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<ノベル>
「朝霞、女の子が殺人事件に関わるのは関心しない」
うっそりとした前髪から覗くセバスチャン・スワンボートの目が、ヴァイオリンケースを背に持つ彼女を追いかけ、たしなめる。
しかし、
「どうして? 私は私ができることをしただけよ。どんな理由があっても、殺人は許される行為ではないわ。違うかしら?」
颯爽と彼の前を歩く朝霞須美は、そんな彼の言葉にさらりと疑問で返す。
「それは否定しない。でもそれとこれとは別の話だ。できると思っている内容に問題があるんだ」
「どこに?」
「バッキー持ちだからといって、相手が普通の人間なら意味がないだろう」
「そうでもなかったわ」
多少刺激的でもそれなりに平和な日常が滞りなく運営されている、そんな銀幕市の街中で、噛みあっているようないないようなやり取りが繰り広げられていた。
どこまでも続きそうな問答はしかし、ある建物の前で、ピタリと止まる。
「ああ、着いた」
「朝霞、俺は……ん、ここは」
「銀幕市立中央病院。セバンさんも会ってみたいなら一緒にどうぞ」
「誰に?」
「ドクターD」
見舞や受診といった用事がないにもかかわらず、須美は最近、この病院を訪れるようになっていた。ただし、向かう先はもっぱら病院のラウンジか研究棟のスタッフルームである。訪ねる相手は医師だが、求めているのは診察ではない。
「この時間なら……ラウンジじゃなくて研究棟の方ね」
「なぜそこまで把握しているんだ」
「簡単な推理よ、ワトソンさん。ドクターは診察のあとに必ずラウンジでティータイムを過ごすけれど、今日は午前外来で、いまはもう夕方近いわ。明日は確か病院で勉強会があるそうだから、彼の立場と行動パターンから推測するに、資料作成のため、現在はスタッフ達とミーティングしていると考えられる。以上、QED、ね」
よどみなく展開されていく言葉に圧倒されつつ、結局は彼女について、セバスチャンは研究棟に足を踏み入れていた。
慣れた様子で受付に自身の名を告げ、迎えに来てくれた研究員に案内されながら歩く須美の後ろで、不思議な感慨に捕らわれる。
キレイな場所だ。清潔で、白く、光があふれ、まぶしいくらいに磨き上げられている。なのにどこか哀しい。悲劇を内包した透明な闇が壁という壁に染み込んでしまっていた。
病院とはそういうものなのか。
それとも、ここだからそうなのか。
「おや、朝霞さん。素晴らしいタイミングですね」
穏やかな笑みで出迎えてくれた彫刻のような男の傍には、僧侶のようにも鬼のようにも見える大男と、ガラス細工のような男と、不安定そうに背を丸めて椅子に座した男がいた。
「ドクター、これは? ただのお茶会というわけでも、スタッフミーティングというわけでもなさそうだけれど」
ドクターD、ランドルフ・トラウト、信崎誓、そして宮部賢一。その顔ぶれは、須美にとって意外なものだったのだろう。
「もしよろしければ、少し、お話をなさっていきますか?」
白衣をまとった彫刻のような男は、眼鏡の奥の深海色の瞳を細め、須美と、そして彼女の背後に控えるセバスチャンを捉えた。
「あるいは、そちらのスワンボートさんとともに、お力をお貸し願えればと思うのですが」
「朝霞、ここは研究室じゃないのか? 依頼を扱うどこぞのギルドにしか思えんが」
ポツリと、至極当然とも言える疑問がセバスチャンの口を突いて出た。
*
「……愛しているわ」
愛おしげにそっと箱から取り出したフィルムへ指を這わせ、ふわり、ひらりと、彼女は言の葉を落としていく。
「ねえ、愛しているわ……あなたを、わたしだけのあなたを、愛しているわ……」
胸にそっと抱きしめて、うっとりと目を閉じる。
「ずっと、待ってたの……ねえ、ずっと、待っているの……」
フローリングの床に積み上げられた映画フィルムに囲まれて、彼女は幸福な笑みを浮かべた。
*
宮部賢一という青年を取り巻くいくつかの事象。
カウンセリングルームを経て研究棟に案内された彼から、あまりうまいとは言えない経過を聞き終えた須美とセバスチャン、そしてランドルフの三名がそれぞれ行動を起こし。
彼らが〈箱庭〉から去っていくのを見送ると、信崎誓はガラス細工の繊細さを持つ双眸を、ドクターへと向けた。
「おれは実体化のもととなったフィルムそのものを探してみることにします。本人が気づかないうちに映っている可能性もありますから」
どんな端役であろうとも、フィルムの中にさえ収まってしまえば実体化の機会は平等に巡ってくるのだ。ソレがここで学んだ『銀幕市のルール』というやつだ。
「ね、宮部さん。そのフィルムさえ見つかれば、すべての現象に明確な答えが出るよ」
「は、はい」
憔悴しきった青年にいたわりの言葉と視線を投げかける。
「だから少しだけ待ってもらっていいかな? もう少しだけ、不安かもしれないけど、きっと大丈夫だから」
「はい」
コクリと頷き、背を丸めて椅子に腰掛けている彼に軽く手を振ると、
「ドクター、少しだけおれのために時間をもらってもいいですか?」
もう一度彼に向き直る。
「ええ、もちろん」
「確かここには銀幕市で起きた事件の資料がまとめられていますよね? 調べたいモノがあるんですが、案内をしてもらっても?」
「わかりました。ご案内しましょう。少し席を外しますから、宮部さんをお願いしますね」
前半は誓へ、後半は研究員たちへ言葉を残し、ドクターは自分の患者に微笑み掛けると、スタッフルームから資料管理室へ続く扉を開けた。
IDカードによって開かれる場所。
銀幕市に魔法が掛かってからこれまでの、ありとあらゆる事件と診療と分析の記録が網羅されている特別室には、一種独特の空気が満ちている。
誓の目は、並ぶ活字を半ば無意識に追いかけていた。読んでみたいと思うより先に文字を追いかける時、自分の活字中毒もそろそろ末期だと感じる。
「ドクター、あなたにひとつ質問があるんですが」
「はい、なんでしょう?」
「この街でムービースターと呼ばれる存在になってから、ずっと、抱えていたものがあります……」
噂は聞いてきた。以前、『彼』という存在がこの銀幕市で何をしたのかも、そして今の彼が何かのおりに『三人目』と称されることも、それから、彼を責任者とする研究チームの存在も。
罪と罰と心理と病理を扱うこの医者の見解を、誓は一度聞いておきたかったのだ。
「自分以外の自分が存在したものは、その自分と対峙してなお、それでも自分を保つことができるんでしょうか?」
天使の瞳が揺れる。これからひとりの人間の存在を救おうとしているにもかかわらず、拭えぬ不安に自身が揺らいでいる。
精神科医は穏やかな視線で彼の揺らぎを見つめ、投げかけられた問いを吟味するように一度目を閉じた。
「ひとつ、興味深い現象があります」
そして、静かな笑みとともに、誓のための答えを差し出す。
「それは、銀幕市という舞台特有のものなのかもしれません。ですが、ここに生きるあなたになら受け入れられることのように思うのですが」
「……なん、ですか?」
「不思議なことに、この街は驚くほど寛容にありとあらゆる現象を受け入れてしまうのです。罪も過去も変容も歪みすら、受け止め、受け入れようと努力してしまう」
彼は棚からひとつのファイルを取り出した。
「そして数多の世界観と数多の価値観と数多の過去を抱えながら、新たな道を進むチカラを持っています」
はらりと捲られていく白いページ、そこに綴られているのは、この街が抱える『病巣』だろうか。文字を読んでみたい、彼の見るものを知りたい、そんな衝動が不意に頭をもたげる。
「変質や変容を乗り越えられた者は、いまだ乗り越えられないモノのために、必ず手を差し伸べようとしてくれます。連帯感とも違う、広義の愛情とでも捉えるべきでしょうか」
彼は資料からその『現象』を読み取っているのか、それとも自身の経験から告げているのか。誓には分からない。分からないけれど、縋りたくなるような真実味がそこには滲んでいた。
「彼らは言うのです。罪は償えるものであり、清算できるものであり、その先に救いが必ず待っているのだと。過去は過去であり、尊重すべきものではあるけれど、そのすべてを受け入れ、認め、その上で新たな時間を共につむぐことを望んでくれるのです」
パタリとファイルは閉じられた。
白い男の眼差しが、自分に注がれている。
「自分という存在はひどく曖昧です、ドクター。本当の自分、本来の自分、自分という存在が何によって立つのかすら、いまのおれには分かりません」
それでも。
「そんなおれでも……」
「あなたが、あなたの大切なモノの言葉と差し伸べてくれる手を信じられるのなら、大丈夫ですよ」
この街にかつて災いを振り撒いた『男』と同一視されることもあるのだろう彼の、穏やかな笑みを正面から見つめる。
「そして、あなたはいずれあなたを脅かすものと共存し、同じように怯える方に寄り添い、手を差し伸べる存在となれるでしょう」
「本当に、そう思いますか」
「はい」
「……ありがとうございます」
ありがとうと繰り返しながら、不意に泣きたくなる。なぜこんなにも胸が詰まるのか、よく分からない。けれど、話してよかったと思う自分が居る。
「それでは、戻りましょうか」
「はい」
ごく自然に促がされ、誓もまたそれを当たり前のように受け入れて。
自分がドクターとふたりだけで話がしたかったのだということ、もうずっと胸の奥にわだかまっていたものを吐き出したかったこと、資料閲覧の申し出はそのための口実でしかなかったのだと言うことに、一拍遅れて気が付いた。
トレンチコートの裾をはためかせ、ランドルフはひたすら街中を歩いていた。目指すべき場所は、『もうひとりの宮部賢一』が目撃された現場だ。
「現場百篇、でしたっけ……あの人が言っていたのは」
ここにはいない知り合いの刑事を思い浮かべ、彼女ならどうするのかを考え、彼女の行動原理に自分の思考を重ねていく。
与えられた情報を整理し、そこから答えを導き出すような、〈美しいロジックの構築〉と呼ばれる行為を自分は得意としていない。けれど、足で稼ぎ、真実を追いかけ、そうして掴み取れるものがあることは知っている。
伸ばせるだけ、手を伸ばすのだ。精一杯。必ず届くことを信じて。
「宮部さん。あなたは大丈夫ですから……」
彼は『ドッペルゲンガー』に怯えている。
自分ではない自分への恐怖と不安を抱え、ドクターDに救いを求めにきたのだ。
この『銀幕市』という街のルールに順応できずに壊れていった者たちを、ランドルフは幾度も目の当たりにしてきた。自分の預かり知らぬところで、もうひとりの自分が存在して居るという事実に対応しきれなかった者たちをたくさん見てきた。
だからこそ、どうにかしたい。
フィルム探しよりもまず、ドッペルゲンガーと呼ばれてしまった『彼』の存在そのものが気になっていた。
もうひとりの彼は、なぜ殺されなければいけなかったのか。彼はどこでどんな生活をし、何によって死を迎えねばならなかったのか。憎まれるようなことをしたのか、ただ不運だったのか、何を見て、何を考え、何をしていたのか。
それらを知ることが、宮部を救うことになるとランドルフは信じている。
「あ、ランドルフだ」
「なんかの事件か?」
彼に興味を引かれたらしい若者達から声が掛かる。度々ムービーハザードに巻き込まれるこの自然公園で、彼らはハンディカムや台本らしき紙の束や大きなカバンを抱えていた。どうやら何かの撮影をしているらしい。
「実は探している方がいまして」
調査用にと借りてきた宮部の顔写真を彼等に差し出す。
「この方を、見ませんでしたか?」
一斉にそれを覗きこみ、いともあっさりと彼らは答えた。
「ときどき見かけるよ」
「あ、ほら、前にテンプレなバカップル見たって言ったじゃん」
「ヤンデレ系の?」
「そう、それ。男はなんか犬っころみたいなヤツで」
「俺も見た。でもさ、なんかそん時は男はボンヤリしてんなぁって印象だったけど」
「同じ顔してんのにな」
「設定違いかもな」
印象がまるで違う。まるで幾人もいるかのように、バラバラな振る舞いをするドッペルゲンガーとは一体なんなのだろうか。
いや、答えは決まっている。
セバスチャンがすでにあの研究室でひとつの可能性を示唆していたではないか。
「複数の実体化、ですか……」
存在が揺らぐ。
複数の自分。見知らぬ自分。自分ではない自分が動き回る。では自分とはなんなのか、自分ではない自分というものについて考える。
「……そういえば、皆さんは一体ここで何をしてらっしゃるんですか?」
自分の思考がおかしな所へ沈み込もうとしているのを止めるため、ランドルフは無理矢理話題を振ってみる。
「ああ、俺らは映画撮ってんの」
「この間面白いモン見てさ、感化されて、そういうのやってみたくなって、ってヤツ」
「単純だろ?」
「面白いモノ、ですか?」
「そ。あのさ、もうホントこの街ならでは。同じ名前でさ、同じ設定なのにさ、全然性格違うのが三人くらい並んでんの」
「で、自分の関わった事件の顛末、話し合ってんのな」
「ほら、有名な探偵映画あるじゃん。あれ、三人の監督がそれぞれの解答編撮ってるからラストが違うんだぜ」
「ああいうの、いいよなって」
「ああいう場合さ、まるっきり同じ自分と出会うのと、設定違いの自分と出会うのと、どっちが驚くんだろうな」
「あ、そういやさ、面白いもんと言えば、アンタにも聞いておこうかな」
「私に、ですか?」
思いがけない話題の振られ方をし、きょとんとした。
「なあ、ランドルフはさ、自分の設定、変えたいって思ったことないか?」
「え」
「すっげぇ悪人とか、すっげぇ能力持ってるとか、何でもいいけどさ、誰かが勝手に作りだした自分じゃなくて、まんま自分だけのオリジナルな自分って興味ある?」
邪気のない顔で、彼らはランドルフに問いかける。なにげない言葉だ。他愛のない疑問だろう。けれど、突き刺さる言葉でもある。
ふわり。
不意に鼻先をかすめたニオイに、思わずランドルフは眉を寄せる。残り香だ。もうだいぶ薄まってしまっているけれど、なぜか覚えのあるものだった。
「宮部さんに似たニオイに、別の方のモノが混じりあっていますね……」
知っているようで知らない、けれど理解はできなくても触れることはできるニオイ。感情の揺らぎにも似た不可解なそれに、警鐘が鳴り響く。
自分は以前にも、似た感情をこの身に受けているのだと悟る。
「すみません、色々とお話を聞かせてくださって有難うございました」
では。
自主映画製作を楽しんでいたらしい若者達に、律儀に礼を述べて。
絡みあうその先にあるものを追いかけるべく、ランドルフは大きく地を蹴った。
すべてが霧散する前に、存在の糸口だけでも掴まなければならない。新たな悲劇が起こる前に――
銀幕市役所の対策課は、セバスチャンと須美がはじめて出会った場所だ。依頼を聞き損ねた彼の代わりに自分が聞いて、そして彼と、一緒に解決に乗り出した。
少なくとも、自分たちの始まりはここだ。
それを想い出と呼ぶには、まだ少々時間の積み重ねが足りないけれど。
須美はほのかな感慨を抱きつつ、表面上は平素とかわらぬ涼やかさで植村に声をかける。
「こちらへ宮部賢一さんのフィルムを届けられた方は一体どなただったんですか?」
「ちょっと待ってくださいね。ええと……ああ、灰田さん」
植村は思案するように首を傾げ、それから銀縁メガネの女性スタッフに声をかけた。
「覚えているかな? ほら、あの血まみれのフィルム」
問われた彼女もまた植村と同じように首を傾げ、カレンダーに視線を投げかけてから頷いた。
「ええと、たしか届けてくださったのはエキストラの方ですね。急いでいると言って、お名前やご連絡先はうかがっていないのですけど」
「その時、なにか言っていませんでしたか。その、フィルムを見つけた時の状況とか、何でもいいんです。なにか、手掛かりになりそうなことは」
「……そう、ですね。たまたま通りがかったマンションのゴミ置き場付近に転がっていた……そう、言っていたように思うんですが、それ以上のことは。すみません」
「いえ、ありがとうございます」
灰田と植村に丁寧に頭を下げて、須美はもう一度、手の中にあるフィルムを眺める。手掛かりらしい手掛かり、最も身近な証拠品はどうにも頼りない代物だ。
「これじゃ再生は無理そうね」
映写機に取り付けることもままならないほどにひしゃげたプレミアフィルムは、ひどく痛々しかった。誰がどんな目的でこんなことをしたのか、理由が知りたい。そこにあるのは、憎しみなのだろうか。それとも、もっと違うカタチなのだろうか。
「貸してみろ」
「え」
思いがけず、隣に立っていたセバスチャンが手を差し出してきた。
「なにか『視』えるかもしれない。それを破壊したヤツか、あるいはそいつを運んだヤツについてな。まあ、自分でコントロールできるわけじゃないから、使えるのかどうか分からんが」
血塗れのフィルム。
真っ赤なフィルム。
そこに刻まれた〈記憶〉を見るという行為は、ある意味反則と呼ばれるものなのかもしれない。
そう思いながら、目を細める。
意識が、引き込まれていくような、不可思議な感覚。
自身を取り巻く景色が、瞬間、『過去』へとスライドする。
薄暗い部屋。散らばる映画フィルム。チカチカと瞬きを繰り返す仄暗い光。白とも青ともつかない影の揺らぎ。
ゆらりと立ち上がり、じっと足元を見つめる誰かの気配。
自分を覗きこんでいるのは、髪の長い女の瞳。彼女の汚れたスカートの裾から伸びる白く華奢な両足、その爪先が浸されたどす黒い水溜りの中、自分めがけて斧が振り下ろされて――
「……どこかの部屋で、これは壊された。犯人は……女だな」
「セバンさん……?」
「だが、分からない。映像の解釈は見るモノの主観によって変わる場合もあるからな。絶対とは言えないが、事実は事実だ」
「……解釈次第ではあるけれど、でも、ソレは確実に起こったことなのね?」
「そうだ。どうする? 宮部とかいうやつの周辺を探るか? 俳優でもなければムービースターでもない、れっきとした『一般市民』だと本人は言っていたが、その証拠を固めるのも悪くないかもしれないが」
「女性ということは、宮部さんの友人たちが目撃した相手と一致するかもしれないわね。宮部さんの周辺を探るなら、いずれその女の人に辿りつけるんじゃないかしら」
結局は目撃者探しと証言集めの地道な作業となるだろうが、曖昧模糊とした現状では、ソレが一番早い正解への道のように思えた。
「それに」
「それに?」
「……気のせいかもしれないわ。でも、同じニオイがするの」
「なにがだ?」
セバスチャンの問いに、須美は唇をなぞり、思案する。
「ごく当たり前の日常を過ごしていた人達が次々と殺されていった……ひと月前のあの事件と、今回のこと、どこかでつながっている気がするのよ」
思考を重ねていけば、宮部賢一を取り巻く事件の輪郭がボンヤリと辿れるような気がした。
須美は改めて植村を見、
「あの、すみません、植村さん。念のため、宮部さんと同じ顔のムービースターの登録がないかだけ、調べていただけますか?」
「可能なら、そいつの出演作も」
セバスチャンが彼女の背後から『宮部賢一』と思しき人物と思われるプレミアフィルムを対策課へ返しつつ、付け加える。
「わかりました。結果はどのように?」
「私の携帯にお願いします。お忙しいのにすみません」
「いえ、こちらでも気になる案件ですから。では、そのようにさせて頂きますね」
「ありがとうございます」
「よろしく頼む」
そうしてふたりは植村達に頭を下げ、対策課をあとにする。
表に出た途端に冷え切った風で踊る須美の黒髪を見るともなく見るセバスチャンをつい意識してしまい、
「あなたも来るの?」
ほんの少し冷めたような澄ました表情で問いかける。
我ながらあまり可愛い言い方ではなかったと自覚するのだが、まるで彼は意に介していないらしい。
「ああ。一体誰が何をしたくてこんなことやってんのか、気になってきたからな」
好奇心を刺激されたなら、動かないわけにはいかないと彼は言う。
「女の子にあぶねぇ真似をされても困るし」
「別に、セバンさんに守ってもらわなくなって平気よ」
「平気がどうかは俺が決める。俺の知らないところで怪我でもされたらと思うと気が気じゃない」
「え」
「ん?」
さらりと告げられた言葉に、須美の顔が耳まで赤くなった。
*
「アナタを待っていたの……ずっと、ずぅっとよ……」
彼女はうっとりと微笑む。
カタカタと映写機の作動する音に重なって、ひとつの『物語』が白いスクリーンの中で展開されている。
切り取られた四角い枠の中。
白い公園を傍らに置いたレンガ造りの小さな建物、映画のポスターが寄贈された匣、美しい記録たちが眠るその図書館を前にして、彼は微笑む。
穏やかに、優しく、微笑んでいる。
映像の中の彼に、彼女は語り掛けるのだ。
「アナタは、いま、そこにいるのね? 目が醒めたら、ねえ、私だって、分かるかしら」
*
ランドルフはあるマンションの屋上で、じっと街を見下ろしていた。
「……宮部さん、あなたは一体誰と関わってしまったんですか……」
自然公園で感じた危うげなニオイは、図書館に、美術館に、カフェに、映画館に、まるで尾を引くように残されていた。
新しいものと古いものが混じりあっているけれど、どれもこれも不可解なほど濃厚な血の気配がする。執着や愛情と同じくらいに強く、そしてどこか歪んだ気配。
しかもそれは、宮部であって宮部ではない青年と行動を共にする存在から発せられていた。
「ん?」
研ぎ澄まされた鋭敏な神経に、探し人が引っ掛かる。
真新しいニオイ、いままさに動き出しているふたつのニオイに引きつけられるように視線を巡らせ、そこにふたりを見つける。
揃いの黒コートをまとった男女が、腕を組み、おどけたように笑いあいながら、小さなカフェから出てきたのだ。
遠目からでも、彼らはとても幸福そうなのがわかる。
だが、自然公園で若者たちが言っていたような『宮部賢一』の印象はどこにもない。だが、彼女の方はどうなのだろうか。分からない。こんなにも血の匂いがしているのに、どうして彼女はあんなにも楽しげなのだろうか。
「……あの人が、宮部さんを……」
後ろ姿ばかりだった彼女は不意に振り返った。
まるでこちらの声が届きでもしたかのように、鋭く空を見上げる。
その表情を、ランドルフは捉えてしまった。
突き刺さるような凍った眼差しが、警戒し、怯え、挑むように辺りをぐるりと見回していくのだ。
あんな目を、自分は知らない。
あんな、幸せそうに隣の男性に微笑みかけながら、同時に世界を憎悪してみせる目を、自分は見たことがなかった。
自分は、ドクターDに縋り、怯えて泣いていた『宮部賢一』のためにこの事件を追いかけている。
少なくとも、『もうひとりの宮部』を見つけるまではそのつもりでいた。
けれど今、ランドルフは『彼女』のことが気になってしかたなかった。
彼女を止めなくてはいけないと、彼女を救わなければならないと、なぜか唐突に思ってしまっていた。
セバスチャンと須美が訪れたのは、宮部賢一の勤め先だ。といっても、会社ではなく、アンティークの玩具や雑貨らしきもの、それから古書の類を揃えた一風変わったアンティークショップだった。
そう言った場所には趣味人が集いやすいのか、個性的な人々で妙な活気がある。
「宮部自身はどんなヤツなんだ?」
セバスチャンは実に単刀直入に、集っている常連客や同僚に切り込んでいく。
「賢一? ん、まあ、面倒みのいいヤツ、かな?」
「誰かに恨まれるようなことはないのか? 率直なところ」
「ほら、よくさ、事件とか起こると、『まさかあんなにいい人が』とか言うじゃん? でもそういうヤツって妙にどっか鬱屈してるモンなんだよ」
「賢ちゃんはそんな種類の人間ではねぇわ」
「彼との付き合いは長いのでしょうか?」
「まあな。高校時代からだから、軽く十年以上ってとこだ」
「これといったブランクもなく、ずっと一緒なんですか?」
「ブランクっていうか、二十四時間ずっと一緒なワケじゃないからなぁ。アリバイでも聞いてんの?」
「あるいは、そうなのかも知れません」
アリバイ。不在証明。けれどこの場合、自分は彼がたしかにそこに居続けているということをこそ証明したいのかもしれない。
「意外なとこで見かけたんだよなァ」
「どこですか?」
「美術館。本は好きなクセに、絵とか彫刻にはさっぱり興味がなかったみたいで。相性悪いとか何とか言ってたっけ」
「なのにさ、女と歩いてたんだよ。しかも、えらく楽しげに作品解説とかしちゃっててさ。彼女、そこそこに可愛い感じだったし、カッコつけてたのかね」
「僕はアレだ、星砂海岸で見かけたよ。あはは、うふふ、って感じの宮部さん」
「あの……『あはは、うふふって感じ』というのは一体?」
「いますっげぇ的確に表現したつもりなんだけど、伝わんなかった? こう、さ、若い男女がお花畑だの砂浜だので、『つかまえてごらんなさーい』『まてまて、こいつぅ』みたいなことするじゃん。そんな感じ」
「……映像が目に浮かぶようだな」
セバスチャンは思わず感心したように呟いた。
「バカップルの典型的パターンだな。王道っていうよりテンプレート。アレか、『あるある、ねーよ』みたいな」
「でもミヤちゃん、全力否定なんだよなァ」
「でも目撃された日ってアリバイあったじゃん。やっぱ他人の空似か? どうみても本人です本当に…以下略って感じだったけど」
砕けすぎている彼らの言語についていけず、須美は首を傾げる。ニュアンスは伝わるが、何を言っているのかはよく分からない。
「あの、ソレで、皆さんはその女性を知っていますか?」
「いやぁ、全然見覚えねえわ」
「気になることがある。どうも一番ありうる可能性についてまるで言及していないが」
「セバンさん?」
「ん? なになに?」
「それはアレか、宮部賢一は自主映画も含めて、例えば実体化するようなことはしていないという認識でいいか? で、そういう所に居合わせたこともない?」
「そうなるね」
彼らは揃って頷いた。
「フィルムに残っていた記憶と目撃された女性が同一人物だとしたら、少し厄介な可能性が出てきた」
不意に須美の携帯が音楽を奏でた。
対策課、植村からの着信。
告げられた用件は、予想の範囲内だったと言うべきか、ほんの少し迷うところだった。
「朝霞、どうした?」
「対策課にまたフィルムが届けられたみたい。もうひとりの宮部賢一さんのプレミアフィルムが」
「……これはもしかすると宮部本人とはまるで関係ないところで動いている事件なのかもしれない」
セバスチャンは『宮部賢一』の映画出演や俳優としての遍歴を知りたかった。だが本人が一切そこに携わっておらず、関わりが深いはずの女性を彼の周囲の人間が誰ひとり知らないのだとしたら。
空気が重く圧し掛かる。
宮部の友人達は互いの顔を見やり、ようやくことの重大さを理解したかのようにソワソワとし始めた。
「なにか起きてんのか? ミヤちゃんの周りで面倒なことが」
「言ってくれ、俺等も協力するから」
「何をすればいい?」
口々に不安さと必死さを混ぜあわせた言葉を投げかけて、彼らはセバスチャンと須美に協力を申し出た。
「私とセバンさんはこれから、プレミアフィルムが発見された場所に行きたいと思います」
雑多な音であふれ出した本屋の中で、須美の声が凛と響く。
「皆さんには、もうひとりの宮部さん、そしてその方と一緒にいた女性を探して頂きたいと思うのですがよろしいでしょうか?」
17歳の少女のまなざしが持つ知性の閃きに引きつけられる。
「また別の新しい『宮部賢一』さんが、どこかで彼女と過ごしている可能性もありますから」
「了解」
男たちは自分よりも遥かに年若い彼女の願いを、真顔で引き受けた。
窓ガラスごしに差し込む光の中、誓は、壁を埋め尽くす本棚と几帳面に並べられた背表紙たちに一瞬目を奪われる。
来なれた場所の心地良い空気を吸い込み、不思議な安堵を覚えながら、館内をゆっくりと巡回した。
ここでも、彼の『ドッペルゲンガー』は目撃されているのだ。なにかしらの情報は得られるかもしれないし、場合によっては、対策課では所蔵していないフィルムの情報を手に入れられるかもしれない。
「それにしても、壮観だ……」
文字と知識であふれる図書館、自分を魅了してやまないその空間で、誓は普段足を向けない映像媒体ばかりを取り揃えたフロアを目指す。
できる限り、自分は彼のためになることをしようと決めたのだ。
フィルムを探し、彼を安心させ、その上で『ドッペルゲンガー』の正体を突き止める。そうして『もうひとりの自分』の存在に怯えた彼の『事件』を解決することで、自分もまた、先へ進めるような気がしていた。
だから、情報を求める。一瞬の出会いを求める。天啓を求めて、歩くのだ。
だが、誓の予定はあっさりと覆った。
銀幕市でなければけしてあり得るはずのないものをそこに見る。
『彼』がいた。
『宮部賢一』と寸分違わぬ造形を持つ男が、若い女性と穏やかな笑みをかわしあい、せがまれるままに立ち並ぶ本棚の中から一冊を抜き出す。
彼が手にし、広げた本を、彼女は覗きこみ、うれしそうに頷いて見せた。
彼らは幸せそうだ。
けれど同時にひどくアンバランスで危うい印象を覚える。
――ねえ、セイジさん
彼女の唇は『宮部賢一』をまるで違う名で呼びかけ、微笑み掛ける。
セイジさん。
自分ではない自分の名を誰かが呼ぶその光景を、あの怯えた青年が目撃しなくてよかったと、心底安堵する。
研究棟ではじめて宮部を目にした時、そして彼の話を聞いた時、どうしようもなく他人事とは思えなかった、あの感覚が蘇る。
あの時、あの研究棟に通された時、頭を抱え、耳を塞ぎ、たったいま直面した現実から身を守るかのように丸くなって震えている彼の肩に、誓はそっと手を置いていた。
『宮部賢一さん』
『……あいつ……アイツ、なんなんですか……一体誰なんですか……俺は殺されたのに、生きているこの俺は、一体なんなんですか……』
絞り出されるような問いかけ。
胸を抉られるような、痛みを伴う、存在への問いかけ。
本来なら、誓は彼の問いに返せる答えを持っていない。むしろ共にうずくまりたくなるほどの不安が内側に巣食っている。ふとした瞬間に押し潰されそうになるほど、存在への不安に苛まれる。
けれど。
『……君は、君だよ』
誓は微笑んだのだ。
『例え何人いようと、君は君なんだ。いまこうしておれが話している、一緒にご飯を食べて、一緒に図書館に来て、そうして謎を解こうとしている宮部賢一は君ひとりだよ』
それはまるで、天使の福音だ。
『そんな君を、おれは間違えないよ』
けれど、それは、天使自身が自分に向けた言葉でもある。
宮部の隣に腰を下ろし、その背を何度もさすりながら、『君は君だ』と繰り返す。優しく、けれど力強く、存在意義を請け負うように。
宮部は不安そうに彼を見、
『ありがとう、ございます』
そしてゆっくりと視線を落として、微笑んだ。
『君は壊れていない。おれがちゃんとそれを証明しようと思う。だから、君は君自身の心を守れる安全な場所にいてほしい』
宮部は幼い子供のように従順に頷いて見せた。
「……例え何人いようと、おれは間違えたりしない……」
あの時宮部に向けて発した自分の言葉を口の中で反芻し、その意味を噛みしめるように、そっと静かに目を閉じる。
そして。
誓は自らの気配を意図的に断った。
周囲と完全に同化して、そろりと、まるで影のように、幸せそうでありながら危うげなふたりの後をひっそりと追いかける。
*
ねえ、約束を果たしてくれるかしら?
*
日が暮れ、閉館時間を過ぎた美術館を取り巻く緑と抽象的なモニュメントが、淡い光の中に浮かび上がっている。
一種幻想的な風景の中、ポツリポツリと人の姿が窺える。
広い庭園は二週間だけの期間限定で閉館後も一般に公開されているらしいというのが先程ここで得た知識だ。
人口池の中心でライトアップされている螺旋状のモニュメントを眺め、ランドルフはひとり、考え込んでいた。
結局自分は、ふたりを追いかけ、ここまで来てしまった。
彼女は何かを為そうとしている。
それを止めなければならないという使命感に燃える一方で、自然公園で青年達に投げかけられた問いに揺れていた。
もうひとりの自分。
設定違いの自分。
例えばソレは食人の記憶を持たないただの人間と思いこんでいる自分、例えばソレは食人鬼の能力を持たない自分、例えばソレは……鬼そのものとしか言えないおぞましい怪物な自分。
それらは果たして自分なのだろうか、それとも他人なのだろうか。
彼女たちはあんなにも幸せそうだ。彼女たちは何かを覚悟している。『もうひとりの自分』の影に苛まれている男の存在を知らず、彼女の隣に立つ青年は、では何者だというのだろう?
知らず、首からさげた小さな指輪を手の中に握っていた。
この街は、ときおりひどく残酷な可能性を示唆する。
望むと望まざるとに関わらず、事件という衣をまとって、驚くべき可能性がこの街に棲まう者たちを蹂躪するのだ。
ランドルフは惑う、自分がなそうとしている行動は果たして正しいことなのかという根本的な場所で揺らいでいる。
「そこにいるの、ランドルフさん、かしら?」
「あ」
その揺らぎの中に、ひとりの少女の声が差し込まれた。
「もしかしてとは思ったの」
「あんたもここに来たのか」
須美とセバスチャン、ふたりの視線を受け、迷いの思考が止まる。止まった思考は、本来辿るべきだった会話へと流れる。
「実はその……もうひとりの宮部さんと思しきニオイを追ってここに来たんですが」
それでも、つい、言い淀む。
「血の匂いが、濃すぎるんです」
「え」
「もうひとりの宮部さんといるあの彼女、全身から血のニオイがしているんです……それもけして新しくないんです。うまく言えないんですが、ええと」
行き場をなくしたように、ランドルフは視線を逸らした。
木立の向こう、穏やかな光と闇が見事なコントラストを生み出す景色の中を寄り添い、歩くふたつの影がある。
「私たちは、目撃証言を集めてここにきたのよ。彼女が何者かを知るために」
手短に、須美はこれまでの経過をランドルフに説明する。情報交換というヤツだ。
「偶然、なのでしょうか」
「できすぎた偶然は、作意を疑うべきだと思うけどね」
いつのまにか隣に立っていた誓が、ポツリと呟く。
研究所から各々の思う場所へと向かっていたはずの彼らが、ふたたびひとつの場所に集ったのはけして偶然ではないだろう。
必然が四人をここに呼んだのだ。
「彼女は一体誰なんでしょう。なんだかすごく、幸せそうではあるんですけど……」
求めているのは、なんなのだろうか。
「だが、彼女は殺している。少なくともふたりの『宮部賢一』をな」
対策課に再び届けられたプレミアフィルムからセバスチャンが読み取ったのは、いずれもある種の殺害現場だ。
それを殺人と言えるのか、正確なところはわからないが。
「悠長なことはしていられないかも知れないよ」
「え」
緊張を孕んだ誓に声に、三人の視線が一方向に向けられる。
「――ねえ、愛しているわ」
静寂の中でつむがれる、愛の言葉。
けれど。
握りしめたナイフが、赤や緑や黄色といった美しい光を鈍く反射する。
「だから、お願い……」
「や、やめてください!」
頭で考えるより先に、ランドルフはふたりの前に飛び出していた。
賢一であって賢一でないものが振り上げたナイフをその身に受け、弾き飛ばし、そして『彼』を羽交い絞めにする。
「な、なんだ!」
「やめて下さい、何をしてるんですか、ダメです、殺すなんてダメですよ! どうしてそんな話になるんですか!」
たった今まですごく幸せそうに笑っていたではないか、仲良く肩を並べていたではないか、なのにどうして壊そうとするんだと叫ぶ。
「殺さなくちゃダメだ。そうしなきゃ、ダメだ。俺は彼女と約束したから」
なんとか拘束を振りほどこうともがきながら、彼は必死になる。
「ずっと昔からの、約束だもんな」
「ええ」
怖いくらいにキレイで歪な笑みを浮かべる彼女に、捕えられた彼もまた、似たような笑みで応える。
「ほら、だから離してくれ。俺たちの邪魔をしないでくれ」
「それはできない相談だわ。目の前で行われる殺人を黙って見届けるだなんて、そんなこと、できない」
「このお姫様がこう言うから、俺達は、あんたたちを止めなくちゃいけないんだ。邪魔して悪いとは思ってるんだけどな」
ランドルフに続き、真剣な眼差しの須美、どこかおどけた風を装ったセバスチャン、そして、
「思いがけない展開で少し驚いちゃったかな。でも、間に合って良かった」
ほのかな笑みを浮かべた誓が姿を現す。
「誰?」
ひどく不思議そうに、彼女は首を傾げた。
「宮部賢一さんの代理、かな」
「みやべ、けんいち……? だれ?」
「君が作り出したその青年の、元になった人だよ。君のために彼は、いま、とても怯えているからね。心が壊れかけている。だから、おれ達はその不安を取り除くためにきたんだ」
ゆっくりと説明する誓の言葉を聞き、彼女は残酷なほど軽く、小さく、呟いた。
「ああ……、あの人、そういう名前だったの」
「作り出した? 何の話だ?」
いまだランドルフに捕らえられたままの青年が、訝しげに、突然現れた者たちを順に眺めていく。
「お前は望んだよな? ずっとずっと昔、キラキラと輝く川辺で、お前は俺に、25才の誕生日に自分を殺してくれって、言ったよな? そのために俺たち、とずっとずっと待っていたんだろ?」
「そうよ」
「嘘だな。あんたたちはそんな約束をしていない。約束できるはずがないだろ?」
「どうしてだ?」
「……何も知らないのか?」
噛み合わない台詞にボタンを掛け違えたような違和感を覚えながら、セバスチャンはひとつの可能性を考える。
ヒトを覗くことはあまり好ましくない。心は自分だけのものだ。あるいは、許された相手だけが触れるべきものだ。誰かが土足で踏み込んでいいものではない。
それでもなお、見ることをセバスチャンは選んだ。
宮部賢一にしか見えない、けれど歪な存在としか思えない、この男に刻まれている過去を見ようと決めたのだ。
幾人もの宮部賢一はどのようにして生まれたのか、知ることが出来ればと思ってしまったのだ。
なぜソレが知りたいのかと問われたら、きっと、明確な答えは返せないだろう。
それでも、セバスチャンの『周囲』で、『過去』が動き出す。長くてもほんの数分しかないだけが、それでも十分なはずだ。
知らなければならない。
知る必要があった。
うっとりと微笑みながら、彼女はソファに横たわる手を取った。
『なんだか……ぼんやりする。ずいぶん長く眠っていたような……』
『ねえ、わたしが分かる?』
頬杖をついて、目を細め、問いかける。ドキドキとワクワクと、言葉にならない期待とトキメキを込めて、彼女は問う。
『ねえ、わかる?』
『ああ、当たり前だろ』
彼は、まだ少し眠そうに何度か目をしばたいてから、正面に彼女を捉え、答える。
『自分の恋人を、忘れるわけねえだろうが』
彼女は心から幸せそうに、とてもキレイでとても透明な笑みをこぼした。
『ねえ、おでかけをしましょう? 今日がふたりで過ごす最後の日になるんだから』
崩壊することを前提とした関係は、ほんの少し前に構築されたもの。セバスチャンの感覚で言えば、つい昨日のこと、だ。映像の中でかすかな光を放っていたデジタル時計が、それを告げている。
「……あんたが目を醒ました、その瞬間が、あんたがこの世界に生まれた瞬間でもあるから、だ」
「な、なんで……どういうことだ? なんで、お前ら一体何を」
「もしかしてあなた、銀幕市がどういう状況にあるのかすら、知らないの?」
「は? 知ってるさ。ちっこい神様の魔法のせいで、映画の登場人物が次々実体化してる、そんな無茶苦茶な町になってもう一年以上経ってる」
だからソレがなんだと、彼は須美を睨みつける。彼が欲しい答えは、彼自身がもう口にしてしまった。それに気づけず、理解できないだけなのだ。
「あなたは何をしたんですか?」
須美の、そして誓たちの視線を受けて、彼女はゆったりと微笑んだ。
「私を殺してくれる、私の理想の王子さまを、ずっとずっと待っていたわ」
手を伸ばす。
殺してと。
彼女は望むのだ、目の前の男に。
「この目が、好きだったの」
もうひとりの宮部を見つめる、彼女の瞳。
「この手が、理想だったの」
もうひとりの宮部に差し伸べられる、彼女の指先。
「だから、私を殺してくれるなら、この人にしようと思っていたの」
もうひとりの宮部を突き落とす、彼女の言葉。
「俺はアンタを殺すために、作られたのか?」
「……そう、そのために、作ったの。でも、ただ殺すんじゃないわ。私を一番キレイなカタチで殺すの、そして、私を愛し、私を殺したことをいつまでも引き摺りながら生きていくの」
うっとりと、けれど哀しげに、彼女は告げる。
「あなたの後悔が、私の生きた証になるの」
夢を見るように、彼女はセイジと名付けた男を見つめ、語る。
「でも、あなたはなかなか殺してくれないから、私の王子さまになってくれないから、だからしかたなく処分してきたのよ」
残酷な罪を、さらりと告白する。
「この人じゃない。私が求めているひとはこんなひとじゃない。私の望む彼じゃないとしたら、ねえ、また一からやり直さなくちゃいけないでしょう?」
だから、殺したのだと彼女はこともなげに告げる。
「俺の前に、俺を殺したのか?」
「ええ。何度も、何度も、ときどき疲れてどうしようもなく泣きたくなったけど、でもしかたないじゃない?」
殺す。
また殺す。
またまた殺す。
「殺して、フィルムに戻して、なかったことにして、一からやり直すの……私の王子さまが見つかるまで、何度でも」
どうして彼女が笑っていられるのか、それでいてどうして彼女の台詞がこんなにも苦しいのか、須美には分からない。王子様を願いながら、ソレが死をもたらすものであることを望む、我が身を切り裂くような願いをしながら微笑む彼女の本心が見えない。
「あなたは、どうやって映画フィルムには存在しない『宮部賢一』を実体化させたの?」
「簡単よ。ないなら作ればいいの」
「どうやって?」
「この美術館で」
視線がさまよう。
「あるいは、あの図書館で」
まるで現実から遊離するように、ふわりと揺れる。
「あるいは、あの自然公園で」
彼女の笑みはひどく不自然だ。
「すれ違っているわ。一度も言葉を交わしたことなんてないけれど。だから、チャンスはあったの」
須美に微笑み掛ける彼女の表情を眺めながら、ランドルフは、妙に納得した。
美術館に、図書館で、公園で、彼女のニオイは残っていた。
ランドルフは知っている。自分の手の中にあふれる情報の意味をすべて理解できているわけではないが、彼女が本当に『彼女が認めた造形』を愛していることは伝わる。
哀しいくらいに一方的な思いだ。
「ねえ、これは罪になるのかしら?」
彼女の問いかけに、明確な答えを出せるものはここにはいない。
「あなたは、どうして殺されたかったの?」
「怖かったから」
「あなたの名前を呼んでくれる人はいなかったの?」
「いるわ、映画の中に」
「……映画?」
「私の名前を呼んでくれる、私の孤独を癒してくれる、そんな人は、映画の中にしかいないの」
「あんたもムービースターだってことか?」
「違うわ。ただの、どこにでもいる、映画に出演することも、自殺することさえできないような、取るに足らない端役(エキストラ)よ」
自分で死ぬことができない彼女、けれど誰にも殺してもらえない彼女、ならば自分でその相手を作り出すしかなかった彼女。
彼女のソレは罪なのか。
罪なのだと、須美は思う。
「……どうして……どうしてですか……」
ランドルフはただ、同じ問いを繰り返すしかなかった。
例えムービースターであろうとも、現実に、ここに、骨と皮と筋肉で出来上がった体があるのだ。触れて確かめられる。喋り、動き、ものを考え、ものを食べ、誰かと何かを共有する。
ここにある。
そこにいる。
なのに、鏡に映る虚像のようなものだと、線引きがなされる。
だから考えるのだ。
許されることと許されないこと、その罪の境界線ごと、存在というものについて考える。
「……どうして、そんな哀しい願いを……」
「死にたかったのかい?」
誓は彼女の前に立つ。やわらかな眼差しで、そっと優しく、彼女に問いかける。責めるのではなく、できるなら彼女を抱きしめたいとすら願いながら。
「君はそうまでして、この世界から消滅してしまいたかった? それほどに世界に絶望していたのかな?」
「……ええ、そうみたい」
「でも、怖くはなかったのかい? 人を殺すんだよ? それは言うほど簡単なものじゃない。君は怖くなかったの?」
「それは、怖くないわ。私が私でなくなることに比べたら、私が何も残せずに消えてなくなることに比べたら、なにひとつ、怖くなかったわ。それに、彼は、フィルム、だもの……」
そう言いながら、瞳が揺らぐ。痛みを堪えるように、眉を寄せて。けれどソレをまるで自覚していないかのように、声は平坦であろうとする。
「ああ、どうしてかしら。今更思いつくなんて。初めから、殺し屋か死神の設定にすれば早かったのよね」
「でも、ソレじゃ無意味なんだろ?」
「そうよ」
「そうだろうな」
セイジと名付けられた彼女の『理想の恋人』は、たったいま、自分がムービースターという存在であることを突きつけられた青年は、泣き笑いの形に顔を歪めながら、彼女を見つめ――
「う……っ」
「あ、ど、どうしました!」
突然苦悶の表情を浮かべた彼を、慌ててランドルフは自分の腕から解放する。
だが。
「甘いよな、アンタ」
自由になったその一瞬の隙をついて、彼は、セイジは、彼女が望む通りに、隠し持っていたもう1本のナイフを振りかざし。
とっさに、セバスチャンは、須美の視界を自分の腕で覆った。後ろから抱きすくめるように、彼女から凄惨な光景を遮断したのだ。それが彼にとって、何よりも優先されるべき行動だったから。
夜の美術館に。
その幻想的とも取れる光の中に。
声にならない悲鳴が上がった。
光の中に。
ふたり分の赤い飛沫が飛び散った。
*
もしかしたら、一目惚れだったのかもしれないわ。
でも、わからない。
私はただ、少女時代から見ていた夢を叶えたかっただけだったの。
ねえ、あなたは私を殺してくれる?
そして、私をずっと覚えていてくれる?
取りに足らない、存在する意義すらないようなこんな私を。
ちゃんと殺して、そして後悔してくれるかしら?
*
彼女の部屋の状況を表現するとしたら、無数のフィルムが床を埋め尽くしている、その一言に尽きた。不吉な飛沫で汚れた部屋に、リールに巻き取られず伸びたフィルムがまるで無造作に広がっている。
提案者は誓だ。
『もうひとりの宮部賢一』を作り出したフィルムを回収することでようやく事件は終結するのだという思いで、四人とともに彼はここに来たのだ。
「北村礼子……ソレが、彼女の名前だったんだ……」
誓はゆっくりと辺りを見回す。
小さなワンルームマンションだ。
自分を含め、セバスチャン、ランドルフ、そして須美の四人がいることで、空間は更に狭さを増している。
高すぎる人口密度。
なのに、ひどく寒々しい。
「いま、彼女はどうしてるのかな?」
「信崎さんの応急処置が良かったみたいね。思ったほど傷も深くなくて、いまは病院のベッドで過ごしているわ」
「そうか、よかった」
「セイジさんの怪我も順調に回復しているらしいですし、おふたりとも、きっとあっという間に退院できますね」
「奇跡だな。あれだけ派手に血を流したのに」
須美の言葉に安堵する誓、その横で嬉しそうにランドルフが笑い、セバスチャンがぽそり小さくと呟いた。だがそれ以上追求するつもりはないらしく、質問の方向を変えて誓を見る。
「そういや宮部の方はどうなんだ?」
「ああ、宮部さんはもう職場に復帰されてるよ。ときどきドクターのカウンセリングを受けにはきているみたいだけど」
「宮部さんとセイジさんは、きっとこの町で共存できますよね」
「そうなればいいと思うわ。たとえ友人になることはできなくても、穏やかな距離を保てたら……」
「ひとまずはハッピーエンドということになるでしょうか」
フィルムを踏み潰さないように気を使いながら、ランドルフは視線を床に落とす。
「あら」
須美がそれに気づくことができたのは、この部屋の中でひとつだけ、ひどく浮き上がって見えたからだろうか。
写真も何も載っていない、無彩色のごくごくシンプルなたった一枚のフライヤー、テーブルの上にそっと置き去りにされていたそれを、須美は引き寄せられるように手に取った。
『あらゆる映像記録、例え写真一枚からでも映画をお作りいたします』
「自主映画制作代行サービス……」
思わず、握り潰しそうになる。
揺れる。
揺れ動く。
白地に銀の文字が綴られた、シンプルでスタイリッシュなフライヤーからは、何故かひどく不吉なモノが漂って来るのだ。
何気ない文字だ、何気ない文句だ、なのにどうしようもなく心がざわめく。
もしこの事件を知るモノが『彼女』と同じことをしようと考えてしまったら。
法律という名の縛りから逃れて、『映画の設定』という部分に自ら手を加え、『望むだけの死』を成就させられると考えてしまったら。
思考は巡る。恐ろしいほどのスピードで、急な坂を転がるように、自分では止められない速度で思考がある一点に向かって落ちていく。
コワイ。
ソレは辿り着いてはいけない場所だ。
「……守らなくちゃ、壊れてしまう……この銀幕市が、壊れてしまうわ……」
ムービースターによる罪。間接的な自殺。願いの成就。けれどそれはひどく歪んだカタチと為そうとしている。
コワイ。
いまここに立っていられなくなるほど、コワイ。
なにより目の前にいる優しい彼らの存在も、歪められてしまうかもしれないのが、コワイ。
「朝霞」
背後から、唐突に名を呼ばれる。
「朝霞はバッキー持ちだから、分かるよな? いや、分かんないかもしれないが、まあいい、答えてくれ」
焦燥がまじりこむ声で、ひどく真剣な眼差しと硬い表情で彼は問うのだ。
「この銀幕市に、角の生えたバッキー、なんてものが実在するのか?」
「……え」
「濃い紫のバッキーだ。そんな異形じみたモノが実在しているのか? どうなんだ?」
正しい答えを追い求めるのが学者だ。そして、埋もれてしまった『事実』の断片をすくい上げ、一度は失われた『本来の意味』を見出そうとするのをやめられないのが歴史学者だ。
セバスチャンは、追いかけることをやめられない。
「聞いたこと、ないわ。見たことも、ない」
いやに真剣な彼に答えながら、須美は、ふと足元から這い上がってくる不安感に思わず自分の腕をさすった。絡め取られ、身動きがとれなくなるような、そんな不安に襲われる。
差し出された謎には答えを探さなくてはいけない。けれど、踏み込むのが怖い。
「……なら、これは、あとで報告か」
「この街で、再びなにかが起きているということでしょうか」
そんなふたりのやり取りを聞きながら、ランドルフの表情もにわかに曇っていく。
悲劇はいつも、なにげない顔をして近付いてくるのだということを、彼はイヤというほど理解している。
あの日、あの瞬間、またしても自分の手から救えるはずの命がこぼれ落ちたのかと、深い絶望に捕らわれた。
「……もしなにかが起きているのなら、おれは」
誓は溜息の代わりに小さな決意をこぼす。
「おれは、立ち向かうよ。大切なものを信じて……」
誓は自分の両手を眺める。
あの夜、自分はセイジと呼ばれた青年と、彼を作り出した彼女とをここにいる仲間達とともに病院に送り、そして宮部賢一に真相を告げた。
彼は、泣いていた。
泣きながら、ありがとうと何度も何度も繰り返していた。
あの時彼に握られた手の感触を、誓はしっかりと覚えている。
差し伸べる手を自分は持っている。握り返してもらえる手を自分は持っている。彼と共有した、彼らと共有している、この時間とこの感覚は自分のものだ。自分だけのものなのだ。
「なにかが起きているなら、それを突き止める。今回みたいに、ね」
「そうするしか、ないのよね……」
須美はもう一度手の中のフライヤーに視線を落とし、そこに綴られた銀色の文字を辿る。
望みのままの映画を作りだすと謳う文面。
しかし、魔法が掛かってしまったいまのこの銀幕市では別の意味を持たざるを得ない、文字列。
そして、フィルムからセバスチャンが読み取った奇妙なバッキーの存在。
須美は深呼吸を繰り返す。
深く深く、何度も。
なにかが起きている、なにかが起ころうとしている、この漠然とした不安を礎に変え、自分らしく立つために。
「植村さんと、それからドクターに報告にいきましょう」
己の弱さを振り払い、まっすぐに顔を上げて、そして須美は告げた。
あの時、彼女――北村礼子が告げた哀しい台詞が耳鳴りのように響いていたけれど、それすらも振り解いて、この部屋から一歩を踏み出した。
『殺して、フィルムに戻して、なかったことにして、一からやり直すの……私の王子さまが見つかるまで、何度でも』
END
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クリエイターコメント | はじめまして、こんにちは。この度は【虚構の教戒】シリーズ第二弾にご参加くださり、誠に有難うございます。 今回はサブタイトルに『存在の希求』、サブテーマに『可能性の追求』を据えて展開させて頂きました。 スッキリとした後味とまでは言えないのですが、それでもできる限りのハッピーエンドを目指したこの物語、ラストに繋ぐための布石と謎を拾いあげる作業ともども、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
>信崎誓さま プレイングを拝見し、信崎さまには犯人を追及するのではなく、むしろ手を差し伸べる『理解者』というスタンスで描かせて頂きました。 また、『もうひとりの自分』への不安感を誰よりも強くお持ちということで、天使のようなやわらかさや優しさと同居する『不安定さ』が非常に印象的でした。 ドクターのカウンセリングをご希望頂きまして、その回答ともども、イメージに近い描写となっておりますように。
>ランドルフ・トラウトさま 五度目のシナリオ参加、有難うございます。お世話になっておりますv 『もうひとりの宮部』に興味を持って下さり、彼の状況について言及されていたため、情報収集の場面であのような問いを投げかけさせて頂きました。 問いを投げかけた上で、問いを投げかける側に回って頂いております。 守ること、救うこと、それをごく当たり前に成し遂げようとするランドルフ様の存在があればこそ、物語の着地はやわらかなものとなるのだと思います。
>朝霞須美さま 二度目のご参加、有難うございますv 対策課での聞き込みをはじめ、素人探偵さまの手堅い捜査、ぶれのない視点、凛とした姿勢に惚れ惚れしておりました。 前回とは打って変わり、ムービースターの男性陣に囲まれることとなったのですが、今回はセバスチャンさまとコンビを組んでの調査と相成りまして。おふたりの掛け合いに『らしさ』が出ているとよいのですが。
>セバスチャン・スワンボートさま 情報収集という点において非常に素敵な能力をお持ちで、事件へのアプローチ方法として、重要な局面でかなり活用させて頂きました。 最終的に事件に関わってしまう姿に、傍観者に徹しきれない歴史学者さま、という印象を持ってしまいました。 プレイングを拝見し、朝霞さまへとなされていた配慮とその関係性は、個人的に、今回の物語の中である種の救いとなっていたように思われます。
それではまた、あまたの悲喜劇が入り乱れるこの銀幕市のいずこかで、皆様とまたお会いすることができますように。 |
公開日時 | 2008-02-22(金) 22:00 |
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