赤の城の花宴の翌日のことだ。
 レディ・カリスたち『ファミリー』の面々は、再び密室での合議に入った。
 前館長エドマンドの処遇を決定するためである。
 アリッサはこの会議には加われない。あくまでも、日がずれただけで、この会合はアリッサを次代館長に指名したその集まりの続きという位置づけだからである。

 奇妙なことがあった。
 この日の会議では、『ファミリー』たち――かれらはみな壱番世界人であり、コンダクターであるのだが――のセクタンが、部屋の外に出されていた。
 なおかつ、部屋には厳重な結界が敷かれ、誰も中をうかがうことが許されなかったのである。噂では、赤の城の花宴で、あるロストナンバーがレディ・カリスに渡した結界の符が使われたということだった。

 そしてついに、その決定が、人々の知るところとなった。

「エドマンド・エルトダウンは『パーマネントトラベラー』とすることとなりました。カンダータより回収し、修理のかなったロストレイル0号機がこれにあてられます」

 司書たちは耳慣れない言葉に慌ててトラベラーズノートを繰り、それが何だったか確かめようとする。
 アリッサは、なかばそれを予想していたようだった。
 なお、これに際して、エドマンドの肉体に融合している《狼》は引き剥がされ、消滅するのだと、レディ・カリスは話した。

  ◆ ◆ ◆

「あの……館長」
 話し掛けてきたのはリベルだ。
「不勉強ですみませんが、『パーマネントトラベラー』とは……」
「わ、リベルでも知らないことがあるのね。優越感~」
「……」
「いいわ。教えてあげる」
 アリッサは普段どおりに明るく語った。
 しかし、その内容を聞けば、アリッサは明るくふるまっているに過ぎないことは明らかだったのだ。


パーマネントトラベラーは、チャイ=ブレが特別な儀式により生み出す『流転機関』を取り付けたロストレイルに乗車する旅人のことを指す。

パーマネントトラベラーの乗るロストレイルは、ひとつの世界に3日以上停車することはできない。

パーマネントトラベラーは、ロストレイルが停車している場合を除き、ロストレイルから降車すると(つまりどこかの世界に3日を超えてとどまろうとすると)、ただちに消失の運命に見舞われる。

パーマネントトラベラーは、エアメールを含め、いかなる手段でも他のロストナンバーと直接の連絡をとることはできない。

パーマネントトラベラーの乗るロストレイルは、チャイ=ブレが定めた「排除された因果律の路線」を走行するため、他のロストレイルと同時には同一の世界に停車することはない。


「つまり……追放刑ということなのですか……!」
「ん~、まあ、そういうことね。妥当な結果だと思うわ」
「館長!」
「大丈夫。大丈夫よ、リベル」
 アリッサは寂しげな笑みを浮かべる。
「もう二度と会えないと……決まったわけじゃないの」
「……」
「私、決めたわ。おじさまが目指したものへは、私自身が見つけ出してみせる。答えはいつだって旅の向こうにしかないの。だから、ね」

  ◆ ◆ ◆

 それから数日後。
 エドマンド・エルトダウンを乗せたロストレイル0号は、ターミナルを旅立った。
 乗客はエドマンドただ一人。
 永久にターミナルには戻ってこない旅である。

 0世界の空へと駆け上ってゆくロストレイルを、アリッサはいつまでも見送っていた――。


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螺旋特急ロストレイル

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