オープニング


「北海道遠征お疲れー。どんな感じだったの?」
 世界図書館にやってきたロストナンバー達に声をかけたのは世界司書の1人、エミリエ・ミイ。まだレポートを見ていないのかそれだけでは物足りないのか、参加したロストナンバーからの話も聞きたいらしい。
「――と、ゆっくり話を聞きたいところだけれど」
 ロストナンバーのみんなに頼みたいことが色々あるんだよねーと、エミリエは何カ所かにチケットを挟んである導きの書の、その中の1つのページを開いたのだった。

「あのね、モフトピアのトナくま――トナカイ頭の熊型アニモフのことなんだけれど、トナくま達が住んでいる浮島に『くますすり・ぷとれぜん』って風習があるんだって」
 名前だけでは何だか分からないような、壱番世界に似たような名前の風習があったような。ついでにそれって時期的にそろそろだったような。
「なんか聞いたことあるような無いような風習だよね。で、みんなに実際に体験してきてほしいんだ」
 それはエミリエも感じていたらしく、時期も似てるよねーとか言いながら説明を続けた。
「どんな風習なのかだけれど……トナくまの島ってキノコが沢山採れるんだよね。普段も集落の近くのを取って食べているみたいなんだけれど、森の奥の巨大キノコ『どん茸』が外から見えるくらいに育ったらみんなで森の奥までキノコ狩りに行くみたいなの」
 それがちょうど1年周期でこの時期なんだから、偶然ってあるよねーなんて話も交えてみたり。
「で、みんなが籠一杯にキノコを採ったら最後にどん茸を採って御神輿みたいに担いで帰るの。採ってきたキノコは大体が食料になるんだけれど、奥で沢山採れる赤茸と黒茸だけは胞子を取り除いた後に雲に乗せて流すんだって。トナくま達にはこっちの方が大事みたい」
 ちなみになんでその2種類だけなのかは不明らしい。
「取った胞子は次の日にもう1回森の奥まで行って蒔いてくるんだって。今図書館で分かっているのはこれくらいかなー」
 そこまで話すとエミリエは導きの書をぱたんと閉じて、にっこりと微笑んでこう言った。
「一応調査依頼ってことになっているけれど、実際にはトナくまとキノコ狩り楽しんでおいでツアーみたいなものだから難しく考えなくて大丈夫だよ。モフトピアだから危ないこととか起きないし、食べるな危険なキノコもないし」
 せっかくモフトピアに行くんだから楽しまないと損だしね、その方が楽しいお土産話が聞けそうだし、なんて声が聞こえてきそうな表情で。
「そうそう、森の真ん中あたりに『待つ茸』っていうとっても美味しいんだけどしばらく待つ以外に採る方法がないキノコがあるんだ。いつもそこで休憩がてらお昼食べているみたいだから、お弁当持っていってもいいかも。現地調達してもいいけれど、森の中だと調理は難しそうだし。夕食はキノコバーベキューをするみたいだから混ぜてもらうといいんじゃないかな」
 大体の説明を終えたエミリエは、最後に依頼内容をこうまとめたのだった。
「ということでトナくま島キノコ狩りツアー、参加者募集中だよー」

管理番号 b32
担当ライター 水華 月夜
ライターコメント ロストレイルでは初めまして。水華 月夜(みはな・つきよ)と申します。
今回はほのぼのコメディなノリでモフトピアへの旅をご案内させて頂きます。

ということで今回はキノコ狩りです。
壱番世界でおなじみのキノコはもちろん変わったキノコも沢山あるようです。
キノコを入れる籠は集落にあるので持って行かなくても問題ありません。
ちなみに籠もキノコ(籠茸)だったりします。
普通に採れる物が多いのですが、以下のキノコは少し特別です。

・少し茸類……一度に一部分しか採れません。
・私茸類……特定の一人称を扱う方しか採れません。
・待つ茸……待つだけで採れます。逆にそれ以外の方法では採れません。
・どん茸……すごく大きいです。某童話よろしく綱引き風に引っこ抜きます。

帰ってきたら雲流しをしてからバーベキューです。
胞子取り除き作業は傘の部分をぽふぽふします。
細かい胞子が舞いますのでくしゃみとかに気をつけて下さい。
バーベキューで出されるキノコは種類豊富で、肉味や魚味などあらゆる味のキノコが用意されているみたいです。
翌日の胞子蒔きはかなり朝早いのでうっかり寝坊すると参加できないかもしれません。

さて、突然ですが皆様は赤と黒、どちらがお好みでしょうか。
トナくま達から記念に赤茸か黒茸に関係する何かを貰えるようですので、もし文字数に余裕があれば希望する方を書いておいて下さい。
これは必須ではありません(無ければこちらで適当に選びます)。


それでは皆様のご参加、お待ちしております。

参加者一覧
相沢 優(ctcn6216)
鷹月 司(chcs4696)
ソロジア(cxyn6250)
佐川 疾風(ceht3522)
太助(carx3883)
ウィリー・バケット(chhn6150)

ノベル


~レッツゴー茸狩り~


 状況を整理していたら、いつの間にかモフトピアに着いていた。
 いきなり何かと思われるかもなのだが、そんな人が居るのだ、1人。
(あれ、確か僕はエミリエさんに北海道遠征の報告をするつもりで、いつの間にか依頼の話をされていて、気が付いたらモフトピアに着いていて……)
 彼は佐川疾風。気付いたらモフトピアなんてあたり、単にとろいのかまだロストナンバー生活に慣れていないのか。セクタンがドングリのままなのは目的地的に結果オーライな気もするが。
(……まあ、受けたからには全力で仕事だね)
 ようやくそんな決意を固めたものの、既になんとなく気合いが空回りしそうな気配が。
 ちなみに考え事に気を取られて移動の雲に乗る時顔面ダイブになったのはここだけの話――公開レポートにここだけも何も無い気もするけれど。

 そんなわけでやってきました、モフトピアはトナくま島。
 誰かに見られていたのか、ロストナンバー達の到着は島人(?)総出で出迎えられた。
「今回はよろしく、一緒に楽しもう」
 相沢優が車中で同行者にしたようにトナくま達と挨拶をしている一方、太助は早速ノリノリで。
「よし! 茸捜索隊になりたい奴、この指とーまれ!」
 アニモフの遊び好きな性格に乗って茸捜索隊を結成、しようとしたのはいいのだが。
「――て、のわーっ」
 なにせ島人総出の茸狩り、となるとうっかり全トナくまが殺到しちゃったりするわけで。
「太助君にトナくまのみんなも、大丈夫かい?」
 鷹月司が濃縮もふもふゾーンに声をかけると、ちょっぴり苦しそうな太助の声や割とのんびりしたトナくまの声に混じって、いつの間に紛れ込んだのか司のセクタンであるは~りぃが飛び出してきた。ついでにその後ろでは驚いた疾風がトラベルギアを取り出していた。
 既に前途多難な気がしてきたソロジアは、でもまあ無理せず自分のペースで楽しむかと気を取り直して周りを見渡した。初めて依頼で来た異世界、やっぱり内心ワクワクなのだ。
 視界に入るのは茸型の家々に集団調理場。森に続く道に、奥に見えるはどん茸か。そして、島から周りを一望できる展望台。
(ふむ……)
 ソロジアは数瞬展望台を見つめた後、ようやく混乱が収まってきたトナくま達の方へと足を向けたのだった。

(いやはや、これはまた興味深い風習ですじゃな~)
 籠茸に迷子防止の何処茸(どこだっけ)と引っ張り茸(用途は後ほど)を渡され、隊長トナくま(任命は太助)を先頭に森へと分け入った茸捜索隊一行。ウィリー・バケットは内心そんなことを呟きながら目新しい茸を見つけては次々と採取していた。料理人としてはやはりこの世界独特の茸が気になるようで、籠茸の中は0世界では見かけない茸中心になっている。
 赤茸黒茸はもっと森の奥の方らしく、この辺りに生えているのは普段からよく食べられている種類。しめじやえのきから米茸肉茸調味茸類等々。
 ハイキング気分で歌いながら出発した司はは~りぃの気ままな行動を放任しつつ、採取の傍ら手帳にそれぞれの茸の特徴を記入して。写真ではなく手書きイラストなのはその時の気持ちも一緒に残しているからなのだろう。
 ウキウキ気分で籠一杯を目指す優は少しずつしか採れないこれ茸、それ茸、ちょっと茸等少し茸類を中心に採取して。
「あ、それ食べてみるといいよー」
 勧められるまま口にした少し茸はほんのり甘い味。チョコ味がする変種、ちょこっと茸だそうだ。
 ソロジアもまたトナくまにアドバイスを受けつつ、こちらはまんべんなくどの種類も採っていた。ただしミルク茸類は除いて。
 私茸類の群生地では私茸を採ろうとしたが、採れない。
「どうしてだ? わたしなら私茸は抜けるのではないのか?」
「あー、それは私茸だからー。ソロジアさんが抜けるのはわたし茸ー」
 文字にしないと分かりにくい違いだが、トナくま達曰く微妙なニュアンスの違いがあるらしい。
「隊長! あそこに!」
「おー、しーたけだー」
 太助は探検隊なノリで茸を見つけるたびに隊長に報告していた。今度は椎茸発見。
「こっちはえーたけー」
「えふたけみっけー」
 ――ではなくてC茸らしい。見た目はそっくりだが。
「名前にアルファベットがついているみたいですね」
「きっちり26種類ありそうだね」
 コンダクター(偶然にも今回は全員日本出身)の優と司がそんな会話をしていると、また新たな声が。
「Gしゃーぷ茸はっけーん」
「ああ、そっちなんだね」
 つまり音名。これは吹くと音が出る笛茸類なのだそうだ。
 ちなみにもう1人のコンダクターである疾風は、ファンタジックな世界に驚きっぱなしで茸狩りどころではなかったらしい。
「佐川さん、ついてこれていますか?」
 心配して声をかける優に、優しい眼差しを向ける司。絵的にも職業的にも、真面目な生徒と優しい教師にどじっこ教師な図が繰り広げられていた。




~待つ茸を待ちながら~


「お、松茸の群生地」
「おー、待つ茸広場だー」
 前者は優、後者はトナくまの発言である。実は待つ茸、取り方以外は松茸とほぼ同じらしい。
 採るためには待たないといけないのでここでランチタイムに。
 トナくま達が各々昼食を取り出す中、ロストナンバー達が取り出したのは名前が漢字な4人がおにぎり(持っている人はおかずも)で、ウィリーは手作りのお弁当。ソロジアはペットボトルの水……水?
 彼女は非常に喉が渇きやすいのでおそらくそのためだろうが、他に何も取り出さないあたり特に食料は持ってきていないようだ。ちょうど近くに生食可の好きな茸が生えていると聞き、昼食用に適当に採取して戻ってきた。
 で。みんなでわいわい食べていると他の人が食べているものが気になるわけで、となるとお弁当交換が始まるわけで。
 好きな茸がおにぎりに変わったり、司の唐揚げと優のたくあんが入れ替わったり、ウィリーのお弁当(他の人にもと多めに作ってきた)を食べたら頭に花が咲いて驚いたり、茸が生えて狩られそうになったり。
「お、こっちは酸っぱかったり辛かったりすっけど大丈夫か?」
「んー、私はちょっと」
「ぼくだいすきー」
 太助は朴葉に包んだ小さめの爆弾おにぎり(中身は梅干しorわさび漬け)とわかめ握りをトナくまにも振る舞っていた。
「んーっ、からうまー」
 今のは多分わさび漬け。爆弾だけに、爆裂される(つまり割る)まで具がどちらかは分からない。

 昼食も終わり、司とウィリーが料理談義をしたり太助がお昼寝したり疾風がショールを編んだりしている中で、トナくま達と食後の運動を兼ねて遊んでいた優は広場の一角に今までと違う茸が生えているのを見つけた。
「トナくまさん、アレは?」
「あー……あれは、1人用」
「1人用?」
「うん、貴方茸類は誰かが居るときに採るのは凄く恥ずかしいんだ」
 貴方茸類、それは採るときに熱い告白が必要な茸。採れるか試してみようとしていたソロジアもそれを聞いて手を止めた。

 そしてそろそろ1時間が経つ頃に。
 ――ポン、ポポン、ポン。
 そんな軽快な音を立てながら、待つ茸は次々と地面から跳ねるように抜けたのだった。




~どん茸御輿凱旋~


 待つ茸広場を抜けたら、いよいよ赤茸黒茸の生えている森の奥へ。ソロジアの提案により6チームに分かれて、どん茸採りにの前にはトラベラーズノートで連絡を取り合って合流することになった。
 というわけでロストナンバー達はしばらく別行動で茸狩りに勤しんだが、何故か威厳のある頭ヶ茸(ずがたけ)にみんなで頭を下げたくなったり駒ヶ茸等に日本出身の人が「山かよ」と内心突っ込むくらいで特に問題は起こらず、籠茸も一杯になってきたところでそろそろ集まろうとなった。
 巨大などん茸はどこからでもよく見えるのですぐに集まるかと思ったが、なかなか来ないチームが1つ。
「遅いな、佐川さん達」
「そういえばトラベラーズノートにも返事はないな……」
 優の心配に答えながら、ソロジアは再びノートを確認して1つの結論を導き出す。すなわち。
「ノートの確認を忘れているな」
 定時の状況報告はお互いに行っていたはずだが、疾風だけ途中から報告が抜けている。おそらく茸狩りに夢中になって忘れているのだろう。
「そんなときはこれだよー」
 話を聞いていたトナくまが取り出したのは何処茸。
「これねー、強い刺激を与えるとしばらく震えるんだー」
「ほう、そうじゃったのか」
 それは初耳とウィリーが取り出す。もちろんみんな初耳だ。
「携帯電話の振動機能みたいなものだね」
 司は納得しているものの、初耳ということは振動を想定せずに携帯していたわけで。
「んじゃいっくよー」
 軽いノリで何処茸にデコピンが放たれる横で荷物に入れていた面々は慌てて取り出した。
「ふう、ギリギリぜヴェヴェヴェ」
 そして手のひら激しくシェイキング。誰かが変な声を出しつつも荷物がカオスになる事態は避けられた。というかかなり激しく震えている。
 さて、こちらの一同がそんな状態だったわけで。となると――?

 疾風はソロジアの予想通り、茸狩りに夢中でノートの確認を忘れていた。付け加えるならば昼食まではろくに採れなかった分を取り戻そうと赤黒の二色茸を中心にかなり必死だった。あまりに必死すぎたので――なんと籠茸のサイドポケットに入れていた何処茸の振動にも気付かなかったのだ。さらに一緒にいたトナくま達が慌てて駆けだしたのにも気付かない。そこまで必死だったのだ……多分。
 そんな彼がどうなったかというと――。
「ふう、まだまだ採らないと……あれ? うわぁーっ」
 突然降ってきた触手にぐるぐる巻きにされて、無理矢理合流させられましたとさ。

「へえー、これは便利だね」
 触手に巻き取られ、文字通り舞い戻ってくる疾風を眺めながら感心するようにそう呟いた司は、その触手の発生源であるトナくまの手元に視線を移した。
 それは引っ張り茸。触手(菌糸?)を出して色んな物を引っ張れる他、何処茸を持っている人の中から一番遠くにいる人を引き寄せることも出来るらしい。
 もちろんこれも手帳にメモ。疾風の空飛ぶイラストをつけるかどうか内心かなり迷ったそうな。

 さて、全員揃ったところで茸狩り的ボス戦開始。
 どん茸の周りには巨大もやしみたいな背ヶ茸が取り巻き的に生えていて、まずはそれを全部引っこ抜く。
 お次は全員の引っ張り茸の触手をどん茸に巻き付ける。
 最後にあえて中身を空のままにしておいた籠茸に全員の引っ張り茸を入れて蓋をすれば巨大な綱に早変わり。後はどん茸との力比べだ。
「せーの、オーエス」
「「オーエス」」
 ちなみにどん茸の名前の由来は「どんだけー?」なその大きさと、それ故に森のドンみたいに見られているからだそうで。実際これがなかなか抜けないのだ。
 それでも力を合わせて引き続けると少しずつ傾いてきて、ここで力負けすると反動で全員お空に吹っ飛ばされるのでそうはいくかと疲れてきた腕に気合いを入れてさらに引き続けること約20分。
 ――ズ――ズ、ズズーン。
「ぃやったぁっ」
 猛烈な土埃を上げながら、ついに引き抜かれたどん茸は先に抜いて並べられた背ヶ茸製御輿土台に見事倒れたのだった。優は皆と両手ハイタッチを繰り返す。彼のセクタン、タイムも嬉しいのか肩でちょっぴり跳ねていた。

「あそーれ、わっしょい」
「「わっしょい」」
 背ヶ茸を編んだ御輿にどん茸を乗せて担いで帰り道。10メートルはあろうかという長さに胴回りも数メートルと超ビッグサイズだが、島人総出+ロストナンバー分例年より人数が多いこともあって里への帰還は順調だ。
「声出してくぞー、わっしょい」
 ちなみに先のどん茸抜きでの疲労や、太助の場合は身長的に担げるのかという話もあるのだがそこは便利茸が色々あるトナくま島。籠茸の足を引き出すと上手い具合に支えになって見事に全員担ぐことが出来たのだ。まあ、太助だけは補助付竹馬状態でもあったのだが。
「ちなみに、これはこの後どうするんだい?」
「んー? 食べるー」
 風習の名前的にツリーの代わりみたいな物なのかなとか思いながらふと尋ねてみた疾風だったが、答えは食用とのことだった。




~二色茸雲流し~


 里に戻った一同は、大きさ故に火の通りに時間のかかるどん茸をこれまたものすごく長い串に刺して水洗いした後に火にかけると赤茸黒茸の胞子取りにとりかかった。司はちゃっかりマスクを、ウィリーはさらにゴーグル着用と完全防備だったりする。
 用意が良かった2人はこの後の惨劇を見事免れることが出来た。なにせ作業するのが遊び好きのアニモフなのだ。茸狩りも要所以外は半分以上遊びが入って時間の割にその日分しか採れていなかったわけで、胞子取りも大事とはいえもちろん遊びが入るわけで。
 ぽふぽふぽふぽふ……ぼふっ。
「ふ、ふぇっくしゅっ」
「あはは、やったー」
 気の長いトナくまはぽふぽふと胞子が落ちるだけでも楽しいのだが、悪戯好きのトナくまになると胞子を包んだ布茸をわざと他人の鼻にこすりつける。すると見事に鼻が刺激されるわけで、そこに茸を差し出すとくしゃみと一緒に大量の胞子が舞い上がるので吸い取り茸で一気に取るというわけだ――後で水洗い必須だが。
 先程の被害者はソロジアだ。まあ本人は雲流しが気になっているので早く終わるならそれでもいいかと特に気にしていないようだ。トナくまも楽しそうだし。
 そんなやりとりを微笑ましく見ていた優も数分後にはしてやられ、太助も悪戯の被害に。疾風は地味作業好きも相まってまたしても作業に没頭していたため鼻にクリティカルヒット、全身に胞子を浴びるハメになってしまった。

 胞子取りが終わる頃にはすっかり日も傾き、近場をゆったり流れていた雲には赤茸と黒茸が山盛り積まれていた。
 ソロジアの提案により近くの展望台に移動した一行は、洗い立ての茸が夕陽を反射してキラキラ輝きながら島から離れて行くのを眺めながら、この風習についてトナくまに質問していた。
「そうそう、この風習ってとっても大事なんだって聞いたんだけど、どうしてなんだ?」
「んーっ、ずっと続いてるからねー」
「赤茸と黒茸を流すのには、理由があるのか?」
 優に続いてソロジアが質問する。
「えっとねー、あの2種類って実は時々『当たり』があるんだ。で、昔は島のみんなで当たり探すの楽しんでいたらしいんだけど、ある日誰かが言ったんだって。『他の浮島でもやってもらうともっと楽しいかも』って。それから毎年流すようになったらしいよ。少しは島にも残すけどね」
 実際どうかは別として、その様子を想像するだけでも楽しいのだろう。そして、何かに似ている風習の名前は。
「『くますすり・ぷとれぜん』って、昔の言葉で『宛てもなくお裾分け』って意味だったらしいよー」
 意味を聞けば納得がいった。どうやら元はこの雲流しのことで、長い間に色々とくっついて今の形になったらしい。
(なるほど、そういうことか)
 時の流れで言葉が変わっても祭事の名称は昔の言葉のままということは珍しくない。実は最初、その名前からトナくま達が液体をすすりあう様を想像したソロジアだったが、つまりはそういうことだったのだ。
 ちなみに「当たり」がなんなのかは明日まで秘密だそうで。流れていくきのこの山を眺めていると、程なく茸の焼けるいい香りが漂ってきた。




~茸だらけのバーベキューパーティー~


 お腹的にはメインイベントなバーベキュータイム。ウィリーは一足先に調理場へ移りその腕を遺憾なく振るっていた。
「ふむ、これはこうしても面白そうじゃ。おお、そちらのトナくまさんは何を作っておるのかのう?」
 様々な茸料理を次々と作りながら、トナくまたちの普段の食生活からヒントを得ることも忘れない。茸狩りの時も合間を見ては料理法を聞いていたのだ。そしてその横では司が本職の腕を一目見ようと、ついでにレシピも学ぼうと邪魔にならない程度にお手伝いをしていた。
 焼く分の下ごしらえはもちろん、それとは別に具沢山の炊き込みご飯や茸汁等も用意して。
 どん茸もいい具合に焼けてきて、香りに皆が寄ってきたところでバーベキューパーティーは幕を開けた。

「おお、すげぇ」
「すごい」
「すごーい」
 お椀によそわれるほかほか炊き込みご飯に茸汁、猫舌な人はお昼の残りの爆弾おにぎり。鉄板の上では焼き茸所によりバター醤油付やホイル蒸しに、もう少しお待ち下さいな大魚茸の香り茸塩茸包み、各種茸のステーキにお漬け物。近くの机には大皿に載った茸パスタやピッツァにスープ、そしてどん茸の丸焼きスライス。デザートも果茸や甘茸とマシュマロの串焼きにちょこっと茸フォンデュ、バケツ茸プリン、ナンテコッタ・パンナコッタ等々。年に1度のイベントにウィリーの創作料理も加わってかなり豪華である。
「ふぉっふぉ、たんと食べいたんと食べい」
 ウィリーは小麦茸のすり下ろしから作られた中華そばに野菜茸類とソースを絡めて焼きそばを作りながらみんなに勧めていく。もちろん味見と称してちゃんと自分でも食べている。彼は特製ソースも持参していて、これがまたバーベキューによく合うと好評で。特殊効果もあちこちで発動しているのだが、そちらは後ほどまとめて。
「はい、これも焼けてますよ」
「疾風ー、俺のは肉とか魚抜きでー」
「私のは乳製品類を避けてもらえないか」
 そしてその近くでは疾風が焼き奉行を買って出ていた。
「あまり好き嫌いは良くない……と言っても、体質の問題もありますしね」
 教師っぽいことを言いながらも太助とソロジアにお皿を渡す。
「疾風ー、おかわりー」
「おかわりー」「おかわりー」
「はいはい、今渡しますね」
 トナくま達にも頼まれて次々と食べ物を渡していく。渡すばかりで彼自身はまだ食べていない。
「好きな茸のお好み焼きが出来たぞい……と、佐川さんや」
「……あ、はい、なんでしょう」
「焼き奉行もいいが、おぬしも食べんとなくなってしまうぞ?」
「いえ……そうですね。ではお言葉に甘えて」
 一瞬断ろうとしたものの、何かを感じ取って疾風は大人しく食べる側に回ることにした。その何かはきっと、他の5人の頼むから食べて的な電波又はオーラ。1日一緒に行動したからみんな分かっていたのだ、このままだときっと彼は食いっぱぐれると。

 さて、先程省略したウィリーの料理の特殊効果だが。
「あははー、ぱたぱたー」
「♪どれもおいしい~ラララー」
 翼が生える、会話がオペラ風になる、トナくまがうさぎの着ぐるみに収まる等々程良く楽しく発動していた。
「ふわぁ……おなかいっぱいになったら眠くなってきちゃった」
 締めにパンナコッタを食べていたうさトナくまが1つあくびを発すると、それにつられたのかトナくま達から次々とあくびが。
「……んっし、明日早いしそろそろ寝るか」
 同じくちょっぴり眠そうな太助が就寝宣言すると、それをきっかけにトナくま達も「ぼくもー」「わたしもー」と自分の分の食器を片付け、それぞれの家茸へと戻っていった(ちなみに客人用の開き家茸もちゃんとある)。
 未だに食べている疾風を目の端に、色んな味を十分に堪能した優が、おそらくこの日一番食べたであろうタイムが未だに食べているのをさすがに食べ過ぎと止めているのをもう一方の目の端に、司は頃合いかと一升瓶を取り出した。
「ウィリーさん。つまみ代わりもあることだし、寝る前に一杯なんてどうです?」
「ふむ、それもまた一興じゃの」
 実は司、バーベキュー時に飲もうかと日本酒を持ってきていたのだ。だがよくよく考えるとトナくま達は実質未成年みたいなものだし、間違って飲まれると大変かなと自制していたのだ。今ならトナくまは全員夢の中。
 まだ明日があるということで少な目に。旅仲間と就寝前に一杯。これもまたいいものなのだろう。




~胞子蒔きなご奉仕~


 翌早朝。無事に全員早起きし、まだ眠い頭も朝食を食べるとウィリーの料理に目覚まし効果があったのかしゃっきりとして。
 再び森の入り口に集まって、今度はサンタ……ではなく散茸(さんたけ)を渡される。中身は昨日赤茸黒茸から取った胞子らしい。
 今日は一直線に森の奥へ。どん茸が生えていた周りで輪になって、散茸を片手で斜め前向きに掲げて、合図と共にひも状の部分を引っ張ると――。
「せーのっ」
 シュッ、シャワァッ。
 散茸から飛び出した胞子は文字通り森の中へと散っていく。朝陽を浴びると金色に光り輝いてとても綺麗だった。
 その光景に目を奪われながら、来年も茸が豊作だといいなと優は思う。
「この胞子蒔きはどんな理由でやっているのだ?」
 胞子を吐き出す散茸を掲げたまま、ソロジアが近くのトナくまに尋ねる。その理由は。
「えとねー、茸さんいつもありがとーこれからもよろしくー、なあいさつー」
 だそうだ。司はそのやりとりもしっかり聞きながら、自分の散茸が胞子を吐き尽くしたのを確認したら、急いで手帳を取り出して今の様子を記し始めた。今の気持ちが収まる前に、その気持ちごと残したい。
 ちなみに疾風はこの胞子蒔きでも持ち手を間違えて自爆していた。

 里に戻った一行は、最後に赤茸黒茸の「当たり探し」をトナくまと一緒に楽しんだ。その当たりというのが。
「はい、これおみやげー」
 そう言って渡されたのは、「当たり」から出てきた赤と青のビー玉。
 ツーリストの3人は赤茸からの赤いビー玉を、コンダクターの3人は黒茸からの青いビー玉を受け取った。
「あれ、なんだか暖かいぞ」
「こっちはなんだか冷たいね」
 ソロジアと司が口にしたとおり、2種類のビー玉はそれぞれ熱と冷気を帯びていた。
「ふむ……火と水の魔力を帯びているようじゃな」
 自らも魔法を扱うウィリーがビー玉に宿っている魔力に気付く。
「へー、そうなんだー」
 どうやらトナくま達もそこまでは知らなかったらしい。


「楽しかったよ、ありがとう」
 最後に優が別れの言葉を告げて、トナくま島を後にする。
「まだまだ色んな食材があるもんじゃのう」
 ウィリーは早速2日間で得た情報から新しいレシピを頭の中で練っているようだ。
「楽しい旅でしたね」
 司の言葉に、水を飲んでいたソロジアや優、疾風、太助も頷く。
 司の頭の中では、既に今回の旅行記のまとめが始まっていた。来ることの出来ないエミリエに、出来る限り今回の楽しさが伝わるように。
「帰ったらエミリエさんにお土産話だね……」
 感慨深げに呟きながら、司はトナくま島の方をしばらく眺めていたのだった。

「北海道遠征の報告もしないとだね」
「いや、それは今更じゃね?」
 1人、最後までテンポが遅れたままの人も居たけれど。

クリエイターコメント まずはご参加下さった皆様、ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございました。
お楽しみ頂けていれば幸いです。
やはり提出時はドキドキなものでして……。

力不足により文字数制限に引っかかり
プレイングを全て活かせなかったのは心残りです。
泣く泣く削りながら、もう少し上手くまとめろとセルフ突っ込みも入れつつ。
その一方で所々にコメディ補正という名の捏造も加えているのですが。

螺旋特急の運転が再開された際にはまたお目にかかる機会もあると思います。
今作でも皆様と一時をご一緒させて頂きながら私自身も成長して行けたらなと思っていますので
まだまだ未熟な部分もあるかとは思いますが今後ともよろしくお願いします。

それでは、皆様の今後の旅の無事を祈りつつ、今回はこれにて失礼させて頂きます。

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螺旋特急ロストレイル

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