★ 選択の時 ★
クリーチャーデザイン/七片 藍


<オープニング>

 その日、日本中のテレビというテレビが……、銀幕市を映し出していた。
 正確には、銀幕市の市境の外側から、市内の方向へ向けられたカメラからの中継映像を視ていた。
 銀幕市の市境――それはすなわち、〈魔法〉の境界に沿って、半透明の影のカーテンのような壁が出現していた。今まで、ムービースターとバッキーという魔法の産物だけが、その境を越えることができないでいた。だが今や、目に見えるものとなったその境界は、魔法にかかわりのないものさえ拒み始めた。物理的な方法でも、いかなる存在も銀幕市との出入りが不可能になったのである。
 さいわい、通信が断たれることはなかったので、人々は市内の状況を知ることはできた。  すでに、市境には自衛隊の師団が展開している。
 それは市内に出現したものが、万一、外にあらわれたときのための備えではあったのだが……、ものいわぬ砲塔の列が銀幕市に照準を合わせて静止している光景は、なにか別の意味をもつようにも、感じられるのだった。

 銀幕市外の人々は……日本のみならず全世界の人々は、あらためて、銀幕市にこの数年起き続けていた現象の驚異に目を見張り、唸りを上げる。そして、自分たちはなぜ、この人類史上始まって以来の出来事に、もっと当初から関心を持たなかったのだろう、と首を捻る。だがそれも一瞬のこと――。すぐにまた、テレビ画面に視線を戻し、続きが語られるのを今か今かと待った。
 つまり、その……「物語の結末」を。

★ ★ ★

「良いニュースと悪いニュースのどちらからご報告しましょうか」
 邑瀬の言葉に、市長は迷いなく、悪いほうから、と応えた。
 バッドニュースは聞き飽きた。だが聞かねばならない。そしてせめて、わずかにでもあるのなら希望を最後に感じたい。
「銀幕市の市境にそって出現した原因不明の障壁により、市内外の一切の通行が不能になりました」
「……エキストラや、バッキーを連れないムービーファンも?」
「はい。もうどこにも逃げられません」
「……」
「良いほうのニュースは……良いと言うに足るかどうかわかりませんが、時間的な猶予があるということです」
「というと」
 沈黙してしまった市長のかわりに、マルパスが訊ねた。
「『マスティマ』は上空に静止したまま、動く様子を見せません。アズマ博士の計測で、それが『ネガティヴパワー』の充填のためであるとわかりました」
「攻撃に移るための力を蓄えているのだな」
「はい。それが完了するのにおよそ12日間を要するとの予測です」
「それより先にあれを倒せれば、あるいは……」
 それが容易でないことは、先の報告から察せられる。だが座して死を待つことを潔しするものが、銀幕市にどれだけいるだろう?
「ミダスさんたちが……」
 植村が皆を呼びに来た。
「私たち全員に、話したいことがあると」

★ ★ ★

『今こそ選択の時だ。われらタナトス3将軍は、オネイロスの名において、オリンポスの決定を伝える。……この地の人間、夢の落とし子、すべての意思あるものに、神の剣の使用を許可する。これにより、人間の手によりて、こたびの災いを終わらせることができよう。その方法は2つある』
 黄金のミダスが言った。それはまさに神託であった。
 だが、神託というものがつねにそうであったように、それもまた非情なものだった。

「これは『ヒュプノスの剣』だ」
 白銀のイカロスが、その剣を示す。
「巨神戦争(ティタノマキア)のおりより失われ、ティターン神族たちの領域――『幽閉世界オトリュス』に失われていたものだが、偶然、取り戻すことができた。怪我の功名とはこのことだな」
 ティターン神族の最後の1柱・ヒュペリオンは、この剣によって銀幕市の魔法を長引かせようと画策していたらしい。だが、と、イカロスは皮肉に唇を吊り上げる。
「この剣がもたらすのは『絶対の眠り』。ティターンの介入も、ネガティブの歪みさえ許さない永遠の安定だ。かのものたちは浅知恵であった」
「そうか、それでマスティマを眠らせる?」
 誰かが言った言葉に、しかしイカロスはかぶり振る。
「それは無意味だ。眠らせるだけであれは死なない。むしろあの巨大な絶望と永久に同居せねばならなくなる」
 それは論外だった。
 ではどう使うのか。その問いに、彼は応える。
「美原のぞみだ」
「なんですって!」
 叫んだのは市長か。続く言葉に、彼の顔からどんどん血の気が引いて行く。
「この剣によって、魔法の焦点である少女を眠らせる。そうすれば魔法のバランスは永久に安定するだろう。バランスの狂いであるネガティヴゾーンやディスペアーはすべて消える。むろん……、彼女は二度と目覚めないが」

「もうひとつの方法は、この『タナトスの剣』を使う方法だ」
 青銅のタロスが示したものは、イカロスのもつ剣によく似た、もうひとつの剣だった。
「俺の役割はこれを地上にもたらし、必要があれば使用することだった。このような形で使うかもしれぬとは予想だにしなかったがな。この剣は、いかなる存在にも『死』をもたらす」
 皆の顔が明るくなった。
 それなら簡単だ。その剣で、マスティマを倒せばいい。
「……ところがそう単純でもない。あれはこの世界の全人類の心でもある。それを殺してしまうことが、全世界にどのような影響を与えるか予期できぬ。とくに、あのように荒れ狂っている力を、突然、無に帰してしまうような真似をするのはな……」
 タロスは仏頂面で続ける。
「俺が言いたいのは、この剣を使うべき対象は――リオネであるということだ」
「え?」
 誰もが耳を疑った。
 当人は、静かに、さみしげな笑みを浮かべただけだった。
 まるで、最初からそう言われると知っていたように。
「リオネは『罰せられることが決まっている』。オリンポスの意図とは少々違う形になったが、この剣により罰を遂行することは可能だ。タナトスの剣は、神さえ殺せる唯一の武器だからな」
 水を打ったように、あたりは静まる。
「むろんそれにより魔法は終わる。それが意味することはあらためて言うまでもないが……、マスティマも消える。すべてを終わらせることができるだろう」

『以上が、差し出された選択だ』
 無情に、ミダスの声が響いた。


『さあ、選ぶがいい』



<ご案内>

銀幕市上空に出現した第3のネガティヴゾーンと、そこから飛来するディスペアー・ジズの群れ。ジズによる襲撃は市民たちの各地での奮闘により撃退されました。しかし、ネガティヴゾーンへ向かった調査隊とリオネは、そこにあるものが「全人類の絶望」であることを知ります。

そして今、ネガティヴゾーンは巨大なディスペアー「マスティマ」となって顕現します。その圧倒的なパワーによる、破壊のカウントダウンがはじまりました。マスティマの攻撃が開始されると、銀幕市は住人もろとも地上から消滅するでしょう。

これを回避する選択肢は2つあります。
2振りの神の剣のどちらかを用いることです。ですが、いずれにも大きな代償があり……。
ここに、決断の時がやってきました。

関連ノベル『【終末の日】アラウンド・ゼロ』
関連イベント『終末の日』
参考資料:ネガティヴパワーの脅威

★ ★ ★

このイベントは掲示板による投票形式で行います。この結果によって、『銀幕★輪舞曲』の最終局面が分岐し、決定します。

■参加方法
参加キャラクターでログイン後、下記掲示板上にて、もっとも適切と思う選択肢のスレッドにて発言を行って下さい。もっとも多く選択されたものが、最終的な決定として採択されます。

発言を取り消すことはできず、1人のキャラクターは1度しか発言できません。よく考えて、最適のものを選びましょう。

■受付期間
4月28日〜5月9日(9日のタイムスタンプまでが有効)

■選択肢
とれる選択は以下のいずれかです。

【1】ヒュプノスの剣を使う
「ヒュプノスの剣」を用いて、美原のぞみの胸をつらぬき、彼女を眠らせます。「ヒュプノスの剣」の力により、のぞみは死ぬこともなく、また目覚めることも、成長することも、老いることもない「永遠の眠り」につきます。

このことによって、夢の魔法は安定し、そのバランスの狂い――ネガティヴパワーの発生もなくなります(以後は、ムービーキラーの発生も、ネガティヴゾーンやディスペアーの出現もありません)。魔法が解けませんから、ムービースターたちと別れることもありません。ちょっとスリリングで、しかし楽しい銀幕市の毎日がこれからもずっと続きます。

【2】タナトスの剣を使う
「タナトスの剣」を用いて、リオネの胸をつらぬき、彼女を殺します。「タナトスの剣」だけが、唯一、神を殺すことのできる武器であり、それによりリオネは死にます。彼女に与えられる罰の帰結として。

リオネが死ぬことで、夢の魔法はすべて失われます。ムービースターはすべてプレミアフィルムになり、バッキーたちはいなくなります。同時に、ネガティヴゾーンとディスペアーはすべて消滅します。銀幕市に、魔法がかかる前と同じ平穏で……そして退屈な日常が戻ってくるのです。

【3】どちらの剣も使わない
あるいは第3の選択をとることもできます。剣は使いません。しかしその場合、マスティマの攻撃を止めることはできません。銀幕市には甚大な被害が発生し、そしてそのまま滅びることをよしとしないのであれば市民の手によってマスティマと戦わなくてはなりません。戦っても勝てるかどうかはわからず、少なくとも、ひとりの死者もなく勝利することは不可能でしょう。

★ 選択結果 ★


選択の時を前にして、カフェ『スキャンダル』には市民が集まっていたようです……。

→【カフェスキャンダル】選択の前に(過去ログ)





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