オープニング


「皆初めまして!世界図書館へようこそ、あたしは深山・撫子ってゆーの。よろしくねー?」
 そう言って陽気な笑顔で旅人たちを迎えたのは世界司書である撫子だ。パラパラと『導きの書』を捲りながら集まった旅人達にモフトピアへの楽しいお誘いを持ち掛けた。

 モフトピア、そこは無数の浮き島が存在する世界。住んでいるのはアニモフと呼ばれるぬいぐるみのような生物たちで、姿形は様々だ。一番最初に目にするアニモフは駅のそばに住む、もふもふっと触りたくなるような熊型だと告げる。旅人たちがその姿を想像して顔が緩んだのを見て頷くように笑うと、撫子が本題へと話を進めた。
 アニモフの歓迎を受けたあとはその場所を離れ、雲と虹の橋を渡ると少し開けた場所の浮き島に辿り着く。直径にして2キロ程のその島には羊の姿をしたアニモフたちがいて、旅人たちを歓迎してくれるだろう。
「それでね、その浮き島には色んなスイーツが生る木や紅茶にコーヒー、オレンジジュースが湧き出る泉があるんだって!たまんないよねー」
 具体的にスイーツの例を挙げるならばと、うっとりとした表情を浮かべながら撫子が話を続ける。聞く方がもう止めてくれと思うほどの多彩なラインナップに旅人たちがごくりと喉を鳴らす、なんともお腹の空く話だ。
「でもね、そのスイーツたちを食べる為にはその島に住むアニモフちゃんたちと全力で遊ばないとなんだよねー」
 羊のアニモフたちと遊べる上に、その後はスイーツ食べ放題だなんて……それって願ったり叶ったりじゃないのか!?と旅人たちの手に力が入る。
「アニモフちゃんたちが遊びたがるのはね、一つは追いかけっこね!ビスケットでできた柵を器用に飛び越えて逃げるから結構大変かもしれないわよー。捕まえれたらそのままもふもふってしちゃってもいいと思うよ、アニモフちゃんたちも撫でられるのは好きみたいだから。二つ目は玉入れね、低めの木に生ってるキャンディを籠に入れる勝負よー。皆とアニモフちゃんたちの籠の高さは違うと思うけどね?」
 想像するだけでわくわく、そしてドキドキするような話。ちょっと不思議な世界で羽をのばすのはいかがだろうか?

 撫子がするりと六枚のチケットを出してウィンクをひとつ、目一杯楽しんできてねと笑った。

管理番号 b27
担当ライター 加持 蜜子
ライターコメント 初めまして、今作からお世話になります加持 蜜子(かじ みつこ)と申します。
マイペースではありますが皆様の冒険に彩りを添えれたらと思っております。

シナリオ傾向は今回のようなほのぼの、心情系等を主に取り扱っていくかと思います。
プレイングはキャラ口調であれば助かりますが、そうでなくても大丈夫です。
頂いた台詞や心情の他に、お預かりさせて頂いたPCさんの雰囲気を壊さない様喋らせる事もあるかと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

さて、今回の依頼はOPにもありますようにモフトピアへのご案内です。
基本的にスイーツであれば大抵の物はあると思って下さい。
食べたいスイーツがあればプレイングにてご指定頂けると嬉しいです。
逆に、軽食等はないと思いますので何か飲食物を持ち込んで皆様で楽しんで頂いても構いません(アルコール類は禁止とさせて頂きます)

スイーツを皆さんで楽しんで頂くには、羊型のアニモフ達と遊んで頂く事になります。
勝敗に拘って下さっても、純粋にただアニモフたちと遊びたい!というお気持ちでも構いません。
どうぞ思うように楽しんでくだされば幸いです。

それではどうぞ、楽しいひと時をお過ごし下さいませ!

参加者一覧
カナリア・ノクトレス(cabe6613)
リン・バッファー(ctfy7988)
業塵(ctna3382)
瀬島 桐(carn2737)
バーバラ・さち子(cnvp8543)
エレニア・アンデルセン(chmr3870)

ノベル



 夢のような世界だと誰かが言った。その言葉に初めてモフトピアを訪れたロストナンバー達が一斉に頷く。
 風は柔らかく、日差しは暖かい。何よりも見渡す限りに存在する多数の浮島は今まで目にした事のない風景だ。島と島の間には雲や虹の架け橋が架かっており神秘さに拍車を掛けていた。
 景色に目を奪われながらも、駅のホームから島へと移動する。
「いらっしゃい、ようこそモフトピアへ!」
 そう声を掛けてきたのは熊型のアニモフで、またその可愛らしさに目を奪われるのであった。
「ヤベェ、まじ可愛いなにもーこれ。もちこ、可愛さ的に負けてるぞ」
 自分のセクタンであるもちこを突付いて瀬島桐がそう言うと、もちこの表情が一瞬怒った様な感じになったので慌てて嘘だと桐が宥めると、皆可愛らしいとバーバラ・さち子がアニモフに負けない位の笑顔で笑う。
 可愛い…との言葉にそっと業塵を見たのはリン・バッファーだけではないだろう。その視線を感じたのか、怖がらせないようにと業塵が精一杯笑みを浮かべるのを見て、エレニア・アンデルセンがその手に持ったややブサイクなウサギのパペットを器用に動かしながら少年の様な声音で『皆可愛いよ!』とバーバラの言葉を真似た。
「うん、うん、可愛いよ…!見るもの全てが可愛いっ!」
 力強く頷きながらカナリア・ノクトレスがうっとりとした表情を浮かべている。彼女の目にはもふもふと動き回るアニモフがしっかりと映っていて、放っておけばそのままアニモフについて行ってしまいそうなくらいだ。
「今日はどちらにいくんですかー?」
 もふん、と首を傾げてクマ型アニモフが問い掛ける。
「羊型のアニモフがいるって聞いたんだ、今日はそこに行くんだヨ!」
 リンが燕尾服の裾を揺らして跳ねるように答えると、アニモフがもこもことしたその腕を伸ばしてある方角を指差した。
「それじゃあ、あの浮き島だと思います!あのケーキみたいな形の浮き島ですよ」
 アニモフが指差す先を見ると、確かにホールケーキの様な形をした浮き島が見える。遠目から見てもなんだか本当に苺が乗っかったケーキのような島で、桐が思わず手にした携帯電話で写真を撮る。
「さぁさ、それじゃ向かうとしましょうかしらね」
いつまでもここに居てはスイーツは得られないし、羊型のアニモフにも会えないしねとバーバラが重そうな鞄をよいしょと持ち直す。業塵がよければ持とうかと申し出たけれど、バーバラのトラベルギアだと聞いて手を出すのを止める。その代わり、そっと横に付いてバーバラがこけないようにとゆっくりと歩き出した。
「トレインウォーぶりだね、桐嬢」
「だねー、元気してたー?しかしここの世界とスゲェ雰囲気似合うね!」
 カナリアと桐はトレインウォーでの戦いを思い出すように喋りながら歩調を合わせ、大変だったよねと話に花を咲かせる。途中、虹の橋を渡る時に本当に渡れるのかと桐が躊躇ったけれど、カナリアがその手を引いて二人で渡った。
 リンはエレニアのウサギのパペットが気になるのか横に付いて、時にエレニアのパペットによる腹話術に目を輝かせながら改めて全員が自己紹介を交えつつ目的地である浮き島を目指した。
 羊型アニモフと、絶品スイーツまではもう少しだ。


 雲と虹の架け橋を越え、ホールケーキ型の浮き島を目の前にしたロストナンバーたちは遠目ではわからなかった島の様子に改めて目を輝かせていた。
 その浮き島の地面はほんのり柔らかく、歩く分には負担が掛からないしこけても痛くなさそうな本当にケーキのスポンジの様な感じだったし、木々には本物のケーキが生っていたからだ。
「世界司書に聞いた時はどのように食べ物が樹に生っているのかと思ったが…」
「なんか丸い風船みたいのに入って生ってるんだネ!」
業塵の言葉を受けて、リンが答える。
「ゲーセンにあるプライズみたいだね」
 唯一、壱番世界出身であるコンダクターの桐が的確な表現をして笑う。その後、ゲーセンとはなんだと業塵や他の仲間に質問攻めにされたけれども。
 わいわいと騒いでいると、樹の陰からひょこりと白い影が幾つか覗く。その影に素早く反応したのはカナリアだ。真っ白な雪にフロストブルーが滲んだような髪を煌かせ、じーっとその影が出てくるのを待つ。そしてひょこりと姿を現したのは……。
「こんにちは!」
「いらっしゃい、ぼくたちの島へ!」
 羊型の可愛らしいアニモフ達が、島を訪れた六人を歓迎するように取り囲む。白いもこもこなアニモフが、きゃっきゃと跳ねる様子に知らぬ内に六人の口元が綻んだ。特に頬が緩みニコニコを通り越してデレデレといった風になっているのは今日という日を楽しみにして眠れなかった程、羊が大好きだというカナリア。
「カナリアちゃん、羊が大好きなんだネ、でもボクもその気持ちすっごくわかるヨ!早くもふもふしたいな、ああでも甘い匂いも堪らないんだよネ…!」
「そうね、これだけスイーツがあれば漂ってくる香りだけでお腹が空いてしまうわね」
 スーツケースを横に置き、バーバラがうーんとその小さなコロコロとした体を伸ばす。エレニアがパペットの口を動かしながら、うんうんと頷いた。
「しかしこのすいーつとやらを食べるには、まずアニモフ達と遊ぶのだろう?」
 心の中で怖がらせない……絶対に怖がらせないぞ、と唱えていた業塵が世界司書から聞いた言葉を思い出して呟く。キラキラと目を輝かせて頷くカナリアに、桐がスカート丈が少し……いやかなり短い制服の袖を捲くって臨戦態勢を見せる。
 その姿を見た羊型アニモフ達が、嬉しそうにきゃーと跳ねてロストナンバー達を見上げて口を開いた。
「それじゃあ、ぼくたちと遊んでください!」
「遊んで、遊んで!いーっぱい遊ぼうー!」
 ねーー!とアニモフ達が顔を見合わせて、もう一度ロストナンバー達を見上げて笑う。その笑顔に応えるように全員が笑い返した。
 さぁ、楽しいもっふもふな一日の始まりだ。


「最初は追いかけっこなんだよー」
「追いかけっこ!追いかけっこ!」
「僕らをつかまえられたら、おねーちゃんたちの勝ちなんだよ!」
 アニモフ達にルールと説明を受ける、要約するとこうだ。
 逃げるのは目印として尻尾に赤いリボンを付けたアニモフ達で、追いかけるのが自分達。アニモフ達が逃げたら十秒数え、それから追いかける事。シンプルでわかり易いルールに全員が頷くとアニモフ達がぴょんっと跳ねた。
「それじゃー、いくよー」
「がんばって、にげるぞー」
「よーい、どーん!」
 よーいどん、の合図でアニモフ達が駆け出す。柔らかい地面を蹴り、島の中央へと走って行く。ロストナンバー達もその合図から声を出して十秒を数えた。
「……はーち、きゅーう、じゅーう!!」
 リンが一際大きな声で、十秒の終わりを告げる。
「さー追い掛けるよ!桐さんはこれでも代表でリレー出た事あんだからね、小学校の時だけどー」
 全力で捕まえると桐が駆け出すと、後に続くように全員が駆け出した。
 アニモフが逃げた方向へ少し走ると、そこは柵で囲まれた小さめの広場が幾つか集まった様な場所で、追いかけっこに参加していないアニモフ達が応援するかのように邪魔にならない場所で手を振っていた。
「もふもふさんたちが一杯です…!」
 カナリアが恋する乙女のような瞳で辺りを見回す。どこを向いても羊型のアニモフが見えて胸の高鳴りも最高潮だ。
「よーっし、ボクはあのアニモフちゃんに決めたヨ!ぜーったい捕まえてモフモフしてやるんだからネ!」
 尻尾がぴょこんと動いてリボンが揺れたアニモフを標的にしたリンが持ち前の集中力を発揮する。器用に逃げるアニモフを追い掛けて柵をぴょんぴょんと飛び越えるその姿はまるでウサギの様だ。
 手にしたパペットを動かし、それによって興味を惹きながら追い掛けるのはエレニア。自分の地声ではアニモフ達が魅了されて追いかけっこにならないだろうと腹話術を使いながら、アニモフへと話掛ける。
『まてまてー、必ず捕まえてみせるんだからね』
 その後に、小さく「もふもふしてみせます」と聞こえたのは気のせいではないはず。
「中々にすばしっこいな、これは気合を入れねば」
 直垂姿では追いかけっこに不利かと思われた業塵だったが、昔に子供たちと遊んだ経験からか中々いい勝負をしているようだ。飛行してしまえば早いだろうか、とも考えたけれど昔遊んだ童にずるすんな、と怒られた事を思い出して自重していた。何より、自分の足で追い掛けるのが楽しかったしこれでいいと業塵がアニモフ達を追い掛ける。
「あらあら、皆早いのね」
 大きな旅行鞄をよいしょ、と地面に置いて改めてアニモフ達を追い掛けるのはバーバラだ。まだ誰も捕まえれていないのを見て自分も頑張らなくっちゃと走り出す。
「こっちー、こっちだよー!」
 ぴょんぴょんと跳ねるアニモフに誘われて、追い掛ける。コロコロとふくよかな彼女がアニモフを追い掛ける姿はまた可愛らしくて違うアニモフを追い掛ける仲間が思わず笑みを浮かべる程だ。
 ぴょーんと柵を越えたアニモフをバーバラが追いかけ、華麗にスカートの裾を捲くって飛び越えようとしたその瞬間、カクンと足を引っ掛けて転んでしまう。
「あらあら、転んじゃったわね」
 転んでしまってもどこか楽しそうなバーバラの声に駆け寄った仲間もほっと胸を撫で下ろす。怪我は無いかと桐が覗き込んだその横から、尻尾にリボンを付けたアニモフ達もいつの間にか駆け寄って覗き込む。
「おばちゃん、だいじょうぶ?痛くない?」
「いたくない?いたくない?」
 こっちだよ、と自分を誘ったアニモフが心配そうに聞くのに微笑んで、バーバラが腕を伸ばして抱き締める。
「大丈夫よ、なーんにも痛い事なんてなかったもの。アニモフちゃんは優しいのね」
 そのままモフモフと撫でれば、きゃあきゃあと喜んでアニモフが笑う。
「あれー、これってもしかしてー」
「アニモフちゃん、バーバラさんが捕まえた?」
 桐の問い掛けに、バーバラがもふもふする姿を羨ましそうに見つめながらカナリアが答えた。
 結果として一番に捕まえたのはバーバラで、チャンスとばかりにカナリアがそばに居たアニモフをもふんと撫でる。それが合図だったかのように、全員がそばに居たアニモフ達を撫でたり抱き締めたりし始めた。
「わぁい、捕まったー!」
「きゃーい、つかまったよー、つかまったよー」
「えへへ、捕まっちゃったね、捕まっちゃったね」
 捕まった、と言うよりは捕まえられに来たようなものではあったけれど、アニモフ達は満足そうだったしアニモフ達を撫でたりもふもふしているロストナンバー達もとても幸せそうだったから問題は一つもない。
「もーふーもっふー、ああ本当にもふもふですっ」
「ぎゃーナニコレ超モッフモフなんですケド!」
 カナリアとリンがそのもふもふ感を語り合い、桐はこんなぬいぐるみがあったら買っちゃうかもと呟く。業塵は初めての手触りに無表情ながらも大喜びで撫でている。エレニアも控えめながらもパペットを動かしつつ、もう片方の手でアニモフを撫でていた。
 そのままずうっともふもふしていたいくらいだったけれど、次の勝負と立ち上がる。カナリアが名残惜しそうにアニモフを放すと、ぴょんっと立ち上がったアニモフが中央の樹を指差した。
「今度はね、あっちで遊ぶんだよー」
「あっちでね、キャンディー入れなの!」
「キャンディー、美味しいんだよ」
 アニモフ達がぐいぐいと六人の手を引っ張りながら移動する。案内されたその場所は、島の中心に生えている大きな樹の下だ。樹の枝にはアニモフが一人ほど乗れるような籠が高さを変えて二つ吊るされている。大きさで言えば少し大きめの一人掛けの椅子くらいだろうか。
「この籠にね、キャンディーをいっぱい入れるの!一杯になったら籠が降りてくるから、先に降りた方が勝ちなんだよ!」
「いっぱいだよ、いーっぱい!」
「ここのね、樹に生ってるキャンディーを入れるんだよっ」
 口々に説明するアニモフ達が可愛くて、やっぱり口元が緩んでしまうけれどアニモフ達へ桐が確認する。
「この樹に生ってるキャンディーを籠にいっぱいにすればいいんだよねー?」
 高さの違う籠、多分だけれど自分の背よりも高い方が自分達だろうとそちらを指すとアニモフが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。この羊の様な手でどうやってキャンディを入れるんだろうと思ったけれど、勝負の最中に見ればいいやと桐がアニモフ達へ頷いた。
「それじゃ、勝負開始なんだよ!」
「よーい、すたーと!!」
 尻尾にリボンを付けたアニモフ達がわきゃわきゃとキャンディの生る樹へと向かう。負けちゃいられないとロストナンバー達もキャンディを摘みに掛かった。
 樹に生っているキャンディーは不思議な事に透明な包み紙に包まれていて、棒付きだったりと多彩だ。光を受けてキラキラと煌くキャンディはまるで宝石のようで目にも楽しい。何よりも、とても美味しそうでついひとつ口に入れたくなる程だ。
 食べたいという衝動をなんとか抑えながら、両手一杯に掴んだキャンディーを籠へと投げ入れる。手が大きい分、自分達の方が有利かとも思えたけれど、意外に地面に落としてしまってアニモフ達といい勝負を繰り広げていた。
「気になる、どうやって入れてるのかちょー気になる!」
 桐がふっと玉入れならぬキャンディー入れの手を止めてアニモフ達を凝視する。よく見れば小さいその手をお皿の様にしてキャンディーを籠へと投げ入れていた。籠の高さがアニモフの肩くらいなのでちょっと背伸びをして入れている姿がまた愛らしい。
「可愛い…っあぁぁ触りたい、撫でたいです…っ!」
 感極まったようにカナリアがぷるぷると震えながらキャンディーを掴んだまま拳を握る。その様子に気が付いたリンがアニモフへと視線を向けるとその可愛らしさに動きが止まった。ヤベェ、可愛い、モフりたい!と騒ぐのもまた楽しくてたまらない。
 その横ではコントロールが上手くできないバーバラが業塵の口にめがけてキャンディを投げ入れては謝っていた。業塵からすれば渡りに船、どうやってつまみ食いしようかと思っていたところで、謝るバーバラに気にするなと声を掛けながら満足そうな笑みを浮かべて籠へキャンディーを投げ入れる。
 ほんの少しだけしょんぼりとしてしまったバーバラを慰めるのは可愛い少年のような声。
『大丈夫、僕と一緒にキャンディーを入れようよ』
 バーバラの俯いた顔の横でウサギのパペット、エレクを動かすエレニアだ。その声と動きに励まされ、少しでもキャンディーを籠に入れようとバーバラが張り切った。
 麗らかな日差しの下、先に籠を落としたのは……。
「やったぁ!」
「やったね、やったね!」
「僕たちの勝ちー!!」
 どさりと音がして、きゃあきゃあと歓声を上げたのはアニモフ達。ぴょんぴょん跳ねて全身で喜びを表現する姿に悔しさなんて一つもこみ上げず、ただ微笑ましい気持ちになったのはカナリアだけではない筈だ。
 一勝一敗、引き分けで終わった勝負に全員が満足して笑いあう。
「あー、たっくさん遊んだネ!ボクお腹空いちゃったヨー!」
「あたしもー、ヤベェくらいお腹空いてんだけど」
「ふむ、儂も腹が減ってきたな……」
 くきゅるるぅ、とお腹の鳴る音が聞こえて、ふっと振り向けばバーバラが照れ笑いをしてお腹を押さえる。
「僕たちもー!お腹減ったね、減ったねー!」
「一緒にたべよ、おいしいの、たべよー!」
 キャンディー入れをした樹の向こう側へとアニモフ達が手招きをする。美味しい時間はすぐそこだ。


 大きな樹の向こう側には、世界司書に聞いていた飲み物が湧き出る泉があった。それは小さなプールくらいの大きさでこぽこぽと小気味のいい音を立ててロストナンバー達を歓迎してくれる。
 バーバラが大きな鞄からよいしょと大きな敷物を出して地面へと敷くと、エレニアがそっと重しになるような石を四隅に置いた。
 他にもフォークやお皿、コップなんかも次々と鞄から取り出して皆から賞賛の声が上がるとバーバラがはにかんだ様に微笑んで、これで準備は万端よと笑う。食べる準備は万端、後は好きなスイーツを思う存分食べるだけ!しかも隣には一緒に遊んだアニモフ達、それに仲間がいるのだから楽しくない訳がない。
「ボク超でっかいパフェ食べる!イチゴとチョコとバナナと白玉とウエハースとメロンとさくらんぼ乗ってるやつネ!」
「私はティラミスが食べたいかな、何処にあるかな」
「あたしー、あたしはガトーショコラにチーズケーキ!」
 そわそわと立ち上がったリン、桐、カナリアに続き、業塵とエレニアも立ち上がる。バーバラは待っているからお勧めのスイーツをお願いねと皆に頼む。
 アニモフ達の案内もあり、樹の何処に何があるかを教えてもらいながらお目当てのスイーツを探す。バルーンの中にふわりと浮いた状態になっているお目当てのケーキを持てるだけもいでいく。
「ああー!ボクのパフェがあんな上にあるヨ……!」
 ぐっと悔しそうな顔をして上を見上げるリンに、どれだと声を掛けたのは業塵だ。あれだと目を向けて指すとわかったと短く答えた業塵がふわりと浮き上がり、リンのお目当てのスイーツを事も無げにもぎとるとリンの腕へと落としてやる。
「うわあー、ありがとう業塵さん!嬉しい、ほんとにありがとネ!」
「あー、あたしもあたしも!あの上んとこのガトーショコラ取って欲しい!クリームがたっぷり乗ってる奴!」
 頼られるのが嬉しくて、業塵の飛ぶ姿はどこかご機嫌だ。カナリアとエレニアもお目当てのスイーツを両手に持って、バーバラの分もとアニモフ達も運ぶお手伝いをしてくれた。
 沢山のスイーツを持って戻ると、バーバラと一緒に待っていたアニモフ達が泉から飲み物を汲んでいてくれて、いよいよお待ちかねのスイーツタイムだ。
 バルーンの口を開くと、中からは出来立てのスイーツの香りがしてゴクリと喉がなる。
「もー我慢できない!いただきまーす!」
「ボクも!いただきマス!」
 口々にいただきますと叫ぶように言うと、アニモフ達も真似をしていただきますと声を揃えた。その様子を可愛らしいとニマニマしながらカナリアがティラミスを口に運ぶと、今度はその美味しさに頬が緩む。
「これは旨い……!この蕩けるような感覚がまた堪らんな」
 初めてスイーツを食べる業塵が感嘆の声を上げる。自分の居た世界ではお目に掛かれない食べ物に食が進む。業塵の鼻の先に生クリームが付いているのをバーバラが拭いて、これも美味しいわよと勧めた。
「あーもう何ほんとココ幸せ過ぎ!カロリーとか今は気にしない気にしない、しないんだからねー!」
 スイーツのカロリーが気になるのは乙女心だけれど、今だけは気にしないとばかりに桐がエレニアの食べているスイーツは何だと問い掛ける。
『これはアップルパイだよ!シナモンが効いてて美味しいよ』
 パペットを使いながら、桐への問いに答えるエレニアはとても満足そうだ。
 ペロリと大きなパフェを食べ終わったリンも、次のスイーツは何がいいだろうかと目を走らせた。バーバラの食べている苺の乗ったショートケーキもいいし、業塵が食べている紅茶のシフォンケーキもいいしとあれこれ呟いている。
 そばにはアニモフ、沢山のスイーツ、そして何よりも皆の笑顔。楽しいスイーツタイムは陽が落ちるまで続くだろう、そしてやがて旅の終わりを迎えて岐路に就くのだ。

 甘い匂いと優しい気持ち、暖かな思い出を胸にして。

クリエイターコメント 改めまして、加持蜜子と申します。
今回はもふもふスイーツ奮闘記にご参加ありがとうございました!
とても楽しく執筆させて頂きました。
最終的には文字数との戦いになり、上手く収まるかハラハラしましたがなんとかなったように思います……!
ご好意に甘えさせて頂き、こちらで動かさせてもらった部分も多数あるかと思います。
思うところもあるかと存じますが、楽しんで頂ければ幸いです。

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螺旋特急ロストレイル

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