カンナ、カンナ……っ! あんたを泣かすのは私なんだから!」「掴まって、急いでこの紐に! 早く……!」「俺は聞かなきゃ、ルイスの言葉を聞いてやらなきゃいけないのに」「つれて、帰る……仕事、みんな同じ。ルン、護らなきゃ」「ここは私が抑えますので」 どうしようもなく不吉でおぞましい空気が、圧倒的な質量で先に行こうとする者たちにのし掛かってくる。 その最中にも声はいくつも飛び交い、あらゆる想いが互いに錯綜する。 願いがある。 理由がある。 それぞれに、それぞれの。 誰もが手を伸ばしながらも、ある者は途切れ、ある者はつながり、導かれるように紡がれるのが《運命の糸》だ。 そして。 《鉄仮面の囚人》ルイス・エルトダウンと運命の糸に結ばれた《5人》だけが、そこへ辿り着く。 鮮血を滴らせ、間もなく生命そのものに幕が下りようとしている彼の元へと、5人だけが、想いを、言葉を、願いを伝えられる。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>一一 一(cexe9619)村崎 神無(cwfx8355)シーアールシー ゼロ(czzf6499)由良 久秀(cfvw5302)ムジカ・アンジェロ(cfbd6806)※事務局より:上記5名の参加者以外で、ルイスを追った人は、ルイスには会えませんでしたが、無事、体内から撤退できたものとします。=========
まるで崩壊した玉座に凭れかかる王のように、【彼】は、チャイ=ブレの体内で床面から盛り上がった椅子のごとき場所へその身を沈めていた。 胸を、マントを、両足をどす黒く染める紅の色彩は、彼の生命がもう間もなく潰えることを伝える。 †始まりの姫君 「エドガーさん!」 ありったけの声を張り上げて、一は駆け寄る。 「エドガーさん、エドガーさん、エドガーさん……っ!」 そのまま自身の身体が血に塗れることも厭わずに、正面からその胸に飛び込んだ。 ソレはちょうど円形劇場の奈落で再会したときの、死んだと知らされた彼の『生存』をその眼で確認したときの、あの光景に似ていたかもしれない。 「……ヒメ……本当に追いかけてきたのか……あの言葉と、違わずに……」 辛うじて絞り出された声の、愛おしげなその響きに、あふれていた一の涙が更に止めどなくなる。 「貴方、本当にバカですよねっ!」 幼い子供のように、涙でカオをぐしゃぐしゃにしながら訴える。 「助けたいって言ったじゃないですか! 何度も何度も言ったじゃないですか……っ!」 感情の箍が外れて、コントロールなどできない。 この状況で《聞き分けのいい子供》でいられるはずもない。 「なに勝手に自己完結してるんですか、なに勝手に終わらせようとしてるんですか、貴方の苦しみだっていつか癒えたかもしれないじゃないですか、違う生き方が出来たかもしれないじゃないですか、別の世界が見れたかもしれないじゃないですか、なんなら本当に異世界にだって行けちゃったりして、すごい素敵な出来事とか起きてたかもしれないじゃないですかっ!」 なのに、どうして……と嗚咽混じりに訴え続ける。 彼は答えない。 だが、どうして、と問いながら、一はその答えは分かっているのだ。 「わかってますよ、知ってますよ! ソレをしたら貴方は貴方じゃなくなる、貴方でいられなくなってしまうって、ちゃんと私分かってます!」 でも、と、強い言葉で翻す。 「それでも、貴方に生きてて欲しかったんです! 貴方ともっと一緒にいたかった、話をしたかった、戯曲とかミステリとかよく分かりませんけど、これでも結構勉強したんです、シェイクスピアも読みましたよ、演劇の本とかも読みましたし、ルルーさんの所から古典だっていうミステリもそりゃあもうめいっぱい借りたし……!」 それらすべてを一はまだ消化し切れていない。 それでも話そうと思えば、話題に出されれば答えられる程度には、自分の中にいろいろなモノが積み重ねられていた。 「それで、それでっ……貴方の好きなもの、貴方が見ているモノ、貴方が楽しいと思うモノ、好きな食べ物とか、なんかもうそういう何でもないこともいっぱい話して、なんならターミナルのカフェでお茶なんかしながら、ここはタルトが絶品だとか、明日は何をしようかとか、そういう…っ、……そういう当たり前の、平凡な、……っ」 一気にまくし立て、言葉が詰まって、息を切らして、掻き毟りたくなるような胸の痛みを堪えながら、一は顔を上げる。 ルイスの血で汚れた泣き顔で、彼を見つめる。 「……そういう、当たり前の、ふつうの時間を貴方と……」 幻のように浮かぶのは、おだやかな日差しのなか、賑わいを見せるターミナルの様子を眺めながら、オープンテラスで彼と語らう光景だ。 彼に会わなければ、もしかすると手にすることもなかったかもしれない世界に触れてきた。 あの日から、彼の《謎》に近づきたくて、どんな些細なことでも知りたくて、ずっとずっと追い続けてここまで来た。 もっともっと多くのことを、できるなら共に過ごしながら知っていきたいと、願ってきた。 けれど、ソレは叶わない。 叶うはずのない、夢で終わるモノだ。 「……」 彼は仮面の向こう側から、まっすぐに一を見つめ返してくれる。 一もまた見つめ返す。 訪れる沈黙。 だが、 「どうして……どうして、死ななければならないの?」 二人の背後から、別の声が微かに震えながら投げかけられる。 †贖罪を求めるモノ 「どうして、去っていこうとするの……?」 日本刀を握りしめたまま、神無はそこに佇み、ルイスを見据えていた。 「どうして……」 「来たの、かね」 鉄仮面の男がわずかに顔を上げ、自分を見やる。 「……神無、さん……」 彼にしがみつく一もまた、泣きじゃくりながらこちらを見る。 自分の咎が、ルイスだけではない、今はこの少女をも赤黒く染めている。 「……」 神無を繋ぐ《手錠》の重みがずしりと増して、己の罪の大きさと冷たさとを伝えてくる。 それ以上ふたりに近づくこともできず、けれど、問いかけることもやめられず、神無は言葉を繋いでいく。 「生きていなければ罪を償うことはできない、罪は死を以てはけっして贖われない……死は逃避でしかないから……でも、……」 神無の瞳は揺らぐ。 「生き続ける限り、ヒトは罪を重ね続けてしまうんだとしたら……」 一度罪人となったモノは、償いを望めば望むほどに、新たな罪を重ね続けるというのか。 かつて、自分の手は父親を斬り殺していた。 天使ザフィエルも、一度は命あるカタチで捕らえながら、結局はその《死》を止めることはできなかった。 ザフィエルをその場で殺そうとした軍人を止めたが故に、逃亡した天使はさらなる死をばらまいて、そうして最期を迎えてしまった。 アレは自分の罪。 アレも、自分の罪。 そしていま――もしかすると自分の中の何かを変えられたかもしれない相手の命を奪いかけている。 自分の選択ひとつひとつが、償いをと望む行動が、二重三重に悲劇を招き寄せているかのようだ。 ソレを終わらせる術はどこにあるのか? ソレを、彼は既に自分に示唆していた気がする。 「……前にあなたは私に、自分がもたらす死は安寧だって言った…それは自分にとってもそうなの?」 罪人にとってなら、死はたしかに安寧だ。 もう何も見なくてすむのだから。 でも、だからこそ、自分はソレを選べない。 「カンナ……弱きモノよ……君の定める罪とは何かね? 何を以て償いになると? ヒトは、生きるだけで罪深いというのに……」 「……それでも、生き続けなければ、償えない……」 また、同じ場所に舞い戻る。 既に問いのカタチかどうかすらあやしい、思いの断片が落ちていく。 答えを求めているようで、答えを求めていない、返ってくることを期待しながら怯えている、その狭間で問いが落ちていく。 「……私が死ねないって、知ってるんでしょう? 分かっていて、私に課していくのね……私に罪を残していくのね……」 自分は多くを知らない、求めても得られなかった、だから分かりようもないかもしれないが、それでも、神無は「ずるい」と思ってしまう。 大勢の命を奪った【鉄仮面の囚人】の《罪》は事実として存在し続ける。 なのに、犯した罪をそのままにして死に行く彼をずるいと思ってしまう勝手な自分がいるのだ。 手を掛けたのは自分なのに、それもまた分かっているのに。 彼は、そんな自分の内面の揺らぎ、ソレすらもすべてを見透かしているのかもしれない。 だからただ見つめるのかもしれない。 「……もしかして、あなたは……」 ふと、思う。 ルイスは、もしかすると自らの死を望んでいたのではないだろうか。 だからこそ、自分の手に掛かったのではないか、自分を操ったのではないか、幕引きの一端を担わせたのではないか―― 「…………ちがう、わね……」 頭を振る。 これは、都合の良い自己解釈に過ぎない、自分の罪を他者に転化して逃れようとしているに過ぎないのだと、戒める。 自分は彼を殺める。経緯など関係ない。結果として、生かしたかった相手を死にゆくモノへと変えた。 ソレが《事実》であり、《真実》だ。 「私があなたを死なせる……あなたを大切に思うヒトから、あなたを奪うのね……」 そして、贖罪の機会すらも、永遠に奪い去るのだ。 「――っ」 誰か、死よりも重い罰を与えて。 ホワイトタワーに変わる新たな収容施設へと自分を閉じ込めて。 天使ザフィエルが本来そうなるはずだった、あの場所に自分を収監して――ファミリーを殺した重罪を、この身を以て償わせて――! 内側から噴き上がってくる強い想い、ソレが言葉になる前に、まどろみを誘うような透明な声が神無を遮った。 「ようやく追いついたのです、ここだったのです」 †安寧の志向者 「……ゼロちゃん」 「ゼロ、さん……?」 皆の視線を受けながら、少女は立ち尽くす神無の脇を抜け、ゆるりと【鉄仮面の囚人】の元まで歩み寄る。 「舞台の幕は下りたのです。ルイスさんも鉄仮面を外す時だと思うのですー」 彼は抵抗しなかった。抵抗するチカラは既に残っていないということだろう。 そして鉄仮面は、ゼロの手によっていとも容易く取り外される。 現れたそのカオはすでに大量の血液を失ったためだろう、蒼白を通り越して紙のように白く、あれほど満ちていたはずの生命力が感じられない。 悠然と構えていたはずの、王者の風格は見る影もなかった。 「そして、ルイスさんの劇は終わったのですから、今度はゼロの書いた寸劇に出演してもらうのです。全てに絶望した男は、【悪意】を捨て、【安寧】を得て、そして眠りにつき幕なのです」 穢れない純白の意志が告げられる。 キレイゴトだと一笑に付されるような、そんな台詞すらも、迷いなく、真剣に、真摯に伝えるのだ。 「苦痛は安寧を減少させるのです。それはいけないのです」 ゼロの巨大化は物理的な物だけではない、たとえば思考といった概念的にも及ぶ。 そしていま、ゼロが行うのは、自らのまどろみを巨大化させてまとい、ルイスの痛覚神経を眠らせていくことだ。 白い小さな手が、ルイスに触れる。 目には見えない何かが、彼の身体をそっと包み込み、羽根のようにやわらかく撫でていく。 「……あ」 驚いたように、一が小さく声をあげた。 彼の呼吸が、ゼエゼエと喉を締め付けるような浅く速く荒い息が、ふぅっと穏やかなものへ変わった。 額に滲む汗も、肌を通じて伝わる鼓動の速さも、次第に引いていく。 もうすでに一言すら発せられなかったはずの彼が、口元に微かな笑みを浮かべる。 「……それで……終幕に、君は何を望むのだね……?」 問いかけがなされ、ゼロは至極真面目な表情で彼を見つめる。 そして、続く。 「ゼロは聞きたいのです」 ストレートに、回りくどいことなど何ひとつなく、彼からの答えを求める。 「それまで諦念や韜晦でもって他者と接していたルイスさんが、ゼロ達が捕らえられた時のマスカダインさんの言葉には激情を見せたのです。図星だったのです?」 鉄仮面の囚人にもろともに捕われたとき、あの青年は彼に問うた。 『貴方に必要なのは断罪じゃなく告解。違う? ねぇ、語るべきは真実じゃないかい。鉄仮面ではなくルイスの――』 理解を拒絶する冷ややかな眼差し、凍てつく声音とともに彼が取った行動は、およそ伝え聞く彼らしからぬモノだった。 「もしかすると、ルイスさんが本当に滅ぼしたかったのは《チャイ=ブレ》ではなかったのです? それを不可能と確信し絶望したのです?」 彼の振りまく悪意は、漆黒の闇ではあっても、他者を排斥する単純な《殺意》とは異なるモノだと感じていた。 彼の抱える絶望は、愛するモノを失うという哀しみから端を発してはいても、さらなる深みがあるように感じていた。 では、彼の真意はどこにあるのか。 悪意の源泉には何が眠っているのか。 「……ゼロ領域の君は、なるほど……私をそう、捉えるのかね……」 「本心はどこにあるのです? 真偽はどこなのです? ゼロは知りたいのです」 安寧を求めるが故に、その対極にある存在の、その礎となっているモノを知りたいと願う。 知るべきなのだと、告げてくる。 その純然たる思いに、彼は笑む。 「……この街は、忘却であふれている……喰われるために生かされていながら……そこに絶望を見いだせないようにされているのだよ」 そして、茶番は続けられる。 選ばれしモノであるかのように錯覚しながら、幸福であるのだと日常に幻惑されながら、仔羊の群れは喰われるその日まで、用意された舞台の上で何にも気づこうとせずに生き続ける。 「儀式の妨害が成功していたら、具体的には何が起きたのです?」 「……何が起きたと、思うかね?」 問いは問いで返された。 ゼロは思案する。 もしも、ロストメモリーへの儀式が妨害されたとして、一体、何が起きていたのか。 何か世界を揺るがす、ターミナルの存続に関わるような、重大にして壮絶な変異が訪れるというのか――? 思考が巡る、巡り、巡って、辿り着いた答えに、ゼロは小さく首を傾げた。 「……ゼロには分からないのです……なぜか、なにも起きないような気がするのです?」 「……ではソレが正解ではないかね?」 ルイスは再び目を細めた。 何も変わらない、世界は変質しない、そう結論づけて笑うが、しかし、その笑みには不穏な気配がつきまとう。 じわりと滲み出る悪意――高純度の闇がまたしてもゼロの前に晒される。 「エドガー」 「……」 しかし、その答えを求めるよりも前に別の声が差し込まれる。 †探求者の業 「ムジカさん、由良さん……」 「二人も来たのです?」 「付き合いだ」 あえて危険を冒すことはないと思われた由良は、むっすりとした表情で答える。 ムジカは躊躇うことなく彼の元まで歩み寄り、そのまま、一やゼロと同じく、血に塗れることを厭わずその場に膝をついた。 そして、ゼロによって外された鉄仮面を手に取ると、彼に視線を合わせる。 「エドガー、あなたに訊きたいことがあってここまで来た」 あえて、ムジカは彼の名を、【ルイス・エルトダウン】ではなく、【エドガー】と呼ぶ。 鉄格子越しで出会い、思索家である彼の【閉じ箱】の中で悲劇と罪の美学を語り合った、あの瞬間がすべての始まりであり、アレ無くしておそらく今はない。 虚構という閉じ箱の中でありながら、関わる者たちの《何か》を決定的に変化させてゆく、そのキッカケがあの場所にはあった。 求めたところで容易くは得られないだろう、あまりにも稀少な時間だった。 しかし、円形劇場の奈落の底で語り合ったのは、あの時存在していたのは、分身であって、本人ではなかった――可能性がある。 では、ロストメモリーによるシェイクスピア劇、あの舞台の上に降り立ったのは? すべての記憶を共有していると【分身】は告げていたが、では、どこまでが真実で、どこまでが虚構なのか、果たして閉じ箱の観測はどの時点で行われたのか。 求めるほどに、自分の知る【エドガー・エルトダウン】にブレが生じていく。 「確かめたい」 だから、ここに来た。 あらゆる危機を理解しながら、あえて踏み込むことを選び、ここへ。 『この鉄仮面を継承しないというのか。私の死を無駄にすると』 『よく考えろ、ムジカ・アンジェロ。きみはすでに同胞を裏切っているのだぞ。この鉄仮面を引き受けてはじめてきみはこのターミナルの新たな魔王になれるというのに……』 「アレはあなたの本心か?」 それを質す機会が欲しくて本物を探したのだ。 もうじき孵化すると告げた、あの台詞の真意と共に。 「おれは初めから道化を演じている、その自覚はずっとあるんだ」 罪を罪と定めないままに、世界図書館の理不尽に依って自由を奪われた者へ、行動を起こす機会を与えるだけだった。 何が起ころうと、何がなされようと、その一切に干渉しない。ただその一切について甘んじて糾弾を受ける覚悟だけをし、彼を解き放った。 自分は何も望まない、貴方が何をするも自由だ、とも告げたはずだ。 「なのに何故、おれに後を継げと?」 言動の不一致さと不合理性は、そのまま彼に対する不可解さへと繋がっている。 ソレは彼も分かっていると思っていたのだが。 理解してくれていると思ったのは、ただの自分の《期待》だったのか。 「ムジカ……」 くつり、と彼の喉が鳴り、口元が笑みのカタチに揺らぐ。 「……種を撒いたのなら……水をやり、肥料をやり、陽を当てて、育て、実らせねば意味が無いだろう?」 さながら、研究論文と質疑とを手に執務室へやってきた学生に諭す教授のごとく、彼は言う。 「何者か知らぬ卵を見つけたなら……果たして何が生まれるのか、手ずから育て孵化する姿を見届けたいとも思うのではないかね?」 至極当然の道理であるかのように、彼は言う。 「なにより、どのような刺激でどのように変異するのかを、楽しみたいとは思わないかね?」 ソレが好奇心というモノではないのかとも、彼は言う。 「ソレがすべてか?」 あらゆることはすべて自分を試していたのだということか。 「……ムジカ、君もまた、試したいと思うだろう? ……いや、既にソレを実行している……意識無意識は別にして、我が友よ……君は既に、傍観者であり、観測者であり、実験者であるはずなのだから……」 ルイス・エルトダウンの【舞台】を傍観し、ムジカは悟った。 罪を定めず明確な《法》を存在させていないこの街は、この街の有り様は、《悪意》では覆せないのだ。 「……他者の過ちと観測から、さて、……何を学ぶかね……?」 「おれはこの街を変えたい」 暴力を暴力とも思わないモノの業によって、踏みにじられていく美しい存在がどれほどあるのか。 謎を解くのではない、暴力によって暴かれる秘密と傷にどれほど多くの運命が狂わされていくのか。 美学のない罪の存在と言われなき糾弾に、どれほどの苦痛が潜んでいるのか。 「君はやはり、未知数で面白い……だが……ムジカ、君の“罪”の基準はどこにあるのだね?」 ルイスの視線が一瞬由良を捉えた。 「探偵は罪人を作り出す、つまりは罪の存在を許容する……許容しながら暴き立て、追い詰めるのだ……」 その意味を、ムジカは受ける。 「……君は、罪深い……その内に秘める寛容さと厳格さが、君を追い詰め追い立てるだろう……だがそれでも、ホワイトタワーに収監されるのは君ではないのだよ」 君の友人であり私の友人でもある、あの【彼】が入ることになるのだと、予言のように言い放ち。 二律背反のようだ、と彼は笑った。 †殺人癖の空隙 由良は落ち着かず、周囲を常に警戒していた。 足下から這い上がってくるおぞましい違和感に、誰に言われるでもなく、自分がもっともよく分かっている、ついてきたことへの後悔だ。 「ようこそ、ヒサヒデ……」 「……付き合いだ」 鉄仮面を解き放ち、こんな事態を招いてしまった、その責任の一端は自分にもある、罪悪感もないわけでない――そう自覚はしているのだ。 だが、 ――嵌められただけだ! 即座に自分の中から反発する言葉が返ってくる。 自分は何も知らなかった、知らないままに巻き込まれ、気づけばここまで来てしまっていたのだと《言い訳》が先走る。 染みついた本能が、《罪への糾弾》を回避したがる。 そしてそのたびに、あの声が蘇る。 『ヒサヒデ、怯えることはない。君の好きにしたまえ。それはけっして罪ではない……いや、罪ではあるのだろうけれど、罪とは暴かれて初めて罪と認められるのだしね』 『ヒサヒデ、なに、自分の欲望に忠実であることは尊い。すべての覚悟ができたのなら、あとはもう好きにやるといい』 「欲望に忠実に行った結末がこの有様か?」 わずかに含んだ毒――侮蔑や嘲りではなく、むしろ失望や落胆に近しいモノの混ざり込んだ台詞が口を突いて出る。 勝手なのは分かっている。 ただ、罪を唆すあの台詞が、いまだに自分の中には残っているのだ。 「覚悟はできないのなら全力で隠したまえ、とも言ったはずだがね」 「……」 「あんたは本当にすべてを殺し尽くそうとしていたのか?」 こんな場所まで来て、本当に? 「……不可能だと思うかね? ……死は連鎖する、絶望は感染する、知らぬワケではあるまい?」 いつかどこかで、見ているはずだと、彼は告げる。 絶望が死に至る病であるという、その厳然たる《事実》を目の当たりにしているはずだ、と。 由良はソレを知らない、とは言い切れなかった。 本能的に知っている。 絶望の淵へと落ちるのは、始めはわずかな数かもしれない。 たったひとりかもしれない。 だが、その人間の周囲には本人も気づかないうちに、数百という《関係性》の糸が張り巡らされているのだ。 どこでなにが繋がり、絡み合い、殺意の導火線となるかは誰にも分からない。 「……殺人者によって殺人者を増やしていくつもりか……」 ソレを一人でなそうとしていたのか――いや、この男には分身の能力がある。無数の分身たちの振りまく悪意によって殺し作ることも可能かもしれない。 「……」 ふと沸き起こる、疑惑。疑念。 本当にこれで終わりなのか? 鉄仮面は本当に【最期】となるのか? 虚構を操る男が、これを虚構で済ませない理由がないだろう。 「あんた、その能力をいつどこで手に入れた? ヒトでなくなったあんたは、そのチカラをどこで……」 彼は笑む。 「すべては契約なのだよ、ヒサヒデ……ファミリーは皆、チャイ=ブレと契約を交わし、力を与えられた……」 ソレが《現象》のすべてだと彼は言う。 明かされてしまえば他愛のない理由に、納得する以外ないのだろう。 あのシェイクスピア劇で捕われていた《オフィリア》は一体どこへ消えたのか。 心の引っかかっていた《最後の問い》を由良に口にしかけた瞬間―― ぞろり、と不穏な気配が辺りを満たした。 †終幕の果て 「エドガー、さん……?」 一が怯えたように呟く。 5人との対話を経て、いつの間にか驚くほど彼の身体は冷えていた。取り返しが付かないほどに、冷たい。 そして、一は気づく。 まだ伝えなければならないことが残っていたことに。 そしてソレは今を逃しては永遠に機会が失われると言うことに。 「エドガーさん、私は絶対あなたを忘れません。頼まれたって、絶対絶対、あなたを忘れてなんてやりませんからね!」 ルイスは――鉄仮面の囚人と呼ばれ、エドガーと呼ばれ、かつてはエルトダウン家当主と呼ばれた男は、穏やかに、やわらかく、愛おしげに微笑んだ。 「愛しい私のヒメ……」 血に塗れた手が、髪を、頬を、そっとやわらかく撫でていき、見つめ続ける一に口づけがひとつ落とされる。 「……あ……」 そして、それきり。 彼の手は力を失い、地におちて、そのまま動かなくなった。 目の前で、ひとつの命が失われる。 永遠に、ひとつの存在が失われる。 永久に消失する。 圧倒的な空虚感が押し寄せてくる。 だが、浸り続けることは許されない。 蠕動運動を開始した体内で、ゴボリと不吉な水音が響き渡ったのだ。 これまではおそらく、ルイス・エルトダウンのチカラによって押しとどめられていたのだろう、その“結界”が破れ、チャイ=ブレの体内が異物を認識してしまったのだ。 立っているのがやっとなほどの、激しい鳴動がそこら中から伝わってくる。 「行こう!」 ムジカの声が飛ぶ。 「連れて帰るのです、ここで眠るのは《安寧》じゃないのです」 咄嗟に、ゼロがルイスへと手を伸ばす。 「やめろ!」 だが、その手は由良によって強引に掴まれ留められた。 その間隙を縫って、ルイスと自分たちの間にずるりと大きく肉壁が盛り上がる。 彼の亡骸が、呑まれていく。 ずぶずぶと、呑まれ、肉壁の中へと沈み込んでいく―― 「私、忘れませんからね、絶対絶対、さよならだって言いませんからね、絶対――っ」 泣きながら、喚きながら、一は走る。 神無は無言のまま、走る。 由良はカメラ機材を抱え、無表情に走る。 ムジカの詩銃とゼロの能力が、道を切り開いていった。 鉄仮面の囚人は、チャイ=ブレの中へと吸収され、そうしてすべての舞台の幕が降りる―― †幕間 「あなたへの愛を、私はあの月に誓うわ」 「なぜ夜毎姿を変える不実な月に誓おうとするのだね?」 「……真実の愛を誓えば、待っているのは悲劇しかないんですもの」 「ベイフルック家とエルトダウン家に、そのような確執はないはずだがね?」 「でも、悲劇の足音が聞こえるの。私には、聞こえるのよ」 「一体、なにに怯えているのだね?」 「笑わないでね? 私には、世界を根底から覆してしまうような、悲劇の足音が聞こえるの」 †憎しみの所在 チャイ=ブレの体内から吐き出された少女たちは、後ろを振り返り、たったいま来た道を望み。 そして、 「ゼロちゃん、ありがとう……ゼロちゃんがいてくれて良かった」 一はゼロに頭を下げた。 「どういたしましてなのです?」 何故礼を言われるのだろう、と首を傾げれば、一は泣きはらした目を細めて、 「エドガーさんの痛み、ゼロちゃんが取ってくれたんでしょ? それに、ゼロちゃんのおかげで最期まで一緒にもいられたし……」 「ゼロはゼロの書いた寸劇に参加してもらいたかったのです、そして見届けると決めただけなのです」 そして、その締めくくりもちゃんと考えていた。 「ゼロは、ルイスさんをアイリーンさんの隣に埋葬してあげたかったのです……」 あの場所に落ちていくことは、チャイ=ブレに消化されてしまうことは、ゼロの望んだ《安寧》の閉幕からはほど遠い。 「エドガーさんは……アイリーンさんの元へ行けたんでしょうか……」 「一さん……私が憎いでしょう? あなたの大事な人を奪ったんだもの……憎んで当然よね」 殺したいほど憎んだとしても、誰も彼女を責められないだろう。 「わたしは殺されるわけにはいかない、死ぬわけにはいかない、でも、あなたの思いを……」 「憎んだりなんかしませんよ」 きっぱりと一は告げる。 血塗れ涙まみれのカオをぐいっと拳でぬぐい去り、しっかりとした眼差しで毅然と彼女は告げる。 「憎むとか、罰を与えるとか、そういうの、違うんです」 「ゼロは思うのです」 純白の衣装を血に染めたゼロもまた、静かに、けれどまっすぐにカンナを見つめる。 「罰を望むよりも、どうしたら哀しいヒトを幸せにできるかを考えた方が、ずっとずっと良いと思うのです」 ソレは神無の中には存在しない思考回路だ。 「私はエドガーさんに“ナゾカケ”をもらいました……たぶん、解けない謎ですけど……」 あの人が愛していたのは、アイリーン・ベイフルックだった。 あの人は、その愛に百年の時を超えて捕われ続けていたように思う。 でもだからこそ、最期の、死の間際に与えられたキスの意味が自分には分からない。 ルイスの唇が触れた場所を無意識になぞりながら、一は思う。 アレが、別れの挨拶だったのだろうか? 「……っていうか、憎んでって頼まれても、憎めるわけないじゃないですか。私、泣いてる女子に弱いんです」 「私は別に泣いたりなんか」 「そんなカオして、泣いてないなんて……さては相当な意地っ張りですね?」 一が笑う。 血と涙にまみれて、力ないけれど、でも、心の明かりを灯す笑みが神無に向けられる。 †告解 「由良……無理を言って付き合わせた。ごめん」 「……」 一切の含みなく謝るムジカ・アンジェロというモノを、もしかすると自分は初めて見たかもしれない。 あそこで死ぬわけにはいかない、由良を死なせるわけにも行かない、その強い意志は脱出の合間で確かに感じていた。 詩銃頼みである自分を、ムジカは十分理解し、消化液からも抗体からも護ってきた。 ソレが彼なりの償いであることも、察せられる。 だが、ソレに素直に返すべき言葉を自分は持ち合わせていない。 だからソレにはなにも返さず、代わりに別の言葉に変える。 「アレで本当に終わったと思うか? 鉄仮面は死んだのか?」 由良のカメラは、鉄仮面の最期を捉えることはできなかった。 ゼロという少女が彼の亡骸を連れ帰ろうとしたのが分かったから、ソレを阻止することにすべてのチャンスを使ってしまったのだ。 そうまでしてもなしておきたかった。 彼の死を確実なモノへとしたかったからだ。 誰かが、万が一にも誰かが、あの男を蘇らせてしまうのではないか――その可能性を永遠に消し去るために。 しかし、それでもなお、不安は残る。 あの男は予言を残しているではないか。 不吉な予言を―― 「悪意はどこかで芽吹くのを待っているかもしれないけど……」 ムジカは、そんな由良の思いを知ってかしら図化、厳かに、神託のように、告げる。 「彼はもうどこにもいない。エドガーはもう、どこにもいないんだ」 そして、 「舞台を降りた役者への、餞だ……」 できることなら彼の骸へ、この花を贈りたかった。 そう呟いて。 詩銃に込められた言の葉が、無数の色鮮やかな花びらとなってアーカイブ遺跡に舞い上がり、舞い落ちる。 END
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