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<ノベル>
植村に教えられた場所は公園の噴水前。確かにそこには映画で映っていたあのアビーネが居た。雲ひとつ無い晴天の空からの日光を受けて彼女の淡い桜色の髪の毛がキラキラと輝いている。しかし少女の顔はいまいち晴れずに浮かない表情でとぼとぼと辺りをうろついていた。
そこへやってきたのは男3人と女1人。皆、事情を知った上でアビーネに接しようとしている。
「なんだかあの髪の色は桜のようですわね」
「ああ、綺麗だな……それにしても意外だな」
「あら、殿方ばかりでなく、一人だけ、形だけでも女性がいても良いでしょう?」
ヒサメを見てリョウがふっと言った言葉にやわらかく笑い返事をする。
「彼女は、曲がりなりにも女性なんですから。それに、年が近いですもの。同性の友達がいても宜しくなくて?」
その言葉にリョウはなるほど、と納得したように頷いた。
「それじゃ、いこうぜ」
リョウが皆を促し、アビーネと対面へ向かう。アビーネが気がついたようにこちらを見て不安そうにしていた。
「こんにちは。ちょっといいかな」
カラスが問いかける。と、あからさまに警戒している表情ではあるが小さく頷く。
「怖がらなくていいんだ。俺らはお嬢さんのこと探しに来たんだよ」
にこりと満面な笑みを向けるイェルクの背中から生える羽を見て、少しだけ警戒が和らいだように見える。
「俺は取島カラスと言うんだ。君の名前を聞いても……いいかな?」
そういってカラスは笑顔でアビーネに問う。その笑顔に絆されたのか、閉ざしてた口をゆっくりと開いた。
「私は、アビーネ。人と亜人の禁忌の子……よ」
「知ってるよ。だけどそんなのこっちの世界じゃ関係ない」
重々しく自傷気味に言い放つ彼女の言葉を聞いて、4人はあえて普通に接する。リョウはにこりと笑みを向け、
「俺はリョウ。改めて宜しくお姫様」
「俺はイェルク、宜しくなカワイイお嬢さん」
「ヒサメ、と申しますわ。年も近いですし仲良くしてくださると嬉しいですわ」
全員が挨拶を終え、イェルクが先人を切ってアビーネにいきたい所を聞く。
「え、えっと……わ、私……私、おいしいものが食べたい!」
我慢してたかのように今の願望を口に出す。それを聞いたメンバーはほころんだ笑顔を見せると公園を後にした。
美味しいお店を知っているとのリョウとカラスの進言で街を歩いていく一行。ヒサメが一緒に歩きましょうという。
「暖かいですわね。あなたの体温はとても心地良いですわ」
熱くもなく冷たくもなく。アビーネもひんやりとしたヒサメの手を握り大分落ち着いたようだった。では反対の手も、とリョウが手を取りエスコートした。照れくさそうに笑うアビーネに優しく微笑むと俯いてしまった。どうやら照れているようだ。後ろから見ていたイェルクとカラスもその様子をほほえましく見守る。暫く歩いて不意にヒサメがアビーネを止めた。
「アビーネさん、その服……所々汚れてしまっていますわね」
白と緑基調のワンピースの所々に泥やほつれが出てしまっている。ぱっと見はわからないかもしれないが、若干見目が悪い。
「うん。こっちに来た時に丁度雨だったの。だから代えもなくて」
「それじゃあ甘いものの前に洋服でも見てくかい?」
困ったように言うアビーネにイェルクが手を叩き提案する。
「そうだな、女の子は似合う服を着て更に可愛くなる」
「そうだね。じゃあスタジオで洋服見ていこうか」
リョウとカラスも服を見に行くのは賛成のようだ。ヒサメも嬉しそうに楽しそうに頷いていた。一路、方向を変えスタジオへと足取り軽く歩いていった。
スタジオへと到着し、色々な衣装を見る5人。アビーネは早速飾ってあった服を指差す。
「あ、私ああいう服着たい!」
指差した先は黒の大きく胸元が開いたマーメイドドレス。確かセクシー女キャラが着てたようなお色気装備だ。
「え、あ、あれはちょっと……違うんじゃないかな」
「露出が……ちょっと高すぎるんじゃねーかなぁ……ははは」
カラスがイメージとは違うのではと冷や汗だらり、必死に助けを求めるように目線を動かすとすぐさまリョウが同じくカラスのフォローへと入る。
「他にはこういうの、とかないかな?」
「でも……」
カラスに誘導され他の服を見ているがどうもコレ、という服が見当たらないらしい。と言うのも、長い間監禁されていた上に実体化しての異文化である。見たことない、の連続でどれが良いか困惑しているのだろう。すると、
「アビーネさんは小柄で可愛らしい顔立ちですし、此方の方が髪の毛の色も相まって可愛らしいですわよ」
女性の気持ちになって考えられる、と言うのは大きな武器で。ヒサメがすっと持ってきたのは淡い桜色のブラウスとフリルのついたフワフワのスカート。
「えー…ちょっとロリっぽくない……?」
「問題ありませんわ。とりあえず試着してみたらいいと思いますの」
今まで見たことのないジャンルの服だっただけにアビーネは戸惑いを隠せないようであったがヒサメがいうと妙に納得してしまうというか。
「じゃ、じゃあちょっとだけ着てみる……」
ヒサメが言うのなら、と試着室へと足を運ぶ。その足取りは何時になく軽快であった。
「殿方は覗いてはダメですわ〜」
「い、いや別に覗こうとは……」
「してませんよっ!?」
心配だから、といって後を付いて行ってた男衆に対して、手を罰点にして道を阻んだ。そのやり取りが部分的に聞こえていたのかアビーネが試着室のカーテン越しに
「えっち」
と言ったとか言わなかったとか。
……そんなこんなをして、試着室のカーテンが開く音がした。いっせいに8個の瞳がそちらに向けられる。
「ど、どう、かな? 変?」
おどおどと頬を赤らめながらみんなの前に出てきた少女は着慣れないタイプの服に恥らいつつも着こなしていて。
「いや、全然可愛いと思うが。なぁ?」
「同感。可愛いな。間違いなく」
「すっごい似合ってますよ」
男衆から賞賛を貰い更に恥らう少女。その恥らう姿に更にリョウが付け足す。
「隣を歩くのは緊張するな」
率直な感想。飾らない言葉を貰いむず痒くなったのか頬を押さえて、
「えへへ……あ、ありがと」
と赤面ではにかむのだった。その姿にリョウをはじめ4人は安著したのだった。
「それじゃ行きましょうかアビーネさん」
「うんっ」
再びみんなと交互に手を繋ぎながら目的の場所へと向かう。
「好きなもの頼んで良いんですよ」
「そうそう、遠慮なんかいらないんだからな」
「おなかも減ってるだろうしね」
「目移りしてしまいますわよね……ふふふ」
一行は日も傾きかけた頃にデザートが有名なカフェへと来ていた。事前にリョウとカラスが調べておいた店である。
「えーとえーと……それじゃ」
メニューをキョロキョロと眺めるアビーネを見て、一向たちは少し考え事をしていた。
イェルクは母親に対する憎しみがまだ彼女にあるようならば、憎くて幽閉したんじゃない、そう伝えて母親の愛を伝えてやろう、アビーネを思ってこそなんだということを伝えてやろう……そう思っていた。
リョウはアビーネの育った環境に深く同情していた。だからこそ彼女には笑顔が必須である。愛して消えるということは悪いものではないのだと。本気になれない自分から見れば、実に手に届かないような代物ばかりで。彼女の幸せを、偽善とかそれこそ恋なのではないが心から願っていた。
カラスはなぜ、彼女の存在自体に罪と罰を与えたのか。彼女自体は何も悪くない、彼女は何もしていないのに存在を否定するなんて怒りを感じていた。
ヒサメは愛について考えていた。氷の女王でも人を愛する。氷の心でも人を思いやれる。自分は今、彼女を愛しんでいる。だから……彼女もきっと人を愛することが出来る。それは哀しいことなんかではなくて素晴らしいことなんだと。
皆が考え事をしているうちにアビーネは店員を呼んだ。
「コレ全部下さい!」
「「えええっ?!」」
思わず4人全員が声を上げてしまった。全部。そうデザートの部分を指差し、全部と頼んだのだ。
「だって……決めかねるんだもん。全部おいしそうだし!」
無邪気に笑顔を向ける彼女を見て……財布の中身を確認したのは言うまでもない。
「何とか……なる、よな?」
「多分」
少し顔色が悪くなった一向だった。
美味しいものを食べ終わった後も色々と街をぶらぶら歩いて女の子を満喫する旅は続いた。イェルクの提案でアクセサリー屋やプラネタリウムを見たり占い屋へ行ったり、リョウに連れられて展望台から暮れる日を眺めたり。カラスとゲームセンターでUFOキャッチャーで熱くなったり、ヒサメと輸入雑貨でアロマグッズを眺めたり……。その間もずっとアビーネの笑顔は絶えなかった。傍から見たら普通の女の子。十分すぎるほどの。何時しかあたりは夜が訪れていた。
「わぁ、イェルク凄い! 猫がいっぱいだぁ!」
イェルクが寂しくないように、と呼んでくれた猫たちと最初の公園で戯れていた。
「ははっ、皆アビーネを気にして来てくれたんだぜ。寂しくないようにってな」
「私、を?」
きょとん、とした顔で猫たちを見る。
「俺もそう、ここにいる皆はアビーネを心配してきてくれてんだぜ」
「もちろん俺らも、な」
にこりと笑うイェルクとリョウに頬を紅潮させ何度も頷く。カラスもバッキーの黒刃をアビーネに向けて撫でてごらん、と促す。アビーネが撫でると黒刃はもっともっと、といわんばかりに頭を摺り寄せ、その様子にまた笑みがこぼれる。
「私も渡したいものがあるのですよ」
「え、何?」
そういうとヒサメは水筒を取り出し……見る見る内に氷の小鳥を作り上げた。繊細で、今にも動き出しそうなほどの出来である。
「お気に召したかしら?」
「わっヒサメ凄い!」
どうぞ、とヒサメから受け取るアビーネ。暫くその氷の小鳥に見入っていた。
「へへっ、大事に……出来たらよかったんだけど」
「アビーネ……?」
アビーネの体がうっすらと透明になっていて少しずつ泡状になっては天へと上っていくではないか。
「体が……!」
4人はわかってた事とは言え、やはり目の当たりにすると複雑な気持ちになった。
「こんなに良くしてもらっちゃったら……みんなの事好きになっちゃったみたい」
でもね、後悔してない、と。寧ろみんなには感謝してるんだと屈託無い今までで最高の笑顔で言った。
「ね、聞いてくれる?」
「何でも言ってくれよ」
「うん、何言っても怒らないから」
「好きなだけ言ってみな?」
「ちゃんと聞いて上げますわ」
四人はそっと消えかけの声に耳を傾けた。
「もし……消えて、生まれ変わったら」
恐怖か、別れる悲しみか。少女の声は震えていた。
「強く生きる花になって皆を見守ってたいな……」
どんどんとその肢体が背景と同化していく。
「うん……強く願えば、きっと」
カラスが笑顔で答える。きっと出来るから、そう呼びかけて。
「消えるのは人を愛した証だ。命がけで人を愛したアビーネの事を俺は絶対に忘れない」
「俺もだ。アビーネは精一杯生きて、精一杯好きになった。俺もその事は忘れるわけない」
「俺もだよ。絶対絶対、忘れないから。約束する」
「妹のように接せただけでも、十分私も幸せですわ。アビーネ、ありがとう」
皆の声を聞いて、我慢仕切れなくなった涙がぼろぼろと風に舞う。
「ありがとう、大好き」
そう、言い残してキラキラ光る桜色は天へと吸い込まれていった。
「良い子なのに……どうして」
「運命、なんて……」
カラスとヒサメが俯いて呟く。なんと言う運命だったのだろうか。やり場のない憤りを隠せないで居た。
「おい、ちょっと」
「なんだよ」
イェルクが皆に呼びかける。リョウはなんだと気だるそうにイェルクを見た。
「あのピンクの花…さっきまでなかったと思うんだけど」
イェルクが指をさすその先には、見たことのない桜色の花が4本咲いて風に揺れていた。
「……アビーネ、なのか?」
「きっと…きっとそうですよ!」
4人はその花に元へと駆け寄った。春の風に負けず、強く揺れている花は一瞬だけきらりと光った見えた。それは月の光か幻か。
「見守ってて下さい。僕たちを、この街を」
「また、会いに来るからな」
「美味しいお水、持ってきますわね」
「強く生きるんだぞ」
そう言って四人は花に手を振って去って行った。風もないのに花がふわりと揺れたのは、他が為に。
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クリエイターコメント | 遅くなってしまい申し訳御座いません!お待たせいたしました! 個性的な皆さんで寧ろ淀川を連れまわしてほしいと心底思いました。 何か心に届けばいいな、と思いつつ。 この度はまことに有難う御座いました! |
公開日時 | 2009-03-30(月) 18:00 |
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