オープニング


「モフトピアで、虹の端っこが見つかったんだって!」
 世界司書エミリエ・ミイはそう言って、集まったロストナンバー達に説明を始めた。
 壱番世界でも見られる、あの虹の話のようだが、モフトピアではそれは実体化しているようだった。
「小さい浮遊島の真ん中に、七色の虹がすとーんと届いてるんだって。でね、ちょうど、虹のすべり台みたいになってて、よじ登ったり滑ったりするアニモフがいるっていう話なのー」
 アニモフとは、モフトピアで見られる、動物のぬいぐるみ形態の住人のことだ。主に熊らしいが、中には他の形態もあるらしい。……メルヘンだ。
 そんな、もふもふとした小熊がわらわらと、虹にかじりついている。途中まで上りかけては滑って転んで転げ落ち、勢い余って雲のクッションにバウンド、ころころころりんと転がっていく。
「結構滑るのか、のぼりかけても途中で落ちちゃうみたい。でも、彼らにはそれがすっごくおもしろいようなんだよねー」
 んしょんしょ、ごろごろごろー、ぽふーん、ぽにょん、もういっかーい♪ ……みたいな?
「良かったら手を貸して、もっと高い場所に連れて行ってあげると、喜ぶかもね。浮いてる雲を捕まえたら、うまくしたら、虹のてっぺんまで行けるかもしれないし」
 しかし、そこらへんに浮遊している雲なので、どこに行くかは風の向くまま。つくかもしれない。つかないかもしれない。そこらはロストナンバーの知恵や能力次第だろう。
「そんなふうにね、アニモフたちと遊びながら、虹の様子を調べてもらえる? 島に行ったら、一緒に遊ぼうって誘ってくるから、仲良くならなきゃーなんて心配はいらないよ。
 あと、虹の上のほうで、きらきらひかる何かが見られるみたい。あ、モフトピアのものだから、危険はまったくないよ。安心安全。だから、ちょっとがんばって調べてみてもらえるかな。よろしくねっ」
 そう言って、エミリエはチケットを手渡すと、ロストナンバー達を送り出した。

管理番号 b35
担当ライター ふみうた
ライターコメント はじめまして、ふみうた、と申します。
得手も不得手も書いてみないとわからないような駆け出しWRですので、食わず嫌いにならないよう、いろんなことにチャレンジさせて頂こうと思っています。

さて。
今回はモフトピアにご案内です。
ウォータースライダーのような虹をご用意しました(笑
意外に、早く滑れますよ?
アニモフたちと遊んで滑ったら、てっぺんを目指してみましょう。
上で見られるきらきらには、アニモフを連れて行くと楽しいかもしれません。

参加者一覧
アンドレアルフス(cmfw6750)
ナクトワルド・ジーレ(ctzu1630)
ルーツ(cdsd6560)
ダグ(cxff8702)
水元 千沙(cmaw2190)
黒須 紗衣璃(cdua5905)

ノベル


●虹の世界へようこそ

 モグラの獣人ダグのいた地下世界では、決して見られなかった、空と、雲と、そして虹。
 雲の連なりから顔を出した虹は、まっすぐ浮遊島へと足を伸ばしていた。
「虹ってのは随分と派手なもんだな。無駄に七色も使いやがってよ。きっと最初に虹を作った奴は欲張りだったに違いねえぜ」
 ダグの言葉に、占い師のコンダクター、黒須 紗衣璃 (クロス サイリ)が、あははと笑う。
(虹が実体化したなんて、絶対行くしかない! って思って来てみたら、面白い人がいて良かった! 楽しくなりそう~)
 同意を求めて、連れているセクタン、オウルフォームのカルフェを振り向けば、共有した視界の中、期待に満ちた自分の緑瞳と目が合う。
 隣でゆったりと歩む巨大な孔雀は、アンドレアルフスだ。光を受けて鮮やかに輝く羽根を誇らしげに揺らし、皆に問いかけた。
「壱番世界では、虹の端の根元にはお宝が眠っている、とかどうたら聞きますけれど、この虹はどうなのでしょうねえ?」
「なにぃ?!」最速で反応するダグ。下にもあんのか?!
「あったら凄いね!」紗衣璃は笑うだけだ。
「うちらの世界やなし、こっちにはもしかしたらあるかもしれへんなあ」
 和服姿のコンダクター、水元 千沙(ミナモト チサ)も、のんびりと答える。
 皆を見回したアンドレアルフスは、天を仰いで呟いた。
「ま、今回確実なのは、お宝に値するものが、根元でなく、上にある事だけですかね」
 つられて3人も、雲の向こう、見えない虹のてっぺんを眺め見た。

 そんな彼らの後ろを歩く、少年二人組。
 一見真っ白なぬいぐるみにも見える、人の形をした白い生物、ルーツと、緑がかった金の瞳が印象的な、細身童顔のナクトワルド・ジーレだった。
「虹のすべり台に雲のクッションかぁ。虹や雲に乗れるなんて凄いね!」
 違う世界はあるのかな、と思っていたけど、こんな世界に行けるなんて思わなかったな、とルーツは思う。
「そうだね。ボクも楽しみだよ」
 人懐っこい笑顔でナクトワルドも頷いた。
 虹の全貌が、だんだんと明らかになっていく。
「あ、ほんとに虹のすべり台になってる」
 ナクトワルドが思わず漏らす。
 遠目に見える、滑ったり転んだりしてる小熊達が、可愛らしい。
「コレはちょっと……わくわくするね」
「ナクトワルドさん、早く行こう!」
 少年達は目を合わせると、一緒に駆けだした。

●大歓迎ともふもふと

「わあ、旅人さんだもふー!」「でっかい鳥さんもふー」「もぐらさんだもふー」「仲間がいるもふ?」「みんなで遊びに来たもふ?」「虹滑るもふ?」「一緒に遊ぶもふ!」「遊ぶもふ!」
 体当たりで駆け寄ってきたアニモフ一団、一斉にしゃべりだす。もふもふもふもふ、白熊茶熊黒熊こげ茶熊に斑熊の小熊達がはしゃぐ。
「ちょ、おまえら! 押すんじゃねえ!」
 ちょうど同じくらいかそれより少し低い背丈のダグは、わらわらと寄ってきたアニモフたちに埋まってしまう。
「すごい歓迎されてるね! あはは」
 ルーツも同じようにもみくちゃにされている。
(僕達似てるかな? と思ってたんだけど、アニモフさんたちは普通のぬいぐるみみたいだね。ちょっと残念だな……)
「いえ、歓迎は嬉しいのですが、……っ! 何をしてるんですっ?!」
 アンドレアルフスの羽根があんまり綺麗で欲しくなった悪戯小熊、飾り羽を引っ張っている。
 焦って翼を振れば、かまってくれたと思ったのか、きゃっきゃと笑っている。
 思わずナクトワルドも笑いかけ、アンドレアルフスに睨まれてしまった。
「大丈夫?」
 壱番世界の女性としては背の高い紗衣璃、埋もれているダグを見つけて掘り出すと、落ち着くようにと周りのアニモフたちの頭をぽんぽんと撫でていく。
「はじめまして、水元千沙や。よろしゅうになー」
 こちらは逆にアニモフをぎゅーーっと抱き返したら。
「はじめましてもふー!」「ぼくもぼくもー」「はじめましてもふっ」「だっこー」
 列が出来るほどの大人気である。
 さっきヒゲをひっぱられたダグと羽根を抜かれそうになったアンドレアルフス、アニモフたちが子供の知能だということを改めて思い至る。
「虹の端っこ、うちも見てみたいんよー」
 視線を合わせて千沙がにっこりすれば。
「一緒に行くもふ!」
 目立って大きい茶熊アニモフが、しゃきーんと手を伸ばして名乗り出た。
(この子はさっきわたくしの羽根を取ろうとした小熊……!)
(あらあ。この子、何回もはじめましてー言いに来た子やわぁ)
 そんなわけで、茶熊を先導に、6人は虹の端へ向かって歩き出した。

 ……迎えてもらった場所からそれほど離れていたわけではない。けれど、何故か途中から徒競走ばりに走らされ、一等賞を取った茶熊が得意そうに宣言した。
「到着もふー! いっちばんもふー!」
 二番手はルーツと他のアニモフたち。遅れて紗衣璃とナクトワルド、千沙が追いついてきた。最初だけ走ってみたアンドレアルフスは、後方からゆったり歩いてきている。
「あれ、ダグさんは?」
「ここだここだ」
 足下から声がするのでルーツが目を落とすと、雲の地面から顔を出しているダグがいた。
「ちんたら走ってられっかい。俺様は地面の中なら最速だぜ!」
 得意げにヒゲをひくひくと揺らしながら、ダグが穴から這い出してきたところに、ようやくアンドレアルフスが到着する。
「おめぇも空飛んでくりゃよかったんによ」
「私は孔雀ですからね。それより、そのまま虹の根元まで掘って行ったらどうです? 何かあるかもしれませんよ?」
 そう、今やそこは目と鼻の先。
「ふん。ま、ちょっくら行ってみんのも悪くねぇな」
 掘り出し物屋として一度見てみたい。そんな気持ちに駆られ、ダグは再び穴へと姿を消した。
「気をつけて下さいね!」
 中へとナクトワルドが声をかければ、雲の欠片が勢いよく飛び出した。

●虹の観察と……?

「すべり台行く前に、絵、描かしたって?」
 千沙の特技は日本画だ。
 こんな虹を見たら、何はさておき、描いておきたい。そう思うのが描き手である。
 一緒についてきた茶熊は、少し考えてから頷いた。
「……見てていいかもふ?」
「じっとしてられるんやったら、ええよ?」
「できるもふっ」
 しゅたっと、手を挙げて答える。勢いだけはいいけれど、さて。
 まずはゆっくりと虹に近づいて見る。
「ドロップみたいな綺麗な色やなぁ……。実はお菓子、とか、そんなことはないやろな?」
 見事に七色に染め分けられているように見えて、細かなグラデーションになっている。遠目に見れば七色にしか見えない。
 おもむろに触れてみる。しっとりさらさらひんやりと。悪い感じではない。
「本当に物語のような世界やなぁ」
 近くで見ると意外に厚みと丸みがあり、上辺は包むように凹んでいて、滑り降りやすくなっている。しかも見事に綺麗に七色だ。
「へー、こんな風になっとるんやね」
 じっくりと虹を観察している千沙の横で、茶熊がひょこひょこと動き回る。
「まだ遊ばないのかもふー?」
「もう少し、なぁ」
 懐から普通の紙と筆を取り出すと、さらさらさらりと素描を始めた。
 何枚か描いていると、茶熊が袖を引く。
「もう、先に行ってるもふっ」
 言い置いて、とうとう駆けだしていってしまった。
 千沙はくすくす笑って見送ると、本腰を入れて描き始める。

 一方、ルーツはまず、虹を叩いて回っていた。
 音は軽い。響いているような気がする。中は空洞なのだろうか?
 手の先をとがらせてペンの形を取ると、思いつくままに、手元のメモへ書き留めていく。
「なにしてるもふー?」
 興味深げに寄ってきた白熊が、ルーツの横にちょこんと座って問いかけた。
「不思議な虹だから、調べてるんだよ」
 手を丸め、こんこん、と虹を叩いてみる。
 ルーツの真似をして、白熊も、こんこん、と叩いてみた。ちょっと首をかしげてから、背伸びして、こんこん、座り込んで、とんとん。
「面白いもふー。音、違うもふー」
 白熊に言われて、今度はルーツが真似をしてみる。
 こんこん。くわんくわん。かつんかつん。とんとん。と、と。
(?? さっきは全部、同じ音だと思ったんだけどなあ?)
 手のペンで、メモを書き直す。
 今度は、手のひらに穴を空け、虫眼鏡へと変形させる。
 拡大して見る。つるつるした表面。
(なんだろう……なにに近いかな。ガラス? 陶器? 大理石?)
 しっとりしている。さらさらつるり。
 また手をペンに変え、メモに取る。
 ――ぼふっ!
 座り込んで夢中にペンを走らせていたルーツの隣へ、ゴーグルを付けた頭が顔を出した。
「なんだ、おめぇだけかよ。……ほらよ」
 ダグが穴から取り出したのは、小さな瓶だった。
「この下に埋まってたなぁ、コレっきりだったぜ。しけてんな」
 穴から這い出して、作業着についた欠片を払う。
「なんか甘ぇ匂いがぷんぷんしやがってよ。すーぐわかったぜ」
「すごいな、本当に見つけて来ちゃったんだ」
「……何かいー匂いがするもふー」
 小さな白熊がルーツの後ろから首を出す。
「うわっ。てめぇ、いやがったのかよ。白くて紛らわしんだよ」
「あ、ごめんね、ダグさん」
「いや、おめぇが謝ることじゃねぇ……つか、見つかっちまったな。しゃあねぇ」
 苦い顔をしてがしがしと頭をかくと、ダグは白熊へと瓶を放り投げた。
「おら。おめぇらのだろ」
「くれるのかもふ? なんだもふ?」
「匂いでわかるぜ。そりゃ蜜かなんかだな」
 ダグがスパナで蓋を叩くと、甘い匂いがあたりへ広がる。
 溢れそうなほどの蜂蜜だった。

●さあ滑ってみよう!

 すべり台の要領なら、縁に手をかければ少しずつ登れるはず。と考えた紗衣璃だったが、これがなかなか難しかった。
 周りのアニモフを巻き込んで、すぐにすってんころりんと転がり落ちてしまう。
 雲のクッションに跳ね上がった紗衣璃の背中に潰されて、ぺしゃんこぺらぺらになるアニモフ続出。慌てて振って膨らませて救出しては、顔を見合わせ大笑い。
 そのうち、紗衣璃と一緒に落ちると高く遠くへ飛ぶと発見したアニモフが、わざわざ紗衣璃の周りにいたりするものだから、まとめて転がっていったりで、もう何がなにやら。
「もーう! 楽しいけど、進まなーいっ」
 ころころころんとまた転がり落ちてきた紗衣璃へ、ナクトワルドが手を伸ばす。
「ボクも仲間に入れてもらおうかな。コレでも体力はある方なんだよ?」
「意外に難しいよ? うちは少し、休憩するね!」
「はは、お疲れさま」
 紗衣璃に代わり、今度はナクトワルドがすべり台へ挑戦する。
 掌を使い、慎重にしっかりとへばりつき、ゆっくりと登っていく。
 何度か落ちたり登ったりを繰り返すうち、少しずつでも上へと登れるようになってきた。
(うん、少しコツを掴めたかな……)
 ふと横を見ると、焦茶熊が、んしょんしょと登っている。
 微笑ましくて、ナクトワルドは声をかけていた。
「もう少し上まで行ってみない? ほら、僕が支えててあげるよ」
「もふ? あ、ありがともふー」
 二人で頑張ってはみたけれど、やっぱり転がり落ちてしまったり。
 焦茶熊はそれでも、今までで一番高く登れたもふ! と大喜び。
 ナクトワルドは、ほっこり温かくなった。
 そうやって近くのアニモフの手伝いを繰り返していたら、今度はナクトワルドに手伝ってもらった焦茶熊が、他の小熊の後押しをしていたり。けれどまた、ちょっとした踏み外しでころころりん。ひと笑いした後で、また虹へ掴まる。
「がんばるもふー」「いけいけもふー」
 一人が支えて、それをもう一人が支えて、今やちょっとしたチームとなっていた。
 共に、登ったり、滑ったり、転がったり。
「あはは、中々上まで行けないね」
 でも、すごく楽しいや、と、ナクトワルドは笑いながら思った。

(いやはや、頑張りますねえ)
 再び登り始めたナクトワルドを眺めつつ、アンドレアルフスは嘆息した。
 戻ってきて隣に座り込んだ紗衣璃が問う。
「君は滑らないの?」
「……わたくし、実はあまり体力に自信がないものでして」
 正直なところ、最近運動不足気味で、先ほどの徒競走でだいぶバテてきているのだった。
「もう少しだけ休みましたら、他の皆様と同じく挑戦できるかと」
 彼らの見ている前で、観察から戻ってきたルーツと白熊が、虹をよじ登り出す。
 さっきの身体の大きな茶熊が滑り降りてきていた。
 まだ虹の麓でスケッチを続けている千沙を見て、逡巡してからもう一度登り出す。
「……水元千沙は、滑らないようですね」
「和服で登るのは、難しいからじゃあないかなあ」
 紗衣璃の動きやすそうな服装と見比べて、アンドレアルフスは納得する。
「それに、滑らなくても、茶熊くんとちゃんと交流してるみたいだし」
 また滑り降りてきた茶熊を見つけて、筆を止めた千沙がにっこりと微笑んだ。
 嬉しそうに茶熊は手を振って、更に元気に虹を登り出す。
「ね? ……だから君も、あの子とかと、話してみるといいんじゃないかなあ?」
 紗衣璃の視線の先に、小さな小さな黒熊。
(そういえばこの黒熊、私がここへ来る前から、ぽけっと上を見上げてましたね)
 他の小熊たちが元気に虹と雲を跳んだり跳ねたり行ったり来たりしている中で、珍しくじっとしているので、妙に記憶に残っていたのだった。
 無言のアンドレアルフスを了承の意味に取ったのか、紗衣璃は唐突に叫んだ。
「おーい! そこの黒熊くん! 君だよ君! こっちおいで!」
 びくりとした黒熊、首をかしげている。
「ねえ、この鳥さんと遊んでくれる?」
「?! 黒須紗衣璃、わたくしはそんな……!」
「目的の一つは交流、でしょ」
 黒熊の小さな手がアンドレアルフスの羽根に、そっと触れる。
「遊ぶ、もふ…?」
 大人しい、遠慮がちな声。
 小さく可愛いものは、嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入る。
 アンドレアルフスは小さくため息をついて座り込んだ。
 じゃあ私はもう一度滑って来る、と駆けだした紗衣璃を見送って。
 残された1羽と1匹。
「……」
「……」
 並んで虹を見上げている。
「じっと、虹を見ていたのですか」
「僕の色、真っ黒だからもふ。いっぱい色あって、綺麗だもふ」
 虹の七色がうらやましい、ということだろうか。
「鳥さんも、綺麗だもふ」
 黒熊は、優しく優しく羽根を撫でる。
「さらさら、もふもふだもふ。気持ちいい、もふ……」
 小さな手が、何度も何度も往復する。
(まあ、こういう交流も、悪くないかもしれませんね)
 そのまま、じっとしているアンドレアルフスだった。

●てっぺん目指して

「で、この上には何があんだ? どうせお宝か何かだろ?」
 手近なアニモフを捕まえて、ダグが『てっぺんのきらきら』について聞く。
「何かあるもふー?」「上行きたいもふー」「お宝あるもふー?」
 的はずれな答えが、のったりと返ってくる。
「ええい、うるせえ。あるのかないのかどっちなんだ」
「「「知らないもふー」」」
「んだよ。知らねぇのか」
 だが、世界司書には、間違いはない。お宝は必ずある。
(そんじゃ、俺様がそいつを一番に取ってきてやるぜ)
「おら。おめぇら、どけどけ!」
 せかせかと虹のすべり台に向かうダグ。
 上を見れば、幾匹ものアニモフたちがのそのそと登っている。
 その一番後ろから、ダグは勢いよく登り出した。
 地面の中を掘る要領で登っていけば、そう変わらない。
(しかし、こいつらときたらトロくせえな……)
 ダグが4足進む間に、1足進むのがやっとのスローペース。とうてい我慢できないダグは、頭上にいるアニモフのおしりをぐいぐいと押しあげる。
「てめぇ、もたもたすんな。とっとと行きやがれ」
「いたいもふー」
 ふと、上の方、急速になにか動いたのが見えた。いや、あれは転がって来ている。
 一匹が二匹、二匹が三匹、三匹がそして。
「おい、こっち来んな。来んなって。く、来んなあああ!!」
 ――ごふっ。
「チクショー。おめぇらが前にいるとちっとも進めねえじゃねえか!」
 振り出しに戻ったダグはぷんすかと腹を立て、落ちてきたアニモフ達を怒鳴りつける。
「もうおめぇらは俺様の後ろから来やがれ。いいな?!」
 急遽結成されたダグ隊は、ダグを先頭に、一列になって虹を登り始めた。

 一方こちらはダグを除いた5人も、虹の上へ至る道を探していた。
 ひときわ大きな雲に反応し、紗衣璃のディスファーが、大きく円を描いている。
「あの雲が一番、上に行くと思う!」
 虹のてっぺんへと一番近づける雲だと、評判の占い師が指し示す。
 次に、アンドレアルフスが慎重に距離を見定めて、紗衣璃の指定した雲へと飛んで移る。
「わたくしなにぶん鳥ですので、こういうたぐいはそこそこ得意ですからね」
 雲の端を爪で捕らえたまま、広げた翼で風を起こして、皆の待つ浮遊島近くへと寄せていく。
 そして、様々なものに自分の身体を変化させる事が出来るルーツが、長い長い梯子に変身して、捕まえた雲への架け橋となるべく、手を伸ばし。
「準備完了だよ。みんなのぼってー」
 ルーツ梯子の上を、どたどたと歩いて行くアニモフたち。千沙と紗衣璃もそぉっとつたい、最後にナクトワルドが渡り終わると、ルーツが元通りの人形になる。
「さ、出航しますよ。うまく進みますかね」
 アンドレアルフスがまた大きく翼を広げて、ばさりばさりと風を起こし始める。
 少しずつ、押し出されるように動く雲の船。
「うちも手伝うわ」
 千沙がトラベルギアの筆を取り出す。
 さらりと宙に櫂を描くと、幾本かの櫂が音を立てて実体化した。
 皆で空の海を漕ぐ。
 船頭では、紗衣璃が再びペンデュラムを掲げている。更にてっぺんへ近づく雲があれば乗り換えるためだ。
「ね。きらきら光る何かがあるって話だけど、一体何があるんだろ?」
 切り出したナクトワルドの問いは、誰もが思っていることだった。
「アニモフさん達は何か知っているの?」
 ルーツが聞いてみるも、何も知らないと言うばかり。
「うちもめっちゃ気になるなぁ」
「さて、虹にありそうなものなのか、はたまた別の何かなのか。私としては食べられるものの方が、……こほん。なんでもありませんよ」
 孔雀の食べられるものって何だったっけ、と紗衣璃は思った。
(でも、折角の機会なんだから、近くで観察したいな)
 再び、ディスファーが大きく触れ始めた。

「ぜえぜえ。無駄に体力使っちまったぜ……」
 虹の中腹を覆っている雲の上。ひっくり返って空を見たダグはひとりごちる。
「何だよ。まだてっぺんまで遠いじゃねえか」
 とはいえ、遙か彼方というわけではない。もう少しで辿り着けるはずだった。
 微かだが、きらきら光を反射しているのも見える。
(あれがお宝か……?)
「ダグさーん!!」
 ふいに横から声をかけられた。紗衣璃だ。
 見れば、大きな雲に乗った一行が、ふわりふわりと宙に浮いている。
「おめぇら!」
「いいとこで見つけた-! せっかくだし、一緒に乗らないー?」
「あ? 俺様はこのまま登って」
 言いかけて、へたばっているアニモフの姿が目に入る。ダグの後ろから付いてきた、根性のある小熊達だ。
「……ちっ」
「今からねー、そっち梯子かけてもらうからー!」
「おぅ! 梯子でも綱でも寄越しやがれ!」
 梯子に姿を変えたルーツが、ひょいと虹の端へ手をかける。
「ダグさん、渡ってー」
「待ってろ!」
 ダグがアニモフの一匹を担ぎあげた。無理矢理起こす。
「う、動けないもふー」
「てめぇら、あっちの雲に乗れ。それくらい出来っだろ」
「雲もふー?」
「おぅよ。あれでてっぺんまで連れてってもらいな」
 一匹一匹をようよう雲に乗せ、最後の一匹を抱え上げたところで。
「……一緒に乗るもふよ-?」
 見透かされたように言われたら仕方なかった。

●きらきらの正体

 赤い滝。桃の滝。橙の滝。緑の滝。紫の滝。
 どこからともなく、混ざり合うように落ちてくる。
 カーブが再び始まる当たりへと流れ込み、流れ落ち、溢れた流れは青空の奈落へと更に落ちていく。
 虹はその飛沫を受けてますます鮮やかだ。
 あたりには果物の甘い甘い匂いが立ちこめている。
「ミックスジュースの匂いや……」
 千沙がつぶやく。アンドレアルフスが首を振る。
「なんとまあ……ジュースの、滝ですか」
「見て! 何か光ってる」
 ナクトワルドの指さす先。
 なだらかな虹の曲線の上で、水の流れに逆らうように、翼を広げた魚が、跳ね上がるようにして、昇りつつあった。その半透明でぷるぷるとした身体に、太陽の光が反射して、きらりと輝く。
 虹のてっぺんのきらきらの理由は、ここにあった。
「『しゃけぷる』もふー!!!!」
 同行のアニモフたちが一斉に叫ぶ。
「捕まえるもふ!」「絶対捕まえるもふ!」
「みんな、どしたん? そんなすごいもんなん?」
「ぷるぷるつるりんで、美味しいもふよー」「滅多に、食べられないもふよー」
 騒ぎ立てるアニモフたち。どうやら彼らの好物らしい。
「じゃあ、せっかくだし、近づいて見ようか」」
 梯子に変身したルーツが、虹のてっぺんへと手をかける。
 喜び勇んだアニモフたちが、ルーツの上を走っていく。
「もっと近くで見てみよう♪ 出来たら、捕まえてきてあげるよ!」
 紗衣璃も後を追って虹のてっぺんへ走り行く。
「せっかくやから、うちは普通の筆でこの光景を絵に残しとくわ」
 千沙が早速紙と筆を出して、スケッチし始める。虹の上には、魚を掲げるアニモフたちが。
「きっと素敵な思い出になるんやろなぁ」
「ああ、苦労したが面白ぇモンが見れたぜ」

 ジュースの滝に濡れながら、色とりどりの魚を抱えてアニモフたちが戻ってきた。
 彼らの腕の中でぷるぷるぷるんと跳ねるそれは、やっぱり半透明のお魚で、やっぱり天使のような羽根が付いていた。姿形はアニモフに劣らず可愛らしい。
「うちも捕まえたよー」
 袖をジュースまみれにしながら、紗衣璃も一匹、ぴちぴちと動くオレンジの魚を抱えていた。
 ナクトワルドが手元をのぞき込む。
「透けてるね……本当に不思議な魚だ。どうやって食べるんだろう?」
「このまんま食べられるみたい。さっきアニモフさんたちもつまみ食いしてたし」
 てことで、はい。と、紗衣璃はアンドレアルフスへ向けて、魚を差し出した。
「何故わたくしに?」
「だって君、食べられるものならいいなって言ってたから」
「……」
 小さく笑って、アンドレアルフスはそおっと、紗衣璃の手の中の魚を啄んだ。
「………。これは……甘いけれども甘すぎるわけでもなく、逆にさっぱりとしていて、何でしょう、するりと喉を通っていきますね」
「ゼリーに似てると思うんだよね」
 ちょこっとだけしっぽをちぎって口に入れた紗衣璃が、首をかしげながら言う。
 僕も。ボクも。俺様も。うちも。みんながちょこっとずつちぎって。
「美味しいね」「美味しい」「意外にうめぇじゃねえか」「蜜柑味や」
 気がついたらオレンジ魚は跡形もなくなっていた。

 船は大漁。みんながほくほくとした顔で幸福そうで。
「さて。それで、帰りはどうしたらいいんでしょうね」
「そりゃやっぱり」
「「「滑ってくもふよー!」」」
 このまま、雲に乗って虹を下ってどこまでも。

『れいんぼう・すらいだあ』END

クリエイターコメント はじめまして。ふみうたです。
ご参加頂きまして、ありがとうございました!
お待たせ致しました。『れいんぼう・すらいだあ』をお届け致します。
皆様の面白いプレイングのおかげで、楽しんで描かせて頂きました。

中には採用できなかったプレイングもありまして、すいませんでした。
プレイングにないことをさせられたりしゃべったりも多々ありまして、ええと、すいませんでした。筆が滑りました。ごめんなさい。
皆様の口調や性格のイメージに、合っていればよいのですが…。それだけが心配です。
何かつっこみがありましたら遠慮無く、ふみうたまで。

そしてっ
今回見つけたお宝(?)については、
また後日、調査を依頼するかもしれません。ふふ。お楽しみに。

では、今回は初めての冒険旅行ということで、
いろいろと手探りな部分もありましたが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
皆様の今後の活躍を心から楽しみにしております。
また、どこかでお会いできますことを。

改めて、ご参加、ありがとうございました。

ページトップへ

螺旋特急ロストレイル

ユーザーログイン