★ 偽りの結婚式 ★
<オープニング>

act.-3 確認

「それじゃあタイムスケジュールの確認をするわよ」
 何処かの地下聖堂で、何かの密談が行われていた。
「まず、扉を閉めると同時にロケエリで暗黒空間にしてその間に誘拐。手練れも混ざっていると思うから対応に気をつける事。サクラ班、いいわね?」
「了解」
「次に迎撃班。遊撃はカンヌのゾンビ隊と増援に任せて拠点防衛に徹する事。ここを含めて、なるべく時間を稼いで戦力を引きつけて。あと、崩落に巻き込まれても大丈夫なメンバーか念のため編成チェックもお願いね」
「わかりました」
 集まっているのは、見た目も出身もバラバラなスター達らしい。そしてどうやら、何か良くない事を考えているようだ。
「突撃班は素早く捕虜の振り分けを行う事。遊撃と本隊の戦力補充はバランスに気をつけて。監禁の振り分けは適当でいいわ。ここに到達された時点で市役所に強襲をかける。何か質問は?」
 作戦指揮官らしき少女の問いに手は上がらない。この日まで、何度も作戦を詰めてきたのだ。
「ないわね」
 その静寂に静かに頷くと、最後に少女はこう言った。
「これは、存在を賭けた戦いよ。命懸けはもちろんだけど、決して無駄死にをしない事。いいわね――それでは、各自配置にっ」
 その言葉をきっかけに各自の持ち場へと移っていくスター達。入れ替わりに、1人の青年が入ってくる。
「カンヌ、色々とありがとう」
「なに、私もその方が都合が良かっただけですよ」
「そうね。あっちの都合も分かるけれど、全てのスターがそれに従える訳じゃない。その犠牲に、どれだけの人が気付いているのかしら」
「業ですよ、人間のね」
「どの世界でも似たようなものなのね、自分達の都合だけで物事の基準を決めるのって。こっちはいきなり引きずられてきた身だというのに」
「仕方ないでしょう。自分達の外側に対しては何処までも冷酷になれるのが人間という生き物なのですから」
「――成功確率は、決して高くない。でも、せめて意味は残してみせるわ」
「乗りかかった船です。最後までお付き合いしますよ、アリス」
 お互い、今の銀幕市に受け入れられないのは分かっている。その在り方と、相容れないのだから。
 そう、そこに集まっているのは全員ヴィランズ。銀幕市のルールに、従えなかった者達。


act.-2 発覚

「結婚かぁ……」
 仕事の合間、ふと灰田汐は呟いた。
 今日はハザードで発生した教会でスター同士の結婚式が行われるらしい。
 どうしてそんな事を知っているのかといえば、招待状が届いたから。灰田だけではなく、市内に住むほとんど全ての人に。
 行きたいのは山々だったが、残念ながら非番の日ではなく。むしろただでさえ忙しい日常業務に加えて具体的作業は丸投げな国の施策のおかげで休日返上でそちらの準備もしている最中だから普段以上に忙しい。
 とはいえ流石に市役所から誰も行かないのも何だろうという事で、草間雪香と高梨益子の2人が代表という形で式場に行っている。
 高梨と一緒と聞いて草間が2人分の仕事2日分を猛スピードで仕上げてしまったのには驚いたが。そんな余力があるならこっちも手伝って欲しい、と言ったら多分セクハラされるから言わないけれど。
「それにしても、確かに疑問なんですよね」
 そう、あの招待状は怪しい。
 何が怪しいって、結婚する2人が何者なのかがさっぱり分からないのだ。
 せっかくだからより多くの人に祝って欲しい、という理由は分からなくもないけれど。
 でも、市役所の誰も知らなければ噂も全く聞かないというのはさすがに変ではないかしら?
「どうしました?」
「あ、植村さん」
 書類片手に通りがかった植村直紀に声を掛けられ、灰田は自分の手が止まっている事に気付いた。
「ちょっと、気になってしまいまして」
 招待状片手にそう返してきた灰田に何となく事情を理解した植村は。
「そうですね。何もなければいいのですが」
 そうとだけ返して自分の席へ戻った。
 と、そこへ。
「直紀ちゃん、大変なのー」
 リオネが駆け足で植村の元にやってきた。
「――つまり、自然公園でもうすぐ何かが起こるのですね」
「うん。いろんな人がいっぱい、市役所つぶすって集まるの」
 夢を見て慌ててやってきたというリオネの話を要約すると、そういうことらしい。言うまでもなく、ただ事ではない。
「分かりました、すぐに人を――」
「――なんですって? ……はい、分かりました、ご連絡頂きありがとうございました」
 すぐに人を集めましょうと言いかけた植村は、電話対応をしていた灰田の声に何かを感じて言葉を止めた。
「何があったんですか?」
 そう問いかけた植村に、灰田は返した。
「例の結婚式場が突然暗闇に包まれたそうです。あと、悲鳴も聞こえたとか」
 その先は、アイコンタクト。それで全て通じた。
 程なく、掲示板には2つの依頼が張り出された。


act.-1 教会

 時間は少しさかのぼる。
「ゴミが人のようだわ」
「先輩、逆です」
 草間と高梨は、式場となるハザードにより現れた教会に来ていた。
 そこにはもちろん日々接する市民達も大勢居たのだが。
「あの、先輩」
「なあに、プロポーズでもしてくれるのかしら」
「そうじゃなくて。やっぱり何かおかしいですよ」
「……気付いたのね」
 実体化しているなんて全然聞いていなかったスターや全く知らない知的生命体もまた大勢来ていたのだ。それも、どちらかと言えば悪役側の。
 程なくして、披露宴会場に案内された2人。
「どうしますか?」
「どうもこうも、流れに任せるしかないわね」
 下手に刺激をするよりは、しばらく様子見に徹した方がいい。そんなわけで大人しく聖堂内を観察していた2人だが。
「どうやら、全員席に着いたようです、ね――?」
 全員が席に着いた直後、聖堂の扉が閉められると同時に――会場は暗闇に包まれた。
 悲鳴が上がり、何かの暴れる音がする。そして。
「――――!!」
 2人もまた、何者かに口を塞がれそのまま何処かに連れて行かれたのだった。


act.0 始動

 爆薬も仕掛けた。薬も準備できている。
 ルートは、前の物を使えばいい。
 あとは、成功させるだけ。
 ――そう、これは存在を賭けた戦い。
 私達は、夢の奴隷じゃない。

種別名パーティシナリオ 管理番号985
クリエイター水華 月夜(wwyb6205)
クリエイターコメントこんにちは、水華です。
今回は少々大がかりな事件です。
成功されると大変な事になりそうなので何とか阻止して下さい。

ヴィランズ達は偽結婚式で人を集めた上で式場を暗闇に落としました。
混乱に乗じて誘拐されてしまった人もいれば、
何とか抵抗してその場に残った人もいるでしょう。
またリオネの予知によれば自然公園でも何かが起こるようです。

行動選択があるのですが、まずは共通事項を。
敵はヴィランズとゾンビに、後半は薬で暴走させられた一般市民が加わります。
数は多めですが個々の強さはそれほどでもありません。
雑魚〜強くても中ボスクラスまでです。
また出身映画にも一貫性はありません。色々出てきます。
ゾンビは倒された時にフィルムになる場合とならない場合があります。
薬の作用は「その人が持つ一番強い思いを極端に増幅する」というものです。
薬による暴走は一定時間経過で自然回復します。
うっかり暴走させられた人の命を奪ってしまうと
色々大変な事になるのでご注意を。
また何故か暴走中のみギャグっぽい攻撃能力が1つ使えるようになるようです。
ファングッズは対策課経由の場合のみ使用可能です。

全体の流れとしては暗闇に包まれた教会から始まり、
乱戦、探索(人質救出や罠解除等も含みます)、決戦となります。

行動選択は以下の4つになります。
今回は番号を選んだ上で
書いてほしいシーンを中心にプレイングを書く事をお勧めします。


1.誘拐される
誘拐された方は捕虜としてヴィランズと接触したり、
場合によっては薬を飲まされて
暴走状態になった上で敵戦力に加えられます。
ヴィランズに何か言いたい事がある場合はその旨を、
暴走する場合は元になる思いと暴走して向かう場所を明記して下さい。
選べる場所は教会のどこか(選択肢2を参照)か自然公園です。
また場所の代わりに特定の対象としても構いません。
ギャグっぽい攻撃能力はある程度何でもありです。
さらわれたり助け出される場面で登場したい方は
そちらをメインに書いて下さい。

こちらを選んだ方は教会スタートとなります。


2.教会探索
主に地下探索がメインとなりますが、
最初の乱戦や教会内探索もこちらになります。
地下への入り口は最初は隠されています。

地下迷宮は大まかに8方位と中央の9つのエリアに分かれています。
東西南北のエリアには人質が監禁されている牢屋が、
北東、北西、南東、南西のエリアには爆薬を仕掛けられた支柱が存在します。
また西の牢屋はよく調べると隠し通路が見つかります。
隠し通路の先には転送の魔法陣があり、自然公園へと繋がっています。
中央エリアの地下聖堂では瀬室カンヌが
ゾンビや暴走市民と共に待ちかまえていますが、
このカンヌは偽物です。何故か本物より強いですが。
偽物のカンヌを倒した時点で解除されていない爆薬が作動しますので、
倒すタイミングには気をつけて下さい。
支柱が破壊された場合、その地点を中心に地下エリアの1/4が崩落します
(例えば北東と北西が残っていた場合は北半分が崩落します)。

重要なポイントには迎撃班が、通路にも遊撃班がうろついていますので
そちらの対処も忘れない方がいいでしょう。
出入り口があるのは南のエリアになります。


3.自然公園で待ち伏せ
敵突撃班と真っ向からぶつかる事になります。
これの阻止に失敗した場合、市に大きな被害が出る事が想定されます。
出現タイミングは2の探索で地下聖堂か隠し通路に誰かが辿り着いた時点です。

質より量で押してくる事、
敵に暴走市民が混ざっている事の2点に対処できれば
そんなに苦戦する事はないでしょう。
カンヌ、アリスの2人はロケエリも使用しますが、
効果はカンヌがゾンビ、アリスがスライムや泥系の魔物の無限召喚のみです。
他にアリスの口付けには暴走する薬と同じ効果があります。

偽カンヌと同じく、カンヌ、アリスのどちらかを倒した時点で
教会地下の解除されていない爆薬が作動しますので
倒すタイミングには気をつけて下さい。

なお魔法勘の強い方がいれば、
敵出現前に出現場所を見抜く事が出来るでしょう。


4.その他
上記にない行動を取りたい方はこちらを選択してください。
こちらを選択する場合、なるべく行動地点を明確にして頂けると助かります。


※注意事項
初期段階でPCの皆様が知っている情報は限られています。
また連携などに関しては具体的手段を誰も書かなかった場合、
上手くできなかった事になるかもしれません。


ちなみに草間は地下聖堂に、高梨は自然公園に暴走状態で現れますが
特にプレイングで触れる必要はありません。

原則希望されたシーンで登場して頂くつもりですが
プレイングが偏った場合には他の場面で登場して頂く可能性もあります。
またパーティーシナリオにつき、
プレイングにより登場率に大幅な差が付く可能性があります。
文字数制限の関係で細かな心理描写なども難しいですので、
そのあたりご了承下さい。

執筆期間を長めに取らせて頂いていますが
なるべく早くお届けするつもりです。
それでは、皆様のご参加お待ちしています。

参加者
太助(czyt9111) ムービースター 男 10歳 タヌキ少年
小嶋 雄(cbpm3004) ムービースター 男 28歳 サラリーマン
ルドルフ(csmc6272) ムービースター 男 48歳 トナカイ
ウィズ(cwtu1362) ムービースター 男 21歳 ギャリック海賊団
新倉 アオイ(crux5721) ムービーファン 女 16歳 学生
ギャリック(cvbs9284) ムービースター 男 35歳 ギャリック海賊団
沖田 フェニックス(cfzr9850) ムービースター 男 20歳 心★閃★組
ミーサ(cywb7254) ムービースター 男 24歳 トレジャーハンター?
ヘンリー・ローズウッド(cxce4020) ムービースター 男 26歳 紳士強盗
ブライム・デューン(cdxe2222) ムービースター 男 25歳 ギャリック海賊団
ファレル・クロス(czcs1395) ムービースター 男 21歳 特殊能力者
流鏑馬 明日(cdyx1046) ムービーファン 女 19歳 刑事
桑島 平(ceea6332) エキストラ 男 46歳 刑事
近藤 マンドラゴラ(cysd4711) ムービースター 男 35歳 心★閃★組
湯森 奏(ctmd8008) ムービースター 女 17歳 復讐少女
コレット・アイロニー(cdcn5103) ムービーファン 女 18歳 綺羅星学園大学生
空昏(cshh5598) ムービースター 女 16歳 ファイター
シキ・トーダ(csfa5150) ムービースター 男 34歳 ギャリック海賊団
セバスチャン・スワンボート(cbdt8253) ムービースター 男 30歳 ひよっこ歴史学者
エンリオウ・イーブンシェン(cuma6030) ムービースター 男 28歳 魔法騎士
<ノベル>

act.1 接触

 暗闇が晴れた場内は、ひどい有様だった。
 煌びやかな飾りは見るも無惨に破壊され、机や椅子はまとめてなぎ倒されている。
 足元に幾つか転がるプレミアフィルムは誰だったものなのか。
「結婚式をこんな風に使うなんて……許せない!」
 対策課から急いで駆けつけた新倉アオイは怒りを隠さずにそう言った。ついこの間友人が結婚したばかりとなればなおさらだ。
「趣味悪ぃよな。っと、見た所何もないようだが……」
 セバスチャン・スワンボートの言うように一見荒らされただけの会場には、隠し通路がある。これは浚われた小嶋雄がブログに載せた情報だ。彼のブログには混乱前の和やかな状況はもちろん、混乱の最中の、例えば空昏が激しく抵抗している様子等も載せられている。
 能力と情報を総動員すれば、入り口はあっさりと見つかった。
 ウィズが全員に無線を配り、装飾で偽装された扉を開ければそこにはぽっかりと口を開ける暗闇が。そして。
「グギ……ギ……」
 開いた入り口から、数体のゾンビが這い出してきた。
 大して強くもないそれらはルドルフのキックであっさりと崩れ落ちたものの。
「! こいつら――」
 セバスチャンは見た。彼等の生前の最後を。
「最近の事件で行方不明になってた奴らだ」

 浚われた後、ミーサはマジシャンに姿を変えそのまま敵の内情を調べていた。巻き込まれには慣れっこなので、どうせなら色々聞き出してやれなノリである。
 人質相手だからか、彼等は簡単に口を割った。あまりにあっさり手の内を明かされると逆に嘘をつかれている気もする。
「やけに簡単に話しますね」
「別にばれても困らないからさ。人質と爆薬をセットにすれば、嫌でも人を割かなければいけないだろ?」
 そう、この教会での事件は盛大な陽動、そしてそれは成功していた。あくまで陽動は、だが。

 小嶋は捕まった後も隙を見てはブログに情報を上げていた。ヴィランズ達も陽動になると考え放置していたのだが、その油断から地下迷宮の地図を撮影することに成功され、流石にマズイとヴィランズの1人が飲み物片手に小嶋に声を掛けた。
「こんな狭苦しい所に押し込んだ詫びってわけじゃないが、一杯やらないか?」
「いいですねー」
 アルコール臭のする飲み物を手渡された小嶋は、言われるがままに口を付けた。
 ヴィランズは小嶋に見えないようにやりと笑い、彼を地下迷宮へと転送した。


act.2 探索

「こんな事になるなら、俺もついて行きゃぁ良かった」
 後輩の流鏑馬明日に同行しなかった事を悔やみつつ、桑島平は少し遅れて教会にやってきた。銀幕署の同僚達と捜査しながら、自分は明日やアオイとの情報交換を欠かさない。
「おまえら、無茶すんじゃねぇぞ!! すぐにそっちに行くからな! バッキー、ちゃんと使えよ!」
 相手が耳を痛めそうな勢いで釘を刺し、桑島は迷うことなく地下迷宮に乗り込んだ。

 ギャリックは地下迷宮の地図をウィズから受け取るやいなや中央の地下聖堂に突撃した。
 途中で待ちかまえていた遊撃班は大半が素手で吹き飛ばされた。幽霊系のスターには物理攻撃は効かなかったが、逆に足止めされることもなかった。
 地図に示されたポイントの扉を迷うことなく蹴り破る。
「人の恋路を邪ぶぐぁっ」
「オラオラオラー。祝儀ぶんどって悪さ企んでるふてえ野郎はどこだーっ。ぶっ飛ばしてやる!」
 勢いで誰かを吹き飛ばしたが、目の前にいる人物の方が今は重要だ。
「ずいぶんと早い到着で」
「てめぇが親玉か」
「いかにも」
 ギャリックと相対した瀬室カンヌが指を鳴らすと、聖堂の置くからわらわらとゾンビや暴走した参列者が現れる。
 少なくとも堅気に武器は使えねぇと素手で殴り飛ばしていると、ウィズから無線が入る。爆薬と連動しているからカンヌはまだ倒すなと。
「――無茶言うな、こっちゃ大群相手にしてんだぞ」
 無線に怒鳴り返しながら腐乱犬に蹴りを入れる。
 文字通りの孤軍奮闘。でも、どうにかしなくては。

 ギャリック以外のメンバーは小嶋のブログとセバスチャンの過去視の情報を元に、まず南の地下牢を解放した。
 簀巻き状態の空昏の拘束を解きながら、東と西の2手に分かれる。
「桑島のおじさん達も来てるって」
 無線から聞こえる怒鳴り声に苦笑しつつ、地図を片手にそれぞれのルートを急ぐ。単身突撃したギャリックのためにも、速やかに爆薬を解除しなくては。

 アオイとファレル・クロスは順調に南西の支柱まで辿り着いた。
 敵の大半はファレルが空気の壁で閉じこめればそれで事は済み、幽霊系の敵はアオイのスチルショットとファレルのサイコキネシスで対処できた。
 幸い、爆薬はTNTだったのでファレルの能力で簡単に無力化することが出来た。
「南西支柱、クリアしました」
 無線で連絡を取り、続いて西の地下牢へ向かう。しかしそこで、2人は足止めを食らうことになる。

 ルドルフとウィズとセバスチャンは南東の爆薬を解除し、続いて東の地下牢を解放していた。物理攻撃に偏ったメンバーなので幽霊には多少苦戦したが、桑島達銀幕署のメンバーとも合流し順調にここまで辿り着いた。
 持ち前の器用さで先程の爆薬解除に続いて牢屋の鍵も手早くウィズが開ける。ルドルフがカワイ子ちゃん優先で救出する中、桑島は明日の姿を見つけて駆け寄った。
「大丈夫か、明日」
「大丈夫よ……それより、状況は?」
 明日は招待状が来た時点で怪しいと思い、あえて出席したら予想通り事件が起きたので内情を探ろうとあえて誘拐されていた。収穫はそれなりにあったが、監禁されてしまい自ら動くことは出来ないでいたのだ。
「……そう、それなら私は聖堂に行くわ」
「いや、俺達も爆薬の方が良くないか?」
 聖堂に向かおうとする明日を桑島は一度は止めた。結局は桑島も一緒に聖堂に向かうことになったのだが、桑島には少し不安もあった。この迷宮、敵の約半数が死霊系なわけで。実は恐がりな明日は果たして大丈夫なのだろうかと。
 実際どうだったのかは、本人達のみぞ知る。

 東の地下牢から北上したメンバーは、それまでの敵に加えて少し様子のおかしい、しかし普段良く街で見かける人達にも襲われるようになった。
 幸い襲撃が散発的なので苦戦はしなかったが。
「何か飲まされたみたいだな」
 セバスチャンの過去視で原因を突き止めたのは良いが、そこから先での戦闘ではヴィランズなのか暴走状態なだけなのかをわざわざ判別しないといけない場面も多々あった。
 とはいえ進行自体は順調で、その後北東の爆薬も解除し、北の地下牢では捕らえられていたエンリオウ・イーブンシェンをメンバーに加えた。
 こちらはいたって順調、なのだが。
「西ルートはあれきりか」
 南西の爆薬解除の連絡を受けたきり、そちらとの連絡が途絶えていた。
 そちらも気になりつつ、エンリオウの魔法でよりスムーズに北西の爆薬解除までこぎ着けた一同はギャリックへ爆弾解除完了の旨を伝えた後、聖堂と迷ったが先に西側地下牢に向かった。
「あの鳩、結構役に立つじゃん」
 南下しながらそんなことを言っていたウィズだが。
「何で皆俺に豆ばっかり勧めるのー」
「ちょ、鳩、おまっ」
 当の本人は西の地下牢前で暴走していた。
 薬を飲まされてここに送られた小嶋は暴走の勢いでロケエリを展開、迷路の一角は敵味方関係なく問答無用で踊り続けるカオス空間と化していた。
 幸い、既にかなり時間が経っていたのか程なくロケエリは解除された。

 地下聖堂での戦闘は佳境に入っていた。
 暴走していた市民達はギャリックが気絶させた後程なくやってきた警察が保護し、明日と桑島の加勢もあり雑魚はかなり片づいていた。
「皆、真面目に戦っちゃって楽しーね、ふふ、あはは」
 飾り窓のひさしに腰掛け文字通り高みの見物をしている湯森奏が茶化すようにそう言っているが、実際真面目にやらないと危ない程度にはカンヌは手強かった。各種属性の魔法は強力で動きも素早く、銃とサーベルで捌きつつも他の人達を庇うような戦い方をしているギャリックは少なくない手傷を負っている。
「くそっ、まだか?」
 そろそろヤバイぜ、とギャリックが思ったまさにその時、爆薬全解除の一報が入る。
「どぉぉりゃぁぁぁ」
 それを聞いてこれまであえて抑えた戦い方をしていたギャリックが一気に突っ込む。
 桑島は援護を兼ねてカンヌの持っている杖の宝石部分をピストルで撃ち抜いた。
「グォォォォォ」
 杖の石を割られたカンヌは怪物のような叫びを上げた。そこにギャリックの攻撃が叩き込まれる。
 カンヌだったものはいともあっさりと吹き飛んだ。体中から何か光も溢れている。そして。
「あっ、パル」
 明日のバッキー、パルはヒップバッグから飛び出し、そのままカンヌの持っている杖にかじりついた。
「えっ?」
 そのまま杖を飲み込んだパルはフィルムを吐き出し、カンヌだったものは膨れあがり腐った合成獣の姿になった後にはじけ飛びフィルムになった。
 どうやらキマイラゾンビを魔法で変化させ、杖のスターに操らせていたらしい。
 つまり、今倒したのは偽物。それでも、教会地下での事件はこれで殆ど解決された。


act.3 迎撃

「よし。突撃班行くわよ」
 聖堂にギャリックが到着した頃、隠し通路の魔法陣前で突撃班は気勢を上げていた。
「それはいいのだけれど、リオネには見抜かれているようだよ?」
 そこに待ったをかけたのはヘンリー・ローズウッド。彼はカンヌ達の計画に興味を持って密かに協力していたのだ。
「だったら、先陣は彼等に切って貰いましょうか」
 アリスはそう言って、暴走状態の市民達を魔法陣から送り出した。

 自然公園で歌の練習をしていた沖田フェニックスは、目の前に突如現れた集団に邪魔をされたとぶち切れて勢いで抜刀したのだが。
「お前ら喧嘩売ってんのか」
「剣なんて買うものですかっ」
 よくよく見れば目の前にいるのは普通に街で見かける人達。真っ先に出てきた人は確か市役所に居たような。というかバンドメンバーの近藤マンドラゴラも混ざっている。皆様子はおかしいが。
「俺はゲリラライブする為にここに居るんだー!」
 ――それほど変わらない人もいるか。
 ともかく、予想外の展開に一瞬戸惑った沖田は暴徒に飲まれかけたがここで嬉しい誤算が起こる。
「行くぞ沖田君、今日は2人でゲリラライブだ」
 そんなことを言いながら近藤はロケーションエリアを展開、周囲を強制的にライブに巻き込んだ。
 市役所からやってきた太助やシキ・トーダやコレット・アイロニーに偶然通りがかって何の騒ぎかとやってきたブライム・デューンも、本人の意思とは無関係にノリノリでライブに参加するハメになった。
 ――地下と似たような展開なのはただの偶然だ、多分。

「人選ミスじゃないのかい?」
 ヘンリーが冷静に告げる。
 どうやってかは知らないがヘンリーが地上の様子を見てきたのだが、混乱させるどころか後続も含め足止めされているらしい。
「聖堂もやられましたね」
 カンヌも冷静に地下迷宮の様子を告げる。
「ヘンリー、ロケエリが切れたら知らせて。悔しいけどそれまで待つしかないわ」
「了解。まあそれまでに後ろから来るかも知れないけどね」

 地下探索メンバーは西の地下牢に集まっていた。
 ここにいたミーサの話では、この部屋の隠し通路に敵の本隊が居るらしい。
 まだ元気なメンバーを先頭に隠し通路に潜入すると、程なくゾンビがひしめき合う森が。隠し通路潜入を察知したカンヌがロケエリを展開して待ちかまえていたのだ。
「これはまた大層なお出迎えだねぇ」
 エンリオウはのほほんと言いながら、瞬時に魔法で手前のゾンビ達を一掃した。
 だがゾンビ達は、足元から次々とわき出してくる。

 自然公園の一角は約1時間に及ぶライブからようやく解放された。
 近藤のソロの間に事情を聞いた沖田がロケエリを継続発動させたのだ。
 そして一帯はちょっとしたホラーな状態にもなっていた。ハードなノリはゾンビ隊の脆い体には厳しかったのか、ヘドバンや拳突き上げなどの度に頭が落ちたり腕が飛んだりと次々に自壊したため、フィルム化しなかったゾンビの残骸があちこちに散乱していたのだ。カンヌが地下の迎撃に回ったのもこの現象が理由だったりする。
 この間に薬が切れた人も多く、残りもブライムやシキが気絶させて太助がスライムの体に取り込むという連携で無害化させていた。
 ヴィランズも太助の体に進行を阻まれている間に各個撃破されていて、残るはアリスと数体のモンスターのみになっていた。
 そのアリスに、コレットは話しかけた。
「どうして市役所を狙ったの?」
「ルールの象徴だからよ、私達を排除するね」
「そんな、一緒に暮らす方法だって――」
「じゃあ貴方、危険な外来種と一緒に暮らせる?」
 その言葉と共に、アリスがロケエリを展開する。まるで自分がそれであるとでも言うかのように。
「勝手に呼び出されて、危険だからって排除されるのが私達なのよっ」
「これっち、危ない」
 とっさに太助がコレットを抱え上げる。その足元からはまさに泥の腕が這い出す所だった。
 そしてアリスは。
「何だ、こいつは」
 突如現れた(実はヘンリーが奇術で出した)泥に埋もれたかと思うと、泥の巨人と化した。
「あははっ、まだ終わらない――」
 が、次の瞬間アリスの体は炎に包まれた。

 地下の足止めはきっかり30分で終了した。
 ロケエリが切れたカンヌは、そのまま地上への魔法陣へと急ぐ。
 足止めされていたメンバーも残り少ないゾンビを倒しながら、カンヌにも追撃を入れながら後を追った。
 そして。
 地上に出たメンバーが見たのは見知った顔と対峙する泥の巨人。
 エンリオウが魔法で炎を放ったのはとっさの行動だった。すかさずファレルが土中の油分を表層に集めて火力を上げる。頭部にはスチルショットが撃ち込まれ、胴体には銃撃が浴びせられる。
 銀幕市民達の挟撃に、崩れ落ちるアリス・ゴーレム。
「くっ、アリス――」
「人の心配しとる場合かいっ」
 ある意味ライブをはちゃめちゃにした首謀者の登場に今度こそ怒りを叩き付ける沖田。地下戦闘で既に手負いだったカンヌはそれが止めとなりフィルムと化した。そして。
「ふふ……忘れないで。この街がこのままである限り、私達みたいな存在はいくらでも出てくるんだから……」
 その言葉を最後に、アリスもまた砂に埋もれたフィルムと化したのだった。


「面白かったよ。でも、コインは常に表が出るわけじゃない」
 結末を見ていたヘンリーは、そう呟いてその場を去った。
 彼が立っていた桜の木は、そのつぼみを色付かせ咲き誇るタイミングを見計らっていた。

 かくして、彼等の市役所襲撃計画は潰えた。一部の人達に微妙な感情を残して。
 彼等が意味を残せたかどうか、答えが出るのには時間がかかるだろう。
 だが、その前に。
 この事件から少し後、銀幕市はその存亡を賭けた大いなる脅威と向き合うことになる。

クリエイターコメントということでこの事件はお花見の前に起きました。
うっかり場所が被って「しまったぁ」と思ったりもしたのですが。

参加して下さった皆様、ここまで読んで下さった皆様、
どうもありがとうございました。
市役所襲撃計画も阻止され、誘拐された人達も殆どが無事戻ってきたようです。
多少の犠牲は出てしまったようですが、おそらく最小限で済んでいるでしょう。
ちなみにゾンビの残骸ですが、公園整備の人達がちゃんと処理したようです。
腐乱死体を見ながらのお花見はさすがにアレですし。

それでは、今回はこれにて失礼します。
公開日時2009-04-07(火) 19:00
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