★ 世界ツンデレ化計画!? ★
<オープニング>

 無機質なコンクリートの壁が覆う、箱のような建物が前方に見える。住宅街の中で一際異彩を放つこの家が今回の目的地だ。
「ここがそうです」
 デジカメを持った銀幕ジャーナルの記者――七瀬灯里がそう言う。
 と、突然その腕が組まれた。僅かに吊り上がった瞳が一行から外れ、左斜め上に向けられる。口はへの字に結ばれ、頬には朱がさしていた。
「い、言っときますけど、べつにあなたたちのために案内したんじゃないんですからね!」
 なんだか照れたように言う灯里。
 耳をすましてみると、周りからも――
「べ、べつにあんたのためじゃないんだから」
「勘違いすなよ! ただ俺がやりたかったから、やっただけなんだからな!」
「ふ、ふんだ。そんな風に言ったって、わしは騙されないぞ!」
 などと、老若男女とわず同じように、照れたような怒ったような声を上げている。
 灯里は恥ずかしそうに頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。また電波の影響で……」
 彼女に悪意や、計算があってあんなことを言ったのではない。この一帯に入ると、誰でもそうなってしまうのだ。
 ――ツンデレ怪電波。
 その電波の影響を受けると、ムービーファンだろうがムービースターだろうが、その筋の怖いおじさんまで、恋に不器用な人間――いわゆるツンデレ――のような態度をとってしまうのだ。
 それを止めることが、今回の銀幕ジャーナルの依頼である。
「ここの家がその電波源のようなんです。被害という被害はないんですが、なにせ迷惑なので……」
 この家の主は、ムービースターのツデレ・ツイロ。世間で言うマッドサイエンティストで、しかし最近では彼の研究がまた違う意味で狂い始めているらしい。
 何か言おうとする灯里の腕が、再び組まれた。また電波の影響を受けたようだ。
「中には警備のロボットがいるみたいです。まぁ、せいぜい気を付けて下さいよね。言っときますけど、失敗は絶対に許さないんですからね!」
 と、灯里は勝ち気な声を上げた。
 しかしその顔は僅かに覇気がない。一行が戸惑っていると、彼女はついと彼らに歩みよった。
「…………ぜ、絶対無事に戻って来て下さいよね」
 そう、ぽつりと言う。
 その後すぐにハッと正気に戻り、灯里は顔を真っ赤に染めた。

種別名シナリオ 管理番号833
クリエイター門倉 武義(wmxx4075)
クリエイターコメント 門倉といいます。よろしくお願いします。

 今回のシナリオは、ツンツンデレデレします。
 どんな性格のPCでもツンデレになりますのでご注意を。

参加者
真船 恭一(ccvr4312) ムービーファン 男 42歳 小学校教師
新倉 アオイ(crux5721) ムービーファン 女 16歳 学生
リョウ・セレスタイト(cxdm4987) ムービースター 男 33歳 DP警官
晦(chzu4569) ムービースター 男 27歳 稲荷神
<ノベル>

「……うわ」
 サイコロのような立方体の建物の中に入ってすぐ。
 無機質なコンクリートの床がまっすぐに伸びる廊下で、警備ロボはさっそく現れていた。
 だがしかし、一人をのぞいて武器を構えてる者はいない。構えようともしていない。ただただ目の前のロボに呆れ返っていた。
「なにこれ……、趣味まるだしじゃん」
 赤みがかった髪をもつ女子高生が、ぽつりと漏らした。肩に乗せられたバッキーも主人と同様、目の前のそれに呆れているようだった。
 赤髪の少女――新倉アオイは、引きつった表情で警備ロボを見る。
「ツンデレ好きといい……まじキモいんだけど」
 一見ただの女性のようにも見えた。生気を感じられない瞳や、可動式プラモデルのような間接でなんとか機械だと判別出来るが、かなり人間に近い。
 が、そこにアオイの顔を引きつらせている問題があるわけではなかった。問題は、格好にあったのである。
 ロボの姿……それが、まるまるメイドさんだったのだ。それもふりふりがいっぱいついた、実用性よりもかわいらしさを重視したメイド服を着せられている。メイド喫茶使用だ。
 アオイの背後から晦がひょっこりと顔を出した。
「なぁなぁ、こいつが警備ロボットなんか?」
 男臭い線の太い顔立ちに、赤く染まった着物と髪の毛。担いだ木刀。その筋の人間にも見れそうなものだったが、彼の内からあふれる不思議な愛嬌がそうはさせなかった。人懐っこい印象を受ける。
「そうなんじゃないですか?」
 ぶっきらぼうにアオイは反す。
 晦は「そうか、そうか」と頷くと、無邪気な瞳を輝かせて再び、
「なぁ、あと”つんでれ”ってなんなんや?」
 と訊いてきた。
 すると、 
「……いちいちうるさいわね。少しは自分で考えなさいよ、この駄目狐!」
「だ、駄目狐!?」
 アオイは自分でも驚くほど態度を急変させていた。アオイは眦を吊り上げて、ふんと顔を背ける。ツンデレ怪電波の影響をうけているのだ。
 しかし、晦はひどくショックをうけたようだった。瞳にはうっすら涙なんかも浮かべている。
 晦がすがるようにアオイの肩を掴んだ。
「す、すまん! 嫌わんといてくれ〜」
 アオイはコホンと咳払いを一つ。その頬は鮮やかなピンクに染まっている。
「べ」
「……べ?」
「――べ、べべべべ別に嫌とは言ってないでしょ」
「ほんとうか!」
 晦はほっと安堵の息を吐いた。
 と、
「そのアオイちゃんの態度がツンデレっていうんだよ」
「そうだね」
 背後から押し殺した笑い声ともに、二人の男の声が届く。
 高い位置に銀髪を備えた軽薄そうな男――リョウ・セレスタイトと彼とは真逆にきっちりとネクタイを上げた優男――真舟恭一、その二人の声だった。
「なっ、べつに私はツンデレじゃないわよ! ……まぁ、晦さんのことは嫌いじゃないけど」
 アオイが尻下がり口調で言う。怪電波の影響は受けてない、素だ。
 恭一はおっとりとした笑顔を浮かべた。
「おぉまたツンデレだね」
「ちがう!」
「まぁまぁ、とりあえず進もうぜ。あのメイドさんも暇そうだしさ」
 リョウはそう言うと、くゆらせていたタバコを捨て、踏みつけて火を消した。



「こんにちわ、メイドさん」
 リョウは薄い唇を吊り上げ、笑みの表情を作り警備ロボへと話しかけた。
 すると警備ロボの感情のない瞳がもち上がり、リョウを見る。
「なんか騒がしくしてますけど、あなたたちは家のご主人様になんか用があるんですか?」
 瞳に比べ声は幾分か温かみがある。そして、やはりツンデレの気もある。
 リョウは笑みを強めた。
「かわいいね、キミ」
「は?」
 困惑したロボットの声。
 ガヤたちの「軽すぎ……」とか「なんでロボット相手にナンパするんや?」とか「すごい積極的だね」との声は完全に無視をする。 どんな状況でも女性を口説く。それがリョウ・セレスタイトなのだ。
「俺はここの家の主人になんか用はないよ。ただキミに会いたくて来たんだ」
「……はぁ」
 相手が引いているようだったがリョウは気にしない。初めはみんなそんなものだ。リョウは相手との距離を縮めて、さらに一押し入れようとした。
 が、しかし、
「――まぁおまえみたいなブサイク、好でもなんでもないんだどな」
 ツンデレ怪電波の影響をうけてしまっていた。
 それもツンからデレに入る前に、
「……ご主人様からの攻撃許可も出ましたので、強制排除させていただきます」
 とメイドの警備ロボは攻撃を仕掛けてきた。
 どこからか取り出したモップを槍のように構え、突撃して来る。
 舌打ちをし回避に移ったリョウだったが、僅かに間に合わない。汚れたモップの毛がリョウの顔面に迫る。
 その時、リョウの横を何かがかすめた。
 メイドの頭ががくんと後ろに仰け反る。その隙に、リョウはモップを回避。
「――たすかったよ」
 後方からスチールショットを放ってくれた恭一に向け、リョウは感謝の気持ちを含めて手を上げる。
「ふんっ、キミのために助けたんじゃないんだからね。勘違いしないでくれよ!」
 恭一はすぐに我に帰り、青くなった顔を隠すように頭を抱えていた。
 リョウはその呻き声を背中で感じながら苦笑い。続いて迫る攻撃を避ける。
 そして電磁波を発生させた。
 目には見えないが、リョウの体から多量の電磁波が発散される。リョウはこめかみの辺りに力を入れた。キィィンと耳鳴りのような音がリョウの中で響き、発散した電磁波を先鋭なケーブル形へと凝縮。警備ロボへと突き刺した。
 次の攻撃へ移ろうとしていたロボの体がガクンと跳ねる。そのまま糸の切れた操り人形のように、膝から崩れ落ちた。
「……なんやなんや?」
 いつの間にか隣にいた晦が構えた木刀を下ろし、首をかしげる。
 リョウはニヤッと笑った。
「俺の愛が彼女を貫いたんだよ」
 本当の種は、電磁波干渉――電磁波の影響を受ける全ての物質に対して干渉できる――というリョウの特殊能力で警備ロボのシステムを書き換えたのである。
 次の瞬間、警備ロボが立ち上がった。晦は慌てて木刀を構え直すが、直ぐに異変に気付いて目をぱちくりさせる。
 警備ロボが、さっきまでの仏頂面とは違い、満面の笑みを浮かべていたのだ。
「さぁ先へ進むぞ」
 支配下においたロボットをその場に残し、リョウたちは先に進んだ。



 広い一階を洗いざらい探しても家の主――ツデレ・ツイロはおらず、二階へと向かうことになった。
 探索する恭一たちの足は速い。
 正直ツンデレに少し疲れていた。それに「ツンデレはいいけど、男にまでするのはなぁ」さっきリョウが言っていた言葉もある。恭一も確かにそう思っていたのだ。女性相手ならまだしも、自分にそういう趣味はない。
 ちなみにそう言っていた本人はツンデレの使い方を覚えて、口説きに使っていたりもするのだが。
 恭一は横を見た。
「さっきは嫌いとかいったけど……本当は、ほんの、ほんのちょっとだけ好きなんだよ」
 リョウの今のターゲットはアオイだ。
 アオイは少々げんなりしているようだった。
 と二人の間に、アオイよりも深い赤の髪――晦が割り込んだ。最初はツンデレに戸惑っていたようだが、慣れたのか今はツンデレであそんでいる。
「リョウ、われってやつはメスを見ればすぐに尻尾を振るって、サカリのついた犬か! だいたい尻尾を振る相手はわしだけで十分やろ……」
「……男は黙れ。ツンデレするのは俺とアオイちゃんだけで十分だ」
「あたしはツンデレじゃない!」
 三人の様子を見ていると、恭一は職場――小学校にいるような気分になった。自然と笑みが浮かぶ。
「なに笑ってるのよ、恭一さん。言っとくけどあたしはツンデレじゃあ――」
「いやいや、にぎやかでいいな〜って思ってね」
 アオイちゃんは素でツンデレなのかもなぁ、とも思っていたのは内緒である。
 アオイはそれを察したのか、元からの性格なのか、その後も「あたしはツンデレじゃない」とギャーギャー騒いだ。
 しばらくして、やっと収まったかと思えば、
「誰かの能力で電波の発信元の場所わからないの? わかるならさっさと使って。電波元ぶっ壊して、怪電波なくした素の状態のあたしを見ればツンデレじゃないってわかるから!」
 と叫ぶように言った。
 恭一はムービーファンでそんな能力ないので黙って見てると、リョウがおもむろに口を開く。
「しょうがない。ではアオイちゃんのために」
 アオイが満足気に頷く。リョウはアオイの耳元でささやくように続けた。
「そのかわり、これが終わったらゴハン付き合ってもらうからね」
「はぁっ?」
「あ、ゴハン? わしもいくー」
「じゃあ僕もー」
 悪ノリする晦と恭一を、リョウが鋭く睨んだ。



「右から八番目のドアだ」
 アパートのように乱立するドアの中から、リョウが電波元を探り当てる。
 それを聞いたアオイは先頭に立ち、ドアの群れの中を早足で進んでいた。
 そんなにツンデレにこだわるなんて、普段からよく言われてるんだろうな。と恭一は推測するがもちろん言葉にはせず、温かい笑顔を浮かべてアオイを見守っていた。リョウもニヤニヤ笑っており、しかし晦はアオイがなにを怒っているのかわからないようで不思議そうな顔をしている。
 アオイが右から八番目――電波元があると思われる部屋のドアに手をかけた。
 恭一は注意を促すのだが、
「罠があるかもしれないし…………って」
「おらぁっ!」
 アオイはさっそくドアを蹴破っていた。
 おぉとリョウと晦が拍手をする。恭一は苦笑いだ。
 ばたーんと勢いよく開いたドアの奥から、怒声が飛んできた。
「誰だ、ドアを蹴破ったのはっ! ツンツンにもほどがあるぞ馬鹿!」
「うるさい、馬鹿なのはあんたでしょ!」
 アオイは負けじと声を張り上げて、部屋の中へと入っていく。
 恭一たちも続いた。
 薄暗い室内には、赤黄蒼、様々な色に輝くディスプレイや、大きなサーバーのようなものが所狭しと置かれていた。ぶぅんと冷却装置のファンの音が響く。なんとも気味の悪い部屋であった。
「なんだお前らは?」
 ぼさぼさに伸びた細い金髪を掻きむしりながら、人が出てきた。ツデレ・ツイロか? と思ったが、恭一が映画で見たのとは大分違う。映画の中でのツイロはあんなに不精ひげなんか生やしていなかったし、もっと清潔な格好をしていた。
「失礼ですが、あなたがツデレ・ツイロさんですか?」恭一が丁寧に訊く。
「あぁ、そうだが」
「自分は真船恭一といいます。今日はあなたが研究なされているという電波のことで話にきたんですが」
 ぐっとツイロの顔が険しくなった。
「そのことの話なら受け付けん、帰ってくれ。だいたい、玄関先にメイドの警備ロボがいただろう? あれはどうしたんだ」
 恭一は回答に詰まる。リョウが自分のものにしてしまったとも言えない。なので、なにか無難な言い訳を考えていると、
「あぁ、あれか。あれは俺の女になったぜ」
 悪戯っぽい笑みを浮かべてリョウが言った。
 ツイロが昏い瞳でリョウを睨む。
「なんだと?」
「まぁそう怒るなよ。俺はただお前に、ツンデレ以外にもイイ女は沢山いるぞってことを教えに来ただけなんだから」
 恭一がさらに加える。
「ツンデレに困惑している方々もいらっしゃいますし、どうせならツンデレ萌えな方々たちだけにサービスできるようにしたほうがいいと自分は思いますよ。他にも――」
「ええい、まどろっこしい!」
 大声を張り上げたのはツイロではない、アオイだ。皆目を丸くしてアオイを見る。アオイの、その髪が逆立っているように見えた。それほど怒っていた。
 アオイはツイロに詰め寄ると胸倉を掴みあげ、乱暴な口調で言う。
「ホントあの機械迷惑だから。止めてくんない?」
 そのままツイロを床に投げつけ、アオイはスチールショットを構える。
「早く言わないと撃つわよ。それと晦さんがこの部屋の機械全部壊すわよ」
「わ、わしか!?」
「うん、おねがいね。晦さん」
 にっこりアオイが言う。
 晦は隣の恭一にこそっと話しかけた。
「アオイのやつ、デレなのに恐いんやけど……」
 はははと乾いた笑い声を恭一は上げる。
「あたしはね、なんかしらないけど普段からツンデレツンデレ言われて迷惑なの。それなのにツンデレ怪電波とか……迷惑なのよ!」
「違う違う違う違う違う! お前みたいなのがツンデレのわけないだろ!」
「知らないわよ! だいたいあたしだって、好きでツンデレ言われてるわけじゃないのよ」
 パァンとスチルショットを放った。ツイロが悲鳴を上げる。
「……ここはアオイにまかせて、わしらは帰らんか?」
 晦がぽつりと言った。




 ツンデレ怪電波騒動から数日後。
 無機質な立方体の家の中では、青あざをいっぱい作った男がパソコンに向かって叫んでいた。
「ツンデレなんてもう嫌だ……。これからは、クーデレの時代だああああああああああああああ!」

クリエイターコメントお疲れ様でした。
みなさまの楽しいプレイングありがとうございます。
若干反映できない面もありました。ごめんなさい……。

皆様ご参加本当にありがとうございました。
公開日時2008-12-04(木) 22:30
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