オープニング

 鬱蒼たる暗い森が、どこまでも続いている。
 パーリアの樹海に足を踏み入れるものはいない。なぜならば、これより先に人の住む町などはなく、樹海には危険な猛獣が跳梁し、そして何より、この密林の奥地はドラグレット族の領域だからだ。
 枝葉に日光が遮られるためか、足元はじめじめと湿った地衣類に覆われ、木の根がうねうねと張っていたりして歩きにくい。
 見通しは非常に悪く、方位磁針があるのでかろうじて進むことができるが、なるほど、現地の人間はこの森に踏み込むのは自殺行為であろう。

 この密林のどこかにドラグレットたちの集落があるはずだ。
 その場所はあきらかではないが、奥地というからには、ただひたすら進んでいけばいつかは行き当たるのかもしれない。あるいは、向こうがこちらを見つけてくれるということもあるだろう。

 今はただ、「ヴォロス特命派遣隊」に出来るのはこの密林の道なき道を進むことだけだった。

ノベル

 道なき道を、歩く、歩く、歩く――。
 密林は、人の町の喧騒からは遠いが、そのかわりにありとあらゆる生命の営みに満ちていた。
 騒がしい鳥の声に、かれらが飛び立つときに揺らす梢の枝葉が立てる音。どこからか聞こえてくる得体のしれぬ獣の咆哮。風が吹くたびに、樹木はざわざわとうごめいて、この巨大な森そのものがひとつの生き物であるかのようだった。
 その中を、派遣隊は進む。
 先頭を行くのはシンイェだ。茂みをかきわけ、足元を確かめながら行く。道がないというのはこうも難儀なものと思ったものも多いだろう。気を抜くと木の根に足をとられ、厚い地衣類の層や泥濘に埋まってしまう。だが影でできたシンイェの蹄ならば。
 魔法の白炎を灯したランタンを掲げ、シンイェの傍らにいるのはオルグ・ラルヴァローグである。
 彼が前方を、そして殿には雪峰時光がいて不測の事態に備えている。
 これまでのところ何度か野生動物には遭遇したが、戦いらしい戦いにはならずに追い返すことができていた。
 歩きながらオルグは耳と鼻でも常に様子を探っている。
 湿った土の匂いと緑の匂いは濃厚で、ここが未開の地なのだとあらためて感じられるのだった。
「あまり離れぬようにな」
「すまない。すぐ済むよ」
 時光は坂上健が倒れた茂みを直しているのを待つ。そして連れ立って部隊最後尾に追いつく。
「気休めかもしれないけれど多少なりとも、ってさ。30人で歩くと流石に跡残るから」
 移動の痕跡を可能な限り消しておこうというのだ。

 日が暮れれば野営となるが、野営をするなら日の暮れより前に支度をせねばならない。
 まず適した場所を探すことからだ。
「川がある」
 相沢優がセクタン・オウルフォームを飛ばして水場を見つけ、今夜はその傍を野営地にすることにした。
 木々のあいだを流れている比較的、浅い川だ。
 梢が開けているため陽光が差し込み、あたりは明るい。
「あそこはどうですか! 一段高い場所のほうが安全ではないでしょうか!」
 本郷 幸吉郎は、川に向かって崖になっている場所を指す。
 必ずしも高度が高いからいいということもないだろうが、すでに「確かめてきます!」と崖を登りに行ってしまった。この行動力は評価されるべきかもしれないが……。
「魚が釣れるかな」
 陸 抗が小枝を拾って釣竿に仕立てる。
「俺は狩りだな」
 と優。
 協力して野営の支度が進んだ。
 アインスは野営地周辺に落とし穴を掘っている。夜の間は番が立つが、落とし穴があれば役立つだろう。問題はいくつか掘ったあと、どこにいくつ掘ったかアインス自身もあいまいだということだが、
「……まあ、その時はその時だろう」
 ということにしておく。
 一方、崖を登っている幸吉郎は、
「ふぐっ……うおおあっ!? ……なんのまだまだぁー!」
 と持ち前の体力と根性で崖を登り切ることに成功していた。
 顔を出した崖上に、大きなキノコが生えているのを見つける。崖の淵にしがみついたまま、
「これは……食料も発見しましたぁ!」
 と大声で報告。
「おっと、こいつぁダメだな」
「え!?」
 椙 安治だった。
「これは毒だ」
「そうなんですか? っていうかどこから!?」
「反対側から登ってきたに決まってる。あっちからならゆるい坂だぜ。ついでにテントならもうあっちのほうで張ってるぞ」
「そ、そんなぁ……あ、ああああーーーーーーっ」
 気が抜けた――途端に腕の力も抜けた。
 崖を滑り落ちる幸吉郎を眺めたあと、安治は食べられそうな木の実や野草探しに戻る。

 そして、日が傾く頃――
「おお、大物だな!」
 陸 抗が声に振り向くと、相沢優だ。そう言う優も、どうやら小さいなイノシシを仕留めるのに成功したらしい。
「すごいじゃないか」
 抗も魚を釣り上げた。抗の身体のサイズに比べると大変な成果だ。
「……けど、どろんこだ。転んだのか」
「いや……」
 優はセクタンを使って獲物を探し、落とし穴に追い込む作戦をとった。それはいいのだが、問題は周辺に掘られていた落とし穴は他にもあったということで。
「運が良かったな。別の落とし穴には槍を仕込んでおいたんだぞ。槍のないほうに落ちて運が良かったな」
 張本人であるアインスが悪びれずに笑った。
 ひどい話だが、獲物とともに狩人まで穴に嵌るという状況から一応、助けだしてくれたのもアインスだった。
「これは何なんですか?」
 藤枝竜が坂上健に聞いた。
 樹の枝がロープでひっぱられていて、そのロープは煮炊きするかまどの傍の地面に打たれた杭につながれていた。
「あの木が屋根になるだろ。こうすると遠くから煙が見えないからさ」
「なるほど!」
「ドラグレット族や俺たちだけじゃなく、この森に入ってきている連中もいるそうだからね」
「ザムド公とかいうやつの兵士ですね。本当にこんなところまでくるんでしょうか」
「……火をつけてもらってもいいかい?」
 ナウラに声を掛けられた。
「あ、はい。着火なら任せて下さい!」
 ボッと火を吹く。火を起こすのはなかなか面倒なものだが、竜がいれば心配はなさそうだった。
「材料はこれでいいの?」
 ナウラが下ごしらえしたものを見せると、椙 安治は頷いた。ここは料理人の本領発揮と見える。今ある材料で、安治は手際よく、いろいろな種類の料理をつくっていく。
「マーバで手に入れた香辛料や調味料が役に立ちそうだね」
 春秋冬夏が食器を準備しながら言った。
「それより、こんなテーブル誰が持ってきてくれたの」
「ワタシです」
「!」
 アルジャーノだった。アルジャーノが自身を変化させているのである。にゅっとテーブルの一部が膨らんで彼の頭部になる。
「びっくりした……っていうか、いいの……? テーブル役とかで」
「ドラグレットへの配慮としテ、キャンプはなるべく樹海を荒らさない方がイイカナと思うノデ遠慮しないで使って下さイ。追跡対策ニ、焚き火に使った石や炭、出たゴミは撤収時に全て食べて片付けていきまス」
 テーブルだけでなくゴミ処理機(?)にもなってくれるらしい。
「そうね、森は汚さないほうがいいかも。ドラグレットは森を大切にしているっていうし……」
「そういえば、ドラグレット族の試練という話があったな」
 料理を手伝いながら、ナウラが言う。
「どういったものなんだろう? 何か肉体的なものなのか、精神的なものなのか……」
「カレらと話をしたければ、ワタシたちもその試練を受けないといけないんですカネー」
 テーブルから首だけはやしているアルジャーノ。まわりから見るとこの光景はちょっと落ち着かない。
 その日の食卓はなかなか豪華なものになった。
 市場で買った粉と木の実を砕いたものを練ってパンのようなものが焼かれ、野菜類のスープに、収獲した肉や魚とともに饗される。
 仕留めた獲物に感謝の手を合わせ、口に入れると、野性味あふれる味が未開地の野営の食卓を彩ってくれるのだった。

 日が落ちると、樹海は闇が支配する。
 野営地の火が煌々と燃えているほど、周囲を取り囲む闇は深まる。
 茂みの中で虫たちが唄いはじめる中、派遣隊は不寝番を残して天幕で休むことにする。
「……馬では、ないのだがな……」
「なんか言ったか?」
「……いや」
 さて、こちらは阮 緋とシンイェである。
 初対面に「聡き馬よ、名は在るのか?」と阮 緋に問われて以来、シンイェは何度か、自分は馬の姿はしているかもしれないが馬ではないと説明しているつもりだったが、阮 緋には通じた様子もなく、彼がかつて故郷でそうしていたように、毛並みをブラッシングし、蹄の様子を気にかけ――つまるところ「馬扱い」されているのであった。
「休まなくてもいいのか」
「俺は夜番だ。それにしても……」
 阮 緋は、夜の樹海を背景に、焚き火に照らされるシンイェの姿を眺めて息をついた。
「光の中に在ってこそ、影は映えるものだ。だが、艶やかな夜の闇もまた美しい」
「……。暗いだけの夜は落ち着かん」
 落ち着かないのは率直な褒め言葉にもだ。シンイェは闇から逃れるように首をめぐらす。阮 緋が、そのたてがみをそっとなでた。
「人間はいなかったね」
 火の番をしながら、キース・サバインが言った。
 樹海開拓をもくろむ領主の軍と、交易都市マーバで出会った。しかし樹海を進み始めてからは、人間がいる様子はなかった。
「まだ油断はできないけどな。ドラグレット族の手がかりもまだないが……」
 火の番の相手役は響 慎二。
 パチパチとはじける火を見つめ、世間話に応じながらも、意識は周辺へと向けられていた。
「……何か聞こえたか」
 ふいに、慎二が立ち上がる。
「くる」
「……鳴き声だ、動物だよ」
 キースも立ち上がった。その声は複数――あまり平和そうな声ではなかった。ふいに、ひときわ大きな声があがる。
「きっと落とし穴にかかったな」
「アインスさんの?」
 キースが目をしばたいた。
「案外、役に立った。きたぞ!」
 天幕の中で休んでいたものたちも、騒ぎに気づき始める。藤枝竜がねぼけまなこでテントからにゅっと顔を出した。
「……なんですかぁ~、わ、わわ、ドラグレット!?」
「違う違う。なんか出たみたいだ」
「あ、ああモービルさんか、びっくりした! 黒藤さーん、起きてください」
「起きておる。やれやれ」
 自分の夜警の番はまだだったが、と悪態をつきながら、黒藤 虚月はトラベルギアの檜扇を手に天幕を出る。闇を見通す彼女の目は、野営地の周囲をぐるぐると走り回っている獣の姿をとらえた。
「なんじゃあれは。狼でもなし、虎でもなし」
「わからないけど、ヴォロスの猛獣だと思うんだぁ。ほーら、あっち行ってくれ。傷つけたくないんだぁ」
 キースが松明を手に脅かした。
 四足の、トラほどの大きさのある獣の群れだ。黒い体色で闇にまぎれ、火を反射して眼が輝く。フォルムはネコ科の猛獣に似るが、鼻先にサイのような角があるようだった。
「襲ってくるのかこないのかどっちなんだよ」
 オルグ・ラルヴァローグだ。雪峰時光も駆けつけてくる。
「火を焚いているのでこれ以上はこないのでござろう。といって、一晩中居座られても迷惑でござるな」
「退散してもらうしかねぇな。時光、ヤツらを後ろに通すなよッ!」
「承知!」
 それぞれの剣と刀を手に、ふたりが前へ出る。
 獰猛な声とともに、獣たちが跳びかかってきた。
 がちん、と音を立てて、オルグの長剣を獣のあぎとがとらえる。が、その刃が魔力の光を発すると、悲鳴をあげて口を放した。
 時光は最初の攻撃をひらりと避けて、同時に鋭く斬りつける。手応えあり。
 大きさといい素早さといい、群れで襲ってこられれば、通常なら危険な相手だったが、戦い慣れたロストナンバーに対しては部が悪い。
 オルグと時光がどんどん圧していく。
 後方からは虚月の放つ衝撃波の援護があり、オルグたちの傍を万一すりぬけても、シンイェの背にのった阮 緋がそこにいて彼の偃月刀に阻まれる。
 ほどなく、仲間が何匹かやられたのを潮に、猛獣たちは退散していった。
 事無きを得たものの……このような動物が多くいるのでは、やはりここは見かけ以上に危険な土地だと思わねばなるまい。

 さて、そのような野営を繰り返して密林の奥を目指す派遣隊であるが、肝心なのはドラグレット族のもとにたどりつくことである。
 その日、早めに野営に適した場所を見つけたので、その支度をしたあと、ロストナンバーたちの幾人かは周辺地域になにか手がかりがないかを求めて調べていた。
 青燐が、そっと樹木に手をふれ、その意思を感じ取る。
 このあたりで人間を見なかったか……ドラグレットはこのあたりを通るのか、かれらの集落の位置は。
 樹海をよく知るのは何よりかれら植物だろう。
 その樹によると、人間の姿はまったく見かけない。ドラグレットもめったに見ないが、最近はたまに見る。かれらの住処はまだ奥地らしいが――。
 植物と心をかわしている青燐の様子を見るともなく、ルツ・エルフィンストンは身軽に森の中を歩く。森育ちだから歩きも苦にならない。
「あの武装した連中……」
 樹海の開拓をもくろんでいるという軍のことを思い出し、つぶやいた。
「こんな森の中にやってきたらいろいろ厄介ごとを招きそうね」
 ロストナンバーでさえ苦労させられる道のりなのだ。
 思わず、息をつく。
「当然、ドラグレットとは敵対するだろう」
 茂みから高城遊理が顔を出した。ルツの言葉が聞こえていたようだ。
「あるいはすでに察知しているかも」
 そんなことを呟きつつ、遊理は樹海の植物について熱心に観察している。彼が見たところ、亜熱帯の植生だ。
 ――と、そのとき、木立の間の暗がりから、不気味な声が響くのを彼は聞いた。
 先にキャンプに戻るつもりで歩き出していたルツも足を止めて振り返る。
「……イマスグ……、モリカラ……タチ……サレ……」
 ぐずぐずと崩れた腐肉をまとう、奇怪なものだった。無数の眼球がぎょろぎょろと動いて、遊理たちをねめつける――、が。
「……」
「……」
「……なーんだよっ!」
 バラバラとその姿がブロック状に崩れ、また組みあがってモック・Q・エレイヴの姿になる。
「なんで驚かないんだ! つまんない! あー、もう腐ってやる!……って、まあ、ホントはボクは腐らないけどね。生ものじゃないから! ブロック的には多分プラごみかなんかだね! 悔しいから他の誰かを驚かしてやるーーーー」
 騒がしくわめきながら、ブロック人間は次なる犠牲者をもとめてどこかへ駆け出していく。
「……迷子にならなきゃいいけど……」
 ぽつり、と遊理が言った。
「ヤッホ~♪ ヤッホ~♪」
 今度は何だ。
 次は樹上から歌が聞こえてきた。
 がさがさと枝葉のあいだから、リーミンがぶらんとさかさまにブラ下がって顔を見せる。木に登っていたらしい。
「なにかあったか」
「食糧GET☆」
 と、びっくりするほど大きなカブトムシを満面の笑みで差し出す。
「なーんて、ウソ。甲虫は食べないよ。ホントはこれ!」
 と言って取り出したのは緑色のヘビで、どっちにせよ、なかなかワイルドであった。
「木になにか仕掛けたりしてるかな、って思ったんですけどね。ほら、鳴子とか」
 くるりととんぼを切って、着地する。
「今のところ見つからないです。ドラグレットって木登りしないのかな?」

「結構足元悪いな……。気をつけてコレットちゃん」
 ファーヴニールはコレット・ネロと歩いている。
 コレットの腰につけた鈴が、彼女が歩くたびにちりりと音を立てる。
 こちらがやみくもに探すより、向こうがこちらを見つけるほうが早いのではないかとコレットは考えていた。ならばなるべく見つかりやすいほうがいいだろう。
「あ、待って」
 コレットが足を止める。
 そこに、小さな花が咲いていたのだ。
 花を見ているコレットを、ファーヴニールが微笑ましく眺める。だがそのとき、近くの茂みが突然音を立てた。
「何!?」
「気をつけて! ……なんだ、猫か……ってでかッ!?」
 猫だった。
 しかし大きい。ウシくらいある。猫を大きくすれば豹や虎になるが、これは猫だ。猫のプロポーションのまま大きくなっている。
「ニャーーーーー!!」
 猫は牙を剥いて唸った。
「……かわいい」
 コレットはくすくすと笑った。
「でもちっちゃいほうがもっと可愛かったかな」
「ニャーーー! これはチョイスを失敗したーーーー!」
 またも驚かしきれずに、地団駄を踏むモックだ。
 脱兎のごとく駆け出すが、こんどこそ迷子になりそうである。

 モービル・オケアノスは樹海の梢を越えて、空へと探索範囲を広げている。
 高い場所から周囲を見渡す。
 どこまでも永遠につづくかのような緑の海。
「ん」
 そのはるか向こうに、かすかだが煙が立ち上っているのを見たような気がした。
 もしかすると、あそこがドラグレットの集落だろうか。
 仲間に知らせようかとモービルが思っていると、次に彼は、空を近づいてくる小さな影に気づく。
「……」
 すばやく高度を下げ、木々の樹冠のあいだに身を隠した。
 鳥のような影がいくつか、こちらに向かってきていた。それは、ドラグレットの集落かもしれない場所から飛び立ったのを、モビールは見ていたのだ。

「あれ、モビールさん、どうしたんだろうな」
「どうかしました?」
 小竹卓也は、藤枝竜、トリニティ・ジェイド、幽太郎・AHI-MD/01Pの4人でチームを組んで探索していた。
 卓也はセクタン・オウルフォームを上空に飛ばして、樹海の上を見ていたのだ。
「いや……なにかあったのかも」
「ねえ、ちょっと」
 トリニティが仲間を呼んだ。
「ここを見て、ほら」
 竜と、幽太郎がのぞきこむ。
「木の根についた苔がこすれて剥がれているでしょ。これは動物の足跡じゃない。靴か……なにか硬いもので擦ったあとだと思うのよ」
「さすがです!」
「いくら幻の種族でも、生きている以上、痕跡は残すわ。ここは一般人は立ち入らないようだし、これが例のザムド軍とやらじゃなければ、ドラグレットがこのあたりを通った証拠じゃないかしら」
「ナニカ付着シテナイカ分析シテミルヨ」
 と幽太郎。
 彼は竜の剣を借りていて(彼女のトラベルギアなので、借りるのは形だけ。要は気分だ)そうするとドラゴンをかたどった甲冑を着込んだ重騎士のようにも見える。
 しかしそんな幽太郎の中には些細な情報も見逃さぬ精密なレーダーやセンサーが内蔵されているのである。
「ワズカダケド、繊維ガ残ッテル。履物カナ?」
「動物は履物を履かないわね。これは目指す集落が近いと見ていいのかも……」
「あれなんだ!?」
 ふいに卓也が声をあげた。
「い、今、メーゼのミネルヴァの眼で見てたらさ、ちょっと離れた場所だけど、空から――」
「生物反応ガ降下シテキタネ!」
 幽太郎が言った。彼のセンサーは、降下してきたものが、近づいてくるのを感知している。
「コッチニ来ルヨ……!」
「空からって、ドラグレットはたしか翼はあるけど空は飛ばないとか――」
 トリニティの言葉をかき消すような、それは雄叫びだった。
 そしてなにかの打楽器のような音。
 その音と声が、かれらを取り囲むように広がり、その範囲を狭めてきていた。
「幽太郎さん!」
 竜が、幽太郎に預けていた剣を受け取った。
 茂みを掻き分ける足音がすぐそこまできている――!


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螺旋特急ロストレイル

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