オープニング


 広大な海が色がる世界、ブルーインブルー。
 そこには、数多くの海上都市が、穏やかにたゆたっている。

「みんなに行って欲しいのは、リシャヤっていう海上都市なの。人もそんなに多くない、小さな町」
 世界司書のエミリエ・ミイが、そう切り出した。
 彼女は、資料の束を捲り、目的のものではなさそうなものを、バサバサとデスクに置きながら、続ける。
「えっとね、それで……ジャンクヘヴンからリシャヤに最短ルートで行くには、急な海流の関係でどうしてもここ――この大きな岩の前を通らないといけないんだって」
 彼女は、指先で地図の上に、小さな円を描く。
「でもね、困ったことになってるの」
 それが始まったのは、数日前のことだった。
 小さな交易船の船員たちが、リシャヤへと向かう際、その岩に近づいた時に、美しい歌声を聞いた。あっと思った時には、船の針路は反転し、もと来た方向に戻されてしまったという。
「海できれいな歌が聞こえるっていったら、セイレーンだよね。……だけど、ちょっと変かも」
 そう言ってエミリエは、小さく首を傾げる。
「セイレーンの歌声を聞くと、遭難とか、難破させられたりするっていうでしょ? でも、どの船も、向きを変えられて、もと来た方に戻されるだけなの。まるで、近づいてほしくないみたいじゃない?」
 彼女は再び資料に目を落としてから、顔を上げる。
「今回護衛をしてもらうのは、レイシェルさんっていう人の船。レイシェルさんは、大事な商談があるから、急いでリシャヤに向かいたいみたい。今のところまだ大きな被害はないけど、他の人も困ってると思うから、みんなには頑張ってほしいな」
 話し終え、小さくため息をついたエミリエの表情が、今度は急に明るくなる。
「そうそう、リシャヤでは、スリア貝っていう珍しい貝が採れて、すっごく美味しいんだって! 仕事が終わったら、みんなで食べてきたらどうかな? スリア貝は、貝殻も綺麗だから、加工品もとっても値打ちがあるの」
 そして彼女は、にっこりと笑う。
「エミリエは、お土産話が欲しいな。――期待してるね!」

管理番号 b24
担当ライター 鴇家楽士
ライターコメント 初めまして。もしくはお久しぶりです。鴇家楽士と申します。
前作『銀幕★輪舞曲』に引き続き、WRとして参加させていただきます。
宜しくお願いします。


○リシャヤに行くルートは他にもありますが、かなり遠回りになるので、依頼人はどうしても最短ルートで向かいたいと思っています。
○セイレーンは、岩からは動こうとしないようです。
○プレイングには、セイレーンと戦うならば、どういう方法で戦うか、戦わないならば、どういう方法で解決するかのほか、仕事の後、リシャヤでどう過ごしたいかを書いてください。
リシャヤは、スリア貝以外の特産品はありませんが、穴場っぽいビーチや、釣りの出来る場所などもあります。
○プレイングは、PCさんの口調で書いていただけると、雰囲気がつかみやすいので助かります(もちろん、強制ではないので、書きやすいようになさってください)。
○その他、思いついたことを何でも書いていただけると、もしかしたら、ノベルに反映されるかもしれません(されなかったらすみません)。

それでは、皆さまのご参加、お待ちしております。

参加者一覧
マグロ・マーシュランド(csts1958)
柴・越後(cadf1830)
リニア・RX-F91(czun8655)
黒金 次郎(cxna4053)

ノベル


「いい天気だね~!」
「ホント! 泳ぐのにちょうどいいかも~!」
 マグロ・マーシュランドが青い空を見上げ、伸びをすると、リニア・RX-F91も四本の指を空に向ける。先日の北海道とは打って変わって、心地の良い陽気だ。
「あれ? リニアさんって泳げるの?」
 マグロが不思議そうな顔で疑問を口にする。見た目が機械なので、水とは相性が良くなさそうに思える。
 しかし、リニアは手をぱたぱたと振って見せ、陽気に答えた。
「え? 水は平気ですし、浮きますよ~? お仕事終わったら、一緒に泳ぎましょ?」
「うん、いいよ。楽しみだね!」
 そうやってはしゃぐ二人を少し離れて眺めながら、黒金次郎は、煙草を静かにくゆらせていた。そこへ、柴・越後が近づいて来る。こちらも煙を漂わせているが、使っているのは昔の雰囲気あふれる煙管だ。
「今回は、改めて宜しくお願いします」
 柴は、そう言って綺麗に剃られた頭を下げる。ロストレイルの中でもそうだったが、彼は厳つい外見とは裏腹に、次郎だけではなく、マグロにもリニアにも礼儀正しかった。
「ああ、こちらこそ」
 何か良いものは見つかったか――と言いかけた口を次郎はつぐみ、また煙草をふかす。
 先ほど柴が雑貨屋で、ぬいぐるみや可愛らしい小物などを物色していたのを見たからなのだが、もしかしたら触れない方が良いかと思ったからだ。視線を柴の傍らに向けると、ポンポコフォームのセクタンと目が合う。するとセクタンは、円らな瞳でこちらをじっと見、小さく首を傾げた。
 柴のセクタンで、名前は赤殿中というと聞いた。ツーリストである次郎にはセクタンがいないから、なかなか興味深くもある。
「そろそろ船に向かったほうがいいでしょうか?」
 柴の言葉に、次郎は視線を彼へと戻し、頷いた。
「そうだな。では、行くとしよう」

「レイシェル・ザンだ。宜しく頼む」
 今回の依頼人が、そう言って握手を求めてくる。
 二十代後半くらいだろうか。そばかすのある顔に、力強い目元が印象的な男だった。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
 柴はそう言って丁寧に頭を下げてから、差し出された手を握り返す。他の者もそれぞれ挨拶をし、握手を返した。
「それで、早速依頼の話なんだが――内容は聞いているな?」
 レイシェルは先に歩き、船の中を四人に案内しながら話し出す。その後ろを歩いていたマグロが頷き、口を開いた。
「僕、セイレーンさんは悪い人じゃないと思うよ。だって、もし敵対の意思があるのだとしたら、最初から船を遭難とか難破させていると思うもん。引き返させるのには、きっと何か理由があるんだよ」
「私も同感です。理由無く引き返させる、という事は考えにくいですよね」
「セイレーンさんって、ホントはとてもいい人なんじゃないでしょうか?」
 三人の意見に、次郎も頷く。人に迷惑をかけている以上、親身になるつもりはなかったが、悪意があるわけではなさそうだ。
「歌が歌えるんだから、きっと言葉も通じますよね!?」
「いや……それはない」
 リニアの言葉に、レイシェルは、そう言って首を振る。
「俺も昔、そう思ったことがあったんだ。でも、何度試してみても、セイレーンに俺の言葉は通じなかった。だから俺は、セイレーンの歌は、動物の鳴き声のようなものだと解釈している」
「話が通じないとなると、力ずくで行くしかないのでしょうか……」
 そう言ってはみたものの、柴自身がそれを望んでいる訳ではない。彼は荒事を好まない性分だ。だから出来るならば、話し合いで解決したいと思っていた。
「セイレーンさんの歌で戻されちゃうのは、船なんですよね?」
「ああ、そうだな」
 リニアの言葉に、レイシェルが答える。
「もしかしたら、歌の影響を受けるのは船だけなんじゃないでしょうか? それだったら、あたしが空を飛んでいけば、何とかなるかもって思うんですけど」
「空を飛ぶ、だって……?」
「いや、それはセイレーンの歌を聞いた船乗りが、それに影響されて、船を戻してしまうからだな」
 話が進まなくなるので、リニアの言葉に戸惑っているレイシェルはそのままにし、次郎が言うと、リニアは残念そうに肩を落とす。
「だが、空が飛べるなら、偵察してもらうというのはどうだろう? 空から見たら、もしかしたら何か手がかりがつかめるかもしれん」
 それを聞き、マグロと柴も頷く。
「それ、いいかも!」
「いいと思います。リニアさん、お願いできますか?」
 皆の視線を受け、リニアは笑顔を見せると、こくりと頷く。
「はい! もちろん。頑張ります!」

「じゃあ、ちょっと様子を見てきまーす!」
 そう元気良く言うと、リニアは皆に手を振り、船の甲板から離れた。船にいる人々の姿が、だんだん小さくなって行く。レイシェルや船乗りたちが驚いている姿も見えた。
「すっごく広くてキレイな海~!」
 青い海を眼下に見ながら、リニアは滑らかに飛んで行く。
 やがて、セイレーンがいるという大きな岩の上にたどり着いた。
 リニアがちょうどセイレーンのいる場所の真上に来た時、気配を感じたのか、セイレーンがばっと顔を上げる。
 黒髪の、美しい女性の姿をしていた。まだ少女のような幼さを残した顔立ちだった。髪と同じ色の瞳が、驚きを宿してこちらを見ている。
 リニアは一瞬どきりとしたが、ジャイアント・マニュピレーターのホバリングモードで、ゆっくりと高度を下げながら、声をかけてみることにした。
「あの、どうしてこんなことをしてるんですか? もし困っているなら、あたしに出来ることなら力になりたいし、出来ればお友達になりたいなって思うんですけど」
 言葉の意味は分からなくても、気持ちが通じることはあるかもしれない。そう思い、精一杯の笑顔を心がけながら、リニアはセイレーンに話しかける。
 心なしか、セイレーンの表情が和らいだように思えた時、リニアの目が、セイレーンの陰に隠れているものを捕捉した。
「鳥さん……?」
 確かに、それは鳥だった。ずんぐりとした体だが、羽の色が美しかった。まるで夕焼けの色のようだと、リニアは思った。
 その時、鋭い音がし、リニアは慌ててそちらを見る。セイレーンの瞳には先ほどまでとは違い、敵意が宿り、口からは威嚇の音が漏れている。
「待って、違うんです! あたしはなにも――」
 リニアの弁明は、途中で途切れる。耳元に音が流れ込み、融合し、爆発した。
 なんて美しい歌声だろう。
 そう思った時には、リニアは再び船の上にいた。
「大丈夫か?」
 次郎の声に、リニアは目をぱちぱちと瞬かせる。
「あれ? あたし――?」
「普通に空を飛んで帰ってきましたよ」
 柴にそう言われるが、リニアには全く自覚がない。
「セイレーンさんに誤解された! って思って、どうしようって思ったんです。そうしたら歌声がすごく大きく聞こえて……」
「ふむ……歌声に惑わされないためには、強い意志が必要なのかもしれないな。リニア君が動揺したことで、一瞬、歌声に対する抵抗力が弱まってしまったのかもしれん」
「何か、手がかりはつかめましたか?」
 リニアは、小さく頷くと、話し始める。
「セイレーンさんのいるところに、鳥さんがいました! ちょっと、ぽっちゃりしてて、夕焼けみたいな綺麗な色の羽でした。……セイレーンさんは、その鳥さんを守ってるのかもしれません。すごく怒ってたから」
「君! その鳥は、夕焼けみたいな羽の色で、ぽっちゃりしていたんだね?」
 そこで、唐突に声を上げたのは、レイシェルだった。その真剣な声に、一同の視線が彼に集まる。
「はい」
「全く動かなかったかい? もしかしたら、卵を温めていたとか?」
「うーん……」
 リニアは少し考えてから、また口を開く。
「一瞬だったから、ちょっと分からないですけど、でも、動きませんでした。言われてみると、卵を温めてるようにも見えた……かも」
 それを聞き、今度はレイシェルが考え込んだ。
 しばらくして、ゆっくりと口を開く。
「何とか……何とかその鳥を保護できないだろうか。頼む」
 そうして頭を下げる彼に、皆、顔を見合わせる。
「約束は出来ないが、やってみよう」
 次郎がそう言うと、レイシェルは感謝の言葉を述べ、セイレーンのいる岩の方に目をやった。

 船は、リシャヤを目指して、穏やかに進む。
 いつもならば、快適な船の旅となったのだろうが、今は、緊迫した空気が漂っていた。
 船員たちは皆、次郎の指示により、布などで耳栓をしている。
 やがて、セイレーンがいるという岩が見えてきた。ごつごつとした岩肌が確認できる辺りになった時、小さな音がした。
 最初は、銀の鈴が鳴ったような、ささやかな音だった。それはあっという間に色彩を増し、上質な織物のように絡み合い、物語を作る。今まで聞いたことのないような美しい歌声に、意識を手放してしまいそうになる。
 そして、船がゆっくりと反転し始めた。
「皆さーん! 惑わされないでください! 歌を聞いちゃ駄目です!」
 耳栓越しに聞こえてくる歌声でも、かなり強い力があるようだ。柴も、もう諦めて帰りたいという思いと戦いながら、必死で声を張り上げる。しかし、多くの船員が誘惑に負け、船を動かそうとする。
 その時、柴の視界に、紐でくくられ、積まれている丸い樽が入った。考えるよりも先に、体が動いていた。
「ごめんなさい!」
 柴の放った二本のウォレットチェーンが、的確に紐を切断する。樽は自由を取り戻し、どすん、と鈍い音を響かせると、思い思いの方向に転がり始めた。樽の音に驚き、またはぶつかり、惚けたような目をしていた船員たちが我に返ると、船の方向がまた変わる。
「僕、セイレーンさんのところに行く」
 大騒ぎになっている船と、セイレーンのいる方向を見て、マグロは強い意志をこめた声で言う。
「言葉は通じないかもしれないけど、やってみなきゃ分からないよ。やってから違う策を考えたっていいはずだもん」
「そうだな」
 次郎はそれを聞き、穏やかに頷いた。
 そう。やってみなければ分からない。ならば、やってみればいい。己の信じるがままに行動し、納得できる結果をつかめればいい。反対する理由などなかった。
「きっと、セイレーンさんに、気持ちは届きますよ!」
「船のことは、私たちに任せてください」
 リニアと柴も、そう言って笑顔を見せる。
 マグロは力強く頷くと、走り、海へと飛び込んだ。
 海水が、肌を優しく撫でる。マグロにとっては、馴染んだ感覚だ。
 岩はすぐに見えて来た。顔を上げ、光の方へと向かう。
「こんにちは」
 マグロが岩の上にあがり、声をかけると、セイレーンは歌をやめ、ぴくりと体を震わせ、少し後ずさった。しかし、攻撃をしてくる様子はなく、不思議そうに瞳をくるくると動かしながら、マグロを見ている。彼女の容貌を見て、興味を持ったのかもしれない。
「僕は君に、何もしないよ。ほら、武器だって持ってないし」
 マグロは、そういって大きく両手を広げてみせる。トラベルギアは、パスホルダーにしまってある。
 視線を下に向けると、鳥はうずくまったままで動かない。周辺には、小さな魚が何匹も散らばっていたが、食べられた形跡はなかった。
「セイレーンさーん! 困ったことがあるなら、あたし、手伝いますから!」
「鳥のことは、私たちで何とかします!」
 いつの間にか近づいてきていた船から、リニアと柴が大声で呼びかける。次郎も、こちらを静かに見ていた。
「分かる? みんないい人たちなんだ。君の大切な鳥を傷つけたりしないよ。ちゃんと守るから。約束する」
 セイレーンは、円らな黒い瞳を不安げに瞬かせ、マグロを見た。そして、船の方に視線を向け、またマグロの目を見る。
 しばらく、沈黙があたりを包んだ。波の音が、さわさわと響く。
 やがて、セイレーンは一歩後ろに下がると、海へと飛び込んだ。水がはねた音が空に響き、波の音に紛れて消える。
 マグロは、小さくため息をつく。そして、船の方を振り返ると、仲間たちを見て、にっこりと微笑んだ。

 セイレーンが去った後、船が岩の近くに寄せられ、レイシェルが慌てた様子で岩の上にのぼる。視線は、うずくまっている鳥に注がれていた。
「……やっぱり、ホウホウだ。間違いない」
 レイシェルはそう言うと、小さく体を震わせ、唾を飲み込む。
「ホウホウ?」
 次郎が問いかけると、レイシェルは何度も小さく頷く。
「俺も……本でしか見たことがない。昔はたくさんいたらしいんだが、乱獲されてしまって、今では姿を見られることが、ほとんどなくなった」
 レイシェルは少し落ち着きを取り戻したのか、説明を始める。
 ホウホウは、その美しい羽や、鈍い動きから、狩りの対象とされることも多かった。特にメスは、卵を温める間、全く巣から動かなくなるため、珍味とされる卵とともに狙われやすかった。
「もしかしたら……仲間だと思ったんでしょうか? セイレーンさんも足は鳥さんだし」
 リニアがそう呟く。マグロも口を開いた。
「淋しかったのかも」
 理由はわからなかったが、誰でも、ひとりでいることは淋しいことだと思う。
「でも、もしかしたら、これがきっかけで、仲間を探しに行ったかもしれません」
 柴はそう言うと、遠くの方を見た。セイレーンの姿は、もうどこにもない。
「はい! 見つかるといいですね!」
「きっと見つかるよ!」
 リニアが明るい声で言うと、マグロも力強く頷く。
「そうだな。探すなら、きっと見つかるだろう」
 次郎もそう言うと、水平線を眺めた。
 自分ももしかしたら、何かを探しているのかもしれない。そしてそれは、簡単に見つかるようなものではないのかもしれない。
 誰もが多かれ少なかれ、そういうものを持っているのだろう。
 そしてどんな時も、可能性はゼロではない。

 その後、リシャヤに到着すると、レイシェルが町の皆に、セイレーンがいなくなり、もう自由に行き来できるようになったことを伝えた。
 ホウホウは衰弱はしていたものの、命には別状はなかった。レイシェルが保護し、専門家の助けを得て、育てていくとのことだった。

「あたしは、先に海に行ってますね~!」
 水着のように見える防水装備に変え、リニアは大はしゃぎで手を振り、海に向かった。
「うん、後で行くね!」
 マグロも彼女に手を振ると、煙管を吹かしている柴のもとへと向かう。
「あれ? 次郎さんは?」
 柴はそう問われ、海の方を見る。
「釣りに行くって言ってました」
「そうなんだ」
 一緒でないことを、マグロは少し残念に思ったが、それは仕方がない。
「それじゃ、行こう!」
「はい。楽しみですね」
 柴とマグロは、レイシェルに教えてもらった、リシャヤで一番美味しいというレストランへと向かった。

「美味しい~! こんなに美味しい貝があったなんてね~!」
「うん。流石特産品と言われるだけあって美味しいですね。この濃厚でいて、しつこくない味……たまりません」
 マグロと柴の二人は、リシャヤ特産のスリア貝に舌鼓を打つ。
 レイシェルが報酬を弾んでくれたので、気持ちが大きくなり、二人はいろいろな料理を、次々と注文していた。
 テーブルにはスープや塩焼き、バター蒸しにサラダ、パエリアなど、所狭しと料理が並んでいる。
「セイレーンさん、今頃どうしてるかなぁ」
 マグロはそう言って、テラスから外の景色を見る。このレストランにはテラス席があり、味だけではなく、眺めも良かった。
「案外、もう仲間と会ってるかもしれませんね。次郎さんが言うように、探せば見つかるものなのかもしれない」
「そうだね。そうだといいな」
 柴の言葉に、マグロは笑顔を見せ、サラダをまた一口食べた。

「気持ちいいな~」
 リニアは海に体を浮かべ、伸びをする。空を飛ぶことも楽しいが、水に浮かぶ感覚も、また違った楽しさがある。
 マグロを待っている間にも、リニアはひとりで泳いだり、魚を追いかけたりして遊んだ。
「海のあるところに住むのもいいな~。泳ぐのって楽しい」
 しばらくそうして遊んでいると、突然、目の前に、にゅっと見知った顔が現れる。
 マグロだった。
「おまたせ! 一緒にあそぼう!」
 そうして二人は、日が暮れるまで遊んだ。

「釣れますか?」
 後ろからかかった声に、次郎はゆっくりと振り向く。そこには、柴の姿があった。
「ああ、まあ……そこそこだな」
 傍らに置いたバケツには、数匹の魚が泳いでいる。
「これ、どうぞ。すごく美味しかったですよ」
 柴が差し出したのは、小さな木製の弁当箱だった。蓋を開けてみると、中には色々な料理が詰まっている。
「ありがとう」
 とても愛想を良くしていたとは言えないが、それでもこうやって気を遣ってもらえることは、ありがたいと、次郎は思う。
「君も、してみるかい?」
 そう言って次郎が手に持った竿を示すと、柴は笑顔を見せる。
「はい。やってみます」
 次郎は海から少し離れると、煙草に火をつける。煙を吸い込むと、落ち着くような感覚が体に広がった。
 しばらく煙草を吸ってから、柴にもらった料理を食べてみた。とても旨いと思った。海の命に満ちた味だ。
 顔を上げると、海の彼方に沈む、夕日が見える。その色を見て、セイレーンはホウホウのことを思い出すだろうか。
 それは、誰にも分からなかった。

クリエイターコメント こんにちは。鴇家楽士です。
お待たせ致しました。ノベルをお届けします。

皆さんが温かいプレイングを書いてくださったので、一番良い結果となったと思います。
ありがとうございました。

あとは、少しでも楽しんでいただけることを祈ります。
今回はご参加いただき、ありがとうございました!
またご縁がありましたら、宜しくお願いします。

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螺旋特急ロストレイル

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