★ ウェルカム!銀幕市 ★
イラスト/キャラクター:新田みのる 背景:ミズタニ


<オープニング>

「取材だ!」
 銀幕ジャーナル社の編集部のフロアに、編集長の胴間声が響いた。
「取材に行ってこい、おまえら!」
「何の……取材ですか、編集長。例の魔法のせいで、今、街はそれどころじゃ……」
 おずおずと応えたのは、七瀬灯里である。まだ新人の彼女だからこそ、いかにも気が立っていそうな鬼編集長に反問するということができたのかもしれない。
「だからこそ、取材する価値があるんだろうが」
 盾崎編集長は、煙草を灰皿(すでに先客でいっぱいだった)につっこむと、デスクの前に仁王立ちになった。大柄な体が、半ば覆い隠す背後の窓からは、依然として混乱の続く銀幕市の風景を眺めることができる。
 空を飛ぶアメコミのスーパーヒーローと、暴れる特撮の怪獣。道をゆくのは、カウボーイに、サムライに……、風にスカートをあおられる金髪美女と、オープンカーで駆け抜けてゆく往年の映画俳優そのままの顔立ちの青年――。
「街で起こっている出来事を取材して記事にするんだ」
「え、でも、ウチは映画雑誌ですよ?」
「映画だろうが! あれもこれも全部!」
 そう。今、銀幕市に、現実になってあふれかえっているのは、映画がもとになった騒動であるムービーハザードや、映画から実体化したムービースターたちなのである。
「わかったら、さあ行け! ひとつでも多くの、ムービーハザードの情報と、ムービースターのインタビューを集めてくるんだぞ!」

 灯里をはじめとする記者たちが街に散らばる。
 そして、人を見かけるや、ICレコーダーを突き出して、コメントをもとめてくるのだった。
 その日、街にいた多くのものが、その質問を受けたはずだ。

「あなたもしかしてムービースターですか? それとも、ムービーハザードやムービースターの情報を知りません? なんでもいいです。あの魔法が、この街と、あなたの周辺に何をもたらしたのか、それを教えてほしいんです!」


特別ノベル『ウェルカム!銀幕市』(ライター/諸口正巳)

銀幕ジャーナル:特別号






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